(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】通信装置、通信方法、及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 28/16 20090101AFI20240228BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20240228BHJP
H04W 28/06 20090101ALI20240228BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20240228BHJP
【FI】
H04W28/16
H04W16/28 130
H04W28/06 110
H04W84/12
(21)【出願番号】P 2023048612
(22)【出願日】2023-03-24
(62)【分割の表示】P 2019036407の分割
【原出願日】2019-02-28
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 雅智
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/160994(WO,A1)
【文献】特表2018-506219(JP,A)
【文献】特表2017-520143(JP,A)
【文献】Kiseon Ryu (LG Electronics),Consideration on multi-AP coordination for EHT, IEEE 802.11-18/1982r1 ,IEEE, インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/18/11-18-1982-01-0eht-consideration-on-multi-ap-coordination-for-eht.pptx>,2019年01月14日
【文献】Sameer Vermani (Qualcomm),Terminology for AP Coordination, IEEE 802.11-18/1926r2 ,IEEE, インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/18/11-18-1926-02-0eht-terminology-for-ap-coordination.pptx>,2018年11月15日
【文献】Lei Huang (Panasonic),considerations on EHT PPDU formats, IEEE 802.11-20/0031r2 ,IEEE, インターネット<URL:https://mentor.ieee.org/802.11/dcn/20/11-20-0031-02-00be-considerations-on-eht-ppdu-formats.pptx>,2020年01月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理レイヤ(PHY)のプリアンブルとデータフィールドとを有する無線フレームを送信する送信手段を有する通信装置であって、
前記プリアンブルは、Legacy Short Training Field(L-STF)と、Legacy Long Training Field(L-LTF)と、Legacy Signal Field(L-SIG)と、前記L-SIGの後に配置されるSignal Fieldと、を含み、
前記プリアンブルにおいて、前記Signal FieldにはBasic Service Set(BSS) colorを設定するフィールドが含まれており、前記通信装置と第1の他の通信装置とが協調して第2の他の通信装置へ前記無線フレームを送信する場合、前記無線フレームに含まれる第1のBSS colorフィールドと前記第1の他の通信装置の送信する無線フレームに含まれる第2のBSS colorフィールドとにおいて同一の値が設定される、
ことを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記通信装置と前記第1の他の通信装置とが協調せずに前記無線フレームを送信する場合、前記第1のBSS colorフィールドと前記第2のBSS colorフィールドとにおいて異なる値が設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
第1のBSSを構築する構築手段をさらに有し、
前記第2の他の通信装置が前記第1のBSSに所属する場合に、前記第1のBSSのBSS colorが前記第1のBSS colorフィールドの値として設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信装置は、前記第1の他の通信装置へ、前記第1のBSSのBSS colorの情報を通知する、ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記通信装置は、前記第1の他の通信装置へ、前記第2の他の通信装置の情報を通知する、ことを特徴とする請求項3に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第2の他の通信装置が前記第1の他の通信装置によって構築された第2のBSSに所属する場合に、前記第2のBSSのBSS colorが前記第1のBSS colorフィールドの値として設定される、ことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項7】
