(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】射撃訓練システム
(51)【国際特許分類】
F41J 5/08 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
F41J5/08
(21)【出願番号】P 2021121079
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森賀 正貴
(72)【発明者】
【氏名】西野 真由
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 淳
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0175522(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0049457(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0160960(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111895861(CN,A)
【文献】特開2021-032425(JP,A)
【文献】特開平11-108596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41J 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射撃の標的装置と、
前記標的装置を撮影する赤外線カメラと、
前記赤外線カメラが撮影した映像を画像処理する管理端末と、
を備え、
前記管理端末は、
既知の長さで構成され、前記標的装置に設置された格子状のマーカを前記赤外線カメラにより撮影し、
前記格子状のマーカと撮影された画像の位置関係を対応付けした表またはデータベースまたは関係式の対応表を作成し、
前記マーカが取り外された前記標的装置に着弾するときの熱を前記赤外線カメラにより検出させ、前記対応表に基づいて着弾位置を算出するよう構成される射撃訓練システム。
【請求項2】
請求項1の射撃訓練システムにおいて、
前記赤外線カメラはカメラおよびレンズを有し、前記標的装置が撮影可能な位置に設置され、弾丸が来ない位置に設置される射撃訓練システム。
【請求項3】
請求項1の射撃訓練システムにおいて、
前記マーカは、既知の長さで構成され、赤外線に対して高反射の素材および低反射の素材を市松模様的に配置して格子状の模様が形成されたプレートである射撃訓練システム。
【請求項4】
請求項1の射撃訓練システムにおいて、
前記マーカは、前記標的装置の標的板と同程度の大きさを有する赤外線に対して低反射の素材に高い格子を描画し、該格子の四隅または頂点二点に赤外線に対して高反射の素材を貼り付けて形成される射撃訓練システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は射撃訓練システムに関し、例えば実弾を用いる射撃訓練システム、またはレーザ光を用いる射撃訓練システムに適用可能である。
【背景技術】
【0002】
弾丸を発する実弾射撃訓練を行う射撃訓練システムや弾丸の代替としてレーザ光を用いた射撃訓練システムがある。例えば、特許文献1の射撃訓練システムでは、標的側に弾丸の通過した位置(着弾位置)を検出するため赤外線カメラで撮影して画像処理により座標を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
赤外線カメラを用いて得られた標的が映った画像より着弾位置を算出する際、光学系の歪やカメラの設置場所の違いによる標的画像の違いを考慮して着弾位置の算出を行う必要がある。
【0005】
本開示の課題は、より正確に着弾位置が検知可能な射撃システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
すなわち、射撃訓練システムは、射撃の標的装置と、前記標的装置を撮影する赤外線カメラと、前記赤外線カメラが撮影した映像を画像処理する管理端末と、を備える。前記管理端末は、既知の長さで構成され、前記標的装置に設置された格子状のマーカを前記赤外線カメラにより撮影し、前記格子状のマーカと撮影された画像の位置関係を対応付けした表またはデータベースまたは関係式の対応表を作成し、前記マーカが取り外された前記標的装置に着弾するときの熱を前記赤外線カメラにより検出させ、前記対応表に基づいて着弾位置を算出するよう構成される。
