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特許7444867sp3結合型炭素材料、その製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】sp3結合型炭素材料、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20240228BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240228BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20240228BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/05
C01B32/26
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021517905
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-14
(86)【国際出願番号】 EP2019064233
(87)【国際公開番号】W WO2019233901
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】1809206.4
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520478895
【氏名又は名称】ポンティフィシア・ユニバーシダッド・カトリカ・マドレ・イ・マエストラ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス・ピアッサ
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】LUO, Zhiqiang et al.,Thickness-Dependent Reversible Hydrogenation of Graphene Layers,ACS NANO,2009年,Vol.3,No.7,pp.1781-1788
【文献】ELIAS, D.C. et al.,Control of Graphene's Properties by Reversible Hydrogenation: Evidence for Graphane,Science,2009年01月30日,Vol.323,pp.610-613
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C23C 16/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~10層のsp 3 結合型炭素の原子層を含む、結晶性sp3結合型炭素シートであって、少なくともシートの一部分が、ロンズデーライト、ダイヤモンド、又は別のダイヤモンドポリタイプ、又はこれらの構造の2つ若しくはそれ超の組合わせから選択される構造を有する、結晶性sp3結合型炭素シート。
【請求項2】
最大22Åの厚さを有する、請求項1に記載の結晶性sp3結合型炭素シート。
【請求項3】
電子的にドーピングされる、請求項1又は2に記載の結晶性sp3結合型炭素シート。
【請求項4】
1つ又は複数の、請求項1から3のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを含むスタック構造。
【請求項5】
複数の、請求項1から3のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを含むスタック構造。
【請求項6】
1次元材料、2次元材料、ナノチューブ、又はナノワイヤーから選択される材料を更に含む、請求項4又は請求項5に記載のスタック構造。
【請求項7】
1つ又は複数の、請求項1から3のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートと、グラフェンとを含むヘテロ構造。
【請求項8】
マトリックス材料と、1つ又は複数の、請求項1から3のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートとを含む複合材料。
【請求項9】
前記マトリックス材料が、ポリマー、半導体、セラミック、金属、又はその組合わせを含む、請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
数層グラフェン出発物質を提供する工程と、
前記数層グラフェン出発物質を、真空チャンバー及び供給ガス注入口を備える化学蒸着チャンバー内の基材上に配置する工程と、
前記数層グラフェン出発物質から、2~10層のsp 3 結合型炭素の原子層を含む、結晶性sp3結合型炭素シートに少なくとも部分的に変換するために、325℃又はそれより低い基材温度、及び100Torr又はそれより低い圧力において、前記基材上部に水素を含む供給ガスを流す工程と
を含む、結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法であって、
各シートの少なくとも一部分が、ロンズデーライト、ダイヤモンド、又は別のダイヤモンドポリタイプ、又はこれらの構造の2つ若しくはそれ超の組合わせから選択される構造を有する、方法。
【請求項11】
前記数層グラフェン出発物質が、2~10層の原子層グラフェンシートを含む、請求項10に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項12】
前記基材温度が、325~170℃である、請求項10又は請求項11に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項13】
前記供給ガスを流す工程が、5~100Torrの圧力で実施される、請求項10から12のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項14】
追加の供給ガスを前記基材上部に流す工程を含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項15】
前記供給ガスが、PH4、B2H6、BH3、SF6、F2、Br2、N2、H2S、NH4、B3N3H6、Ar、Heから選択されるガスを含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項16】
水素ガスが唯一の供給ガスである、請求項10から13のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項17】
追加の固体源を提供する工程を更に含む、請求項10から16のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項18】
前記化学蒸着チャンバーが、フィラメントを含み、及び前記フィラメントが、前記供給ガスが前記基材上部を流れる際に加熱されて、前記供給ガスの熱分解を促進する、請求項10から17のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項19】
前記フィラメントが、タングステン、レニウム、タンタル、及び白金からなる群から選択される材料を含む、請求項18に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項20】
前記基材の上部に供給ガスを流す工程が、6分~8時間実施される、請求項10から19のいずれか一項に記載の結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法。
【請求項21】
請求項10から20のいずれか一項に記載の方法に基づき生成された1つ又は複数の結晶性sp3結合型炭素シートを含むスタック構造を製造する方法。
【請求項22】
請求項10から20のいずれか一項に記載の方法に基づき生成された1つ又は複数の結晶性sp3結合型炭素シートを含むヘテロ構造を製造する方法。
【請求項23】
マトリックス材料と、請求項10から20のいずれか一項に記載の方法に基づき生成された1つ又は複数の結晶性sp3結合型炭素シートとを含む複合材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sp3結合型炭素に基づく材料、その製造方法及び使用、特に、非排他的であるが、超薄(数層)結晶性sp3結合型炭素材料、その製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
