(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】カンナビジオールの連続フロー合成
(51)【国際特許分類】
C07C 37/72 20060101AFI20240228BHJP
C07C 39/23 20060101ALI20240228BHJP
C07C 37/16 20060101ALI20240228BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C07C37/72
C07C39/23
C07C37/16
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021525742
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019080780
(87)【国際公開番号】W WO2020099283
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-02
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】397068654
【氏名又は名称】インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】パルミエリ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ベッリーニ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】アッレグリーニ,ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】チチェリ,ダニエレ
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531919(JP,A)
【文献】特開2008-101000(JP,A)
【文献】LUMIR O. HANUS; ET AL,ENANTIOMERIC CANNABIDIOL DERIVATIVES: SYNTHESIS AND BINDING TO CANNABINOID RECEPTORS,ORGANIC & BIOMOLECULAR CHEMISTRY,2005年,VOL:3, NR:6,PAGE(S):1116-1123,https://doi.org/10.1039/b416943c
【文献】BARBARA CARDILLO et al.,Gazzetta ChimicaItaliana,1973年,103,pp.127-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
で示されるカンナビジオールの合成方法であって、以下の工程:
a)式(4):
【化2】
で示される(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール又はそのエステル及び式(3):
【化3】
で示されるオリベトールの溶液[溶液(S1)]と非担持ルイス酸の溶液[溶液(S2)]とを連続フロー反応器内で接触させて、カンナビジオールを含む第1の混合物[混合物(M1)]を得ること;並びに
b)混合物(M1)を塩基性溶液[溶液(S3)]と接触させて、第2の混合物[混合物(M2)]を得ること;
c)混合物(M2)からカンナビジオールを分離すること
を含む、方法。
【請求項2】
式(4)の(+)-p-メンタ-ジエン-3-オールのエステルが、1~5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐カルボン酸とのエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エステルが、式(7):
【化4】
で示される酢酸エステルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ルイス酸が、BF
3である、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
溶液(S1)及び(S2)が、溶媒としてジクロロメタンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
式(4)の(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール又はそのエステルと式(3)のオリベトールとのモル比が、1:1~1:2の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
塩基性溶液(S3)が、アルカリ金属炭酸塩又は重炭酸塩の水溶液である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
塩基性溶液(S3)が、重炭酸ナトリウム又はカリウム溶液である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
塩基性溶液(S3)が、重炭酸ナトリウム溶液である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b)が、容器に入れた溶液(S3)中で混合物(M1)をクエンチすることによって達成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)が、溶液(S3)と一緒に別の連続フロー反応器に混合物(M1)を運ぶことによって達成される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンナビジオールの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの大麻製剤に含まれる主要な非向精神性フィトカンナビノイドである、式(1)のカンナビジオール(CBD)は、ヒトにおいて抗てんかん性、抗不安性及び抗ジストニア性を有することが見出されている。
【0003】
【0004】