前記通信装置は、前記第1の他の通信装置から、前記第2のBSSのBSS colorの情報を取得する、ことを特徴とする請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
前記通信装置は、前記第1の他の通信装置から、前記第2の他の通信装置の情報を取得する、ことを特徴とする請求項7に記載の通信装置。
【請求項9】
通信装置によって実行される通信方法であって、
物理レイヤ(PHY)のプリアンブルとデータフィールドとを有する無線フレームを送信することを含み、
前記プリアンブルは、Legacy Short Training Field(L-STF)と、Legacy Long Training Field(L-LTF)と、Legacy Signal Field(L-SIG)と、前記L-SIGの後に配置されるSignal Fieldと、を含み、
前記プリアンブルにおいて、前記Signal FieldにはBasic Service Set(BSS) colorを設定するフィールドが含まれており、前記通信装置と第1の他の通信装置とが協調して第2の他の通信装置へ前記無線フレームを送信する場合、前記無線フレームに含まれる第1のBSS colorフィールドと前記第1の他の通信装置の送信する無線フレームに含まれる第2のBSS colorフィールドとにおいて同一の値が設定される、
ことを特徴とする通信方法。
【請求項10】
前記通信装置と前記第1の他の通信装置とが協調せずに前記無線フレームを送信する場合、前記第1のBSS colorフィールドと前記第2のBSS colorフィールドとにおいて異なる値が設定される、ことを特徴とする請求項9に記載の通信方法。
【請求項11】
前記通信方法は、第1のBSSを構築することをさらに含み、
前記第2の他の通信装置が前記第1のBSSに所属する場合に、前記第1のBSSのBSS colorが前記第1のBSS colorフィールドの値として設定される、ことを特徴とする請求項9に記載の通信方法。
【請求項12】
前記第1の他の通信装置へ、前記第1のBSSのBSS colorの情報を通知することをさらに含む、ことを特徴とする請求項11に記載の通信方法。
【請求項13】
前記第1の他の通信装置へ、前記第2の他の通信装置の情報を通知することをさらに含む、ことを特徴とする請求項11に記載の通信方法。
【請求項14】
前記第2の他の通信装置が前記第1の他の通信装置によって構築された第2のBSSに所属する場合に、前記第2のBSSのBSS colorが前記第1のBSS colorフィールドの値として設定される、ことを特徴とする請求項9に記載の通信方法。
【請求項15】
前記第1の他の通信装置から、前記第2のBSSのBSS colorの情報を取得することをさらに含む、ことを特徴とする請求項14に記載の通信方法。
【請求項16】
前記第1の他の通信装置から、前記第2の他の通信装置の情報を取得することをさらに含む、ことを特徴とする請求項15に記載の通信方法。
【請求項17】
コンピュータに、請求項9から16のいずれか1項に記載の通信方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LANにおける通信制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線LAN(Wireless Local Area Network)に関する通信規格として、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11規格が知られている。IEEE802.11規格シリーズのうちの最新規格であるIEEE802.11ax規格では、OFDMA(直交周波数分割多元接続)を用いて、高いピークスループットに加え、混雑状況下での通信速度向上を実現している(特許文献1参照)。
【0003】
現在、さらなるスループット向上のために、IEEE802.11axの後継規格として、IEEE802.11EHT(Extremely High Throughput)と呼ばれるStudy Groupが結成されている。EHTでは、スループット向上を達成するために、複数の空間的に分散して配置されたアクセスポイント(AP)が、協調して単一のSTA(Station)へデータを送信する、Multi-AP Coordination構成が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IEEE802.11ax規格においては、BSS(Basic Service Set) colorという識別情報を用いることが規定されている。通信装置は、自装置が接続しているAPのBSS colorと同じBSS colorが設定されている無線フレームを受信した場合、その無線フレームをIntra-BSSのフレームとして取り扱う。一方、IEEE802.11EHTでは、上述のようにMulti-AP Coordination構成が用いられることが検討されているが、この場合にBSS colorをどのように設定すべきかが明確になっていない。
