(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/10 20060101AFI20240228BHJP
B60K 5/12 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F16F13/10 Z
F16F13/10 L
B60K5/12 H
(21)【出願番号】P 2021012442
(22)【出願日】2021-01-28
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】522297236
【氏名又は名称】株式会社プロスパイラ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 竹史
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 宏則
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-140871(JP,A)
【文献】特開2008-240888(JP,A)
【文献】特開2020-029870(JP,A)
【文献】特開平06-323360(JP,A)
【文献】実開平01-180037(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
B60K 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に取付けられる筒状の第1取付部材、および他方に取付けられる第2取付部材と、
前記第1取付部材および前記第2取付部材を互いに連結した本体ゴムと、
液体が封入された前記第1取付部材内の液室を、前記本体ゴムを隔壁の一部に有する主液室および副液室に、前記第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に仕切る仕切部材と、を備え、
前記仕切部材に、前記主液室と前記副液室とを連通する制限通路が設けられ、
前記本体ゴムに、前記主液室とこの防振装置の外部とを連通する注入孔が形成され、
前記注入孔は、
前記主液室に向けて開口する内側部分と、
この防振装置の外部に向けて開口する外側部分と、
前記内側部分と前記外側部分との間に位置する中間部分と、を備え、
前記中間部分に封止材が嵌合され、
前記内側部分の内径は、前記外側部分の内径より大きく、かつ前記中間部分の内径以下となっている、防振装置。
【請求項2】
前記内側部分の長さは、前記外側部分の長さより短くなっている、請求項1に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に取付けられる筒状の第1取付部材、および他方に取付けられる第2取付部材と、第1取付部材および第2取付部材を互いに連結した本体ゴムと、液体が封入された第1取付部材内の液室を、本体ゴムを隔壁の一部に有する主液室および副液室に、第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に仕切る仕切部材と、を備え、仕切部材に、主液室と副液室とを連通する制限通路が設けられ、本体ゴムに、主液室とこの防振装置の外部とを連通する注入孔が形成され、注入孔に封止材が嵌合された防振装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の防振装置では、主液室の内圧が上昇したときに、封止材が主液室の反対側に向けて位置ずれするおそれがあった。
なお、主液室には、正圧だけでなく負圧も生ずるが、正圧の絶対値が、負圧の絶対値より圧倒的に大きくなり得る。
【0005】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、主液室の内圧が上昇したときに、封止材が主液室の反対側に向けて位置ずれするのを抑制することができる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の防振装置は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に取付けられる筒状の第1取付部材、および他方に取付けられる第2取付部材と、前記第1取付部材および前記第2取付部材を互いに連結した本体ゴムと、液体が封入された前記第1取付部材内の液室を、前記本体ゴムを隔壁の一部に有する主液室および副液室に、前記第1取付部材の中心軸線に沿う軸方向に仕切る仕切部材と、を備え、前記仕切部材に、前記主液室と前記副液室とを連通する制限通路が設けられ、前記本体ゴムに、前記主液室とこの防振装置の外部とを連通する注入孔が形成され、前記注入孔は、前記主液室に向けて開口する内側部分と、この防振装置の外部に向けて開口する外側部分と、前記内側部分と前記外側部分との間に位置する中間部分と、を備え、前記中間部分に封止材が嵌合され、前記内側部分の内径は、前記外側部分の内径より大きく、かつ前記中間部分の内径以下となっている。