【発明の効果】
【0007】
上記射撃訓練システムによれば、より正確に着弾位置が検知可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施形態における射撃訓練システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は
図1の射撃訓練システムのブロック構成図である。
【
図3】
図3は実施形態における着弾点の検出方法を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は実施形態におけるキャリブレーションを行うための構成を示す図である。
【
図5】
図5は実施形態におけるキャリブレーションを説明する図である。
【
図6】
図6は他の実施形態におけるマーカを示す図である。
【
図7】
図7は
図6に示す矢印Aにおける画素数と温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。
【0010】
本実施形態をより明確にするため、赤外線カメラを用いて着弾位置を検出する射撃訓練システムの問題点について説明する。
【0011】
まず、赤外線カメラにより撮影された画像(赤外画像)について説明する。赤外画像は色ではなく、物体が熱を持つ事により発生する赤外線を表している。つまり、熱の強弱を表す画像である。標的を射撃すると標的材質により程度はあるが着弾点が熱を持つ。標的において熱を持った部分を着弾点と仮定する。
【0012】
着弾位置の検出装置(センサ)である赤外線カメラの配置場所により、得られる赤外画像に差異が生じる。赤外線カメラを用い得られた標的が映った画像より着弾位置を算出する際、光学系の歪やカメラの設置場所の違いによる標的画像の違いを考慮して着弾位置の算出を行う必要がある。
【0013】
例えば、標的と赤外線カメラとの距離が離れる場合、レンズ等を調整しなければ標的部分の画素数は減少し着弾位置の判定精度は低くなる。また、射座側から発射される弾丸が命中しない場所に赤外線カメラを設置するという制約がある。そのため、特許文献1の
図4に示されるように、赤外線カメラを配置する場合がある。この場合も同様で、一枚の同じ標的でも赤外線カメラから離れた部分の解像度は下がるため標的内の場所ごとに精度が異なる。
【0014】
また、赤外画像は、赤外線反射を利用して描画をするため、物体のエッジの部分は反射が弱くなり、可視画像に比べて丸みを帯びた撮像となる。画像処理において、特許文献1の
図4に示されるような斜め撮像を正方形または長方形に補正するためには、頂点となる4点が必要である。しかし、上述の理由により、赤外画像においては正確な頂点が得にくい。不正確な頂点から補正された画像から精度の高い着弾位置を算出するのは困難である。
【0015】
赤外画像より着弾位置を算出するために下記の点を明らかにする必要がある。
(a)画像内において標的を示す領域を判断する。
(b)赤外画像のため標的の位置を赤外線の強さの大小で判断する。
(c)実物の標的と赤外画像上の標的の位置関係を対応付けする。
(d)カメラの光学系における歪に対処し、上記(c)を行う。
【0016】
本実施形態は上記(b)、(d)を考慮した上で、上記(a)、(c)を解決する。すなわち、本実施形態は上述したように赤外線カメラを用いた着弾位置装置において画像内座標を実測座標に変換するためのキャリブレーションを行う。
【0017】
実施形態の射撃訓練システムについて
図1および
図2を用いて説明する。
図1は実施形態における射撃訓練システムの概略構成図である。
図2は
図1の射撃訓練システムのブロック構成図である。
【0018】
図1に示すように、射撃訓練システム100は、標的装置110と、標的装置110を撮影する赤外線カメラ130と、赤外線カメラ130を制御する管理端末140と、を備える。
【0019】
標的装置110は射撃の標的となる標的板111を備えた装置であり、射撃訓練が実施される射場内の標的エリアに配置される。標的板111は台座112上に支持部113により所定の姿勢で固定されている。標的板111はラバー等で構成され、射撃対象の図が描かれている。なお、標的板111に射撃対象の図を直接描かず、弾丸の当たらない位置に設置したプロジェクタにより図や映像を投影してもよい。この場合、標的板111はスクリーンとしても機能する。
【0020】
