IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

特許7445007摩擦攪拌点接合方法及びこれを用いた接合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】摩擦攪拌点接合方法及びこれを用いた接合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/06 20060101AFI20240228BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B29C65/06
B23K20/12 310
B23K20/12 364
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022548351
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033304
(87)【国際公開番号】W WO2022054905
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020153148
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】波多野 遼一
(72)【発明者】
【氏名】上向 賢一
(72)【発明者】
【氏名】深田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】春名 俊祐
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/145243(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049813(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/050002(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179661(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0318239(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/06
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピンと、前記ピンが内挿される中空部を備えたショルダとを含む、複動式の摩擦攪拌点接合用のツールを用いて、第1部材及び第2部材を含む熱可塑性樹脂部材の重なり部を接合する摩擦攪拌点接合方法であって、
第1厚さを有する前記第1部材を前記ツールが最初に圧入される側に、第2厚さを有する前記第2部材を前記ツールが最後に圧入される側に各々配置して、前記重なり部を形成し、
少なくとも前記ピン又は前記ショルダを軸回りに回転させながら、前記ピン又は前記ショルダの一方を前記重なり部へ圧入すると共に、前記圧入で溢れた樹脂材料を逃がすように他方を前記重なり部から退避させ、
前記圧入を、前記ピン又は前記ショルダが前記第1部材を貫通し、且つ、前記第2部材を貫通若しくは前記第2部材の前記第1厚さ以上に相当する深さに到達するまで継続し、
前記ピン又は前記ショルダのうち、前記圧入を行った前記一方を前記重なり部から退避させると共に、退避させた前記他方を前記重なり部に接近させることで、逃がした前記樹脂材料を前記圧入の領域に埋め戻すことで、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦攪拌点接合によって接合した部分であって、摩擦攪拌接合されていない前記第1部材および前記第2部材である母材部分に対する境界となる側周面を有する攪拌接合部と、前記側周面と前記第2部材とが融着した縦接合部と、を形成する、
摩擦攪拌点接合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌点接合方法において、
前記重なり部が前記第1部材及び前記第2部材の二層で構成され、且つ、前記第1厚さと前記第2厚さとが同一の厚さであるとき、
前記圧入の深さを前記第1厚さの2倍に設定することで、ピン又は前記ショルダが前記第1部材及び前記第2部材の双方を貫通するまで、前記圧入を継続させる、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦攪拌点接合方法において、
前記重なり部が前記第1部材及び前記第2部材の二層で構成され、且つ、前記第2厚さが前記第1厚さよりも厚いとき、
前記圧入の深さを前記第1厚さの2倍以上に設定することで、ピン又は前記ショルダが前記第1部材を貫通し、且つ、少なくとも前記第2部材の前記第1厚さ以上に相当する深さに到達するまで、前記圧入を継続させる、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項4】
請求項1に記載の摩擦攪拌点接合方法において、
前記重なり部が前記第1部材及び前記第2部材の二層で構成され、且つ、前記第2厚さが前記第1厚さよりも薄いとき、
前記圧入の深さを前記第1厚さと前記第2厚さの加算値に設定することで、ピン又は前記ショルダが前記第1部材及び前記第2部材の双方を貫通するまで、前記圧入を継続させる、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項5】
請求項1に記載の摩擦攪拌点接合方法において、
前記重なり部が、前記第1部材と前記第2部材との間に、1以上の熱可塑性樹脂部材を介在させて形成される重なり部である、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の摩擦攪拌点接合方法において、
少なくとも前記第1部材及び前記第2部材の一方が、前記ツールの圧入方向に重ねられた複数枚のプレートからなる、摩擦攪拌点接合方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂成形体からなる第1部材と第2部材とを含む接合体であって、
第1厚さを有する前記第1部材が重なり方向の一端側に、第2厚さを有する前記第2部材が重なり方向の他端側に配置されるように重なり合う重なり部と、
前記重なり部に設けられ、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦攪拌点接合によって接合する部分であって、摩擦攪拌接合されていない前記第1部材および前記第2部材である母材部分に対する境界となる側周面を有する攪拌接合部と、
前記側周面と前記第2部材とが融着した縦接合部と、を備え、
前記攪拌接合部は、前記第1部材を貫通し、且つ、前記第2部材を貫通若しくは前記第2部材の前記第1厚さ以上に相当する深さに到達している、接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の接合体において、
前記重なり部が、前記第1部材と前記第2部材との間に、1以上の熱可塑性樹脂部材を介在させて形成される重なり部である、接合体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の接合体において、
少なくとも前記第1部材及び前記第2部材の一方が、前記重なり方向に重ねられた複数枚のプレートからなる、接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複動式の摩擦攪拌点接合用のツールを用いて、複数の熱可塑性樹脂部材の重なり部を接合する摩擦攪拌点接合方法、及びこれを用いた接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機、鉄道車両又は自動車などの構造物の構成部材として、金属製の部材だけでなく、熱可塑性の樹脂部材が用いられることがある。剛性が必要な構造物の場合には、繊維強化材が混合された熱可塑性の樹脂成形体が用いられる。前記構造物の製造に際しては、2つの部材の接合が必要となる場合がある。この接合の手法の一つとして、摩擦攪拌点接合が知られている。摩擦攪拌点接合は、点接合される2つの部材の重なり部に、回転するツールを圧入して摩擦攪拌し、両部材を点接合する攪拌接合部を形成する。