【0007】
この発明によれば、注入孔において、外側部分の内径が、内側部分の内径より小さくなっているので、内側部分および外側部分の各内径が、互いに同じになっている場合と比べて、中間部分を外側部分に対して大きく張り出させやすくすることが可能になり、外側部分と中間部分との間の段部と、封止材と、の接触面積を広く確保することができる。これにより、主液室の正圧が内側部分を通して封止材に加えられたときに、封止材を段部に支持させることで、封止材が、外側部分側に位置ずれするのを抑制することができる。
注入孔において、中間部分の内径が、外側部分の内径より大きく、かつ内側部分の内径以上となっているので、液体が、内側部分から外側部分に漏出するのを確実に抑えることができる。
【0008】
前記内側部分の長さは、前記外側部分の長さより短くなってもよい。
【0009】
この場合、外側部分より内径が大きい内側部分の長さが、外側部分の長さより短くなっているので、加硫成形した本体ゴムの脱型時に、注入孔を成形した成形ピンを、外側部分から内側部分に向かう向きに容易に抜き出すことができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、主液室の内圧が上昇したときに、封止材が主液室の反対側に向けて位置ずれするのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る一実施形態として示した防振装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る防振装置の一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
この防振装置1は、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に取付けられる筒状の第1取付部材11、および他方に取付けられる第2取付部材12と、第1取付部材11および第2取付部材12を互いに連結した本体ゴム13と、液体が封入された第1取付部材11内の液室16を、本体ゴム13を隔壁の一部に有する主液室16aおよび副液室16bに仕切る仕切部材15と、を備えている。
【0013】
液室16に封入された液体としては、例えばエチレングリコール、水、シリコーンオイル等が挙げられる。
防振装置1は、例えば自動車等に装着され、エンジンの振動が車体に伝達するのを抑える。防振装置1では、第2取付部材12が振動発生部としての図示されないエンジンに取付けられ、第1取付部材11が図示されないブラケットを介して振動受部としての車体に取付けられる。なお、第1取付部材11が振動発生部に、第2取付部材12が振動受部にそれぞれ取付けられてもよい。
【0014】
筒状の第1取付部材11は、中心軸線Oと同軸に配設され、液室16は、第1取付部材11の内側に設けられ、仕切部材15は、液室16を、中心軸線Oに沿う軸方向に仕切っている。
以下、軸方向に沿って主液室16a側を上側といい、副液室16b側を下側という。軸方向から見て、中心軸線Oに交差する方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0015】
第1取付部材11は、第1筒部11aと、第1筒部11aの下方に位置する第2筒部11bと、第1筒部11aと第2筒部11bとを連結する段部11cと、を備えている。第1筒部11a、第2筒部11bおよび段部11cは、中心軸線Oと同軸に配設されて一体に形成されている。第1筒部11aの直径は、第2筒部11bの直径より大きくなっている。第1取付部材11の上端開口部が、本体ゴム13により液密に閉塞され、第1取付部材11の下端開口部が、ダイヤフラム14により液密に閉塞されることにより、第1取付部材11の内側に液体が封入されている。ダイヤフラム14は、副液室16bの隔壁の一部を構成している。
第2取付部材12は、第1筒部11aよりも上方に配置されている。第2取付部材12は、径方向のうちの一方向に延びる装着筒12aを有している。
【0016】
本体ゴム13は、第1取付部材11の上端部から上方に突出し、かつ上方に向かうに従い径方向の内側に向けて延びる円錐台状に形成された本体部13aと、径方向のうちの一方向に延び、かつ第2取付部材12の少なくとも一部が連結された筒部13bと、を備えている。筒部13bは、第2取付部材12の装着筒12aを全周にわたって覆っている。
第1取付部材11の内周面は、全域にわたって被覆ゴム13cに覆われている。被覆ゴム13cは、本体ゴム13と一体に形成されている。
【0017】
仕切部材15は、例えばアルミニウム合金若しくは合成樹脂材料等により形成されている。仕切部材15は、円盤状に形成され、第1取付部材11内に嵌合されている。仕切部材15の上面は、本体ゴム13に直接、軸方向で対向しており、仕切部材15は主液室16aの隔壁の一部を構成している。仕切部材15の下面は、ダイヤフラム14に直接、軸方向で対向しており、仕切部材15は副液室16bの隔壁の一部を構成している。
【0018】
