(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20240229BHJP
F02B 19/14 20060101ALI20240229BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F02D41/40
F02B19/14 Z
F02D45/00 368S
(21)【出願番号】P 2021200944
(22)【出願日】2021-12-10
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【氏名又は名称】野口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰
(72)【発明者】
【氏名】長井 順太郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 莉菜
(72)【発明者】
【氏名】天呑 将成
(72)【発明者】
【氏名】松尾 成浩
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-115724(JP,A)
【文献】特開昭61-112725(JP,A)
【文献】特開2005-069042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/40
F02B 19/14
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの内部に設けられた気筒の上部に形成された主燃焼室と
前記シリンダブロックの上に組み付けられたシリンダヘッドの内部に渦流室として形成され前記主燃焼室に通じた副燃焼室とを有するディーゼルエンジンであって、
前記副燃焼室
の内部空間に
露出して設けられ
コモンレールにおいて蓄圧された燃料を前記内部空間に向けて噴射する噴射部を有し、前記シリンダヘッドに取り付けられたインジェクタと、
前記
噴射部から噴射される前記燃料の噴射時期を制御する制御装置と、
前記ディーゼルエンジンの排気を還流する排気還流手段と、
を備え、
前記制御装置は、
前記ディーゼルエンジンのメイン噴射および前記メイン噴射よりも先に実行される
前記ディーゼルエンジンの先行噴射の前記噴射時期を制御し、前記先行噴射が開始されてから前記先行噴射で噴射された前記燃料と空気との
第1混合気が着火するまでの前記先行噴射の予混合期間を確保することにより前記先行噴射で噴射された前記燃料と前記空気とにより均質で希薄な
前記第1混合気を前記副燃焼室において生成し、前記メイン噴射が開始されてから前記メイン噴射で噴射された前記燃料と前記空気との
第2混合気が着火するまでの前記メイン噴射の予混合期間を確保する制御を実行
し、
前記先行噴射の前記燃料は、前記ディーゼルエンジンのクランク角度として前記ディーゼルエンジンの圧縮行程の上死点前120°以後に噴射され、
前記第1混合気は、前記クランク角度として前記圧縮行程の上死点前10°よりも後に、かつ、前記圧縮行程の上死点よりも前に着火し、
前記メイン噴射の前記燃料は、前記第1混合気が着火することにより発生する前記ディーゼルエンジンの熱発生率のピークよりも後に、かつ、前記圧縮行程の上死点よりも前に噴射されることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記第2混合気は、前記圧縮行程
の上死点以後
に着火することを特徴とする請求項
1に記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記先行噴射の前記
燃料は、
前記クランク角度
として前記圧縮行程
の上死点前60°
以前に噴射されることを特徴とする請求項
1または
2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記先行噴射の前記
燃料は、
前記クランク角度
として前記圧縮行程
の上死点前80°
以前に噴射されることを特徴とする請求項
1または
2に記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記制御装置は、前記メイン噴射よりも先に前記先行噴射を1回のみ実行することを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載のディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記先行噴射は、パイロット噴射であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載のディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副燃焼室に燃料を噴射する副室式のディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリンダ内に燃料を直接噴射する直噴式のディーゼルエンジンが開示されている。特許文献1に開示されたディーゼルエンジンでは、燃料噴射制御手段が、圧縮行程中に比較的少量の早期噴射を複数回に分けて実行すると共に、早期噴射の終了後所定期間を経た後に比較的多量の主噴射を実行する。また、燃料噴射制御手段は、初回の早期噴射を、80°BTDC以降40°BTDC以前のタイミングで実行する。
【0003】
ここで、EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気ガス再循環)を導入することによりNOxを低減できることが知られている。しかし、EGRを導入すると、シリンダ内に吸入される空気の酸素濃度がEGRを導入していない場合よりも低下するため、燃料が着火し難かったり、失火が生じたりするおそれがある。これに対して、メイン噴射よりも先にパイロット噴射が実行されることが有効であることが知られている。
