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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】せん断変形特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/24 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
G01N3/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020103673
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021196289
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】黒田 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】小川 操
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042067(WO,A1)
【文献】特開2017-200708(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170533(WO,A1)
【文献】株式会社メタルエンジニア,ブレーキ加工,メタルエンジニア社HP,日本,株式会社メタルエンジニア,2019年12月31日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価する方法であって、
前記試験片に、平面部と、前記平面部を介して接続され、前記平面部に対して傾斜する第一拘束面及び第二拘束面とを形成し、
前記平面部、前記第一拘束面及び前記第二拘束面に跨る第一範囲と、前記平面部、前記第一拘束面及び前記第二拘束面に跨り前記第一範囲と隣り合う第二範囲とを、前記平面部に対して傾斜した変位方向に相対的に平行移動させることで前記第一範囲と前記第二範囲との間に壁部を形成するとともに、
前記第一範囲と前記第二範囲とを前記変位方向に平行移動する際に、前記第二範囲から前記壁部に向けて材料を流動させることで、前記壁部をせん断変形させ、
前記壁部のせん断変形部のせん断変形特性を評価する
ことを特徴とするせん断変形特性評価方法。
【請求項2】
前記平面部と、前記第一拘束面とがなす角度を変化させて評価する
ことを特徴とする請求項1に記載のせん断変形特性評価方法。
【請求項3】
前記平面部と、前記変位方向に平行な基準線とがなす角度を変化させて評価する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のせん断変形特性評価方法。
【請求項4】
前記第一拘束面と前記第二拘束面とが並ぶ方向において、前記平面部が複数形成され、隣り合う前記平面部同士は互いに傾斜している
ことを特徴とする請求項1に記載のせん断変形特性評価方法。
【請求項5】
前記第一拘束面と前記第一拘束面と隣り合う前記平面部とがなす角度と、前記第二拘束面と前記第二拘束面と隣り合う前記平面部とがなす角度とが異なる
ことを特徴とする請求項4に記載のせん断変形特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、せん断変形特性評価方法関する。
【背景技術】
【0002】
従来のせん断変形の評価方法では、平板状の試験片を2箇所で把持し、これらの箇所を試験片の板面に平行な面内において互いに異なる方向へ移動させることで、試験片全体またはその一部にせん断変形を生じさせていた。
【0003】
しかし、単純な矩形等の試験片をその端部を把持して変形させる従来の手法では、試験片を形成する材料の適切なせん断変形評価ができていなかった。このような従来の試験方法では、試験片を形成する材料がせん断変形の限界に達する前に、せん断変形が生じるせん断変形の評価範囲外(例えば前記把持部や試験片端部)で試験片に負荷が集中して、板厚が局所的に減少し、これに起因する材料の割れや破断が発生することがあった。そのため、せん断変形が実際の限界に達する前に測定不能となり、この時点で測定された歪み量を試験片のせん断歪み量としていた。
【0004】
従来、このような問題を解消するための種々の試みがある。例えば、特許文献1には、切込みを入れた試験片に、切込み部以外が変形しないように拘束した状態で力を加えてせん断特性を測定する測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-193336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが検討したところ、特許文献1の手法を高強度かつ板厚の小さい試験片に適用した場合、試験片端部の切込みが変形し、応力集中による破断を起こしやすいことを見出した。そして、試験片に複雑な加工をせずとも、より簡易な方法で、精度の高いせん断変形特性の評価が行える方法が必要であるとの考えに至った。