理論的な研究から、材料、例えば数層(few-layer)ダイヤモンドや、数原子層(FL)のロンズデーライト(或いはChernozatonskii等(2009)により「ダイヤマン(diamane)」と命名するように提案されている)からなる炭素材料等は、技術的に極めて有望であることが明らかにされている。ダイヤマンでは、sp3結合型炭素原子が六方格子内に配置されている。数原子層ロンズデーライトは、数層グラフェンのsp3混成カウンターパートとみなすことができる。本明細書では、二重層グラフェン(2LG)、三重層グラフェン(3LG)、及び数層グラフェン(FLG)にならい、それぞれ二重層ダイヤマン(2LD)、三重層ダイヤマン(3LD)、及び数層ダイヤマン(FLD)と呼ぶ。1LGはグラフェンを表す一方、1LDは、完全水素化グラフェン、すなわち、Elias等(2009)により最初に報告されたグラファン(graphane)として知られている材料を指すが、当業者は、その文献では、その中で公表されたラマンスペクトルで証明されるように、完全な水素化は達成されなかったと認識するであろう。ハロゲンの化学吸着を通じて、グラフェンからダイヤマンへの変移を化学的に誘発することが可能であり得るという提案(例えば、H. Touhara等(1987))がなされているが、しかし未だ実現していない:当業者は、ダイヤマン構造はこの文献中で証明されなかったと認識するであろう。
【0003】
コンピューターによる分析によれば、超薄結晶性sp3結合型炭素シートが、2LG又は3LGの「最上部」及び「最下部」表面での水素原子(又はフッ素原子)の化学吸着、並びにそれに続く中間層sp3-C結合形成により生成され得る[Chernozatonskii等(2009);Leenaerts等(2009);Zhu等(2011)]。別の可能性として、表面水素化(又はフッ素化)を通じた、金属表面上でのFLGからsp3炭素フィルムへの変換が挙げられよう。この場合、sp3ダングリング結合軌道と金属表面軌道との間の強い混成が、sp3結合型炭素層を安定化する[Odkhuu等(2013);Rajasekaran等(2013)]。しかしながら、当業者は、この教示を前提としても、実験的証拠の考察により証明されるように、このような材料は未だ製造されていないと認識する(以下で議論される)。更に、グラフェン材料の水素化についていくつかの方法が提案されているが、当業者は、そのような方法は超薄(数層)結晶性sp3結合型炭素シートをもたらさなかったことを認識するであろう。
【0004】
Elias等(2009)の文献では、部分的に水素化された1LG及び2LGを、自立膜の水素化から、又は低圧水素プラズマ内、SiO2/Siウェファー上の被支持材料から取得した。当業者は、その研究では、水素曝露時に何らかのFLDが形成されたことのエビデンスがまったく存在しなかったと認識するであろう。特に、ダイヤマンに由来する特性が、公表されたラマンスペクトルに認められなかった。電子回折パターンが一切提示されなかった。
【0005】
Luo等(2009)は、高周波(RF)水素プラズマ内、SiO2/Si基材上での1LG~4LGの水素化について研究した。当業者は、その研究において、水素プラズマ内でFLGを水素化した際に、何らかのFLDが形成されたエビデンスが存在しないことを認識するであろう。ダイヤマンに由来する特性が、公表されたラマンスペクトルに認められなかった。電子回折パターンが一切提示されなかった。
【0006】
Rajasekaran等(2013)は、原子クラッキング源を使用するFLG表面重水素吸着を通じて、FLGにおいて最大4層の炭素-炭素層間結合が形成され、Pt(111)基材上にダイヤモンド様の炭素層の薄層をもたらすことを報告した。構造的変換が、シンクロトロン分光技術(X線光電子・吸収及び発光分光法)を使用して試験された。しかしながら、当業者は、その研究では、結晶構造が証明されなかったと認識するであろう。ラマン分光法についても、また電子回折についてもその結果は報告されなかった。当業者は、Rajasekaran等の研究で得られた材料はsp3-Cに富んだ非結晶炭素、すなわちダイヤモンド様の炭素とも呼ばれる材料である正四面体非結晶性炭素であった可能性があると認識するであろう[J. Robertson(2002); F. Piazza(2006)]。
【0007】
例えば、熱フィラメント化学蒸着を含むいくつかの方法が、マイクロ結晶ダイヤモンド(MCD)及び/又はナノ結晶ダイヤモンド(NCD)フィルムを生成するのに使用されてきた。しかしながら、そのような方法を使用して作り出されたフィルムは比較的厚く、例えばMCDの厚さは数マイクロメーターである一方、NCDの厚さは数ナノメーターであり、また超薄(数層)シートを生成するそのような方法をスケールダウンすることはこれまで不可能であった。
【0008】
同様に、六方晶ダイヤモンド又はロンズデーライトを作り出すためのいくつかの公知の方法が存在する[例えば、米国特許第2015-0292107-A1号;米国特許第5243170A号;米国特許第3488153A号;日本国特許第2003117379A号;日本国特許第63104641A号;カナダ国特許第856198A号;カナダ国特許第928193A号;A Kumar等(2013)]。しかしながら、同様に、これらの方法のいずれも、超薄(数層)結晶性シートの製造に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第2015-0292107-A1号
【文献】米国特許第5243170A号
【文献】米国特許第3488153A号
【文献】日本国特許第2003117379A号
【文献】日本国特許第63104641A号
【文献】カナダ国特許第856198A号
【文献】カナダ国特許第928193A号
【文献】米国特許第9458017号
【非特許文献】
【0010】
【文献】F. Bonaccorso等、Materials Today、2012、15、564~589頁
【文献】A.C. Ferrari等、Nanoscale、2015、7、4598~4810頁
【文献】J. Robertson、“Diamond-like amorphous carbon"、Materials Science and Engineering. R 37、129~281頁(2002)
【文献】A.C. Ferrari, J. Robertson、Resonant Raman spectroscopy of disordered, amorphous, and diamond-like carbon、Physical Review B 64、075414(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
結論として、超薄(数層)結晶性(非アモルファス)sp3結合型炭素シート(ダイヤモンドシート又はダイヤモンドのその他のポリタイプを含むロンズデーライトシート等)の理論的概念は広範に議論されてきたが、現在利用可能な方法には限界があるため、そのような材料が実際に生成されたことはない。したがって、そのような材料の製造について、公的に利用可能な方法もやはり存在しない。特に、スケールアップし、そして様々な産業、例えばエレクトロニクス産業等の要件に適合させるのに適するそのような材料を製造するための公知の方法は存在しない。更に、文献において検討されたそのような材料に至る仮想的な経路の多くは、高温及び/又は高圧を使用するので、したがって、例えば、温度に敏感及び/又は圧力に敏感な材料及びデバイス上でそのような材料を製造するのには適さないことを示唆する。
【0012】
本発明は、上記検討に照らし考案された。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、第1の態様では、超薄結晶性sp3結合型炭素シートが提供される。
【0014】
ここでは、超薄は、10原子層以下の厚さを有するシートを一般的に指すのに使用される。例えば、シートは、2~10原子層(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10原子層)を含み得る。超薄結晶性sp3結合型炭素シート内の層数は、数層グラフェン(FLG)出発物質(超薄結晶性sp3結合型炭素シートのための前駆材料である)内の層数と同一であり得る。原子層とは、ここでは単原子層を一般的に指す。層数は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)を含む、但しこれらに限定されない、当技術分野において公知の任意の適する技術により測定され得る。
【0015】
