(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】光学積層体及び光学装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240228BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240228BHJP
G02B 27/02 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
G02B27/02 Z
(21)【出願番号】P 2023543407
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041161
(87)【国際公開番号】W WO2023084589
(87)【国際公開日】2023-05-19
【審査請求日】2023-07-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503071004
【氏名又は名称】カラーリンク・ジャパン 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 竜也
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 謙一
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-009096(JP,A)
【文献】特開2010-238350(JP,A)
【文献】特開2021-176005(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066429(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/114864(WO,A1)
【文献】特開平09-063110(JP,A)
【文献】国際公開第2021/38225(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/18
G02B 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する光ビームの偏光方位角を変調して、該偏光方位角の楕円偏光を有する光ビームを出力する補償層と、
前記補償層の出力側に配されて、前記光ビームの楕円偏光の偏光回転方向に応じて前記光ビームの光軸に交差する第1方向に前記光ビームを回折する偏光回折格子
であり、前記第1方向に周期的に配向回転して配列された液晶組成物を含む、前記偏光回折格子と、
を備え、前記光ビームの少なくとも一部が前記偏光回折格子に斜めに入射し、
前記偏光方位角を前記偏光回折格子の面内で前記光ビームの入射位置で前記第1方向と直交する基準軸に対して定める場合に、前記少なくとも一部の光ビームの偏光方位角は、前記補償層により、前記偏光回折格子に対する前記少なくとも一部の光ビームの入射角に応じて定められた方位角
であって、前記光ビームの偏光回転方向に一致する向きを有する前記方位角に変調される、光学積層体。
【請求項2】
前記補償層は、前記補償層から出力されて前記偏光回折格子に斜めに入射する前記少なくとも一部の光ビームの偏光方位角の向きが、前記偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に前記偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の偏光方位角の向きに等しくなるように構成される、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記補償層は、さらに、前記補償層から出力されて前記偏光回折格子に斜めに入射する前記少なくとも一部の光ビームの偏光方位角の値が、前記偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に前記偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の偏光方位角の値に等しくなるように構成される、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記補償層は、さらに、前記光ビームの偏光楕円率を変調する、請求項1から3のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項5】
前記補償層は、前記補償層から出力されて前記偏光回折格子に斜めに入射する前記少なくとも一部の光ビームの偏光楕円率が、前記偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に前記偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の楕円率
に等しくなるように構成される、請求項4に記載の光学積層体。
【請求項6】
前記補償層は、前記光軸方向及び前記第1方向のそれぞれに交差する第2方向に長軸を向けて配列された液晶組成物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項7】
前記第1方向は、前記光ビームの光軸を基準とする動径方向であり、
前記偏光回折格子は、前記光ビームの楕円偏光の偏光回転方向に応じて前記動径方向の内向き又は外向きに前記光ビームを回折する、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項8】
前記補償層は、前記光軸を中心とする円環内に周方向に配列された複数の第1変調領域を含み、
前記複数の第1変調領域のそれぞれにおいて、前記光ビームの偏光方位角が、各領域内での前記光ビームの入射角及び入射方位角に応じて定められた方位角に変調される、請求項
7に記載の光学積層体。
【請求項9】
前記補償層は、さらに、前記光ビームの偏光楕円率を変調する、請求項
8に記載の光学積層体。
【請求項10】
前記補償層は、前記複数の第1変調領域ごとに異なる方向を向く遅相軸を有する、請求項
8又は
9に記載の光学積層体。
【請求項11】
前記補償層は、前記複数の第1変調領域ごとに前記動径方向に対して同一の角度方向に長軸を向けて配列された液晶組成物を含む、請求項
8から
10のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項12】
前記補償層は、前記複数の第1変調領域の内側又は外側に、前記光軸を中心とする円環内に周方向に配列された複数の第2変調領域をさらに含み、
前記複数の第2変調領域のそれぞれが、各領域内での前記光ビームの入射角及び入射方位角に応じて前記光ビームの偏光方位角を変調する、請求項
8から
11のいずれか一項に記載の光学積層体。
【請求項13】
請求項
7から
12のいずれか一項に記載の光学積層体と、
前記偏光回折格子の入力側又は出力側に配されて、前記光ビームを屈折するレンズ素子と、
を備える光学装置。
【請求項14】
前記補償層の入力側又は前記補償層と前記偏光回折格子との間に配されて、前記光ビームをその偏光回転方向を反転又は非反転して出力する液晶パネルをさらに備える、請求項
13に記載の光学装置。
【請求項15】
請求項1から
12のいずれか一項に記載の光学積層体と、
前記補償層の入力側又は前記補償層と前記偏光回折格子との間に配されて、前記光ビームをその偏光回転方向を反転又は非反転して出力する液晶パネルと、
を備える光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折効率を高める光学積層体及び光学積層体を備える光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光回折格子(PG)は、入射光を、その偏光状態に応じて選択的に回折する。特許文献1に記載のPGは、偏光ホログラムを用いてその偏光パターンを光配向フィルム内に記録し、その光配向フィルム上で複屈折を有する重合性メソゲンのような液晶組成物を配向させることで作成される。液晶組成物は、光配向フィルムのパターンに沿って、配向面上で一軸方向に周期的に配向回転して配列される。それにより、円偏光を有する光ビーム(円偏光光とも呼ぶ)がPGに入射すると、PGの周期配向構造に対する入射光の偏光状態によって、偏光回転方向を逆にした円偏光光が高効率(すなわち、他の成分がほぼゼロ)で+1次又は-1次の回折方向に出力される。特許文献2に記載の幾何学的位相ホログラム素子(GPH素子)は、液晶組成物の配向パターンをレンズプロファイルとしてレンズ作用を提供するものである。