【0004】
しかし、メイン噴射よりも先にパイロット噴射が実行されると、パイロット噴射により噴射された燃料が燃焼することで、シリンダ内の圧力および温度が上昇する。そうすると、メイン噴射により噴射された燃料と空気との予混合期間が、パイロット噴射が実行されない場合よりも短くなる。そのため、メイン噴射により噴射された燃料が燃焼するときに、煤などの粒子状物質(PM:Particulate Matter)の生成量が増加するという問題がある。また、パイロット噴射により噴射された燃料が燃焼するときに発生する燃焼ガスによるシリンダ内の圧力の上昇により、ピストンの上昇に対して逆らう方向の力がピストンに働く。そうすると、図示熱効率が悪化し、燃費が悪化する。そのため、メイン噴射において余分な燃料が噴射され、未燃焼の燃料がPMとして排出されるという問題がある。
【0005】
このように、ディーゼルエンジンにおいては、NOxの低減とPMの低減とがトレードオフの関係にあり、NOxの低減とPMの低減とを同時に実現することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、NOxの低減とPMの低減とを同時に実現することができるディーゼルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、主燃焼室と前記主燃焼室に通じた副燃焼室とを有するディーゼルエンジンであって、前記副燃焼室に臨んで設けられ前記副燃焼室に燃料を噴射するインジェクタと、前記インジェクタから噴射される前記燃料の噴射時期を制御する制御装置と、エンジンの排気を還流する排気還流手段と、を備え、前記制御装置は、メイン噴射および前記メイン噴射よりも先に実行される先行噴射の前記噴射時期を制御し、前記先行噴射が開始されてから前記先行噴射で噴射された前記燃料と空気との混合気が着火するまでの前記先行噴射の予混合期間を確保することにより前記先行噴射で噴射された前記燃料と前記空気とにより均質で希薄な予混合気を前記副燃焼室において生成し、前記メイン噴射が開始されてから前記メイン噴射で噴射された前記燃料と前記空気との前記混合気が着火するまでの前記メイン噴射の予混合期間を確保する制御を実行することを特徴とする本発明に係るディーゼルエンジンにより解決される。
【0009】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、制御装置は、メイン噴射およびメイン噴射よりも先に実行される先行噴射の噴射時期を制御し、先行噴射が開始されてから先行噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火するまでの先行噴射の予混合期間を確保することにより先行噴射で噴射された燃料と空気とにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室において生成する制御を実行する。このように、制御装置は、均質で希薄な予混合気を副燃焼室において生成可能な程度に先行噴射の噴射時期を超早期化することで、先行噴射が開始されてから先行噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火するまでの先行噴射の予混合期間を確保する。そのため、先行噴射による燃焼をPCCI(Premixed Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)燃焼として実現することができる。そのため、先行噴射で噴射される燃料が燃焼する際の筒内圧力および筒内温度の上昇を抑えることができるとともに、先行噴射により発生する熱発生率のピークを低く抑えることができる。これにより、制御装置は、メイン噴射が開始されてからメイン噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火するまでのメイン噴射の予混合期間を確保する制御を実行し、メイン噴射の予混合期間も長くすることが可能になる。そのため、PMの発生を抑えることができる。これにより、本発明に係るディーゼルエンジンは、排気還流手段の導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時に実現することができる。
【0010】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記メイン噴射の前記噴射時期は、前記先行噴射により発生する熱発生率のピーク後、かつ、圧縮行程の上死点前の時期であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、インジェクタは、先行噴射により発生する熱発生率のピーク後、かつ、圧縮行程の上死点前に、メイン噴射を開始する。そのため、より長いメイン噴射の予混合期間を確保することができる。これにより、本発明に係るディーゼルエンジンは、排気還流手段の導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0012】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記メイン噴射で噴射された前記燃料と前記空気との前記混合気が着火する時期は、前記圧縮行程の前記上死点以後であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、メイン噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火する時期は、圧縮行程の上死点以後である。