(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/446 20210101AFI20240228BHJP
H01M 10/14 20060101ALI20240228BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240228BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240228BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240228BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240228BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M10/14 Z
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/489
H01M50/491
(21)【出願番号】P 2022072931
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018509493の分割
【原出願日】2017-03-31
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2016072387
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003570
【氏名又は名称】エンテックアジア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【氏名又は名称】野田 薫央
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】蔀 貴史
(72)【発明者】
【氏名】和田 忠正
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216125(JP,A)
【文献】特表2016-519389(JP,A)
【文献】特開2001-283898(JP,A)
【文献】特開2013-203650(JP,A)
【文献】特開2005-251394(JP,A)
【文献】特開2016-024918(JP,A)
【文献】米国特許第6818355(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第101060180(CN,A)
【文献】中国実用新案第2911976(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/446
H01M 10/14
H01M 50/417
H01M 50/434
H01M 50/443
H01M 50/489
H01M 50/491
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成非晶質シリカであるシリカ微粉を40重量%以上含む微多孔質膜からなる液式鉛蓄電池用セパレータであって、
前記微多孔質膜は、ベース厚さが0.18~0.3mmの微多孔質フィルムであり、前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm
2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm
2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)であることを特徴とする液式鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
前記微多孔質膜は、前記シリカ微粉とポリオレフィン系樹脂を主体としてなる微多孔質フィルムであることを特徴とする
請求項1記載の液式鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記微多孔質フィルム
は、平均細孔径(水銀圧入法)が0.01~0.5μm、空隙率(水銀圧入法)が50~90体積%の微多孔質フィルムであることを特徴とする
請求項2記載の液式鉛蓄電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を非流動化させてメンテナンスフリー化したいわゆる密閉型鉛蓄電池(制御弁式鉛蓄電池とも言う)ではなく、旧来の方式である流動性をもった電解液を有したいわゆる液式鉛蓄電池(ベント式鉛蓄電池、開放型鉛蓄電池とも言う)に用いる、液式鉛蓄電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液式鉛蓄電池用セパレータとして、ポリエチレンセパレータと呼ばれる、通常、重量平均分子量が50万以上のポリオレフィン系樹脂(通常超高分子量ポリエチレン)20~60重量%と、比表面積が50m2/g以上の無機粉体(通常シリカ微粉)40~80重量%と、開孔剤を兼ねる可塑剤(通常鉱物オイル)0~30重量%と、界面活性剤(固形分)0~10重量%と、添加剤(酸化防止剤、耐候剤等)0~5重量%とからなる微多孔質フィルム製セパレータがある。
【0003】