【0006】
本発明は、複数のアクセスポイントが並行して端末へデータを送信するための設定を適切に実行するための手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による通信装置は、物理レイヤ(PHY)のプリアンブルとデータフィールドとを有する無線フレームを送信する送信手段を有する通信装置であって、前記プリアンブルは、Legacy Short Training Field(L-STF)と、Legacy Long Training Field(L-LTF)と、Legacy Signal Field(L-SIG)と、前記L-SIGの後に配置されるSignal Fieldと、を含み、前記プリアンブルにおいて、前記Signal FieldにはBasic Service Set(BSS) colorを設定するフィールドが含まれており、前記通信装置と第1の他の通信装置とが協調して第2の他の通信装置へ前記無線フレームを送信する場合、前記無線フレームに含まれる第1のBSS colorフィールドと前記第1の他の通信装置の送信する無線フレームに含まれる第2のBSS colorフィールドとにおいて同一の値が設定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のアクセスポイントが並行して端末へデータを送信するための設定を適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】AP及びSTAのハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】AP及びSTAの機能構成例を示す図である。
【
図4】EHT SU PPDUのPHYフレーム構造の例を示す図である。
【
図5】EHT ER PPDUのPHYフレーム構造の例を示す図である。
【
図6】EHT MU PPDUのPHYフレーム構造の例を示す図である。
【
図7】ネットワークにおいて実行される処理の流れの例を示す図である。
【
図8】APにおいて実行される処理の流れの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(ネットワーク構成)
図1に、本実施形態の無線通信ネットワークの構成例を示す。本無線通信ネットワークは、それぞれIEEE802.11EHT(Extremely High Throughput)機器である、アクセスポイント(AP102、AP104)と端末(STA103、STA105)とを含んで構成される。以下では、特定の装置を指さない場合等において、参照番号を付さずに、アクセスポイントを「AP」と呼び、ステーションを「STA」と呼ぶ場合がある。なお、
図1では、一例として2台のAPと2台のSTAとを含んだ無線通信ネットワークを示しているが、これらの通信装置の台数は、例えば3台以上であってもよい。
図1では、AP102及びAP104が形成するネットワークの通信可能範囲が円101によって示されている。なお、この通信可能範囲は、より広い範囲をカバーしてもよいし、より狭い範囲のみをカバーしてもよい。また、
図1においては、IEEE802.11EHT規格に準拠したSTAを図示しているが、IEEE802.11EHT規格より前の世代の規格(レガシー規格)のみをサポートするSTAが存在してもよい。なお、EHTをExtreme High Throughputの略と解してもよい。
【0012】
なお、本例において、AP102とAP104は、相互に他方のAPが送信した信号を受信することができるものとする。なお、接続形態は特に限定されず、AP102とAP104とが、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。AP102及びAP104は、IEEE802.11EHTのMulti-AP Coordination構成をサポートしており、互いに協調して1つのSTAへ並行してデータを送信することができるものとする。例えば、STA105は、協調して動作するAP102及びAP104との間で、並行して無線フレームを送受信することができる。STA105は、例えば複数の無線LAN制御部を有し、複数のAPとの間でそれぞれ別の無線チャネルを用いて無線フレームを送受信することができるように構成されうる。なお、STA105は、複数の無線チャネルを介して並行して受信される複数のフレームを処理可能な物理的に1つの制御部を有してもよい。すなわち、STA105は、物理的に1つまたは複数の制御装置を用いて、論理的に複数の無線通信を並行して処理することができるような構成を有する。
【0013】
(装置構成)
図2は、AP(AP102、AP104)及びSTA(STA103、STA105)のハードウェア構成を示す。これらの通信装置は、そのハードウェア構成の一例として、記憶部201、制御部202、機能部203、入力部204、出力部205、通信部206、及びアンテナ207を有する。