【0003】
点接合される部材がアルミニウム等の金属部材である場合、前記ツールの前記重なり部への圧入深さは、部材同士の接合面付近に設定される。例えば、金属からなる上板及び下板を摩擦攪拌点接合する場合、前記上板側から圧入されるツールの圧入深さは、前記上板と前記下板との接合面、若しくは前記接合面よりもやや下板側に入り込む程度に設定される。なお、特許文献1には、表面保護層を有するアルミニウム板を接合する場合に、前記表面保護層の成分を攪拌接合部の中央に集中させるため、ツールを下板側に1mm以上圧入する摩擦攪拌点接合方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、摩擦攪拌点接合される部材が熱可塑性樹脂部材である場合、上述の金属部材の接合と同様に、ツールの圧入深さを上板と下板との接合面付近とする方法では、接合強度が十分に得られない場合があることが判明した。その原因は、攪拌接合部とその周囲の樹脂部材との融着強度にあることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6650801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、複数の熱可塑性樹脂部材の重なり部を摩擦攪拌点接合するに際し、その接合強度を十分に確保することができる摩擦攪拌点接合方法、及びこれを用いた接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の局面に係る摩擦攪拌点接合方法は、ピンと、前記ピンが内挿される中空部を備えたショルダとを含む、複動式の摩擦攪拌点接合用のツールを用いて、第1部材及び第2部材を含む熱可塑性樹脂部材の重なり部を接合する摩擦攪拌点接合方法であって、第1厚さを有する前記第1部材を前記ツールが最初に圧入される側に、第2厚さを有する前記第2部材を前記ツールが最後に圧入される側に各々配置して、前記重なり部を形成し、少なくとも前記ピン又は前記ショルダを軸回りに回転させながら、前記ピン又は前記ショルダの一方を前記重なり部へ圧入すると共に、前記圧入で溢れた樹脂材料を逃がすように他方を前記重なり部から退避させ、前記圧入を、前記ピン又は前記ショルダが前記第1部材を貫通し、且つ、前記第2部材を貫通若しくは前記第2部材の前記第1厚さ以上に相当する深さに到達するまで継続し、前記ピン又は前記ショルダのうち、前記圧入を行った前記一方を前記重なり部から退避させると共に、退避させた前記他方を前記重なり部に接近させることで、逃がした前記樹脂材料を前記圧入の領域に埋め戻す。
【0008】
この摩擦攪拌点接合方法によれば、摩擦攪拌により形成される攪拌接合部が、第1部材に対して厚さ方向の全長(第1厚さ)に亘って接するだけでなく、第2部材に対しても全長(第2厚さ)若しくは第1厚さ以上に亘って接するように形成される。つまり、ツールが最後に圧入される前記第2部材において、その厚さ方向の全長若しくは前記第1厚さ以上の接合幅をもって、円柱状の攪拌接合部の側周面と当該第2部材とが厚さ方向に融着接合される。
【0009】
熱可塑性樹脂部材同士を摩擦攪拌点接合させた場合、前記攪拌接合部のうち前記ツールの圧入先端面が攪拌する先端領域の接合強度が低くなることを、本開示者らは知見した。また、前記攪拌接合部においては、前記第2部材と前記第1部材(又は他の中間部材)との重ね合わせ面付近が応力集中部となり、破壊の起点部となり易い。本開示によれば、この破壊の起点部から、前記第2部材と前記先端領域との境界を離間させ、且つ、前記攪拌接合部の側周面と前記第1部材及び前記第2部材とを融着させることができる。従って、前記第1部材と前記第2部材との接合強度を向上させることができる。
【0010】
本開示の他の局面に係る接合体は、熱可塑性樹脂成形体からなる第1部材と第2部材とを含む接合体であって、第1厚さを有する前記第1部材が重なり方向に一端側に、第2厚さを有する前記第2部材が重なり方向の他端側に配置されるように重なり合う重なり部と、前記重なり部に設けられ、前記第1部材と前記第2部材とを摩擦攪拌点接合によって接合する攪拌接合部と、を備え、前記攪拌接合部は、前記第1部材を貫通し、且つ、前記第2部材を貫通若しくは前記第2部材の前記第1厚さ以上に相当する深さに到達する構成を備える。
【0011】
この接合体によれば、摩擦攪拌点接合によって形成された攪拌接合部が、第1部材に対して厚さ方向の全長(第1厚さ)に亘って接し、且つ、第2部材に対しても全長(第2厚さ)若しくは第1厚さ以上に亘って接する。このため、前記第2部材と前記第1部材(又は他の中間部材)との重ね合わせ面から、低接合強度となり易い攪拌接合部の深さ方向の先端領域が離間された構造とすることができる。従って、前記第1部材と前記第2部材との接合強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、複数の熱可塑性樹脂部材の重なり部を摩擦攪拌点接合するに際し、その接合強度を十分に確保することができる摩擦攪拌点接合方法、及びこれを用いた接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本開示に係る接合方法を実行可能な、複動式の摩擦攪拌点接合装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、同ツールを用いた場合において、ショルダを先行して接合部材の重なり部に圧入させるショルダ先行プロセスを示す図である。
図3図3は、複動式の摩擦攪拌点接合用ツールを用いた場合において、ピンを先行して接合部材の重なり部に圧入させるピン先行プロセスを示す図である。
図4図4は、攪拌接合部と母材との接合強度を説明するための断面図である。
図5A図5Aは、アルミニウム接合部材を摩擦攪拌点接合してなる接合体の断面図である。
図5B図5Bは、図5Aの接合体の引っ張り試験後の断面図である。
図6A図6Aは、熱可塑性樹脂接合部材を、アルミニウム接合部材と同等のツール圧入深さで摩擦攪拌点接合してなる接合体の断面図である。
図6B図6Bは、図6Aの接合体の引っ張り試験後の断面図である。
図7図7は、本開示の実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法の工程チャートを示す図である。
図8図8は、摩擦攪拌点接合される第1部材及び第2部材の構成及び両者の重なり部の形成工程を示す図である。
図9図9は、前記重なり部に対するツールの配置工程を示す断面図である。
図10図10は、前記重なり部へのショルダの圧入工程の第1例を示す断面図である。
図11図11は、前記重なり部へのショルダの圧入工程の第2例を示す断面図である。
図12図12は、前記重なり部へのショルダの圧入工程の第3例を示す断面図である。
図13A図13Aは、3層の接合部材で構成される重なり部への、ショルダの圧入工程を示す断面図である。
図13B図13Bは、3層の接合部材で構成される重なり部への、ショルダの圧入工程を示す断面図である。
図14A図14Aは、本実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された第1部材と第2部材との接合体を示す断面図である。
図14B図14Bは、本実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された第1部材と第2部材との接合体を示す断面図である。
図15A図15Aは、比較例1の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体の断面図である。
図15B図15Bは、図15Aの接合体の引っ張り試験後の断面図である。
図16A図16Aは、比較例2の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体の断面図である。
図16B図16Bは、図16Aの接合体の引っ張り試験後の断面図である。
