(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】炭素繊維の製造方法及び炭素繊維複合ボトル
(51)【国際特許分類】
D06M 10/00 20060101AFI20240228BHJP
D01F 9/12 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
D06M10/00 L
D01F9/12
D06M10/00 A
(21)【出願番号】P 2022115358
(22)【出願日】2022-07-20
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 龍田
(72)【発明者】
【氏名】謝 政江
(72)【発明者】
【氏名】余 明璋
(72)【発明者】
【氏名】周 政均
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-231267(JP,A)
【文献】特開平05-044155(JP,A)
【文献】特開2011-202297(JP,A)
【文献】特開2014-122312(JP,A)
【文献】特開2009-114578(JP,A)
【文献】国際公開第2010/143681(WO,A1)
【文献】米国特許第05462799(US,A)
【文献】米国特許第06190481(US,B1)
【文献】特開平01-092470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M、D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を陽極として
、硫酸、リン酸
、又は重炭酸アンモニウム
であり、導電率値が250~700ms/cmである電解液に入れる工程と、
表面処理を行い、陽極電解による活性酸素によって前記炭素繊維の表面を酸化して、酸素含有官能基を導入する工程
であって、前記表面処理において供給される電気量が15~25クーロン/グラムである工程と、を含む炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
前記炭素繊維は、レーヨン繊維、ピッチ繊維、又はポリアクリロニトリル繊維である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
前記電解液は、温度が15~40℃に制御される請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理において、電圧を5~40Vに制御することを含む請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項5】
前記表面処理の時間は5~90秒である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項6】
タイプ3のボトル又はタイプ4のボトルであるボトル本体と、
前記ボトル本体を覆い、表面酸素濃度が5~35%であり、表面粗さが5~25ナノメートルである炭素繊維と、を含
み、
前記炭素繊維は、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素繊維の製造方法により製造されたものである炭素繊維複合ボトル。
【請求項7】
前記炭素繊維の引張強さは5100MPaよりも大きい請求項
6に記載の炭素繊維複合ボトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維の製造方法に関し、特に、炭素繊維複合ボトルを製造する炭素繊維の製造方法、及び炭素繊維複合ボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、高強度、高弾性率、高温耐性、耐摩耗性、耐食性、電気伝導性、熱伝導性等の特性を持つ高性能繊維の強化材であり、繊維の柔らかな加工性と炭素材料の強い引張強さの両方を備えている。近年、生産技術の向上と生産規模の拡大に伴い、炭素繊維は、新しい繊維機械、炭素繊維複合コアケーブル、風力発電ブレード、炭素繊維複合ボトル、油田掘削、医療機器、自動車部品、建築補強材、スポーツ用品などの分野にも応用されている。従来の航空宇宙分野であろうと、自動車部品や風力タービンブレードなどの新しい市場であろうと、炭素繊維の用途は徐々に拡大する傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
