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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】活性薬を高装薬した経口薄フィルム剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/137 20060101AFI20240228BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240228BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K9/70
A61K47/38
A61P25/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020530650
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2018083781
(87)【国際公開番号】W WO2019110727
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-07-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】102017129012.5
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー-ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・シュミッツ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】マリウス・バウアー
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・リン
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】鈴木 理文
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/20155(WO,A1)
【文献】特表2017-533231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80, 9/00-9/72, 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のセルロース誘導体および少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤を含む経口薄フィルム剤であって、
該少なくとも1種のセルロース誘導体は、2012年からの米国薬局方規格<911>方法1により測定される異なる粘度を有する2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物を含み、
該少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤は、(S)ケタミン・HClを含み、
該経口薄フィルム剤は、40~45wt%の(S)ケタミン・HCl、35~40wt%の、粘度が1~5mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、5~15wt%の、粘度が40~60mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、および、0.1~10wt%の量で少なくとも1種の補助剤を含むことを特徴とする、前記経口薄フィルム剤。
【請求項2】
少なくとも1種の補助剤は、着色剤、香味剤、甘味剤、矯味剤、乳化剤、向上剤、pH調節剤、湿潤剤、保存剤および/または酸化防止剤を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の経口薄フィルム剤。
【請求項3】
単位面積当たりの質量は50~300g/m2であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の経口薄フィルム剤。
【請求項4】
a) 2012年からの米国薬局方規格<911>方法1により測定される異なる粘度を有する2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物、および(S)ケタミン・HClを含み、経口薄フィルム剤の合計重量に対して、40~45wt%の(S)ケタミン・HCl、35~40wt%の、粘度が1~5mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、5~15wt%の、粘度が40~60mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、および0.1~10wt%の少なくとも1種の補助剤を含む水性懸濁液または溶液を製造する工程、
および
b) 工程a)で得られた懸濁液または溶液を広げて乾燥させて、50~300g/m2
の単位面積当たりの質量を有する薄フィルムを得る工程であり、工程a)で得られた懸濁液または溶液が乾燥される温度は50℃~90℃である工程
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口薄フィルム剤を製造する方法。
【請求項5】
特に鬱病の処置において使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口薄フィルム剤を含む医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口薄フィルム剤、それを製造する方法、およびその医薬としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
経口薄フィルム剤は、口腔中にまたは口内粘膜に対して直接置かれてそこで溶解する少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤を含有する薄フィルム剤である。これらのフィルム剤は、特に、活性薬剤を含有するポリマーを主成分とする薄フィルム剤であり、それは、粘膜に、特に口内粘膜に適用されたときに、活性薬剤を直接そこに送達する。口内粘膜への非常に良好な血液供給は、活性薬剤の血流中への急速な移動を確実にする。この投薬システムは、活性薬剤が、大部分粘膜により再吸収され、したがって、錠剤の形態にある従来の投薬形態の活性薬剤の場合に起こる初回通過効果を回避するという利点を有する。活性薬剤は、フィルム中に、溶解され、乳化されるかまたは分散されることが可能である。
【0003】