図17A図17Aは、本開示の実施例の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体の断面図である。
図17B図17Bは、図17Aの接合体の引っ張り試験後の断面図である。
図18図18は、上記比較例1、2及び実施例に係る接合体の接合強度を示すグラフである。
図19A図19Aは、3層の接合部材で構成された接合体と、この接合体に対する荷重方向の一例を示す断面図である。
図19B図19Bは、図19Aの接合体を作成する際のツールの圧入深さを説明するための断面図である。
図20A図20Aは、3層の接合部材で構成された接合体と、この接合体に対する荷重方向の他の例を示す断面図である。
図20B図20Bは、図20Aの接合体を作成する際のツールの圧入深さを説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態を詳細に説明する。本開示に係る摩擦攪拌点接合方法は、熱可塑性の樹脂成形体からなるプレート、フレーム、外装材或いは柱状材等の構造材を、二つ以上重ね合わせて点接合してなる各種接合体の製造に適用することができる。前記樹脂成形体は、炭素繊維等の繊維補強体を含んでいても良い。製造される接合体は、例えば、航空機、鉄道車両又は自動車などの構造物の構成部材となる。
【0015】
[複動式の摩擦攪拌点接合装置の構成]
先ず、図1を参照して、本開示に係る摩擦攪拌点接合方法を実行可能な、複動式の摩擦攪拌点接合装置Mの構成例を説明する。摩擦攪拌点接合装置Mは、複動式の摩擦攪拌点接合用のツール1と、ツール1を回転及び昇降駆動するツール駆動部2と、ツール駆動部2の動作を制御するコントローラCとを含む。なお、図1には「上」「下」の方向表示を付しているが、これは説明の便宜のためであり、実際のツール1の使用方向を限定する意図ではない。
【0016】
ツール1は、ツール固定部によって支持される。前記ツール固定部は、例えば多関節ロボットの先端部とすることができる。ツール1の下端面に対向して、バックアップ15が配置されている。ツール1とバックアップ15との間には、接合対象となる少なくとも二つの熱可塑性樹脂成形体が配置される。図1では、平板プレートからなる第1部材31の一部と、同じく平板プレートからなる第2部材32の一部とが上下方向に重なり合った重なり部30が、ツール1とバックアップ15との間に配置されている例を示している。重なり部30は、第1部材31と第2部材32との間に、一つ又は複数の熱可塑性樹脂成形体がさらに介在されたものであっても良い。
【0017】
ツール1は、ピン11、ショルダ12、クランプ13及びスプリング14を含む。ピン11は円柱状に形成されており、その軸心が上下方向に延びるように配置されている。ピン11は、前記軸心を回転軸Rとして回転が可能であり、且つ、回転軸Rに沿って上下方向に昇降、つまり進退可能である。なお、ツール1の使用時には、回転軸Rと重なり部30における点接合位置Wとが位置合わせされる。
【0018】
ショルダ12は、ピン11が内挿される中空部を備え、円筒状に形成された部材である。ショルダ12の軸心は、回転軸Rであるピン11の軸心と同軸上にある。ショルダ12は、回転軸R回りに回転し、且つ、回転軸Rに沿って上下方向に昇降、つまり進退する。ショルダ12と、前記中空部に内挿されたピン11とは、共に回転軸Rの軸回りに回転しつつ、回転軸R方向に相対移動する。すなわち、ピン11及びショルダ12は、回転軸Rに沿って同時に昇降するだけでなく、一方が下降し他方が上昇するという独立移動を行う。
【0019】
クランプ13は、ショルダ12が内挿される中空部を備え、円筒状に形成された部材である。クランプ13の軸心も、回転軸Rと同軸上にある。クランプ13は、軸回りに回転はしないが、回転軸Rに沿って上下方向に昇降、つまり進退可能である。クランプ13は、ピン11又はショルダ12が摩擦攪拌を行う際に、これらの外周を囲う役目を果たす。クランプ13の囲いによって、摩擦攪拌材料を四散させず、摩擦攪拌点接合部分を平滑に仕上げることができる。
【0020】
スプリング14は、クランプ13の上端側に取り付けられ、クランプ13を重なり部30に向かう方向である下方に付勢している。クランプ13は、スプリング14を介して、前記ツール固定部に取り付けられている。バックアップ15は、接合対象の重なり部30の下面側に当接する平面を備える。バックアップ15は、ピン11又はショルダ12が重なり部30に圧入される際に、当該重なり部30を支持する裏当て部材である。スプリング14で付勢されたクランプ13は、重なり部30をバックアップ15に押し当てる。
【0021】
ツール駆動部2は、回転駆動部21、ピン駆動部22、ショルダ駆動部23及びクランプ駆動部24を含む。回転駆動部21は、モーター及び駆動ギア等を含み、ピン11及びショルダ12を回転軸R回りに回転駆動する。ピン駆動部22は、回転軸Rに沿ってピン11を進退移動、つまり昇降させる機構である。ピン駆動部22は、ピン11の重なり部30への圧入並びに重なり部30からの退避を行うように、ピン11を駆動する。ショルダ駆動部23は、回転軸Rに沿ってショルダ12を進退移動させる機構であって、ショルダ12の重なり部30への圧入並びに退避を行わせる。クランプ駆動部24は、回転軸Rに沿ってクランプ13を進退移動させる機構である。クランプ駆動部24は、クランプ13を重なり部30に向けて移動させ、重なり部30をバックアップ15に押圧させる。この際、スプリング14の付勢力が作用する。
【0022】
コントローラCは、マイクロコンピュータ等からなり、所定の制御プログラムを実行することで、ツール駆動部2の各部の動作を制御する。具体的にはコントローラCは、回転駆動部21を制御して、ピン11及びショルダ12に所要の回転動作を行わせる。また、コントローラCは、ピン駆動部22、ショルダ駆動部23及びクランプ駆動部24を制御して、ピン11、ショルダ12及びクランプ13に、所要の進退移動動作を行わせる。
【0023】
[複動式ツールの使用方法]
続いて、本実施形態で例示しているツール1のような、複動式の摩擦攪拌点接合用ツールの一般的な使用方法について説明しておく。前記使用方法としては、大略的に、ツール1のピン11を先行して接合部材の重なり部へ圧入させるピン先行プロセスと、ショルダ12を先行して接合部材の重なり部へ圧入させるショルダ先行プロセスとがある。なお、後述する本開示の実施形態では、ショルダ先行プロセスが採用される例を示している。もちろん、本開示ではピン先行プロセスも採用可能である。
【0024】
図2は、前記ショルダ先行プロセスによる摩擦攪拌点接合方法のプロセスP11~P14を示す図である。ここでは、第1部材31と第2部材32との二層からなる重なり部30を、摩擦攪拌点接合する場合のプロセスを簡略的に示している。プロセスP11は、重なり部30の予熱工程を示している。第1部材31の表面にツール1の下端を当接させた状態で、ピン11及びショルダ12を軸回りに所定の回転数で回転させる。
【0025】
プロセスP12は、ショルダ12の圧入工程を示している。図中に白抜き矢印にて示すように、ショルダ12を下降させて重なり部30へ圧入させる一方、ピン11を上昇、つまり退避させる。この動作により、ショルダ12の圧入領域の材料が攪拌される。また、矢印a1で示すように、前記圧入によって重なり部30から溢れ出した溢れ出し材料OFが、ピン11の退避によって生じた、ショルダ12内の中空空間に逃がされる。
【0026】
プロセスP13は、溢れ出し材料OFの埋め戻し工程を示している。埋め戻し工程では、ショルダ12を上昇させて退避させる一方で、ピン11を下降させる。ピン11の下降により、矢印a2で示すように、ショルダ12の中空空間に逃がされた溢れ出し材料OFが、重なり部30におけるショルダ12の圧入領域に埋め戻される。
【0027】
プロセスP14は、ならし工程を示している。ピン11及びクランプ13の下端面を第1部材31の表面の高さ位置に復帰させた状態で両者を回転させ、点接合部分を平滑化する。以上のプロセスにより、攪拌接合部4aが形成され、第1部材31及び第2部材32が重なり部30において点接合される。
【0028】