したがって、シートは、約1Åから約22Åを含み、好ましくは2.9Å~22Åの厚さを有し得る。層厚は、結晶性sp3結合型炭素シートの結晶学的配向に応じて変化し得る。例えば、ダイヤモンドの場合、層は、例えば(111)結晶面において定義され得る。ロンズデーライトの場合、層は、例えば
【数1】
又は(0001)結晶面において定義され得る。
【0016】
結晶性とは、結晶格子を形成する規則正しい結晶構造で配置されている:すなわち、非結晶性ではないsp3結合型炭素原子をここでは意味する。結晶格子は立方晶であり得る(例えば、ダイヤモンド)。或いは、結晶格子は六方晶であり得る(例えば、ロンズデーライト)。場合によっては、結晶構造は、立方格子と六方格子との混合物であり得る。結晶構造は、任意の適する技術により検出され得る。そのような技術の例として、透過型電子顕微鏡(TEM)、電子回折法、電子エネルギー損失分光法(EELS)、及び/又はマイクロラマン分光法が挙げられる。
【0017】
Sp3結合型シートは、sp3結合型炭素原子の割合が50%を上回るシートを定義するのにここでは使用される。好ましくは、シート内の炭素原子の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は100がsp3結合型である。最も好ましくは、シート内の実質的にすべての炭素原子がsp3結合型である(換言すれば、最も好ましくは、シートは、sp2結合型炭素原子を一切含まない)。ラマン分析法を使用してsp3結合の程度を測定することが可能である。
【0018】
少なくともシートの一部分(例えば、好ましくは、シートの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%)は、ロンズデーライト(六方晶系ダイヤモンド)、ダイヤモンド、又は別のダイヤモンドポリタイプから選択される構造を有し得る。好ましくは、シート全体は、ロンズデーライト、ダイヤモンド、若しくは別のダイヤモンドポリタイプから選択される構造、又はこれらの構造の2つ若しくはそれ超の組合わせを有する。
【0019】
結晶性sp3結合型炭素に対する上記要件を満たすシートの面積、又はシートの領域の面積は、好ましくは少なくとも4μm2である。この面積は、シートの平面図の面積(例えばTEM又はSEM又はAFM又はラマン分光法を使用して測定可能)であるように意図されている。より好ましくは、この面積は、少なくとも10μm2、少なくとも20μm2、少なくとも50μm2、少なくとも100μm2、少なくとも200μm2、少なくとも400μm2、少なくとも600μm2、少なくとも800μm2、少なくとも1000μm2、又は少なくとも2000μm2である。
【0020】
上記議論の通り、数原子層(超薄)sp3結合型炭素、例えばロンズデーライト等は、数層グラフェンのsp3混成カウンターパートとみなすことができ、またダイヤマン又は数層ダイヤマン(FLD)としても公知である。特に、FLDの生成は特に有利であり得る。これは、コンピューターによる試験によれば、ダイヤマンは半導体の電子構造を示し、フィルム厚に応じて直接バンドギャップを有するためである。したがって、ダイヤマンは、ナノ電子アプリケーション及びバンドギャップエンジニアリングアプリケーションで使用するのに特に魅力的であり得る。特に、直接バンドギャップを有することから、ダイヤマンは、例えば活性なレーザー媒質としてナノ光学において使用される場合、魅力的であり得る。更に、ダイヤマンは、高い熱伝導度を有し得るが、それは、熱管理デバイスで使用される場合、特に魅力的なものにし得る。またFLDは、機械的に非常に強いとも予想され、それは、複合材料における超薄保護コーティング、超高強度コンポーネント、及びナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)にとってFLDを魅力的なものにする。更に、FLDは生体適合性を有すると期待されるので、バイオデバイス及びバイオセンサーにおいて有用な構造コンポーネントとなり得る。
【0021】
シートは電子的にドーピングされ得る。例えば、シートは、C格子内の窒素原子の置換により組み込まれた窒素-空孔(N-V)中心を含み得る。そのようなドーピングは、例えば量子コンピューティングで使用されるqbitを構成するために使用され得る。電子的ドーピングの形態に特に限定はなく、またその他の(例えば、非窒素)元素を用いたドーピングも、特定の用途、例えばナノエレクトロニクス等にとって望ましい場合もある。シートの電子的ドーピングは、H2供給ガスを、別の前駆ガス、例えばB又はPを含む前駆ガスと共に混合することにより達成され得る。
【0022】
シート(同様に、そのようなシートを作成するのに使用されるFLG出発物質)は、基材上に支持又はコーティングされ得る。シート(及びFLG出発物質)の少なくともいくつかが懸架される又は支持されない(例えば、FLG出発物質、したがって超薄結晶性シートが、TEMグリッドをまたいで懸架される膜として形成され得る)ように、基材は非連続的であり得る(例えば、孔を有するTEMグリッド)。シート(及びFLG出発物質)は自立的であり得る。シートが基材上に支持される/それでコーティングされる場合、基材は、例えばポリマー材料、半導体材料、金属材料、セラミック材料、又はデバイス構造を含み得る。有利には、本明細書に開示される方法で使用される温度及び圧力は低いので、従来技術を使用するコーティングにおいて過剰に温度感受性、及び/又は過剰に圧力感受性である材料又はデバイスの処理を可能にし得る。
【0023】
「最上部」及び/又は「最下部」の表面(すなわち、シートの基礎面の表面)は、水素原子と共有結合し得る。代替的又は付加的に、そのような表面は、周期表の第1族(例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、又はセシウム);周期表の第2族(例えばベリリウム、マグネシウム、又はカルシウム);遷移金属(例えばチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、パラジウム、銀、タングステン、白金、又は金);周期表の第13族(例えばホウ素、アルミニウム、ガリウム、又はインジウム);周期表の第14族(例えばシリコン、ゲルマニウム、錫、又は鉛);周期表の第15族(例えば、窒素、リン、砒素、アンチモン、又はビスマス);周期表の第1族列(例えば酸素又はイオウ);周期表の第17族(例えばフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素)に由来する1つ又は複数の原子と共有結合し得る。代替的又は付加的に、「最上部」及び/又は「最下部」の表面は、1つ又は複数のヒドロキシル基と共有結合し得る。
【0024】
上記記載のシートは、本発明の第5の態様に関連して下記に記載される方法により調製され得る。
【0025】
第2の態様では、1つ又は複数の、第1の態様に基づく超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含むスタック構造が提供される。スタック構造は、複数の、第1の態様に基づく超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含み得る。
【0026】
第3の態様では、1つ又は複数の、第1の態様に基づく超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含むヘテロ構造が提供される。ヘテロ構造は、複数の、第1の態様に基づく超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含み得る。
【0027】
スタック構造又はヘテロ構造は、1次元材料、2次元材料、ナノチューブ、又はナノワイヤーから選択される材料を更に含み得る。スタック構造又はヘテロ構造がナノチューブ及び/又はナノワイヤーを含む場合、それらはカーボンナノチューブ又はナノワイヤーであり得る。好適な2次元材料として、例えばグラフェンを挙げることができる。グラフェンと第1の態様に基づくシートを併せ持つスタック構造及び/又はヘテロ構造は、例えばトンネルデバイス、光学的直線導波路、高効率オプトエレクトロニックセンサー、リチウムバッテリー、及びスーパーキャパシターで使用される場合、魅力的であり得る。
【0028】
第4の態様では、マトリックス材料と、1つ又は複数の、第1の態様に基づく超薄結晶性sp3結合型炭素シートとを含む複合材料が提供される。そのような複合材料は、物理及び化学特性の改善、例えば熱酸化に対する安定性の改善、熱特性の改善、例えば熱伝導性の改善、機械的特性の改善、例えば硬度の増加、強靭性の増加、剛性の増加を含む、但しこれらに限定されない長所を提供し得る。