前記微多孔質フィルム製セパレータは、通常、前記ポリオレフィン系樹脂と前記無機粉体と前記可塑剤(上記セパレータ組成よりも多めに配合)と前記界面活性剤と前記添加剤を混合した原料組成物を加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、所定の厚さにロール圧延成形した後、前記可塑剤の全部または一部を抽出除去することによって得られる、ベース厚さが0.1~0.3mm程度、平均細孔径(水銀圧入法)が0.01~0.5μm程度、空隙率(水銀圧入法)が50~90体積%程度のシートである。
【0004】
前記無機粉体の役割は、原料組成物を加熱溶融混練する際に可塑剤を吸着担持しておくこと、微多孔質フィルムの微多孔構造(緻密で複雑な孔構造と高空隙率)を作り出すこと、微多孔質フィルムの製造過程で可塑剤を除去した際に生じるシート収縮に耐え寸法安定性を保つこと、微多孔質フィルムの電池組み込み時の使用前に行われる乾燥工程(水分除去工程)のような加熱処理時にもシート収縮に耐え寸法安定性を保つこと、微多孔質フィルムの電解液吸液性を良くすること、微多孔質フィルムの電解液濡れ性を良くすること、微多孔質フィルムの電解液保持性を良くすること、などである。
【0005】
よって、通常、前記無機粉体としては、シリカ微粉が用いられ、特に、比表面積が大きいこと、吸油量が大きいこと、親水基(シラノール基)が多いこと、などの観点から、乾式法または湿式法の製造方法のうち、湿式法の沈降法で製造された合成非晶質シリカが、用いられている。
【0006】
一方、鉛蓄電池の車載用途においては、アイドリングストップ車に搭載される鉛蓄電池では、放電量が多くなるため、充電受入性の高いことが求められるようになってきている。鉛蓄電池の充電受入性を高めようとする場合、電解液中にアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)イオンが多く存在すると、充電受入性の向上の妨げになることが知られている(特許文献1)。
【0007】
また、鉛蓄電池においては、ハロゲン(F、Cl、Br、I)の不純物が多く混入すると、鉛または鉛合金製の極板格子や極柱を腐食させ、電池寿命性能を低下させる要因になり得ることも知られている(特許文献2)。
【0008】
前記沈降法で製造される合成非晶質シリカとは、中性またはアルカリ性下でアルカリ珪酸塩(珪酸ナトリウム)水溶液と鉱酸(硫酸)を反応させて非晶質シリカを沈殿析出させるという方法によるものであり、生成された非晶質シリカには、副生物として硫酸ナトリウム等の塩類が含まれており、後工程で濾過・水洗の処理により塩類を除去する処理(純度を高める処理)が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/128803号
【文献】特開2005-251394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記非晶質シリカの製造工程における塩類の除去処理は完全ではないため、通常、製造された前記非晶質シリカは、副生物の硫酸ナトリウムを微量含んでいる。よって、このようなシリカ微粉を用いて製造した前記微多孔質フィルムにも、微量の硫酸ナトリウムが含まれており、鉛蓄電池用セパレータとして使用された場合には、電池使用が進むにつれて、電解液中にNaイオンを溶出させてしまい、溶出量が多い場合には、充電受入性の向上を妨げる要因になり得る。
【0011】
また、前記非晶質シリカの製造工程における塩類の除去処理を水洗にて行うに際し、水洗に使用する水が、ハロゲンであるCl分を混入させてしまうことも起こり得る。つまり、水道水(残留塩素が含まれる)を使う場合や、塩分(塩化ナトリウム)を含んだ地下水を使う場合などである。よって、このような水を用いて水洗処理が行われたシリカ微粉を用いて製造した前記微多孔質フィルムにも、微量のCl分が含まれており、鉛蓄電池用セパレータとして使用された場合には、電池使用が進むにつれて、電解液中にClイオンを溶出させてしまい、溶出量が多い場合には、極板格子や極柱の腐食を促し、電池寿命性能を低下させる要因になり得る。
【0012】
よって、本発明は、前記従来の問題点に鑑み、主原料として沈降法で製造された合成非晶質シリカであるシリカ微粉を用いて製造した微多孔質膜からなる液式鉛蓄電池用セパレータにあって、これを使用した電池で電池使用が進んだ場合にも、セパレータから電解液中に溶出するアルカリ金属イオン量やハロゲンイオン量を少なくすることができ、充電受入性の向上を妨げにくくでき、電池寿命性能の低下を招きにくくできるセパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の液式鉛蓄電池用セパレータは、前記目的を達成するべく、アルカリ珪酸塩水溶液と鉱酸を反応させ沈殿析出により非晶質シリカを合成後、濾過・水洗により純度の調整を行う沈降法で製造された合成非晶質シリカであるシリカ微粉を40重量%以上含む微多孔質膜からなる液式鉛蓄電池用セパレータであって、前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)であることを特徴とする。
【0014】
また、前記濾過・水洗は、イオン交換水、または、塩分(塩化ナトリウム)を含まない地下水を使用して行われることを特徴とする。
【0015】
また、前記微多孔質膜は、前記シリカ微粉とポリオレフィン系樹脂を主体としてなる微多孔質フィルムであることを特徴とする。