【0014】
記憶部201は、ROM、RAMの両方、または、いずれか一方により構成され、後述する各種動作を行うためのプログラムや、無線通信のための通信パラメータ等の各種情報を記憶する。なお、記憶部201として、ROM、RAM等のメモリの他に、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、DVDなどの記憶媒体が用いられてもよい。
【0015】
制御部202は、例えば、CPUやMPU等のプロセッサ、ASIC(特定用途向け集積回路)、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)等により構成される。ここで、CPUはCentral Processing Unitの、MPUは、Micro Processing Unitの頭字語である。制御部202は、記憶部201に記憶されたプログラムを実行することにより装置全体を制御する。なお、制御部202は、記憶部201に記憶されたプログラムとOS(Operating System)との協働により装置全体を制御するようにしてもよい。
【0016】
また、制御部202は、機能部203を制御して、撮像や印刷、投影等の所定の処理を実行する。機能部203は、装置が所定の処理を実行するためのハードウェアである。例えば、装置がカメラである場合、機能部203は撮像部であり、撮像処理を行う。また、例えば、装置がプリンタである場合、機能部203は印刷部であり、印刷処理を行う。また、例えば、装置がプロジェクタである場合、機能部203は投影部であり、投影処理を行う。機能部203が処理するデータは、記憶部201に記憶されているデータであってもよいし、後述する通信部206を介して他のAPやSTAと通信したデータであってもよい。
【0017】
入力部204は、ユーザからの各種操作の受付を行う。出力部205は、ユーザに対して各種出力を行う。ここで、出力部205による出力とは、例えば、画面上への表示や、スピーカーによる音声出力、振動出力等の少なくとも1つを含む。なお、タッチパネルのように入力部204と出力部205の両方を1つのモジュールで実現するようにしてもよい。
【0018】
通信部206は、IEEE802.11規格シリーズに準拠した無線通信の制御や、IP通信の制御を行う。本実施形態では、通信部206は、少なくともIEEE802.11EHT規格に準拠した処理を実行することができる。また、通信部206はアンテナ207を制御して、無線通信のための無線信号の送受信を行う。装置は、通信部206を介して、画像データや文書データ、映像データ等のコンテンツを他の通信装置と通信する。アンテナ207は、例えば、サブGHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、及び6GHz帯の少なくともいずれかを送受信可能なアンテナである。なお、アンテナ207によって対応可能な周波数帯(及びその組み合わせ)については特に限定されない。アンテナ207は、1本のアンテナであってもよいし、MIMO(Multi-Input and Multi-Output)送受信を行うための2本以上のアンテナのセットであってもよい。また、
図2では、1本のアンテナ207が示されているが、例えばそれぞれ異なる周波数帯に対応可能な2本以上(2セット以上)のアンテナを含んでもよい。アンテナ207は、IEEE 802.11EHT規格のDistributed Coordinaitonの通信に対応可能に構成される。例えば、APは、JTX(Joint Transmission)のためのD-MIMO(Distributed MIMO)の送信が可能となるような構成を有する。
【0019】
なお、JTXは、IEEE802.11EHTから新たに導入される予定のMulti-AP Coordination機能を実現するための1つの要素であり、複数のAPが協調して、並行して1つのSTAへデータを送信することを指す。Multi-AP Coordination機能とは、複数のAPが協調して動作して、STA側の送受信のスループットや信号強度を向上させる機能である。このときの無線技術として、D-MIMOが用いられうる。D-MIMOは、同時刻及び同周波数チャネル(例えばOFDMA(直交周波数分割多元接続)の同じRU(Resource Unit))において、複数のAPが1つのSTAと通信する技術である。D-MIMOによれば、空間利用効率が向上することにより、高速通信を実現することができる。D-MIMOの最小構成は、M-AP(マスタAP)とS-AP(スレーブAP)、及びSTAである。この場合、M-APの制御によって、M-APとS-APの2つのAPが協調して、1つのSTAへ、並行して(同時に)無線フレームを送信する。
【0020】
図3に、AP(AP102、AP104)の機能構成例を示す。APは、一例として、無線LAN制御部301、フレーム生成部302、BSS color設定部303、UI制御部304、記憶部305、及びアンテナ306を有する。
【0021】
