(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】塊成化物の製造方法、及び還元鉄の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/244 20060101AFI20240229BHJP
C21B 13/00 20060101ALI20240229BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C22B1/244
C21B13/00
C22B5/10
(21)【出願番号】P 2020047806
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】畑 友輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴文
(72)【発明者】
【氏名】知北 大輝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 圭介
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 亮司
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160451(JP,A)
【文献】特開2015-137379(JP,A)
【文献】特開2012-082493(JP,A)
【文献】特開2013-221187(JP,A)
【文献】特開2016-108580(JP,A)
【文献】特開2010-090254(JP,A)
【文献】特開2009-052138(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10042112(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/091643(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C21B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン及び/または糖蜜を含む有機バインダーの
13C-NMRスペクトル測定を行い、全
13C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの
13C-NMRスペクトルの面積比、及び
13C-NMRスペクトル測定によって得られた全
13C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの
13C-NMRスペクトルの面積比を求め、前記有機バインダーを塊成化物製造用バインダーとして使用するか否かを判定する塊成化物製造用バインダー準備工程と、
酸化鉄原料を含む塊成化物原料に前記塊成化物製造用バインダーを添加し、混合する工程と、
前記塊成化物原料と前記塊成化物製造用バインダーとの混合物を用いて塊成化物を作製する工程と、を含
み、
前記塊成化物製造用バインダー準備工程において、前記有機バインダーが、
13
C-NMRスペクトル測定によって得られた全
13
C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの
13
C-NMRスペクトルの面積比が5%以上であるという特性、及び
13
C-NMRスペクトル測定によって得られた全
13
C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの
13
C-NMRスペクトルの面積比が2%以上であるという特性を満たした場合、前記有機バインダーを前記塊成化物製造用バインダーとして使用すると判定することを特徴とする、塊成化物の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の塊成化物の製造方法で製造された塊成化物を用いて、還元鉄を製造する還元鉄の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊成化物製造用バインダーを用いた塊成化物の製造方法、及び還元鉄の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元鉄の製造方法として、例えば特許文献1~4に開示されるように、酸化鉄原料とバインダーとの混合物を塊成化することで塊成鉱を作製し、この塊成鉱を還元する方法が知られている。このような還元鉄の製造方法では、酸化鉄原料として製銑あるいは製鋼過程等において生じたダスト、スケール等の他、焼結用の鉄鉱石(粉鉱石、微粉鉱石等)等を使用することができる。微粉鉱石は、選鉱処理により鉄含有量を高めた鉄鉱石である。近年、リサイクルの観点からダスト、スケール等の使用が推奨されている。また、近年、鉄鉱石が低品質化しているため、選鉱処理が行われることが多くなっている(すなわち、微粉鉱石の供給量が多くなっている)。このため、微粉鉱石の使用も推奨されている。これらの観点等も含めて、塊成鉱を還元する還元鉄の製造方法は非常に着目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/049974号