そのため、より長いメイン噴射の予混合期間を確保することができる。これにより、本発明に係るディーゼルエンジンは、排気還流手段の導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0014】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記先行噴射の前記噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、先行噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期である。つまり、制御装置は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期を先行噴射の噴射時期として設定する。そのため、制御装置は、先行噴射が開始されてから先行噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火するまでの十分な予混合期間を確保することができ、先行噴射で噴射された燃料と空気とにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室において生成する制御を実行できる。そのため、先行噴射による燃焼をPCCI燃焼としてより確実に実現することができ、筒内圧力および筒内温度の上昇をより一層抑えることができる。これにより、本発明に係るディーゼルエンジンは、排気還流手段の導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0016】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記先行噴射の前記噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、先行噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期である。つまり、制御装置は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期を先行噴射の噴射時期として設定する。そのため、制御装置は、先行噴射が開始されてから先行噴射で噴射された燃料と空気との混合気が着火するまでの十分な予混合期間を確保することができ、先行噴射で噴射された燃料と空気とにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室において生成する制御を実行できる。そのため、先行噴射による燃焼をPCCI燃焼としてより確実に実現することができ、筒内圧力および筒内温度の上昇をより一層抑えることができる。これにより、本発明に係るディーゼルエンジンは、排気還流手段の導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0018】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記制御装置は、前記メイン噴射よりも先に前記先行噴射を1回のみ実行することを特徴とする。
【0019】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、制御装置は、メイン噴射よりも先に先行噴射を1回のみ実行するとしても、ピストンが圧縮行程の上死点に至るまでの間に、先行噴射で噴射された燃料と空気とにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室において生成することができる。
【0020】
本発明に係るディーゼルエンジンにおいて、好ましくは、前記先行噴射は、パイロット噴射であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係るディーゼルエンジンによれば、制御装置は、パイロット噴射による燃焼をPCCI燃焼として実現することにより、パイロット噴射で噴射される燃料が燃焼する際の熱発生率のピークを低く抑え、図示熱効率の悪化を抑えることができる。これにより、未燃焼の燃料がPMとして排出されることを抑え、PMのより一層の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、NOxの低減とPMの低減とを同時に実現することができるディーゼルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンを表す模式図である。
【
図2】本実施形態に係るディーゼルエンジンの主燃焼室および副燃焼室の近傍を表す断面図である。
【
図3】本実施形態のECUが実行する燃料噴射に関する制御を説明する模式図である。
【
図4】本実施形態のECUが実行する燃料噴射に関する制御を説明する模式図である。
【
図5】本実施形態のECUが実行する燃料噴射に関する制御を説明する模式図である。
【
図6】本実施形態のECUが実行する燃料噴射に関する制御を説明する模式図である。
【
図7】クランク角度と熱発生率との関係を例示するグラフである。
【
図8】パイロット噴射の有無を比較した検討結果の一例を表すグラフである。
【
図9】パイロット噴射時期を比較した検討結果の一例を表すグラフである。
【
図10】
図9に表したグラフにおけるクランク角度が上死点前10°以上、上死点後10°以下の範囲を拡大した拡大グラフである。
【
図11】パイロット噴射時期のクランク角度とSoot(PM)およびNOxとの関係の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンを表す模式図である。
図2は、本実施形態に係るディーゼルエンジンの主燃焼室および副燃焼室の近傍を表す断面図である。
