(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】締結構造及びアルミニウム配索材
(51)【国際特許分類】
H01R 4/34 20060101AFI20240228BHJP
H01R 4/58 20060101ALI20240228BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20240228BHJP
H01R 13/04 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01R4/34
H01R4/58 C
H01R4/62 A
H01R13/04 E
(21)【出願番号】P 2021199023
(22)【出願日】2021-12-08
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021195944
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中林 理恵
(72)【発明者】
【氏名】池谷 隼人
(72)【発明者】
【氏名】坪井 美香
(72)【発明者】
【氏名】吉永 聡
【審査官】高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055892(JP,A)
【文献】特開平10-334972(JP,A)
【文献】特開2014-110099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/30- 4/64
H01R 13/03-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウム又はアルミニウム合金を含む第一被締結部材と、
金属を含む第二被締結部材と、
前記第一被締結部材と前記第二被締結部材とを互いに締結固定する締結部材と、
を備え、
前記第一被締結部材及び前記第二被締結部材は、表面にめっき処理を施しておらず、
前記第一被締結部材における前記第二被締結部材と対向する面には、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含み、かつ、前記第二被締結部材に向けて突出する突起部が一体的に形成されており、
前記第一被締結部材の突起部における純アルミニウム又はアルミニウム合金は、前記第二被締結部材の金属と直接接触して凝着している、締結構造。
【請求項2】
前記第二被締結部材の金属は、純銅、銅合金、純アルミニウム又はアルミニウム合金である、請求項1に記載の締結構造。
【請求項3】
前記締結部材は、ボルト及びナットを含む、請求項1又は2に記載の締結構造。
【請求項4】
前記第一被締結部材の突起部と前記第二被締結部材とは、酸化被膜を介さずに接触している、請求項1から3のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項5】
第一被締結部材及び前記第二被締結部材は、前記締結部材を挿通する孔部を各々有しており、
前記第一被締結部材の突起部は、前記孔部の周囲に複数個配設されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項6】
前記第一被締結部材と前記第二被締結部材との積層方向に沿って見た場合、前記第一被締結部材及び前記第二被締結部材の前記孔部は略円状であり、
前記第一被締結部材の複数の突起部は、前記孔部の中心を介して対向するように配置されている、請求項5に記載の締結構造。
【請求項7】
前記第一被締結部材の突起部は、以下の数式1の条件を満たす、請求項1から6のいずれか一項に記載の締結構造。
[数1]
σ
y≦F/x≦σ
uts
(σ
yは第一被締結部材の耐力(N/mm
2)であり、Fは締結部材の軸力(N)であり、xは突起部における第二被締結部材との初期接点の面積(mm
2)であり、σ
utsは第一被締結部材の引張強さ(N/mm
2)である。)
【請求項8】
前記第一被締結部材及び前記第二被締結部材の少なくとも一方はバスバーである、請求項1から7のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項9】
前記第一被締結部材及び前記第二被締結部材の形状は、平板状である、請求項1から8のいずれか一項に記載の締結構造。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の締結構造を備えるアルミニウム配索材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結構造及びアルミニウム配索材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量で電気伝導の良好な金属であり、比較的安価なため、電線やバスバー、電極等に多く使用されている。しかしながら、アルミニウムは酸素との反応性が高いため、アルミニウムの表面には厚みが10nm程度の酸化被膜が形成される。そのため、加圧接触の場合、金や銀のような貴金属の他、銅やニッケルの接触抵抗は一般に数μΩ~数10μΩ程度であるのに対し、アルミニウムの接触抵抗は100μΩ以上と一桁以上抵抗が高いことが知られている。したがって、アルミニウムやアルミニウム合金を導電体として使用する際、表面酸化被膜の影響を低減するために、一般的にめっきを施す。
【0003】
具体的には、ボルト締結において、被締結部材としてアルミニウム製のバスバーを使用する際、アルミニウムの接触抵抗を低減するために、めっき加工のような表面処理を施す。特許文献1では、アルミニウムやアルミニウム合金製の電気部材に加圧接触されて電気的に接続される導電部材について、当該電気部材との接触面に、バリアメタルや合金層を介して錫めっき層を形成することで接触抵抗を低減することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようなアルミニウムの接触抵抗を低減させる方法では、めっき加工プロセスが繁雑であり、製造コストが増大するという問題がある。さらに、リサイクルの観点では、アルミニウムに対してめっき処理を施すことなく導電体として使用することが望ましい。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、被締結部材としてアルミニウムを使用する場合でも、めっき加工を施すことなく、アルミニウムの接触抵抗を低減することが可能な締結構造及びアルミニウム配索材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様に係る締結構造は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含む第一被締結部材と、金属を含む第二被締結部材と、第一被締結部材と第二被締結部材とを互いに締結固定する締結部材と、を備える。第一被締結部材における第二被締結部材と対向する面には、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含み、かつ、第二被締結部材に向けて突出する突起部が一体的に形成されている。そして、第一被締結部材の突起部における純アルミニウム又はアルミニウム合金は、第二被締結部材の金属と直接接触している。