【0007】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、精度の高いせん断変形評価特性が得られるせん断変形特性評価方法、評価装置及びせん断変形特性評価用試験片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様に係るせん断変形特性評価方法は、
試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価する方法であって、
前記試験片に、平面部と、前記平面部を介して接続され、前記平面部に対して傾斜する第一拘束面及び第二拘束面とを形成し、
前記平面部、前記第一拘束面及び前記第二拘束面に跨る第一範囲と、前記平面部、前記第一拘束面及び前記第二拘束面に跨り前記第一範囲と隣り合う第二範囲とを、前記平面部に対して傾斜した変位方向に相対的に平行移動させることで前記第一範囲と前記第二範囲との間に壁部を形成するとともに、
前記第一範囲と前記第二範囲とを前記変位方向に平行移動する際に、前記第二範囲から前記壁部に向けて材料を流動させることで、前記壁部をせん断変形させ、
前記壁部のせん断変形部のせん断変形特性を評価する
ことを特徴とする。
(2)上記(1)に記載のせん断変形特性評価方法では、
前記平面部と、前記第一拘束面とがなす角度を変化させて評価してもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のせん断変形特性評価方法では、
前記平面部と、前記変位方向に平行な基準線とがなす角度を変化させて評価してもよい。
(4)上記(1)に記載のせん断変形特性評価方法では、
前記第一拘束面と前記第二拘束面とが並ぶ方向において、前記平面部が複数形成され、隣り合う前記平面部同士は互いに傾斜していてもよい。
(5)上記(4)に記載のせん断変形特性評価方法では、
前記第一拘束面と前記第一拘束面と隣り合う前記平面部とがなす角度と、前記第二拘束面と前記第二拘束面と隣り合う前記平面部とがなす角度とが異なってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、精度の高いせん断変形評価特性が得られるせん断変形特性評価方法、評価装置及びせん断変形特性評価用試験片を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態に係る試験片を変形させて平面、第一拘束面および第二拘束面を形成した一例を示す概略的な斜視図である。
図2】第一範囲と第二範囲の一例を示す概略的な斜視図である。
図3】壁部を形成する途中の状態を説明するための概略的な斜視図である。
図4】所定の位置まで第一範囲と第二範囲とを平行移動させて壁部を形成した状態の試験片の概略的な斜視図である。
図5】試験片を平面部、第一拘束面及び第二拘束面の板面に平行な方向から見た概略的な図であり、角度θを説明するための側面図である。
図6】試験片を平面部、第一拘束面及び第二拘束面の板面に平行な方向から見た概略的な図であり、角度αを説明するための側面図である。
図7】第一範囲と第二範囲とを平行移動させて2つの壁部を形成した状態の試験片の概略的な斜視図である。
図8】本発明の第三実施形態に係る評価装置の一部である上ユニットの構成を説明するための概略的な斜視図である。
図9】本発明の第三実施形態に係る評価装置の一部である下ユニットの構成を説明するための概略的な斜視図である。
図10】本発明の第三実施形態に係る評価装置を説明するための概略的な斜視図であり、試験片を載置した状態を示す評価装置の断面図である。
図11図10に示す状態の評価装置1000を、A-A’の位置においてプレス方向に平行な面で見たときの断面図である。
図12】本発明の第三実施形態に係る評価装置を説明するための概略的な斜視図であり、試験片を変形させた状態を示す評価装置の断面図である。
図13図12に示す状態の評価装置1000を、A-A’の位置においてプレス方向に平行な面で見たときの断面図である。
図14】本発明の第三実施形態に係る評価装置を説明するための概略的な斜視図であり、試験片に壁部を形成してせん断変形を生じさせた状態を示す評価装置の断面図である。
図15図14に示す状態の評価装置1000を、A-A’の位置においてプレス方向に平行な面で見たときの断面図である。
図16】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、角度αを変更することでせん断歪み領域を調整した例を示すグラフである。
図17】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、純粋せん断領域に分布するように角度αを調整した例を示すグラフである。
図18】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、角度αを変更することで図16とは異なる方向へせん断歪み領域を調整した例を示すグラフである。