【0016】
また、前記微多孔質フィルムは、ベース厚さが0.1~0.3mm、平均細孔径(水銀圧入法)が0.01~0.5μm、空隙率(水銀圧入法)が50~90体積%の微多孔質フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、主原料として沈降法で製造された合成非晶質シリカであるシリカ微粉を用いて製造した微多孔質膜からなる鉛蓄電池用セパレータにあって、これを使用した電池で電池使用が進んだ場合にも、セパレータから電解液中に溶出するアルカリ金属イオン量やハロゲンイオン量を少なくすることができ、充電受入性の向上を妨げにくくでき、電池寿命性能の低下を招きにくくできるセパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の液式鉛蓄電池用セパレータは、アルカリ珪酸塩水溶液と鉱酸を反応させ沈殿析出により非晶質シリカを合成後、濾過・水洗により純度の調整(副生物である塩類を除去し非晶質シリカの純度を高める)を行う沈降法で製造された合成非晶質シリカであるシリカ微粉(以下、単に「前記シリカ微粉」と言う場合がある)を40重量%以上含む微多孔質膜であって、前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下(但し、微多孔質膜のベース厚さ0.2mm換算値)であることを条件とする。
【0019】
前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下であるようにすることで、本発明の液式鉛蓄電池用セパレータを用いた液式鉛蓄電池において、セパレータから電解液中に溶出するアルカリ金属イオン量を抑えることができるようになるので、充電受入性の向上を妨げにくくなる。よって、前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)は4mg/100cm2/枚以下がより好ましい。
【0020】
前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下であるようにすることで、本発明の液式鉛蓄電池用セパレータを用いた液式鉛蓄電池において、セパレータから電解液中に溶出するハロゲンイオン量を抑えることができるようになるので、極板格子や極柱の腐食を促すことによる電池寿命性能の低下を招きにくくなる。よって、前記微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)は0.2mg/100cm2/枚以下がより好ましく、0.1mg/100cm2/枚以下が更に好ましい。
【0021】
前記微多孔質膜は、前記シリカ微粉とポリオレフィン系樹脂を主体としてなる微多孔質フィルムであることが好ましく、また、その微多孔質フィルムは、ベース厚さが0.1~0.3mm、平均細孔径(水銀圧入法)が0.01~0.5μm、空隙率(水銀圧入法)が50~90体積%の微多孔質フィルムであることが好ましい。なお、ベース厚さとは、例えば、微多孔質フィルムがリブ状突起を有する場合に、リブ状突起を含めた総厚さと区別するために用いる用語で、リブ状突起の高さを除外した(リブ状突起を設けない場合の)膜厚さを言う。
【0022】
前記シリカ微粉は、前述したように、原料組成物を加熱溶融混練する際に可塑剤を吸着担持しておくこと、微多孔質フィルムの微多孔構造(緻密で複雑な孔構造と高空隙率)を作り出すこと、微多孔質フィルムの製造過程で可塑剤を除去した際に生じるシート収縮に耐え寸法安定性を保つこと、微多孔質フィルムの電池組み込み時の使用前に行われる乾燥工程(水分除去工程)のような加熱処理時にもシート収縮に耐え寸法安定性を保つこと、微多孔質フィルムの電解液吸液性を良くすること、微多孔質フィルムの電解液濡れ性を良くすること、微多孔質フィルムの電解液保持性を良くすること、等の役割があり、よって、比表面積が大きいこと、吸油量が大きいこと、親水基(シラノール基)が多いこと、等の観点から、乾式法または湿式法の製造方法のうち、湿式法の沈降法で製造された合成非晶質シリカであることが必要であるが、湿式法の沈降法で製造された合成非晶質シリカには、副生物として硫酸ナトリウム等の塩類が含まれており、後工程で濾過・水洗の処理により塩類を除去する処理が行われているものの、塩類の除去処理は完全ではなく、また、水洗処理に水道水(残留塩素が含まれる)や塩分(塩化ナトリウム)を含んだ地下水が使われ得るため、電池性能に悪影響を与え得るNa分やCl分を微量含んでいる。よって、本発明では、シリカ微粉として、湿式法の沈降法で製造された合成非晶質シリカであって、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)やハロゲン分(F、Cl、Br、I)の含有量を、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下、かつ、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下となるようなレベルにまで低減したシリカ微粉を用いる。また、本発明の前記非晶質シリカの製造工程における水洗処理(副生物の塩類を除去する処理)は、イオン交換水、または、塩分(塩化ナトリウム)を含まない地下水を使用して行われることが好ましい。なお、本願において、塩分(塩化ナトリウム)を含まない地下水とは、塩分(塩化ナトリウム)濃度が300ppm以下である地下水を指す。
