(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】安全作業装置
(51)【国際特許分類】
B01L 1/00 20060101AFI20240228BHJP
F24F 7/06 20060101ALI20240228BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B01L1/00 A
F24F7/06 C
C12M1/00 K
(21)【出願番号】P 2023528759
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2022028713
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 健
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176006(JP,A)
【文献】特開2004-044823(JP,A)
【文献】特開2012-000531(JP,A)
【文献】特開2013-160474(JP,A)
【文献】特開2010-203755(JP,A)
【文献】特開2003-130412(JP,A)
【文献】特開2012-024657(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0213157(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 1/00
B25H 1/20
B25J 21/02
C12M 1/00
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業空間と、前記作業空間の前面の開口部の一部を覆う前面シャッタと、前記前面シャッタの下側の、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部と、前記作業空間の背面の下部に設けた、作業空間内の空気を吸い込む後部口と、前記作業空間の背面の後側に設けた、前記作業空間内の空気を排気する排気流路と、を有する安全作業装置であって、
前記排気流路内であって前記後部口の後側に、排気用の第1のHEPAフィルタを縦方向に配置し、前記排気流路内であって前記第1のHEPAフィルタの下流側に排気用の第2のHEPAフィルタを縦方向に配置し
、
前記第1のHEPAフィルタの排気側に、安全作業装置の背面に沿って前記第2のHEPAフィルタの吸気側に向かう、吸排気方向を反転する反転流路を備えることを特徴とする安全作業装置。
【請求項2】
請求項1に記載の安全作業装置において、
前記第2のHEPAフィルタを、前記第1のHEPAフィルタを設置した面と同一平面上に配置したことを特徴とする安全作業装置。
【請求項3】
請求項1に記載の安全作業装置において、
前記第2のHEPAフィルタを、前記第1のHEPAフィルタを設置した面よりも前記作業空間側にずらして配置したことを特徴とする安全作業装置。
【請求項4】
請求項1に記載の安全作業装置において、
通常動作時には、前記後部口に粗塵を回収するプレフィルタを取り付け、
前記第1のHEPAフィルタの交換時には、前記プレフィルタを取り外し、バッグインバッグアウト型の第1のHEPAフィルタ交換口を前記後部口に取り付け可能に構成したことを特徴とする安全作業装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の安全作業装置において、
前記第1のHEPAフィルタの交換時に、前記第1のHEPAフィルタは汚染側が下面となるようにビニールバッグに収納されることを特徴とする安全作業装置。
【請求項6】
請求項1に記載の安全作業装置において、
前記作業空間の背面であって、前記第2のHEPAフィルタの作業空間側に、バッグインバッグアウト型の第2のHEPAフィルタ交換口を取り付け可能に構成したことを特徴とする安全作業装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の安全作業装置において、
前記第2のHEPAフィルタの交換時に、前記第2のHEPAフィルタは清浄側が下面となるようにビニールバッグに収納されることを特徴とする安全作業装置。
