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特許7445084車両の制御装置、車両の制御方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】車両の制御装置、車両の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20240228BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H63/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023503783
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007964
(87)【国際公開番号】W WO2022186080
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2021035859
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村住 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田坂 創
(72)【発明者】
【氏名】岩堂 圭介
(72)【発明者】
【氏名】床井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大石 裕二
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/037876(WO,A1)
【文献】特開2020-41579(JP,A)
【文献】特開2020-7973(JP,A)
【文献】特開2012-67807(JP,A)
【文献】特開2012-57688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、前記変速機の変速比を自動でダウンシフトするオートダウンシフト制御を実行する際、前記モータの駆動電流値が前記最大値以下の場合より、前記駆動源の最低回転速度を上昇させ、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記オートダウンシフト制御を実行する際、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記駆動源の最低回転速度を上昇させない車両の制御装置。
【請求項2】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、停車中に前記駆動源を自動で停止するアイドリングストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記アイドリングストップ制御を実行する車両の制御装置。
【請求項3】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御装置であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値より高くなる場合には、走行中に前記駆動源を自動で停止するとともに、前記駆動源と前記駆動輪との間の動力の伝達を遮断するコーストストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記コーストストップ制御を実行する車両の制御装置。
【請求項4】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、前記変速機の変速比を自動でダウンシフトするオートダウンシフト制御を実行する際、前記モータの駆動電流値が前記最大値以下の場合より、前記駆動源の最低回転速度を上昇させ、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記オートダウンシフト制御を実行する際、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記駆動源の最低回転速度を上昇させない車両の制御方法。
【請求項5】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、停車中に前記駆動源を自動で停止するアイドリングストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記アイドリングストップ制御を実行する車両の制御方法。
【請求項6】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御する車両の制御方法であって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値より高くなる場合には、走行中に前記駆動源を自動で停止するとともに、前記駆動源と前記駆動輪との間の動力の伝達を遮断するコーストストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記コーストストップ制御を実行する車両の制御方法。
【請求項7】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御するコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、前記変速機の変速比を自動でダウンシフトするオートダウンシフト制御を実行する際、前記モータの駆動電流値が前記最大値以下の場合より、前記駆動源の最低回転速度を上昇させ、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記オートダウンシフト制御を実行する際、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記駆動源の最低回転速度を上昇させない手順を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項8】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御するコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、停車中に前記駆動源を自動で停止するアイドリングストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記アイドリングストップ制御を実行する手順を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項9】
駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、吸入側に逆止弁が設けられモータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備えた車両を制御するコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が、前記第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときの前記モータの駆動電流値の最大値より高くなる場合には、走行中に前記駆動源を自動で停止するとともに、前記駆動源と前記駆動輪との間の動力の伝達を遮断するコーストストップ制御を実行せず、
前記第1のオイルポンプ及び前記第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、前記第2のオイルポンプを駆動したときに前記モータの駆動電流値が前記最大値よりも高くなる場合であっても、前記コーストストップ制御を実行する手順を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置、車両の制御方法、及び車両を制御するコンピュータが実行可能なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンと、2つの駆動モータと、エンジンの回転と共に回転させられて動力伝達装置にて用いられる作動油を吐出する機械式のオイルポンプと、オイルポンプ専用のモータにより回転させられて作動油を吐出する電動式のオイルポンプとを備えたハイブリッド車両が開示されている。
【0003】
特許文献1のハイブリッド車両では、モータ走行モードでの走行に際して、電動式のオイルポンプが故障によって能力不足の状態である場合には、2つの駆動モータによる走行が禁止されて、一方の駆動モータ走行によって車両を走行させると共に、機械式のオイルポンプを他方の駆動モータによって回転させるように構成されている。これにより、特許文献1に記載のハイブリッド車両では、電動式のオイルポンプが故障によって能力不足の状態になっても、動力伝達装置にて必要な流量の作動油を適切に確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-66369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータによって駆動される電動オイルポンプは、エンジンによって駆動されるメカニカルオイルポンプに比べて最大吐出圧が低い。このため、例えば、ライン圧が高圧になっている場合には、電動オイルポンプが作動油を吐出できないため、故障と判断されるおそれがある。
【0006】
このようにして電動オイルポンプが故障と判断されてしまうと、電動オイルポンプの駆動が停止されメカニカルオイルポンプのみで作動油を供給することになり、燃費が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、電動オイルポンプEPの異常判定に係る誤判定を抑制し、燃費の悪化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様の車両は、駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備える。さらに、当該車両を制御する車両の制御装置は、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が、第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときのモータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、変速機の変速比を自動でダウンシフトするオートダウンシフト制御を実行する際、モータの駆動電流値が最大値以下の場合より、駆動源の最低回転速度を上昇させ、第1のオイルポンプ及び第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、オートダウンシフト制御を実行する際、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が最大値よりも高くなる場合であっても、駆動源の最低回転速度を上昇させない。
【0009】
また、本発明の別の態様の車両は、駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備える。さらに、当該車両を制御する車両の制御装置は、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が、第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときのモータの駆動電流値の最大値よりも高くなる場合には、停車中に駆動源を自動で停止するアイドリングストップ制御を実行せず、第1のオイルポンプ及び第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が最大値よりも高くなる場合であっても、アイドリングストップ制御を実行する。
【0010】
本発明のさらに別の態様の車両は、駆動輪を駆動する駆動源の回転によって駆動される第1のオイルポンプと、モータによって駆動される第2のオイルポンプと、を有する変速機を備える。さらに、当該車両を制御する車両の制御装置は、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が、第2のオイルポンプを通常の駆動状態で駆動したときのモータの駆動電流値の最大値より高くなる場合には、走行中に駆動源を自動で停止するとともに、駆動源と駆動輪との間の動力の伝達を遮断するコーストストップ制御を実行せず、第1のオイルポンプ及び第2のオイルポンプから供給される油圧によって生成されるライン圧が所定値よりも高い場合には、第2のオイルポンプを駆動したときにモータの駆動電流値が最大値よりも高くなる場合であっても、コーストストップ制御を実行する。