特許文献1 特表2008-532085号公報
特許文献2 特表2016-519327号公報
【解決しようとする課題】
【0003】
PGに円偏光光を斜め入射すると、楕円偏光を有する+1次又は-1次の回折光が出力されるとともに、+1次又は-1次以外の回折光が漏れ光として出力され、効率の低下を招く。種々の光学系において内部の光学部品に対して斜め方向の光が入射することは一般的なことであり、特にレンズを使用した光学系においては、レンズの作用が光の集束や拡散であることから斜め方向の光が生じやすい。上述のようなPGの斜め入射光に対する効率低下はPGを使用した光学系の効率低下を招き、また漏れ光が生じることで例えば映像を表示する光学系に使用すると、コントラストの低下やゴースト像の発生を招く問題がある。
【一般的開示】
【0004】
(項目1)
光学積層体は、入射する光ビームの偏光方位角を変調する補償層を備えてよい。
光学積層体は、補償層の出力側に配されて、光ビームを回折する偏光回折格子を備えてよい。
(項目2)
補償層は、補償層から出力されて偏光回折格子に入射する光ビームの偏光方位角の向きが、偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の偏光方位角の向きに等しくなるように構成されてよい。
(項目3)
補償層は、さらに、補償層から出力されて偏光回折格子に入射する前記光ビームの偏光方位角の値が、偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の偏光方位角の値に等しくなるように構成されてよい。
(項目4)
補償層は、さらに、光ビームの偏光楕円率を変調してよい。
(項目5)
補償層は、補償層から出力されて偏光回折格子に斜めに入射する光ビームの偏光楕円率が、偏光回折格子に円偏光を有する光ビームを斜めに入射した際に偏光回折格子から出力される光ビームが有する楕円偏光の楕円率に略等しくなるように構成されてよい。
(項目6)
偏光回折格子は、光ビームを、光ビームの光軸を基準とする動径方向の内向き又は外向きに回折してよい。
(項目7)
補償層は、光軸を中心とする円環状に配された複数の第1変調領域を含んでよい。
複数の第1変調領域のそれぞれが、各領域内の代表位置における前記光ビームの入射角及び入射方位角に応じて前記光ビームの偏光方位角を変調してよい。
(項目8)
補償層は、さらに、光ビームの偏光楕円率を変調してよい。
(項目9)
補償層は、複数の第1変調領域ごとに異なる方向を向く遅相軸を有してよい。
(項目10)
補償層は、複数の第1変調領域の内側又は外側に、光軸を中心とする円環状に配された複数の第2変調領域をさらに含んでよい。
複数の第2変調領域のそれぞれが、各領域内の代表位置における光ビームの入射角及び入射方位角に応じて光ビームの偏光方位角を変調してよい。
【0005】
(項目11)
光学装置は、項目6から10のいずれか一項に記載の光学積層体を備えてよい。
光学装置は、偏光回折格子の入力側又は出力側に配されて、光ビームを屈折するレンズ素子を備えてよい。
(項目12)
光学装置は、補償層の入力側又は補償層と偏光回折格子との間に配されて、光ビームをその偏光回転方向を反転又は非反転して出力する液晶パネルをさらに備えてよい。
【0006】
(項目13)
光学装置は、項目1から10のいずれか一項に記載の光学積層体を備えてよい。
光学装置は、補償層の入力側又は補償層と偏光回折格子との間に配されて、光ビームをその偏光回転方向を反転又は非反転して出力する液晶パネルを備えてよい。
【0007】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】第1の実施形態に係る光学積層体の全体構成を示す。
【
図1B】第1の実施形態に係る光学積層体の分解構成を示す。
【
図2A】偏光回折格子の左回り円偏光光の垂直入射時における光回折機能を示す。
【
図2B】偏光回折格子の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図2C】偏光回折格子に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図3A】偏光回折格子の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図3B】偏光回折格子に左回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図4】偏光回折格子に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図2C参照)と偏光回折格子に左回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図3B参照)との比較を示す。
【
図5A】偏光回折格子の右回り円偏光光の垂直入射時における光回折機能を示す。
【
図5B】偏光回折格子の右回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図5C】偏光回折格子に右回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図6A】偏光回折格子の右回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図6B】偏光回折格子に右回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図7】偏光回折格子に右回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図5C参照)と偏光回折格子に右回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図6B参照)との比較を示す。
【
図8】偏光回折格子に入力される入力ビームの偏光方位角に対する出力ビームの強度の測定結果を示す。
【
図10A】偏光回折格子の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図10B】偏光回折格子に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図11A】偏光回折格子の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図11B】偏光回折格子に左回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。
【
図12】偏光回折格子に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図10B参照)と偏光回折格子に左回り楕円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図11B参照)との比較を示す。
【
図14】第2の実施形態に係る光学積層体の全体構成を示す。
【
図15】第2の実施形態に係る光学積層体の作用と補償層の機能を示す。
【
図16】偏光回折格子の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図17】偏光回折格子の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。
【
図20】第2の実施形態に係る光学積層体におけるビーム回折原理を示す。
【
図22】変形例に係る補償層の変調領域の構成を示す。
【
図23】第2の実施形態に係る光学積層体を備える光学装置の一例を示す。
【
図24】第1および第2の実施形態に係る光学積層体を備える光学装置の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0010】
《第1の実施形態》
図1A及び