【請求項8】
請求項
6に記載の安全作業装置において、
前記第2のHEPAフィルタ交換口を、上部を作業空間側に傾けて、斜めに配置したことを特徴とする安全作業装置。
【請求項9】
請求項1に記載の安全作業装置において、
安全作業装置は、安全キャビネットまたはドラフトチャンバーであることを特徴とする安全作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性物質などの有害物質を取り扱う際に、作業者が安全に作業ができる、安全キャビネットやドラフトチャンバーなどの安全作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の開発やウイルス等の病原体の研究などでは、作業者の保護、試料の保護などのために、安全キャビネットが使用されている。安全キャビネットでは、汚染物質が装置外へ排出されないように、汚染物質を取り扱う作業空間の空気を、HEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)でろ過し、汚染物質を取り除いた空気を装置外へ排気している。
【0003】
一例として、特許文献1に記載の「ケミカルハザード対策用キャビネット」を、
図10に示す。ケミカルハザード対策用キャビネット100において、作業空間103の背面にはプレフィルタ111が設けられ、作業空間103の下方には、HEPAフィルタ112が設けられている。前面シャッタ104の下の作業開口部106から吸い込んだ流入空気107は、作業空間内の汚染物質110とともにプレフィルタ111を通して吸い込まれ、HEPAフィルタ112で汚染物質110が除去され、送風機105により排気口108から装置外へ排出される。また、作業空間103の下方であって、HEPAフィルタ112の前面側には、HEPAフィルタカバー113と、ビニールバッグ取り付けフランジ116が設けられ、ビニールバッグ115が取り付けられている。汚染物質や塵埃が付着したHEPAフィルタ112を交換する場合には、HEPAフィルタカバー113を取り外し、ビニールバッグ取り付けフランジ116の内側に収納されているビニールバッグ115を引き出し、ビニールバッグ115越しにHEPAフィルタ112を取り外す。取り外したHEPAフィルタ112は、ビニールバッグ115内に収納し、切断溶着機118で切断し、密閉する。(特許文献1、
図6参照)
また、有害物質を取り扱うときには安全のためにドラフトチャンバー(局所排気装置、Fume hood)も用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
安全キャビネットにおいて、HEPAフィルタは、汚染物質や塵埃をろ過しているため、次第に目詰まりして交換が必要になる。HEPAフィルタを交換する場合には、汚染物質が作業者に影響しないように、安全を確保する必要がある。ウイルス等の病原体や細胞を取り扱う場合には、滅菌を行うことにより、安全な状態にできる。これに対して、抗がん剤等の高活性物質など、滅菌ができない物質を取り扱う場合には、特許文献1記載のように、HEPAフィルタをビニールバッグで囲い、密閉して装置外へ取り出すようにしている。
【0006】
また、安全キャビネットにおいて、毒性の高い物質を取り扱う場合には、汚染された空気を排気用のHEPAフィルタに2回通すことにより、無毒化した空気を排気していた。排気用のHEPAフィルタを2つ設け、第1のHEPAフィルタを通すことにより汚染物質を99.97%以上除去し、第2のHEPAフィルタを通すことにより、汚染物質をほぼ100%除去することができる。
しかし、第1のHEPAフィルタと第2のHEPAフィルタの2枚を設置する場合、設置面積が広くなり、省スペース化が困難であった。また、HEPAフィルタ交換時にHEPAフィルタで回収した汚染物質が再飛散すると、HEPAフィルタを通さずに汚染物質がそのまま機外に排気される可能性があった。
【0007】
特許文献1記載の「ケミカルハザード対策用キャビネット」においては、設置面積の省スペース化やHEPAフィルタ交換時の汚染物質の再飛散による機外漏洩までは考慮されていない。
【0008】