【0029】
マトリックス材料は、ポリマー、半導体、セラミック、金属、又はその組合わせを含み得る。超薄結晶性sp3結合型炭素シートは、マトリックス材料全体を通じて分散され得る。
【0030】
第5の態様では、
数層グラフェン出発物質を提供する工程と
前記数層グラフェン出発物質を、真空チャンバー及び供給ガス注入口を備える化学蒸着チャンバー内の基材上に配置する工程と、
前記数層グラフェン出発物質から超薄結晶性sp3結合型炭素シートに少なくとも部分的に変換するために、325℃又はそれより低い基材温度、及び100Torr又はそれより低い圧力において、前記基材上部に水素を含む供給ガスを流す工程と
を含む、超薄結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法が提供される。
【0031】
本明細書で開示される方法は、例えば、ロンズデーライトシート及びダイヤモンドシートを含む超薄結晶性sp3結合型炭素シートの製造に成功した最初の方法である。同方法は、比較的低コストであり、また複数のコンポーネントを有する複雑な装置の使用を回避する。また、同方法から生み出される廃棄物は比較的少ない。
更に、プロセスの比較的温和な条件(低温、低圧)に起因して、例えば温度感受性、さもなければ脆弱性の材料及びデバイス(より高い温度又は圧力のプロセスで使用するには適さない材料であり得る)上で、超薄結晶性sp3結合型炭素シートを直接作り出すことが可能である。
【0032】
更に、そのような温和なプロセス条件を使用すれば、例えばプラズマに基づくプロセス(結晶格子に対する望ましくない損傷の原因となり得るイオンの生成を引き起こす)との比較において、結晶格子の完全性を維持するのに役立つ。
【0033】
代替的態様では、
数層グラフェン出発物質を提供する工程と、
前記数層グラフェン出発物質を、真空チャンバー及び供給ガス注入口を備える化学蒸着チャンバー内の基材上に配置する工程と、
325℃又はそれより低い基材温度及び100Torr又はそれより低い圧力において、前記基材上部に供給ガスを流す工程であって、前記供給ガスが、前記数層グラフェン出発物質を、超薄結晶性sp3結合型炭素シートに少なくとも部分的に変換する能力を有する組成物を有する工程と、
を含む、超薄結晶性sp3結合型炭素シートを製造する方法が提供される。
【0034】
数層グラフェン(FLG)出発物質は、当業者にとって明白な任意の技術に従い取得可能、又は調製可能である。有用なプロセスとして、F. Bonaccorso等、Materials Today、2012、15、564~589頁; A.C. Ferrari等、Nanoscale、2015、7、4598~4810頁に記載され又はそこで引用されているプロセスが挙げられる。一般的に、グラフェンは、六方格子状に配置されている炭素原子からなる2次元原子結晶である。FLGは、いくつかの積層されたグラフェン層、一般的に2~6層から構成される。数層グラフェン(FLG)出発物質は、10未満の原子層グラフェンシートを含み得る。例えば、グラフェン出発物質は、2~6原子層グラフェンシートを含み得る。FLGは純粋な炭素から構成され得る。或いは、FLGは、1つ又は複数の微量元素、例えば窒素、ホウ素、酸素、及び水素、並びにその組合わせからなる群から選択される元素を含み得る。好ましくは、FLGは、少なくとも99%の炭素を含む。出発物質として使用されるFLGは、基材上で成長し得る又は支持され得る。或いは、FLGは自立性であり得る。FLGが基材上で成長する、又はそれにより支持される場合、該基材は、例えば銅又はその他の遷移金属、例えばニッケル、シリコン、シリコン酸化物、石英、又はポリマー等であり得る。付加的又は代替的に、基材はデバイス構造の一部分であり得る。付加的又は代替的に、基材は支持グリッドの一部分であり得る。FLGは、そのような基材上で直接成長し得る、又は該基材上に移され得る。場合によっては、FLGは、そのような基材上にパターンが形成されるような方式で、該基材において成長し得る、又は移され得る。或いは、FLGは、基材上にランダムに分散され得る。FLGは、数層グラフェンの個別のシートとして基材上に配置され得る。或いは、FLGは、FLGのシートの束として基材上に配置され得る。好ましくは、FLG出発物質は均質であり、均質性は各FLGシート内の層の数に関して検討される。換言すれば、好ましくは、FLG出発物質のシートの実質的にすべてが、同一数の層を有する。これは、例えば、透過型電子顕微鏡により確認可能である。最も好ましくは、FLG出発物質は、非常に均質な原初材料である。しかるべき均質性を有する出発物質を選択することにより、及びグラフェンシートのアライメントをコントロールすることにより、上記方法に基づき形成されるダイヤモンドポリタイプをコントロールすることが可能である。アライメントは、例えば電子回折解析法により推定可能である。
【0035】
好ましくは、プロセス終了時において、数層グラフェンは結晶性sp3結合型炭素シートに完全に変換される。しかしながら、いくつかの実施形態では、1つ又は複数の単原子グラフェン層は、変換後もそのまま存続する。FLG出発物質が部分的に変換されると、その結果、FLG又は1LG、及び第1の態様に基づくsp3結合型炭素シートを含むスタック構造が形成され得る。そのようなスタック構造は、例えば1、2、3、又は4つのグラフェンシート、及び例えば2、3、4、又は5つの結晶性sp3結合型炭素シートを含み得る。シートの正確な配置及び数は、特に限定されない。更に、シートの配置及び数は、任意の適する方法、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)及び関連する分析技法、例えば電子回折及び電子エネルギー損失分光法等により定量可能である。
【0036】
FLG出発物質の少なくとも一部分は、マスクにより被覆され得る。このように、被覆されないままの数層グラフェンの部分は超薄結晶性sp3結合型炭素シートに変換され得る一方、マスクにより被覆された部分は変換され得ない。したがって、パターン化したシートを生成することが可能である。
【0037】
化学蒸着チャンバーは、フィラメントを含み得る。そのようなフィラメントは、水素が基材上部を流れる際に加熱されて、供給ガスの熱分解及び/又は活性化を促進し得る。例えば、水素含有供給ガスからの水素解離。換言すれば、CVDチャンバーは熱フィラメントCVD(HFCVD)チャンバーとして構成され得る。フィラメントは、タングステン、レニウム、タンタル、及び白金、並びにその組合わせからなる群から選択される材料を含み得る。好ましくは、フィラメントは、タングステンワイヤー又はレニウムワイヤーである。フィラメントの数は、特に限定されない。実際、1超のフィラメント、例えば2、3、又は4つのフィラメントを有するのが好ましい場合もある。複数のフィラメントが使用される場合、フィラメントは、同一であっても、また異なってもよい(例えば、異なる材料から作成される)。好ましくは、複数のフィラメントが使用される場合、該フィラメントは同一の材料からなる。この場合、均質性がより良好な結果をもたらすことができる。フィラメントが異なる材料からなる場合、異なる電気抵抗を一般的に有し、したがって異なる温度において作動する可能性がある。フィラメントはフィラメント支持体により保持され得る。
【0038】
HFCVDが使用される場合、フィラメントの温度は、具体的なフィラメント材料及び実施されるプロセスを前提として適切に選択され得る。フィラメント温度は、約1800℃を上回る、約1900℃を上回る、約2000℃を上回る、約2100℃を上回る、約2200℃を上回る、約2300℃を上回る、約2400℃を上回る、又は約2500℃を上回る可能性がある。好ましくは、フィラメント温度は、水素解離を実現するのに十分高くなるように選択される。好ましくは、フィラメント温度は、基材の温度が望ましくないレベルまで上昇しないほどに十分低く選択される。フィラメント温度は、フィラメント電流を周知の方法で変化させることによりコントロール可能である。フィラメント温度は、例えば二波長パイロメーターを使用して測定され得る。
【0039】