【0023】
前記微多孔質フィルムのベース厚さは、0.1~0.3mmであることが好ましいが、0.3mmを超えると電気抵抗が悪化し、0.1mm未満であると、良好な耐短絡性(ここで言う短絡とは、デンドライトショートと呼ばれる浸透短絡、局部的な基材の弱い部分、極板の凸部からの高圧迫や衝撃や突刺し、極板からの酸化力による酸化損耗等、が原因で孔が開くまたは割れを生じることで引き起こされる通常の短絡の両方を指す)が維持できにくくなる。
【0024】
前記微多孔質フィルムの空隙率(水銀圧入法)は、50体積%以上であることが好ましいが、50体積%以上であることで、液式鉛蓄電池用セパレータとして内部抵抗(電気抵抗)を低く抑えることができ、液式鉛蓄電池の高性能化に寄与する。よって、微多孔質フィルムの空隙率(水銀圧入法)は、60~90体積%、更には70~90体積%であることがより好ましい。
【0025】
前記微多孔質フィルムを得る方法は、ポリオレフィン系樹脂と前記シリカ微粉と可塑剤を主体とする原料組成物を溶融混練して製膜後可塑剤の一部または全部を除去することによるのが好ましい。これにより、膜全体に均一かつ微細で複雑に入り組んだ複雑な経路を有する無数の連通孔が形成された膜が得られる。具体的な製造法の一例を以下に示す。まず、所定量のポリオレフィン系樹脂、前記シリカ微粉、可塑剤に、必要に応じて各種添加剤(界面活性剤、酸化防止剤、耐候剤等)を加えた原材料をヘンシェルミキサーまたはレーディゲミキサー等の混合機により攪拌・混合し、原料混合物を得る。次に、この混合物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機に投入し加熱溶融・混練しながらシート状に押し出し、一方のロールに所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通すことで、平板状シートの片面に所定形状のリブを一体に成形したフィルム状物を得る。次に、このフィルム状物を、適当な溶剤(例えば、n-ヘキサン)中に浸漬し、鉱物オイルの所定量を抽出除去し乾燥すれば、目的の微多孔質フィルムが得られる。なお、原料組成物とは、溶融混練工程に持ち込まれる全原材料からなる組成物のことを言い、あくまでも「すべての原材料(の組成物)」のことを指す意味であり、特定的に、原料混合物や溶融混練物のことを指す意味ではない。
【0026】
前記微多孔質フィルムは、ポリオレフィン系樹脂と前記シリカ微粉と可塑剤の合計含有量が90重量%以上、ポリオレフィン系樹脂の含有量が20~60重量%、前記シリカ微粉の含有量が40~80重量%、可塑剤の含有量が0~30重量%、界面活性剤の含有量が0~8重量%であることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量が20重量%未満あるいは前記シリカ微粉の含有量が80重量%超えであると、ポリオレフィン系樹脂による微多孔質フィルムへの機械的強度や耐酸化性やシール性の確保が十分でなくなり、ポリオレフィン系樹脂の含有量が60重量%超えあるいは前記シリカ微粉の含有量が40重量%未満であると、微多孔質フィルムの大きな空隙率や微細かつ複雑な孔構造を確保しづらくなり微多孔質フィルム製セパレータの良好な電気抵抗特性を維持できなくなる。
【0027】
前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等の単独重合体または共重合体およびこれらの混合物が使用できる。中でも、成形性や経済性の面で、ポリエチレンを主体とすることが好ましい。ポリエチレンは、溶融成形温度がポリプロピレンよりも低く、生産性が良好で製造コストを抑えられる。ポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が50万以上とすることにより、シリカ微粉を多く含んだ微多孔質フィルムにあっても、膜の機械的強度を確保することができる。このため、ポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が100万以上、更には150万以上であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、シリカ微粉との混合性も良好で、微多孔質フィルムにあってシリカ微粉の骨格を接着機能材料として結合させながら強度を維持するとともに、化学的に安定であり安全性が高い。
【0028】
前記シリカ微粉としては、粒径が細かく内部や表面に孔構造を備えたものが使用できる。無機粉体の中でもシリカは、粒子径、比表面積等の各種粉体特性の選択範囲が広く、比較的安価で入手しやすく、不純物が少ない。前記シリカ微粉は、比表面積が100m2/g以上であると、微多孔質フィルムの孔構造をより微細化(緻密化)かつ複雑化して耐短絡性を高め、微多孔質フィルムの電解液保持力を高め、粉体表面に多数の親水基(-OH)を備えることにより微多孔質フィルムの親水性を高めるため好ましい。このため、前記シリカ微粉の比表面積は150m2/g以上であることがより好ましい。また、前記シリカ微粉の比表面積は400m2/g以下であることが好ましい。前記シリカ微粉の比表面積が400m2/gを超える場合は、粒子の表面活性度が高く凝集力が強くなるため、微多孔質フィルム中で前記シリカ微粉が均一分散されにくくなるため好ましくない。