本発明は、排気系統にHEPAフィルタを複数枚設置して汚染物質の機外漏洩を限りなくゼロに抑える場合において、機器の奥行幅を最小化し省スペースとした安全キャビネットやドラフトチャンバーなどの安全作業装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための、本発明の「安全作業装置」の一例を挙げるならば、
作業空間と、前記作業空間の前面の開口部の一部を覆う前面シャッタと、前記前面シャッタの下側の、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部と、前記作業空間の背面の下部に設けた、作業空間内の空気を吸い込む後部口と、前記作業空間の背面の後側に設けた、前記作業空間内の空気を排気する排気流路と、を有する安全作業装置であって、
前記排気流路内であって前記後部口の後側に、排気用の第1のHEPAフィルタを縦方向に配置し、前記排気流路内であって前記第1のHEPAフィルタの下流側に排気用の第2のHEPAフィルタを縦方向に配置し、
前記第1のHEPAフィルタの排気側に、安全作業装置の背面に沿って前記第2のHEPAフィルタの吸気側に向かう、吸排気方向を反転する反転流路を備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の「安全作業装置」の他の一例を挙げるならば、更に、
通常動作時には、前記後部口に粗塵を回収するプレフィルタを取り付け、前記第1のHEPAフィルタの交換時には、前記プレフィルタを取り外し、バッグインバッグアウト型の第1のHEPAフィルタ交換口を前記後部口に取り付け可能に構成したことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の「安全作業装置」の他の一例を挙げるならば、更に、
前記作業空間の背面であって、前記第2のHEPAフィルタの作業空間側に、バッグインバッグアウト型の第2のHEPAフィルタ交換口を取り付け可能に構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作業空間の背面に設けた後部口の後側に、排気用の第1のHEPAフィルタを縦方向に配置し、排気流路内であって前記第1のHEPAフィルタの下流側に第2のHEPAフィルタを縦方向に配置し、縦列に配置したHEPAフィルタ間で吸排気方向を反転することにより、機器の奥行幅を最小化して省スペースで複数の排気用のHEPAフィルタを設置できるようになる。
【0013】
また、第1のHEPAフィルタは交換時に汚染側である上流側が下面となり、第2のHEPAフィルタは交換時に汚染側である上流側が上面となる構造が可能となり、HEPAフィルタ交換時の汚染物質の再飛散による排気側への汚染物質の漏洩を抑制できる。
【0014】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】排気用のHEPAフィルタを2つ設けた安全キャビネットの1例を示す概略図である。
【
図2】排気用のHEPAフィルタを2つ設けた安全キャビネットの他の1例を示す概略図である。
【
図3】実施例1のドラフトチャンバーの正面図である。
【
図4】実施例1のドラフトチャンバーの右側面図である。
【
図5】
図4において、下側のビニールバッグを取り出した図である。
【
図7】実施例2のドラフトチャンバーの右側面図である。
【
図8】
図7において、上側のビニールバッグを取り出した図である。
【
図9】実施例3の安全キャビネットの右側面図である。
【
図10】従来のケミカルハザード対策用キャビネットの1例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例を説明するに先立って、汚染された空気を無毒化するために、排気用のHEPAフィルタを2つ設けた従来の安全キャビネットについて説明する。
【0017】
図1に、排気用のHEPAフィルタを2つ設けた安全キャビネットの1例を示す。図は、安全キャビネットを右方より見た概略側面断面図である。
【0018】