数層グラフェン(FLG)出発物質の温度は、FLGが配置される基材の温度、及びフィラメントから基材までの距離をコントロールすることによりコントロールされる。したがって、冷却システムが、装置の一部分を保持する基材に組み込まれ得る。基材温度は、約325℃未満若しくはそれに等しい、約300℃未満若しくはそれに等しい、約250℃未満若しくはそれに等しい、約200℃未満若しくはそれに等しい、又は約170℃未満若しくはそれに等しい可能性がある。好ましくは、基材温度は、約170℃~325℃、例えば170~300℃、170~275℃、170~250℃、170~225℃、又は170~200℃である。基材温度が325℃よりも高い場合、FLG出発物質の望ましくないエッチング、又は超薄結晶性sp3結合型炭素シートの水素化された表面からのHの離脱が起こり得る。基材温度は、接触熱抵抗の効果及び熱電対先端部の厚さを考慮しながら、例えば基材の表面に位置する熱電対を使用して測定され得る。
【0040】
したがって、変換プロセス期間中のFLGの温度は、約325℃未満若しくはそれに等しい、約300℃未満若しくはそれに等しい、約250℃未満若しくはそれに等しい、約200℃未満若しくはそれに等しい、又は約170℃未満若しくはそれに等しい可能性がある。好ましくは、FLG温度は、約170℃~325℃、例えば170~300℃、170~275℃、170~250℃、170~225℃、又は170~200℃である。
【0041】
好ましくは、プロセスは、低~中程度の減圧化で実施される。したがって、供給ガスを流す工程は、約100Torr未満、約75Torr未満において、又は約50Torr未満の圧力において実施され得る。好ましくは、最低圧は約5Torrである。したがって、圧力は、約5~約100Torr、約5~約75Torr、又は約5~約50Torrであり得る。約100Torr未満の圧力を提供すれば、Hの望ましくない再結合を防止するのに役立ち得る。約5Torrを上回る圧力を提供すれば、フィラメント温度及び基材温度の望ましくない増加を防止するのに役立ち得る。
【0042】
供給ガスは、単一の供給ガスであり得る。或いは、複数の供給ガス、又は供給ガスの混合物が使用され得る。任意の適する水素含有ガス、例えば、H2、H2S、NH4、B3N3H6、B2H6が、単独で、又は組み合わせて使用され得る。好ましくは、供給ガスは二原子水素(H2)を含む。最も好ましくは、水素(H2)ガスは唯一の供給ガスである。複数の供給ガス又は供給ガスの混合物が使用される場合、供給ガスは、非水素ベースのガス、例えば、N2、F2、Br2、Ar、又はHeを更に含み得る。
【0043】
供給ガスの流速は、特に限定されず、また所定の供給ガス及び実施されるプロセスを前提として、適宜選択され得る。しかしながら、流速は、1分間当たり約250標準立方センチメートル(sccm)未満、約200sccm未満、約150sccm未満、約100sccm未満、約75sccm未満、約50sccm未満、又は約25sccm未満であり得る。流速は、1~250sccm、1~200sccm、1~150sccm、1~100sccm、1~75sccm、1~50sccm、又は1~25sccmであり得る。
【0044】
追加の固体源が、超薄結晶性sp3結合型炭素シート中に1つ又は複数の選択された元素を組み込むために提供され得る。固体源は、FLG基材近傍に配置され得る。こうして、固体源は、CVD装置の稼働期間中に水素エッチングに晒される可能性があり、したがって固体源に由来するエッチングされた材料がグラフェン及び/又はsp3-Cに組み込まれる。
【0045】
基材上部に供給ガスを流す工程は、数層グラフェンの水素化、及び後続する数層グラフェンから数層結晶性sp3結合型炭素への変換を実現するのに十分長い時間実施されるべきである。したがって、流れは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25分間、又はそれより長く維持され得る。場合によっては、流れは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8時間、又はそれより長く維持される。時間がより長ければ、FLGから数層結晶性sp3結合型炭素へのより完全な変換を引き起こすことができる。しかしながら、それは最大コスト及び材料消耗をもたらす結果ともなり得る。したがって、時間は、これら2つの要因のバランスを保ちながら適宜選択されるべきである。
【0046】
第6の態様では、第5の態様の方法に基づき生成された超薄結晶性sp3結合型炭素シートが提供される。
【0047】
第7の態様では、第5の態様の方法に基づき生成された1つ又は複数の超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含むスタック構造が提供される。
【0048】
第8の態様では、第5の態様の方法に基づき生成された1つ又は複数の超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含むヘテロ構造が提供される。
【0049】
第9の態様では、マトリックス材料と、第5の態様の方法に基づき生成された1つ又は複数の超薄結晶性sp3結合型炭素シートとを含む複合材料が提供される。
【0050】
上記記載の材料及び方法は、多種多様な消費者及び工業製品を対象に、半導体、電子デバイス(例えば、コンピューター、携帯電話等)を利用する技術、遠距離通信デバイス、及び医療デバイスを含む、但しこれらに限定されない用途を見出し得る。
【0051】
したがって、ナノエレクトロニクス、トランジスター、集積回路、電界放射及びその他の電子デバイス、電場シールド、熱管理デバイス、量子コンピューター、量子コンピューティングデバイス、光子デバイス、スピントロニックデバイス、保護コーティング(耐摩耗性コーティングを含む)、機能的複合材料、マイクロ及びナノエレクトロメカニカルシステム(NEMS)、バイオデバイス、及びバイオセンサー、医療デバイス、化学センサー、トンネルデバイス、光学(直線)導波管、オプトエレクトロニックセンサー、活性なレーザー媒質(ゲイン/レージング媒体)、リチウムバッテリー、及びスーパーキャパシターを含む、但しこれらに限定されない、本発明の様々な態様に関連して上記したような超薄結晶性sp3結合型炭素シートを含む様々な製品が本明細書に提示される。
【0052】
更に、本発明の様々な態様に関連して上記したような超薄結晶性sp3結合型炭素シートでコーティングされた様々な製品(ポリマー材料及び半導体材料を含む、但しこれらに限定されない)が本明細書に提示される。
【0053】
本発明には、記載された態様及び好ましい特性の組合わせが含まれるが、但しそのような組合わせが明らかに容認されない又は明示的に回避される場合を除く。
本発明の原理を例証する実施形態及び実験が、添付の図面を参照しながらここで議論される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】本発明に基づく1方法で使用される熱フィラメント化学蒸着(HFCVD)システムの概略図を示す図である。
図2】本発明に基づき超薄結晶性sp3炭素シートに変換された数層グラフェンの、C-H伸縮バンドの積分強度に関して処理された、例示的なFTIR-ATR顕微鏡画像を示す図である
図3図2の白色矢印により特定される領域において取得された、例示的な吸収FTIRスペクトルを示す図である。図4図8は、数層グラフェンの変換により形成された、本発明の実施形態の異なる領域のUVラマンスペクトルを示す。
図4】本発明に基づき、数層グラフェンの変換から作り出されたロンズデーライトシートのUVラマンスペクトルを示す図である(励起波長244nm)。ロンズデーライトピークは、約1323.1cm-1に中心を有する。
図5】本発明に基づき、低数層グラフェン温度での数層グラフェンの変換から作り出されたグラフェン-ロンズデーライトシートスタック構造のUVラマンスペクトルを示す図である(励起波長244nm)。ロンズデーライトピークは、約1323.3cm-1に中心を有する。
図6】本発明に基づき、数層グラフェンの変換から作り出されたグラフェン-ロンズデーライトシートスタック構造のUVラマンスペクトルを示す図である(励起波長244nm)。ロンズデーライトピークは、約1323.4cm-1に中心を有する。
図7】本発明に基づき、数層グラフェンの変換から作り出された超薄のダイヤモンドシートのUVラマンスペクトルを示す図である(励起波長244nm)。ダイヤモンドピークは、約1333.1cm-1に中心を有する。
図8】本発明に基づき、数層グラフェンの変換から作り出されたグラフェン-ダイヤモンドシートスタック構造のUVラマンスペクトルを示す図である(励起波長244nm)。ダイヤモンドピークは、約1330.1cm-1に中心を有する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