標的板111は、伸び率の大きいラバーを使用することにより弾が貫通しても大きな穴が開かない。また、標的板111にラバーを使用しているので、簡単に固定して射撃が可能であり、整備性に有利である。標的板111がラバー等の材料のみとなるため、安価となる。着弾により損傷した標的板111は、ラバー等の交換のみになるため、メンテナンス費用が低減できる。
【0021】
赤外線カメラ130はカメラ131およびレンズ132を有し、標的装置110の標的板111が撮影可能な位置に設置される。ただし、着弾による破損を防止するために、弾丸が来ない位置(例えば、天井付近)に設置するか、被弾並びに跳弾を防ぐ機能を設ける。射手が射座側から標的装置110に対して射撃を実施し、火器160から発射された弾丸が標的板111に命中・貫通することで、標的板111に摩擦による熱が生じ赤外線カメラ130により温度変化を検出させる。赤外線カメラ130は標的板111を撮影し、撮影した映像を無線又は有線を介して中継部(不図示)に伝送する。該中継部は無線又は有線を介して取得した映像を管理端末140へ伝送する。着弾結果は管理端末140に設けられる表示部により射手が見ることができる。
【0022】
管理端末140は射撃訓練の管理に使用される装置である。
図2に示すように、管理端末140は、射撃訓練の管理に関する各種処理を制御する制御部141と、射撃訓練の管理に関する各種データを記憶する記憶部142と、射場内の赤外線カメラ130およびその他装置150と通信する通信部143と、射撃訓練の管理に関する各種表示を行う表示部144とを備えている。制御部141は中央処理装置と該中央処理装置が実行するプログラムを格納する記憶装置により構成される。記憶部142に記憶させるデータとしては、後述する対応表などが挙げられる。管理端末140は、射場内の人員(例えば、管理者)に所持される携帯型の装置でもよく、射場外の人員に所持される携帯型の装置でもよく、射場内又は射場外に固定的に設置される装置であってもよい。その他装置150は、例えば、着弾または命中した場合にそれを知らせる装置である。
【0023】
制御部141は、標的板111を撮影した映像から座標を算出する。座標は、着弾地点の温度変化が発生した場所の画素から算出される。また、制御部141は、標的板111に描かれている標的に点数があれば座標から点数計算を行い、採点を行う。管理端末140の記憶部142にあらかじめ標的と点数テーブルを保有させておき、標的と標的に割り付けた点数テーブルから着弾点に応じて点数を算出し、得点として計算をする。点数は射撃中に計算され、合計得点を算出し、射撃結果として出力される。制御部141は射撃結果をデータとして記憶部142に保存し、計算され採点された射撃結果は表示部144で表示する。
【0024】
続いて、画像内座標を実測座標に変換するためのキャリブレーションについて
図3から
図5を用いて説明する。
図3は実施形態における着弾点の検出方法を説明するフローチャートである。
図4は実施形態におけるキャリブレーションを行うための構成を示す図である。
図5は実施形態におけるキャリブレーションを説明する図である。
【0025】
射撃訓練を実施する前に、標的装置110に
図4に示すような格子状のマーカ114を射座側に設置し、赤外線カメラ130で撮影する(ステップS1)。
【0026】
マーカ114は赤外波長域の吸収率、反射率の差がある高反射素材および低反射素材を利用する。
図5に示すように、マーカ114は、既知の長さで構成された高反射素材および低反射素材を市松模様的に配置して格子状の模様が形成されたプレートである。このマーカ114を赤外線カメラ130にて撮影すると赤外光の強さより温度差が得られる。すなわち、表面の反射率の差がある素材を利用し、赤外線カメラ130にて見かけ上の温度差を得る。これにより各辺の長さが既知であるチェッカ柄のグリッド方眼が得られる。
【0027】
図5に示すように、赤外線カメラ130より得られる赤外画像214は、低反射部材のマーカの箇所は画素値が小さい(低画素値:L)、高い反射部材のマーカの箇所は画素値が大きい(高画素値:H)になる。マーカ114が実際には熱を持たないため安全である事、測定中に温度が伝わりマーカ114が全て同一の温度にならない利点がある。
【0028】
制御部141は実物の標的と赤外画像上の標的の位置関係を対応付けした表、データベースまたは関係式(以下、対応表という。)を作成する(ステップS2)。
【0029】