先行技術から公知の経口薄フィルム剤は、単位面積当たりの質量、したがって、経口薄フィルム剤の活性薬剤含有率が大きいほど、経口薄フィルム剤の崩壊時間がずっと長いという不利を有する。しかしながら、用途によっては、長い崩壊時間は望ましくない。それに加えて、公知の経口薄フィルム剤は、単位面積当たりの最大質量、したがって、含有される薬学的に活性な薬剤の量が、それらの製造中における経口薄フィルム剤の乾燥により決定されるという不利を有する。経口薄フィルム剤の単位面積当たりの質量が大きいほど、それらに含有されることが可能な薬学的に活性な薬剤は多くなるが、しかしながら、経口薄フィルム剤の乾燥時間が長くなり、その結果、もはや経済的でない時間になり、それに加えて活性薬剤は経口薄フィルム剤中で不均一に分布し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目標は、先行技術の上記の不利を克服することにある。特に、本発明の目標は、比較的高い活性薬剤含有率、すなわち経口薄フィルム剤の合計重量に対して少なくとも約20wt%の活性薬剤含有率を有し、その経口薄フィルム剤は比較的短い崩壊時間を有し、薬学的に活性な薬剤が経口薄フィルム剤で比較的均一に分布する、経口薄フィルム剤を提供することにある。それに加えて、本発明のさらなる目標は、この種の経口薄フィルム剤を製造するための、経済的に実現性がある方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目標は、少なくとも1種のセルロース誘導体および少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤を含む経口薄フィルム剤であって、該少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤は、20℃および6~7のpHで最大約50g/Lの水溶解度を有し、経口薄フィルム剤中に経口薄フィルム剤の合計重量に対して少なくとも約20wt%の量で含有されることを特徴とする、請求項1による経口薄フィルム剤によって対処される。
【0006】
特に、少なくとも1種のセルロース誘導体と高濃度の薬学的に活性な薬剤との組み合わせは、セルロース誘導体に基づいた経口薄フィルム剤のそうでなければ比較的長い崩壊時間を、大きく加速することが見出された。少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤の水溶解度は、20℃および6~7のpHで最大約50g/Lである。
【0007】
本発明による経口薄フィルム剤は、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤の比較的高い装薬により特徴づけられる。少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤の量は、経口薄フィルム剤の合計重量に対して、少なくとも約20wt%、好ましくは少なくとも約30wt%、特に好ましくは少なくとも約35wt%、および非常に特に好ましくは少なくとも約40wt%である。
【0008】
セルロース誘導体は、セルロースから誘導される、またはセルロースの改変により得ることが可能な任意の天然または合成ポリマーを意味すると理解される。可能な改変は、メチル化、エチル化、ヒドロキシプロピル化、スルホン化、ニトロ化、アセチル化、酸化および/またはそれらの混合を含む。
【0009】
本発明による経口薄フィルム剤は、好ましくは、少なくとも1種のセルロース誘導体が、経口薄フィルム剤中に、経口薄フィルム剤の合計重量に対して、約5~80wt%、好ましくは約10~70wt%、特に好ましくは約20~60wt%の量で含有されることを特徴とする。
【0010】
好ましい実施形態で、本発明による経口薄フィルム剤は、少なくとも1種のセルロース誘導体が、水溶性および/または水膨潤性セルロース誘導体を含むことを特徴とする。
【0011】
水溶性/水膨潤性ポリマーは、化学的に非常に異なった天然または合成ポリマーを含み、その共通の特徴は、水または水性媒体中におけるそれらの溶解性/膨潤性である。前提条件は、これらのポリマーが、水溶性/水膨潤性のために十分な多くの親水性基を有し、架橋されていないことである。親水性基は、非イオン性、アニオン性、カチオン性および/または双性イオン性であってもよい。
【0012】
本発明による経口薄フィルム剤における少なくとも1種のセルロース誘導体は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む。
【0013】
さらなる好ましい実施形態では、少なくとも1種のセルロース誘導体は、異なる粘度を有する2種のセルロース誘導体の混合物、好ましくは異なる粘度を有する2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物を含む。本発明による経口薄フィルム剤は、特に好ましくは、2種のヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物を含み、これらは、好ましくは、約3~約50mPasの粘度を有する(2012年からの米国薬局方規格<911>方法1により測定した)。
【0014】
低粘度セルロース誘導体の高粘度セルロース誘導体の対する比、好ましくは低粘度ヒドロキシプロピルメチルセルロースの高粘度ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対する比は、好ましくは約1:5~5:1である。
【0015】
低粘度および高粘度セルロース誘導体、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物は、固体含有率および液体混合物の粘度が、製造のために許容される性質に設定されることが可能であるという利点を有する。
【0016】
本発明による経口薄フィルム剤は、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤が、最大で約1000g/mol、好ましくは最大で約500g/molの分子量を有することを好ましくは特徴とする。
【0017】
それに対して、分子量が比較的高い薬学的に活性な薬剤は、一般的に比較的低い粘膜透過性を有し、したがって、不利である。
【0018】
本発明による経口薄フィルム剤における少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤は、特に好ましくは、ケタミンおよび/または薬学的に許容されるその塩、好ましくはケタミン・HClを含む。本願の場合、ケタミンは、(S)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン、(R)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン、およびラセミ(RS)-(±)-2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オンを意味すると理解される。