図19】最大主歪みε1及び最小主歪みε2を説明するための図である。
図20】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、角度θが93°の金型を用いたときのせん断歪み量を調整した例を示すグラフである。
図21】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、角度θが112.5°の金型を用いたときのせん断歪み量を調整した例を示すグラフである。
図22】実施例に係るFLD分布を示すグラフであって、角度θが128°の金型を用いたときのせん断歪み量を調整した例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
【0014】
[第一実施形態]
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法は、試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価する方法であって、試験片に、平面部と、平面部を介して接続され、平面部に対して傾斜する第一拘束面及び第二拘束面とを形成し、平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨る第一範囲と、平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨り第一範囲と隣り合う第二範囲とを、平面部に対して傾斜した変位方向に相対的に平行移動させることで第一範囲と第二範囲との間に壁部を形成するとともに、第一範囲と第二範囲とを変位方向に平行移動する際に、第二範囲から壁部に向けて材料を流動させることで、壁部をせん断変形させ、壁部のせん断変形部のせん断変形特性を評価する。
【0015】
上記構成からなるせん断変形特性評価方法では、平面部、第一拘束面及び第二拘束面の一部を含む第一範囲と第二範囲とが相対的に平行移動することで壁部が形成され、この壁部にせん断変形が生じる。この時、評価対象外である第一範囲は、後述するように上型および下型で挟みこむことにより変形を抑制されているため、従来の試験方法で割れが生じていたような条件(評価対象外である把持部や試験片端部での割れ)であっても、試験片に割れが生じずに、精度の高いせん断変形特性が得られる。
【0016】
試験片の例としては、例えば、鋼板、アルミ合金板、チタン合金板などの金属板が挙げられる。試験片が鋼板である場合、例えば、引張強度590MPa~1900MPaの鋼板に好ましく適用することができる。試験片が鋼板である場合、例えば、厚さが1.2mm~3.0mmの鋼板に好ましく適用することができる。
【0017】
試験片の形状は限定されないが、平板状の試験片が好ましく用いられる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る試験片を変形させた一例を示す概略的な斜視図である。
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、図1に示すように、試験片100に、平面部101と、平面部101を介して接続され、平面部101に対して傾斜する第一拘束面102及び第二拘束面103とを形成する。平面部101は、第一拘束面102に接続され、平面部101と第一拘束面102とは互いに傾斜している。平面部101は、第二拘束面103に接続され、平面部101と第二拘束面103とは互いに傾斜している。
【0019】
本実施形態の例では、第一拘束面102と第二拘束面103とが平行である場合を例として説明するが、これに限られず、第一拘束面102と第二拘束面103とは互いに傾斜していてもよい。
【0020】
このように、平面部101と、平面部101を介して接続され、平面部101に対して傾斜する第一拘束面102及び第二拘束面103とを有するように形成された試験片100を、せん断変形特性評価用試験片と称してもよい。
【0021】
次いで、図2に示すように、上記の試験片100について、平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103に跨る第一範囲104と、平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103に跨り第一範囲104と隣り合う第二範囲105とを設定する。
【0022】
そして、第一範囲104と第二範囲105とを、平面部101に対して傾斜した変位方向Aに相対的に平行移動させることで第一範囲104と第二範囲105との間に壁部106を形成する。
【0023】