【0008】
本発明の第二の態様に係るアルミニウム配索材は、上述の締結構造を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被締結部材としてアルミニウムを使用する場合でも、めっき加工を施すことなく、アルミニウムの接触抵抗を低減することが可能な締結構造及びアルミニウム配索材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】締結部材としてのボルト、並びに被締結部材としてのバスバー及び端子のバネモデルを示す図である。
【
図3】締結構造において、高温状態と低温状態を繰り返した場合における、軸力、ボルトの頭部と第二被締結部材との間の反発力、及び第一被締結部材と第二被締結部材との間の反発力の変動を説明するための概略図である。
【
図4】締結部材としてボルト及びナットを使用し、被締結部材として端子及びバスバーを使用した締結構造において、締付けトルクを変動させた場合における端子とバスバーとの間の電気抵抗の変動の一例を示すグラフである。
【
図5A】本実施形態に係る締結構造において、第一被締結部材と第二被締結部材とを締結する前における第一被締結部材と第二被締結部材との間の界面の状態を示す概略断面図である。
【
図5B】本実施形態に係る締結構造において、第一被締結部材と第二被締結部材とを締結した後における第一被締結部材と第二被締結部材との間の界面の状態を示す概略断面図である。
【
図6A】本実施形態に係る締結構造の第一被締結部材において、突起部の配列の一例を概略的に示す平面図である。
【
図6B】本実施形態に係る締結構造の第一被締結部材において、突起部の配列の他の例を概略的に示す平面図である。
【
図6C】本実施形態に係る締結構造の第一被締結部材において、突起部の配列のさらに他の例を概略的に示す平面図である。
【
図7】参考例で用いた端子及びバスバーの形状及びサイズを示す平面図である。
【
図8】参考例で用いた端子、バスバー、ボルト及びナットからなる締結構造の形状及びサイズを示す正面図及び平面図である。
【
図9】参考例の締結構造に、電源及び電圧計を接続した状態を示す平面図である。
【
図10A】参考例のサンプル1及びサンプル2に対して、0~20サイクルのサーマルショック試験を行った際の、締結構造の電気抵抗、槽内温度及び試験時間の関係を示すグラフである。
【
図10B】参考例のサンプル1及びサンプル2に対して、180~200サイクルのサーマルショック試験を行った際の、締結構造の電気抵抗、槽内温度及び試験時間の関係を示すグラフである。
【
図11A】参考例のサンプル3及びサンプル4に対して、0~20サイクルのサーマルショック試験を行った際の、締結構造の電気抵抗、槽内温度及び試験時間の関係を示すグラフである。
【
図11B】参考例のサンプル3及びサンプル4に対して、180~200サイクルのサーマルショック試験を行った際の、締結構造の電気抵抗、槽内温度及び試験時間の関係を示すグラフである。
【
図12】参考例のサンプル1及びサンプル2において、締結構造を作製する前の銅合金端子の表面及び裏面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。
【
図13】参考例のサンプル1及びサンプル2において、締結構造を作製した後に分解して、銅合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。さらに、サーマルショック試験後の締結構造を分解して、銅合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。
【
図14】参考例のサンプル3及びサンプル4において、締結構造を作製する前のアルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。
【
図15】参考例のサンプル3及びサンプル4において、締結構造を作製した後に分解して、アルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。さらに、サーマルショック試験後の締結構造を分解して、アルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す写真である。
【
図16】実施例のサンプル及び試験方法を説明するための概略図である。
【
図17A】
参考例のサンプル5における、接触部材に対する接触荷重と接触抵抗との関係を示すグラフである。
【
図17B】実施例のサンプル6における、接触部材に対する接触荷重と接触抵抗との関係を示すグラフである。
【
図17C】実施例のサンプル7における、接触部材に対する接触荷重と接触抵抗との関係を示すグラフである。
【
図18】
参考例のサンプル5及び
実施例のサンプル7において、突起部を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係る締結構造及び当該締結構造を備えたアルミニウム配索材について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
従来の締結構造1は、
図1に示すように、第一被締結部材2と、第二被締結部材3と、第一被締結部材2と第二被締結部材3とを互いに締結固定する締結部材とを備えている。第一被締結部材2としてはバスバーを用いることができ、第二被締結部材3としては端子を用いることができ、締結部材としてはボルト4及びナット5を用いることができる。そして、第一被締結部材2及び第二被締結部材3に設けられた孔部に、ボルト4のねじ部を挿通した状態で、ねじ部にナット5を螺合することにより、第一被締結部材2及び第二被締結部材3を締結固定する。
【0013】
ここで、第一被締結部材2、第二被締結部材3及び締結部材は一般的に金属材料から構成されるが、金属材料は、温度の上昇によって膨張し、温度の低下によって収縮する特性を有する。そのため、
図2に示すように、ボルト4、バスバー(第一被締結部材2)、端子(第二被締結部材3)をバネとして考えることにより、ボルト、バスバー及び端子の熱膨張率の差に起因したボルトの軸力の変動を算出することができる。
【0014】