【発明の効果】
【0011】
これらの態様によれば、電動オイルポンプの異常判定に係る誤判定を抑制し、燃費の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る変速機の油圧制御回路が搭載された車両の概略構成図である。
図2図2は、本実施形態に係る電動オイルポンプの異常判定に係る制御の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本実施形態に係る電動オイルポンプの異常判定領域を説明するための図である。
図4A図4Aは、本実施形態に係る駆動電流値と実回転速度との関係における異常領域を示す図である。
図4B図4Bは、本実施形態に係る指示回転速度と実回転速度との関係における異常領域を示す図である。
図5図5は、オートダウン制御に係るフローチャートである。
図6図6は、アイドリングストップ制御に係るフローチャートである。
図7図7は、コーストストップ制御に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は車両100の概略構成図である。車両100は、エンジンENGと、トルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAと、を備える。車両100では、変速機TMがトルクコンバータTCと、前後進切替機構SWMと、バリエータVAと、を有するベルト無段変速機とされる。
【0015】
エンジンENGは、車両100の駆動源を構成する。エンジンENGは、例えば、ガソリンエンジンによって構成される。エンジンENGの動力は、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAを介して駆動輪DWへと伝達される。換言すれば、トルクコンバータTC、前後進切替機構SWM、バリエータVAは、エンジンENGと駆動輪DWとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。
【0016】
トルクコンバータTCは、流体を介して動力を伝達する。トルクコンバータTCでは、ロックアップクラッチLUを締結することで、動力伝達効率が高められる。
【0017】
前後進切替機構SWMは、エンジンENGとバリエータVAとを結ぶ動力伝達経路に設けられる。前後進切替機構SWMは、入力される回転の回転方向を切り替えることで車両100の前後進を切り替える。前後進切替機構SWMは、前進レンジ(D)選択の際に係合される前進クラッチFWD/Cと、リバース(R)レンジ選択の際に係合される後進ブレーキREV/Bと、を備える。前進クラッチFWD/C及び後進ブレーキREV/Bを解放すると、変速機TMがニュートラル状態、つまり動力遮断状態になる。
【0018】
バリエータVAは、プライマリプーリPRIと、セカンダリプーリSECと、プライマリプーリPRI及びセカンダリプーリSECに巻き掛けられたベルトBLTと、を有するベルト無段変速機構を構成する。プライマリプーリPRIには、プライマリプーリPRIを駆動するための油圧であるプライマリプーリ圧Ppriが、セカンダリプーリSECには、セカンダリプーリSECを駆動するための油圧であるセカンダリプーリ圧Psecが、後述する油圧制御回路1からそれぞれ供給される。
【0019】
変速機TMは、メカニカルオイルポンプMPと、電動オイルポンプEPと、モータMと、油圧制御回路1と、逆止弁25と、逆止弁26と、をさらに有して構成される。メカニカルオイルポンプMPは、オイルパンTから吸入した作動油を油圧制御回路1に供給する。メカニカルオイルポンプMPは、エンジンENGの動力によって駆動される。電動オイルポンプEPは、モータMの動力によって駆動される。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPとともに、或いは単独で、オイルパンTから吸入した作動油を油圧制御回路1に供給する。電動オイルポンプEPは、メカニカルオイルポンプMPに対して補助的に設けられる。電動オイルポンプEPはモータMを有して構成される。
【0020】
油圧制御回路1は、複数の流路、複数の油圧制御弁で構成され、メカニカルオイルポンプMPや電動オイルポンプEPから供給される作動油の圧力を調圧して変速機TMの各部位に供給する。
【0021】
エンジンENG及び変速機TMの動作は、制御装置としてのコントローラ2により制御される。コントローラ2は、エンジンコントローラ(図示せず)及び変速機コントローラ(図示せず)を有する。これらは、いずれも電子制御ユニットとして構成され、中央演算装置(CPU)、RAM及びROM等の各種記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータからなる。なお、エンジンコントローラ及び変速機コントローラは、CAN規格のバスを介して互いに通信可能に接続されている。また、コントローラ2は、CPUがROM等に記憶された各種プログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。なお、コントローラ2が実行する各種プログラムは、例えばCD-ROM等の非一過性の記憶媒体に記憶されたものを用いてもよい。
【0022】
コントローラ2(エンジンコントローラ)には、エンジンENGの運転状態を検出する運転状態センサの検出信号が入力され、運転状態をもとに所定の演算を実行し、エンジンENGの燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火時期等を設定する。エンジンENGは、コントローラ2(エンジンコントローラ)からの指令に基づいて回転速度、トルク等が制御される。運転状態センサとして、ドライバによるアクセルペダルの操作量(以下「アクセル開度」という)を検出するアクセルセンサ、エンジンENGの回転速度Veを検出する回転速度センサ、エンジン冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ等が設けられている。
【0023】
また、コントローラ2(変速機コントローラ)は、変速機TMの運転状態を検出する各種センサ等からの検出信号が入力され、これらの信号に基づき油圧制御回路1や電動オイルポンプEPの動作を制御する。油圧制御回路1は、コントローラ2からの指示に基づき、ロックアップクラッチLU、前進クラッチFWD/C、後進ブレーキREV/B、プライマリプーリPRI、セカンダリプーリSEC等の油圧制御を行う。