図3は、壁部106を形成する途中の状態を説明するための概略的な斜視図である。図3に示すように、第一範囲104に位置する平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103の一部と、第二範囲105に位置する平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103の一部とをそれぞれ相対的に平行移動させることで、壁部106を形成する。
【0024】
このとき、第二範囲105から壁部106に向けて、平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103の一部を形成する材料を上下型で保持することで、面外変形を拘束又は抑制しながら流動させる。このような材料の流動に伴い、壁部106が形成されるとともに、壁部106の一部にせん断変形が生じる箇所が形成される。
【0025】
図4は、所定の位置まで第一範囲104と第二範囲105とを平行移動させて壁部106を所定の高さまで形成した状態の試験片100の概略的な斜視図である。
【0026】
第一範囲104と第二範囲105とを、平面部101に対して傾斜した変位方向Aに平行移動させることで、壁部106において斜線で示す範囲のせん断変形部107が形成される。せん断変形部107は、主に平面部101の材料の一部が壁部106に向かい流動することで形成される。
【0027】
なお、第一拘束面102又は第二拘束面103の板面と変位方向Aとがなす角度によっては、壁部106のせん断変形部107を除く箇所にもせん断変形が生じる。例えば、図4の例では、壁部106のせん断変形部107を除く箇所にもせん断変形が生じる。
【0028】
上述のような手法で試験片100を変形させることで、壁部106にせん断変形部107を形成して、試験片100にせん断変形を生じさせることができる。
【0029】
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、壁部106の形成途中では、せん断変形部107とその周辺の壁部106において、試験片100の厚さが減少しないかほとんど減少しないままでせん断変形が生じる。これは、壁部106の形成の前に予め平面部101と隣り合う第一拘束面102及び第二拘束面103を設けたためである。壁部106が形成される際には、平面部101の材料の一部が壁部106に向かい流動することでせん断変形部107が形成されるが、これと同様に、第一拘束面102及び第二拘束面103の一部が壁部106に向かい流動する。これにより、せん断変形部107の周辺にも、せん断変形部107と同一平面を有する壁部106が形成される。平面部101に対して傾斜した第一拘束面102及び第二拘束面103があることで、これら第一拘束面102及び第二拘束面103が変形途中の試験片100の材料を適切な力で把持して材料の流動が適切に行われ、局所的な板厚の減少を抑制することができる。そのため、試験片100のせん断変形が生じる範囲とその周辺において厚さを減少させないかほとんど減少させずに、試験片100にせん断変形を生じさせることができる。
【0030】
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法によれば、従来の試験方法で割れが生じていたような条件であっても、試験片に割れが生じない。したがって、従来では試験の限界とされていたせん断変形量を超えてせん断変形を生じさせることができ、材料本来の変形歪みを高い精度で評価することができる。
【0031】
より具体的には、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、試験片100のせん断変形特性として、試験片100の割れの有無を検出できる。そのため、所定の試験片に所定の条件のせん断変形を生じさせたときの、試験片の割れの有無に基づいて、試験片のせん断変形限界を精度良く測定することができる。
【0032】
上述したように、従来の試験方法では、試験片を形成する材料がせん断変形の限界に達する前に、せん断変形の評価範囲外で割れが発生していた。しかし、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、従来の試験方法で割れが発生した歪み量を超えてせん断変形させることができるため、試験片のせん断変形の限界をより精度良く反映できる。
例えば、従来の試験方法では、割れが発生したために純粋せん断域においてある量の歪み限界とされていた材料であっても、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法を用いることで、この歪み量においても割れが生じないため、より高い歪みを精度良く測定できる。
【0033】
例えば、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、平面部101と、第一拘束面102とがなす角度θを変化させて評価を実施してもよい。これにより、せん断歪み量を調整できる。せん断歪み量が調整できることで、実際の製品が所望の形状に製造可能であるか否かといった、実製品の判断基準として測定したい所望の歪を評価できるという利点がある。
【0034】