具体的には、ボルト4及びナット5の材料をアルミニウム合金又は鋼とし、端子3の材料をアルミニウム合金又は銅合金とし、バスバー2の材料をアルミニウム合金又は銅合金とする。なお、アルミニウム合金は日本産業規格JIS H4000で規格化されているA6101-T6とし、銅合金はJIS H3100で規格化されているC1020-1/2Hとする。また、バスバーの板厚は2mmとし、銅端子の板厚は0.8mmとし、アルミニウム端子の板厚は2mmとする。なお、バスバー及び端子にはめっき処理を施さない条件とする。また、ボルト4は、M6ボルトを使用する。
【0015】
そして、ボルト4及びナット5を用いてバスバー2及び端子3を締付けトルク8N・mで締結した締結構造1について、160℃及び-40℃の場合のボルト4の軸力変動を、数式1から算出した。なお、軸力変動は、25℃における軸力からの変動値である。ボルト、ナット、端子及びバスバーの材料、並びに160℃及び-40℃における軸力変動の算出結果を表1に纏めて示す。なお、軸力変動を算出する際、鉄(Fe)の線膨張係数は11.8×10
-6Kとし、銅(Cu)の線膨張係数は17.1×10
-6Kとし、アルミニウム(Al)の線膨張係数は25.6×10
-6Kとした。
【数1】
ΔF
th:ボルトの軸力の変動,α
B:ボルト材料の線膨張率,α
C1:バスバー材料の線膨張率,α
C2:端子材料の線膨張率,l
B:ボルトのグリップ長さ,l
C1:バスバーの厚み,l
C2:端子の厚み,K
B:ボルトのばね定数,K
C1:バスバーのばね定数,K
C2:端子のばね定数
なお、ばね定数K
B、K
Cは、材料のヤング率とボルト及びバスバーの形状より算出した。
【0016】
【0017】
表1に示すように、ボルト、ナット、端子及びバスバーの全てがアルミニウム合金からなる場合、これらの線膨張係数は同じであることから、温度が160℃~-40℃に変化した場合でも、軸力の変動は生じないことが分かる。これに対して、ボルト及びナットが鋼からなり、端子及びバスバーが銅合金からなる場合、160℃における軸力は1157N増加し、-40℃における軸力は557N減少する。同様に、ボルト及びナットが鋼からなり、端子が銅合金からなり、バスバーがアルミニウム合金からなる場合も、160℃における軸力は増加し、-40℃における軸力は減少する。さらに、ボルト及びナットが鋼からなり、端子が及びバスバーがアルミニウム合金からなる場合も、160℃における軸力は増加し、-40℃における軸力は減少する。このように、締結部材(ボルト及びナット)並びに被締結部材(端子及びバスバー)の材料が異なる場合、各材料の熱膨張の差に起因して軸力が大きく変動する。そして、このような軸力(締結力)の変動は、ボルトの緩みや被締結部材の間の電気抵抗の変動に繋がる。
【0018】
上述のように、締結部材及び被締結部材の材料が異なる締結構造の使用条件が、高温環境と低温環境の間を繰り返す場合、各材料の熱膨張の差に起因して締結部材の軸力が大きく変動する。そして、このような締結部材の軸力変動が繰り返された場合、被締結部材に応力緩和が生じ、軸力、ボルトの頭部と第二被締結部材3との間の反発力、及び第一被締結部材2と第二被締結部材3との間の反発力が低下する現象が生じる。つまり、
図3に示すように、高温環境(160℃)と低温環境(-40℃)の間を繰り返す前の初期の段階では、軸力A1、ボルト4の頭部と第二被締結部材3との間の反発力B1、第一被締結部材2と第二被締結部材3との間の反発力C1は、高い状態に維持されている。これに対して、高温環境と低温環境の間を繰り返した場合、例えば第二被締結部材3に応力緩和が発生する。そのため、締結構造における力の釣合いを取るために、軸力A2、ボルト4の頭部と第二被締結部材3との間の反発力B2、第一被締結部材2と第二被締結部材3との間の反発力C2が緩和する現象が生じる。その結果、第一被締結部材2及び第二被締結部材3に対するボルト4の軸力(締結力)が低下してしまう。なお、応力緩和は、ボルト4の頭部と第二被締結部材3との間だけでなく、ナット5と第一被締結部材2と間でも生じる。
【0019】
ここで、
図4のグラフは、締結部材としてボルト及びナットを使用し、被締結部材として端子及びバスバーを使用した締結構造において、締め付けトルクを変動させた場合における端子とバスバーとの間の電気抵抗の変動の一例を示している。
図4では、ボルト及びナットの材料として鋼又はアルミニウム合金を使用し、端子の材料として銅合金又はアルミニウム合金を使用し、バスバーの材料として銅合金又はアルミニウム合金を使用している。なお、アルミニウム合金はA6101-T6とし、銅合金はC1020-1/2Hとしている。また、バスバーの板厚は2mmとし、銅端子の板厚は0.8mmとし、アルミニウム端子の板厚は2mmとしている。
【0020】
図4に示すように、鋼ボルトと銅合金端子とアルミニウム合金バスバーからなる締結構造(FeCボルト/Cu端子/Alバスバー)、鋼ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーからなる締結構造(FeCボルト/Al端子/Alバスバー)、及び、アルミニウム合金ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーからなる締結構造(Alボルト/Al端子/Alバスバー)は、ボルトへの締付けトルクが低下するにつれて、被締結部材間の電気抵抗が増加する傾向があることが分かる。これに対して、鋼ボルトと銅合金端子と銅合金バスバーからなる締結構造(FeCボルト/Cu端子/Cuバスバー)は、締付けトルクが低下しても電気抵抗が大きく変動しないことが分かる。つまり、被締結部材として純アルミニウム又はアルミニウム合金を使用した場合、ボルトへの締付けトルクが低下するにつれて、被締結部材間の電気抵抗が増加する傾向がある。
【0021】
このように、締結部材及び被締結部材の材料が異なる場合、各材料の熱膨張の差に起因して締結力(軸力)が大きく変動し、さらに被締結部材の応力緩和により締結力の低下も生じる。また、被締結部材としてアルミニウム合金を使用した場合、締結力が低下するにつれて、被締結部材間の電気抵抗が増加する。そして、締結構造の電気抵抗は、締結部材と被締結部材との間の電気抵抗よりも、被締結部材間の電気抵抗の方が支配的である。そのため、締結部材の締結力が減少した場合でも、被締結部材間の電気抵抗をできる限り低下させることが、締結構造全体の電気抵抗を低下させる上で重要となる。
【0022】
本発明の実施形態に係る締結構造は、被締結部材として純アルミニウム又はアルミニウム合金を使用した場合でも、被締結部材間の電気抵抗を低下することが可能な構造を備えている。
【0023】
本実施形態に係る締結構造10は、
図1に示すように、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含む第一被締結部材20と、金属を含む第二被締結部材30と、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを互いに締結固定する締結部材と、を備える。さらに、締結構造10は、