米国特許第9458017号、Piazza、2015年に記載されるように、本発明者らは、ナノ結晶ダイヤモンド薄層を成長させるための、並びに低基材温度におけるダイヤモンド及びシリコンカーバイドナノ結晶により、カーボンナノチューブの束をコンフォーマルコーティングするための、熱フィラメント化学蒸着(HFCVD)の使用についてこれまで調査を行ったが、本明細書に提示される組成物及び方法は、その調査に一部基づく。
【0056】
本発明の好ましい実施形態は、検出可能な超薄結晶性sp3結合型炭素シートを製造するまでの単純且つ効率的な経路を実証する。より好ましい実施形態では、シートは、ロンズデーライト結晶構造若しくはダイヤモンド結晶構造、又はこれら2構造の組合わせを有する。
【0057】
本発明の好ましい方法は、そのような材料を製造するのにHFCVDを使用する。HFCVDの使用は、その実施の単純性及び容易性に起因して特に有利であり得る-原子水素の生成効率を理由に、これまで、HFCVDがマイクロ結晶及びナノ結晶ダイヤモンドフィルムを製造するためのいくつかのプロセスで使用されてきた[M.A. Prelas等(1998); J.E. Butler等(2008); J. Zimmer.等(2006)]が、原子水素は、H2中の炭化水素の希薄混合物から、低圧力において、準安定性のダイヤモンドを通常合成する場合に重要な役割を演ずることが明らかにされている[M.A. Prelas等(1998); M. Frenklach等(1991); J. Stiegler等(1997); S. A. Redman等(1999)]。HFCVDプロセスが使用されるとき、原子水素Hが、熱フィラメント表面上でのH2の熱分解により不均一に生成され、次にそれはバルクガス中に急速に拡散する。H再結合反応は、本発明で使用されるプロセス圧力において十分に低速であるので、原子Hの多くはリアクター壁まで拡散する。原子Hは、リアクターのほぼ全体にわたり超平衡濃度で存在する。HFCVDプロセスは、例えば低圧プラズマ技術との比較において、基材に向かって加速したイオンの存在量を有利に低下させる。したがって、高運動エネルギーイオン(水素化プロセスに関与するのではなく、シートをエッチングする傾向を有する)の生成が阻害されるので、グラフェン出発物質及び/又は結晶性sp3結合型炭素シートに対する損傷は減少し得る又は回避され得る。
【0058】
図1は、本発明に基づく1方法で使用される熱フィラメント化学蒸着(HFCVD)システムの概略図を示す。装置100は、供給ガス用の注入口3(矢印で示す)、真空ポンプに至るアウトレット4、およそ1cmの間隔を置いて、基材支持体9により保持された基材7(ここでは、垂直に位置するTEMグリッドであり、その上にFLGが配置されている)のいずれかの側に位置する2つのフィラメント5(一般的にタングステン又はレニウムワイヤー)を有する真空チャンバー1を備える。この概略図では、グリッドは垂直に配置されているが、或いは数層グラフェングリッドは、基材支持体上に水平に、又は基材支持体に対してある角度で配置可能である-換言すれば、グリッドは、基材支持体に対して0~90°の角度で配置され得る。
【0059】
基材支持体は基材ホルダー11上に配置されるが、基材ホルダー11は、液体冷却システム(見えない)と熱電対13とを備え、熱電対13は、HFCVDシステムの稼働期間中に、基材温度を検出して、基材温度の監視及びコントロール(例えば、基材ホルダー内の冷却システムの稼働により)を可能にするために、基材7の間近に隣接して配置される。基材ホルダー11は、真空チャンバー1内で垂直に移動可能である。これは、実施されるプロセスに応じて、適宜、基材がフィラメント5により接近する、又はそれから遠ざかるように移動するのを可能にする。
【0060】
基材上のFLGの温度が約325℃又はそれより低くなるように、基材7の温度は、325℃又はそれより低くなるようにコントロールされる。
【0061】
供給ガス(ここではH2)は、1~250sccmの流速で真空チャンバーに流入する。同時に、真空ポンプは、100Torr又はそれより低い圧力に真空チャンバー内の圧力を維持するように操作される。ガスの流れは、例えばマスフローコントローラーにより、当業者にとって周知の方式で制御され得る。圧力は、例えば基材ホルダーの下部に位置する自動バルブにより制御され得る。
【0062】
供給ガスを基材上部に流す工程は、基材上に配置された数層グラフェンを、超薄結晶性sp3結合型炭素シートに少なくとも部分的に変換するのに十分な時間実施される。FLGは、数層グラフェンの水素化と、後続する数層グラフェンから数層結晶性sp3結合型炭素への変換により変換される。そのような数層グラフェンの水素化は、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法及び顕微鏡検査法により検出可能である。
【0063】
超薄結晶性sp3結合型炭素シートの正確なコンフィギュレーション(層数、結晶構造等)は、いくつかの方法により検出可能及び/又は分析可能である。例えば、そのようなシートは、可視又は紫外(UV)ラマン分光法;透過型電子顕微鏡検査法(TEM);電子回折法(ED);又は電子エネルギー損失分光法(EELS)から選択される1つ又は複数の技術を使用して分析され得る。
【0064】
特に、生成した材料の結晶化度を決定する場合、ラマン分光法は、その単純性に起因して特に有用な技術である。結晶構造は、材料の様々な振動モードに対応する、明確でシャープ且つ際立ったピークを一般的に示す。比較として、非結晶性炭素シートのラマンスペクトル(例えば、ta-C又はダイヤモンド様炭素)は、ブロードで重複した2つのバンド(D及びGバンド)を一般的に示す。ta-C(四面体sp3非結晶性炭素)から得られる代表的なラマンスペクトルの例は、J. Robertson, “Diamond-like amorphous carbon"、Materials Science and Engineering. R 37、129~281頁(2002)の図48に認めることができる。本発明に基づき生成された材料に関連して以下で議論されるラマンスペクトルと比較する場合、関連するスペクトルは、励起波長244nmにおいて取得されたスペクトルである。
【実施例
【0065】
(実施例1)
入手した市販の化学蒸着(CVD)グラフェンフィルムをそのまま3mm超微粒銅透過型電子顕微鏡(TEM)グリッド(2000メッシュ)上に配置し、それをグラフェン材料として使用した(Graphene Supermarket社より入手、SKU # SKU-TEM-CU-2000-025)。Ni基材上、1000℃において、グラフェンをCH4からCVDにより成長させ、そしてW. Regan等(2010)に記載されるように、汚染を最低限に抑えるために、ポリマーフリーの移送法を使用して市販のTEMグリッドに移した。CVDグラフェンフィルムの厚さは、0.3~2nm(単層1~6層)であった。TEMグリッドの代表的なグラフェン被覆率は60~90%である。
【0066】
Blue Wave Semiconductors社から入手した市販のHFCVDシステム(BWI1000モデル)を、水素化、及び後続する数層グラフェンから超薄結晶性sp3結合型炭素シートへの構造変換に使用した。このシステムの概略図を図1に示し、また上記した。
【0067】
リアクターは、6方クロスステンレススチール真空チャンバーである。リアクターは、アルミニウムフォイルで覆われたロウ付け銅チューブを用いて流体冷却される(18℃の15%水、75%グリコール)。リアクターは、1~3本の直径0.5mm、直線状の金属ワイヤーを収容するモリブデンフィラメントカートリッジを備える。一般的に、タングステン又はレニウムワイヤーが使用される。この実施例では、タングステンを使用した。一般的に長さ5.7cmの2本のワイヤーが、1cm間隔で使用される。基材を、可動性の流体冷却された直径5cmのサンプルステージ上に配置した。数層グラフェングリッドを基材ホルダー上に垂直に配置し、そして2つの(100)シリコン片(厚さ500~550μm、14mm×14mm)で挟んで、操作中その位置を一定に保った。
【0068】
基材温度及び数層グラフェンの温度を、フィラメント前方に位置する基材ホルダー表面の最上部に置かれた熱電対チップにより推定した。合成前に、炭化水素油ポンプで補助されたターボ分子ポンプを使用して、4×10-4mbar未満までHFCVDシステムを減圧した。
【0069】
