(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】自動変速機、自動変速機の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20240228BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/42
(21)【出願番号】P 2023502301
(86)(22)【出願日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2022005888
(87)【国際公開番号】W WO2022181388
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2021028935
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 孝治
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172630(JP,A)
【文献】特開2019-163852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力伝達経路における駆動源の下流に配置されロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置され入力軸と出力軸との変速比を変更する変速機構と、を備える自動変速機であって、
前記ロックアップクラッチが締結されている状態では、前記入力軸の回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始し、
前記ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始し、
前記第1所定回転速度は、前記駆動源の出力トルクが大きいほど小さい、
自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機であって、
前記第1所定回転速度は、前記ロックアップクラッチの実スリップ回転速度と、アップシフトが開始されるまでに発生する可能性のある前記ロックアップクラッチの余剰スリップ回転速度と、の和である、
自動変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動変速機であって、
前記変速機構は、前記入力軸と前記出力軸との変速比を無段階で変更する無段変速機構であり、
前記ロックアップクラッチが締結されている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第1の回転速度になったら第3の回転速度までアップシフトを行い、
前記ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第2の回転速度になったら前記第3の回転速度になるまでアップシフトを行う、
自動変速機。
【請求項4】
動力伝達経路における駆動源の下流に配置されロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置され入力軸と出力軸との変速比を変更する変速機構と、を備える自動変速機の制御方法であって、
前記ロックアップクラッチが締結されている状態では、前記入力軸の回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始し、
前記ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始し、
前記第1所定回転速度は、前記駆動源の出力トルクが大きいほど小さい、
自動変速機の制御方法。
【請求項5】
動力伝達経路における駆動源の下流に配置されロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置され入力軸と出力軸との変速比を変更する変速機構と、を備える自動変速機のコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記ロックアップクラッチが締結されている状態では、前記入力軸の回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始する手順と、
前記ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始する手順と、を前記コンピュータに実行させ、
前記第1所定回転速度は、前記駆動源の出力トルクが大きいほど小さい、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機、自動変速機の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スロットル全開時の自動変速機の変速に用いられる変速線を、エンジンの回転速度がエンジン回転制御手段によって制御可能か否かに基づいて変更する車両の制御装置が開示されている。この制御装置では、エンジンの回転速度が制御可能な場合には、エンジンの回転速度が制御可能でない場合と比較して、エンジン回転速度が高い状態で変速が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、エンジンの回転速度と変速機構の入力軸の回転速度とに差が生じる。そのため、変速機構の入力軸の回転速度に基づいてアップシフトを行う場合には、エンジンの回転速度の過度な上昇を抑制するために、エンジンの回転速度との回転速度差を考慮してエンジンの回転速度が低い状態でアップシフトを行う必要がある。これにより、運転者の加速要求が大きい場合であっても、エンジンの回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができないことがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジンの回転速度が高い状態でアップシフトを行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、動力伝達経路における駆動源の下流に配置されロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、前記トルクコンバータの下流に配置され入力軸と出力軸との変速比を変更する変速機構と、を備える自動変速機は、前記ロックアップクラッチが締結されている状態では、前記入力軸の回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始し、前記ロックアップクラッチが解放若しくはスリップしている状態では、前記入力軸の回転速度が前記第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始し、前記第1所定回転速度は、駆動源の出力トルクが大きいほど小さい。