図5Aに示すように、第一被締結部材20における第二被締結部材30と対向する面21に、突起部22が一体的に形成されている。そして、第一被締結部材2及び第二被締結部材30に各々設けられた孔部に、締結部材としてのボルト40のねじ部を挿通した状態で、ねじ部にナット50を螺合することにより、第一被締結部材2及び第二被締結部材30が締結固定されている。
【0024】
第一被締結部材20は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を主成分として含む導電部材である。また、第一被締結部材20は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる部材であってもよい。アルミニウム合金は、アルミニウム地金等の原料アルミニウムに、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn及びTiからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含んでいてもよい。アルミニウム合金は、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Cr、Zn及びTiからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含み、残部がアルミニウム及び不可避不純物であってもよい。
【0025】
アルミニウム地金としては、純度99.7質量%以上の純アルミニウムを用いることが好ましい。なお、アルミニウム地金としては、JIS H2102:2011(アルミニウム地金)に規定される純アルミニウム地金のうち、純度99.7質量%の1種アルミニウム地金、純度99.85質量%以上の特2種アルミニウム地金、及び純度99.90質量%以上の特1種アルミニウム地金等が挙げられる。本実施形態では、アルミニウム地金として、特1種、特2種のような高価で高純度のものばかりではなく、比較的安価な1種アルミニウム地金を用いることができる。
【0026】
Siはアルミニウム合金中に0.1質量%以上、1.2質量%未満含まれ、0.3~0.7質量%含まれることが好ましい。Feはアルミニウム合金中に0.1質量%以上、1.7質量%未満含まれ、0.4~0.7質量%含まれることが好ましい。
【0027】
Cuはアルミニウム合金中に0.04~7質量%含まれ、0.1~2.6質量%含まれることが好ましい。Mnはアルミニウム合金中に0.03~0.8質量%含まれ、0.03~0.1質量%含まれることが好ましい。Mgはアルミニウム合金中に0.03~4.5質量%含まれ、0.35~0.8質量%含まれることが好ましい。Crはアルミニウム合金中に0.03~0.35質量%含まれ、0.03~0.1質量%含まれることが好ましい。Znはアルミニウム合金中に0.04~7.0質量%含まれ、0.1~0.25質量%含まれることが好ましい。Tiはアルミニウム合金中に0.00~0.2質量%含まれ、0.00~0.1質量%含まれることが好ましい。
【0028】
アルミニウムには、極微量の不可避不純物を含んでいてもよい。アルミニウムに含まれる可能性がある不可避不純物としては、ニッケル(Ni)、ルビジウム(Pb)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。これらは本実施形態の効果を阻害せず、本実施形態のアルミニウム合金の特性に格別な影響を与えない範囲で不可避的に含まれるものである。そして、使用するアルミニウム地金に予め含有されている元素も、不可避不純物に含まれる。不可避不純物の量は、アルミニウム合金中に合計で0.07質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
第一被締結部材20の形状は特に限定されないが、例えば平板状とすることができる。また、第一被締結部材20は、バスバーであることが好ましい。
【0030】
第二被締結部材30は、金属を主成分として含む導電部材である。また、第二被締結部材30は、当該金属からなる部材であってもよい。第二被締結部材30を構成する金属は、純銅、銅合金、純アルミニウム又はアルミニウム合金とすることができる。なお、アルミニウム合金は、第一被締結部材20で説明したものを使用することができる。
【0031】
第二被締結部材30の形状は特に限定されないが、例えば平板状とすることができる。また、第二被締結部材30は、バスバー又は端子であることが好ましい。
【0032】
締結部材は、第一被締結部材20及び第二被締結部材30に対して適切な締結力(圧縮力)を付与することにより、これらを締結することが可能な部材である。このような締結部材としては、
図1に示すように、ボルト40及びナット50を使用することができる。ただ、第一被締結部材20及び第二被締結部材30に対して適切な締結力を付与することが可能ならば、締結部材としてはボルト40及びナット50以外の部材を用いてもよい。
【0033】
ここで、締結構造10において、第一被締結部材20における第二被締結部材30と対向する面21には、第二被締結部材30に向けて突出する突起部22が一体的に形成されている。突起部22は第一被締結部材20と同じ金属組成となっており、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含んでいる。そして、第一被締結部材20の突起部22における純アルミニウム又はアルミニウム合金は、第二被締結部材30の金属と直接接触している。そのため、第一被締結部材20の突起部22と第二被締結部材30の間の導電性を高めることが可能となる。
【0034】
図5Aは、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結する前における、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の界面の状態を概略的に示している。また、
図5Bは、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結した後における、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の界面の状態を概略的に示している。
図5Aに示すように、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結する前において、第一被締結部材20の面21には、第二被締結部材30に向けて突出する突起部22が複数設けられている。ここで、第一被締結部材20及び突起部22は純アルミニウム又はアルミニウム合金を含んでいるため、表面に酸化被膜23が形成されている。
【0035】
このような第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結して圧縮力を付与した場合、突起部22と第二被締結部材30の表面が接触し、突起部22が塑性変形するため、突起部22の表面の酸化被膜23が破壊される。その結果、