図1Bは、それぞれ、第1の実施形態に係る光学積層体10の全体構成及び分解構成を示す。光学積層体10は、光ビームγを回折するための複数の光学素子の集合体である。ここで、光軸LをZ軸方向とし、光ビームγの進行方向を+Z方向とし、これに直交する2軸方向をX軸方向(左右方向ともいう)及びY軸方向(上下方向ともいう)とし、-Z側を前側(入力側ともいう)及び+Z側を後側(出力側ともいう)とし、YZ面内で+Y方向を基準に+Z方向に向かう角度を極角θとする。また、XZ面内で+X方向を基準に+Z方向に向かう角度を極角λとする。さらに、Y軸を基準に、XY面上で+X方向に向かう角度を方位角ψとし、これにより光ビームγの楕円偏光の楕円方位角を定義する(
図2B等参照)。
【0011】
光学積層体10は、光ビームγを回折するための光学素子の積層体であり、光ビームγの回折角度に応じて複数段(本実施形態では1段とする)の積層体10を含んでよい。
【0012】
補償層12は、-Z側から入力する円偏光を有する光ビームγを変調して、適当な偏光楕円率(単に楕円率ともいう)及び偏光方位角ψの楕円偏光を有する光ビームを出力するよう形成されたシート状又は膜状の光学素子である。
【0013】
後述するように円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に対して斜めに入射しても±1次光以外の漏れ光(すなわち、不要光)が発生するところ、入射する光ビームを、補償層12を介してその楕円偏光の楕円率及び/又は偏光方位角を変調して偏光回折格子11に入れることで、漏れ光の発生を抑えることができる。
【0014】
なお、補償層12は必ずしも光学積層体10に含まれなくてよい。偏光回折格子11の入射側に別に配置されてもよい。補償層12の構成及び特性については後述する。
【0015】
偏光回折格子11は、-Z側から入力する光ビームγをその偏光状態に応じて選択的に回折する光学素子である。偏光回折格子11は、例えば、偏光ホログラムを用いて偏光パターンを記録した光配向フィルム上で、複屈折を有する重合性メソゲンのような液晶組成物を配向させることで形成される(特許文献1参照)。ここで、偏光回折格子11の液晶組成物は、光ビームの出力側から入力側を見て、+X方向に一定周期で時計回りに配向回転(すなわち、複屈折軸を回転)して配列されているとする。それにより、偏光回折格子11の回折方向はX軸方向となる。ここで、+X側への回折次数を正、-X側への回折次数を負と定義する。
【0016】
偏光回折格子11の光回折機能については後で詳述する。
【0017】
光学積層体10において、補償層12、偏光回折格子11、は接着層(不図示)を介して又は補償層12を、後述する補償層12の製造方法によって偏光回折格子11の前面に直接形成して、一体的に積層される。
【0018】
図2Aに、偏光回折格子11の左回り円偏光光の垂直入射時における光回折機能を示す。左回り円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から垂直入射すると、偏光回転方向を反転した右回り円偏光を有する光ビームが高効率(すなわち、他の回折成分がほぼゼロ)で-1次の回折方向に出力される。
【0019】
図2Bの左に、偏光回折格子11の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。光ビームは、偏光回折格子11の法線方向に対して角度θで入射する。左回り円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度θで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力される。ここで、偏光計を用いて、検光子を回転して出力ビームの偏光を選択しつつパワーメータで出力ビームの強度を測定したところ、図中右に示した測定結果のとおり、出力ビームは負の楕円方位角(-ψ
θ)の楕円偏光を有することがわかる。
【0020】
図2Cに、偏光回折格子11に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。垂直入射(極角ゼロ)の場合、右回り円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。その強度は、-1次回折光とそれ以外の漏れ光(+1次回折光、±2次回折光及び、回折せずに入射光がそのまま直進して出力する0次光)の和の強度に対する比として0.992であり、測定誤差(±0.002)の範囲内で出力した光ビームのすべてが入射した光ビームの偏光回転方向を反転して出力される-1次回折光であることがわかる。斜め入射(入射角は極角に等しい)の場合、右回り楕円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。ここで、効率を目的次数の回折方向に出力される出力ビームの強度/漏れ光を含む出力ビーム(±1次回折光、±2次回折光及び、回折せずに入射光がそのまま直進して出力する0次光)の和の強度と定義し、楕円偏光の楕円率を短軸の長さ/長軸の長さと定義すると、入射角(極角)の増大とともに楕円率は小さくなり、楕円方位角は負の方向からゼロに向かって小さくなり、効率は低下することがわかる。
【0021】
図3Aに、偏光回折格子11の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。負の楕円方位角(-ψ
θ)の左回り楕円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度θで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。しかし、
図2Bの例と異なり、それ以外の回折方向に出力される漏れ光は少なくなる。
【0022】
図3Bに、偏光回折格子11に左回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。ここでは、光ビームの入射角(極角θ)に対して、効率(-1次の回折方向に出力される出力ビームの強度/出力ビームの和の強度)が最大となる、入力ビームの楕円偏光の楕円率及び偏光方位角を決定した。極角θが大きくなるにつれて、楕円率は小さく、楕円方位角は負の小さい角度の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、高い効率を維持できることがわかる。これらの楕円率及び偏光方位角の楕円偏光を有する光ビームを、効率最適化光ビームと呼ぶ。
【0023】
図4に、偏光回折格子11に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図2C参照)と偏光回折格子11に左回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図3B参照)との比較を示す。光ビームの入射角(極角θ)が大きくなるにつれて、効率は低下する、すなわち-1次の回折光以外の漏れ光が増加するが、円偏光光を入力するよりも、適当な楕円率及び負の楕円方位角を有する楕円偏光光を入力するほうが効率は高く、-1次の回折光以外の漏れ光を低減できることがわかる。
【0024】
さらに、
図2Cと
図3Bにそれぞれ示した測定結果を比較すると、偏光回折格子11に左回り円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの楕円率及び楕円方位角(
図2C参照)は、効率最適化入力ビームの左回り楕円偏光の楕円率及び楕円方位角(
図3B参照)と測定誤差(楕円率について±0.03、偏光方位角について±3度)の範囲内でおおよそ一致していることがわかる。従って、偏光回折格子11に光ビームを斜め入射する場合、円偏光を有する光ビームを入射することに代えて、円偏光を有する光ビームを入射した場合に出力される出力ビームの楕円偏光の楕円率及び楕円方位角に等しい又はほぼ等しい楕円率及び楕円方位角の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、漏れ光の発生を抑制して効率を上げることができる。
【0025】