安全キャビネット10の内部に、前面を前面シャッタ13で構成した作業空間12を備えている。作業空間12の上方には給気用ファン14を備え、給気用HEPAフィルタ15を通した清浄な空気を作業空間12へ供給する。作業空間12の背部には排気流路30を備え、排気流路30に排気用の第1のHEPAフィルタ31が設けられている。安全キャビネット10の上方には、排気用ファン33が設けられ、さらに、その先の建屋排気ダクト系統内や機械室内に排気用の第2のHEPAフィルタ32が設けられている。上方から作業空間12へ供給される空気と、作業開口部17から作業空間12へ取り込まれる空気は、プレフィルタ19を通って排気流路30を流れ、汚染物質40は、第1のHEPAフィルタ31および第2のHEPAフィルタ32で、除去される。
しかし、第2のHEPAフィルタ32は、安全キャビネット10の上方に設けられており、第2のHEPAフィルタ32は安全キャビネットとは別の収納ボックスを準備する必要があり、また、交換は高所作業となり、作業が困難であった。
【0019】
図2に、排気用のHEPAフィルタを2つ設けた安全キャビネットの他の1例を示す。図は、安全キャビネットを右方より見た概略側面断面図である。
【0020】
図1の安全キャビネットとの違いは、安全キャビネット10の上方に第2のHEPAフィルタを設けるに代えて、安全キャビネット10の排気流路30に第2のHEPAフィルタ32を設けたものである。
しかし、
図1の安全キャビネットと同様に、HEPAフィルタは横向きに設置しており、HEPAフィルタの捕集効率を維持するための通過風速以下に抑えるために、奥行きサイズを大きくしなければならず、機器の奥行幅を大きくする必要があった。
【0021】
本発明では、排気用の複数のHEPAフィルタを縦方向(縦置き)に設置し、縦列に配置したHEPAフィルタ間で吸排気方向を反転する気流を構成することにより、機器の奥行幅を最小化し省スペースとし、また、HEPAフィルタ交換時の汚染物質の再飛散による機外漏洩を抑制することを考慮した安全キャビネットやドラフトチャンバーなどの安全作業装置を提供する。
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし主旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素には同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略することがある。
【実施例1】
【0023】
実施例1は、本発明を安全作業装置の一種であるドラフトチャンバーに用いたものである。
図3~5に、本発明の実施例1のドラフトチャンバーを示す。
図3は実施例1のドラフトチャンバーの正面図、
図4は右側面図である。
図4においては、取り出したビニールバッグを2点鎖線で示している。また、
図5は、
図4のドラフトチャンバーにおいて、下側のHEPAフィルタの交換口からビニールバッグを取り出した図である。
【0024】
図4に示すように、ドラフトチャンバー11の内部に、作業空間12を備えている。作業空間12の前面には上下に移動する前面シャッタ13を備え、作業者50は、前面シャッタ13の下方の作業開口部17から手を入れて、作業を行う。作業空間12の後側には上下方向に排気流路30を備え、排気流路30に排気用のHEPAフィルタが2つ設けられている。なお、図には示していないが、
図2に記載の安全キャビネットと同様に、ドラフトチャンバー11の上方には、排気用ファン33が設けられている。
【0025】
本実施例のドラフトチャンバーの特徴構成として、排気用の第1のHEPAフィルタ31が作業空間12の背面の後部口18の近くに縦方向(縦置き)に配置されている。すなわち、作業空間12の背面下部の後部口18に、粗い塵埃を除去するプレフィルタ19を設け、プレフィルタ19に近接して、プレフィルタ19と平行に縦方向に第1のHEPAフィルタ31が配置されている。排気流路30には、第1のHEPAフィルタ31を設置した同一平面に、排気用の第2のHEPAフィルタ32が縦方向(縦置き)に配置されている。第1のHEPAフィルタ31の後方である排気側に、ドラフトチャンバーの背壁に沿って、第2のHEPAフィルタ32の後方である吸気側に向かう流路、すなわち吸排気方向を反転する反転流路30aが設けられている。排気用の2枚のHEPAフィルタを縦方向に配置することにより、機器の奥行寸法を最小にすることができる。ここで、通常使用時は、後部口18には、プレフィルタ19を設置する。第1のHEPAフィルタ交換時は、プレフィルタ19を取り外し第1のHEPAフィルタ交換口34を設置する。第1のHEPAフィルタ交換口34は、HEPAフィルタ交換時のみ取り付けることで、作業空間12の設置スペースを最小としている。