炭素繊維と樹脂の複合材料の高性能を追求するために、炭素繊維自体の強度と弾性率の優れた機械的特性を発揮するだけでなく、樹脂との接着性に関わるため、表面特性を向上させることは、炭素繊維の製造に不可欠な重要なプロセスである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた機械的性質及び基層樹脂との界面特性が改善された繊維を製造し、そしてこの特性が得られる電気化学的酸化法、すなわち表面処理法を提供することにある。
【0005】
本開示のいくつかの実施形態の炭素繊維の製造方法は、炭素繊維を陽極として、硫酸、リン酸、又は重炭酸アンモニウムであり、導電率値が250~700ms/cmである電解液に入れる工程と、表面処理を行い、陽極電解による活性酸素によって炭素繊維の表面を酸化して、酸素含有官能基を導入する工程であって、表面処理において供給される電気量が15~25クーロン/グラムである工程と、を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の製造方法において、炭素繊維は、レーヨン繊維、ピッチ繊維、又はポリアクリロニトリル繊維である。
【0008】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の製造方法において、電解液は、温度が15~40℃に制御される。
【0009】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の製造方法において、表面処理において、電圧を5~40Vに制御することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の製造方法において、表面処理の時間が5~90秒である。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態は、タイプ3のボトル又はタイプ4のボトルであるボトル本体と、ボトル本体を覆い、表面酸素濃度が5~35%であり、表面粗さが5~25ナノメートルである炭素繊維と、を含む炭素繊維複合ボトルを提供する。炭素繊維は、上記の炭素繊維の製造方法により製造されたものである。
【0014】
いくつかの実施形態において、炭素繊維複合ボトルにおいて、炭素繊維の引張強さが5100MPaよりも大きい。
本発明の上記及び他の目的、特徴、メリット及び実施例をより分かりやすくするために、添付図面の説明は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態による炭素繊維の製造方法を示すフローである。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による電解装置を示す模式図である。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による炭素繊維の位置と表面粗さの関係を示す特性図である。
【
図4】本開示のいくつかの実施形態による炭素繊維複合ボトルを製造するフローである。
【
図5A】本開示のいくつかの実施形態によるタイプ3のボトルの炭素繊維複合ボトルを示す模式的部分断面図。
【
図5B】本開示のいくつかの実施形態によるタイプ4のボトルの炭素繊維複合ボトルを示す模式的部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
理解すべきなのは、以下の内容は、本開示内容の異なる特徴を実施するための多くの異なる実施形態又は実施例を提供する。特定の素子及び配列の実施例は、本開示内容を制限しなく簡素化するために使用される。もちろん、これらの説明は、実施例だけであり、制限するためのものではない。例えば、以下のように第1の特徴を第2の特徴に形成する記述には、両者が直接接触することと、直接接触せずに他の特徴が両者の間に介在されることと、を含む。また、本開示内容は、複数の実施例で数字及び/又は符号を繰り返し参照する場合がある。このような繰り返しは、記述を簡単化及び明確化するためのものであり、検討された異なる各実施例及び/又は配列の間の関係を示すためのものではない。
【0017】
本明細書で使用されている用語は、一般的に当業界及び使用される文脈において通常の意味を表している。本明細書で論じられる任意の用語の例を含む本明細書で使用される例は、例示だけであり、本開示内容又は任意の例示的な用語の範囲及び意味を限定するものではない。同様に、本開示内容は、本明細書で提供されるいくつかの実施形態に限定されない。
【0018】
理解すべきなのは、本文では、第1の、第2のなどの用語を使用して様々な素子を説明することができるが、これらの素子はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある素子を別の素子と区別するために使用される。例えば、本実施形態の範囲から逸脱しない限り、第1の素子は、第2の素子と呼ばれてよく、同様に、第2の素子は、第1の素子と呼ばれてよい。