図5Aに、偏光回折格子11の右回り円偏光光の垂直入射時における光回折機能を示す。右回り円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から垂直入射すると、偏光回転方向を反転した左回り円偏光を有する光ビームが高効率(すなわち、他の回折成分がほぼゼロ)で+1次の回折方向に出力される。
【0026】
図5Bの左に、偏光回折格子11の右回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。光ビームは、偏光回折格子11の法線方向に対して角度θで入射する。右回り円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度θで入射すると、偏光回転方向を反転した左回り楕円偏光で正の楕円方位角(+ψ
θ)を有する光ビームが+1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力される。先と同様に偏光計を用いて、検光子を回転して出力ビームの偏光を選択しつつパワーメータで出力ビームの強度を測定したところ、図中右に示した測定結果のとおり、出力ビームは正の楕円方位角(+ψ
θ)の楕円偏光を有することがわかる。
【0027】
図5Cに、偏光回折格子11に右回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。垂直入射(極角ゼロ)の場合、左回り円偏光を有する光ビームが+1次の回折方向に出力される。その強度は、+1次回折光とそれ以外の漏れ光(-1次回折光、±2次回折光及び、回折せずに入射光がそのまま直進して出力する0次光)の和の強度に対する比として0.992であり、測定誤差(±0.002)の範囲内で出力した光ビームのすべてが入射した光ビームの偏光回転方向を反転して出力される+1次回折光であることがわかる。斜め入射(入射角は極角に等しい)の場合、左回り楕円偏光を有する光ビームが+1次の回折方向に出力される。入射角(極角)の増大とともに楕円率は小さくなり、楕円方位角は正の方向からゼロに向かって小さくなり、効率は低下することがわかる。
【0028】
図6Aに、偏光回折格子11の右回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。正の楕円方位角(+ψ
θ)の右回り楕円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度θで入射すると、偏光回転方向を反転した左回り楕円偏光で正の楕円方位角(+ψ
θ)を有する光ビームが+1次の回折方向に出力される。しかし、
図5Bの例と異なり、それ以外の回折方向に出力される漏れ光は少なくなる。
【0029】
図6Bに、偏光回折格子11に右回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。ここでは、光ビームの入射角(極角θ)に対して、効率(+1次の回折方向に出力される出力ビームの強度/出力ビームの和の強度)が最大となる、入力ビームの楕円偏光の楕円率及び偏光方位角を決定した。極角θが大きくなるにつれて、楕円率は小さく、楕円方位角は正の小さい角度の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、高い効率を維持できることがわかる。これらの楕円率及び偏光方位角の楕円偏光を有する光ビームを、効率最適化光ビームと呼ぶ。
【0030】
図7に、偏光回折格子11に右回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図5C参照)と偏光回折格子11に右回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図6B参照)との比較を示す。光ビームの入射角(極角θ)が大きくなるにつれて、効率は低下する、すなわち+1次の回折光以外の漏れ光が増加するが、円偏光光を入力するよりも、適当な楕円率及び正の楕円方位角を有する楕円偏光光を入力するほうが効率は高く、+1次の回折光以外の漏れ光を低減できることがわかる。
【0031】
さらに、
図5Cと
図6Bにそれぞれ示した測定結果を比較すると、偏光回折格子11に右回り円偏光有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの楕円率及び楕円方位角(
図5C参照)は、効率最適化入力ビームの右回り楕円偏光の楕円率及び楕円方位角(
図6B参照)と測定誤差(楕円率について±0.03、偏光方位角について±3度)の範囲内でおおよそ一致していることがわかる。従って、偏光回折格子11に光ビームを斜め入射する場合、円偏光を有する光ビームを入射することに代えて、円偏光を有する光ビームを入射した場合に出力される出力ビームの楕円偏光の楕円率及び楕円方位角に等しい又はほぼ等しい楕円率及び楕円方位角の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、漏れ光の発生を抑制して効率を上げることができる。
【0032】
図8に、偏光回折格子11に入力される入力ビームの偏光方位角に対する出力ビームの強度の測定結果を示す。ここで、右回り円偏光を有する光ビームを4分の1波長板を介して入射角30度で偏光回折格子11に入力し、4分の1波長板を回転させて入力ビームの偏光楕円率及び偏光方位角を変調しつつパワーメータで出力ビームの強度を測定した。出力ビームの強度は、効率(+1次の回折方向に出力される出力ビームの強度/出力ビームの和の強度)により表す。負の偏光方位角を有する右回り楕円偏光を入射するのに対して、また右回り円偏光(偏光方位角はゼロ)を入射するのに対して、正の偏光方位角を有する右回り楕円偏光を入射する場合に効率が良いことがわかる。つまり、
図7において、正の楕円方位角を有する最適化楕円偏光入射は、円偏光入射だけでなく負の楕円方位角を有する楕円偏光入射よりも効率が良いことがわかる。
【0033】
上述の結果の類推より、正の偏光方位角を有する左回り楕円偏光を入射するのに対して、また左回り円偏光を入射するのに対して、負の偏光方位角を有する左回り楕円偏光を入射する場合に効率が良いことも予想される。つまり、
図4において、負の楕円方位角を有する最適化楕円偏光入射は、円偏光入射だけでなく正の楕円方位角を有する楕円偏光入射よりも効率が良いことが予想される。
【0034】
図9に、偏光回折格子11の光回折効率を示す。偏光回折格子11の液晶組成物は、光ビームの出力側から入力側を見て、図面右方に一定周期で時計回りに配向回転(すなわち、複屈折軸を回転)して配列されている。光ビームは光軸Lに対して紙面表側から紙面裏側方向に角度θだけ傾いて偏光回折格子11に入射する。先に
図2Bを用いて説明したように左回り円偏光光が斜め入射した場合(1)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力され、また先に
図8の結果から類推したように正の楕円方位角(+ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(2)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力されるため、効率が低い。これに対して、先に
図3Aを用いて説明したように負の楕円方位角(-ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(3)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力され、それ以外の回折方向への漏れ光が減少するため、効率が高い。
【0035】
また、先に
図5Bを用いて説明したように右回り円偏光光が斜め入射した場合(6)、偏光回転方向を反転した左回り楕円偏光で正の楕円方位角(+ψ
θ)を有する光ビームが+1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力され、また先に
図8を用いて説明したように負の楕円方位角(-ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(5)、偏光回転方向を反転した左回り楕円偏光で正の楕円方位角(+ψ