図5Bに示すように、突起部22の内部の純アルミニウム又はアルミニウム合金が、第二被締結部材30の金属と直接接触して凝着する。つまり、第一被締結部材20の突起部22と第二被締結部材30とが、酸化被膜23を介さずに直接接触する状態となる。そのため、締結部材、第一被締結部材20及び第二被締結部材30の熱膨張の差に起因して締結力が大きく変動したり、応力緩和により締結力が低下した場合でも、突起部22と第二被締結部材30との間が凝着しているため、導通が確保される。その結果、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の導電性を高い状態に維持することができる。
【0036】
第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結する前における突起部22の高さHは、突起部22と第二被締結部材30とが凝着することが可能ならば特に限定されない。締結前の突起部22の高さHの下限は、5μmとすることが好ましく、20μmとすることがより好ましく、50μmとすることがさらに好ましく、100μmとすることが特に好ましい。締結前の突起部22の高さHの上限は、1mmとすることが好ましく、800μmとすることがより好ましく、500μmがさらに好ましく、200μmとすることが特に好ましい。
【0037】
第一被締結部材20と第二被締結部材30とを締結部材で締結する前における突起部22の形状も、突起部22と第二被締結部材30とが凝着することが可能ならば特に限定されない。締結前の突起部22の形状は、例えば、半球状又は柱状とすることができる。
【0038】
第一被締結部材20の突起部22の位置も特に限定されない。第一被締結部材20及び第二被締結部材30が、締結部材(ボルト40)を挿通する孔部を有している場合、第一被締結部材20の突起部22は、孔部20aの周囲に配設されることが好ましい。
図6Aから
図6Cに示すように、突起部22が孔部20aの周囲に位置していることにより、締結部材で締結した際の圧縮力が突起部22に効率的に作用する。そのため、酸化被膜23の破壊、及び突起部22のアルミニウムと第二被締結部材30の金属との凝着が進行しやすくなる。
【0039】
第一被締結部材20の突起部22の数も特に限定されない。
図6Aに示すように、突起部22の数が一つであってもよく、
図6B及び
図6Cに示すように、突起部22の数が複数であってもよい。突起部22が複数個配設されていることにより、第一被締結部材20及び第二被締結部材30との間の導通をより高めることが可能となる。
【0040】
ここで、第一被締結部材20と第二被締結部材30との積層方向(ボルトのねじ部の長手方向)に沿って見た場合、第一被締結部材及び第二被締結部材の孔部20aは略円状であり、複数の突起部22は、孔部の中心Oを介して対向するように配置されていてもよい。
図6B及び
図6Cに示すように、複数の突起部22が中心Oを介して対向するように配置されている場合、締結部材(ボルト40及びナット50)からの圧縮力が、第一被締結部材20及び第二被締結部材30の孔部の周囲に略均等に作用する。これにより、第一被締結部材20及び第二被締結部材30に対して締結力がバランスよく付与されるため、締結力の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
第一被締結部材20と第二被締結部材30との積層方向に沿って見た場合、第一被締結部材20の突起部22は、ボルト40の頭部における座面の外周よりも内側に位置していることが好ましい。これにより、突起部22に対して圧縮力が作用しやすくなるため、酸化被膜23の破壊、及び突起部22のアルミニウムと第二被締結部材30の金属との凝着が進行しやすくなる。
【0042】
第一被締結部材20の突起部22は、以下の数式2の条件を満たすことが好ましい。
[数2]
σy≦F/x≦σuts
なお、数式2において、σyは第一被締結部材20の耐力(N/mm2)、つまり突起部22の耐力である。Fは締結部材(ボルト40)の軸力(N)であり、xは突起部22における第二被締結部材30との初期接点の面積(mm2)である。初期接点の面積は、第一被締結部材20、第二被締結部材30及び締結部材により締結構造を組み立てた後に分解して測定した、突起部22における第二被締結部材30との接点の面積と、突起部22の形状から見積もることができる。σutsは第一被締結部材20の引張強さ(N/mm2)、つまり突起部22の引張強さである。F/xが第一被締結部材20及び突起部22の耐力以上であることにより、圧縮時に突起部22が塑性変形するため、突起部22の酸化被膜23が破壊される。そのため、突起部22の内部のアルミニウムが、第二被締結部材30の金属と直接接触して凝着することができる。また、F/xが第一被締結部材20の引張強さ(最大応力)以下であることにより、圧縮時において、突起部22及び第一被締結部材20に亀裂などの破壊が生じることを抑制することができる。なお、第一被締結部材20の耐力及び引張強さは、JIS Z2241(金属材料引張試験方法)に準拠して求めることができる。
【0043】
上述のように、第二被締結部材30の金属は、純銅、銅合金、純アルミニウム又はアルミニウム合金とすることができる。ここで、第二被締結部材30の金属が純アルミニウム又はアルミニウム合金の場合、第二被締結部材30の表面には酸化被膜が形成される。ただ、第二被締結部材30の表面に酸化被膜が存在していても、圧縮力を付与した場合、突起部22の酸化被膜23と共に、第二被締結部材30の酸化被膜も破壊することができる。そのため、突起部22のアルミニウムと第二被締結部材30のアルミニウムとが凝着することから、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の導電性を高めることが可能となる。
【0044】
次に、本実施形態の締結構造10の製造方法について説明する。締結構造10を製造する際には、まず、突起部22を備えた第一被締結部材20と、第二被締結部材30と、締結部材とを準備する。締結部材としては、上述のように、ボルト40及びナット50を使用することができる。
【0045】
第一被締結部材20に突起部22を形成する方法は、特に限定されない。例えば、突起部22の形状に対応した凹部を有する金型を、第一被締結部材20の表面21に押圧することにより、表面21に突起部22を形成することができる。また、第一被締結部材20の表面21を荒くして粗面化することによっても、突起部22を形成することができる。
【0046】