図5に示すように、マーカ114の格子のそれぞれの長さ(X1,X2,・・・,X6)と、赤外画像214の低画素値および高画素値の画素数(A1,A2,・・・,A6)と、を対応付ける。
X1⇔A1、X2⇔A2、・・・、X6⇔A6
【0030】
マーカ114の横方向(水平方向)および縦方向(垂直方向)のいずれにもマーカの格子数分、対応付けを行う。これらの対応を並べたものが対応表となる。また、これらを利用し得られた数値を基に画像上の各画素は実物の標的のどの部分にそれぞれ対応しているのか関係形式を作成してもよい。光学系の歪または赤外線カメラ130の設置位置によって、一つの格子の赤外画像の画素数が変化する。
【0031】
ここで、マーカ114の大きさは、例えば、水平方向の長さ(Lh)が1000[mm]、垂直方向の長さが(Lv)は1000[mm]である。また、赤外画像の大きさは、例えば、水平方向の画素数(Ph)が640[px]、垂直方向の画素数(Pv)が480[px]である。対応表は、水平方向の1[px]がx[mm]、垂直方向の1[px]がy[mm]というようになる。
【0032】
射撃訓練時はマーカ114を標的装置110から取り外す(ステップS3)。射手は火器160を標的板111に向けて射撃する(ステップS4)。制御部141は標的板111を赤外線カメラ130により撮影する(ステップS5)。
【0033】
制御部141は、ステップS2において作成した対応表に基づいて、着弾点の赤外画像上の座標から実物上の標的(標的板111)における着弾座標を算出して着弾位置を得る。なお、射座側から発射される弾丸の代替としてレーザ光の場合においても、標的にレーザ光が照射されることで着弾とすることができる。
【0034】
他の実施形態におけるマーカについて
図6および
図7を用いて説明する。
図6は他の実施形態におけるマーカを示す図である。
図7は
図6に示す矢印Aにおける画素数と温度を示す図である。
【0035】
図6に示すように、マーカ114は、標的板111と同程度の大きさを有する赤外線低反射素材114aに精度の高い格子を描画し、その格子(方眼)の四隅または頂点二点に赤外線高反射素材114bを貼り付けて形成してもよい。ここで、赤外線低反射素材114aは、例えば、紙であり、赤外線高反射素材114bは、例えば、アルミニウム箔である。
【0036】
マーカ114を事前に赤外線カメラ130により撮影し、
図6における矢印A等の任意の直線の端部からの位置(画素数)および温度を赤外画像から取り出す。
図7に示すような画素数を横軸、その画素が持つ温度を縦軸にとったグラフ(以下、ラインプロファイルという。)を作成する。
【0037】
方眼の左端から方眼上に配置した高反射素材114bまでの距離(単位mm)は既知である。ラインプロファイルにおける温度が急落する画素の位置から演算により、その位置のマーカ114の端部からの画素数(px)と実際の距離(mm)の換算をすることができる。また、画角とカメラ-撮影対象間の距離により、1画素が実際の距離において何mmに当たるのかも既知である。
【0038】
空間上に架空の方眼を配することにより、不正確な頂点から着弾位置を推測せずとも正確な着弾位置を得られる。また、事前に空間格子を設定しておくことにより、高温の着弾点のみにスレッショルドを合わせることができるので、より正確な着弾位置のデータが得られる。これにより、着弾座標算出の精度を向上させることが可能となる。また、赤外線カメラと標的の位置関係の制限を低減することが可能となる。
【0039】
以上、本開示者らによってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【0040】
例えば、実施形態では、赤外線カメラを天井に設置する例を説明したが、床面、左右の壁等に設置するようにしてもよい。
【0041】
また、赤外線カメラを標的よりも前(射座側)に設置する例を説明したが、標的よりも後に設置するようにしてもよい。
【0042】
また、赤外線カメラは弾丸が標的に命中・貫通することで標的に発生する摩擦熱を検知する例を説明したが、弾丸自体が発する熱を検知するようにしてもよい。
【0043】
また、赤外線カメラのレーザ光の波長を検出する特性を利用し、実弾の代わりにレーザ光を使用した模擬射撃訓練システムに対して使用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
100・・・射撃訓練システム
110・・・標的装置
114・・・マーカ
130・・・赤外線カメラ
140・・・管理端末