無線LAN制御部301は、他の無線LAN装置(例えば他のAPやSTA)との間で無線信号の送受信を行うための回路及びそれらを制御するプログラムを含んで構成される。無線LAN制御部301は、IEEE802.11規格シリーズに従って、フレーム生成部302において生成されたフレームの送信や、他の無線LAN装置からの無線フレームの受信等、無線LANの通信制御を実行する。フレーム生成部302は、例えば他のAPから受信した、STAへ送信すべきデータに基づいて、無線LAN制御部301において送信すべき無線フレームを生成する。また、フレーム生成部302は、例えば他のAPに対してSTAへ送信させるべきデータを含んだ無線フレームや、そのデータを含んだ無線フレームがSTAへ送信されるべきタイミングを指示するトリガフレーム(JTX TF)を生成する。
【0022】
BSS color設定部303は、無線フレームのBSS colorを設定する。BSS color設定部303は、例えば自装置(AP102又はAP104)がBSS(Basic Service Set)を構築する際に、そのBSSで用いるBSS colorを設定する。そして、BSS color設定部303は、自装置に接続しているSTAに対して送信する無線フレームに対して、そのBSS colorの値を設定する。一方、BSS color設定部303は、他APに接続しているSTAに対して、JTXによるデータ送信を行う場合には、そのSTAへ送信する無線フレームに対して、この他APが構築したBSSにおいて使用されているBSS colorを設定する。すなわち、BSS color設定部303は、JTXにより、自装置と異なる他APに接続中のSTAへ無線フレームを送信する際には、自装置が構築したBSSで用いるBSS colorによらずに他APのBSS colorを使用する。これによれば、STAにおいて受信される複数の無線フレームを、そのSTAが接続中のBSSで使用されているBSS colorが設定された無線フレームとすることができる。このため、STAは、複数のAPから受信した複数の無線フレームを、全てIntra-BSSのフレームとして取り扱うことができる。一方、BSS color設定部303が、JTX以外の無線フレームに対しては、自装置が構築したBSSのBSS colorを設定するため、他APに接続中のSTAは、その無線フレームをInter-BSSのフレームとして取り扱いうる。なお、STAは、受信した無線フレームがIntra-BSSのフレームであるかInter-BSSのフレームであるかに応じて、異なる制御を実行しうる。例えば、STAは、無線フレームの受信電力が所定値を超えない場合に無線フレームを送信しうるが、Inter-BSSのフレームに関する所定値を、Intra-BSSのフレームに関する所定値より高い値としうる。これによれば、無線フレームがIntra-BSSのフレームに関する所定値を超える電力で受信された場合であっても、その無線フレームがInter-BSSの無線フレームであれば、STAが送信機会を得ることができる場合がありうる。このため、APが、JTX時以外に、他APと異なるBSS colorを用いるようにすることで、他APに接続中のSTAの通信機会を増やすことができ、システム全体の周波数利用効率を向上させることができる。
【0023】
UI制御部304は、APの不図示のユーザによる、APに対する操作を受け付けるためのタッチパネル又はボタン等のユーザインタフェース(UI)に関するハードウェア及びそれらを制御するプログラムを含んで構成される。なお、UI制御部304は、例えば、画像等の表示、又は音声出力等の、情報をユーザに提示するための機能をも有する。記憶部305は、APが実行するプログラムや各種データを保存するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置を含んで構成される。
【0024】
なお、STAは、一般的なSTAとしての機能を有する。ただし、STAは、Multi-AP Coordination構成で送信された無線フレームを受信する機能を有しうる。
【0025】
(フレーム構造)
図4~
図6を用いて、IEEE802.11EHT規格に準拠したPPDU(Physical layer(PHY) Protocol Data Unit)の構造の例について説明する。
図4は、シングルユーザ通信用のPPDUであるEHT SU(Single User) PPDUの例を示し、
図5は、マルチユーザ通信用のEHT MU(Multi User) PPDUの例を示している。
図6は、長距離伝送用のEHT ER(Extended Range) PPDUの例を示している。EHT ER PPDUは、APと単一のSTAとの間での通信において、通信範囲を拡張すべき場合に用いられる。なお、PPDUの各フィールドは、必ずしも
図4~
図6に示す順番に並んでいなくてもよいし、
図4~
図6に示していない新規のフィールドを含んでいてもよい。
【0026】
PPDUは、STF(Short Training Field)、LTF(Long Training Field)、SIG(Signal Field)の各フィールドを含む。
図4に示すように、PPDUの先頭部には、IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に対して後方互換性を確保するための、L(Legacy)-STF401、L-LTF402、及びL-SIG403を有する。なお、