【0019】
本文において、用語「及び/又は」は、1つ又は複数の関連付けられる項目の任意及び全ての組み合わせを含む。
【0020】
本文において、用語「含む」、「含有する」、「有する」等は、開放的な用語と解釈されるべき、即ち、「含むがそれに限定されない」という意味である。
【0021】
炭素繊維の含有量が90%以上と高く、繊維表面自体の活性が低く、特別な処理をせずに加工プロセスの中間製品や複合材料に直接適用されると、製品の性能は不十分である。一般的に、炭素繊維は、高温で炭化された後、繊維の表面反応性を向上させるために通常表面処理プロセスが施される。本開示は、表面が活性化された炭素繊維を提供し、これを使用して、タイプ3のボトル又はタイプ4のボトルなどの炭素繊維複合ボトルを製造することができる。
【0022】
炭化された繊維は、表面が基本的に炭素原子で構成されているため、化学的不活性が強いが、繊維が樹脂などの基材と配合する必要があり、その表面に適切な活性が求められるので、表面酸化処理により繊維表面の酸素含有活性官能基の数を増やす必要がある。多くの酸化方法があるが、電気化学的酸化法は主に工業で使用される。電気化学的酸化処理において、炭素繊維の電気伝導率を利用して、炭素繊維を陽極として電解液に入れ、陽極電解による活性酸素によって炭素繊維の表面が酸化されて、それによって酸素含有官能基が導入されて、複合材料の界面結合性能を改善する。
【0023】
図1を参照すると、いくつかの実施形態による炭素繊維の製造フローを示す。まず、炭素繊維の製造フロー100の工程110において、原糸を提供する。
【0024】
いくつかの実施形態において、炭素繊維は、レーヨン繊維、ピッチ繊維、又はポリアクリロニトリル繊維であり、特に、ポリアクリロニトリル繊維から炭素繊維前駆体を生産することに最適である。いくつかの実施形態において、炭素繊維前駆体ポリアクリロニトリル繊維の生産プロセスは、湿式紡糸及びドライジェット紡糸によって得られる高性能原糸を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、原糸油剤の付着量は、0.5~3.0重量%の範囲に制御されることが好ましく、0.8~2.0重量%が最適である。油剤の付着量が0.5重量%未満の場合、繊維自体が緩すぎて、炭素繊維焼成プロセスの作業性が低下し、3.0重量%を超える場合、油剤が炭素繊維焼成プロセスの酸化セクションで化学的架橋反応を引き起こす可能性があり、これで、高温炭化セクションに局所的な欠陥が形成されて、繊維製品に毛羽立ちが発生しやすくなる。
【0026】
次に、炭素繊維の製造フロー100の工程120は、炭素繊維の焼成プロセスの酸化セクションであり、空気又は酸素の環境において、200~300℃の温度で酸化反応を行う。いくつかの実施形態において、製造コストが主に考慮されると、空気が使用される。
【0027】
いくつかの実施形態において、酸化セクションにおいて、酸化密度は1.30~1.42g/cm3に制御されることが好ましく、1.33~1.39g/cm3が最適な範囲である。
【0028】
炭素繊維プロセスの酸化セクションの後、炭素繊維の製造フロー100の工程130において、不活性ガスで満たされた環境の低温炭化セクションにより、400~800℃の温度で炭化反応を行う。いくつかの実施形態において、製造コストが主に考慮されると、窒素ガスが使用される。いくつかの実施形態において、炭素繊維の緻密さと欠陥の低減を考慮すると、低温炭化昇温速度は600℃/分間以下であることが好ましく、最適な範囲は400℃/分間以下に制御されているため、炭化反応が激しくなりすぎて炭素繊維の性能が低下することを防ぐことができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、低温炭化セクションで、炭化密度は1.50~1.62g/cm3に制御されることが好ましく、1.53~1.59g/cm3が最適な範囲である。
【0030】
次に、炭素繊維の製造フロー100の工程140は、高温炭化セクションである。いくつかの実施形態において、高温炭化は、製造コストが考慮されると、窒素ガスが使用される。いくつかの実施形態において、高温炭化セクションの温度範囲は900~2000℃である。炭素繊維の性能観点からみると、炭化の最高温度は1200℃を超えることが好ましく、1300~1400℃の範囲に制御されることが最適である。