【発明の効果】
【0007】
上記態様では、エンジンの出力トルクが大きい場合には、第1所定回転速度が小さい。そのため、エンジンの回転速度がより高い状態でアップシフトを行うので、運転者の加速要求に沿ったエンジンの回転速度まで高めてから変速を行うことができる。したがって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジンの回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機を備える車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、変速機コントローラが行う加速時の変速制御の処理をフローチャートで示す図である。
【
図3】
図3は、アップシフト判定回転速度について概念的に説明する図である。
【
図4】
図4は、加速時の変速制御について説明するタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、先読み車速について概念的に説明する図である。
【
図6】
図6は、変速機コントローラが行う先読み車速に基づくディレイ制御をフローチャートで示す図である。
【
図7】
図7は、先読み車速に基づくディレイ制御について概念的に説明する図である。
【
図8】
図8は、
図4の加速時の変速制御に先読み車速に基づくディレイ制御を更に適用した場合について説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下において、変速比が大きい場合をLow、変速比が小さい場合をHighと言う。また、変速比がLow側に変更されることをダウンシフトと言い、High側に変更されることをアップシフトと言う。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機20を備える車両100の概略構成図である。
図1に示すように、車両100は、駆動源としてのエンジン10と、自動変速機20と、エンジンコントローラ30と、変速機コントローラ40と、を備える。
【0011】
自動変速機20は、トルクコンバータ2と、動力伝達機構としての前後進切替機構3と、変速機構としてのバリエータ4と、油圧制御回路5と、オイルポンプ6と、を備える。
【0012】
車両100においては、エンジン10で発生した回転が、トルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4、歯車組7、ディファレンシャルギヤ装置8によって構成される動力伝達経路を介して駆動輪50に伝達される。
【0013】
トルクコンバータ2は、動力伝達経路におけるエンジン10の下流に配置される。トルクコンバータ2には、ロックアップクラッチ2aが設けられる。ロックアップクラッチ2aが締結されると、トルクコンバータ2の入力要素としての入力軸2bと出力要素としての出力軸2cとが直結し、入力軸2bと出力軸2cとが同速回転する。よって、ロックアップクラッチ2aが締結された状態では、エンジン10の出力軸10aの回転がそのままトルクコンバータ2の出力軸2cから前後進切替機構3に伝達される。
【0014】
前後進切替機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組を主たる構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ2を介してエンジン10に結合し、キャリアをバリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)に結合する。前後進切替機構3は更に、ダブルピニオン遊星歯車組のサンギヤ及びキャリア間を直結する前進クラッチ3a、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ3bを備え、前進クラッチ3aの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ4aに伝達し、後進ブレーキ3bの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転を逆転減速してプライマリプーリ4aへ伝達する。
【0015】
バリエータ4は、動力伝達経路におけるエンジン10及びトルクコンバータ2の下流に配置される。バリエータ4は、入力軸4dに伝達されたエンジン10の回転を無段階で変速して出力軸4eから駆動輪50に伝達する変速機構(無段変速機構)である。即ち、バリエータ4は、入力軸4dと出力軸4eとの変速比を無段階で変更するものである。バリエータ4は、動力伝達経路においてエンジン10側に設けられたプライマリプーリ4aと、駆動輪50側に設けられたセカンダリプーリ4bと、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとに掛け回された無端状部材としてのベルト4cと、を備える。
【0016】
バリエータ4では、プライマリプーリ4aに供給される油圧とセカンダリプーリ4bに供給される油圧とが制御されることで、各プーリ4a、4bとベルト4cとの接触半径が変更され、変速比が変更される。ベルト4cは、各プーリ4a、4bのシーブ面4f、4gに当接して、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとの間で動力を伝達する。