図5及び
図6のフレームフォーマットにおいても、L-STF(L-STF501及びL-STF601)、L-LTF(L-LTF502及びL-LTF602)、L-SIG(L-SIG503及びL-SIG603)が含まれる。なお、L-LTFはL-STFの直後に配置され、L-SIGはL-LTFの直後に配置される。なお、
図4~
図6の構成では、さらに、L-SIGの直後に配置されるRL-SIG(Repeated L-SIG、RL-SIG404、RL-SIG504、RL-SIG604)が含まれる。RL-SIGフィールドでは、L-SIGの内容が繰り返し送信される。RL-SIGは、IEEE802.11ax規格以降の規格に準拠したPPDUであることを受信者が認識可能とするものであり、場合によってはIEEE802.11EHTにおいては省略されてもよい。また、RL-SIGに代えて、IEEE802.11EHTのPPDUであることを受信者が認識可能とするためのフィールドが設けられてもよい。
【0027】
L-STF401は、物理レイヤ(PHY)フレーム信号の検出、自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)やタイミング検出などに用いられる。L-LTF402は、周波数・時刻の高精度な同期や伝搬チャンネル情報(CSI:Channnel State Information)取得等に用いられる。L-SIG403は、データ送信率やPHYフレーム長の情報を含んだ制御情報を送信するために用いられる。IEEE802.11a/b/g/n/ax規格に従うレガシー機器は、上記各種レガシーフィールドを復号することができる。
【0028】
各PPDUは、さらに、RL-SIGの直後に配置される、EHT用の制御情報を送信するためのEHT-SIG(EHT-SIG-A405、EHT-SIG-A505、EHT-SIG-B506、EHT-SIG-A605)を含む。また、各PPDUは、EHT用のSTF(EHT-STF406、507、606)、EHT用のLTF(EHT-LTF407、508、607)を有する。各PPDUは、これらの制御用のフィールドの後にデータフィールド408、509、608と、Packet extentionフィールド409、710、609を有する。各PPDUのL-STFからEHT-LTFまでのフィールドが、PHYプリアンブルと呼ばれる。
【0029】
なお、
図4~
図6は、一例として、後方互換性を確保可能なPPDUを示しているが、後方互換性を確保する必要がない場合には、例えば、レガシーフィールドが省略されてもよい。この場合、例えば、同期の確立のために、L-STF及びL-LTFに代えて、EHT-STFやEHT-LTFが用いられる。そして、この場合、EHT-SIGフィールドの後のEHT-STFや複数のEHT-LTFのうちの1つが省略されうる。
【0030】
EHT SU PPDU及びEHT ER PPDUに含まれるEHT-SIG-A405及び605は、以下の表1及び表2に示すように、PPDUの受信に必要なEHT-SIG-A1とEHT-SIG-A2とを含む。EHT-SIG-A1には、6ビットの「BSS color」サブフィールドが含められる。また、
図5のEHT MU PPDUのEHT-SIG-A505も、以下の表3及び表4に示すように、PPDUの受信に必要なEHT-SIG-A1とEHT-SIG-A2とを含む。そして、このPPDUにおいても、EHT-SIG-A1に6ビットの「BSS color」サブフィールドが含められる。なお、表1~表4の構成については一例に過ぎず、これらの表に示される情報以外の情報がEHT-SIGフィールドに含められてもよいし、これらの表に示される情報の一部がEHT-SIGフィールドから除かれてもよい。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
(処理の流れ)
続いて、上述のようなAPが実行する処理の流れと、無線通信ネットワークで実行される処理の流れの例について、
図7及び
図8を用いて説明する。
図7は、無線通信ネットワークにおける処理の流れの例を示しており、
図8は、AP102及びAP104が実行する処理の流れの例を示している。
【0036】
まず、AP102が、第1のBSS(BSS1)を構築する(F701、S801)。なお、本実施形態では、BSS1において、BSS color1を用いる設定が行われたものとする。また、AP104は、第2のBSS(BSS2)を構築する(F702、S801)。ここで、本実施形態では、BSS2において、BSS color1と異なるBSS color2を用いる設定が行われたものとする。各APは、IEEE802.11のBeaconを一定周期で報知して、STAからの接続要求を受け付けることにより、STAと別のSTAとの間、又は、STAとDS(Distribution System)との間の通信を仲介する状態になる。
【0037】