図3は、前記ピン先行プロセスによる摩擦攪拌点接合方法のプロセスP21~P24を示す図である。プロセスP21は、先述のプロセスP11と同様な、重なり部30の予熱工程である。プロセスP22は、ピン11の圧入工程を示している。この圧入工程では、ピン11を下降させて重なり部30へ圧入させる一方、ショルダ12を上昇、つまり退避させる。この動作により、ピン11の圧入領域の材料が攪拌される。また、矢印b1で示すように、前記圧入によって重なり部30から溢れ出した溢れ出し材料OFが、ショルダ12の退避によって生じた、ピン11とクランプ13との間の環状領域に逃がされる。
【0029】
プロセスP23は、溢れ出し材料OFの埋め戻し工程を示している。埋め戻し工程では、ピン11を上昇させて退避させる一方で、ショルダ12を下降させる。ショルダ12の下降により、矢印b2で示すように、前記環状領域に逃がされた溢れ出し材料OFが、ピン11の圧入領域に埋め戻される。プロセスP24は、先述のプロセスP14と同様な、ならし工程を示している。以上のプロセスにより、攪拌接合部4bが形成される。
【0030】
[樹脂成形体を摩擦攪拌点接合する場合の問題点]
摩擦攪拌点接合は、アルミニウム合金のような金属部材同士の接合に汎用されている。接合対象が金属部材である場合、その重なり部30へのツール1の圧入深さは、比較的浅く設定される。図4は、第1部材31及び第2部材32がアルミニウム合金である場合の摩擦攪拌点接合において、一般的に形成される攪拌接合部4Aを示す断面図である。図4では、第1部材31をツール1が対向する上側部材、第2部材32を下側部材とする二層の重なり部30において、図2に示すショルダ先行プロセスによって形成された攪拌接合部4Aを例示している。
【0031】
金属同士の接合の場合、ショルダ12の下端部12Tの重なり部30への進入位置は、第1部材31と第2部材32との合わせ面BDの位置(第2部材32への圧入深さd=0)、乃至は、合わせ面BDから下側の第2部材32に僅かに入り込む位置に設定される。図4では、合わせ面BDの位置を基準として、第2部材32に圧入深さdだけ入り込んだ態様の攪拌接合部4Aを示している。例えば、第1部材31が1.6mm厚、第2部材32が3.0mm厚の2000系アルミニウム合金の場合の摩擦攪拌点接合では、圧入深さd=0.6mmとしたときに高い接合強度が得られることが確認されている。
【0032】
図5Aは、上記で例示したアルミニウム合金からなる第1部材31及び第2部材32を摩擦攪拌点接合してなる接合体3Aの断面図である。攪拌接合部4Aは、第1部材31を貫通し、第2部材32の上部付近に少々入り込んでいる。攪拌接合部4Aの底部は、ツール1の圧入先端面であるショルダ12の下端部12Tが到達した先端領域TAとなる。攪拌接合部4Aと第2部材32とは、専ら先端領域TAにおいて接合されている。
【0033】
図5Bは、接合体3Aの引張せん断試験後の断面図である。当該試験では、接合体3Aを形成している第1部材31と第2部材32とを、重なり方向に互いに引き離すように引張り力が加えられた。図示する通り、接合体3Aを破壊した2つの亀裂Crは、第1部材31及び第2部材32の厚さ方向に各々進展している。すなわち、接合体3Aには、前記引張り力によってプラグ破断が生じたことが判る。先端領域TAと第2部材32とは、互いに接合した状態を維持している。
【0034】
接合体3Aに引っ張り荷重が加えられた場合、図4に示す位置に応力集中部SCが発生する。応力集中部SCは、第1部材31の下面と第2部材32の上面との合わせ面BDと、攪拌接合部4Aの側周面との交点付近に生じる。図5Bに示す亀裂Crは、この応力集中部SCを起点として延伸したことが明白である。このような亀裂Crが発生したことの裏返しとして、攪拌接合部4Aの先端領域TAは第2部材32に強固に接合されていることが判る。
【0035】
本開示者らは、上述の金属部材の摩擦攪拌点接合におけるツール1の圧入深さに関する知見を適用して、熱可塑性樹脂成形体同士を摩擦攪拌点接合することを試みた。しかしながら、十分な接合強度を備える樹脂成形体の接合体を製作することはできなかった。
【0036】
図6Aは、熱可塑性樹脂部材からなる第1部材31及び第2部材32を摩擦攪拌点接合してなる接合体3Bの断面図である。ここでは、補強繊維を含む熱可塑性樹脂シートの積層体によって構成された第1部材31及び第2部材32を用いた接合体3Bを示している。攪拌接合部4Bは、ショルダ12を、第1部材31を貫通し、且つ、金属部材の場合と同様に第2部材32へ0.6mm程度進入するように下降させて形成されたものである。攪拌接合部4Bの側周面41と第1部材31との融着接合、並びに、先端領域TAと第2部材32との融着接合によって、接合体3Bが形成されている。
【0037】
図6Bは、接合体3Bの引っ張り剪断試験後の断面図である。当該試験では、接合体3Bを形成している第1部材31と第2部材32とを、重なり方向に互いに引き離すように引張り力が加えられた。接合体3Bを破壊した亀裂Crは、先端領域TAと第2部材32との境界に生じている。つまり、接合体3Bでは、図5Bで示したようなプラグ破壊ではなく、先端領域TAから第2部材32が剥がれる境界破断が発生している。換言すると、先端領域TA付近の接合強度が低いため、応力集中部SCから亀裂Crが、厚さ方向ではなく前記境界方向に延伸したと言える。このことから、熱可塑性樹脂部材を摩擦攪拌点接合させる場合、ツール1の圧入深さを金属部材の接合の場合に倣って設定したのでは、先端領域TA付近の接合強度が低くなることが判る。なお、接合体3Bを、補強繊維を含まない熱可塑性樹脂部材で形成した場合も同様である。
【0038】
上記の通り、先端領域TA付近の接合強度が低くなる理由は、次の通りであると推定される。一般に、アルミニウムなどの金属材料は樹脂材料に比べて熱伝導率が高い。金属部材の重なり部30に回転するツール1を圧入すると、当該ツール1によって摩擦攪拌される領域が摩擦熱で高温化するだけでなく、その周辺領域の母材も伝熱作用によって高温化する。図5Aの接合体3Aならば、攪拌接合部4Aに加えて、第2部材32の先端領域TAに隣接する周辺領域も高温化する。摩擦攪拌の処理後、攪拌接合部4A並びに前記周辺領域は一様に冷却される。このため、攪拌接合部4A(先端領域TA)と第2部材32との境界部分に残存する熱応力は小さいものとなる。このことが、接合体3Aの接合強度を高くしていると言える。
【0039】
これに対し、樹脂部材の重なり部30の場合には、熱伝導率の低さに起因して、摩擦攪拌領域と、その周辺領域の母材との温度勾配が金属部材の場合に比べて大きくなる。図6Aに例示する接合体3Bならば、攪拌接合部4Bの先端領域TAの周辺に位置する第2部材32の母材部分は、攪拌接合部4Bと同レベルまで高温化し難い。このため、攪拌接合部4Bの先端領域TAとその周辺領域の母材との間には比較的大きな温度勾配が発生する。従って、両者は一様には冷却されず、熱収縮差が生じてしまう。この熱収縮差は、大きな熱応力を発生させる。図6Bに示した先端領域TAと第2部材32との境界に生じた亀裂Crは、前記熱応力によって促進されたものと推定される。
【0040】
以上の検討結果に鑑みて本開示者らは、熱可塑性樹脂部材の重なり部30の接合強度を向上させる手段として、接合体3Bの破壊の起点部となる応力集中部SCと、第2部材32と先端領域TAとの境界とを、可及的に離間させることが有効であることを知見した。以下、かかる知見に基づいた、接合対象を熱可塑性樹脂成形体とする、本開示の実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法の具体例を説明する。
【0041】
[実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法]
図7は、本開示の実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法の工程チャートを示す図である。本実施形態の摩擦攪拌点接合方法は、熱可塑性樹脂成形体からなる第1部材31及び第2部材32を含む重なり部30の接合方法であって、次の工程S1~S5を含む。
・工程S1:第1部材31及び第2部材32を含む重なり部30を形成する。
・工程S2:ツール1を重なり部30の点接合位置Wに配置および回転させる。