【0029】
前記可塑剤としては、ポリオレフィン系樹脂の可塑剤となり得る材料を選択することが好ましく、ポリオレフィン系樹脂と相溶性を有し各種溶剤等で容易に抽出できる各種有機液状体が使用でき、具体的には、飽和炭化水素(パラフィン)からなる工業用潤滑油等の鉱物オイル、ステアリルアルコール等の高級アルコール、フタル酸ジオクチル等のエステル系可塑剤等が使用できる。中でも、再利用がしやすい点で、鉱物オイルが好ましい。可塑剤は、ポリオレフィン系樹脂、シリカ微粉、可塑剤を主体とした原料組成物中に、30~70重量%配合されることが好ましい。
【0030】
前記可塑剤は、前述した通り、ポリオレフィン系樹脂とシリカ微粉と可塑剤を主体とした原料組成物を溶融混練して所定形状のフィルム状物に成形された後、除去されることで、多孔質化するものであり、微多孔質フィルム製セパレータ中の可塑剤の含有量はゼロであっても構わない。しかし、液式鉛蓄電池用セパレータにおいては、鉱物オイルのような可塑剤を適量含有させておくことで、耐酸化性の向上に寄与させることができる。このような場合、セパレータ中の可塑剤の含有量は5~30重量%とすることが好ましい。但し、可塑剤の含有量を多くすると、微多孔質フィルムの空隙率が低下し、微多孔質フィルム製セパレータの電気抵抗が悪化するため、このような観点からは、可塑剤の含有量は20重量%以下であることがより好ましい。
【0031】
前記可塑剤を抽出除去するために用いる溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の飽和炭化水素系の有機溶剤を使用することができる。
【0032】
前記原料組成物または前記微多孔質フィルムには、その他、必要に応じて、界面活性剤(親水化剤)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、滑剤、抗菌剤、防黴剤、顔料、染料、着色剤、防曇剤、艶消し剤等の添加剤を、本発明の目的および効果を損なわない範囲で添加(配合)または含有させてもよい。
【0033】
前記微多孔質フィルムは、比表面積が大きく親水性が高い前記シリカ微粉を多量に含有しており、それだけでも、親水性を有し、水溶液である液式鉛蓄電池の硫酸電解液に対する濡れ性や硫酸電解液の浸透性(浸み込み性)を有するが、電槽内に極板とセパレータが密に組み込まれた積層体に対し硫酸電解液を注液した際に、速やかにセパレータの空隙中に電解液が吸液され速やかにセパレータの空隙が電解液に置換されるようにするため、微多孔質フィルム中には界面活性剤(固形分)を0.2~8重量%含ませることが好ましい。
【0034】
前記界面活性剤を微多孔質フィルムに含ませる方法としては、製膜前の原料組成物中に予め分散状態に添加しておく方法(内添法)、製膜され可塑剤が除去された微多孔質フィルムに対して後処理(付着処理)する方法(外添法)があるが、製造工程が簡略化できる点と、本発明の微多孔質フィルムから界面活性剤を染み出しにくくできる点で、原料組成物中に予め添加する方法(内添法)が好ましい。界面活性剤(固形分)の含有量(必要量)は、微多孔質フィルム中に0.2~8重量%である。界面活性剤(固形分)の含有量をこの範囲以上に増量しても、微多孔質フィルムの親水性を向上させる効果は大きく伸びず、逆に、微多孔質フィルムの空隙率を低下させて液式鉛蓄電池用セパレータとして内部抵抗(電気抵抗)の増大を招いたり、液式鉛蓄電池用セパレータとして自己放電の増大を招く。よって、界面活性剤(固形分)の含有量は、微多孔質フィルム中に0.2~5重量%であることがより好ましい。
【0035】
前記界面活性剤としては、微多孔質フィルムの親水性を向上できる材料であればよく、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤の何れも使用できる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル類等が使用できる。カチオン系界面活性剤としては、脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキシド等が使用できる。アニオン系界面活性剤としては、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩等が使用できる。中でも、ポリオレフィン系樹脂に対して少量の添加で高い親水性の付与が可能であること、比較的高い耐熱性を有することで界面活性剤を予め原料組成物中に添加して微多孔質フィルムの製造(加熱溶融成形による製造)が行えることなどから、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸塩が好ましい。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について、比較例とともに詳細に説明する。