【0024】
逆止弁25は、メカニカルオイルポンプMPから油圧制御回路1に向かう作動油の流れを許容するとともに、油圧制御回路1からメカニカルオイルポンプMPに向かう作動油の流れを阻止する。これにより、メカニカルオイルポンプMPの停止時などにライン圧PLがメカニカルオイルポンプMPに作用することを防止する。
【0025】
逆止弁26は、電動オイルポンプEPから油圧制御回路1に向かう作動油の流れを許容するとともに、油圧制御回路1から電動オイルポンプEPに向かう作動油の流れを阻止する。これにより、電動オイルポンプEPの停止時などにライン圧PLが電動オイルポンプEPに作用して、電動オイルポンプEPが逆回転することを防止する。
【0026】
電動オイルポンプEPとオイルパンTとの間には、逆止弁27が設けられる。逆止弁27は、電動オイルポンプEPの停止時に、電動オイルポンプEP内及び電動オイルポンプEPの吸入側の流路から作動油がオイルパンTに戻されることを防止する。これにより、電動オイルポンプEP内に空気が混入する、言い換えると、電動オイルポンプEPが作動油の吸入不足になることを抑制し、電動オイルポンプEPの作動時の油圧の立ち上がりの遅れを抑制できる。
【0027】
次に、メカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPの運転モードについて説明する。
【0028】
コントローラ2は、車両100の運転状況に応じてメカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPの運転モードを切り換える。本実施形態では、運転モードとして、エンジンENGによってメカニカルオイルポンプMPのみを駆動するMPモードと、電動オイルポンプEPのみを駆動するEPモードと、メカニカルオイルポンプMP及び電動オイルポンプEPを駆動するTDPモードと、を有する。
【0029】
MPモードは、エンジンENGの回転速度Veが高い場合に選択される。具体的には、車両100に搭載されている油圧機器が必要とする流量(以下では、「要求流量」という。)を、メカニカルオイルポンプMPによって吐出される吐出流量で賄うことができる場合に選択される。メカニカルオイルポンプMPの吐出流量は、エンジンENGの回転速度Veに比例する。このため、エンジンENGの回転速度Veが高い場合には、エンジンENGの動力のみ、つまり、メカニカルオイルポンプMPに基づく吐出流量で要求流量を賄うことができる。MPモードでは、電動オイルポンプEPは停止した状態に維持される。
【0030】
EPモードは、エンジンENGが停止している場合に選択される。アイドリングストップ、コーストストップなどを実行している場合には、エンジンENGの回転が停止しているため、メカニカルオイルポンプMPの回転も停止している。そこで、コントローラ2は、エンジンENGの回転が停止しているときには、モータMを駆動して電動オイルポンプEPを駆動する。これにより、電動オイルポンプEPに基づく吐出流量で要求流量を賄うことができる。
【0031】
TDPモードは、要求流量をエンジンENGの動力のみに基づく吐出流量で賄うことができない場合、具体的には、エンジンENGの回転速度Veが低い場合に選択される。上述のように、エンジンENGのみを駆動している場合、メカニカルオイルポンプMPの吐出流量は、エンジンENGの回転速度Veに比例する。このため、エンジンENGの回転速度Veが低い場合には、メカニカルオイルポンプMPのみに基づく吐出流量で要求流量を賄うことができない。そこで、コントローラ2は、モータMを駆動し、電動オイルポンプEPを駆動する。これにより、メカニカルオイルポンプMPのみに基づく吐出流量だけでは不足していた要求流量を、電動オイルポンプEPに基づく吐出流量によって賄うことができる。
【0032】
ここで、電動オイルポンプEPが作動する具体的な状況について説明する。
【0033】
本実施形態では、電動オイルポンプEPは、オートダウンシフト制御、キックダウン制御、アイドリングストップ制御、及びコーストストップ制御などの実行時に駆動される。
【0034】
オートダウンシフト制御とは、変速機TMの変速比を自動でダウンシフトする制御である。具体的には、例えば、車両100の減速時に、車両停止後の発進性を確保するために車両停止直前までにバリエータVAの変速比を最Lowの変速比に戻す制御である(以下では、バリエータVAの変速比を最Low変速比に戻すことを「Low戻し」ともいう。)。
【0035】
Low戻しは、車速Vの低下に応じてバリエータVAの変速比をLow側、つまり変速比が大きくなる方向に変更する変速制御であり、後述するコーストストップ制御中を含むコースト走行中(エンジンENGに燃料が供給されない状態で走行している状態)に、コースト走行時の変速線(図示せず)に従ってバリエータVAのダウンシフトを行うことで行われる。
【0036】
また、車両100が急減速した際に、セカンダリプーリSECはブレーキの制動力によって停止しようとする。一方、プライマリプーリPRIには、エンジンENGやトルクコンバータTCなどの慣性力が作用する。この慣性力が大きい場合には、クランプ力が不足してベルト滑りが発生するおそれがある。このため、コントローラ2は、ライン圧PLを素早く上昇させてセカンダリプーリ圧Psecを上昇させる。このとき、エンジンENGの回転速度Veが低下するため、メカニカルオイルポンプMPから供給される作動油の流量が減少する。そこで、このような状況では、コントローラ2は、電動オイルポンプEPを作動させて、ライン圧PLを素早く上昇させて、セカンダリプーリ圧Psecを上昇させることで、ベルト滑りを防止する。このように車両100が急減速した際には、セカンダリプーリ圧Psecを上昇させつつ、Low戻しが行われるため、要求流量が多くなる。このため、電動オイルポンプEPの回転速度は高くなる。
【0037】
なお、電動オイルポンプEPは、キックダウン制御時にも駆動される。キックダウン制御とは、運転者がアクセルペダルを急激に踏み込んだ場合に、現在の変速比からLow側に大きくダウンシフトして車両100を加速させる変速制御である。キックダウン制御実行時には、速い変速度が要求されるため要求流量が多くなる。このため、メカニカルオイルポンプMPから供給される作動油の流量では、要求流量を満たすことができないため、電動オイルポンプEPを駆動する。