大麻(Cannabis sativa)は、現在最も使用されているCBDの供給源であるが、CBD需要の急速な成長が見込まれるため、CBDの直接合成が望まれている。CBD合成への最も効率的な経路は、Lago-Fernandez et al. Methods in enzymology, Vol. 593, 237-257 (2017)に開示されるように、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、塩酸、BF3-エーテラート(BF3-Et2O)又は弱酸などの酸の存在下での、式(2):
【0005】
【化2】
で示される(+)-p-メンタ-ジエン-1-オールと式(3):
【0006】
【化3】
で示されるオリベトールとの縮合、及び式(4):
【0007】
【化4】
で示される(+)-p-メンタ-ジエン-3-オールとオリベトール(3)との縮合である。
【0008】
このようなアプローチは、2つの所望でない生成物である、式(5):
【0009】
【化5】
で示される非天然CBD異性体(異常CBD)及び式(6):
【0010】
【化6】
で示される向精神性フィトカンナビノイドのΔ
9-テトラヒドロカンナビノール(THC)のかなりの量の形成につながる。
【0011】
国によって異なる法定限度を超える量のTHCの形成と、THCが急性精神病に関連しているという事実とにより、化学合成によるCBDの生産は規制の観点から複雑になる。
【0012】
更に、選択性の欠如により、利用可能な合成経路が提供するCBDの収率は、工業用途には低すぎる。実施例のただ標題として、Petrzilkaら[Helvetica Chimica Acta, 52, 4, (1969), 123, 1102]は、CBDの収率約20%を報告した。
【0013】
THC形成の問題は、Baek, S.ら(Tetrahedron Letters, Vol.26, No. 8, pp 1083-1086, 1985)によって既に調査されているが、彼らは、アルミナ又はシリカに担持されたBF3-Et2Oの存在下で、(+)-p-メンタ-ジエン-1-オール(2)をオリベトール(3)と反応させると、THCの形成を減少させ、同時にCBDの収率をモル収率55%まで向上させ得ることを発見した。同じ条件を(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(2)及びオリベトール(3)に適用すると(Lumir et al., Org. Biomol. Chem., 2005, 3, 1116 - 1123)、CBDの収率は44%に低下したが、なおTHCの形成はなかった。1993年にBaek S.ら(Bull. Korean Chem. Soc., Vol. 14, No. 2, 1993)は、オリベトールの調製のためにアルミナ担持BF3-Et2Oを使用することが適切であることを発見して、アルミナの非存在下では、環化反応に起因して反応収率が低かったことを報告している。一方、市販されていないアルミナ担持BF3-Et2Oの使用は、幾つかの理由でCBDの生産工程を損なう:1)反応前にその場(in situ)で調製される必要がある、2)実際の触媒(BF3-Et2O)と比較して10倍過剰のアルミナの使用に起因して、環境E値(総廃棄物/生成物比)が増加する、3)再利用できない。
【0014】
したがって、上記の欠点を克服し、そして同時にTHCの形成を減少させることができるCBDの合成方法が依然として必要とされている。
【0015】
一方、化学工業における連続フロー反応器、特にマイクロリアクターの使用は、その高い伝熱能力、高い混合速度及びその運転柔軟性のおかげで、近年大幅に増加している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明の説明
出願人は、驚くべきことに、(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)とオリベトール(3)との反応を、触媒としての非担持ルイス酸の存在下で連続フロー反応器内で実施すると、CBDがモル収率34%で得られ、そしてTHCの形成がないことを見出した。更になお驚くべきことに、(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)のエステル、特に式(7):
【0017】
【化7】
で示されるアセチルエステル[酢酸(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール]及びオリベトール(3)を非担持ルイス酸と連続フロー反応器内で反応させると、51%の収率が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明は、CBDの合成方法であって、以下の工程:
a)(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)又はそのエステル及びオリベトール(3)の溶液[溶液(S1)]と非担持ルイス酸の溶液[溶液(S2)]とを連続フロー反応器内で接触させて、CBDを含む第1の混合物[混合物(M1)]を得ること;及び
b)混合物(M1)を塩基性溶液[溶液(S3)]と接触させて、第2の混合物[混合物(M2)]を得ること;
c)混合物(M2)からCBDを分離すること
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的のために:
-「連続フロー反応器」という表現は、試薬流を運ぶための細長い管のことをいい、当該管は、その周囲との高効率の熱伝導を可能にするのに十分に小さい断面寸法と、試薬流の所望の滞留時間を達成するのに十分な長さを有する。典型的には、管の断面寸法は0.2mm~1cmの範囲であり、一方、長さは10cm~30,000cmの範囲である。本発明の方法を実施するのに適したマイクロリアクターは、Sigma Aldrichによって製造されている。「試薬流」という表現は、反応器の管を通って流れる反応物及び生成物を包含する、試薬、溶液、及び反応成分の混合物のことをいう;
-特に断りない限り、一般的な用語及び表現は、それらの一般的な用語及び表現に戻って言及するか、又はそれらに収まるものとして、説明に示される全ての及び各々の好ましい用語及び表現を包含する;
-ルイス酸は、ドナー化合物から電子対を受け入れることができる空の軌道を有する化合物又はイオン種である;本発明を実施するのに適したルイス酸はBF3である;更に好ましくは、BF3は、BF3-Et2Oの形で使用される;