次に、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを、突起部22が第二被締結部材30と対向するように重ね合わせた後、第一被締結部材2及び第二被締結部材3に各々設けられた孔部に、ボルト40のねじ部を挿通する。そして、ねじ部にナット50を螺合することにより、第一被締結部材2及び第二被締結部材30を締結固定する。この際、ボルト40の締付けトルクは、上記数式2の関係を満たすように調整することが好ましい。これにより、突起部22の内部のアルミニウムが、第二被締結部材30の金属と直接接触して凝着することができる。このようにして、本実施形態の締結構造10を得ることができる。
【0047】
このように、本実施形態の締結構造10は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含む第一被締結部材20と、金属を含む第二被締結部材30と、第一被締結部材20と第二被締結部材30とを互いに締結固定する締結部材と、を備える。第一被締結部材20における第二被締結部材30と対向する面21には、純アルミニウム又はアルミニウム合金を含み、かつ、第二被締結部材30に向けて突出する突起部22が一体的に形成されている。そして、第一被締結部材20の突起部22における純アルミニウム又はアルミニウム合金は、第二被締結部材30の金属と直接接触している。このような構成により、締結部材、第一被締結部材20及び第二被締結部材30の熱膨張の差に起因して締結力が大きく変動したり、応力緩和により締結力が低下した場合でも、突起部22と第二被締結部材30との間が凝着しているため、導通が確保される。その結果、締結構造10の温度が大きく変動した場合でも、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の導電性を高い状態に維持することができる。
【0048】
本実施形態のアルミニウム配索材は、上述の締結構造を備えている。配索材は、例えば車両に配索され、各装置を電気的に接続する部材である。このような配索材としては、例えばワイヤーハーネスを挙げることができる。本実施形態の締結構造は、被締結部材の表面にめっき処理を施すことなく電気抵抗を低減できるため、めっき加工コストの増大を抑えることができる。また、当該締結構造を自動車のエンジンやバッテリー近傍の発熱部位に用いた場合でも、高い導通性を維持することができるため、信頼性を確保することができる。さらに、締結部材としてボルト40とナット50を用いた場合、締結部材の解体が容易であることから、金属リサイクルの観点で分別が容易である。
【0049】
以上、本実施形態に係る締結構造10及びアルミニウム配索材について説明したが、本実施形態は上記実施形態に限定されない。本実施形態の締結構造10では、少なくとも、第一被締結部材20の突起部22のアルミニウムが第二被締結部材30の金属と直接接触している。しかし、第一被締結部材20の表面21の内部に存在するアルミニウムが、第二被締結部材30の金属と直接接触していてもよい。つまり、第一被締結部材20の表面21を覆う酸化被膜23を破壊し、表面21の内部のアルミニウムと第二被締結部材30の金属とが、酸化被膜23を介さずに直接接触する状態となっていてもよい。これにより、第一被締結部材20と第二被締結部材30との間の導電性を、より高めることができる。
【0050】
本実施形態の締結構造10では、少なくとも第一被締結部材20に突起部22が形成されている。しかしながら、締結構造10において、第二被締結部材30における第一被締結部材20と対向する面には、第二被締結部材30と同じ金属を含み、かつ、第一被締結部材20に向けて突出する突起部が一体的に形成されていてもよい。つまり、本実施形態では、第二被締結部材30の表面にも突起部が形成されていてもよい。そして、第二被締結部材30の突起部の金属が第一被締結部材20の純アルミニウム又はアルミニウム合金と直接接触していてもよい。このような構成により、締結部材の締結力が大きく変動したり、応力緩和により締結力が低下した場合でも、第二被締結部材30の突起部と第一被締結部材20との間が凝着しているため、導電性を高い状態に維持することができる。
【0051】
本実施形態の締結構造10において、第二被締結部材30としては、めっきが施されていない被締結部材を用いることができる。ただ、第二被締結部材30は、表面に錫めっきが施された被締結部材であってもよい。第二被締結部材30の表面に錫めっきが施されることにより、第一被締結部材20の突起部22と第二被締結部材30との間の導電性を、さらに高めることが可能となる。
【0052】
本実施形態では、第一被締結部材20としてバスバーを使用し、第二被締結部材30として端子を使用したが、このような態様に限定されない。例えば、第一被締結部材20及び第二被締結部材30の両方ともバスバーであってもよい。つまり、本実施形態では、第一被締結部材20及び第二被締結部材の少なくとも一方がバスバーであってもよい。
【0053】
また、上述のように、本実施形態の締結構造10は応力緩和した場合も高い導通性を維持することができる。ただ、例えば、耐応力緩和性やクリープ特性に優れるアルミニウム-カーボンナノチューブ複合材料を締結構造の一部に使用することにより、高温環境下で応力負荷が増大した場合でも、導通性をさらに維持することができる。また、このような締結構造は高温中で物性の変化が小さいことから、自動車のエンジンやバッテリー近傍の発熱部位に使用することができ、部品の軽量化に貢献できる。さらに、締結部材、第一被締結部材20及び第二被締結部材30の少なくとも一つは、純アルミニウム又はアルミニウム合金に無機物質などの粒子が分散された分散強化型アルミニウム基複合金属を含んでいてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、本実施形態を実施例及び参考例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[参考例]
表2に示す材料からなる端子、バスバー、ボルト及びナットを用いて、サンプル1~4の締結構造を作製した。
【0056】
具体的には、まず、表2に記載されている材料を用いて、
図7及び表3に記載されているサイズの端子及びバスバーを作製した。なお、アルミニウム合金にはめっき加工を施さなかった。さらに、端子及びバスバーには、突起部を形成しなかった。
【0057】
さらに、鋼及びアルミニウム合金からなるボルト及びナットも準備した。鋼からなるボルト及びナットとしては、線材材質SWRHN12のものを使用した。なお、表4には、鋼及びアルミニウム合金からなるボルトのサイズを示し、表5には、鋼及びアルミニウム合金からなるナットのサイズを示した。
【0058】
次に、
図8に示すように、バスバー2の上面に端子3の一部を積層して、孔部同士を重ね合わせた。そして、孔部にボルト4のねじ部を挿通させた後、ねじ部にナット5を螺合することにより、第一被締結部材2及び第二被締結部材3を締結固定した。なお、ボルトの締付けトルクは、直読式トルクレンチを使用して8.0N・mに調整した。次いで、