【0038】
コーストストップ制御とは、車両100が惰性で走行している間、エンジンENGを自動的に停止させてエンジンENGのフリクションによる減速を小さくし、車速低下によるフューエルカットリカバー(エンジンENGへの燃料供給再開)のタイミングを遅らせることで燃料消費量を抑制する制御であり、具体的には、走行中にアクセルオフになるとエンジンENGへの燃料供給を停止するとともに、エンジンENGと駆動輪DWとの間の動力の伝達を前進クラッチFWD/Cを解放することにより遮断して、エンジンENGを自動で停止する(エンジンENGの回転を停止する)制御である。アクセルオフ時に実行される燃料カット制御によるコースト走行とは、エンジンENGへの燃料供給が停止される点で共通するが、エンジンENGと駆動輪DWとの間の動力伝達経路を遮断し、エンジンENGの回転を停止させる点において相違する。なお、アクセルオフ時のコースト走行中に実行される燃料カット制御は、車速が低下し、駆動輪DWによって連れ回されるエンジンENGの回転速度が低下すると、エンジンENGの自立状態を維持するために、ロックアップクラッチLUが解放され燃料噴射が再開される。
【0039】
コーストストップ制御を実行するにあたっては、コントローラ2は、まず、以下に示すコーストストップ条件(a)~(c):
(a):アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
(b):ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ踏力またはブレーキ圧が所定値以上)
(c):車速Vが所定の低車速(例えば、10~20km/h)(所定車速Vv)以下
を判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。コントローラ2は、これらの条件(a)~(c)が全て成立した場合にコーストストップ条件成立と判断する。なお、これ以外にも、バッテリ(図示せず)の残容量や、冷却水温なども条件を含むようにしてもよい。
【0040】
なお、ロックアップクラッチLUは、変速マップ上に設定されるロックアップ解除線(不図示)を高速側または高回転側から低速側又は低回転側に横切った場合に解放される。
【0041】
アイドリングストップ制御とは、車両100の停止時に所定の条件が成立したときにエンジンENGのアイドリングを停止する制御である。アイドリングストップ制御を実行するにあたっては、コントローラ2は、まず、以下に示すアイドリングストップ条件(d)~(f):
(d):アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
(e):ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ踏力またはブレーキ圧が所定値以上)
(f):車速Vが0である
を判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。コントローラ2は、これらの条件(d)~(f)が全て成立した場合にアイドリングストップ条件成立と判断する。なお、これ以外にも、バッテリ(図示せず)の残容量や、冷却水温なども条件を含むようにしてもよい。
【0042】
ところで、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPを駆動しても作動油を供給できなくなることがある。具体的には、例えば、ライン圧PLが、電動オイルポンプEPが吐出可能な圧力(最大吐出圧力)より高い場合には、電動オイルポンプEPの駆動電流値Imを供給可能な最大値にしても、作動油を供給することができなくなる。
【0043】
このような状況では、電動オイルポンプEPの駆動電流値Imが高い状態が続くので、別の見方をすると、実際の回転速度Vepr(実回転速度Vepr)が指示回転速度Vepiと乖離した状態が続くので、コントローラ2は、電動オイルポンプEPに異常が発生している(故障している)と判断する。コントローラ2は、電動オイルポンプEPが故障している場合には、電動オイルポンプEPを停止し、以降は上記アイドリングストップ制御やコーストストップ制御などの制御を実行しない。
【0044】
しかしながら、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPの性能を超えているために電動オイルポンプEPが駆動できないだけであって、故障しているわけではない。このため、このような状況で電動オイルポンプEPに異常が発生していると判定して電動オイルポンプEPを停止してしまうと、以降は、メカニカルオイルポンプMPのみで作動油を供給することになり、燃費が悪化するおそれがある。
【0045】
そこで、本実施形態では、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPの異常診断に係る誤判定を抑制するために、電動オイルポンプEPの異常診断を行わないようにする。以下に、本実施形態の電動オイルポンプEPの制御について、図2図7を参照して具体的に説明する。図2は、電動オイルポンプEPの異常診断に係る制御の流れを示すフローチャートである。なお、以下に説明する電動オイルポンプEPの制御は、コントローラ2にあらかじめ記憶されたプログラムを実行することにより行われる。
【0046】
ステップS1では、ライン圧PLが所定値PL1より高いか否かを判定する。具体的には、コントローラ2は、ライン圧センサ31(図1参照)によって検出されたライン圧PLが、所定値PL1より高いか否かを判定する。ここで、所定値PL1について説明する。
【0047】
本実施形態では、所定値PL1は、異常診断を行うか否かを決定するための閾値である。具体的には、所定値PL1は、図3に線分L1に相当し、各回転速度Vepに応じてあらかじめ定められた値である。なお、図3の圧力PLmaxは、電動オイルポンプEPの最大吐出圧力(吐出可能圧力の上限値)である。
【0048】