【0026】
本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、内燃機関であって、例えば産業用ディーゼルエンジンである。ディーゼルエンジン1は、例えばターボチャージャ付きの過給式の高出力な4気筒エンジン等の立型の直列の多気筒エンジンである。ディーゼルエンジン1は、例えば建設機械、農業機械、芝刈り機のような車両等に搭載される。なお、気筒の数は、特には限定されず、3つ以下であってもよく、5つ以上であってもよい。
【0027】
ディーゼルエンジン1は、シリンダヘッド2と、吸気マニホールド(インテークマニホールド)3と、排気マニホールド(エキゾーストマニホールド)4と、ターボチャージャ5と、EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気ガス再循環)バルブ63と、EGR冷却器62と、EGRガス経路23と、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)100と、を備える。本実施形態のECU100は、本発明の「制御装置」の一例である。本実施形態のEGRバルブ63、EGR冷却器62およびEGRガス経路23は、本発明の「排気還流手段」に含まれる。なお、ディーゼルエンジン1は、必ずしもターボチャージャ5を備えていなくともよい。
【0028】
図1に表したディーゼルエンジン1は、例えば4つの気筒11を有する立型の直列の多気筒エンジンである。吸気マニホールド3は、吸気(吸入空気)ARが流入する始端部351を一端に有する本管35と、本管35から分岐する枝管31と、を有する。本実施形態の吸気ARは、本発明の「空気」の一例である。本管35の長手方向は、複数の気筒11が並んだ方向すなわちクランク軸が延びた方向に沿っている。吸気マニホールド3の枝管31は、気筒11に接続されている。
【0029】
気筒11の燃焼室には、インジェクタ15が設けられている。インジェクタ15は、コモンレール16に接続されている。図示しない燃料タンクの燃料は、燃料ポンプの動作により、コモンレール16に送られる。コモンレール16は、ECU100の制御に基づいて、燃料ポンプから送られてくる燃料を蓄圧する。コモンレール16において蓄圧された燃料は、インジェクタ15から燃焼室内に噴射される。この詳細については、後述する。
【0030】
ターボチャージャ5は、ブロア5Bとタービン5Tとを有し、吸気マニホールド3へ送る吸気ARを過給する。ブロア5Bは、吸気配管20と吸気通路21とに接続されている。吸気通路21は、吸気マニホールド3のインレットフランジ22に接続されている。タービン5Tは、排気通路4Bに接続されている。排気マニホールド4の排気通路4Bを通して導かれた排気ガスEGがターボチャージャ5のタービン5Tに供給されると、タービン5Tとブロア5Bとは、高速回転する。ブロア5Bが高速回転することで、ターボチャージャ5のブロア5Bに供給され圧縮された吸気ARは、吸気通路21を通じて吸気マニホールド3へ過給される。タービン5Tから排出された排気ガスEGは、DPF(Diesel particulate filter:ディーゼル微粒子捕集フィルタ)19等を介してディーゼルエンジン1の外部へ排出される。
【0031】
図1に示すように、EGRガス経路23の始端部23Mは、排気マニホールド4に接続されている。あるいは、EGRガス経路23の始端部23Mは、排気マニホールド4とタービン5Tとの間における排気通路4Bに接続されていてもよい。EGRガス経路23の末端部23Nは、インレットフランジ22に接続されている。EGRガス経路23には、EGRバルブ63と、EGR冷却器62と、が設けられている。EGR冷却器62は、EGRガス経路23を流れる排気還流ガスECGを冷却する。
【0032】
ECU100は、EGRバルブ63と、コモンレール16等の動作を制御する。
図1に表したように、アクセル開度に関する検出信号、エンジン回転数に関する検出信号およびクランク角度に関する検出信号がECU100に入力される。吸気マニホールド3のインレットフランジ22に供給する吸気ARの供給量は、アクセル開度に基づいたECU100の指令により制御される。EGRバルブ63は、ECU100の指令により、排気マニホールド4から吸気マニホールド3のインレットフランジ22に供給する排気還流ガスECGの供給量を調整する。
【0033】
また、ECU100は、インジェクタ15から噴射される燃料の噴射時期および噴射量を制御する。例えば、ECU100は、アクセル開度に関する検出信号と、エンジン回転数に関する検出信号と、に基づいて、予め設定されたガバナマップを用いて燃料の噴射時期および噴射量を制御する。燃料の噴射量は、例えばインジェクタ15の通電期間により制御される。
【0034】
図2に表したように、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、いわゆる副室式のディーゼルエンジンであり、主燃焼室12と、副燃焼室13と、を有する。ディーゼルエンジン1は、シリンダブロック7を備える。気筒(シリンダ)11は、シリンダブロック7の内部に設けられている。ピストン71は、気筒11の内部に配置されていて、気筒中心軸Pに沿って往復移動可能である。主燃焼室12は、気筒11の上部に形成される。
【0035】
シリンダヘッド2は、シリンダブロック7の上に組付けられている。副燃焼室13は、シリンダヘッド2の内部に形成されている。副燃焼室13は、副室、渦流室、あるいは渦室などとも呼ばれる。
【0036】
主燃焼室12は、口金50を介して副燃焼室13に接続されている。口金50は、燃焼気流Gが通る噴口40を有する。主燃焼室12は、口金50の噴口40を通じて副燃焼室13に連通している。噴口40は、主燃焼室12に対して偏心した箇所に設けられている。例えば、噴口40は、副燃焼室13の内周面のほぼ接線方向に沿って、斜め下方向に向けて形成されている。