【0017】
オイルポンプ6は、エンジン10の回転が入力されエンジン10の動力の一部を利用して駆動される機械式のオイルポンプである。オイルポンプ6から吐出された油は、油圧制御回路5に供給される。
【0018】
油圧制御回路5は、オイルポンプ6から供給された作動油の圧力を調圧して必要な油圧を生成するレギュレータバルブ5a、プライマリプーリ4aに供給される油圧を調整するプライマリソレノイドバルブ5b、セカンダリプーリ4bに供給される油圧を調整するセカンダリソレノイドバルブ5c、ロックアップクラッチ2aに供給される油圧を調整するロックアップソレノイドバルブ5d、前進クラッチ3aに供給される油圧及び後進ブレーキ3bに供給される油圧を調整するセレクトソレノイドバルブ5e、前進クラッチ3a及び後進ブレーキ3bへの油圧の供給経路を切り換えるマニュアルバルブ5f、等を有する。
【0019】
油圧制御回路5は、変速機コントローラ40からの制御信号に基づき、調整された油圧をトルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4の各部位に供給する。
【0020】
エンジンコントローラ30は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。エンジンコントローラ30は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。エンジンコントローラ30は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0021】
エンジンコントローラ30は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきエンジン10の回転速度及びトルク等を制御する。
【0022】
変速機コントローラ40は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成され、エンジンコントローラ30と通信可能に接続される。変速機コントローラ40は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。変速機コントローラ40は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。変速機コントローラ40とエンジンコントローラ30とを統合して1つのコントローラとしてもよい。
【0023】
変速機コントローラ40は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきロックアップクラッチ2aの締結状態、バリエータ4の変速比、前進クラッチ3a及び後進ブレーキ3bの締結状態等を制御する。
【0024】
変速機コントローラ40には、アクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ61からの信号、ブレーキペダルの操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ62からの信号、シフター63の位置を検出するインヒビタスイッチ64からの信号、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntを検出するタービン回転速度センサ65からの信号、バリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)の回転速度Npを検出するプライマリ回転速度センサ66からの信号、バリエータ4の出力軸4e(セカンダリプーリ4b)の回転速度Nsを検出するセカンダリ回転速度センサ67からの信号、プライマリプーリ4aに供給されるプライマリ油圧Ppを検出するプライマリ油圧センサ68からの信号、セカンダリプーリ4bに供給されるセカンダリ油圧Psを検出するセカンダリ油圧センサ69からの信号、等が入力される。
【0025】
続いて、
図2から
図4を参照して、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御の処理について説明する。変速制御の処理は、変速機コントローラ40にて一定時間ごとに実行される。
【0026】
まず、
図2及び
図3を参照して、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御の処理について説明する。
図2は、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御の処理をフローチャートで示す図である。
図3は、アップシフト判定回転速度を概念的に示す図である。
【0027】
加速時の変速制御は、例えば、運転者によってアクセルペダルが踏み込まれて車両100がフル加速するときなど、運転者の加速要求が大きい場合に実行される。ここでは、自動変速機20は、有段変速機のように段階的な有段変速制御が行われる無段変速機である。
【0028】
トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aが締結されている状態では、入力軸2bの回転速度(エンジン10の回転速度)と出力軸2cの回転速度(バリエータ4の入力軸4dの回転速度)とが同一である。一方、トルクコンバータ2では、ロックアップクラッチ2aが締結されていない状態では、入力軸2bの回転速度の方が出力軸2cの回転速度よりも高い。自動変速機20では、入力軸4dの回転速度に基づきアップシフト判定を行うが、ロックアップクラッチ2aが締結されていない状態では、エンジン10の回転速度の過度な上昇を抑制するために、入力軸2bと出力軸2cとの回転速度差の分だけ余裕を持たせてアップシフト判定を行っている。
【0029】