【0026】
作業空間12へ供給される空気は、作業開口部17からのみ取り込まれ、後部口18を通って排気流路30を流れる。そして、作業空間内の汚染物質40は、第1のHEPAフィルタ31および第2のHEPAフィルタ32でろ過され、除去される。
【0027】
排気用の第1のHEPAフィルタ31の前部であって、作業空間12の背壁下部の後部口19には、プレフィルタ19が設置してあり、プレフィルタ19が固定された金具とビニールバッグが付けられた第1のHEPAフィルタ交換口34を入れ替えて取り付けることにより第1のHEPAフィルタを交換することができる。同様に、第2のHEPAフィルタ32の前部であって、作業空間12の背壁には、第2のHEPAフィルタを交換するためのバッグインバッグアウト型の第2のHEPAフィルタ交換口35が設けられ、ビニールバッグが折りたたんで収納されている。第2のHEPAフィルタ交換口35は、作業空間12の上側に配置するため、作業に邪魔にならなければ、第1のHEPAフィルタ交換口34とは異なり、常時取り付けておいてもよい。
【0028】
図5に、第1のHEPAフィルタ31を交換するために、後部口18に第1のHEPAフィルタ交換口34を取り付け、第1のHEPAフィルタ交換口34からビニールバッグ37を引き出した状態を示す。HEPAフィルタの交換時には、プレフィルタ19が固定された金具に代えてビニールバッグが付けられた第1のHEPAフィルタ交換口34を取り付ける。そして、第1のHEPAフィルタ交換口34からビニールバッグ37を引き出し、ビニールバッグ越しに第1のHEPAフィルタ31を取り外す。このとき、建屋側に設けた排気ファンを運転した状態で作業を行なえば、作業空間12は負圧となり、作業者50側に汚染物質40が漏洩することはない。そして、符号31‘に示すように、第1のHEPAフィルタを傾けて、ビニールバッグ37に収納する。そして、図示していないが、ビニールバッグのHEPAフィルタを収納した部分を切断溶着機で切断し、HEPAフィルタ31をビニールバッグ37に密閉する。
【0029】
図6に、交換口からビニールバッグを取り出した図の一例を示す。
図6(a)に示すように、折りたたんだ状態からビニールバッグ37を取り出す。そして、
図6(b)に示すように、HEPAフィルタ31をビニールバッグ37に収納する。その後、ビニールバッグ37のHEPAフィルタを収納した部分を切断し、熱溶着してHEPAフィルタ31をビニールバッグ37に密閉する。
【0030】
本実施例によれば、排気用の第1のHEPAフィルタ31を作業空間の背面の後部口18に近接して縦方向に配置し、排気用の第1のHEPAフィルタ31と同一平面に排気用の第2のHEPAフィルタ32を縦方向に配置することにより、機器の奥行幅を最小化できる。
【0031】
また、最も汚染される第1のHEPAフィルタ31を作業空間の背面の後部口18の近くに縦方向に配置し、交換時に後部口19に第1のHEPAフィルタ交換口34を取り付けることにより、最も汚染される第1のHEPAフィルタ31の汚染面を上方に向けることなく交換可能となり、汚染物質の再飛散による排気側への汚染物質の漏洩を抑制することができる。
【0032】
また、排気用の第2のHEPAフィルタ32の吸気側には、排気用の第1のHEPAフィルタ31で捕集できなかった汚染物質40が付着している可能性があり、排気用の第2のHEPAフィルタ32の交換時には、取付部を外すなどにより第2のHEPAフィルタ32が振動して汚染物質が飛散する場合がある。しかし、第2のHEPAフィルタ32の汚染面は、第1のHEPAフィルタ31側の空間、すなわちドラフトチャンバーの背壁を向いており、汚染物質が再飛散してもドラフトチャンバーの背壁に沿う反転流路30aに漏洩し、下方に落ちる。そのため、飛散した汚染物質が落下した後に第2のHEPAフィルタを取り外すことにより、汚染物質がそのまま排気することを抑制できる。
【0033】