θ)を有する光ビームが+1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力されるため、効率が低い。これに対して、先に
図6Aを用いて説明したように正の楕円方位角(+ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(4)、偏光回転方向を反転した左回り楕円偏光で正の楕円方位角(+ψ
θ)を有する光ビームが+1次の回折方向に出力され、それ以外の回折方向への漏れ光が減少するため、効率が高い。
【0036】
上述の考察に基づいて、偏光回折格子11に光軸Lに対して角度θの光ビームが入射する場合、補償層12は、入射する光ビームが
図4及び
図7に示した最適化楕円偏光を有する光ビームに変調されるよう形成する。つまり、補償層12は、これらにより出力される光ビームγの偏光方位角の向き(すなわち、光ビームγと偏光回折格子11の液晶組成物の配向回転方向(+X方向)、すなわち偏光回折格子11の回折方向(X軸方向)とに直交するY軸を基準として正の向き(+ψ)又は負の向き(-ψ))が、好ましくはさらにその値(|ψ|)が、偏光回折格子11に円偏光を有する光ビームγを入射した際に偏光回折格子11から出力される光ビームγが有する楕円偏光の偏光方位角のそれらに等しくなる又は略等しくなるように構成するとよい。さらに、補償層12は、これらにより出力される光ビームγの偏光楕円率が、偏光回折格子11に円偏光を有する光ビームγを入射した際に偏光回折格子11から出力される光ビームγが有する楕円偏光の楕円率に等しくなる又は略等しくなるように構成するとよい。
【0037】
図10Aに、偏光回折格子11の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。光ビームは、偏光回折格子11の法線方向に対して角度λで入射する。左回り円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度λで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力される。
【0038】
図10Bに、偏光回折格子11に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。垂直入射(極角ゼロ)の場合、右回り円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。その強度は、-1次回折光とそれ以外の漏れ光(+1次回折光、±2次回折光及び、回折せずに入射光がそのまま直進して出力する0次光)の和の強度に対する比として0.989であり、およそ測定誤差の範囲内で出力した光ビームのすべてが入射した光ビームの偏光回転方向を反転して出力される-1次回折光であることがわかる。斜め入射(入射角は極角に等しい)の場合、右回り楕円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。ここで、入射角(極角)の増大とともに楕円率は小さくなり、楕円方位角は負の方位角を示し、効率は低下することがわかる。
【0039】
図11Aに、偏光回折格子11の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。負の楕円方位角(-ψ
θ)の左回り楕円偏光を有する光ビームが偏光回折格子11に紙面裏側から角度λで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。しかし、
図10Aの例と異なり、それ以外の回折方向に出力される漏れ光は少なくなる。
【0040】
図11Bに、偏光回折格子11に左回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性の測定結果を示す。出力ビームの偏光特性は先と同様に偏光計を用いて測定した。ここでは、光ビームの入射角(極角λ)に対して、効率が最大となる、入力ビームの楕円偏光の楕円率及び偏光方位角を決定した。極角λが大きくなるにつれて、楕円率は小さく、楕円方位角は負の小さい角度の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、高い効率を維持できることがわかる。これらの楕円率及び偏光方位角の楕円偏光を有する光ビームを、効率最適化光ビームと呼ぶ。
【0041】
図12に、偏光回折格子11に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図10B参照)と偏光回折格子11に左回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図11B参照)との比較を示す。光ビームの入射角(極角λ)が大きくなるにつれて、効率は低下する、すなわち-1次の回折光以外の漏れ光が増加するが、円偏光光を入力するよりも、適当な楕円率及び負の楕円方位角を有する楕円偏光光を入力するほうが効率は高く、-1次の回折光以外の漏れ光を低減できることがわかる。
【0042】
図13に、偏光回折格子11の光回折効率を示す。偏光回折格子11の液晶組成物は、光ビームの出力側から入力側を見て、図面右方に一定周期で時計回りに配向回転(すなわち、複屈折軸を回転)して配列されている。光ビームは光軸Lに対して角度λだけ傾いて偏光回折格子11に入射する。先に
図10Aを用いて説明したように左回り円偏光光が斜め入射した場合(1)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力されるため、効率が低い。これに対して、先に
図11Aを用いて説明したように負の楕円方位角(-ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(2)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力され、それ以外の回折方向への漏れ光が減少するため、効率が高い。
【0043】
上述の考察に基づいて、偏光回折格子11に光軸Lに対して角度λの光ビームが入射する場合、補償層12は、入射する光ビームが
図12に示した最適化楕円偏光(入射角の増大に対してより小さい楕円率及び負のより小さい楕円方位角)を有する光ビームに変調されるよう形成される。
【0044】
補償層12は、次のように製造することができる。まず、ガラス、フィルム等の支持基板(本実施形態の場合、偏光回折格子11の前面でもよい)上に配向剤を塗布し、これを乾燥して配向膜を形成する。配向剤として、例えば、DIC社製アゾベンゼン含有高分子材料、日産化学社製シンナモイル基及びカルコン基等の光二量化部位を有する高分子材料を用いる。次いで、配向膜を、直線偏光を有する光ビーム(特に紫外線ビーム)を用いて露光することにより、その偏光方向と平行又は直交する方向を液晶分子の配向方向として記録する。第1の実施形態では、配向方向を一軸方向(Y軸方向)に定めた。なお、この方向が遅相軸を定める。最後に、配向膜の上に光重合性液晶組成物を塗布して液晶膜を製膜する。組成物に含まれる液晶分子は、配向膜に記録された配向方向を向いて配列されることとなる。さらに、液晶膜上にフィルムを貼り付けてもよい。
【0045】
上述のとおり製造される補償層において、液晶組成物の配向方向、種類及び屈折率、液晶膜の膜厚等の設計パラメータを定めることで、所望の光変調特性を発現させる。補償層12は、液晶組成物の種類より定まるその複屈折率に応じて、補償層12を通る光ビームが、
図3Bに示した左周り円偏光を有する光ビームの入射角(極角)に対応する楕円率及び楕円方位角に変調されるように、特に液晶組成物の配向方向及び液晶膜の膜厚を定める。これらの設計パラメータは、LCD Master(シンテック株式会社)のようなシミュレーションソフトを用いて決定することができる。その結果、補償層12は、入射する左回り円偏光を有する光ビームを、最適化された楕円率及び負の楕円方位角(-ψ)を有する左回り楕円偏光を有する光ビームに変調する。
【0046】
なお、補償層12として、上述の偏光特性を備えることができれば、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマ(COC)、ポリエステル(PET)等の複屈折を有するフィルムを使用してもよい。
【0047】