しかしながら、例えば、ロックアップクラッチ2aが完全に締結される直前の状態(スリップしている状態)では、ロックアップクラッチ2aが解放されている状態よりも、入力軸2bと出力軸2cとの回転速度差が小さくなっている。即ち、入力軸2bと出力軸2cとの回転速度差は、ロックアップクラッチ2aの締結度合いに応じて変化する。そのため、ロックアップクラッチ2aが完全に締結される直前の状態で、ロックアップクラッチ2aが解放されている場合と同様に入力軸2bと出力軸2cとの回転速度差の分だけ余裕を持たせてアップシフトを行うと、エンジン10の回転速度が低いうちにアップシフトを行うおそれがある。そこで、自動変速機20では、ロックアップクラッチ2aの締結度合いを考慮し、以下のとおり加速時の変速制御を行う。
【0030】
図2のステップS11では、変速機コントローラ40は、現在のトルクコンバータ2の実スリップ回転速度を検出する。具体的には、変速機コントローラ40は、エンジンコントローラ30からの信号に基づき入力軸2bの回転速度を検出し、タービン回転速度センサ65からの信号に基づき出力軸2cの回転速度を検出し、入力軸2bと出力軸2cとの回転速度差を実スリップ回転速度とする。
【0031】
ステップS12では、変速機コントローラ40は、エンジンコントローラ30からの信号に基づき、エンジン10の出力トルクを検出する。
【0032】
ステップS13では、これから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度を演算する。余剰スリップ回転速度は、エンジン10の現在の出力トルクと最大トルクとの差(出力トルクの余力)及びトルクコンバータ2の流体特性に基づいて演算される。
【0033】
具体的には、エンジン10の現在の出力トルクと最大トルクとの差が大きいほど、アクセルペダルが更に踏み込まれた場合に発生するトルクコンバータ2のスリップ回転速度は大きくなる可能性がある。即ち、エンジン10の現在の出力トルクが大きいほど最大トルクとの差が小さいので、アクセルペダルが更に踏み込まれた場合に発生する可能性のあるトルクコンバータ2のスリップ回転速度は小さい。そのため、余剰スリップ回転速度は、エンジン10の現在の出力トルクが大きいほど小さくなるように設定される。
【0034】
ステップS14では、変速機コントローラ40は、ロックアップクラッチ2aが締結された状態でのプライマリプーリ4aの上限回転速度(LU上限PRI回転速度)から、ステップS11にて検出した実スリップ回転速度とステップS13にて演算された余剰スリップ回転速度とを減算して、アップシフト判定回転速度を演算する。
【0035】
具体的には、
図3に示すように、エンジン10の回転速度は、プライマリプーリ4aの回転速度(PRI回転速度)よりも現在の実スリップ回転速度の分だけ高い。そこで、LU上限PRI回転速度から、現在の実スリップ回転速度と、これから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度とを減算した値を、アップシフト判定回転速度とする。なお、LU上限PRI回転速度は、エンジン10の回転速度の過度な上昇を抑制するために、エンジン10の最高回転速度よりも低く設定されている。
【0036】
ロックアップクラッチ2aが締結された状態では、実スリップ回転速度と余剰スリップ回転速度とは共に0である。そのため、アップシフト判定回転速度は、LU上限PRI回転速度と同じである。
【0037】
図2に戻って、ステップS15では、変速機コントローラ40は、目標プライマリプーリ回転速度(目標PRI回転速度)がアップシフト判定回転速度以上か否かを判定する。ステップS15にて、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度以上であると判定された場合には、ステップS16に移行する。一方、ステップS15にて、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度以上でない、即ち目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度よりも低いと判定された場合には、ステップS11からステップS15の処理を繰り返す。
【0038】
ステップS16では、変速機コントローラ40は、アップシフトを実行すると判定する。そして、ステップS17では、変速機コントローラ40は、自動変速機20のアップシフトを実行する。具体的には、変速機コントローラ40は、PRI回転速度がひとつ上の変速段に相当する回転速度になるまでアップシフトを行う。
【0039】
次に、
図4を参照して、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御について具体的に説明する。
図4は、加速時の変速制御について説明するタイミングチャートである。
【0040】
図4では、横軸は、時間[sec]であり、縦軸は、アクセルペダル開度APO、車速[km/h]、目標プライマリプーリ回転速度(目標PRI回転速度:破線)[rpm]、エンジン回転速度(実線)[rpm]、プライマリプーリ回転速度(PRI回転速度:細実線)[rpm]、比較例の目標プライマリプーリ回転速度(目標PRI回転速度:細破線)[rpm]、目標変速比(破線)、及び実変速比(実線)を各々示す。
【0041】
比較例の目標PRI回転速度は、本実施形態を適用せずに、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合と締結されていない場合との二つの閾値を用いてアップシフト判定を行った場合を示すものである。具体的には、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合には、ロックアップ上限プライマリプーリ回転速度(LU上限PRI回転速度)を閾値とし、ロックアップクラッチ2aが締結されていない場合には、アンロックアップ上限プライマリプーリ回転速度(UnLU上限PRI回転速度)を閾値とする。
【0042】
時刻T11では、比較例に係る自動変速機では、目標PRI回転速度がUnLU上限PRI回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。同様に、時刻T12では、比較例に係る自動変速機は、目標PRI回転速度がUnLU上限PRI回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。