(実施例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量が150万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体(融点約135℃)1000重量部と、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量を、水洗処理水の流量を従来よりも多くして低減し、かつ、従来よりもCl分の少ない水洗処理水を使う事で、Cl分の混入を低減し、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下となるようにしたもの)2590重量部と、可塑剤としてパラフィン系鉱物オイル5380重量部と、界面活性剤としてアルキルスルホコハク酸塩(固形分)109重量部とをレーディゲミキサーにて混合し、この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、一方のロールに極板当接用主リブのための所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通し、平板状シートの一方の面に所定形状の極板当接用主リブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。次に、このフィルム状物をn-ヘキサン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを実施例1の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0037】
(実施例2)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量が150万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体(融点約135℃)1000重量部と、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量を、水洗処理水の流量を実施例1よりも多くして更に低減し、かつ、従来よりもCl分の少ない水洗処理水を使う事で、Cl分の混入を低減し、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が4mg/100cm2/枚以下、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下となるようにしたもの)2590重量部と、可塑剤としてパラフィン系鉱物オイル5380重量部と、界面活性剤としてアルキルスルホコハク酸塩(固形分)109重量部とをレーディゲミキサーにて混合し、この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、一方のロールに極板当接用主リブのための所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通し、平板状シートの一方の面に所定形状の極板当接用主リブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。次に、このフィルム状物をn-ヘキサン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを実施例2の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0038】
(実施例3)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量が150万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体(融点約135℃)1000重量部と、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量を、水洗処理水の流量を従来よりも多くして低減し、かつ、実施例1よりもCl分の少ない水洗処理水を使う事で、Cl分の混入を更に低減し、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下、かつ、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)の濃度(ICP発光分光分析)が0.1mg/100cm2/枚以下となるようにしたもの)2590重量部と、可塑剤としてパラフィン系鉱物オイル5380重量部と、界面活性剤としてアルキルスルホコハク酸塩(固形分)109重量部とをレーディゲミキサーにて混合し、この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、一方のロールに極板当接用主リブのための所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通し、平板状シートの一方の面に所定形状の極板当接用主リブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。次に、このフィルム状物をn-ヘキサン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを実施例3の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0039】
(比較例1)