AP102は、STA103との間で接続手順を実行して、接続状態へと遷移する(F703)。同様に、AP104は、STA105との間で接続手順を実行して、接続状態へと遷移したものとする(F704)。この接続手順では、IEEE802.11axの場合と同様に、APからSTAへ運用状態の情報が通知される。この運用状態の情報には、BSS colorの値が含まれる。BSS colorは、上述のように、物理レイヤ(PHY)のプリアンブルに含まれるBSSを識別する6ビットの情報である。BSS colorの値により、STAは、受信した無線フレームが、自身が属するBSS(intra―BSS)のフレームであるか、自身が属しないBSS(inter-BSS)のフレームであるかを把握することができる。
【0038】
AP102は、STA103へ無線フレームを送信しうる(F705)。この無線フレームは、
図4~
図6のいずれかに示されるPPDUであり、BSS colorサブフィールドには、BSS1で用いられているBSS color1を示す値が格納される。同様に、AP104は、STA105へ無線フレームを送信しうる(F706)。この無線フレームも、
図4~
図6のいずれかに示されるPPDUであり、BSS colorサブフィールドには、BSS2で用いられているBSS color2を示す値が格納される。BSS colorサブフィールドは、上の表に示すように、EHT SU PPDUやEHT ER PPDUの場合、EHT-SIG-A1の9番目~14番目のビット(B8~B13)である。また、BSS colorサブフィールドは、EHT MU PPDUの場合、EHT-SIG-A1の6番目~11番目のビット(B5~B10)である。
【0039】
その後、AP102及びAP104は、協調して共通のSTAへのデータ送信を並行して行うことを決定したものとする。例えば、AP104が、STA105へ送信すべきデータが大量に存在することを検出した場合に、周囲に存在する他のAPであるAP102と協調して、並行して、STA105へデータを送信することを決定しうる。また、AP102又はAP104は、例えば、特定のSTAへの大容量のデータ通信の予定がない場合であっても、将来の大容量のデータ通信が発生することに備えて、他のAPとの協調送信の用意をすることを決定してもよい。複数のAPによる協調送信が行われること又はその準備をすることが決定された場合、AP102とAP104は、JTX(Joint Transmission)のためのネゴシエーションを行う(F707、S802)。なお、以下では、JTXのためのネゴシエーションを、単に「ネゴシエーション」と呼ぶ場合がある。ネゴシエーションでは、そのネゴシエーションを実行するAPが、それぞれM-APとS-APとのいずれの役割で動作するかを決定しうる。ここでは、AP102がM-APとして動作することを決定し(F708、S803でYES)、AP104がS-APとして動作することを決定した(F709、S803でNO)ものとする。また、このネゴシエーションにおいて、JTXを行う対象のSTAと、どのAPがアソシエーションするかを決定してもよい。
【0040】
ネゴシエーションの終了後に、S-APであるAP104が、自装置に接続しているSTA105の情報と、自装置が構築したBSS2で使用されているBSS color2の情報を、M-APであるAP102へ通知する(F710、S804、S811)。ここで、STAの情報は、そのSTAのMAC(媒体アクセス制御)アドレスの情報等を含みうる。なお、これらの情報は、ネゴシエーションの時点においてAP間で交換されるなど、他のタイミングにおいて、S-APからM-APへ通知されてもよい。また、AP102が、自装置に接続中のSTA103の情報と、自装置が構築したBSS1で使用されているBSS color1の情報とを、AP104へ通知してもよい。さらに、AP102及びAP104が、特定のSTAに対してデータを送信するためにJTXを行う場合には、そのSTAと接続中のAPから、他方のAPへ、そのSTAの情報とBSS colorの情報とが通知されてもよい。ただし、M-APは、後述する送信対象のデータの送信やJTXトリガフレーム等において、データ送信対象のSTAやBSS colorを指定することができるため、この時点でM-APからS-APへ情報が提供されなくてもよい。
【0041】
その後、AP102は、JTXモードの開始を、S-APとして動作するAP104へ通知する(F711、S805、S812)。その後、STA105への送信対象データが発生すると(S806でYES)、AP102からAP104へ、その送信対象データが送信される(F712、S807、S813)。AP104は、JTXモードで動作中であるため、受信したデータをSTA105へ直ちに送信するのではなく、その受信したデータを一時的に保持する。
【0042】