【0043】
このように、比較例に係る自動変速機では、エンジン10の回転速度が充分に高くなる前にアップシフト判定を行い、アップシフトが実行される。よって、エンジン10を高回転まで使用することができない。
【0044】
これに対して、本実施形態に係る自動変速機20では、ロックアップクラッチ2aが締結された状態でのプライマリプーリ4aのLU上限PRI回転速度から現在の実スリップ回転速度とこれから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度とを引いたアップシフト判定回転速度を閾値としている。
【0045】
時刻T21では、変速機コントローラ40は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、アップシフト判定を行う。即ち、ロックアップクラッチ2aが解放若しくはスリップしている状態では、入力軸2bの回転速度がLU上限PRI回転速度から現在の実スリップ回転速度とこれから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度とを引いたアップシフト判定回転速度になったらアップシフトを開始する。これにより、時刻T11よりもエンジン10の回転速度が上昇した状態でアップシフト判定が行われるので、時刻T22にてエンジン10の回転速度が充分に高くなってからアップシフトが実行される。よって、エンジン10をより高回転まで使用することができる。
【0046】
時刻T23では、変速比が有段変速制御におけるひとつ上の変速段に変速されたときのエンジン10の回転速度まで低下しており、ここから再びエンジン10の回転速度が上昇してゆく。
【0047】
同様に、時刻T24では、本実施形態に係る自動変速機20は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。このとき、ロックアップクラッチ2aは、完全に締結される直前の状態である。そのため、実スリップ回転速度及びこれから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度は、時刻T21のときよりも小さい。よって、アップシフト判定回転速度は、時刻T21のときよりも高く設定される。このように、時刻T12よりもエンジン10の回転速度が上昇した状態でアップシフト判定が行われるので、時刻T25にてエンジン10の回転速度が充分に高くなってからアップシフトが実行される。よって、エンジン10をより高回転まで使用することができる。
【0048】
時刻T26では、変速比が有段変速制御におけるひとつ上の変速段に変速されたときのエンジン10の回転速度まで低下しており、ここから再びエンジン10の回転速度が上昇してゆく。
【0049】
時刻T27では、本実施形態に係る自動変速機20は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。このとき、ロックアップクラッチ2aは、完全に締結された状態である。よって、アップシフト判定回転速度は、LU上限PRI回転速度と一致している。
【0050】
以上のように、自動変速機20では、ロックアップクラッチ2aが締結されている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始し、ロックアップクラッチ2aが解放若しくはスリップしている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始する。このとき、第1所定回転速度は、エンジン10の出力トルクが大きいほど小さく設定される。具体的には、第1所定回転速度は、ロックアップクラッチ2aの実スリップ回転速度と、アップシフトが開始されるまでに発生する可能性のあるロックアップクラッチ2aの余剰スリップ回転速度と、の和である。
【0051】
エンジン10の出力トルクが大きい場合には、現在の実スリップ回転速度とこれから発生する可能性のあるトルクコンバータ2の余剰スリップ回転速度との和(第1所定回転速度)が小さく設定される。そのため、エンジン10の回転速度がより高い状態でアップシフトを行うので、運転者の加速要求に沿ったエンジン10の回転速度まで高めてから変速を行うことができる。よって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。また、この場合、エンジン10の最大トルクとの差が小さいので、アップシフトの前にエンジン10の出力トルクが大きくなってもエンジン10の回転速度の過度な上昇を抑制することができる。
【0052】
一方、エンジン10の出力トルクが小さい場合は、出力トルクが大きい場合と比較して、エンジン10の最大トルクと乖離している場合がある。このような状態では、アップシフトを行う前にエンジン10の出力トルクが大きくなり、アップシフトするべきエンジン10の回転速度を超えるおそれがある。
【0053】
これに対して、自動変速機20では、エンジン10の出力トルクが小さい場合には、その分だけ低いエンジン10の回転速度でアップシフトを行うので、アップシフトのタイミングが遅れることでエンジン10の回転速度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0054】
また、ロックアップクラッチ2aがスリップしている状態であっても、第1の回転速度から、実スリップ回転速度及びアップシフトが開始されるまでに発生する可能性のある余剰スリップ回転速度を引いた第2の回転速度となったら、アップシフトを開始する。よって、エンジン10の回転速度が過度に上昇することを抑制しながら、エンジン10が最大トルクに近い状態で走行している場合には高い回転速度でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0055】
