(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】レーザ測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 17/10 20200101AFI20240229BHJP
G01S 7/497 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01S17/10
G01S7/497
(21)【出願番号】P 2019151568
(22)【出願日】2019-08-05
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504243718
【氏名又は名称】株式会社トリマティス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 典彦
【審査官】石原 徹弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-090793(JP,A)
【文献】特開2010-243444(JP,A)
【文献】特開2008-076131(JP,A)
【文献】特開2000-206244(JP,A)
【文献】特開平09-061525(JP,A)
【文献】特開平09-044785(JP,A)
【文献】特開平05-052957(JP,A)
【文献】国際公開第2009/105857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 17/00-17/95
G01S 7/48ー 7/51
G01S 7/52ー 7/64
G01S 15/00ー15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記レーザ測距装置を複数個有し、前記複数個のレーザ測距装置が、それぞれのレーザ測距装置間でバースト周期を独自に変えられる調整手段を有することを特徴とする請求項1または2のレーザ測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザを光源とし、被写体に向けて照射するレーザ光の発射タイミングと、前記被写体で反射した後、検出器で反射光を受光するタイミングとの時間差を計測し、前記時間差から被写体の距離を求めるレーザ測距装置に関し、前記装置の測距精度向上とコストダウンと測定速度向上を目指す技術に関するものである。
【0002】
本発明において、好ましくは、用いる光源としてバースト状のレーザ光を使う。前記バースト状とは、2個以上のパルスが等間隔で並んだレーザ光のパルス列状のものを意味し、前記パルス列状のパルスの間隔時間をバースト周期といい、その逆数をバースト周波数と呼び。そのパルスの数をバースト数と呼ぶ。前記バースト数と前期バースト数の積をバースト長とよぶ。具体的説明は、後記するが、
図2には、バースト数3の場合のバースト周期と、バースト長の関係を、受光強度波形と受信信号のイメージと共に、表現している
【背景技術】
【0003】
レーザ光は、指向性が高く波長を一定に保つ電磁波である。光の速度で伝播するため、送信タイミングと、被写体で反射した光を受信する受信タイミングを測定することで、被写体までの距離を精度良く測定することができる。
【0004】
特許文献1は通常のレーザ光を用いたレーザ測距装置の一例である。レーザ発信器部の出力とコンパレータの出力をカウンタでカウントすることで、目標までの距離を測距することができる(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献2は特許文献1の問題点を改良した例である。送信タイミングを示す参照光と、受信タイミングを示す信号光の相関性を検出し、相関を検出した結果から、重心を求め、測距値を算出している。(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【0007】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、検出器の出力を増幅しコンパレートするため、レーザ光の信号量、検出器の感度特性、回路の増幅特性、回路のコンパレータ閾値などの固体ばらつき、温度特性のばらつきなどの影響で、測距値がばらついて、誤差が発生し、測距精度が劣化するという課題があった。
【0010】
特許文献2では、精度は上がると思われるが非常にコストが掛かる。例えば、距離分解能を1.5cmにするには100ps毎にサンプリングする必要がある。また、それで取り込んだ膨大な量のデータで相互相関を取るのは演算資源も大量に消費する。
【0011】
特許文献3でも、同様に精度は上がると思われるが同特許文献内にあるように精密に高調波成分を抽出する為には、特許文献2と同様にサンプリング周波数を高くする必要があり、計算量も増える。
【0012】