【0037】
インジェクタ15は、シリンダヘッド2に取り付けられている。インジェクタ15の噴射部151は、副燃焼室13の内部に臨んで設けられ、上方から斜め下方に向けて副燃焼室13の内部空間に露出している。インジェクタ15は、ECU100から送信された噴射時期および噴射量に関する制御信号に基づいて燃料を副燃焼室13に噴射する。
【0038】
次に、本実施形態のECU100が実行する燃料噴射に関する制御を、図面を参照して詳しく説明する。
図3~
図6は、本実施形態のECUが実行する燃料噴射に関する制御を説明する模式図である。
図7は、クランク角度と熱発生率との関係を例示するグラフである。
なお、
図3および
図4は、本実施形態に係るディーゼルエンジンの圧縮行程を表す模式図である。
図5および
図6は、本実施形態に係るディーゼルエンジンの燃焼行程を表す模式図である。
【0039】
本実施形態のECU100は、インジェクタ15を制御し、1サイクル中に燃料噴射を複数回に分割する多段噴射を行う。具体的には、ECU100は、メイン噴射と、メイン噴射における噴射量よりも少ない噴射量の燃料をメイン噴射よりも先に噴射するパイロット噴射と、を1サイクル中に行う。本実施形態のパイロット噴射は、本発明の「先行噴射」の一例である。なお、本発明の「先行噴射」は、パイロット噴射には限定されず、プレ噴射であってもよく、パイロット噴射およびプレ噴射の両方を含んでもよい。以下の説明では、先行噴射がパイロット噴射である場合を例に挙げる。
【0040】
図3に表したように、ECU100は、パイロット噴射の噴射時期および噴射量を制御し、燃料81を副燃焼室13に噴射する。ここで、本実施形態のECU100は、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのパイロット噴射の予混合期間を確保することにより、パイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成する制御を実行する。本願明細書において「予混合期間」とは、燃料の噴射が開始されてから燃料と吸気(吸入空気)との混合気が着火するまでの期間をいうものとする。
【0041】
本実施形態のECU100が実行する燃料噴射に関する制御を具体的に説明すると、ECU100は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定している。つまり、パイロット噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期である。より好ましくは、ECU100は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定している。つまり、より好ましくは、パイロット噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期である。そのため、
図3に表した通り、パイロット噴射が実行されたとき、ピストン71は、気筒11の下部に存在する。また、ECU100は、パイロット噴射の噴射量を可能な限り少量に設定している。本実施形態では、パイロット噴射の噴射量は、インジェクタ15の下限噴射量に設定されており、例えば、メイン噴射の噴射量の30%以下に設定されている。
【0042】
続いて、
図4に表したように、ピストン71が圧縮行程の上死点に向かってさらに上昇する。そうすると、主燃焼室12の吸気ARが噴口40を通過し副燃焼室13に流入する。このとき、
図4に表した副燃焼室13の内部の矢印のように、直噴式のディーゼルエンジンの燃焼室に生ずる空気流よりも強い渦流が、副燃焼室13に生ずる。これにより、パイロット噴射で副燃焼室13に噴射された燃料81と副燃焼室13に流入した吸気ARとは、副燃焼室13に生じた渦流により互いに混合する。
【0043】
図4に表した状態では、ピストン71は、圧縮行程の上死点には到達しておらず、気筒11の下部あるいは中間部に存在する。そのため、副燃焼室13に形成された混合気の温度および圧力は、混合気が着火する温度および圧力ほどには上昇していない。これにより、パイロット噴射で副燃焼室13に噴射された燃料81は、ピストン71が圧縮行程の上死点の近傍(例えば上死点前10°程度)に到達するまで燃焼することなく、副燃焼室13に流入した吸気ARと予混合される。
【0044】
続いて、
図5に表したように、ピストン71が圧縮行程の上死点の近傍(例えば上死点前10°程度)に到達すると、パイロット噴射で副燃焼室13に噴射された燃料81と副燃焼室13に流入した吸気ARとの混合気が、副燃焼室13で着火し燃焼する。
【0045】
このように、本実施形態に係るディーゼルエンジン1では、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下あるいは80°以上、120°以下である時期にパイロット噴射が開始されてから、ピストン71が圧縮行程の上死点の近傍(例えば上死点前10°程度)に到達するまでの長い期間にわたって、パイロット噴射で副燃焼室13に噴射された燃料81は、副燃焼室13に流入した吸気ARと予混合される。パイロット噴射における燃料81の微小噴射量に対して比較的多くの吸気ARが副燃焼室13に存在するため、均質で希薄な予混合気が副燃焼室13において生成される。このようにして、本実施形態のECU100は、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのパイロット噴射の予混合期間を確保することにより、パイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成する制御を実行する。