【0031】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の緻密さと欠陥の低減を考慮すると、炭化温度昇温速度は600℃/分間以下であることが好ましく、最適な範囲は400℃/分間以下に制御されているため、炭化反応が激しくなりすぎることを防ぐことができ、性能が高い炭素繊維が得られる。
【0032】
次に、炭素繊維の製造フロー100の工程150において、表面処理を行い、表面酸化により官能基が導入される。表面処理の工程の詳細は後で説明される。
【0033】
炭素繊維は、表面処理された後、炭素繊維の製造フロー100の工程160においてスラリー含浸タンク及び乾燥オーブンを通過する。次に、炭素繊維の製造フロー100の工程170において巻き取られて完成品の炭素繊維として取られる。
【0034】
いくつかの実施形態において、下流の複合材樹脂の互換性を満たすために、スラリーは、主にエポキシ樹脂が使用され、スラリーの付着量が、0.5~3.0%の範囲に制御されることが好ましく、0.8~2.0%が最適である。スラリーの付着量が0.5%未満の場合、繊維自体が緩すぎて、下流の複合材の加工時に毛羽立ちが発生しやすくなる。3.0%を超える場合、炭素繊維の集束性が良くなる反面、下流複合材の加工時に繊維開繊性が悪くなる。
【0035】
以下、炭素繊維の製造フロー100の工程150の表面処理を詳しく説明する。炭素繊維の表面酸化程度は、反応温度、電解液濃度、処理時間、及び電気量の大きさを変えることにより制御することができる。
【0036】
図2は、いくつかの実施形態による炭素繊維の表面処理に用いられる表面処理設備を示す。表面処理設備200は、単段式表面処理設備である。表面処理設備200は、処理タンク210と、処理タンク210の第1の側部212の上方にある陽極ローラー220と、処理タンク210における第1の側部212に近い第1の含浸ローラー230と、処理タンク210における第2の側部214に近い第2の含浸ローラー232と、処理タンク210の第2の側部214の上方にあるガイドローラー240と、処理タンク210におけるカソードプレート250と、を含む。電解液260は、処理タンク210の中にあり、第1の含浸ローラー230及び第2の含浸ローラー232を部分的に沈め、且つカソードプレート250を完全的に沈める。
【0037】
図2に示すように、炭素繊維270は、処理タンク210の第1の側部212の上に置かれ、陽極ローラー220により処理タンク210に入ってから、第1の含浸ローラー230により電解液260に沈め、次に第2の含浸ローラー232により電解液260から離れてから、また処理タンク210の第2の側部214の上方のガイドローラー240により表面処理設備200から離れる。
【0038】
いくつかの実施形態において、炭素繊維は、単段式又は多段式表面処理設備により、処理の時間及び電気量に応じて、繊維表面の官能基酸素濃度を高めることができる。
【0039】
いくつかの実施形態において、表面処理に使用される電解液は、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、重炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、硝酸カリウム又は類似なものである。電解液の制御は、導電率値が200~3000ms/cmであることが好ましく、その後の洗浄効率と電解装置の寿命を考慮すると、300~2500ms/cmの導電率値が最適な範囲である。
【0040】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の表面処理は、硫酸、リン酸及び重炭酸アンモニウムが電解液として用いられ、生産作業性がよく、性能が優れた炭素繊維を製造することができる。
【0041】
電解液の温度が高いほど、電子伝導効率が高くなり、それによって電解処理の効率が向上される。いくつかの実施形態では、電解液の温度を15~40℃に制御することが好ましく、特に20~30℃に制御することが最適である。電解液の温度が40℃を超える場合、電解液における水分が蒸発しやすくなり、電解液が濃縮され、電解液の均一性を維持しにくく、炭素繊維がこの表面処理装置を通過した後、繊維品質が非常に不安定になる。
【0042】
いくつかの実施形態において、表面処理の電圧が5~40Vに制御されることが好ましい。生産中に、電圧が高すぎると、人員の操作や安全性に影響を与えるため、5~20Vの低電圧での電圧制御が最適である。