ポリオレフィン系樹脂として重量平均分子量が150万の超高分子量ポリエチレン樹脂粉体(融点約135℃)1000重量部と、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量は従来通りで、Cl分が従来通りの水洗処理水を使った場合、Cl分の混入を低減せず、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚超え、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚超えとなるようにしたもの)2590重量部と、可塑剤としてパラフィン系鉱物オイル5380重量部と、界面活性剤としてアルキルスルホコハク酸塩(固形分)109重量部とをレーディゲミキサーにて混合し、この原料組成物を先端にTダイを取り付けた二軸押出機を用い加熱溶融混練しながらシート状に押し出し、一方のロールに極板当接用主リブのための所定の溝を刻設した一対の成形ロール間を通し、平板状シートの一方の面に所定形状の極板当接用主リブを一体に成形加工したフィルム状物を得た。次に、このフィルム状物をn-ヘキサン中に浸漬し、パラフィン系鉱物オイルの所定量を抽出除去し、乾燥させて、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを比較例1の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0040】
(比較例2)
シリカ微粉体として、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量は従来通りであるが、従来よりもCl分の少ない水洗処理水を使う事で、Cl分の混入を低減し、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚超え、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚以下となるようにしたもの)を使用するようにした以外は比較例1と同様にして、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを比較例2の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0041】
(比較例3)
シリカ微粉体として、沈降法で製造された合成非晶質シリカであるBET法による比表面積が200m2/gのシリカ微粉体(但し、製造過程で副生物として生成する硫酸ナトリウム等の塩類の含有量を、水洗処理水の流量を従来よりも多くして低減したが、Cl分が従来通りの水洗処理水を使った場合、Cl分の混入を低減せず、最終的に得られる微多孔質膜(10cm×10cm×2枚)を温度50℃の比重1.26の硫酸126g中へ24h浸漬し放置したときの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚以下、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚超えとなるようにしたもの)を使用するようにした以外は比較例1と同様にして、ポリエチレン樹脂22.9重量%、シリカ微粉体59.3重量%、パラフィン系鉱物オイル16.0重量%、界面活性剤(固形分)1.8重量%とで構成される、ベース厚さが0.20mm、水銀圧入法による空隙率が62体積%、水銀圧入法による平均細孔径が0.09μm、水銀圧入法による最大孔径が0.65μmのリブ付き微多孔質フィルムを得た。これを比較例3の液式鉛蓄電池用セパレータとした。
【0042】
次に、上記にて得られた実施例1~3、比較例1~3の各セパレータについて、以下の方法により、各種特性評価を行った。結果を表1に示す。なお、MD(MD方向)とは、製造されるシートの製造方向、CD(CD方向)とは、MD方向と直交する方向を言う。
〈ベース厚さ〉
ダイヤルゲージ(尾崎製作所社製 ピーコックG-6)を用いて、微多孔質フィルム(リブ状突起を有する場合はリブ状突起を含まない箇所)の任意の点、数箇所を測定した。
〈引張強度、伸び〉
微多孔質フィルムから、MDおよびCD方向に、10mm×70mmの長方形サイズに裁断し試験片とする。容量294N以下のショッパー式またはこれに準ずる引張試験機を用い、試験機のつかみの間隔(a)を約50mmとし、試験片を取り付け、毎分200mmの引張速さで引張試験を行い、試験片が切断した時の引張荷重(b)、距離(c)を読む。引張強度は、引張荷重(b)を試験片の断面積で除して算出する。伸びは、距離(c)を試験機のつかみの間隔(a)で除して算出する。
〈空隙率〉
微多孔質フィルムの細孔容積(水銀圧入法)と真密度(浸漬法)から、次式により算出した。
空隙率=Vp/((1/ρ)+Vp)
但し、Vp:細孔容積(cm3/g)、ρ:真密度(g/cm3)
〈平均細孔径〉
水銀圧入時の、圧力と水銀の容量から細孔径分布を算出した。全細孔容積の50%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径を平均細孔径(メディアン径)とした。
〈最大孔径〉
平均細孔径試験における細孔径分布曲線から、水銀の圧入が開始された孔径を最大孔径とした。
〈浸透性〉
微多孔質フィルムを70mm×70mmの正方形サイズに裁断した試験片を、温度20℃の比重1.20の硫酸の液面に浮かべたのち、試験片の表面に硫酸が浸透し、試験片の一部が変色するまでの時間を測定し、浸透性(秒)とした。
〈電気抵抗〉
微多孔質フィルムを70mm×70mmの正方形サイズに裁断して試験片とし、SBA S 0402に準拠した試験装置で測定した。