仕切部材15には、主液室16aと副液室16bとを連通する制限通路18が設けられている。制限通路18は、仕切部材15の外周面に形成され周方向に延びている。制限通路18は、例えば周波数が10Hz前後のエンジンシェイク振動の入力時に共振(液柱共振)が発生するようにチューニングされてもよい。制限通路18は、軸方向に延びてもよい。
【0019】
そして本実施形態では、本体ゴム13に、主液室16aとこの防振装置1の外部とを連通する注入孔20が形成されている。注入孔20を通して、液室16に液体が注入される。
注入孔20は、中心軸線Oと同軸に配設されている。注入孔20は、中心軸線Oに直交する横断面視で円形状を呈する。なお、注入孔20は、中心軸線Oから離れた位置に設けられてもよく、軸方向に交差する方向に延びてもよい。
【0020】
注入孔20は、主液室16aに向けて開口する内側部分21と、この防振装置1の外部に向けて開口する外側部分22と、内側部分21と外側部分22との間に位置する中間部分23と、を備えている。
【0021】
内側部分21および外側部分22は、軸方向に真直ぐ延びている。内側部分21の長さは、外側部分22の長さより短くなっている。
外側部分22は、本体ゴム13の筒部13bの内周面に開口している。外側部分22は、筒部13bの内側を通してこの防振装置1の外部に向けて開口している。
中間部分23に封止材24が嵌合されている。封止材24は、例えば金属材料若しくは合成樹脂材料等により形成されている。中間部分23および封止材24は、球形状となっている。封止材24の外径(例えば約8mm)は、中間部分23の内径(例えば約6.5mm)よりわずかに大きくなっている。中間部分23および封止材24は、中心軸線Oと同軸に配設されている。
【0022】
内側部分21の内径(例えば約5mm)は、外側部分22の内径(例えば約3mm)より大きく、かつ中間部分23の内径以下となっている。図示の例では、中間部分23の内径が、注入孔20のなかで最大となっている。外側部分22と中間部分23との間の段部25の径方向の大きさが、内側部分21と中間部分23との間の段部26の径方向の大きさより大きくなっている。前者の段部25は、後者の段部26より径方向の内側に張り出している。
【0023】
以上説明したように、本実施形態による防振装置1によれば、注入孔20において、外側部分22の内径が、内側部分21の内径より小さくなっているので、内側部分21および外側部分22の各内径が、互いに同じになっている場合と比べて、中間部分23を外側部分22に対して径方向の外側に大きく張り出させやすくすることが可能になり、外側部分22と中間部分23との間の段部25と、封止材24と、の接触面積を広く確保することができる。これにより、主液室16aの正圧が内側部分21を通して封止材24に加えられたときに、封止材24を段部25に支持させることで、封止材24が、外側部分22側に位置ずれするのを抑制することができる。
注入孔20において、中間部分23の内径が、外側部分22の内径より大きく、かつ内側部分21の内径以上となっているので、液体が、内側部分21から外側部分22に漏出するのを確実に抑えることができる。
【0024】
外側部分22より内径が大きい内側部分21の長さが、外側部分22の長さより短くなっているので、加硫成形した本体ゴム13の脱型時に、注入孔20を成形した成形ピンを、外側部分22から内側部分21に向かう向きに容易に抜き出すことができる。
【0025】
なお、本発明の技術範囲は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0026】
例えば、前記実施形態では、内側部分21の長さを、外側部分22の長さより短くしたが、内側部分21の長さを、外側部分22の長さ以上としてもよい。
【0027】
前記実施形態では、支持荷重が作用することで主液室16aに正圧が作用する圧縮式の防振装置1について説明したが、主液室16aが下側に位置し、かつ副液室16bが上側に位置するように取り付けられ、支持荷重が作用することで主液室16aに負圧が作用する吊り下げ式の防振装置にも適用可能である。
また、本発明に係る防振装置1は、車両のエンジンマウントに限定されるものではなく、エンジンマウント以外に適用することも可能である。例えば、車両用のキャビンマウント若しくはブッシュ、または建設機械に搭載された発電機のマウントに適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントに適用することも可能である。
【0028】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態および変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 防振装置
11 第1取付部材
12 第2取付部材
13 本体ゴム
15 仕切部材
16 液室
16a 主液室
16b 副液室
18 制限通路
20 注入孔
21 内側部分
22 外側部分
23 中間部分
24 封止材
O 中心軸線