【0046】
そして、ピストン71が圧縮行程の上死点の近傍(例えば上死点前10°程度)に到達すると、予混合気が、均質、かつ空燃比(空気燃料比:A/F)が希薄な状態で燃焼する。これにより、PCCI(Premixed Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)燃焼が副燃焼室13において生ずる。
【0047】
その後、パイロット噴射により発生する熱発生率のピーク後であって、圧縮行程の上死点前で、メイン噴射が開始される。つまり、ECU100は、パイロット噴射により発生する熱発生率のピーク後、かつ、圧縮行程の上死点前の時期をメイン噴射の噴射時期として設定している。本実施形態においては、例えば、メイン噴射は圧縮行程の上死点前2°で開始されている(
図10参照)。そして、圧縮行程の上死点以後で、メイン噴射の着火が開始される。
【0048】
続いて、
図6に表したように、副燃焼室13で発生した火炎82が、主燃焼室12に流れ込む。そうすると、主燃焼室12に流れ込んだ火炎82が、主燃焼室12に存在する吸気ARを取り込む。これにより、拡散燃焼が主燃焼室12において生ずる。本発明
者が得た知見によれば、
図7に表したグラフのように、副室式のディーゼルエンジン1では、直噴式のディーゼルエンジンと比較して、燃焼期間が長い。そのため、HC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)などの未燃焼物質の発生を抑えることができる。
【0049】
なお、直噴式のディーゼルエンジンにおいて、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下あるいは80°以上、120°以下である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されると、パイロット噴射が実行されたときには、副室式のディーゼルエンジン1の副燃焼室13に生ずるほどの強い空気流は、直噴式のディーゼルエンジンの燃焼室に生じていない。そのため、インジェクタから燃焼室に噴射された燃料が気筒の内壁面に付着することがある。そうすると、燃料と吸気とが十分に混合されない状態で混合気が燃焼する。つまり、メイン噴射による同時多点着火が生ずる。そうすると、HC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)などの未燃焼物質の発生を抑えることができないことがある。
【0050】
これに対して、本実施形態に係る副室式のディーゼルエンジン1では、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下あるいは80°以上、120°以下である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されていても、パイロット噴射が実行されたときには、直噴式のディーゼルエンジンの燃焼室に生ずる空気流よりも強い渦流が、副燃焼室13に生じている。そのため、インジェクタ15から副燃焼室13に噴射された燃料81が副燃焼室13の内壁面に付着することを抑えることができる。これにより、パイロット噴射で副燃焼室13に噴射された燃料81と副燃焼室13に流入した吸気ARとは、副燃焼室13に生じた渦流により互いに十分に混合できる。そのため、HC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)などの未燃焼物質の発生を抑えることができる。
【0051】
次に、本発明者が実施した検討の結果の例を挙げつつ、本実施形態のECU100が実行する燃料噴射に関する制御をさらに説明する。
図8は、パイロット噴射の有無を比較した検討結果の一例を表すグラフである。
図9は、パイロット噴射時期を比較した検討結果の一例を表すグラフである。
図10は、
図9に表したグラフにおけるクランク角度が上死点前10°以上、上死点後10°以下の範囲を拡大した拡大グラフである。
図11は、パイロット噴射時期のクランク角度とSoot(PM)およびNOxとの関係の一例を表すグラフである。
【0052】
なお、
図8~
図11に表したクランク角度の単位「deg ATDC」は、圧縮行程の上死点後(After Top Dead Center)の角度(°:degree)を意味する。すなわち、「-10(deg ATDC)」は、クランク角度が圧縮行程の上死点前10°であることを意味する。「10(deg ATDC)」は、クランク角度が圧縮行程の上死点後10°であることを意味する。
【0053】
一般的に、EGRを導入することによりNOxを低減できることが知られている。しかし、EGRを導入すると、気筒内に吸入される空気の酸素濃度がEGRを導入していない場合よりも低下するため、燃料が着火し難かったり、失火が生じたりするおそれがある。これに対して、メイン噴射よりも先にパイロット噴射が実行されることが有効であることが知られている。
【0054】
しかし、
図8に表したように、メイン噴射よりも先にパイロット噴射が実行されると、パイロット噴射により噴射された燃料が燃焼することで、気筒内の圧力および温度が上昇する。そうすると、
図8に表したように、メイン噴射による着火が、パイロット噴射が実行されない場合よりも早くなる。つまり、メイン噴射の予混合期間が、パイロット噴射が実行されない場合よりも短くなる。メイン噴射の予混合期間が短くなると、メイン噴射で噴射された燃料と吸気とが十分に混合される前に、混合気が燃焼する。そうすると、メイン噴射により噴射された燃料が燃焼するときに、煤などの粒子状物質(PM:Particulate Matter)の生成量が増加する。また、パイロット噴射により噴射された燃料が燃焼するときに発生する燃焼ガスによる気筒内の圧力の上昇により、ピストンの上昇に対して逆らう方向の力がピストンに働く。そうすると、図示熱効率が悪化し、燃費が悪化する。そのため、メイン噴射において余分な燃料が噴射され、未燃焼の燃料がPMとして排出される。