水素化では、超高純度(UHP)H2ガス(純度約99.999%)が、チャンバー最上部に位置するステンレススチールチューブを経由してチャンバーに導入された唯一のガスであった。Omega質量流量コントローラーによりガス流量を制御した。圧力Pを、基材ホルダー下方に位置する自動バルブにより制御した。フィラメント温度TFを、二色パイロメーター(Mikron Infrared, Inc.社製M90R2モデル)を用いて監視した。圧力及び流量は、それぞれ50Torr及び1sccmであった。フィラメント温度を安定化させるために、HFCVDによりダイヤモンドを通常通り成長させる必要から、合成の前に、浸炭又はコンディショニングを目的として、タングステンフィラメントを活性化炭化水素ガスに曝露することはしなかった。これは浸炭されたフィラメントからの炭素汚染を回避するためであった。基材ホルダーとフィラメントとの間の距離dは、22.8mmであった。両フィラメントの電流を55Aに一定に保ち、その結果、フィラメント温度は2330℃となった。得られた基材ホルダー温度は約300℃であった。TEMグリッド基材がフィラメントに対してより近く接近していることから、最大数層グラフェン温度は約325℃であった。水素化プロセスの期間は6分20秒であった。
【0070】
材料分析及び方法
水素化前後の材料構造を調べるのに、多波長ラマン分光法(RS)を採用した。ラマンスペクトルを、Arイオンレーザーの244,488、及び514.5nmラインを使用して、Renishaw InVia Reflex spectrometer Systemにより、無収差シングルパススペクトログラフで記録した。可視光では、対物×50及び×100を使用した。UVでは、対物×40を採用した。サンプルに対するレーザー出力及び捕捉時間を、サンプルに改変を一切加えることなく、最適なシグナルが取得されるように調整した。測定中に、目に見える損傷及びスペクトル形状変化は観測されなかった。シリコン及び高配向パイログラファイト(HOPG)をピーク位置キャリブレーションに使用した:シリコンは可視光照射により励起したスペクトル用、及びHOPGは深UV照射により励起したスペクトル用であった。数百個の数ミクロン角において、高精細2D化学画像を生成するために、ハイスピードコード化マッピングステージ及び1"CCDを使用するラマンマッピングを採用した。C-H結合を、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法を使用して直接検出した。64×64焦点面アレイ(FPA)テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器を装備するCary620 FTIR顕微鏡と連結したAgilent Technologies社製Cary670 FTIR分光光度計を用いて、FTIR画像及びスペクトルを記録した。内反射体としてゲルマニウム結晶を用いた減衰全反射(ATR)モードを採用した。
【0071】
図2は、C-H伸縮バンドの積分強度に基づき処理したFTIR-ATR画像を示す。HFCVDにより活性化されたH2ガスに曝露された、TEMグリッドメッシュ近傍にあるTEMグリッド材料上で画像を取得した。処理前、グリッドのこの領域は、ラマン分光分析法により証明されるように数層グラフェンを含有する。図2より、C-H結合を含む数ミクロン角の大型化したエリア(直径最大約10μm)が明らかであり、グラフェンドメインの端部内だけでなく、グラフェンの基礎面においても水素化が生じたことを示唆している。
【0072】
図3は、図2の白矢印により特定される領域内で採取された2つの吸収スペクトル(明確にするため互いに縦方向にずらしてある)を示す。図3は、C-H伸縮バンド(約2844cm-1に中心を有する)は、9つの考え得る振動モードコンポーネントのうちのただ1つのコンポーネントから構成されることを示している。本発明者等は、このモードは、C(sp3)-H伸縮モードに対応すると考える。この仮説は下記の主張に基づく:
1. 2800~2900cm-1の波数範囲内の自由分子内の振動モードを考慮すれば、下記の振動モードを検出するものと予想される:約2900cm-1に中心を有するC(sp3)-H、約2875cm-1に中心を有するC(sp3)-H2対称、及び約2850cm-1に中心を有するC(sp3)-H3対称。しかしながら、水素化された数層グラフェン及び超薄結晶性sp3結合型炭素シートでは、C-H伸縮振動モードの赤外吸収断面は不明であるものの、C(sp3)-H2対称モード及びC(sp3)-H3対称モードはその非対称カウンターパートと同時に検出されるものと予測されるが、観測されたC-H伸縮バンドはただ1つの振動モードコンポーネントから構成されるので、その予測は事実に反する。したがって、(sp3)-H2対称及びC(sp3)-H3対称モードは除外される。
2. C(sp2)-Hオレフィンモード及びC(sp2)-H芳香族モードは、自由分子のケースを考慮すれば、2975cm-1を上回るかなり高めの波数において一般的に検出されるので、これらのモードは検討されない。
3. C2H2オレフィン対称モード及び非対称モードも、自由分子のケースを考慮すれば、2950cm-1を上回る有意に高めの波数において一般的に検出される。更に、これらのモードにはその非対称/対称カウンターパートが付随するはずであるが、観測されたC-H伸縮バンドはただ1つの振動モードコンポーネントから構成されるので、この場合も事実に反する。
【0073】
自由分子内の対応する位置と比較して、C(sp3)-Hモードピーク位置のシフト(約56cm-1)は、数層グラフェンの水素化、後続するsp2混成からsp3混成への変換、及び中間層sp3-C結合形成により生み出された応力に起因するものと理論付けられる。
【0074】
狭い1コンポーネントのC-H伸縮バンドから、炭素原子は1つの水素原子に結合していることが明らかである。この1コンポーネントの狭いC-H伸縮バンドは、水素化グラフェンについてこれまで一切報告はなかった。水素化グラフェンのFTIR分光分析に関する開示が知られており、その開示は、C(sp3)-Hモードの代わりにC(sp3)-H3モードを含むマルチコンポーネントのC-H伸縮バンドについて報告するが、その報告は、サイズが低下したグラフェンドメイン(その端部においてのみ水素化されている)と一致する。比較として、ここに示す1コンポーネントの狭いC-H伸縮バンドは、大型化した水素化グラフェン面を代表する。
【0075】
したがって、図2及び図3の両図は、C-H結合の直接検出による数層グラフェンの水素化を確認する。
【0076】
図4は、本発明に基づき、数層グラフェンの水素化、及び後続する低数層グラフェン温度における中間層sp3-C結合形成から作り出されたロンズデーライトシートの例示的UVラマンスペクトルを示す。スペクトルは、FTIR顕微鏡検査法により分析された領域の近傍において(図2及び図3)、また自立型グラフェンが当初位置していたTEMグリッドメッシュにおいても得られる。
【0077】
図4に示すスペクトルは、水素化プロセスの前に取得されたスペクトルとは異なり、C-C sp2振動に起因する約1582cm-1におけるGピークから構成される。図4に示すスペクトルは2つのシャープなピークを示し、それぞれ約1063.0cm-1及び約1323.1cm-1に中心を有する。2つのピークの半値全幅は、それぞれ約15.6cm-1及び30.2cm-1である。約1063.0cm-1に中心を有するピークは、C-C sp3振動に起因するTピークであり、低強度及びブロードバンドとして非結晶性炭素フィルムに見出される(A.C. Ferrari, J. Robertson、Resonant Raman spectroscopy of disordered, amorphous, and diamond-like carbon、Physical Review B 64、075414(2001))。ここでは、Tピークは、幅が狭く高強度であり、材料内のsp3-Cの構造は結晶性であることを示している。約1323.1cm-1に中心を有するピークは、ロンズデーライトピークである(Eg振動モード)[D.C. Smith等(2009); Y.G. Gogotsi等(1998); L.A. Chernozatonskii等(2012)]。
【0078】
非結晶性炭素では、材料の非結晶性構造を理由にTピークのFWHMは幅広い。ロンズデーライトでは、材料の結晶構造を理由に、FWHMはかなり狭めである。ロンズデーライトピークのFWHM値は、数原子層における閉じ込め効果を表している。ラマンスペクトルではC-C sp3振動及びロンズデーライトが検出され、FTIR C-H伸縮バンド内で1コンポーネントのみが検出されたことと整合する(図2及び図3)。結果は、ロンズデーライトは、自立型数層グラフェンから、又は銅基材上の数層グラフェンから作り出されることを示している。
【0079】