・工程S3:ショルダ12の重なり部30への圧入を開始させる。
・工程S4:ショルダ12を所要の圧入深さだけ圧入して摩擦攪拌を行う。
・工程S5:ピン11を下降させて、材料の埋め戻しを行う。
・工程S6:摩擦攪拌部のならしを行う。
【0042】
上記工程S2は、図2に示したプロセスP11の「予熱工程」に、工程S3及びS4はプロセスP12の「圧入工程」に、工程S5はプロセスP13の「埋め戻し工程」に、工程S6はプロセスP14の「ならし工程」に各々相当する。しかしながら、本実施形態では、接合対象が熱可塑性樹脂成形体であることに伴い、工程S4の圧入実行段階において、ツール1の重なり部30への圧入深さが、従前の金属部材の接合とは異なる圧入深さとされる。以下、各工程について具体的に説明する。
【0043】
図8は、上記工程S1の重なり部30の形成工程を示す図である。工程S1では、第1部材31と第2部材32とを、両者の少なくとも一部が互いに当接した状態で重なり合う重なり部30が形成されるように配置する。本実施形態では、プレート状の第1部材31の一部を上側部材、プレート状の第2部材32の一部を下側部材として、両者が上下に重ね合わされた重なり部30を例示している。第1部材31は、重ね合わせ方向に所定の第1厚さt1を有している。第2部材32は、第1厚さt1と同一の第2厚さt2(t1=t2)を有している。本実施形態では、ツール1は重なり部30の上側に配置される。すなわち、第1部材31はツール1が最初に圧入される側に、第2部材32はツール1が最後に圧入される側に各々配置されることで、重なり部30が形成されている。
【0044】
重なり部30には、第1部材31の下面である接合面31Aと、第2部材32の上面である接合面32Aとが直接接触した合わせ面BDが形成されている。このような二層の重なり部30において、ツール1によって、所要の点接合位置Wで第1部材31と第2部材32とが摩擦攪拌点接合されるものとする。重なり部30は、プレートとフレーム(又は柱状材)との重なり部、或いはフレーム同士の重なり部等であっても良い。
【0045】
既述の通り、第1部材31及び第2部材32としては、熱可塑性樹脂成形体が用いられる。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリスチレン(PS)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ABS樹脂、熱可塑性のエポキシ樹脂などを例示することができる。
【0046】
第1部材31及び第2部材32は、上掲の熱可塑性樹脂のみからなる成形体であっても良いし、繊維強化熱可塑性樹脂成形体であっても良い。後者の成形体としては、例えば繊維強化材としての短繊維又は長繊維を熱可塑性樹脂に混合した成形体、連続繊維を所定方向に配列した繊維配列体若しくは連続繊維の織布に熱可塑性樹脂を含浸してなる成形体を例示することができる。本実施形態では、連続繊維の配列体に熱可塑性樹脂を含浸したシートであるプリプレグを多層に積層してなる成形体が、第1部材31及び第2部材32として用いられる例を示す。
【0047】
図8には、第1部材31を構成しているシート積重体33の一部が示されている。シート積重体33は、それぞれ連続繊維の配列体に熱可塑性樹脂を含浸したシートからなる第1シート層33A、第2シート層33B及び第3シート層33Cを含む。第1シート層33Aは、連続繊維34の多数本が所定の配列方向に配列され、その配列体に熱可塑性樹脂を含浸して一体化した、厚さ0.1mm~0.5mm程度のシートである。第2シート層33B及び第3シート層33Cも上記と同様なシートであるが、連続繊維34の配列方向が相互に異なる方向とされている。このように、例えば連続繊維34の配列方向を互いに異なる3軸方向とした3種のシートを多層に積層することで、第1部材31は疑似等方性を備えている。第2部材32も、第1部材31と同様なシートの多層積層体からなるプレートである。
【0048】
連続繊維34としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維或いは有機繊維を用いることができる。図8では、連続繊維34を一方向に配列したシートを例示しているが、連続繊維を縦糸及び横糸として織布を形成した後に熱可塑性樹脂を含浸させるファブリック型のシートを用いても良い。また、連続繊維34に代えて、長さが2mm~20mm程度の長繊維、若しくは短繊維を熱可塑性樹脂に混合させたシート又はプレートを用いることもできる。
【0049】
図9は、上記工程S2のツールの配置工程を示す断面図である。工程S2では、第1部材31及び第2部材32の重なり方向である上下方向にツール1の回転軸Rが沿うように、重なり部30に対してツール1が配置される。この際、回転軸Rが、予め定められた点接合位置Wに位置合わせされた状態で、ツール1の下端面が第1部材31の上面に当接される。また、クランプ13は、スプリング14の付勢力を伴って、重なり部30をバックアップ15に押圧する。位置決めが完了したら、図1に示す回転駆動部21がピン11及びショルダ12を回転軸R回りに回転させる。この回転により、重なり部30におけるピン11及びショルダ12が当接している領域が予熱される。
【0050】
図9は、上記工程S3に示すツール1の圧入開始の状態を示す図でもある。本実施形態では、図2に示した「ショルダ先行プロセス」を採用するので、少なくともショルダ12を軸回りに回転させながら、当該ショルダ12の重なり部30への圧入を開始する。一方、前記圧入で溢れた樹脂材料を逃がすように、ピン11を重なり部30から退避させる。これにより、点接合位置Wにおける摩擦攪拌が開始される。なお、図3に示した「ピン先行プロセス」を採用する場合は、少なくともピン11を軸回りに回転させながら、当該ピン11の重なり部30への圧入を開始する。一方、前記圧入で溢れた樹脂材料を逃がすように、ショルダ12を重なり部30から退避させる。
【0051】
続く工程S4では、実際にショルダ12の重なり部30への圧入が実行される。本実施形態では、第1部材31を上側部材、第2部材32を下側部材として、二層の重なり部30が形成されている。ショルダ12は、第1部材31の上面側から圧入される。ショルダ12の圧入深さ(下降量)は、第1部材31の第1厚さt1と、第2部材32の第2厚さt2との関係に応じて設定される。
【0052】
上記工程S4の圧入は、ショルダ12が第1部材31を貫通し、且つ、第2部材32を貫通する、若しくは、第2部材32の第1厚さt1以上に相当する深さに到達するまで継続される。具体的には、図7で示すように、第1厚さt1と第2厚さt2との関係が、次のケース(1)~(3)の何れであるかが判定され(工程S41)、各ケースに応じてショルダ12の圧入深さが設定される。なお、図3に示した「ピン先行プロセス」を採用する場合、上記工程S4の圧入は、ピン11が第1部材31を貫通し、且つ、第2部材32を貫通する、若しくは、第2部材32の第1厚さt1以上に相当する深さに到達するまで継続される。
・ケース(1);第1厚さt1=第2厚さt2
・ケース(2);第1厚さt1<第2厚さt2
・ケース(3);第1厚さt1>第2厚さt2
【0053】
上記ケース(1)の場合、つまり、第1厚さt1と第2厚さt2とが同一厚さであるとき、ショルダ12の重なり部30への圧入深さは、第1厚さt1の2倍(t1×2)に設定される(工程S42)。この場合、ショルダ12は、第1部材31及び第2部材32の双方を貫通する。ケース(2)の場合、つまり、第2厚さt2が第1厚さt1よりも厚いとき、ショルダ12の圧入深さは、第1厚さt1の2倍以上に設定される(工程S43)。この場合、ショルダ12は、が第1部材31を貫通し、且つ、少なくとも第2部材32の第1厚さt1に相当する深さに到達する。なお、設定され得る最も深い圧入深さは、t1+t2である。ケース(3)の場合、つまり、第2厚さt2が第1厚さt1よりも薄いとき、ショルダ12の圧入深さは、第1厚さt1と第2厚さt2との加算値(t1+t2)に設定される(工程S44)。この場合も、ショルダ12は、第1部材31及び第2部材32の双方を貫通することになる。
【0054】