-「非担持ルイス酸」という表現は、触媒の表面積を最大化することを目的として、ルイス酸がシリカやアルミナのような何か他の固体担体に固定されていないことを意味する;
-範囲が示されている場合、範囲の端が包含される。
【0020】
本発明の方法の工程a)において、溶液(S1)及び溶液(S2)は、反応器の第1及び第2のポンプによって、コネクターを通してコイルに同時に送り込まれ、そこで反応して混合物(M1)を形成する。
【0021】
溶液(S1)は、1:1~1:2のモル比、好ましくは1:1のモル比の(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)又はそのエステル、好ましくは1~5個の炭素原子を有する直鎖又は分岐カルボン酸とのエステル、更に好ましくは酢酸とのエステル(酢酸エステル)(7)及びオリベトール(3)、並びに以下から選択される有機溶媒(C1~C3塩素化溶媒、好ましくはジクロロメタン、エーテル系溶媒、好ましくはメチルtert-ブチルエーテル、アルキルエステル、好ましくは酢酸エチル)から構成され、ここで、各溶質の濃度は、それぞれ0.5M~0.01Mの範囲であり、好ましくは0.05Mであり、一方、溶液(S2)は、ルイス酸、好ましくはBF3、更に好ましくはBF3-エーテラート、及び溶液(S1)に含まれる溶媒と同じであっても異なっていてもよい有機溶媒から構成される。好ましくは、溶液(S1)及び(S2)は、同じ溶媒、好ましくはジクロロメタンである溶媒を含む。溶液(S2)中のルイス酸の濃度は、0.05M~0.001Mの範囲であり、好ましくは0.005Mである。溶液(S1)及び(S2)はそれぞれ、0.1~1mL/分、好ましくは0.9~1.1mL/分の範囲、更に好ましくは1mL/分の流量で送り込まれる。
【0022】
反応温度は-20℃~40℃で変化し、好ましくは20℃である。
【0023】
(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)を使用する場合、マイクロリアクター内の混合物(M1)の滞留時間は、1分~15分で変化し、好ましくは8分である。(4)のエステルを使用する場合、特に酢酸(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(7)を使用する場合、マイクロリアクター内の混合物(M1)の滞留時間は1分~10分で変化し、好ましくは7分である。
【0024】
工程b)において、混合物(M1)と溶液(S3)との接触は、容器に入れた溶液(S3)中で、反応器出口から流出する混合物(M1)をクエンチすることによって達成することができる。或いは、溶液(S3)と一緒に別の連続フロー反応器に混合物(M1)を運ぶことができる。溶液(S3)は、典型的にはアルカリ金属重炭酸塩水溶液又はアルカリ金属炭酸塩水溶液、好ましくは重炭酸ナトリウム又はカリウム水溶液、更に好ましくは重炭酸ナトリウム水溶液である。溶液(S3)中のアルカリ金属重炭酸塩又は炭酸塩の濃度は、典型的には1~30%w/wの範囲であり、好ましくは、溶液(S3)は、アルカリ金属重炭酸塩中に飽和されている。「飽和」とは、室内圧力及び室温で重炭酸塩又は炭酸塩を最大量含有することを意味する。
【0025】
工程c)は、当技術分野で公知の方法により実施することができる。典型的には、単離はカラムクロマトグラフィーによって達成される。
【0026】
本発明は、以下の実験の項において更に詳細に説明される。
【実施例】
【0027】
実験の項
材料
(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)を、R. Marin Barrios et al. Tetrahedron 2012, 68, 1105-1108に従い得た。
オリベトール(3)をSigma Aldrichから入手した。
酢酸(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(7)を、Prasav and Dav, Tetrahedron 1976, 32, 1437-1441に従い得た。
ジクロロメタン及び重炭酸ナトリウムをSigma Aldrichから入手した。
【0028】
方法
以下に報告される全ての例示的な合成を、Sigma Aldrichから購入したBohlender(商標)PTFEチューブ(内径0.8mm、16.91m)を使用して実施した。
CBDの分析は、Gambaro et al. Analytica Chimica Acta 468 (2002) 245-254に従いガスクロマトグラフィー(GC)によって実施した。
【0029】
合成例
【0030】
実施例1 - (+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)及びオリベトール(3)からのCBDの合成
ジクロロメタン(10mL)中の0.05M (+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(4)及び0.05M オリベトール(3)の溶液(S1)並びにジクロロメタン(10mL)中のBF3-エーテラート 0.005M(10mol%)の溶液(S2)を、各ポンプについて0.5mL/分の流量でTコネクターに同時に送り込み、次に20℃に維持された8.5mL反応器コイルに通した。流出物を重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(100mL)で直接クエンチした。THCは全く検出されず、カラムクロマトグラフィーによってCBDが34%molの回収率で単離された。
【0031】
実施例2 - 酢酸(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(7)及びオリベトール(3)からのCBDの合成
ジクロロメタン(10mL)中の0.05M 酢酸(+)-p-メンタ-ジエン-3-オール(7)及び0.1M オリベトール(3)の溶液並びにジクロロメタン(10mL)中のBF3-エーテラート 0.005M(10mol%)の溶液を、各ポンプについて0.5mL/分の流量でTコネクターに同時に送り込み、次に20℃に維持された8.5mL反応器コイルに通した。流出物を重炭酸ナトリウムの飽和水溶液(100mL)で直接クエンチした。THCは全く検出されず、CBDは51%molの回収率で単離された。