また、排気用の第1のHEPAフィルタ31の作業空間側にバッグインバックアウト型の交換口34を設け、第1のHEPAフィルタ31をビニールバッグ37に収納することにより、HEPAフィルタの交換時の汚染物質の再飛散を防止することができ、安全に作業性良く交換が可能となる。これは、排気用の第2のHEPAフィルタ32についても同様である。
【実施例2】
【0034】
図7および
図8に、本発明の実施例2のドラフトチャンバーを示す。
図7は実施例2のドラフトチャンバーの右側面図である。
図7においては、取り出したビニールバッグを2点鎖線で示している。また、
図8は、
図7のドラフトチャンバーにおいて、上側のHEPAフィルタの交換口からビニールバッグを取り出した図である。本実施例は、排気用の第1のHEPAフィルタ31と第2のHEPAフィルタ32の設置面を同一平面ではなく、ずらした位置に配置し、更に第2のHEPAフィルタ32のHEPAフィルタ交換口35を斜めに配置した例である。
【0035】
図7に示すように、作業空間12の背面の後部口18に近接して縦方向に第1のHEPAフィルタ31配置し、第1のHEPAフィルタ31の上部に、第2のHEPAフィルタ32の設置面を作業空間12側にずらした位置に配置し、更に第2のHEPAフィルタ32のHEPAフィルタ交換口35を、上部を作業空間12側に傾けて、斜めに配置する。
【0036】
図8に、第2のHEPAフィルタを交換するために、ビニールバッグ37を引き出した状態を示す。第2のHEPAフィルタ32の交換時には、ビニールバッグ37を引き出し、第2のHEPAフィルタ32を前方に傾けて取り外す。そして、取り外した第2のHEPAフィルタ32を下方に移し、ビニールバッグ37に収納する。そして、図示していないが、ビニールバッグ37のHEPAフィルタを収納した部分を切断し、熱溶着してHEPAフィルタ32をビニールバッグ37に密閉する。
第1のHEPAフィルタ31の交換などその他の構成は、実施例1のドラフトチャンバーと同様である。
【0037】
本実施例によれば、第2のHEPAフィルタ32の設置面を作業空間12側にずらして配置することにより、図に示されるように、第1のHEPAフィルタ31を通過した後の第2のHEPAフィルタ32までの流路を広くでき、気流抵抗を抑制し、省エネ効果を期待できる。また、第2のHEPAフィルタ交換口35を、上部を作業空間12側に傾けて、斜めに配置することにより、第2のHEPAフィルタ32のビニールバッグ37への収納が容易になり、HEPAフィルタの交換時の作業性が向上する。
【0038】
上記各実施例では、装置外から取り入れた空気を作業空間を通し、HEPAフィルタで汚染物質を除去して装置外へ全ての空気を排気する全排気型のドラフトチャンバーについて説明したが、本発明は、同様に全排気型の構造であり有機溶剤や特定化学物質を扱う局所排気装置にも用いることができる。
【実施例3】
【0039】
実施例3は、本発明を安全作業装置の一種である安全キャビネットに用いたものである。
図9に、本発明の実施例3の安全キャビネットを示す。
図9は実施例3の安全キャビネットの右側面断面図である。
【0040】
図9に示すように、安全キャビネット10の内部に、作業空間12を備えている。作業空間12の上方には給気用ファン14を備え、給気用HEPAフィルタ15を通した清浄な空気を作業空間12へ供給する。作業空間12の前面には上下に移動する前面シャッタ13を備え、作業者50は、前面シャッタ13の下方の作業開口部17から手を入れて、作業を行う。作業空間12の後側には上下方向に排気流路30を備え、排気流路30に排気用のHEPAフィルタが2つ設けられている。排気流路30の出口には、排気用ファン33が設けられている。
【0041】
本実施例の安全キャビネットにおいては、実施例1のドラフトチャンバーと同様の、排気用のHEPAフィルタの配置構成を備えている。すなわち、排気用の第1のHEPAフィルタ31が作業空間12の背面の後部口18の近くに縦方向(縦置き)に配置されている。そして、排気流路30には、第1のHEPAフィルタ31を設置した同一平面に、排気用の第2のHEPAフィルタ32が縦方向(縦置き)に配置されている。第1のHEPAフィルタ31の後方である排気側に、安全キャビネットの背壁に沿って、第2のHEPAフィルタ32の後方である吸気側に向かう排気流路、すなわち吸排気方向を反転する反転流路30aが設けられている。排気用の2枚のHEPAフィルタを縦方向に配置することにより、機器の奥行寸法を最小にすることができる。