図5は、試験片100を平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103の板面に平行な方向から見た概略的な側面図である。図5に示すように、平面部101と第一拘束面102とがなす角のうちで、小さい方の角の角度をθとする。
【0035】
また、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、平面部101と、変位方向Aに平行な基準線とがなす角度αを変化させて評価を実施してもよい。
【0036】
これにより、せん断歪み領域を調整できる。せん断歪み領域が調整できることで、実際の製品が所望の形状に製造可能であるか否かといった、実製品の判断基準として測定したい所望の歪を評価できるという利点がある。
【0037】
図6は、試験片100を平面部101、第一拘束面102及び第二拘束面103の板面に平行な方向から見た概略的な図であり、変位方向Aを矢印で示している。図6に示すように、平面部101と変位方向Aに平行な基準線aとがなす角のうちで、小さい方の角の角度をαとする。変位方向Aは、図6の紙面と平行である。
【0038】
上述の実施形態では、第一範囲104と第二範囲105との間に壁部106を形成する例を説明した。しかし、図7に示すように、第一範囲104の両側に第二範囲105を2つ設け、2つの壁部106及びせん断変形部107を形成してもよい。
【0039】
(せん断変形限界の測定)
上記実施形態に係るせん断変形特性評価方法を、試験片100の壁部106に生じるせん断変形のせん断変形角を変えて実施することで、試験片を形成する材料のせん断変形の限界条件を評価することができる。
【0040】
具体的には、平面部101と第一拘束面とがなす角(角度θ)と、平面部101と変位方向Aに平行な基準線とがなす角(角度α)とを変化させて複数回の評価を行うことで、これらの角度と試験片の割れとの関係を評価し、種々の条件におけるせん断歪み量やせん断領域を求めることができる。
【0041】
せん断変形限界のせん断歪み量を求める手法としては、例えば、以下の手順が好ましい。まず、平面部101と変位方向Aに平行な基準線とがなす角度αを設定し、この角度αを保ったまま、平面部101と第一拘束面102とがなす角度θを、90°以上180°未満の範囲で10°づつ変化させ、最も小さい角度θの角度から角度が大きくなる順に試験を行う。そして、割れが生じた角度θの角度におけるストローク量からせん断歪み量を算出する。ストローク量は、金型の移動量と等しいため、金型の移動量の実測値をストローク量としてもよい。あるいは、コンピュータ・シミュレーションによって、ストローク量を算出してもよい。なお、角度αやθは、本実施形態に係る評価方法に準じたコンピュータ・シミュレーションにて、所望のせん断変形が得られる範囲となるように予め算出してもよい。
【0042】
また、先述のように、平面部101と変位方向Aに平行な基準線とがなす角度αを変化させることで、せん断歪み領域を調整できる。そのため、従来の評価方法では測定対象とできなかったせん断歪み領域(単軸圧縮~単軸引張)における様々なせん断変形形態を模擬し、例えば、任意のせん断変形状態でのせん断歪み量を評価することができる。
【0043】
上述のような手順によって、試験対象とする試験片の材料のせん断変形限界でのせん断歪み量、及び広範囲でのせん断歪み量を精度良く測定できる。
【0044】
なお、せん断変形角及びせん断変形歪み量は、壁部106のせん断変形部107について、実際の試験片にエッチング、ターゲット、ドット、スクライブドサークルなどのマーキングをして、その変形を観測する実験的手法、又は上述した評価方法で得られた角度θ、角度αなどの数値に基づいて、CAE(Computer Aided Engineering)解析によって求めてもよい。
【0045】
[第二実施形態]
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
【0046】
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法は、試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価する方法であって、試験片に、平面部と、平面部を介して接続され、平面部に対して傾斜する第一拘束面及び第二拘束面とを形成し、平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨る第一範囲と、平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨り第一範囲と隣り合う第二範囲とを、平面部に対して傾斜した変位方向に相対的に平行移動させることで第一範囲と第二範囲との間に壁部を形成するとともに、第一範囲と第二範囲とを変位方向に平行移動する際に、第二範囲から壁部に向けて材料を流動させることで、壁部又は第二範囲における面外変形を拘束しながら壁部をせん断変形させ、壁部のせん断変形部のせん断変形特性を評価する。