【0043】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の表面処理によって供給される電気量が3~40クーロン/グラムの範囲であることが好ましく、特に、10~30クーロン/グラムが最適である。供給される電気量が3クーロン/グラム未満の場合、炭素繊維の表面酸素濃度は明らかに不足であり、基層樹脂界面と結合することに不利であり、テスト用炭素繊維巻き複合ボトルの爆破強度が低い。供給される電気量が40クーロン/グラムを超える場合、電解強度が高すぎて繊維が損傷しやすくなり、繊維内部の穴の露出及び表面粗さが大きすぎるという問題が発生し、炭素繊維の表面欠陥の増加による自体強度の低下を引き起こす。
【0044】
いくつかの実施形態において、炭素繊維の表面処理時間は、生産作業性を考慮すると、5~90秒に制御されることが好ましく、特に10~50秒に制御されることが最適である。処理時間が5秒未満の場合、繊維表面の酸素含有量が明らかに不足であり、基層樹脂界面と結合することに不利であり、炭素繊維巻き複合ボトルの爆破強度が低い。処理時間が90秒を超える場合、電解効率が大きすぎて繊維が損傷しやすくなり、繊維内部の欠陥の露出及び表面粗さが大きすぎるという問題が発生し、炭素繊維の表面欠陥の増加による自体強度の低下を引き起こす。
【0045】
いくつかの実施形態において、表面処理された後、炭素繊維物性、炭素繊維表面の官能基酸素濃度O1S/C1S、及び炭素繊維の表面粗さRaを測定する。
【0046】
いくつかの実施形態において、日本JIS R-7608標準に基づいて、炭素繊維の引張強さ及び引張弾性率を6回以上連続して測定し、平均値を取る。
【0047】
いくつかの実施形態において、表面処理された後、炭素繊維は引張強さが少なくとも5100MPaよりも大きいことが好ましく、強度が5300MPaを超えることが最適である。引張強さは変動係数が少なくとも5.0%以下に制御される。
【0048】
いくつかの実施形態において、炭素繊維表面の官能基酸素濃度は、O1S/C1S(以下、表面酸素濃度と称される)であり、X線光電子分光計(型番ESCALAB、220i XL)によって測定される。炭素繊維を治具台に固定して、通常の操作工程に従って測定する。O1Sピーク面積は結合エネルギー528eV~540eVの範囲で統合され、C1Sピーク面積は結合エネルギー282eV~292eVの範囲で統合され、炭素繊維表面の官能基酸素濃度は即ちO1S/C1S比であり、6回連続して測定して平均値を取る。
【0049】
いくつかの実施形態において、表面処理された後、炭素繊維の表面酸素濃度は、5~45%に制御されることが好ましく、基層樹脂界面との化学結合力は10~35%の範囲が最適であると考えられる。炭素繊維表面の酸素濃度が5%未満の場合、基層樹脂界面と結合することに不利であり、炭素繊維巻き複合ボトルの爆破強度が低い。表面酸素濃度が45%を超える場合、炭素繊維と基層樹脂との化学結合力が良くなりすぎ、局所的な応力集中点が発生しやすく全体の性能が低下することを引き起こす。
【0050】
いくつかの実施形態において、原子間力顕微鏡(AFM)によりミクロンオーダー炭素繊維の表面に対して形状観察及び粗さ分析の方法を行う。本方法は、型番がBruker Dimension ICONのものによりサンプルの微細構造の表面形状分析を行い、適用モードがタッピングモード(Tapping mode)である。
図3は、炭素繊維の表面図を示し、表面粗さRaが
図3に示すとおりである。いくつかの実施形態において、表面粗さは基準長さLの範囲内に定義され、中心線平均粗さに対して、機器測定により6回以上平均値を取る。
【0051】
いくつかの実施形態において、表面処理された後、炭素繊維の表面粗さRaは5~35nmに制御されることが好ましく、基層樹脂界面との物理的結合力を考慮すると、表面粗さRaは7~30nmの範囲に制御されることが最適であり、10~25nmの範囲に制御されることが最も好ましい。炭素繊維の表面粗さが5nm未満の場合、基層樹脂界面と結合することに不利であり、炭素繊維巻き複合ボトルの爆破強度が低い。表面粗さが35nmを超える場合、炭素繊維と基層樹脂との物理的結合力が高すぎ、繊維が後段の複合材料の生産加工時に、樹脂含浸時の開繊性が悪くなり、炭素繊維巻き複合ボトルの爆破強度の変異が向上する。
【0052】
図4を参照すると、いくつかの実施形態による炭素繊維複合ボトルの製造フローを示す。まず、炭素繊維複合ボトルの製造フロー400の工程410において、表面処理された炭素繊維を提供する。
【0053】
次に、工程420において、炭素繊維に対して、樹脂含浸プロセスを行う。
【0054】
次に、工程430において、炭素繊維をガスボンベ巻取機に入れて半製品のガスボンベを生産する。
【0055】
次に、工程440において、半製品を硬化させる。
【0056】
次に、工程450において、例えばガスボンベのような炭素繊維複合ボトル成品を生成する。
【0057】