ライン圧PLが圧力PLmax以下であっても、指示回転速度Vepiが大きくなっていくと、駆動電流値Imを供給可能な上限値まで上昇させても、吐出圧力と吐出流量の関係で、電動オイルポンプEPでは作動油を供給すること(その状況を実現すること)ができない。そこで、本実施形態では、ライン圧PLが電動オイルポンプEPの吐出可能圧力PLmax以下の領域で、かつ、各ライン圧PLで実現可能な回転速度以下の領域R1、すなわち、所定値PL1(線分L1で示されるライン圧)以下の領域内に動作点がある場合には、コントローラ2は電動オイルポンプEPの異常診断を行う。これに対し、領域R1外の領域R2、すなわち、電動オイルポンプEPの動作点が領域R1にない場合には、上述のように一時的に電動オイルポンプEPが駆動できない可能性があるので、コントローラ2は電動オイルポンプEPの異常診断を行わない。
【0049】
ステップS1において、コントローラ2によってライン圧PLが所定値PL1より高いと判定された場合には、ENDに進む。つまり、ライン圧PLが所定値PL1より高ければ、コントローラ2は、電動オイルポンプEPの異常診断を行わない。これに対し、コントローラ2によってライン圧PLが所定値PL1以下であると判定された場合には、ステップS2に進む。
【0050】
ステップS2では、電動オイルポンプEPが異常であるか否かを判定する。電動オイルポンプEPの指示回転速度Vepiは、モータMに印加される実際の電流値(駆動電流値Im)に相当する。そこで、本実施形態では、図4(A)に示すように、電流センサ(図示せず)によって検出された駆動電流値Imと、回転速度センサ32(図1参照)によって検出された実回転速度Veprと、の関係に基づいて、電動オイルポンプEPが異常であるか否かを判定する。
【0051】
図4(A)に示すように、電動オイルポンプEPが正常な状態で駆動したときには、モータMの駆動電流値Imと電動オイルポンプEPの実回転速度Veprとの間には、直線L2に示すような関係がある。なお、正常な状態(通常状態)とは、電動オイルポンプEPの実回転速度Veprが指示回転速度Vepiにほぼ一致して駆動している状態であり、電動オイルポンプEP及びモータMを含む各要素に異常がない状態を意味する。
【0052】
例えば、電動オイルポンプEPの摺動部などに異物などが噛み込み、回転抵抗が上昇した場合には、駆動電流値Imが正常な状態に比べて高くなる。そこで、本実施形態では、電動オイルポンプEPを駆動したときに、モータMの駆動電流値Imが、その回転速度Veprにおける駆動電流値Imの許容される最大値Imaxよりも高くなった状態が所定時間継続した場合に、電動オイルポンプEPが異常であると判定する。
【0053】
具体的には、コントローラ2は、電動オイルポンプEPが駆動した状態において、電動オイルポンプEPの動作点(電動オイルポンプEPの回転速度VepとモータMの駆動電流値Im)が、図4(A)に示す異常領域S内であるか否かを判定する。図4(A)に示す直線L3は、電動オイルポンプEPの実回転速度Vper毎において許容される(正常と判断できる)駆動電流値Imの最大値Imaxを結んだ線である。
【0054】
この異常診断に関し具体的な例を挙げて説明すると、例えば、回転速度センサ32によって検出された実回転速度Vperが速度V2のときに、正常な状態(通常状態)では、駆動電流値ImがIm1になる(点P1)。
【0055】
これに対し、例えば、実回転速度Vperが速度V2のときに、駆動電流値Imが、許容される最大の駆動電流値Im3(点P3)より高いIm2である場合(点P2)には、コントローラ2は、電動オイルポンプEPが異常であると判定する。
【0056】
本実施形態では、異常領域Sは、直線L3とモータMの駆動電流値Imの最低値Iminとで区画される領域に設定される。
【0057】
ステップS2において、電動オイルポンプEPの動作点が異常領域S内にあると判定された場合には、コントローラ2は、電動オイルポンプEPが異常であると判定する。電動オイルポンプEPが異常であると判定されれば、ステップS3に進む。これに対し、電動オイルポンプEPの動作点が異常領域S内になければ、コントローラ2は、電動オイルポンプEPが異常でないと判定し、ENDに進む。
【0058】
なお、電動オイルポンプEPの異常は、例えば、電動オイルポンプEPの指示回転速度Vepiと実際の回転速度(実回転速度Vepr)との回転速度差ΔVpeが所定値V1以上の状態が所定時間T(数秒程度)続いたか否かで判定することもできる。
【0059】
指示回転速度Vepiと実回転速度Veprとの回転速度差ΔVpe(図4(B)参照)が所定値V1以上の状態が所定時間T(数秒程度)続いた場合には、電動オイルポンプEPの摺動部などに異物などが噛み込み、回転抵抗が上昇している、あるいはモータMに何らかの異常が発生していることなどが考えることができるので、異常と判定することができる。なお、所定値V1は、例えば、指示回転速度Vepiに所定の係数αを乗じた値に相当する大きさ、あるいは、固定値などに設定される。
【0060】
ステップS3では、異常フラグをONにする。具体的には、コントローラ2は、異常フラグをONにする。この異常フラグは、後述する制御に用いられる。
【0061】
ステップS4では、電動オイルポンプEPをOFFにする。具体的には、コントローラ2は、以降は、電動オイルポンプEPを駆動するような状況になっても、電動オイルポンプEPを駆動しないようにする。このとき、ドライバあるいはメンテナンスの作業員にわかるような警告を発するようにしてもよい。
【0062】
次に、電動オイルポンプEPに対して駆動要求がある場合における制御について説明する。
【0063】
上述のように、電動オイルポンプEPは、オートダウンシフト制御、キックダウン制御、アイドリングストップ制御、及びコーストストップ制御実行時に作動する。まず、図5を参照して、オートダウンシフト制御について説明する。
【0064】
ステップS11では、オートダウン条件が成立したか否かを判定する。具体的には、コントローラ2は、Low戻し条件、あるいは、キックダウン制御実行条件が成立したか否かを判定する。
【0065】
ステップS11において、オートダウン条件が成立したと判定されれば、ステップS12に進み、ステップS11において、オートダウン条件が成立していないと判定されれば、ENDに進む。
【0066】
ステップS12では、異常フラグがONかOFFかを判定する。異常フラグがOFFであれば、ステップS13に進み、オートダウン制御を実行する。これに対し、異常フラグがONであれば、ステップS14に進む。
【0067】