なお、第1の実施形態に係る光学積層体10では、補償層12は、入力する円偏光を有する光ビームγを変調して楕円偏光を有する光ビームを出力するよう形成されるとしたが、直線偏光または楕円偏光を有する光ビームγを変調して効率最適化光ビームとなる楕円偏光を有する光ビームを出力するよう形成してもよい。また、適当な楕円偏光を有する光ビームγが入力される場合にはその楕円方位角ψのみを変調するよう形成されることとしてもよい。
【0048】
なお、第1の実施形態の光学積層体10へ斜めに入射する光ビームλが、光軸Lに対して極角θ又は極角λだけ傾く場合について記載したが、逆に極角-θ又は極角-λだけ斜めに入射する場合も同様である。斯かる場合、先述の説明において、偏光回折格子11の出力ビームの回折方向は変わらず(+1次か-1次のどちらに回折するかは入射する光ビームγの偏光回転方向で決まる)、また出力ビームの楕円偏光の偏光方位角ψも変わらないことが予想される(偏光回折格子の周期的に配向された液晶組成物を光ビームλから見たときに極角θで入射する場合と-θで入射する場合とで、また極角λで入射する場合と-λで入射する場合とで液晶組成物の傾きが同じになるため)。従って、補償層12の機能は同じになることが予想されるため、光軸Lに対して極角-θ又は極角-λだけ斜めに入射する場合の光学積層体10の機能については詳述しない。仮に光ビームγが偏光回折格子11に極角-θ又は極角-λで入射した場合の出力ビームの偏光方位角(及び/又は楕円率)が極角θ又はλで入射した場合と異なるとしても、補償層の設計は、先述した測定および計算を別に行うことで可能である。
【0049】
なお、先述した全ての測定は、偏光回折格子11の液晶組成物の配列パターン間のピッチが11μmの物を使用して行ったものである。異なるピッチの偏光回折格子を使用する場合は、当該ピッチごとに測定を実施して効率最適化光ビームの条件を調整したうえで補償層を設計してもよい。
【0050】
《第2の実施形態》
図14に、第2の実施形態に係る光学積層体20の構成を示す。光学積層体20は、光ビームγを集束又は拡散するための複数の光学素子の集合体であって、偏光回折格子21及び補償層22を備える。
【0051】
図15に、第2の実施形態に係る光学積層体の作用と補償層の機能を示す。ここで、光ビームγの光軸Lに対する平行方向(光ビームγの進行方向)をZ軸方向(+Z方向)とし、これに直交する面(RC面とする)内で光軸Lを基準とする動径方向(この外向き方向)をR方向(+R方向)とし、Z軸方向及びR方向にそれぞれ直交する方向をC方向とし、-Z側を前側(入力側ともいう)及び+Z側を後側(出力側ともいう)とし、RZ面内で+Z方向を基準に-R方向に向かう角度を極角λとする。また、C軸を基準に、RC面上で+R方向に向かう角度を方位角ψとし、これにより光ビームγの楕円偏光の楕円方位角を定義する(
図16等参照)。
【0052】
偏光回折格子21は、-Z側から入力する光ビームγをその偏光状態に応じて選択的に光軸Lに対して集束及び拡散する光学素子である。偏光回折格子21は、例えば、偏光ホログラムを用いて偏光パターンを記録した光配向フィルム上で、複屈折を有する重合性メソゲンのような液晶組成物を配向させることで形成される幾何学的位相ホログラム素子(GPH素子)である(特許文献2参照)。ここで、偏光回折格子21の液晶組成物は、光ビームの出力側から入力側を見て、光軸中心からすべての動径方向(+R方向)に一定周期で時計回りに配向回転(すなわち、複屈折軸を回転)して配列されている。それにより、偏光回折格子21の回折方向はR方向となり、入射光をその偏光方向を変えつつ光軸Lを基準とするR方向の内向き(-R方向)又は外向き(+R方向)に回折することでレンズ作用(集束又は拡散作用)を及ぼして±1次回折光を出力する。ここで、+R側への回折次数を正、-R側への回折次数を負と定義する。
【0053】
なお、GPH素子は、無偏光の光が入射した場合、左回り円偏光の光束を拡散して出力するとともに右回り円偏光の光束を集束して出力し、右回り円偏光の光が入射した場合、偏光方向を左回り円偏光に反転しつつ光束を拡散して出力し、左回り円偏光の光が入射した場合、右回り円偏光に反転しつつ光束を集束して出力する。GPH素子は、光ビームγに対する屈折角の波長分散及びこれに伴う色収差を補償するのに利用される。
【0054】
偏光回折格子21は、光軸Lに対して直交するように配置される。光ビームγは光軸L上の1点に集束する方向で前側から偏光回折格子21に入る。従って、光ビームγは、光軸L上では偏光回折格子21に垂直に入るが、光軸Lから動径方向に離間した位置には有限の角度(極角λ)で入ることとなる。偏光回折格子21の光回折機能については後で詳述する。
【0055】
補償層22は、偏光回折格子21の入力側に配されて、-Z側から入力する円偏光を有する光ビームγを変調して、適当な楕円率及び偏光方位角ψの楕円偏光を有する光ビームを出力するように形成されたシート状又は膜状の光学素子である。補償層22は、偏光回折格子21の前面に積層されることで、光軸Lに対して直交するように配置される。ただし、補償層22は、偏光回折格子21の前面側に配置されればよく、偏光回折格子21から離間して配置されてもよく、またそれらに間に別の素子を挟んで配置されてもよい。
【0056】
後述するように円偏光を有する光ビームγが光軸Lに対して集束し、有限の角度λで偏光回折格子21に入るために±1次光以外の漏れ光(すなわち、不要光、ゴースト光とも呼ぶ)が発生するところ、入射する光ビームを、補償層22を介してその楕円偏光の楕円率及び/又は偏光方位角を変調して偏光回折格子21に入れることで、漏れ光の発生を抑えることができる。補償層22の構成及び特性については後述する。
【0057】
図16に、偏光回折格子21の左回り円偏光光の斜め入射時における光回折機能を示す。先述の通り、光ビームγは光軸L上の1点に集束する方向で補償層22を介して偏光回折格子21に入る。そこで、光ビームγの一部が入る偏光回折格子21の局所領域においては、偏光回折格子21の液晶組成物21aは一軸方向(本例では図面右方向)に一定周期で時計回りに配向回転して配列され、その局所領域の中心(又は代表位置)に光ビームγの一部が方位角ψ(液晶組成物の配向回転の方向21bに等しく、本例では90度)及び極角λをなして入射する。このように左回り円偏光を有する光ビームγが偏光回折格子21に紙面裏側から角度λで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向(-R方向)に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力される。
【0058】
なお、
図16の構成は
図10Aと同じであり、軸の定義が、
図10Aの+Y方向が
図16では+C方向に、
図10Aの+X方向が
図16では+R方向に変わっただけである。従って、偏光回折格子21に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の出力ビームの偏光特性は
図10Bのとおりになる。すなわち、垂直入射(極角ゼロ)の場合、右回り円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。その強度は、-1次回折光とそれ以外の漏れ光(+1次回折光、±2次回折光及び、回折せずに入射光がそのまま直進して出力する0次光)の和の強度に対する比として0.989であり、およそ測定誤差の範囲内で出力した光ビームのすべてが入射した光ビームの偏光回転方向を反転して出力される-1次回折光であることがわかる。斜め入射(入射角は極角に等しい)の場合、右回り楕円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。ここで、入射角(極角)の増大とともに楕円率は小さくなり、楕円方位角は負の方位角を示し、効率は低下することがわかる。
【0059】
図17に、偏光回折格子21の左回り楕円偏光の斜め入射時における光回折機能を示す。負の楕円方位角(-ψ
θ)の左回り楕円偏光を有する光ビームが偏光回折格子21に紙面裏側から方位角ψ(液晶組成物21aの配向回転の方向21bに等しく、本例では90度)及び角度λで入射すると、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。しかし、