【0042】
作業空間12の上方から作業空間12へ供給される空気と、作業開口部17から取り込まれる空気は、後部口18を通って排気流路30を流れる。そして、作業空間内の汚染物質40は、第1のHEPAフィルタ31および第2のHEPAフィルタ32でろ過され、除去されて、装置外へ排気される。
【0043】
本実施例の安全キャビネットにおいて、排気用の第1のHEPAフィルタ31および排気用の第2のHEPAフィルタ32の交換も、実施例1のドラフトチャンバーと同様に行うことができる。すなわち、第1のHEPAフィルタの交換時には、後部口18からプレフィルタ19を取り外し、第1のHEPAフィルタ交換口34を設置して、第1のHEPAフィルタ31をビニールバッグ37内に収納する。また、第2のHEPAフィルタ32の交換時には、第2のHEPAフィルタ交換口35からビニールバッグ37を引き出して、第2のHEPAフィルタ32をビニールバッグ37内に収納する。
【0044】
本実施例によれば、安全キャビネットにおいて、作業空間の背面に設けた後部口の後側に、排気用の第1のHEPAフィルタを縦方向に配置し、排気流路内であって前記第1のHEPAフィルタの下流側に第2のHEPAフィルタを縦方向に配置し、縦列に配置したHEPAフィルタ間で吸排気方向を反転することにより、機器の奥行幅を最小化して省スペースで複数の排気用のHEPAフィルタを設置できるようになる。
【0045】
また、第1のHEPAフィルタは交換時に汚染側である上流側が下面となり、第2のHEPAフィルタは交換時に汚染側である上流側が上面となる構造が可能となり、HEPAフィルタ交換時の汚染物質の再飛散による排気側への汚染物質の漏洩を抑制することができる。
【0046】
本実施例では、装置外から取り入れた空気を作業空間を通し、HEPAフィルタで汚染物質を除去して装置外へ全ての空気を排気する全排気型の安全キャビネットについて説明したが、本発明は、排気する空気の一部を作業空間に戻すことにより空気を循環させる循環型の安全キャビネットにも用いることができる。
【0047】
また、安全キャビネットにおいても、実施例2のドラフトチャンバーと同様に、作業空間12の背面の後部口18に近接して縦方向に第1のHEPAフィルタ31配置し、第1のHEPAフィルタ31の上部に、第2のHEPAフィルタ32を作業空間12側にずらした位置に縦方向に配置し、更に第2のHEPAフィルタ32のHEPAフィルタ交換口35を、上部を作業空間12側に傾けて、斜めに配置してもよい。
【0048】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 安全キャビネット
11 ドラフトチャンバー
12 作業空間
13 前面シャッタ
14 給気用ファン
15 給気用HEPAフィルタ
17 作業開口部
18 後部口
19 プレフィルタ
30 排気流路
30a 吸排気方向を反転する反転流路
31 第1の排気用HEPAフィルタ
32 第2の排気用HEPAフィルタ
33 排気用ファン
34 第1のHEPAフィルタ交換口
35 第2のHEPAフィルタ交換口
37 ビニールバッグ
40 汚染物質
50 作業者
【要約】
排気系統にHEPAフィルタを複数枚設置して汚染物質の機外漏洩を限りなくゼロに抑える場合において、機器の奥行幅を最小化し省スペースとした安全キャビネットやドラフトチェンバーなどの安全作業装置を提供する。作業空間(12)と、前記作業空間の前面の開口部の一部を覆う前面シャッタ(13)と、前記前面シャッタの下側の、作業者が手を入れて作業を行うことができる作業開口部(17)と、前記作業空間の背面の下部に設けた、作業空間内の空気を吸い込む後部口(18)と、前記作業空間の背面の後側に設けた、前記作業空間内の空気を排気する排気流路(30)と、を有する安全作業装置であって、前記排気流路内であって前記後部口(18)の後側に、排気用の第1のHEPAフィルタ(31)を縦方向に配置し、前記排気流路内であって前記第1のHEPAフィルタの下流側に排気用の第2のHEPAフィルタ(32)を縦方向に配置したことを特徴とする。