図8及び図9は、上記ケース(1)を例示している。図10は、ケース(1)における工程S42の、ショルダ12の圧入工程を示す断面図である。工程S42では、ショルダ駆動部23がショルダ12を回転軸Rに沿って下降させ、当該ショルダ12を重なり部30へ圧入させる。一方、ピン駆動部22は、ピン11を上昇させ、当該ピン11を重なり部30に対して回転軸R方向に退避させる。クランプ13は不動である。回転しているショルダ12が重なり部30に圧入されると、当該ショルダ12の圧入領域において重なり部30は摩擦攪拌され、その部分の樹脂成形体材料は軟化する。もちろん、前記圧入領域内に含まれる連続繊維34も粉砕される。
【0055】
ピン11の前記退避によって、ショルダ12の中空部には退避空間が形成される。つまり、ピン11の下端部11Tがショルダ12の下端部12Tに対して上昇することで、ショルダ12の内部にキャビティが生じる。ショルダ12の圧入によって重なり部30から溢れた樹脂成形体材料である溢れ出し材料OFは、ショルダ12の前記中空部に逃がされる。
【0056】
既述の通り、ショルダ12の重なり部30への圧入深さは、第1厚さt1×2である。t1=t2であるので、ツールが最後に圧入される下側の第2部材32へのショルダ12の圧入深さd=t1=t2となる。従って、ショルダ駆動部23は、ショルダ12の下端部12Tが、第1部材31を貫通し、さらに第2部材32の下面に至るまで、つまり第2部材32を貫通するまで、ショルダ12の圧入を継続させる。このような圧入深さdは、重なり部30における第2部材32に、第1部材31の第1厚さt1と同等の厚みを有する攪拌接合部4を形成することを企図したものである。
【0057】
図11は、ケース(2)における工程S43(t1<t2)の、ショルダ12の圧入工程を示す断面図である。ショルダ駆動部23によるショルダ12の下降、並びに、ピン駆動部22によるピン11の上昇の動作は、上述の工程S42と同様である。但し、工程S43では、ショルダ12の重なり部30への圧入深さは、第1厚さt1の2倍以上に設定される。つまり、第2部材32へのショルダ12の圧入深さdが、t2≧d≧t1の範囲内となるように、ショルダ駆動部23はショルダ12の圧入を継続させる。このような圧入深さdは、重なり部30における第2部材32に、少なくとも第1厚さt1と同等以上の厚みを有する攪拌接合部4を形成することを企図したものである。
【0058】
工程S43において圧入深さdを、t2>d≧t1の範囲で選択した場合、ショルダ12の下端部12Tは、第2部材32を貫通しないことになる。しかし、ショルダ12は、第2部材32を第1厚さt1以上に相当する深さ分だけ摩擦攪拌する。一方、圧入深さd=t2に設定した場合、ショルダ12の下端部12Tは、第2部材32を貫通することになる。
【0059】
図12は、ケース(3)における工程S44(t1>t2)の、ショルダ12の圧入工程を示す断面図である。工程S44では、ショルダ12の重なり部30への圧入深さは、第1厚さt1と第2厚さt2との加算値に設定される。つまり、第2部材32へのショルダ12の圧入深さd=t2となる。従って、ショルダ駆動部23は、ショルダ12の下端部12Tが、第1部材31を貫通し、さらに第2部材32を貫通するまで、ショルダ12の圧入を継続させる。このような圧入深さdは、重なり部30における第2部材32に、当該第2部材32の全厚さに相当する攪拌接合部4を形成することを企図したものである。
【0060】
上掲の例では、重なり部30が第1部材31及び第2部材32の二層の接合部材で構成されている例を示したが、本開示は三層以上の接合部材の重なり部30の摩擦攪拌点接合にも適用することができる。すなわち、上述の第1部材31と第2部材32との間に、1以上の熱可塑性樹脂部材を介在させて形成された重なり部30であっても良い。このような重なり部30であっても、上掲のケース(1)~(3)で示したツール1(実施例ではショルダ12)の第2部材32への圧入深さdの考え方を適用することができる。
【0061】
図13A及び図13Bは、三層の接合部材で構成される重なり部30への、ショルダ12の圧入工程を示す断面図である。ここに例示している重なり部30は、第1部材31及び第2部材32と、これら部材の間に介在される熱可塑性樹脂からなる第3部材35とが、上下方向に重ね合わされてなる。当該重なり部30において、第1部材31はツール1を最初に圧入される側、第2部材32はツール1を最後に圧入される側に配置されている。なお、図13A及び図13Bの例では、第3部材35に荷重が加わらないケースを想定している。
【0062】
図13Aは、第1部材31の第1厚さt1と第2部材32の第2厚さt2とが等しい場合(t1=t2)を例示している。つまり、上記のケース(1)に相当する例である。第3部材35は、t1と同等の厚さt3を有する例を示している。なお、第3部材35の厚さt3は、特に第2部材32へのツール1の圧入深さに影響を与えない。この例の場合、重なり部30へのショルダ12の圧入深さは、t1+t2+t3となる。第2部材32へのショルダ12の圧入深さdで言うと、t1となる。t1=t2であるため、圧入深さdはt2とも言える。これにより、ショルダ12の下端部12Tが、第1部材31及び第3部材35を貫通し、さらに第2部材32を貫通するまで、ショルダ12の圧入が行われることになる。
【0063】
図13Bは、第2部材32の第2厚さt2が第1部材31の第1厚さt1よりも厚い場合(t1<t2)を例示している。つまり、上記のケース(2)に相当する例である。第3部材35は、t1とt2の中間に相当する厚さt3を有する例を示している。なお、第3部材35の厚さt3は、特に第2部材32へのツール1の圧入深さに影響を与えない。この例の場合、重なり部30へのショルダ12の圧入深さは、第1厚さt1の2倍に第3部材35の厚さt3を加えた値(t1×2+t3)以上に設定される。第2部材32へのショルダ12の圧入深さdで言うと、d≧t1となる。これにより、ショルダ12の下端部12Tが、少なくとも第1部材31及び第3部材35を貫通し、さらに第2部材32のt1に相当する深さに到達するまで、ショルダ12の圧入が行われる。
【0064】
以上は、第3部材35に荷重が加わらない場合におけるツール1の圧入例である。これに対し、第3部材35に荷重が加わる場合は、その荷重方向に応じて第1部材31又は第2部材32と第3部材35とが一体の部材であると扱って、ツール1の圧入態様が設定される。すなわち、少なくとも第1部材31及び第2部材32の一方が、荷重の加わる方向が同一であってツール1の圧入方向に重ねられた複数枚のプレートからなると扱うことができる。
【0065】
図19Aは、第1部材31、第2部材32及び第3部材35の三層が攪拌接合部4で接合された接合体であって、第3部材35に第2部材32と同方向の荷重が加わる接合体を示している。荷重パターンA1では、第1部材31には右方向への荷重が、第2部材32及び第3部材35には左方向への荷重が加わる例を示している。荷重パターンA2では、第1部材31には上方向への荷重が、第2部材32及び第3部材35には下方向への荷重が加わる例を示している。
【0066】
図19Bは、図19Aの接合体の攪拌接合部4を作成する際のツールの圧入深さを説明するための断面図である。図19Aに示す荷重方向である場合、荷重方向が同一である第2部材32と第3部材35とを、一つの部材と扱うことができる。すなわち、荷重の加わる方向の異なる部材間の合わせ面を境界とし、上側を「第1部材310」、下側を「第2部材320」として、ツール1の圧入深さdが設定される。この例では前記境界が第1部材31と第3部材35との合わせ面であり、第1部材31がそのまま「第1部材310」となり、第2部材32及び第3部材35の積層体が「第2部材320」となる。「第1部材310」の第1厚さT1=t1、「第2部材320」の第2厚さT2=t2+t3である。この場合の「第2部材320」への圧入深さdは、上記ケース(2)の図11の例と同様に、T2≧d≧T1の範囲で設定すれば良い。つまり、このケースでは、第2部材32に対してt1以上の圧入深さが確保されなくとも良い。
【0067】