図16の例と異なり、それ以外の回折方向に出力される漏れ光は少なくなる。
【0060】
なお、
図17の構成は
図11Aと同じであり、軸の定義が、
図11Aの+Y方向が
図17では+C方向に、
図11Aの+X方向が
図17では+R方向に変わっただけである。従って、偏光回折格子21に左回り楕円偏光を有する光ビームを斜め入射した場合の出力ビームの偏光特性は
図11Bのとおりになる。すなわち、極角λが大きくなるにつれて、楕円率は小さく、楕円方位角は負の小さい角度の楕円偏光を有する光ビームを入力することで、高い効率を維持できることがわかる。これらの楕円率及び偏光方位角の楕円偏光を有する光ビームを、効率最適化光ビームと呼ぶ。
【0061】
偏光回折格子21に左回り円偏光を有する光ビームを入射した場合の効率(
図10B参照)と偏光回折格子21に左回り楕円偏光を有する光ビーム(効率最適化光ビーム)を入射した場合の効率(
図11B参照)との比較は
図12と同じである。光ビームの入射角(極角λ)が大きくなるにつれて、効率は低下する、すなわち-1次の回折光以外の漏れ光が増加するが、円偏光光を入力するよりも、適当な楕円率及び負の楕円方位角を有する楕円偏光光を入力するほうが効率は高く、-1次の回折光以外の漏れ光を低減できる。
【0062】
図18に、偏光回折格子21の光回折効率を示す。偏光回折格子21の液晶組成物21aは、光ビームの出力側から入力側を見て、+R方向(本例では図面右方)に一定周期で時計回りに配向回転(すなわち、複屈折軸を回転)して配列されている、つまり配向回転の方向21bは図面右方とする。その偏光回折格子21に対して光ビームが角度λだけ-R方向(本例では図面左方)に傾斜して入射する。先に
図16を用いて説明したように左回り円偏光光が斜め入射した場合(1)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力されるとともに、それ以外の回折方向に漏れ光が出力されるため、効率が低い。これに対して、先に
図17を用いて説明したように負の楕円方位角(-ψ)を有する楕円偏光光が斜め入射した場合(2)、偏光回転方向を反転した右回り楕円偏光で負の楕円方位角(-ψ
θ)を有する光ビームが-1次の回折方向に出力され、それ以外の回折方向への漏れ光が減少するため、効率が高い。
【0063】
上述の考察に基づいて、補償層22は、入射する光ビームが
図12に示した最適化楕円偏光(入射角の増大に対してより小さい楕円率及び負のより小さい楕円方位角)を有する光ビームに変調されるよう形成される。
【0064】
図19Aに、補償層22の構成を示す。補償層22は、光軸Lを中心とする円環状に配された複数の変調領域、すなわち円環状の領域を周方向に複数等分(本実施形態では一例として8等分)して形成される8つの変調領域22a~22hを含む。変調領域22a~22hのそれぞれについて、各領域の中心又はその近傍等の代表位置における光ビームの入射角(極角)λ及び入射方位角ψ(変調領域22a~22hに対してそれぞれ90度、45度、0度、-45度、-90度、-135度、180度、及び135度)に応じて光ビームの楕円率及び偏光方位角を変調する。変調領域22a~22hは、入射する光ビームの方位角ψを基準にすれば、その方位角ψは各領域内の液晶組成物21aの配向回転の方向21bに対応するから、代表位置を各領域の中心等に統一することで光ビームの入射角(極角)λに対して統一的に設計することができる。そこで、変調領域22a~22hを代表して、変調領域22aの構成を説明する。
【0065】
図19Bに、変調領域22aにおける補償層22の変調機能を示す。補償層22は、左回り円偏光を有する光ビームが-R方向(図面左方)に傾斜して変調領域22aに入ると、その光ビームを、
図11Bに示した大きな入射角(極角)に対してより小さい楕円率及び負のより小さい楕円方位角(-ψ)を有するように楕円率及び楕円方位角を変調し、そして入射角と同じ角度で出力するように構成される。
【0066】
補償層22の各変調領域22a~22hは、先述の補償層12と同様に製造することができる。ここで、液晶組成物の配向方向、種類及び屈折率、液晶膜の膜厚等の設計パラメータを定めることで、所望の光変調特性を発現させる。例えば、変調領域22aは、C方向(光ビームγと偏光回折格子21の液晶組成物21aの回転配向方向21b、すなわち偏光回折格子21の回折方向とに直交する方向)を基準として、
図11Bに示した光ビームの入射角(極角)に対応する最適化な楕円方位角(-ψ)に対応する方向に液晶組成物の配向方向を定める。残りの変調領域22b~22hも、同様に、それぞれの領域中心に対するC方向を基準として最適化な楕円方位角(-ψ)に対応する方向に液晶組成物の配向方向を定める。それにより、各領域内での遅相軸が定まり、各変調領域22a~22hは領域毎に異なる方向を向く遅相軸を有することとなる。その結果、補償層22は、入射する左回り円偏光を有する光ビームを、負の楕円方位角(-ψ)を有する左回り楕円偏光を有する光ビームに変調する。また、変調領域22a~22hを通る光ビームが、
図11Bに示した光ビームの入射角(極角)に対応する最適な楕円率に変調されるように、液晶組成物の種類より定まるその複屈折率に応じて特に液晶膜の膜厚を定める。これらの設計パラメータは、LCD Master(シンテック株式会社)のようなシミュレーションソフトを用いて決定することができる。それにより、各領域内での光ビームが受ける位相差が定まり、各変調領域22a~22hは共通する位相差を有することとなる。
【0067】
図20に、第2の実施形態に係る光学積層体20におけるビーム回折原理を、比較例の偏光回折格子21におけるビーム回折原理とともに示す。
【0068】
比較例において、左回り円偏光を有する光ビームが方位角ψ=90度(すなわち、図面右方)及び入射角λで偏光回折格子21(
図15における変調領域22aに対応する領域)に補償層22を介さずに入ると、偏光回折格子21から負の楕円方位角(-ψ
θ)の右回り楕円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。ここで、偏光回折格子21による光ビームの回折は
図18に示す状態(1)であり、目的次数の回折方向以外への漏れ光が発生するため効率は低い。
【0069】
実施例において、左回り円偏光を有する光ビームが方位角ψ=90度(すなわち、図面右方)及び入射角λで光学積層体20に入力すると、まずこれが補償層22に入り、負の楕円方位角(-ψ
θ)の左回り楕円偏光を有する光ビームが同じ角度λで出力されてこれが偏光回折格子21に入り、偏光回折格子21から負の楕円方位角(-ψ
θ)の右回り楕円偏光を有する光ビームが-1次の回折方向に出力される。ここで、偏光回折格子21による光ビームの回折は
図18に示す状態(2)であり、目的次数の回折方向以外への漏れ光の発生が小さいため効率は高い。
【0070】
残りの変調領域22b~22hを介した光学積層体20のビーム回折原理は、光ビームが光軸L上の一点に集束する方向である限り、各領域内の液晶組成物21aの回転配向方向21bに対する光ビームの方位角ψ及び入射角(極角)λは同じであるから、変調領域22aを介した光学積層体20のビーム回折原理が同様に成立する。従って、光学積層体20の全体において、目的次数の回折方向以外への漏れ光の発生が小さいため効率は高くなる。
【0071】
なお、本実施形態に係る補償層22において、変調領域22a~22hの内側の領域については光ビームの入射角λが小さく、漏れ光の発生は小さいから、変調領域を設けなくてよい。しかし、これに代えて内側の領域にも変調領域を設けてもよい。また、変調領域22a~22hの外側の領域については光ビームの光量は小さいから、変調領域を設けなくてよい。しかし、これに代えて外側の領域にも変調領域を設けてもよい。つまり、R方向に関して複数の変調領域を設けてもよい。
【0072】