ステップS14では、エンジンENGの最低回転速度Veminを上昇させる。具体的には、コントローラ2は、エンジンENGの最低回転速度Veminを、通常状態(モータMの駆動電流値Imが最低値Imin以下にならない状態)に比べて、所定回転速度分上昇させるように制御する。言い換えると、コントローラ2は、エンジンENGの回転速度Veの下限値を所定回転速度分上昇させる。なお、エンジンENGの最低回転速度Veminとは、例えば、エンジンENGのアイドリング回転速度である。
【0068】
このように、エンジンENGの最低回転速度Veminを所定回転速度分上昇させることで、エンジンENGが最低回転速度Vemin(例えば、アイドリング回転速度)で回転しているときに、メカニカルオイルポンプMPの最低供給流量を増加させることができる。これにより、電動オイルポンプEPを停止しても、必要とする作動油の流量をメカニカルオイルポンプMPのみで供給することができる。なお、上昇させる所定回転速度は、メカニカルオイルポンプMPの吐出性能及び電動オイルポンプEPの吐出性能を勘案して設定される。
【0069】
ステップS14でエンジンENGの最低回転速度Veminを上昇させるように設定した後は、ステップS13に進み、オートダウン制御を実行する。なお、この場合には、電動オイルポンプEPは駆動されないので、メカニカルオイルポンプMPのみで必要とする流量(要求流量)を供給する。
【0070】
次に、図6を参照して、アイドリングストップ制御について説明する。
【0071】
ステップS21では、アイドリングストップ条件が成立したか否かを判定する。具体的には、コントローラ2は、上述のアイドリングストップ制御実行条件が成立したか否かを判定する。
【0072】
ステップS21において、アイドリングストップ条件が成立したと判定されれば、ステップS22に進み、ステップS21において、アイドリングストップ条件が成立していないと判定されれば、ENDに進む。
【0073】
ステップS22では、異常フラグがONかOFFかを判定する。異常フラグがOFFであれば、ステップS23に進み、アイドリングストップ制御を実行する。これに対し、異常フラグがONであれば、ENDに進む。
【0074】
電動オイルポンプEPから作動油を供給できない状態で、エンジンENGを停止してしまうと、変速機TMの各要素が必要とする作動油を供給することができなくなる。したがって、本実施形態では、異常フラグがON、すなわち、電動オイルポンプEPの動作状態が異常領域S内にあると判定された場合には、アイドリングストップ制御を実行しない。これにより、車両100の停止時においても、油圧制御回路1が必要とする作動油を供給することができる。
【0075】
次に、図7を参照して、コーストストップ制御について説明する。
【0076】
ステップS31では、コーストストップ条件が成立したか否かを判定する。具体的には、コントローラ2は、上述のコーストストップ制御実行条件が成立したか否かを判定する。
【0077】
ステップS31において、コーストストップ条件が成立したと判定されれば、ステップS32に進み、ステップS31において、コーストストップ条件が成立していないと判定されれば、ENDに進む。
【0078】
ステップS32では、異常フラグがONかOFFかを判定する。異常フラグがOFFであれば、ステップS33に進み、コーストストップ制御を実行する。これに対し、異常フラグがONであれば、ENDに進む。
【0079】
電動オイルポンプEPから作動油を吐出できない状態で、エンジンENGを停止してしまうと、必要とする作動油を供給することができなくなる。したがって、本実施形態では、異常フラグがON、すなわち、電動オイルポンプEPの動作状態が異常領域S内にあると判定された場合には、コーストストップ制御を実行しない。これにより、車両100のコースト走行時においても、油圧制御回路1が必要とする作動油を供給することができる。これにより、Low戻しなどを確実に実行することができる。
【0080】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0081】
(1)、(4)、(7)車両100は、駆動輪DWを駆動するエンジンENG(駆動源)の回転によって駆動されるメカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)と、モータMによって駆動される電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)と、を有する変速機TMを備える。車両100を制御するコントローラ2(制御装置)は、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を通常の駆動状態で駆動したときのモータMの駆動電流値Imの最大値Imaxよりも高くなる場合には、変速機TMの変速比を自動でダウンシフトするオートダウンシフト制御を実行する際、モータMの駆動電流値Imが最大値Imaxの場合より、エンジンENG(駆動源)の最低回転速度Veminを上昇させ、メカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)及び電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)から供給される油圧によって生成されるライン圧PLが所定値PL1よりも高い場合には、オートダウンシフト制御を実行する際、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが最大値Imaxよりも高くなる場合であっても、駆動源(エンジンENG)の最低回転速度Veminを上昇させない。
【0082】
ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動しても、電動オイルポンプEPから作動油を供給することができない。この状況では、電動オイルポンプEPが駆動できないだけであって、故障しているわけではない。このため、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPの異常診断を行わない。これにより、不必要に電動オイルポンプEPに異常が発生していると判定されることを防止できる。よって、電動オイルポンプEPの異常判定に係る誤判定を抑制できるので、燃費の悪化を防止することができる。
【0083】