本発明は係る従来の装置の有する課題を解決するためになされたものであり、測距精度の高いレーザ測距装置を安価に提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、レーザ光源からは従来の1発のパルスを発生させるのではなく、複数のパルスをバースト的に発生させる。受信部ではバースト周波数付近に帯域制限を掛けることによりSIN波に近似した波形にし、これをAD変換してそのデータを離散フーリエ変換(以後DFTと省略する)しバーストの基本波のみの実数部と虚数部の比から計算された位相とバースト周期から求めた光の飛行時間の詳細部とする。このように基本波のみを扱うことによりAD変換のサンプリング周波数を下げる事ができる。これだけではバースト周期によって最長の測定距離が決まってしまい一般的ではない。そこでDFTを計算する時間をバースト発生時間に等しい矩形窓関数を移動して相関のパワーが最大になる点を探すことにより達成する。また、基本波成分のみでのDFT計算では波形歪により精度が落ちる可能性があるので内蔵された可変遅延素子の遅延量とDFTによって計算された実数部と虚数部の値とのテーブルを作成し、そのテーブルを用いて精度の高い光の飛行時間を求める。
【0014】
換言すると、本発明は、バースト状レーザを発光する機能をもった発光部と、前記発光部から発生したレーザの目標物からの反射光を受信する機能をもった受信部と、前記受信した反射光を光電変換し、AD変換する機能をもった変換部を有し、前記変換部で得られたデジタルデータからDFTを計算して距離を測定する機器に於いて、前記バースト状レーザのバースト長に等しい矩形窓関数をAD変換周期時間シフトしながら前記DFTを計算して、最大パワーになる矩形窓関数の主遅延量と前記DFTから算出された位相情報の位相とバースト周期から計算された副遅延量を加算する演算部を含むことを特徴とするレーザ測距装置に関するものである。
【0015】
本発明は、上記のように測距測定に、バースト状レーザを発光する機能を持った発光部を用い、発生したバースト状レーザ光が目標物に当たり、散乱して戻ってくるバースト状レーザの一部を受光できる受光部を用いるものである。また。本発明の飛行時間は、前記発光部から前記受信部までのレーザ光の飛行時間のことである。本発明は、更には、バースト状レーザ光を用い、受信部ではバースト周波数付近に帯域制限を設けて。SIN波に近似した波形にし、これをAD変換してそのデータをDFT計算しバーストの基本波のみの実数部と虚数部の比から計算された位相とバースト周期から求めた光の飛行時間の詳細部とする。このように基本波のみを扱うことによりAD変換のサンプリング周波数を下げる事ができる。また、基本波成分のみでのDFT計算では波形歪により精度が落ちる可能性があるので内蔵された可変遅延回路が校正手段を有し精度を上げたレーザ測距装置を提供する。
【0016】
本発明において、前記変換部に用いる光電変換のための手段は、一般の光電変換回路が用いられ、また、AD変換も一般の回路を用いることができる。更に、DFT計算する回路等の手段は、公知のものが利用できる。
受信部の帯域はアンプ周波数特性もしくはフィルターによってバースト周波数以下に調整されている。よって発信時のレーザ光では矩形バーストであったものが正弦波に近似したバーストになる。これをナイキスト周波数以上のサンプリング周波数でAD変換する。AD変換されたデータをDFTして、その基本波成分の位相を計算してレーザ光の飛行時間の精密な時間情報を得る。なお、前記DFTは、サンプル数の条件が整えば高速フーリエ変換(FFT)で計算することも可能であるので、本発明において、DFTなる表現は、FFTを含むものであり、本発明で、主体的にDFTを用いて説明したが、本発明は、その権利範囲にFFTを含むものである。
【0017】
図1は本発明のブロック図である。
図2は発光強度波形と受信信号のイメージを表現したものである。ADコンバータのサンプリング周波数はバースト周波数の2倍(ナイキスト周波数)以上であればよい。しかし、ちょうど4倍のサンプリング周波数はハードウエアで計算するのに都合が良い即ち計算量が少なくなるが、これは、好ましい例の一例で、本発明は、これに限定されるものではない。
【0018】
DFT計算理論からわかるように複数個所のデータを加算して計算している為、逆正接(実数部/虚数部)は平均した結果となる為、S/Nの向上をもたらすことになる。その為、光の透過率の悪い水中における測距に置いてとりわけ精度の向上が期待できる。条件の悪い水中などではバースト数を増やし平均回数を増やすなどの測定条件の変更が簡単に行うことができるのも本発明の利点である。
【0019】
位相から計算した時間情報だけではバースト周期の以内のレーザ光の飛行距離しか測定できない。そのためにバーストの先頭の大まかな到着時刻(以後粗到着時刻と呼ぶ)を知る必要がある。それは 特許文献3では閾値検出部と粗時計カウンタと粗時計記憶部から構成されている。しかし、閾値の設定は単一パルスの飛行時間を測定する装置では使われるが、バースト状レーザではレーザ安全上の問題から平均パワーを一定する観点からピークパワーを下げる必要があり、閾値がノイズレベルと同等になる可能性が出てきて適した方法ではない。
【0020】
そこで、バーストの粗到着時刻を測定する方法として、DFTを計算する期間がバースト長と等しい矩形窓関数を考える。この矩形窓関数をAD変換のサンプル周期時間単位で移動してDFT計算を行う事で得られたパワーが最大になる時の矩形窓の先頭の時刻が粗到着時刻となる。
図3には受信信号と5種類の矩形窓関数が表示されているが矩形窓3が最大のパワーになるのでこの時が粗到着時刻となる。いつも
図3のように明確に最大のパワーが判定し易いというわけではないが、
図4のような場合で矩形窓2が最大パワーになっても矩形窓3が同じ最大パワーになっても位相計算の合算によって正確な到着時刻を計算することができる。
【0021】