また、バリエータ4は、入力軸2bと出力軸4eとの変速比を無段階で変更する無段変速機構であり、ロックアップクラッチ2aが締結されている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度になったら第3の回転速度までアップシフトを行い、ロックアップクラッチ2aが解放若しくはスリップしている状態では、入力軸2bの回転速度が第2の回転速度になったら第3の回転速度になるまでアップシフトを行う。
【0056】
これにより、本実施形態に係る加速時の変速制御が、有段変速機のように段階的な有段変速制御が行われる無段変速機に適用されたときにも、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0057】
続いて、
図5から
図8を参照して、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御における先読み車速に基づくディレイ制御について説明する。先読み車速に基づくディレイ制御は、変速機コントローラ40にて一定時間ごとに実行される。
【0058】
まず、
図5から
図7を参照して、変速機コントローラ40が行う先読み車速に基づくディレイ制御について説明する。
図5は、先読み車速について概念的に説明する図である。
図6は、変速機コントローラ40が行う先読み車速に基づくディレイ制御をフローチャートで示す図である。
図7は、先読み車速に基づくディレイ制御について概念的に説明する図である。
【0059】
図5に示すように、自動変速機20では、アップシフト判定が行われて実際にアップシフトが開始されると、PRI回転速度は、なだらかに上昇した後でアップシフト後の目標PRI回転速度に向かって下降する。そのため、自動変速機20では、エンジン10の回転速度がオーバーシュートして過度に上昇することを防止するために、先読み時間(第1所定時間)後のPRI回転速度、即ち先読み時間後の車速(先読み車速)から目標PRI回転速度を設定している。この先読み時間は、例えば0.25[sec]に設定される。
【0060】
この場合、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したときにアップシフトが開始されると、PRI回転速度が低いうちにアップシフトが開始されるので、先読み時間後のPRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達しないおそれがある。即ち、運転者の加速要求が大きい場合であっても、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができないことがある。そこで、自動変速機20では、先読み車速を考慮し、以下のとおり加速時の変速制御を行う。
【0061】
図6のステップS21では、変速機コントローラ40は、アップシフト判定があったか否かを判定する。ステップS21にて、アップシフト判定があったと判定された場合には、ステップS22に移行する。このステップS21の処理は、
図2のステップS16にてアップシフト判定があった場合に「Yes」と判定する。一方、ステップS21にて、アップシフト判定がないと判定された場合には、ステップS21の処理を繰り返す。
【0062】
ステップS22では、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度センサ66からの信号に基づき、PRI回転速度を検出する。
【0063】
ステップS23では、変速機コントローラ40は、アップシフトを開始してからアップシフト中に増加するプライマリプーリ4aの増加回転速度を演算する。
【0064】
ステップS24では、変速機コントローラ40は、PRI回転速度と増加回転速度との和がアップシフト判定時のアップシフト判定回転速度(第1の目標回転速度)以上であるか否かを判定する。ステップS24にて、PRI回転速度と増加回転速度との和がアップシフト判定時のアップシフト判定回転速度以上ではない、即ちアップシフト判定時のアップシフト判定回転速度よりも低いと判定された場合には、ステップS22からステップS24の処理を繰り返す。一方、ステップS24にて、PRI回転速度と増加回転速度との和がアップシフト判定時のアップシフト判定回転速度以上であると判定された場合には、ステップS17に移行する。つまり、変速機コントローラ40は、PRI回転速度と増加回転速度との和がアップシフト判定時のアップシフト判定回転速度に達するまでステップS24の処理を繰り返すことで、ディレイ制御を行っている。
【0065】
ここで、
図7を参照して、ディレイ制御について具体的に説明する。
【0066】
時刻T1では、アップシフトの判定があり、自動変速機20の目標変速比がR1からR2に変更される。ここで、変速機コントローラ40は、時刻T1にてアップシフトを実行した場合に、アップシフト中に増加する増加回転速度ΔS1を演算する。
【0067】
時刻T2では、変速機コントローラ40は、PRI回転速度と増加回転速度ΔS2との和がアップシフト判定回転速度に達したと判定する。変速機コントローラ40は、アップシフト判定があった時刻T1からディレイした時刻T2にて、自動変速機20のアップシフトを開始する。このとき、アップシフトを行うと判定された時刻T1からアップシフトが開始される時刻T2までの間に増加したディレイ分増加回転速度Saが、所定回転速度に該当する。ディレイ分増加回転速度ΔSaは、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してから、実際にアップシフトを行うまでに上昇するPRI回転速度に基づいて設定される。これにより、PRI回転速度をアップシフト判定回転速度の高さまで使用することができる。したがって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が更に高い状態でアップシフトを行うことができる。
【0068】
同様に、時刻T3では、アップシフトの判定があり、自動変速機20の目標変速比がR2からR3に変更される。ここで、変速機コントローラ40は、時刻T3にてアップシフトを実行した場合に、アップシフト中に増加する増加回転速度ΔS3を演算する。
【0069】