【文献】特開2016-108580号公報
【文献】特開2016-160451号公報
【文献】特開2003-129142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した還元鉄の製造方法においては、還元鉄の品位向上、生産量増加、あるいは燃料削減のために塊成鉱を還元する際の還元効率(すなわち塊成鉱の還元効率)を高めることが強く望まれている。特許文献1~4には、上述した通り塊成鉱を還元する方法が記載されているものの、還元効率に関してはいまだ改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、還元効率の高い塊成化物を作製することが可能な、新規かつ改良された塊成化物製造用バインダー、それを用いた塊成化物の製造方法、及び還元鉄の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、リグニン及び/または糖蜜を含む有機バインダーの13C-NMRスペクトル測定を行い、全13C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比、及び13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比を求め、有機バインダーを塊成化物製造用バインダーとして使用するか否かを判定する塊成化物製造用バインダー準備工程と、酸化鉄原料を含む塊成化物原料に塊成化物製造用バインダーを添加し、混合する工程と、塊成化物原料と塊成化物製造用バインダーとの混合物を用いて塊成化物を作製する工程と、を含み、塊成化物製造用バインダー準備工程において、有機バインダーが、
13
C-NMRスペクトル測定によって得られた全
13
C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの
13
C-NMRスペクトルの面積比が5%以上であるという特性、及び
13
C-NMRスペクトル測定によって得られた全
13
C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの
13
C-NMRスペクトルの面積比が2%以上であるという特性を満たした場合、有機バインダーを塊成化物製造用バインダーとして使用すると判定することを特徴とする、塊成化物の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の他の観点によれば、上記の塊成化物の製造方法で製造された塊成化物を用いて、還元鉄を製造する還元鉄の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記観点によれば、還元効率の高い塊成化物を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】有機バインダーA~Dの
13C-NMRスペクトルの面積比を示すグラフである。
【
図2】塊成化物(タブレット)の種類と塊成化物が720℃に加熱された際のCO分圧との関係を示すグラフである。
【
図3】塊成化物(タブレット)Aの金属化率を基準とした各塊成化物の金属化率の差分△を示すグラフである。
【
図4】有機バインダーa~iのDO値とタブレットgの金属化率を基準としたタブレットa~iの金属化率の差分との関係を示すグラフである。
【
図5】有機バインダーa~iのSO-1値とタブレットgの金属化率を基準としたタブレットa~iの金属化率の差分との関係を示すグラフである。
【
図6】有機バインダーa~iのSO-2値とタブレットgの金属化率を基準としたタブレットa~iの金属化率の差分との関係を示すグラフである。
【
図7】有機バインダーa~iのDO値及びSO-1値の和とタブレットgの金属化率を基準としたタブレットa~iの金属化率の差分との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
<1.塊成化物製造用バインダーの特性>
まず、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーの特性について説明する。本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーは、塊成化物を作製する際のバインダーとなるものであり、酸化鉄原料を含む塊成化物原料に添加される。その後、塊成化物原料と塊成化物製造用バインダーとの混合物は、適宜の方法で塊成化物とされる。なお、塊成化物は、例えば塊成鉱である。
【0015】
本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーは、有機バインダーの一種であり、13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が5%以上であるという特性(以下、「第1特性」とも称する)、及び13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が2%以上であるという特性(以下、「第2特性」とも称する)を満たす。尚、本明細書で単位「ppm」で表される数値は、NMRスペクトルのケミカルシフトである。