なお、この送信対象データのM-APからS-APへの送信時に、使用すべきBSS colorの情報がM-APからS-APへ通知されてもよい。本実施形態では、STA105へJTXによってデータを送信するため、STA105が接続中のAP104で使用されているBSS color2が、使用すべきBSS colorの情報としてとして通知されうる。なお、使用すべきBSS colorが、S-APにおいて使用されるBSS colorと一致する場合や、JTXで使用されるBSS colorが事前に分かっている場合は、M-APからS-APへBSS colorの情報が通知されなくてもよい。すなわち、M-APは、S-APと接続中のSTAへJTXでデータを送信する場合や、JTXでのデータ送信対象のSTAとBSS colorの情報が交換されている場合は、BSS colorの情報をS-APへ通知しなくてもよい。なお、例えばSTA103へのJTXによるデータ送信が行われる際には、AP102からAP104へ、使用すべきBSS colorの情報として、BSS color1が通知されうる。なお、データの送信が上述のPPDUによって送信される場合、そのPPDUはBSS colorを通知するPHYプリアンブルを含むため、当然に使用されるBSS colorの情報が通知される。この場合、S-APは、自装置が使用しているBSS colorと異なるBSS colorが設定された無線フレームを受信するが、JTXモードで動作中であるため、この無線フレーム内のデータを破棄することはない。
【0043】
送信対象データの送受信後、AP102は、この送信対象データを含んだ無線フレームを送信させるために、JTXトリガフレーム(TF)をAP104へ送信する(F713、S808、S814)。AP102は、JTX TFにより、AP104がSTA105へ無線フレームを送信すべきことをAP104へ指示すると共に、その送信のタイミングを指定することができる。そして、AP102及びAP104は、例えばJTX TFによって指定されるタイミングにおいて(S809でYES)、並行して、STA105へデータを送信する(F714、F715、S810)。なお、送信タイミングは、JTX TFの送受信から所定時間(SIFS、Short Inter Frame Space)経過後でありうる。この場合、JTX TFの送受信そのものによって、送信タイミングが指示されることとなる。この場合、JTX TFは、AP102及びAP104がSTA105へ無線フレームを送信すべきタイミングに応じたタイミングで送信されうる。また、JTX TFのフレーム中に送信タイミングを指定する情報が含まれてもよい。この場合、AP102及びAP104は、その指定された送信タイミングと、自装置内のタイマや時計等を用いて、いつ無線フレームを送信するかを決定しうる。このように、JTX TFを用いて、AP102とAP104とが、同期して無線フレームを送信することができる。
【0044】
なお、このときのデータ送信においては、データ送信対象のSTAが属するBSS(STAが接続中のAP)で用いられているBSS colorが、無線フレーム内のPHYプリアンブルに設定される。
図7の例では、データ送信対象のSTA105が属するBSS2で用いられているBSS color2が、無線フレーム内において設定される。すなわち、AP104は、自装置で用いているBSS color2をそのまま用いて無線フレームを送信するが、AP102は、自装置で用いているBSS color1とは異なるBSS color2を用いて、無線フレームを送信する。ただし、AP102が構築したBSS1のBSS colorはBSS color1から変更されない。すなわち、AP102は、自装置が構築したBSSのBSS colorを変更しないが、JTXでデータを送信する際には、そのデータの送信先のSTAが属するBSSで用いられているBSS colorを無線フレームに設定して送信する。このとき、AP102は、JTXモードで動作中であっても、自装置に接続中のSTA(STA103)へデータを送信しうる。この場合、AP102は、無線フレームに、自装置が構築したBSS1で用いられるBSS color1を設定してデータを送信しうる。すなわち、AP102は、JTXモードで動作中には、STAが属するBSSのBSS colorを無線フレームに設定して送信する。これはAP104も同様である。すなわち、AP104は、自装置が構築したBSS2ではBSS color2を用いるが、例えばSTA103へJTXでデータを送信することがAP102から指示された場合、BSS color1を設定した無線フレームをSTA103へ送信しうる。なお、このときに、AP104は、BSS2のBSS colorの変更は行わない。
【0045】
このようにすることで、各APが、自装置が構築したBSSでのBSS colorを変更しないため、接続中のSTAに対してBSS colorの変更を指示することがなくなる。このため、不必要にSTAの設定を変更することがなくなり、例えばSTAの消費電力の増大を抑制することができる。一方で、JTXの際には、STAの属するBSSに合わせて、無線フレームのPHYプリアンブル内のBSS colorを設定するため、STAは、JTX時に、BSS colorの設定を変更することなく、無線フレームを受信することができる。
【0046】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0047】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0048】
102、104:AP、103、105:STA、301:無線LAN制御部、302:フレーム生成部、303:BSS color設定部、304:UI制御部、305:記憶部