また、電動オイルポンプEPが故障している場合には、オートダウンシフト制御を実行する際、エンジンENGの最低回転速度Veminを所定回転速度分上昇させる。これにより、エンジンENGが最低回転速度Vemin(例えば、アイドリング回転速度)で回転しているときに、メカニカルオイルポンプMPの最低供給流量を増加させることができるので、電動オイルポンプEPを停止しても、必要とする作動油の流量をメカニカルオイルポンプMPのみで供給することができる。よって、電動オイルポンプEPに異常がある場合にも、ダウンシフトの遅れを抑制し、変速機TMを適切に制御できる。
【0084】
(2)、(5)、(8)車両100は、駆動輪DWを駆動するエンジンENG(駆動源)の回転によって駆動されるメカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)と、モータMによって駆動される電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)と、を有する変速機TMを備える。車両100を制御するコントローラ2(制御装置)は、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を通常の駆動状態で駆動したときのモータMの駆動電流値Imの最大値Imaxよりも高くなる場合には、停車中にエンジンENG(駆動源)を自動で停止するアイドリングストップ制御を実行せず、メカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)及び電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)から供給される油圧によって生成されるライン圧PLが所定値PL1よりも高い場合には、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが最大値Imaxよりも高くなる場合であっても、アイドリングストップ制御を実行する。
【0085】
ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動しても、電動オイルポンプEPから作動油を供給することができない。この状況では、電動オイルポンプEPが駆動できないだけであって、故障しているわけではない。このため、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPの異常診断を行わない。これにより、不必要に電動オイルポンプEPに異常が発生していると判定されることを防止できる。よって、電動オイルポンプEPの異常判定に係る誤判定を抑制できるので、燃費の悪化を防止することができる。
【0086】
また、電動オイルポンプEPに異常がある場合には、アイドリングストップ制御を実行しない。これにより、車両100の停止時において、必要とする作動油の流量をメカニカルオイルポンプMPによって供給することができる。よって、電動オイルポンプEPに異常がある場合にも、変速機TMを適切に制御できる。
【0087】
(3)、(6)、(9)車両100は、駆動輪DWを駆動するエンジンENG(駆動源)の回転によって駆動されるメカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)と、モータMによって駆動される電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)と、を有する変速機TMを備える。車両100を制御するコントローラ2(制御装置)は、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を通常の駆動状態で駆動したときのモータMの駆動電流値Imの最大値Imaxよりも高くなる場合には、走行中にエンジンENG(駆動源)を自動で停止するとともに、エンジンENG(駆動源)と駆動輪DWとの間の動力の伝達を遮断するコーストストップ制御を実行せず、メカニカルオイルポンプMP(第1のオイルポンプ)及び電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)から供給される油圧によって生成されるライン圧PLが所定値PL1よりも高い場合には、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動したときにモータMの駆動電流値Imが最大値Imaxよりも高くなる場合であっても、コーストストップ制御を実行する。
【0088】
ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEP(第2のオイルポンプ)を駆動しても、電動オイルポンプEPから作動油を供給することができない。この状況では、電動オイルポンプEPが駆動できないだけであって、故障しているわけではない。このため、ライン圧PLが所定値PL1より高い場合には、電動オイルポンプEPの異常診断を行わない。これにより、不必要に電動オイルポンプEPに異常が発生していると判定されることを防止できる。よって、電動オイルポンプEPの異常判定に係る誤判定を抑制できるので、燃費の悪化を防止することができる。
【0089】
また、電動オイルポンプEPに異常がある場合には、コーストストップ制御を実行しない。これにより、車両100の停止時において、必要とする作動油の流量をメカニカルオイルポンプMPによって供給することができる。よって、電動オイルポンプEPに異常がある場合にも、変速機TMを適切に制御できる。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0091】
エンジンENGは、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0092】
上記実施形態では、オートダウン制御、キックダウン制御、アイドリングストップ制御、及びコーストストップ制御の全てを実行可能な車両を例に説明したが、これらのいずれかを実施できるものであればよい。
【0093】
また、変速機TMは、無段変速機に限らず、有段変速機であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
100 車両
1 油圧制御回路
2 コントローラ(制御装置)
ENG エンジン(駆動源)
DW 駆動輪
M モータ
TM 変速機
MP 電動オイルポンプ(第1のオイルポンプ)
EP メカニカルオイルポンプ(第2のオイルポンプ)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7