【0016】
本発明者は、塊成化物の還元効率を高めるためには、高温での還元ガス発生が重要であると考えた。そこで、本発明者は、様々な有機バインダーを用いて塊成化物を作製した。ついで、塊成化物を加熱することで、塊成化物内で酸化鉄の還元反応を進行させた。さらに、塊成化物を720℃に加熱した際のCO分圧(=COガス圧/(COガス圧+CO2ガス圧))を測定した。この結果、720℃におけるCO分圧が低いほど還元鉄の金属化率が高い(すなわち、還元がより進行している)ことがわかった。ここで、金属化率は、還元鉄中の全鉄の質量に対する金属鉄の質量比である。詳細は実施例にて説明する。
【0017】
ところで、塊成化物中の有機バインダーは、加熱によって熱分解し、CO2ガスを発生する。したがって、720℃の温度域において有機バインダーが多く熱分解すれば、720℃におけるCO分圧が下がり、酸化鉄の還元反応がより進行しやすくなると考えられる。このため、本発明者は、少なくとも500℃程度までは熱分解をほとんど起こさない有機バインダーであれば、720℃の温度域において多く熱分解し、CO分圧を低下させることができるのではないかと考えた。ここで、有機バインダー内には様々な態様の共有結合(カルボン酸、エーテル、アルデヒド等)が存在する。これらのうち、カルボン酸及びアルデヒドは、500℃以上の温度域で熱分解されてCO2ガスを発生する。したがって、塊成化物製造用バインダーがこれらの官能基をなるべく多く有していることが好ましいと言える。ここで、カルボン酸の13C-NMRスペクトルは185~165ppmで観測され、アルデヒドの13C-NMRスペクトルは240~185ppmで観測される。したがって、これらのスペクトルの面積が大きいことが好ましいことになる。したがって、このような共有結合をなるべく多く有する有機バインダーであれば、720℃の温度域において多く熱分解し、CO分圧を低下させることができると考えられる。本発明者は、このような知見の下、「13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が5%以上であるという特性、及び13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が2%以上であるという特性を満たす(つまり第1及び第2特性を満たす)」という条件で有機バインダーを整理した。この結果、当該条件を満たす有機バインダーを使用することで、720℃におけるCO分圧を下げることができ、ひいては極めて高い金属化率の還元鉄を作製できることがわかった。
【0018】
このような知見から、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーは、第1及び第2特性を満たす塊成化物製造用バインダーを用いて塊成化物を作製することで、塊成化物の還元効率を高めることができる。すなわち、このような塊成化物を還元することで、より金属化率の高い還元鉄を作製することができる。
【0019】
ここで、全13C-NMRスペクトル面積は、0~240ppmの範囲で測定された全ての13C-NMRスペクトルの総面積である。この総面積は、0~240ppmのベースラインと測定されたスペクトル曲線及び0ppmと240ppmにおけるベースラインに対する垂線とで囲まれた領域の面積である。185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比は、185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積を全13C-NMRスペクトル面積で除算することで得られる。185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積は、185~165ppmのベースラインと測定されたスペクトル曲線及び185ppmと240ppmにおけるベースラインに対する垂線とで囲まれた領域の面積である。240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比は、240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積を全13C-NMRスペクトル面積で除算することで得られる。240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積は、240~185ppmのベースラインと測定されたスペクトル曲線及び240ppmと185ppmにおけるベースラインに対する垂線とで囲まれた領域の面積である。面積は、例えば専用のソフトウエアであるDeltaによって求めることができる。後述する実施例では、この方法により各面積比を求めた。なお、185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比の上限値、240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比の上限値は特に制限されないが、例えば30%を上限値としてもよい。
【0020】