【0019】
ケタミンまたは薬学的に許容されるその塩が、本発明による経口薄フィルム剤中に含有される薬学的に活性な薬剤の少なくとも1種の形態で存在するならば、(S)ケタミンおよび(R)ケタミンの両方ならびに該2種のラセミ混合物は、本発明による経口薄フィルム剤中に含有されることが可能である。しかしながら、(S)ケタミンまたは薬学的に許容されるその塩、特に(S)ケタミンHClは、ケタミンの単独の立体異性体として存在することが特に好ましく、その理由は、(S)ケタミンの鎮痛および麻酔力価は、(R)型の力価より約3倍高いからである。
【0020】
本発明による経口薄フィルム剤は、経口薄フィルム剤が、着色剤、香味剤、甘味剤、矯味剤、乳化剤、向上剤、pH調節剤、湿潤剤、保存剤および/または酸化防止剤を含む群から選択される少なくとも1種の補助物質を含むことを好ましくは特徴とする。
【0021】
これらの補助剤の各々は、好ましくは経口薄フィルム剤中に、各場合、経口薄フィルム剤の合計重量に対して約0.1~10wt%の量で含有される。
【0022】
本発明による経口薄フィルム剤は、経口薄フィルム剤の単位面積当たりの質量が約50~300g/m、好ましくは約100~200g/mであることを好ましくは特徴とする。
【0023】
本発明による経口薄フィルム剤は、特に好ましくは、約40~45wt%、好ましくは約41wt%の(S)ケタミン・HCl、約35~40wt%、好ましくは約39.5wt%の、粘度が約1~5mPas、好ましくは約3mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、約5~15wt%、好ましくは約10wt%の、粘度が約40~60mPas、好ましくは約50mPasのヒドロキシプロピルメチルセルロース、および各場合に、約0.1~10wt%の量で通常の補助剤を含む。この種の経口薄フィルム剤は、好ましくは、約175g/mの単位面積当たりの質量を有する。
【0024】
特に好ましい実施形態で、本発明による経口薄フィルム剤は、発泡体ではない。
【0025】
本発明は、上で記載された経口薄フィルム剤を製造する方法にも関する。
【0026】
上記方法は、
a) 少なくとも1種のセルロース誘導体および少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤を含む水性懸濁液または溶液を製造する工程、および
b) 工程a)で得られた懸濁液または溶液を広げて乾燥させて、約50~300g/mの単位面積当たりの質量を有する薄フィルムを得る工程であり、工程a)で得られた懸濁液または溶液が乾燥される温度は約50℃~90℃である工程
を含む。
【0027】
工程a)得られた懸濁液または溶液を、約50℃~90℃、好ましくは約60℃~80℃で、および特に好ましくは約70℃で乾燥することにより、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤が、得られた経口薄フィルム剤中で特に均一に分布することが有利であることが見出された。それより低い乾燥温度では、それに反して、溶媒を完全に除去することができず、反対に、不均一な結晶化が起こり、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤の非常に不均一な分布パターン生じて、望ましくない。
【0028】
本発明による方法は、少なくとも1種のセルロース誘導体が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを好ましくは含むことも特徴とする。
【0029】
本発明による方法は、少なくとも1種の薬学的に活性な薬剤が、ケタミンまたは薬学的に許容されるその塩、好ましくは(S)ケタミンまたは薬学的に許容されるその塩を含むことも特徴とする。
【0030】
本発明は、上で記載された方法により得ることが可能な経口薄フィルム剤にも関する。
【0031】
それに加えて、本発明は、上で記載された、または上記の方法により得ることが可能な、医薬としての経口薄フィルム剤に関する。
【0032】
本発明は、それに加えて、上で記載された、または上記の方法により得ることが可能な、鬱病の処置において、特に自殺のリスクを低下させるために使用するため、および/または一般的な麻酔薬として、好ましくは、一般的麻酔を開始して実行するために、または局所麻酔の場合における補完として、および/または鎮痛薬として使用するための医薬としての経口薄フィルム剤に関する。
【0033】
本発明による薄フィルム剤について上で記載された好ましい実施形態は、本発明による方法、それにより得られた経口薄フィルム剤、および前記経口薄フィルム剤の医薬としての使用にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】コーティング直後の、表1で特定された組成による本発明による薄フィルム剤を示す図である。
図2】室温(約20℃)で乾燥された、表1で特定された組成による薄フィルム剤を示す図である。
図3】本発明により約70℃で乾燥された、表1で特定された組成による薄フィルム剤を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を、限定するものではない実施例に基づいて、この後で、より詳細に説明することにする。
【実施例1】
【0036】
【表1】
【0037】
本発明による方法により、表1で特定された組成を有する経口薄フィルム剤を製造した。次に、経口薄フィルム剤の崩壊時間を、2016年からの米国薬局法の方法<701>崩壊により測定した。
【0038】
使用された装置:崩壊バスケットを備えた崩壊試験機DIST3
1分当たりのストローク数:29~32
媒体:水
温度:37℃±2℃
終点検出:視覚的
終点:フィルム剤の完全崩壊
【実施例2】
【0039】
経口薄フィルム剤を、表1からの本発明による組成により本発明による方法で製造して、70℃で乾燥した。比較のために、同じ製剤を室温(約20℃)で乾燥した。
【0040】
その結果生じた薄フィルム剤を図1~3に示す。
【0041】
図1は、コーティング直後の、表1で特定された組成による本発明による薄フィルム剤を示す。活性薬剤(S)ケタミンは、部分的に溶解した形態または部分的に粒子状の形態で存在する。
【0042】
図2は、室温(約20℃)で乾燥された、表1で特定された組成による薄フィルム剤を示す。活性薬剤(S)ケタミンは、不均一な結晶化された形態で存在する。
【0043】
図3は、本発明により約70℃で乾燥された、表1で特定された組成による薄フィルム剤を示す。活性薬剤(S)ケタミンは、極端に均一な形態で存在する。
図1
図2
図3