【0055】
そこで、
図3~
図7に関して前述したように、本実施形態のECU100は、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのパイロット噴射の予混合期間を確保することにより、パイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成する制御を実行する。具体的には、ECU100は、パイロット噴射の噴射量を可能な限り少量に設定し、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定している。より好ましくは、ECU100は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定する。
【0056】
このように、ECU100が均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、例えば
図9に例示したグラフのように、クランク角度が圧縮行程の上死点前100°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのパイロット噴射の予混合期間は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのパイロット噴射の予混合期間よりも長くなる。つまり、ECU100は、均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、パイロット噴射の予混合期間を十分に確保することができる。そのため、例えば
図9および
図10に例示したグラフのように、圧縮行程の上死点前約10°以後に生じるパイロット噴射による燃焼をPCCI燃焼として実現することができる。これにより、パイロット噴射で噴射される燃料81が燃焼する際の筒内圧力および筒内温度の上昇を抑えることができるとともに、パイロット噴射により発生する熱発生率のピークを低く抑えることができる。
【0057】
これにより、ECU100は、メイン噴射が開始されてからメイン噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのメイン噴射の予混合期間を確保する制御を実行し、メイン噴射の予混合期間も長くすることが可能になる。例えば
図10に例示したグラフのように、クランク角度が圧縮行程の上死点前100°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのメイン噴射の着火は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのメイン噴射の着火よりも遅くなる。つまり、クランク角度が圧縮行程の上死点前100°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのメイン噴射の予混合期間は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのメイン噴射の予混合期間よりも長くなる。このように、ECU100は、均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、メイン噴射の予混合期間も長くすることができる。そのため、メイン噴射で噴射された燃料81と吸気ARとが十分に混合された後に、混合気が燃焼する。
【0058】
これにより、ECU100が均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、例えば
図11に例示したグラフのように、クランク角度が圧縮行程の上死点前100°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときの煤(Soot)などの粒子状物質(PM)の発生量は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されたときのPMの発生量よりも少なくなる。つまり、ECU100は、均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、煤(Soot)などの粒子状物質(PM)の発生量を抑えることができる。
【0059】
なお、直噴式のディーゼルエンジンにおいて、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下あるいは80°以上、120°以下である時期がパイロット噴射の噴射時期として設定されると、インジェクタから燃焼室に噴射された燃料が気筒の内壁面に付着することがある。そうすると、燃料と吸気とが十分に混合されない状態で混合気が燃焼する。つまり、メイン噴射による同時多点着火が生ずる。そうすると、HC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)などの未燃焼物質の発生を抑えることができないことがある。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係るディーゼルエンジン1によれば、ECU100は、メイン噴射およびメイン噴射よりも先に実行されるパイロット噴射の噴射時期を制御し、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのパイロット噴射の予混合期間を確保することによりパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成する制御を実行する。