ところで、13C-NMRにおいて、90~50ppmでスペクトルが観測される共有結合(例えばエーテル)は、500℃未満の温度域で熱分解することが多い。したがって、このような共有結合をなるべく有さない有機バインダーであれば、720℃の温度域において多く熱分解し、CO分圧を低下させることができると考えられる。したがって、90~50ppmで観測されるスペクトルの面積はなるべく小さいことが好ましいと言える。より具体的には、塊成化物製造用バインダーは、13C-NMRスペクトル測定によって得られた全13C-NMRスペクトル面積に対する90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が60%以下であるという特性(以下、「第3特性」とも称する)をさらに満たすことが好ましい。90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比の下限値は特に制限されず、理論上は0を含みうるが、実際上も0を下限値としてもよい。
【0021】
第1及び第2特性を満たし、さらに第3特性を満たす塊成化物製造用バインダーを用いて塊成化物を作製することで、より還元効率の高い塊成化物を作製することができる。
【0022】
塊成化物製造用バインダーとして使用可能な有機バインダーの種類は特に制限されず、上述した特性を有する有機バインダーであればどのようなものであっても使用可能である。塊成化物製造用バインダーは、単一種の有機バインダーで構成されていてもよく、複数種の有機バインダーの混合物であってもよい。ただし、塊成化物製造用バインダー全体として少なくとも第1及び第2特性を満たす必要がある。
【0023】
本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーとして使用可能な有機バインダーの代表的な例として、リグニン及び糖蜜が挙げられる。ただし、リグニン及び糖蜜であればどのようなものであってもよいわけではなく、リグニン及び糖蜜の製造過程、精製過程等の違いによってリグニン及び糖蜜の特性が大きく変動しうる。つまり、リグニン及び糖蜜の中には、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーとして使用可能なものと、そうでないものとが混在している。他の有機バインダーについても同様である。
【0024】
したがって、入手できた有機バインダーの13C-NMRスペクトルが不明であれば、まず、有機バインダーの13C-NMRスペクトルを測定し、有機バインダーが上述した特性を有するか否かを評価すればよい。そして、有機バインダーが少なくとも第1及び第2特性を満たす場合に、その有機バインダーを本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーとして使用することができる。有機バインダーは、さらに第3特性を満たすことが好ましい。
【0025】
塊成化物製造用バインダーは、好ましくは第1及び第2特性を満たすリグニンである。当該リグニンは、好ましくは、第3特性をさらに満たす。塊成化物製造用バインダーは、当該リグニン以外の有機バインダーを含んでいてもよいが、塊成化物製造用バインダー全体として少なくとも第1及び第2特性を満たす必要がある。
【0026】
<3.塊成化物の製造方法>
つぎに、上述した塊成化物製造用バインダーを用いた塊成化物の製造方法について説明する。本製造方法は、上述した塊成化物製造用バインダーを準備する工程(第1工程)と、酸化鉄原料を含む塊成化物原料に塊成化物製造用バインダーを添加し、混合する工程(第2工程)と、塊成化物原料と塊成化物製造用バインダーとの混合物を用いて塊成化物を作製する工程(第3工程)と、を含む。
【0027】
(3-1.第1工程)
第1工程では、塊成化物製造用バインダーを準備する。例えば、市販されている有機バインダーを入手する。あるいは、公知の製造方法により有機バインダーを作製する。ついで、入手した有機バインダーの13C-NMRスペクトルを測定する。有機バインダーの13C-NMRスペクトルが既知であれば必ずしも測定を行う必要がない。ついで、有機バインダーが上述した第1及び第2特性を満たすか否かを判定し、第1及び第2特性を満たすのであれば、その有機バインダーを塊成化物製造用バインダーとして使用することができる。有機バインダーは、第1及び第2特性のみならず、第3特性をさらに満たすことが好ましい。
【0028】
(3-2.第2工程)
第2工程では、酸化鉄原料を含む塊成化物原料に塊成化物製造用バインダーを添加し、混合する。酸化鉄原料の種類は特に制限されず、塊成化物の原料として使用可能なものであれば本実施形態でも特に制限なく使用することができる。酸化鉄原料としては、例えば、製銑あるいは製鋼過程等において生じたダスト、スケール等の他、焼結用の鉄鉱石等が挙げられる。焼結用の鉄鉱石は、例えば、粉鉱石、微粉鉱石である。微粉鉱石は、選鉱処理により鉄含有量を高めたものである。なお、塊成化物は例えば塊成鉱である。
【0029】