図9に示すように、各サンプルの締結構造に、直流電源及び電圧計を電気的に接続した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
このように、直流電源及び電圧計を接続した各サンプルの締結構造に対して、サーマルショック試験を行った。具体的には、各サンプルを温度試験槽の内部に設置した後、槽内温度160℃で60分間保持する工程と-40℃で60分間保持する工程とを200サイクル繰り返し、その間の電気抵抗を連続的に測定した。なお、電気抵抗の測定条件は、直流電流(DC)を1.0Aとし、測定距離を40mmとし、測定精度を±0.02mVとし、取り込み時間を1.0分とした。サンプル1及びサンプル2の電気抵抗の測定結果を
図10A及び
図10Bに示し、サンプル3及びサンプル4の電気抵抗の測定結果を
図11A及び
図11Bに示す。なお、
図10A及び
図11Aは、0~20サイクル目の電気抵抗の変化を示し、
図10B及び
図11Bは、180~200サイクル目の電気抵抗の変化を示す。また、表2には、各サンプルのサーマルショック試験前の電気抵抗値と、サーマルショック試験後の電気抵抗値を合わせて示す。
【0064】
図10A~
図11Bに示すように、全てのサンプルにおいて、サーマルショック試験の高温時は電気抵抗が一時的に上昇し、低温時は電気抵抗が一時的に低下する現象が確認できる。この現象は、金属にとって一般的な現象である。ただ、
図10A及び
図10B並びに表2に示すように、サンプル1は、サーマルショック試験後でも電気抵抗の上昇は確認できなかったのに対して、サンプル2は、電気抵抗が3倍以上増加していることが分かる。つまり、鋼ボルトと銅合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造は、試験後に電気抵抗が大幅に増加することが分かる。さらに、
図10Aに示すように、サンプル2は、160℃で保持しているときに電気抵抗が増加していることが確認できる。
【0065】
また、
図11A及び
図11B並びに表2に示すように、サンプル3は、サーマルショック試験後に電気抵抗が1.5倍近く上昇しているのに対して、サンプル4は、電気抵抗の上昇は確認できなかった。つまり、鋼ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造は、試験後に電気抵抗が大幅に増加することが分かる。
【0066】
次に、各サンプルについて、締結構造を作製する前、締結構造を作製した後、及び、サーマルショック試験後における端子の表面の凹凸の高さを測定した。具体的には、株式会社キーエンス製、形状解析レーザ顕微鏡VK-X1100を用い、孔部を中心に縦15mm横15mmの範囲の凹凸の高さを測定した。
【0067】
図12では、締結構造を作製する前、つまり締結部材により締結する前の銅合金端子の表面及び裏面の凹凸高さを測定した結果を示す。
図13は、締結構造を作製した後に分解して、銅合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す。さらに
図13は、サーマルショック試験後の締結構造を分解して、銅合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す。なお、
図13は、いずれも、銅合金端子におけるボルト頭部の座面と接触した面の凹凸高さを測定した結果を示す。
【0068】
図12及び
図13より、サンプル1及びサンプル2のいずれも、サーマルショック試験後に銅合金端子の表面が座面形状に沿って凹んでいることが確認できた。特にサンプル2は、最大40μm程度の凹みが確認できた。一般的に、金属材料の耐力(降伏応力)は、25℃雰囲気と比較して、高温下では低下する。そして、サーマルショック試験中の160℃雰囲気では、線膨張により金属が膨張して締結力(軸力)の増大をもたらす。そのため、高温環境と軸力の増大により、応力緩和が促進され、塑性変形したものと考えられる。
【0069】
図14では、締結構造を作製する前、つまり締結部材により締結する前のアルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す。
図15は、締結構造を作製した後に分解して、アルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す。さらに
図15は、サーマルショック試験後の締結構造を分解して、アルミニウム合金端子の表面の凹凸高さを測定した結果を示す。なお、
図15は、いずれも、アルミニウム合金端子におけるボルト頭部の座面と接触した面の凹凸高さを測定した結果を示す。
【0070】
図14及び
図15より、サンプル3では、サーマルショック試験後にアルミニウム合金端子の表面が座面形状に沿って凹んでいることが確認できた。このように、サーマルショック試験中の160℃雰囲気では、線膨張により金属が膨張して締結力(軸力)の増大をもたらす。そして、高温環境と軸力の増大により、応力緩和が促進され、塑性変形したものと考えられる。これに対して、サンプル4では、サーマルショック試験後であっても、アルミニウム合金端子の表面に凹みは確認できなかった。このように、ボルトと端子及びバスバーとの材料が同じ場合には、アルミニウム合金端子に応力緩和が殆ど発生しなかったと考えられる。
【0071】
ここで、
図4に示すように、鋼ボルトと銅合金端子とアルミニウム合金バスバーからなる締結構造では、ボルトへの締付けトルクが低下するにつれて、被締結部材間の電気抵抗が増加する傾向がある。そして、鋼ボルトと銅合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造(サンプル2)は、サーマルショック試験後に電気抵抗が大きく上昇しており、さらに銅合金端子に凹みが発生している。さらに、サンプル2では、160℃で保持しているときに電気抵抗が増加している。このことから、鋼ボルトと銅合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造では、高温時の応力緩和によりボルトの軸力(締結力)が低下したため、端子とバスバーとの間の電気抵抗が増加したものと考えられる。
【0072】
同様に、
図4に示すように、鋼ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーからなる締結構造では、ボルトへの締付けトルクが低下するにつれて、被締結部材間の電気抵抗が増加する傾向がある。そして、鋼ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造(サンプル3)は、サーマルショック試験後に電気抵抗が大きく上昇しており、さらにアルミニウム合金端子に凹みが発生している。このことから、鋼ボルトとアルミニウム合金端子とアルミニウム合金バスバーとを組み合わせた締結構造でも、応力緩和によりボルトの締結力が低下したため、端子とバスバーとの間の電気抵抗が増加したものと考えられる。