図20Aは、第1部材31、第2部材32及び第3部材35の三層が攪拌接合部4で接合された接合体であって、第3部材35に第1部材31と同方向の荷重が加わる接合体を示している。荷重パターンB1では、第2部材32には左方向への荷重が、第1部材31及び第3部材35には右方向への荷重が加わる例を示している。荷重パターンB2では、第1部材31及び第3部材35には上方向への荷重が、第2部材32には下方向への荷重が加わる例を示している。
【0068】
図20Bは、図20Aの接合体の攪拌接合部4を作成する際のツールの圧入深さを説明するための断面図である。図20Aに示す荷重方向である場合、荷重方向が同一である第1部材31と第3部材35とを、一つの部材と扱うことができる。この例では荷重方向の境界が第3部材35と第2部材32との合わせ面であり、第1部材31及び第3部材35の積層体が「第1部材310」となり、第2部材32がそのまま「第2部材320」となる。「第1部材310」の第1厚さT1=t1+t3、「第2部材320」の第2厚さT2=t2である。この場合の「第2部材320」への圧入深さdは、上記ケース(3)の図12の例と同様に、d=T2となる。このように、d=T2の圧入によって重なり部30を貫通する攪拌接合部4が形成されるのは、上記ケース(3)に相当するT1>T2の場合、若しくは上記ケース(1)に相当するT1=T2の場合である。上記ケース(2)に相当するT1<T2の場合には、圧入深さdは「第1部材310」の第1厚さT1と同等、つまりd=T1に設定することができる。
【0069】
図7に戻って、以上のようなショルダ12の圧入工程S4が完了したら、当該圧入による溢れ出し材料OFの埋め戻しの工程S5が実行される。工程S5では、ショルダ駆動部23が、図10に示す通り下端部12Tが第2部材32を貫通しているショルダ12を、回転軸Rに沿って上昇、つまり退避させる。一方、ピン駆動部22は、ピン11が重なり部30に接近するように下降させる。最終的には、下端部12Tが第1部材31の上面に至るまでショルダ12が上昇され、下端部11Tが第1部材31の上面に至るまでピン11が下降される。これにより、ショルダ12の中空部内に逃がした樹脂材料、つまり溢れ出し材料OFが、ショルダ12の圧入領域に埋め戻される。
【0070】
その後、上記工程S6のならし工程が行われる。ならし工程では、ピン11の下端部11T及びショルダ12の下端部12Tを面一として、摩擦攪拌された部分の表面を平滑化する作業が行われる。ショルダ12の圧入領域に埋め戻された溢れ出し材料OFが冷却固化することで、第1部材31と第2部材32とを接合する攪拌接合部4が形成される。
【0071】
[接合体の構造]
図14Aは、本実施形態の摩擦攪拌点接合方法により形成された第1部材31と第2部材32との接合体3aを示す断面図である。接合体3は、重なり方向、つまり上下方向の一端側に第1部材31が、他端側に第2部材32が配置されるように重なり合う重なり部30と、重なり部30に設けられた攪拌接合部4aとを備えている。重なり部30において、第1部材31の一部と第2部材32との一部とが、合わせ面BDで互いに当接した状態で重なり合っている。攪拌接合部4aは、第1部材31と第2部材32とが、摩擦攪拌点接合により接合された部分である。
【0072】
図14Aでは、第1部材31の第1厚さt1と第2部材32の第2厚さt2とが等しい(t1=t2)、図10に示す上記ケース(1)について得られた接合体3aを例示している。攪拌接合部4aは、円柱状のツール1の圧入領域を埋めているので、略円柱状の形状を有している。攪拌接合部4aは、ショルダ12の下端部12Tの到達位置に相当する先端領域TAと、重なり部30の攪拌されていない第1部材31及び第2部材32である母材部分との境界となる側周面41とを備えている。
【0073】
攪拌接合部4aは、第1部材31を貫通し、且つ、第2部材32を貫通している。すなわち、先端領域TAは第2部材32の下面に到達する位置にある。また、側周面41は、上面のならし部分の凹部を除いて、第1部材31に対して厚さ方向の全長である第1厚さt1に亘って接合し、且つ、第2部材32に対しても全長である第2厚さt2に亘って接合している。つまり、図6Aに示した比較例とは異なり、ツール1が最後に圧入される第2部材32において、その厚さ方向の全長の接合幅をもって、攪拌接合部4aの側周面41と当該第2部材32とが厚さ方向に融着接合された縦接合部Dを有している。
【0074】
既述の通り、熱可塑性樹脂からなる接合部材を摩擦攪拌点接合させた場合、先端領域TAの接合強度が低くなる。また、攪拌接合部4aにおいては、第1部材31と第2部材32との合わせ面BDと側周面41との交差部付近が応力集中部SCとなり、接合体3aの破壊の起点部となり易い。本実施形態の接合体3aによれば、合わせ面BDの応力集中部SCから、低接合強度となり易い先端領域TAを離間させた構造とすることができる。そして、応力集中部SCと先端領域TAとの間には、攪拌接合部4aの側周面41と第2部材32とが融着した縦接合部Dが、第2厚さt2に相当する長さで延在している。従って、攪拌接合部4aにより、第1部材31と第2部材32とを高い接合強度で接合させることができる。なお、図12に示す上記ケース(3)について得られる接合体も、図14Aと同様である。
【0075】
図14Bは、第1部材31の第1厚さt1より第2部材32の第2厚さt2の方が厚肉である(t1<t2)、図11に示す上記ケース(2)について得られた接合体3bを例示している。接合体3bの攪拌接合部4bも、先端領域TA及び側周面41を備えている。但し、上掲の接合体3aとは異なり、接合体3bの先端領域TAは、第2部材32の下面に到達しておらず、合わせ面BDから圧入深さdだけ第2部材32に進入した位置にある。圧入深さdは、第1厚さt1よりも長い(d>t1)。
【0076】
図14Bの攪拌接合部4bにおいては、先端領域TAが第2部材32と接する部分が形成される。当該部分は低接合強度となり易い。しかし、この先端領域TAは、応力集中部SCから第1厚さt1よりも長い圧入深さdだけ離間した位置に存在しており、両者間には圧入深さdに相当する長さの縦接合部Dが存在している。従って、攪拌接合部4bにより、第1部材31と第2部材32とを高い接合強度で接合させることができる。
【0077】
先に説明した通り、圧入深さdは、第1厚さt1と同一(d=t1)としても良いし、第2厚さt2と同一(d=t2)としても良い。後者の場合は、先端領域TAは、第2部材32を貫通する位置に到達する。但し、t1<t2の関係の場合、d≧t1の関係が満たされていれば、応力集中部SCから先端領域TAが十分に離間された状態となるので、必ずしも第2部材32を貫通する攪拌接合部4bとせずとも、高い接合強度を得ることができる。
【0078】
なお、3層又はそれ以上の多層のプレートにて接合体3が構成される場合は、最上層の第1部材31と最下層の第2部材32との間に、1以上の熱可塑性樹脂部材からなる中間プレートが介在された態様の接合体となる。図13A及び図13Bに例示したように、前記中間プレートが荷重の加わらないと想定された第3部材35である場合には、当該第3部材35は、第1部材31及び第2部材32とは別個の層と扱われ、圧入深さdの設定に関与しない層となる。一方、図19A図20Bに例示したように、第1部材31又は第2部材32と同方向の荷重の加わることが想定された第3部材35の場合は、圧入深さdの設定に関与する層、つまり攪拌接合部4の形態に関与する層となる。この場合、第3部材35は荷重の加わる方向により第1部材31又は第2部材32として扱われ、第1部材31又は第2部材32の少なくとも一方が、複数枚のプレートで構成された接合体3となる。図19A図20Bの例では、ツール1の圧入方向に重ねられた第1部材31及び第3部材35の2枚の積層体が「第1部材310」、若しくは、第3部材35及び第2部材32の2枚の積層体が「第2部材320」である構造を有する接合体3となる。
【0079】
[接合体の引張せん断試験]