グリッドのいくつかの領域では、メッシュ上及びグリッド材料上において、図4で観測され、C-C sp3振動とロンズデーライトに帰属されたピークが、図5及び図6に示すように、約1582cm-1のグラフェンピークと同時に検出される。これは、グラフェン-ロンズデーライトスタック構造を作り出すことが可能であることを示す。図5に示すスペクトルでは、1061.6cm-1(FWHM 17.3cm-1)においてTピーク、1323.5cm-1(FWHM 30.9cm-1)においてロンズデーライトピーク、及び1582.5cm-1(FWHM 26cm-1)においてGピークが検出される。図5では、Tピーク及びロンズデーライトピークの高さは、Gピークの高さの少なくとも2倍である。図6に示すスペクトルでは、1062.4cm-1(FWHM 26.5cm-1)においてTピーク、1323.4cm-1(FWHM 34.6cm-1)においてロンズデーライトピーク、及び1580.8cm-1 (FWHM 22.2cm-1)においてGピークが検出される。図6では、Gピークの高さは、Tピーク及びロンズデーライトピークの高さよりも数倍高い。本発明者等は、sp2C及びsp3Cと関連するピークの相対的強度の変動は、スタック配列内のsp2Cのsp3Cに対する比を示唆し得るものと仮定する。
【0080】
図7は、本発明に基づき、数層グラフェンの水素化、及び後続する低数層グラフェン温度における中間層sp3-C結合形成から作り出されたダイヤモンドシートの例示的UVラマンスペクトルを示す。スペクトルは、TEMグリッドメッシュ近傍にあるTEMグリッド材料の表面上、また自立型数層グラフェンが当初位置したTEMグリッドメッシュ内でも得られる。図7に示すスペクトルは、水素化プロセスの前に取得されるスペクトルとは異なり、C-Csp2振動に起因する約1582cm-1におけるGピークから構成される。図7に示すスペクトルは、2つのシャープなピーク:約1068.0cm-1に中心を有するTピーク、及び約1331.3cm-1に中心を有するダイヤモンドピークをそれぞれ示す。これら2ピークの半値全幅は、それぞれ約14.4cm-1及び32.7cm-1である。ダイヤモンドピークのFWHM値は、数原子層における閉じ込め効果を表している。
【0081】
グリッドのいくつかの領域では、メッシュ上及び材料グリッド上において、Tピーク及びダイヤモンドピークは、図7のスペクトルに示すように、約1582cm-1のグラフェンピークと同時に検出される(図8)。これは、グラフェン-ダイヤモンドスタック構造を作り出すことが可能であることを示している。図8に示すスペクトルでは、1066.5cm-1(FWHM 11.8cm-1)においてTピーク、1330.1cm-1(FWHM 36.3cm-1)においてダイヤモンドピーク、及び1581.9cm-1(FWHM 25.5cm-1)においてGピークが検出される。図8では、ダイヤモンドピーク及びGピークの高さは類似している。
【0082】
結論
要約すると、超薄ダイヤモンドシートを含む、及び超薄ロンズデーライトシートを含む、超薄結晶性sp3結合型炭素シートを取得する新規プロセスが開発されたが、これらのシートは、325℃未満~約170℃という低グラフェン温度及び基材温度、並びに100Torr未満~約5Torrという低圧における数層グラフェンの水素化及び後続する中間層sp3-C結合形成に由来する新しいナノ物質である。
【0083】
超薄ダイヤモンドシートを含む、及び超薄ロンズデーライトシートを含む、超薄結晶性sp3結合型炭素シートの合成は、数層グラフェンをHFCVDにより活性化された純粋なH2に曝露することにより、初めてその実証に成功した。本発明者等は、グラフェン層の相対的配向に応じて、及びエネルギー的に好ましいとき、元素、例えば水素等のグラフェン面への化学吸着が、この分野におけるこれまでの理論的研究と整合して、超薄結晶性sp3結合型炭素シート構造の形成に必要とされる中間層sp3-C結合形成を引き起こすものと理論付ける。
【0084】
数層グラフェンのいくつかの面について、そのエリアが水素に広く曝露されると水素化され、そして炭素原子は1つの水素原子に結合する。シートの数は一般的に2~6であるが、しかし最大例えば10であり得る。
【0085】
プロセス期間中の数層グラフェン及び基材の温度は約325℃である。この方法は、超薄ダイヤモンドシートを含む、及び超薄ロンズデーライトシートを含む、超薄結晶性sp3結合型炭素シートの大量生産に適する。新たなプロセスは、グラフェンと超薄結晶性sp3結合型炭素シートとからなるヘテロ構造を取得するのにも使用可能である。
【0086】
この方法から作り出されたこれら超薄結晶性sp3結合型炭素シートの潜在的用途として、トランジスター及び集積回路における受動的又は能動的コンポーネント、熱管理デバイス、電場シールドのコンポーネント、電界放射デバイスのコンポーネント、量子コンピューティングデバイスのコンポーネント、マイクロエレクトロメカニカルシステム用の構成材料、ナノエレクトロメカニカルシステム用の構成材料、超薄保護コーティングのコンポーネント、耐摩耗性コーティングのコンポーネント、複合材料のコンポーネント、トンネルデバイスのコンポーネント、光学的直線導波路のコンポーネント、リチウムバッテリーのコンポーネント、スーパーキャパシターのコンポーネント、バイオデバイスのコンポーネント、センサーのコンポーネント、バイオセンサーのコンポーネント、活性なレーザー媒質のコンポーネント、及びオプトエレクトロニックセンサーのコンポーネントが挙げられるが、しかしこれらに限定されない。
【0087】
上記説明において、又は下記の特許請求の範囲において、又は添付図面において開示された特性は、その特別な形態で、或いは開示される機能、又は開示される結果を取得するための方法若しくはプロセスを実施するための手段に関して、適宜表現されているが、それらは、個別に、又はそのような特性の任意の組み合わせで、本発明を実現するために、その多様な形態で利用され得る。
【0088】
本発明は、上記記載の代表的な実施形態と関連して記載されてきたが、多くの等価な修正形態及び変形形態も、本開示を踏まえれば当業者にとって明白である。したがって、上記記載された本発明の代表的な実施形態は、限定的ではなく例証的と考えられる。記載された実施形態に対する様々な変更が、本発明の精神及び範囲から逸脱せずになし得る。
【0089】
あらゆる疑義を排除するためであるが、本明細書に提示された理論的説明のいずれも、読者の理解向上目的で提供されている。本発明者等は、これらの理論的説明のいずれにも拘束されるつもりはない。
【0090】
本明細書で使用される任意のセクションの表題は、構成上の目的に限定され、記載されている主題を限定するものとはみなされないものとする。
【0091】
本明細書全体を通じて、下記の特許請求の範囲を含め、文脈が別途要求する場合を除き、単語「~を含む(comprise)」及び「~を含む(include)」、並びに変化形、例えば「~を含む(comprises)」、「~を含むこと(comprising)」、及び「~を含むこと(including)」等は、記載された整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群の組入れを意味するが、しかし任意のその他の整数若しくは工程、又は整数若しくは工程の群の除外を意味するものではないと理解される。
【0092】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」には、文脈が明確に別途指示しない限り、複数形の指示物が含まれることに留意しなければならない。範囲は、明細書では、「約」1つの特定値から、及び/又は「約」別の特定値までとして表現され得る。そのような範囲が表現されるとき、別の実施形態は、1つの特定値から、及び/又は別の特定値までを含む。
同様に、先行詞「約」の使用により、数値が近似として表わされるとき、特定値は別の実施形態を形成するものと理解される。数値に関連する用語「約」は任意選択的であり、例えば+/-10%を意味する。
【0093】
参考文献
いくつかの公開資料が、本発明及び本発明が関係する最新技術分野について、より完全に記載及び開示するために上記で引用されている。これら参考文献に対する全引用を下記に提示する。これら参考文献のそれぞれについて、その全体が本明細書に組み込まれている。
【参考文献】
【0094】
【符号の説明】
【0095】
1 真空チャンバー
3 注入口
4 アウトレット
5 フィラメント
7 基材
9 基材支持体
11 基材ホルダー
13 熱電対
100 装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8