時刻T4では、変速機コントローラ40は、PRI回転速度と増加回転速度ΔS4との和がアップシフト判定回転速度に達したと判定する。変速機コントローラ40は、アップシフト判定があった時刻T3からディレイした時刻T4にて、自動変速機20のアップシフトを開始する。このとき、アップシフトを行うと判定された時刻T3からアップシフトが開始される時刻T4までの間に増加したディレイ分増加回転速度Sbが、所定回転速度に該当する。ディレイ分増加回転速度ΔSbもまた、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してから、実際にアップシフトを行うまでに上昇するPRI回転速度に基づいて設定される。これにより、PRI回転速度をアップシフト判定回転速度の高さまで使用することができる。したがって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が更に高い状態でアップシフトを行うことができる。
【0070】
図6に戻って、ステップS17では、変速機コントローラ40は、自動変速機20のアップシフトを実行する。具体的には、変速機コントローラ40は、PRI回転速度が第2の回転速度になったら、PRI回転速度がひとつ上の変速段に相当する回転速度(第2の目標回転速度)になるまでアップシフトを行う。
【0071】
次に、
図8を参照して、変速機コントローラ40が行う加速時の変速制御について具体的に説明する。
図8は、
図4の加速時の変速制御に先読み車速に基づくディレイ制御を更に適用した場合について説明するタイミングチャートである。
【0072】
図8では、横軸は、時間[sec]であり、縦軸は、アクセルペダル開度APO、先読み車速(破線)[km/h],実車速(実線)[km/h]、目標プライマリプーリ回転速度(目標PRI回転速度:破線)[rpm]、エンジン回転速度(実線)[rpm]、プライマリ回転速度(PRI回転速度:細実線)[rpm]、比較例のエンジン回転速度(細破線)[rpm]、目標変速比(破線)、及び実変速比(実線)を各々示す。
【0073】
比較例のPRI回転速度は、先読み車速に基づくディレイ制御を適用していない
図4に示すエンジン10の回転速度である。
【0074】
時刻T31では、変速機コントローラ40は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、アップシフト判定を行う。アップシフト判定については、
図4の時刻T21と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0075】
比較例に係る無段変速機では、時刻T31にてアップシフトが開始されて、時刻T32にてエンジン10の回転速度が変速中の最大値となっている。そして、そこから一つ上の変速段に変速されるまでPRI回転速度及びエンジン10の回転速度が低下する。
【0076】
これに対して、先読み車速に基づくディレイ制御が適用される場合には、アップシフトの実行がディレイされて、時刻T32よりも遅い時刻T33にてエンジン10の回転速度が変速中の最大値となる。このとき、PRI回転速度は、アップシフト判定が行われたときのアップシフト判定回転速度に達しており、エンジン10の回転速度は、LU上限PRI回転速度に達している。
【0077】
同様に、時刻T34では、本実施形態に係る自動変速機20は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。そして、アップシフトの実行がディレイされて、時刻T35にてエンジン10の回転速度が変速中の最大値となる。このときもまた、PRI回転速度は、アップシフト判定が行われたときのアップシフト判定回転速度に達しており、エンジン10の回転速度は、LU上限PRI回転速度に達している。
【0078】
時刻T36では、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達したので、変速機コントローラ40はアップシフト判定を行う。そして、アップシフトの実行がディレイされて、時刻T37にてエンジン10の回転速度が変速中の最大値となる。このときもまた、PRI回転速度は、アップシフト判定が行われたときのアップシフト判定回転速度に達しており、エンジン10の回転速度は、LU上限PRI回転速度に達している。
【0079】
以上のように、自動変速機20は、先読み時間(第1所定時間)が経過したときに到達する車速に基づいて設定される目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度(第1の目標回転速度)になったら、PRI回転速度がひとつ上の変速段に相当する回転速度(第2の目標回転速度)になるまでアップシフトを行うと判定され、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度(第1の目標回転速度)に達してからPRI回転速度がディレイ分増加回転速度(所定回転速度)だけ増加した後にアップシフトを開始する。
【0080】
これにより、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達して第2の目標回転速度までアップシフトを行うと判定されてから、更にPRI回転速度が増加した後にアップシフトが開始される。よって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0081】
また、ディレイ分増加回転速度は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してから、実際にアップシフトを行うまでに上昇するプライマリプーリ4a(入力軸4d)のPRI回転速度に基づいて設定される。
【0082】
これにより、アップシフトを開始するときのエンジン10の回転速度を高く設定しても、エンジン10の回転速度が高くなりすぎるのを防止することができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、第1所定時間が経過したときに到達する車速に基づいて設定される目標PRI回転速度が第1の目標回転速度になったら第2の目標回転速度までアップシフトを行うと判定され、PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してからディレイ分増加回転速度だけ増加した後にアップシフトを開始している。