このように、ECU100は、均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成可能な程度にパイロット噴射の噴射時期を超早期化することで、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでの予混合期間を確保する。そのため、パイロット噴射による燃焼をPCCI燃焼として実現することができる。そのため、パイロット噴射で噴射される燃料81が燃焼する際の筒内圧力および筒内温度の上昇を抑えることができるとともに、パイロット噴射により発生する熱発生率のピークを低く抑えることができる。これにより、ECU100は、メイン噴射が開始されてからメイン噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでのメイン噴射の予混合期間を確保する制御を実行し、メイン噴射の予混合期間も長くすることが可能になる。そのため、PMの発生を抑えることができる。これにより、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、EGRの導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時に実現することができる。
【0061】
また、メイン噴射の噴射時期は、パイロット噴射により発生する熱発生率のピーク後、かつ、圧縮行程の上死点前の時期である。つまり、ECU100は、パイロット噴射により発生する熱発生率のピーク後、かつ、圧縮行程の上死点前の時期をメイン噴射の噴射時期として設定する。そのため、より長いメイン噴射の予混合期間を確保することができる。これにより、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、EGRの導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0062】
また、メイン噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火する時期は、圧縮行程の上死点以後である。そのため、より長いメイン噴射の予混合期間を確保することができる。これにより、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、EGRの導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0063】
また、パイロット噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期である。つまり、ECU100は、クランク角度が圧縮行程の上死点前60°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定する。より好ましくは、パイロット噴射の噴射時期は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期である。つまり、より好ましくは、ECU100は、クランク角度が圧縮行程の上死点前80°以上、120°以下である時期をパイロット噴射の噴射時期として設定する。そのため、ECU100は、パイロット噴射が開始されてからパイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとの混合気が着火するまでの十分な予混合期間を確保することができ、パイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成する制御を実行できる。そのため、パイロット噴射による燃焼をPCCI燃焼としてより確実に実現することができ、筒内圧力および筒内温度の上昇をより一層抑えることができる。これにより、本実施形態に係るディーゼルエンジン1は、EGRの導入によるNOxの低減とPMの低減とを同時により確実に実現することができる。
【0064】
また、ECU100は、メイン噴射よりも先にパイロット噴射を1回のみ実行してもよい。この場合であっても、ピストン71が圧縮行程の上死点に至るまでの間に、パイロット噴射で噴射された燃料81と吸気ARとにより均質で希薄な予混合気を副燃焼室13において生成することができる。
【0065】
さらに、ECU100は、パイロット噴射による燃焼をPCCI燃焼として実現することにより、パイロット噴射で噴射される燃料81が燃焼する際の熱発生率のピークを低く抑え、図示熱効率の悪化を抑えることができる。これにより、未燃焼の燃料がPMとして排出されることを抑え、PMのより一層の低減を図ることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1:ディーゼルエンジン、 2:シリンダヘッド、 3:吸気マニホールド、 4:排気マニホールド、 4B:排気通路、 5:ターボチャージャ、 5B:ブロア、 5T:タービン、 7:シリンダブロック、 11:気筒、 12:主燃焼室、 13:副燃焼室、 15:インジェクタ、 16:コモンレール、 19:ディーゼル微粒子捕集フィルタ、 20:吸気配管、 21:吸気通路、 22:インレットフランジ、 23:EGRガス経路、 23M:始端部、 23N:末端部、 31:枝管、 35:本管、 40:噴口、 50:口金、 62:EGR冷却器、 63:EGRバルブ、 71:ピストン、 81:燃料、 82:火炎、 100:ECU、 151:噴射部、 351:始端部、 AR:吸気、 ECG:排気還流ガス、 EG:排気ガス、 G:燃焼気流、 P:気筒中心軸