前段落のように粗到着時刻を測定する機能持った部分を主遅延量測定部と呼び、DFTの実数部と虚数部の比から位相を計算し詳細なレーザ光の飛行時間を測定する機能を持った部分を副遅延量測定部と呼びこの2つの計測部から計算された遅延量を加算することによりレーザ光の飛行時間を測定する。
【0022】
ただし、上記に説明した装置は正弦波に近似とあるように歪があるのが一般的であり、この歪は基本波のみのDFTで位相を計算した場合誤差となる。しかし、この誤差は校正する事ができる。この校正には
図1における距離測定目標を前後に移動して距離を変更してと計算された位相の値をテーブルに記憶させる事で可能である。校正する為の距離測定目標移動距離はAD変換のサンプル周期時間の間に光が進行する距離の1/2以上である必要がある。しかし、この方法は工業的には生産性が低い。同様の機能をバースト発生部とレーザ発光部の間に可変遅延素子を挿入する事により同じ効果が得られる。この可変遅延素子の最大遅延時間と最小遅延時間の差はAD変換のサンプル周期時間より長い必要がある。
【0023】
矩形窓は最も時間分解能が良い窓関数である。一定の時間の窓に整数個で互いに等倍数になっていないバーストパルスが入るとそれぞれ別の周波数と認識出来る。この特性を使えば同一空間、同一光波長、同一時刻に別の距離測定を使う事が可能となる。
【0024】
なお、本発明は、前記レーザ測距装置が、前記発光部および/または前記受信部に可変遅延回路を有し、前記遅延回路が校正手段を有することもできる。前記発光部の前部に可変遅延回路を有したものが
図1の実施例となる。更に、前記レーザ測距装置を複数個有し、前記複数個のレーザ測距装置が、望ましくは、それぞれのレーザ測距装置間でバースト周期を独自に変えられる調整手段を有していてもよい。本発明で、前記調整手段を使った場合、前記調整手段の周期を変えることによって同じ空間、同じ時刻、同じ光波長の光源を使っても前記複数個のレーザ測距装置は、相互に干渉しにくい効果が出てくるので、非常に有用である。
【0025】
前記
可変遅延回路とは、半導体でできた遅延用ICで構成されたものであり、現時点で、10pSの時間分解能がある製品がでている。このような回路を用いて仮想的に
図1における距離測定目標を往復10pSの飛行時間すなわち、片道
5pSの飛行時間を距離換算すると
1.5mmずつ移動して位相情報を取得するのと等価の結果を得ることができる
。このデータを用いて、実際の距離を測定すると、距離精度を著しく向上されるので、本発明の好ましい一実施例である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】
図2はレーザ発光波形と受信信号のAD変換前のアナログ信号
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0027】
以下、実施例で、説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0028】
図1の実施例は、反射光を受けた部分が光電変換部、増幅・帯域制限部と書かれているが一般的に高い増幅率の増幅器は挟帯域になる場合があるので特別に帯域制限部が必要としないこともある。
【0029】
演算部はサンプルしたデータをいわゆるマイクロプロセッサにより演算すれば安価だが結果が出るのに時間を要するシステムになり、FPGAやゲートアレイ等デジタル演算を専門に行うハードウエアを用意すれば結果を高速算出する事ができるシステムを構築できる。
【0030】
本発明で、DFTを代表例として用いて回路の説明をしたが、高速フーリエ変換(FFT)に適したサンプル数の場合FFTを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この測定方法では特許文献1(実開平5-28983号公報)におけるコンパレータ(電圧比較器)を使わない事が出来きるので光信号の強度の変化による光到着時刻の変動がないので精度の高い計測が安価に出来る。
【0032】
コンパレータを使用しなくてよいので光の量が強すぎて増幅部が飽和から完全に回復していない状態でも測定することが出来る。
【0033】
この測定方法ではバースト状に光パワーを出すためピークパワーを特許文献の2例の場合より設定可能となり受信部の飽和しにくい装置となる。この事は測定距離レンジの拡大に寄与する。
【0034】
この測定方法での精度はバースト長、AD変換サンプリング周波数、AD変換有効ビット数をそれぞれ上げることにより精度を上げる事が出来る。その為、コスト重視の時は安いAD変換器すなわちサンプリング周波数や有効ビットの少ないものを使いながらも、バースト長を長くして精度を保つ事ができる。一方でスキャナーを高速で動かし多点の測定をする為に短時間で測定しなければいけない場合はバースト周波数を上げサンプリング周波数を上げてコストをかけても高精度と高速性を追求するなどフレキシブルな装置を作るのに適している。
【0035】
同一空間、同一光波長、同一時刻に距離測定を使う事が可能となると光の利用効率が上がる。
【0036】
空中に於いては光の単位長当たりの減衰量は低いが水中に於いては単位長当たりの減衰量は水質が良好な場合でも圧倒的に高い。その為に光を使った水中に於ける距離測定は従来の測定方法では困難であっても、この測定方法でバースト長を長くする若しくはAD変換速度を上げる等の方策で測定が可能になる。
【符号の説明】
【0037】
1 光信号伝搬
2 電気信号伝搬