図21に、変形例に係る補償層22'の構成を示す。補償層22'は、先述の複数の変調領域22a~22hの内側(又は外側でもよい)に、光軸Lを中心とする円環状に配された複数の変調領域、すなわち円環状の領域を周方向に複数等分(先と同様に8等分)して形成される8つの追加の変調領域をさらに含む。これら追加の変調領域のそれぞれが、各領域内の代表位置における光ビームの入射角及び入射方位角に応じて光ビームの楕円率及び偏光方位角を変調する。ここで、変調領域22a~22h及び追加の変調領域は角度範囲(すなわち入射する光ビームの方位角ψ)が一致していることから、代表して、変調領域22a(図中、22a
1と表記する)及びこの内側に位置する追加の変調領域22a
2について説明する。その他の追加の変調領域については、変調領域22a
2と同様に設計することができる。
【0073】
図22に、変形例に係る補償層22'の変調領域22a
1,22a
2の構成を示す。変調領域22a
1,22a
2のそれぞれが、各領域の中心又はその近傍等の代表位置における光ビームの入射角(極角)λ
1,λ
2に応じて光ビームの楕円率及び偏光方位角を変調する。ここで、一例として、変調領域22a
1への光ビームの入射角(極角)λ
1=40度とする。これに対する効率最適化光ビームの楕円率0.865、偏光方位角-54.9度であり、これらを実現するのに要する補償層の設計条件として遅相軸の向き83.4度及び位相差1.61度を必要とする。従って、変調領域22aでは、C方向を基準として、目的の向きの遅相軸が得られるよう液晶組成物の配向方向を定め、目的の位相差が得られるよう液晶膜の膜厚等を定める。また、変調領域22a
2への光ビームの入射角(極角)λ
2=30度とする。これに対する効率最適化光ビームの楕円率0.910、偏光方位角-60.1度であり、これらを実現するのに要する補償層の設計条件として遅相軸の向き91.3度及び位相差0.90度が求められる。従って、変調領域22a
2では、C方向を基準として、目的の向きの遅相軸が得られるよう液晶組成物の配向方向を定め、目的の位相差が得られるよう液晶膜の膜厚等を定める。なお、これらの設計パラメータは、LCD Master(シンテック株式会社)のようなシミュレーションソフトを用いて決定することができる。その結果、補償層22の変調領域22a
1及び追加の変調領域22a
2は、入射する左回り円偏光を有する光ビームを、それぞれの入射角に対して最適な楕円率及び負の楕円方位角(-ψ)を有する左回り楕円偏光を有する光ビームに変調する。他の変調領域及び他の追加の変調領域についても同様である。
【0074】
なお、本実施形態では極角λ
1,λ
2で偏光回折格子へ入射するときの効率最適化光ビームの条件として
図11Bの測定結果を使用したが、偏光回折格子の液晶組成物の配列パターン間のピッチ(本実施例では11μm)が異なる場合は、
図11B(偏光回折格子の液晶組成物の配列パターン間のピッチが11μmでの測定値)に対応する測定を当該ピッチごとに実施して効率最適化光ビームの条件を調整したうえで補償層を設計してもよい。また、λ
1よりも角度が大きい入射光やλ
2よりも角度が小さい入射光に対応するために、変調領域22a
1の外側(22'の外周側)や変調領域22a
2の内側(22'の中心側)にさらに複数の変調領域があってもよい。
【0075】
なお、本実施形態では光ビームγが光軸Lに対して集束する方向(極角λ)の例を示したが、逆に光ビームγが光軸Lに対して拡散する方向(極角-λ)で偏光回折格子21に入射する場合もある。第1の実施形態で説明した通り、偏光回折格子11へ斜めに入射する光ビームγが、光軸Lに対して極角λの場合と-λの場合とで補償層12の機能は同じになることが予想される。従って、本実施形態の補償層22についても同じことが予想されるため光軸Lに対して拡散する方向(極角-λ)で入射する場合の光学積層体20の機能については詳述しない。仮に光ビームγが偏光回折格子21に極角-λで入射した場合の出力ビームの偏光方位角(及び/又は楕円率)が極角λで入射した場合と異なるとしても、補償層の設計は、先述した測定および計算を別に行うことで可能である。
【0076】
図23に、第2の実施形態に係る光学積層体20を備える光学装置30の一例を示す。光学装置30は、ユーザの視度に応じて拡大虚像の位置を調節することができるトリプルパス光学モジュールを備える装置であり、画像を表示する表示器31、表示器31の光軸L上で順にアイボックス39側(図面左方)に配置される回折光学素子32、表示器側のハーフミラー面を有するレンズ33、及び反射型偏光板を含むフィルタ34を含み、少なくともレンズ33(ハーフミラー面)により画像を拡大する光学系を備える。光学装置30は、移動装置(不図示)により、フィルタ34に対してレンズ33を光軸Lに沿って駆動することで、光学系が有するフィルタ34及びレンズ33の間で2回光路を折り返すとともに、レンズ33(ハーフミラー面)により画像を拡大することで、ユーザの視度に応じて拡大虚像の位置を調節することが可能となる。斯かる構成の光学装置30において、回折光学素子32に、第2の実施形態に係る光学積層体20(偏光回折格子21を構成するGPH素子)を含めることで、表示器31が出力する画像光31aに対する屈折角の波長分散及びこれに伴う色収差を補償するとともに、目的次数の回折方向以外への漏れ光31b、すなわちゴースト光の発生を抑制することが可能となる。
【0077】
なお、第2の実施形態に係る光学積層体20(偏光回折格子21を構成するGPH素子)をさらにフィルタ34内、レンズ33とフィルタ34との間、又はフィルタ34とアイボックス39との間に含めて、色収差補正することとしてもよい。斯かる場合、レンズ33は、その偏光回折格子21の入力側に配されることとなる。
【0078】
第2の実施形態に係る光学積層体20は、入射する光ビームの偏光楕円率及び偏光方位角を変調する補償層22と、補償層22の出力側に配されて、光ビームを回折する偏光回折格子21とを備える。ここで、偏光回折格子21は、光ビームを、光軸Lを基準とする動径方向の内向き又は外向きに回折する。これによれば、補償層22が光ビームの偏光楕円率及び偏光方位角を変調することで、目的次数の回折方向、例えば内向きの1次以外への漏れ光の発生の小さい、つまりゴースト光の発生の小さい光学積層体20を提供することができる。
【0079】
なお、第2の実施形態に係る光学積層体20では、左回り円偏光を有する光ビームを入射するよう構成したが、これに代えて、右回り円偏光を有する光ビームを入射するように構成してもよい。斯かる場合、偏光回折格子21を構成する液晶組成物の配向回転の方向に対する偏光方向が逆になることで回折方向等が変わるが、先述と同じアナロジーで光学積層体20を構成することができることは自明である。
【0080】
図24に、第1及び第2の実施形態に係わる光学積層体10又は光学積層体20を備える光学装置40の一例を示す。光学装置40は、偏光回折格子11、補償層12(又は偏光回折格子21、補償層22)、液晶パネル41を備える。液晶パネル41は、入射する光線の偏光回転方向を反転又は非反転して補償層12(又は補償層22)と偏光回折格子11(又は偏光回折格子21)に向けて出力する。偏光回折格子11(又は偏光回折格子21)は入射する円偏光の回転方向によって回折方向が変わるため、液晶パネル41が偏光回転方向を反転又は非反転することで回折方向を切り替えるアクティブ回折格子として機能する。なお、光学装置40は、偏光回折格子11の入力側又は出力側に配されて、光ビームを屈折するレンズ素子をさらに備えてよい。
【0081】
なお、光学装置40では、補償層12(又は補償層22)の入射側に液晶パネル41を配置する構成にしたが、これに代えて液晶パネル41を偏光回折格子11(又は偏光回折格子21)と補償層12(又は補償層22)の間に配置する構成としてもよい。
【0082】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0083】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0084】
10…光学積層体、11…偏光回折格子、12…補償層、20…光学積層体、21…偏光回折格子、21a…液晶組成物、21b…回転配向方向、22、22'…補償層、22a~22h…変調領域、22a1、22a2…変調領域、30…光学装置、31…表示器、32…回折光学素子、33…レンズ、34…フィルタ、39…アイボックス、40…光学装置、41…液晶パネル、L…光軸、γ…光ビーム。