得られた炭素繊維複合ボトルに対して、その後で工程460において品質検査を行い、そして工程470において爆破テストを行う。
【0058】
いくつかの実施形態において、炭素繊維糸は、樹脂タンクでの含浸及び巻取機を経てガスボンベ半製品を生産し、硬化後の製品をさらに加圧して繰り返して爆破テストを6回以上行って平均値を取る。
【0059】
一般的に、ボトル本体のタイプとしては、外層に被覆のないタイプ1のボトル、外層にガラス繊維を被覆したタイプ2のボトル、外層に炭素繊維を被覆したタイプ3のボトル、タイプ4のボトルがあり、これら4種類のボトル本体の分類を表1に示す。
【0060】
【0061】
いくつかの実施形態において、炭素繊維複合ボトルのタイプは、例えば、レジャー娯楽用ペイントボンベ、医療用酸素ボンベ、消防設備用ガスボンベ、又は交通輸送用燃料ボンベのような、全てのタイプ3のボトル及びタイプ4のボトルを含む。
【0062】
図5Aは、タイプ3のボトルを示す模式図である。炭素繊維複合ボトル510は、ボトル本体512及び炭素繊維514を含む。ボトル本体512の材料は、アルミニウム材料である。炭素繊維514は、環状、螺旋状の2種類の方式でボトル本体512に巻き取られる。
【0063】
図5Bは、タイプ4のボトルを示す模式図である。炭素繊維複合ボトル520は、ボトル本体522及び炭素繊維524を含む。ボトル本体522の材料は、今回のテストにおいて高密度ポリエチレン(HDPE)を採用する。炭素繊維524は、環状、螺旋状の2種類の方式でボトル本体522に巻き取られる。
【0064】
以下の表2は、炭素繊維を異なる表面処理条件で処理し、各プロセスの作業性、及び得られた炭素繊維の表面酸素濃度、表面粗さ、炭素繊維強度、及び炭素繊維爆破ボトル強度の比較をするテストを示す。
【0065】
【0066】
本テスト用炭素繊維複合ボトルは、容積が2リットルであり、医療用ガスボトルに用いられることができる。
【0067】
実施例1、2及び3において、炭素繊維の表面処理電解液は、それぞれ硫酸、重炭酸アンモニウム、及びリン酸を採用し、一段の表面処理装置により、導電率値が250~700ms/cmに調整され、供給された電気量が15~25クーロン/グラムであり、炭素繊維表面の官能基酸化度が15~22%であり、十分な酸素濃度が提供されて基層樹脂との化学結合力を強化させる。なお、炭素繊維の表面粗さが16~19.2nmであり、表面欠陥が小さく、炭素繊維の強度が5225MPa以上に達し、炭素繊維複合ボトルを製造して爆破テストを行い、爆破強度がいずれも設計基準の1000barよりも高い。
【0068】
比較例1、2及び4において、硫酸及び重炭酸アンモニウム電解液を採用して、高すぎる導電率及び処理電気量により、炭素繊維表面の官能基酸素濃度及び粗さが大きすぎることを引き起こして、その性能を低下させる。
【0069】
比較例3において、重炭酸アンモニウム電解液を採用して、処理電気量が低すぎて、炭素繊維表面の官能基酸素濃度が不足となることを引き起こし、テスト用炭素繊維複合ボトルの爆破強度が低く、設計基準の1000barに達すことができない。
【0070】
比較例5において、重炭酸アンモニウムを採用して、導電率が2600mc/cmと高く、逆に表面処理装置の周りの環境揮発性有機物(VOC)の問題を引き起こし、電解タンクの上方に吸気排気フードを増設したが、臭気が外部に散逸し、プロセス作業性が悪くなる。
【0071】
本開示は、炭素繊維の製造方法を提供し、得られた炭素繊維が表面処理により活性化された後、炭素繊維複合ボトルの製造に用いられることができ、この複合ボトルは軽量化、耐用年数が長く、耐食性に優れ、及び充填媒体を汚染しない等の利点を有し、例えば、レジャー娯楽用ペイントボンベ、医療用酸素ボンベ、消防設備用ガスボンベ、又は交通輸送用燃料ボンベのような、タイプ3のボトル又はタイプ4のボトルに広く用いられることができる。
【0072】
以上、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0073】
100:炭素繊維の製造フロー
110、120、130、140、150、160、170:工程
200:表面処理設備
210:処理タンク
212:第1の側部
214:第2の側部
220:陽極ローラー
230:第1の含浸ローラー
232:第2の含浸ローラー
240:ガイドローラー
250:カソードプレート
260:電解液
270:炭素繊維
400:炭素繊維複合ボトルの製造フロー
410、420、430、440、450、460、470:工程
510:炭素繊維複合ボトル
512:ボトル本体
514:炭素繊維
520:炭素繊維複合ボトル
522:ボトル本体
524:炭素繊維
L:基準長さ
Ra:表面粗さ