塊成化物原料は、酸化鉄原料のみで構成されていてもよいし、酸化鉄原料に他の原料が混合されたものであってもよい。他の原料としては、例えばコークス粉、無煙炭、コークスダスト、高炉一次灰、石炭等の還元材等が挙げられる。他の原料は、予め酸化鉄原料に添加されていてもよいし、塊成化物製造用バインダーと共に酸化鉄原料に添加してもよい。塊成化物製造用バインダーの添加量は特に制限されず、塊成化物に要求される特性等に応じて適宜調整されればよい。一例として、添加量は、塊成化物原料の総質量に対して0.5~10質量%程度であってもよい。
【0030】
なお、塊成化物原料には、塊成化物製造用バインダー以外のバインダー、例えば無機バインダーを添加してもよい。塊成化物原料には、塊成化物製造用バインダー以外の有機バインダーを添加してもよいが、本実施形態の効果をより効果的に得るためには、塊成化物原料に添加される有機バインダーは本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーのみであることが好ましい。
【0031】
(3-3.第3工程)
第3工程では、塊成化物原料と塊成化物製造用バインダーとの混合物を用いて塊成化物を作製する。塊成化物を作製するための具体的な方法は特に制限されない。例えば、ドラムミキサー、パンペレタイザ―等の造粒機を用いて混合物を造粒することで、塊成化物を作製してもよい。また、ダブルロール圧縮機、押出成型機、ブリケットマシン等を用いて混合物を成型することで塊成化物を作製してもよい。以上の工程により、塊成化物を作製することができる。なお、第2工程あるいは第3工程において、適宜原料に水分を添加してもよい。
【0032】
<4.塊成化物を用いた還元鉄の製造方法>
塊成化物を用いた還元鉄の製造方法も特に制限されない。例えば、塊成化物を高炉、シャフト炉、回転炉床炉、ロータリーキルン等の還元炉に装入し、これらの還元炉内で塊成化物を還元してもよい。本実施形態では、塊成化物に上述した塊成化物製造用バインダーが含まれるので、還元効率が非常に高い。このため、高い金属化率の還元鉄を作製することができる。
【実施例】
【0033】
<1.実施例1>
つぎに、本実施形態の実施例について説明する。実施例1では、以下に説明する試験を行うことで、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーの効果について検証した。
【0034】
まず、有機バインダーA~Dを準備した。有機バインダーAは澱粉、有機バインダーBは糖蜜、有機バインダーCは製造されたリグニンを半年間放置したもの、有機バインダーDは有機バインダーCと同様の製造方法で製造された直後のリグニンである。
【0035】
ついで、有機バインダーA~Dの
13C-NMRスペクトルを測定した。
13C-NMRスペクトルの測定はVARIAN社製の静磁場強度11.75TのINOVA500装置を用いて行われた。パルスシーケンスは90°パルスと180°パルスを組み合わせたHahn-Echo法を用い、試料をマジック角に傾けて22kHzで回転させながら測定を行った。定量性のあるスペクトルを測定するために、パルス繰り返し時間を100秒に設定した。積算回数は4096回とした。ついで、有機バインダーA~Dの各化学シフトにおける
13C-NMRスペクトルの面積比(全
13C-NMRスペクトル面積に対する面積比)を測定した。ここで、全
13C-NMRスペクトル面積は、0~240ppmの範囲で測定された全ての
13C-NMRスペクトルの総面積である。結果を
図1に示す。
図1の横軸は化学シフトの範囲を示し、縦軸はその範囲内で検出されたスペクトルの面積比を示す。
【0036】
図1から明らかな通り、有機バインダーB~Dでは、185~165ppmの
13C-NMRスペクトルの面積比が5%以上となり、240~185ppmの
13C-NMRスペクトルの面積比が2%以上となっている(すなわち第1特性及び第2特性のいずれも満たす)。
【0037】
さらに、有機バインダーB~Dでは、90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が60%以下となっている(すなわち第3特性を満たす)。有機バインダーB~Dでは、さらに90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が40%以下となっている。一方、有機バインダーAでは、185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が5%未満となり、240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が2%未満となっている(すなわち第1特性及び第2特性のいずれも満たさない)。さらに、有機バインダーAでは、90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比が60%を超えている(すなわち第3特性を満たさない)。したがって、有機バインダーB~Dが本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーに相当することになる。
【0038】
ついで、有機バインダーA~Dをそれぞれ酸化鉄原料の一種であるダストに添加して混合し、混合物を水と共に造粒(混錬)することで塊成化物(タブレットA~D)を作製した。
【0039】