〈耐酸化寿命〉
50mm×50mmの正方形状の鉛板製の正極および負極を、70mm×70mmの正方形状に裁断した微多孔質フィルム製セパレータを挟んで、同心状にかつ正方形状の向きを合わせて積層し、積層した正極(1枚)、セパレータ(1枚)、負極(1枚)からなる極群に19.6kPaの加圧をかけて電槽内に組み込んだ後、比重1.300(20℃)の希硫酸電解液を1000ml注入し、液温度50±2℃で5.0Aの直流定電流を流し、端子電圧が2.6V以下または電圧差が0.2V以上となった時点の通電時間を測定し、耐酸化時間(h)とした。なお、表1には、比較例1の値を100とした場合の相対値を表示した。
〈デンドライトショート特性〉
70mm×70mmの正方形状にカットした微多孔質フィルムを50mm×50mmの正方形状の鉛極板(純鉛製、厚さ3mm)2枚で挟んで、微多孔質フィルムと2枚の鉛極板の3つの正方形の中心が一致しかつ3つの正方形の各辺が互いに平行であるようにして、電槽内に水平状態に設置し、その上に(正方形の中心位置に)5kgの重りを載せた後、飽和硫酸鉛水溶液を注入する。その後、鉛極板に3.2mAの電流を通電し、電圧の変化を連続的に記録する。電圧は、通電開始後にやや上昇し、その後緩やかに低下する。この時の最大電圧の70%に電圧が低下するまで時間を計測する。なお、表1には、比較例1の値を100とした場合の相対値を表示した。
〈ICP発光分光分析〉
100mm×100mmの正方形状にカットした微多孔質フィルム2枚を、比重1.26の硫酸126gの入ったビーカーに入れる。これを50℃に保持した恒温水槽に入れて、24時間静置する。24時間静置後に、硫酸(抽出液)中から、微多孔質フィルムを取り出す。硫酸(抽出液)を1/10に希釈し、希釈液中のアルカリ金属分(Li、Na、K、Rb、Cs)、および、ハロゲン分(F、Cl、Br、I)を、ICP発光分光分析装置にて定量分析する。得られた値は、ppmからmg/100cm2/枚(面積が100cm2の微多孔質フィルム1枚当たりの重量)に換算する(但し、微多孔質フィルム1枚当たりとはベース厚さ0.2mm当たりであることとし、ベース厚さがこれと異なる場合は値を換算してベース厚さ0.2mm当たりとなるよう補正する)。
〈電池試験(充電受入性、電池寿命)〉
充電受入性は、JIS D 5301(2006)に基づき、5時間率電流で2.5時間放電した時の、充電開始後の充電電流を測定する。電池寿命は、JIS D 5301(2006)に基づく軽負荷寿命試験の方法で、充放電サイクル試験を行い、30秒目電圧が7.2V以下となった時のサイクル数を測定する。なお、表1の充電受入性、電池寿命は、比較例1の値を100とした場合の相対値(相対結果)を表示した。
【0043】
【0044】
表1の結果から以下のことが分かった。
(1)本発明の実施例1のセパレータは、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)を5mg/100cm2/枚以下としたことで、充電受入性が良化するとともに、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)を0.4mg/100cm2/枚以下としたことで、極板格子や極柱の腐食が妨げられ、電池寿命が良化した。
(2)本発明の実施例2のセパレータは、実施例1のセパレータに対し、更に、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)を4mg/100cm2/枚以下としたことで、充電受入性が更に良化した。
(3)本発明の実施例3のセパレータは、実施例1のセパレータに対し、更に、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)を0.1mg/100cm2/枚以下としたことで、電池寿命が更に良化した。
(4)よって、本発明の実施例1~3のセパレータを自動車用鉛蓄電池に適用すれば、アイドリングストップ車で求められる充電受入性および電池寿命の向上に寄与すると考えられる。
(5)比較例1のセパレータは、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚超えであることから、充電受入性は100%と改善が見られず、また、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚超えであることから、極板格子や極柱の腐食が促進され、電池寿命は100%と改善が見られなかった。
(6)比較例2のセパレータは、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)を0.4mg/100cm2/枚以下としたことで、極板格子や極柱の腐食が妨げられ、電池寿命が良化したものの、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)が5mg/100cm2/枚超えであることから、充電受入性は100%と改善が見られなかった。
(7)比較例3のセパレータは、アルカリ金属分の濃度(ICP発光分光分析)を5mg/100cm2/枚以下としたことで、充電受入性が良化したものの、ハロゲン分の濃度(ICP発光分光分析)が0.4mg/100cm2/枚超えであることから、極板格子や極柱の腐食が促進され、電池寿命は100%と改善が見られなかった。