【0073】
[実施例
及び参考例]
まず、表6に示す材料を用いて、
図16に示すサンプル5~7の接触部材60及び被接触板70を作製した。接触部材60は、凹部61を有する金属板に対して、凹部61の下端に半球状の突起部を一つ形成した部材である。なお、突起部の半径Rは1mmとした。被接触板70は、金属板からなる部材であり、接触部材60の突起部に対向するように配置した。
【0074】
【0075】
次に、サンプル5及び6の接触部材60に直流電源及び電圧計の一方の端子をそれぞれ電気的に接続し、被接触板70に直流電源及び電圧計の他方の端子をそれぞれ電気的に接続した。そして、
図16に示すように、接触部材60に所定の荷重を印加して、突起部を被接触板70の表面に接触させ、接触部材60と被接触板70との間の接触抵抗を測定した。次に、接触部材60に所定の荷重を印加した状態で、被接触板70に対して接触部材60を摺動させた後、接触部材60と被接触板70との間の接触抵抗を測定した。次いで、接触部材60への荷重を所定の荷重まで除荷し、接触部材60と被接触板70との間の接触抵抗を測定した。
【0076】
具体的には、まず、各サンプルの接触部材60に、2N、4N、6N、8N、10Nと荷重を印加(載荷)した際の、各々の荷重における接触抵抗を測定した。次に、荷重を10N印加した状態で接触部材60を0.1mm摺動し、接触抵抗を測定した。最後に8N、6N、4N、2Nと荷重を除荷した際の各々の荷重における接触抵抗を測定した。
図17は、各サンプルにおける、接触部材60に対する荷重と接触抵抗との関係を示す。
図17A、
図17B、
図17Cにおいて、塗潰したマークは荷重印加時における各々の荷重での接触抵抗を示し、白抜きのマークは荷重除荷時における各々の荷重での接触抵抗を示す。
【0077】
また、サンプル7についても、サンプル5及び6と同様に、接触部材60に2N、4N、6N、8N、10Nと荷重を印加(載荷)した際の各々の荷重における接触抵抗を測定した。次いで、接触部材60を摺動せずに、8N、6N、4N、2Nと除荷したときの接触抵抗を測定した。
【0078】
図17Cに示すように、接触部材60及び被接触板70に銅合金を使用したサンプル7は、接触部材60に対する荷重を除荷しても、接触抵抗は低い状態を維持していた。この結果は、
図4における鋼ボルトと銅合金端子と銅合金バスバーからなる締結構造の結果と相関している。
【0079】
図17Aに示すように、アルミニウム合金からなる接触部材60及び錫めっき銅合金からなる被接触板70を使用したサンプル5は、接触部材60に対して荷重の増大に従って、接触抵抗は低下する。荷重を10N印加した状態で、接触部材60を摺動すると更に接触抵抗が低下する。そして、摺動後、荷重の減少に対し、接触抵抗の増加は小さい。つまり、接触部材60に対して荷重を印加しながら摺動させた際、突起部表面の酸化アルミニウム被膜が破壊され、真の接触面積が増大し、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の錫が凝着したと考えられる。そして、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の錫との凝着が維持されることにより、荷重を除荷しても接触部材60と被接触板70との間の接触抵抗の増大が小さくすることができる。このように、突起部によってアルミニウム合金と被接触板70の錫との凝着が促進されることにより、荷重が変動した場合でも低い接触抵抗を維持させることができる。
【0080】
また、アルミニウム合金の凝着の促進は、被接触板70に錫めっきがなくてもよい。
図17Bに示すように、アルミニウム合金からなる接触部材60及び銅合金からなる被接触板70を使用したサンプル6も、接触部材60に対して荷重の増大に従って、サンプル5と同様に、接触抵抗は低下する。荷重を10N印加した状態で、接触部材60を摺動すると更に接触抵抗が低下する。そして、摺動後、荷重の減少に対し、サンプル5と比較して接触抵抗の増大は大きいものの、荷重印加時と比較して低い状態を維持している。このことは、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の銅とが凝着したことを示唆している。そして、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の銅との凝着が維持されることにより、荷重を除荷しても、接触部材60と被接触板70との間の接触抵抗が荷重印加時と比較して低い状態を維持していると考えられる。このように、突起部によってアルミニウム合金と被接触板70の銅との凝着が促進されることにより、荷重が変動した場合でも低い接触抵抗を維持させることができる。
【0081】
図18は、サンプル5及び6において、摺動後の突起部を、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で観察した結果を示している。
図18では、さらに、サンプル5において、接触部材60を摺動させず、接触部材60を被接触板70に接触させて所定の荷重を印加したものを観察した結果も示している。
【0082】
図18に示すように、サンプル5では、アルミニウム合金からなる突起部の表面に錫が付着していることが確認できる。また、サンプル5において、接触部材60を摺動させることにより、突起部に錫がより多く付着することが確認できる。このことから、接触部材60に荷重を印加しながら摺動させることにより、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の錫が十分に凝着することが分かる。そして、
図17より、サンプル5は接触抵抗が低下していることから、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の錫との凝着により、接触抵抗が低下すると考えられる。
【0083】
同様に、
図18に示すように、サンプル6では、アルミニウム合金からなる突起部の表面に銅が付着していることが確認できる。このことから、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の銅とが凝着していることが分かる。そして、凝着により、
図17Bに示すように、サンプル6の除荷時の接触抵抗は、荷重印加時と比較して低い値を示す。すなわち、突起部のアルミニウム合金と被接触板70の銅との凝着により、接触抵抗が低下すると考えられる。
【0084】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 締結構造
20 第一被締結部材(バスバー)
20a 孔部
22 突起部
23 酸化被膜
30 第二被締結部材(端子)
40,50 締結部材(ボルト,ナット)