ついで、炉内温度を1250℃に予熱した加熱炉にタブレットA~Dを個別に投入し、6分間保持した。この際、炉内温度は1250℃に維持した。これにより、タブレットA~D内で酸化鉄の還元反応を進行させた。ここで、タブレットA~Dは炉内で昇温されるので、タブレットA~Dの温度を経時で測定し、さらに、タブレットA~Dの各温度における炉内のCO分圧を測定した。具体的には、炉内雰囲気の一部を採取し、FT-IR測定を行うことで炉内のCO分圧を測定した。ここで、CO分圧は、COガス圧/(COガス圧+CO
2ガス圧)として求めた。タブレットA~Dが720℃となった際のCO分圧を
図2に示す。
図2から明らかな通り、タブレットB~Dの720℃におけるCO分圧は、タブレットAの720℃におけるCO分圧よりも低くなっている。
【0040】
その後、加熱炉内でタブレットA~Dを室温に戻し、タブレットA~Dを取り出した。ついで、タブレットA~Dの金属化率を測定するために、タブレットA~D中の全Fe質量であるT-FeをICP法により定量し、還元された金属鉄の質量であるM-Feを臭素メタノール法によって定量した。これらの結果と、以下の式(1)に基づいて、タブレットA~Dの金属化率(%)を算出した。結果を
図3に示す。なお、
図3は、タブレットAの金属化率を基準とした金属化率の差分△(タブレットA~Dの金属化率-タブレットAの金属化率)を示す。
金属化率(%)=M-Fe/T-Fe×100 (1)
【0041】
図3から明らかな通り、有機バインダーB~D(すなわち本実施形態に係る塊成化物製造用バインダー)を使用したタブレットB~Dでは、タブレットAよりも金属化率が上昇した。したがって、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーを使用することで、高い金属化率の還元鉄を得ることができる。特に、有機バインダーB~Dは第3特性も満たすので、特に金属化率が高くなっている。さらに、有機バインダーB~Dの720℃におけるCO分圧は有機バインダーAの720℃におけるCO分圧よりも低くなっているので、この温度におけるCO分圧が低いほど還元鉄の金属化率が高い(すなわち、還元がより進行している)ことがわかった。
【0042】
<2.実施例2>
実施例2では、原料または製造方法が異なる複数種類の有機バインダーa~iを準備し、それらの特性について検証した。有機バインダーa~gは、それぞれ異なる製法で製造されたリグニンである。有機バインダーhはでんぷんであり、有機バインダーiは糖蜜である。
【0043】
ついで、有機バインダーa~iの13C-NMRスペクトルを実施例1と同様の手法で測定した。結果を表1に示す。表1では、240~185ppmの13C-NMRスペクトルの面積比をDO(%)、185~165ppmの13C-NMRスペクトルの面積比をSO-1(%)、90~50ppmの13C-NMRスペクトルの面積比をSO-2(%)として示す。表1から明らかな通り、有機バインダーa~f、iは、DOが2%以上となり、SO-1が5%以上となる(すなわち第1及び第2特性を満たす)ので、有機バインダーa~f、iが本実施形態の塊成化物製造用バインダーに相当する。なお、有機バインダーa~f、iは、SO-2が60%以下となるので、第3特性も満たす。
【0044】
さらに、実施例1と同様の方法によりタブレットa~iの作製及び金属化率の測定を行った。なお、金属化率に関しては、タブレットg(有機バインダーgを用いて作製されたタブレット)を基準とした金属化率(%)の差分△を求めた。結果を表1及び
図4~
図7に示す。
図4~
図6は、横軸をDO、SO-1、及びSO-2の何れかとし、縦軸を金属化率(%)の差分△としたXY平面に表1の結果をプロットしたものである。
図7は、横軸をDO値及びSO-1値の和とし、縦軸を金属化率(%)の差分△としたXY平面に表1の結果をプロットしたものである。
【0045】
【0046】
表1及び
図4~
図7から明らかな通り、有機バインダーa~f、i(すなわち本実施形態に係る塊成化物製造用バインダー)を使用したタブレットa~f、iでは、タブレットg、hよりも金属化率が上昇した。タブレットg、hでは、第1及び第2特性のいずれかまたは両方が満たされない。したがって、本実施形態に係る塊成化物製造用バインダーを使用することで、高い金属化率の還元鉄を得ることができる。特に、有機バインダーa~f、iは第3特性も満たすので、特に金属化率が高くなっている。
【0047】
さらに、
図4、5、7によれば、DO値、SO-1値、及びこれらの和と金属化率(%)の差分△との間には正の相関があることが分かった(図中のR
2は相関係数を示す)。特に、DO値及びSO-1値の和と金属化率(%)の差分△との相関が最も良好であることも分かった。したがって、第1及び第2特性を満たせば(つまりDOが2%以上となり、SO-1が5%以上となれば)金属化率が高くなると言える。一方で、
図6によれば、SO-2値と金属化率(%)の差分△との間には負の相関があることが分かった(図中のR
2は相関係数を示す)。したがって、第1及び第2特性を満たし、さらに第3特性を満たせば(つまりSO-2値が60%以下になれば)、金属化率がさらに高くなると言える。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。