【0084】
これに代えて、PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してから第2所定時間が経過した後にアップシフトを開始するようにしてもよい。この第2所定時間は、目標PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達してから、実際にアップシフトを行うまでに上昇するプライマリプーリ4a(入力軸4d)のPRI回転速度に基づいて設定される。
【0085】
この場合にも同様に、PRI回転速度がアップシフト判定回転速度に達して第2の目標回転速度までアップシフトを行うと判定されてから、更にPRI回転速度が増加した後にアップシフトが開始される。よって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0086】
以上の本実施形態の構成及び作用効果について、まとめて説明する。
【0087】
(1)(4)動力伝達経路におけるエンジン10の下流に配置されロックアップクラッチ2aを有するトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2の下流に配置されるバリエータ4と、を備え、入力軸2bと出力軸4eとの変速比を変更する自動変速機20は、ロックアップクラッチ2aが締結されている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度になったらアップシフトを開始し、ロックアップクラッチ2aが解放若しくはスリップしている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度から第1所定回転速度を引いた第2の回転速度になったらアップシフトを開始し、第1所定回転速度は、エンジン10の出力トルクが大きいほど小さい。
【0088】
この構成では、エンジン10の出力トルクが大きい場合には、第1所定回転速度が小さい。そのため、エンジン10の回転速度がより高い状態でアップシフトを行うので、運転者の加速要求に沿ったエンジン10の回転速度まで高めてから変速を行うことができる。よって、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。また、この場合、エンジン10の最大トルクとの差が小さいので、アップシフトの前にエンジン10の出力トルクが大きくなってもエンジン10の回転速度の過度な上昇を抑制することができる。
【0089】
一方、エンジン10の出力トルクが小さい場合は、出力トルクが大きい場合と比較して、エンジン10の最大トルクと乖離している場合がある。このような状態では、アップシフトを行う前にエンジン10の出力トルクが大きくなり、アップシフトするべきエンジン10の回転速度を超えるおそれがある。これに対して、自動変速機20では、エンジン10の出力トルクが小さい場合には、その分だけ低いエンジン10の回転速度でアップシフトを行うので、アップシフトのタイミングが遅れることでエンジン10の回転速度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0090】
(2)第1所定回転速度は、ロックアップクラッチ2aの実スリップ回転速度と、アップシフトが開始されるまでに発生する可能性のあるロックアップクラッチ2aの余剰スリップ回転速度と、の和である。
【0091】
この構成では、ロックアップクラッチ2aがスリップしている状態であっても、第1の回転速度から、実スリップ回転速度及びアップシフトが開始されるまでに発生する可能性のある余剰スリップ回転速度を引いた第2の回転速度となったら、アップシフトを開始する。よって、エンジン10の回転速度が過度に上昇することを抑制しながら、エンジン10が最大トルクに近い状態で走行している場合には高い回転速度でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0092】
(3)バリエータ4は、入力軸2bと出力軸4eとの変速比を無段階で変更する無段変速機構であり、ロックアップクラッチ2aが締結されている状態では、入力軸2bの回転速度が第1の回転速度になったら第3の回転速度までアップシフトを行い、ロックアップクラッチ2aが解放若しくはスリップしている状態では、入力軸2bの回転速度が第2の回転速度になったら第3の回転速度になるまでアップシフトを行う。
【0093】
この構成によれば、有段変速機のように段階的な有段変速制御が行われる無段変速機に適用されたときにも、運転者の加速要求が大きい場合に、エンジン10の回転速度が高い状態でアップシフトを行うことができる。したがって、運転者の意向に沿った変速を行うことができる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0095】
例えば、上記実施形態では、自動変速機20が有段変速機のように段階的な有段変速制御が行われる無段変速機である場合について説明した。しかしながら、自動変速機20は、有段変速制御が行われない無段変速機であってもよく、有段変速機構を有する自動変速機であってもよい。また、運転者が手動で有段変速を操作することのできる無段変速機にて、運転者がアップシフト操作を行わずにエンジン10の回転速度が上昇して、変速機コントローラ40が自動的にアップシフトを実行する場合にも適用可能である。
【0096】
変速機コントローラ40が実行する各種プログラムは、例えばCD-ROM等の非一過性の記録媒体に記憶されたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0097】
20 自動変速機
2 トルクコンバータ
2a ロックアップクラッチ
2b 入力軸
4 バリエータ(変速機構,無段変速機構)
4e 出力軸
10 エンジン(駆動源)