接合強度の比較のため、本開示に係る摩擦攪拌点接合方法が適用された接合体(実施例1)と、非適用の接合体(比較例1、2)とを製作し、引張せん断試験を行った。実施例及び比較例1、2において接合材となる第1部材31及び第2部材32としては、厚さ3.3mmの疑似等方積層型の連続繊維CFRTP(Carbon Fiber Reinforced Thermoplastics)材を用いた。各接合体の重なり部30は、第1部材31をツール1が最初に圧入される側に、第2部材32をツール1が最後に圧入される側に配置してなる二層構造とした。重なり部30の摩擦攪拌は、図2に示すショルダ先行プロセスにて行った。
【0080】
図15Aは、比較例1の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体3-1の断面図である。比較例1では、接合体3-1の重なり部30へのショルダ12の圧入深さを3.7mmとして摩擦攪拌を行った。つまり、下側部材である第2部材32へのショルダ12の圧入深さd=0.4mmとした。この摩擦攪拌で得られた攪拌接合部4-1は、その先端領域TAが、合わせ面BDから第2部材32側へ0.4mm程度進入した位置に存在することになる。つまり、応力集中部SCから先端領域TAまでは僅かな距離しか離れていない。図15Bは、比較例1の接合体3-1の引張せん断試験後の断面図である。亀裂Crは、先端領域TAと第2部材32との接合面において発生している。
【0081】
図16Aは、比較例2の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体3-2の断面図である。比較例2では、接合体3-2の重なり部30へのショルダ12の圧入深さを5.1mmとして摩擦攪拌を行った。つまり、第2部材32へのショルダ12の圧入深さd=1.8mmとした。この摩擦攪拌で得られた攪拌接合部4-2は、その先端領域TAが、合わせ面BDから第2部材32側へ1.8mm程度進入した位置に存在することになる。つまり、応力集中部SCから先端領域TAまでは、第2部材32の半分程度の厚み分の距離しか離れていない。図16Bは、比較例2の接合体3-2の引張せん断試験後の断面図である。比較例1と同様に、比較例2においても亀裂Crは、先端領域TAと第2部材32との接合面において発生している。
【0082】
図17Aは、実施例の摩擦攪拌点接合方法により形成された接合体3-3の断面図である。実施例では、接合体3-3の重なり部30へのショルダ12の圧入深さを6.6mmとして摩擦攪拌を行った。つまり、第2部材32へのショルダ12の圧入深さd=3.3mmであって、第2部材32を貫通する圧入深さとした。この摩擦攪拌で得られた攪拌接合部4-3は、その先端領域TAが、第2部材32の下面に相当する位置に存在している。すなわち、応力集中部SCから先端領域TAまでは、第2部材32の厚みに相当する3.3mmだけ離間している。
【0083】
図17Bは、実施例の接合体3-3の引張せん断試験後の断面図である。比較例1、2とは異なり、亀裂Crは、攪拌接合部4-3の側周面41と母材部分との境界部において発生している。つまり、比較例1、2のような境界破断ではなく、プラグ破断によって接合体3-3は破損している。
【0084】
図18は、比較例1、比較例2及び実施例に係る接合体3-1、3-2、3-3の接合強度を示すグラフである。引張せん断試験によって確認された接合体3-1、3-2、3-3の接合強度は、それぞれ2.4kN、2.8kN、3.2kNであった。すなわち、第2部材32に対するショルダ12の圧入深さdが深くなるほど、接合強度が高くなることが確認された。また、実施例の接合体3-3は、比較例1の接合体3-1に比べて30%程度、比較例2の接合体3-2に比べて15%程度、接合強度が向上することが確認された。
【0085】
[作用効果]
以上説明した、本実施形態に係る摩擦攪拌点接合方法によれば、攪拌接合部4が、第1部材31に対して厚さ方向の全長である第1厚さt1に亘って接するだけでなく、第2部材32に対しても厚さ方向の全長である第2厚さt2若しくは第1厚さt1以上に亘って接するように形成される。つまり、ツール1が最後に圧入される第2部材32において、その厚さ方向の全長若しくは第1厚さt1以上の接合幅をもって、攪拌接合部4の側周面41と第2部材32とが厚さ方向に融着接合される。攪拌接合部4の先端領域TAは、熱可塑性樹脂部材同士を摩擦攪拌点接合させた場合に低接合強度となる。また、攪拌接合部4においては、第1部材31と第2部材32との合わせ面BD付近が応力集中部SCとなり、破壊の起点部となり易い。しかし、本実施形態によれば、応力集中部SCから先端領域TAを十分に離間させ、且つ、攪拌接合部4の側周面41と母材部分とを融着させることができる。従って、第1部材31と第2部材32との接合強度を向上させることができる。
【0086】
重なり部30が第1部材31及び第2部材32の二層で構成される場合において、第1厚さt1と第2厚さt2とが同一の厚さであるとき、重なり部30への圧入深さを第1厚さt1の2倍に設定することができる。これにより、ピン11又はショルダ12が第1部材31及び第2部材32の双方を貫通するまで、圧入を継続させる。この摩擦攪拌で形成される攪拌接合部4は、その先端領域TAが第2部材32を貫通する位置まで到達する。従って、応力集中部SCと先端領域TAとを最も離間させることができ、接合強度の向上を達成することができる。
【0087】
重なり部30が第1部材31及び第2部材32の二層で構成される場合において、第2厚さt2が第1厚さt1よりも厚いとき、重なり部30への圧入の深さを第1厚さt1の2倍以上に設定することができる。これにより、ピン11又はショルダ12が第1部材31を貫通し、且つ、少なくとも第2部材32の第1厚さt1以上に相当する深さに到達するまで、圧入を継続させる。この摩擦攪拌で形成される攪拌接合部4は、その先端領域TAが、少なくとも第2部材32の第1厚さt1に相当する深さまで到達する。従って、応力集中部SCと先端領域TAとを、少なくとも第1厚さt1だけ離間させることができる。このため、先端領域TAと第2部材32との境界部での境界破断よりも、プラグ破断を生じ易くすることができ、接合強度を向上させることができる。
【0088】
重なり部30が第1部材31及び第2部材32の二層で構成される場合において、第2厚さt2が第1厚さt1よりも薄いとき、重なり部30への圧入の深さを第1厚さt1と第2厚さt2の加算値に設定することができる。ピン11又はショルダ12が第1部材31及び第2部材32の双方を貫通するまで、圧入を継続させる。この摩擦攪拌で形成される攪拌接合部4は、その先端領域TAが第2部材32を貫通する位置まで到達する。従って、応力集中部SCと先端領域TAとを最も離間させることができ、接合強度の向上を達成することができる。
【0089】
重なり部30が、第1部材31と第2部材32との間に、1以上の熱可塑性樹脂部材を介在させて形成されるものであっても良い。例えば図13A図13Bに示したように、第3部材35を含む三層の重なり部30であっても、ツール1が最後に圧入される第2部材32への圧入深さdについて、二層の場合と同様に扱うことができる。すなわち、仮に第3部材35が荷重を負担するような重なり部30を有する接合体であっても、当該接合体の破断に最も影響を与えるのは、第2部材32への圧入深さdである。従って、三層以上の重なり部30においても、ツール1の圧入を、ピン11又はショルダ12が第1部材31を貫通し、且つ、第2部材32を貫通若しくは第1厚さt1以上に相当する深さに到達するまで行わせることで、高い接合強度を有する接合体3を作製することができる。
【0090】
本実施形態により形成される接合体3によれば、摩擦攪拌点接合によって形成された攪拌接合部4が、第1部材31に対して厚さ方向の全長である第1厚さt1に亘って接し、且つ、第2部材32に対しても厚さ方向の全長である第2厚さt2若しくは第1厚さt1以上に亘って接する。このため、第2部材32と第1部材31、又は第3部材35などの他の中間部材との合わせ面BDから、低接合強度となり易い攪拌接合部4の先端領域TAが離間された構造とすることができる。従って、第1部材31と第2部材32との接合強度を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18
図19A
図19B
図20A
図20B