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、第一拘束面と第二拘束面とが並ぶ方向において、平面部が複数形成され、隣り合う平面部同士は互いに傾斜している。
【0047】
上記の構成からなるせん断変形特性評価方法では、試験片の平面部は、第一拘束面と第二拘束面とが並ぶ方向において、複数の平面部が形成され、隣り合う平面部同士が互いに傾斜している。そのため、一つの試験片で複数の条件におけるせん断特性を評価することができる。
【0048】
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、第一実施形態で説明した試験片100の材料を用いることができる。
【0049】
なお、本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、第一拘束面と第二拘束面とが並ぶ方向において、第一拘束面と第二拘束面との間に、2つの平面部(第一平面部及び第二平面部)を有するように変形させた試験片を用いてもよい。
【0050】
第二実施形態に係る試験片では、一つの方向に、第一拘束面、第一平面部、第二平面部、第二拘束面をこの順に有している。第一平面部と第二平面部とは互いに傾斜し、第一拘束面と第一平面部とは互いに傾斜し、第二平面部と第二拘束面とは互いに傾斜している。
【0051】
本実施形態に係るせん断変形特性評価方法では、第一実施形態と同様にして、試験片について、第一平面部、第二平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨る第一範囲と、第一平面部、第二平面部、第一拘束面及び第二拘束面に跨り第一範囲と隣り合う第二範囲とを設定する。
【0052】
そして、第一実施形態と同様に、第一範囲と第二範囲とを、第一平面部又は第二平面部に対して傾斜した変位方向Bに相対的に平行移動させることで第一範囲と第二範囲との間に壁部を形成する。
【0053】
第二実施形態に係る試験片において、第一平面部は第一拘束面と第二平面部とに接続されている。そのため、第一拘束面と第二平面部が、第一実施形態で説明した第一拘束面と第二拘束面の役割を果たす。また同様に、第二平面部は第一平面部と第二拘束面とに接続されているため、第一平面と第二拘束面が、第一実施形態で説明した第一拘束面と第二拘束面の役割を果たす。
【0054】
すなわち、壁部の形成の際に、第一平面部の一部が壁部に向かい流動することで第一せん断変形部が形成され、同時に第二平面部の一部が壁部に向かい流動することで第二せん断変形部が形成される。壁部の形成途中では、第一せん断変形部及び第二せん断変形部とその周辺の壁部において、試験片の厚さが減少しないかほとんど減少しないままでせん断変形が生じる。
【0055】
このとき、第一平面部と変位方向Bとがなす角と第二平面部と変位方向Bとがなす角が異なることで、一つの試験片で、2つの条件のせん断変形を生じさせることができる。
【0056】
そのため、本実施形態に係るせん断変形特性評価では、一つの試験片で複数の条件を測定できるため、より少ない試験片で、第一実施形態で説明した、せん断変形限界の測定を実施することができる。
【0057】
第一拘束面と第一拘束面と隣り合う平面部とがなす角と、第二拘束面と第二拘束面と隣り合う平面部とがなす角とが異なってもよい。これにより、一つの試験片で、2つ以上のせん断歪み量の情報を得ることができる。
【0058】
[第三実施形態]
次に、本発明に係る評価装置について説明する。
【0059】
本実施形態に係る評価装置は、試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価するための評価装置であって、互いに平行な第一プレス面をそれぞれ有する第一上型及び第二上型と、第一上型と第一上型との間で試験片を挟み込む第一下型と、第二上型と第二上型との間で試験片を挟み込む第二下型と、第一上型及び第一下型を、第二上型及び第二下型に対して、第一プレス面に対して傾斜し、かつ第一上型から第二上型へ向かう方向と交差する変位方向に、平行移動可能とする駆動機構とを備える。
【0060】
上記構成からなる評価装置を用いて試験片にせん断変形を生じさせることで、試験片に割れを生じさせずに、精度の高いせん断変形特性を評価することができる。
【0061】
図8及び図9に、本実施形態に係る評価装置1000を構成する上下金型の概略的な斜視図を示す。
【0062】
図8は、評価装置1000の一部である上ユニット1100を説明するための斜視図である。図8の例では、上ユニット1100は、第一上型1110と、第一上型1110のプレス面と交差する方向に沿ってみた場合に第一上型1110に隣り合うように配される2つの第二上型1120とを備えている。
【0063】
また、図9は、評価装置1000の一部である下ユニット1200を説明するための斜視図である。図9の例では、下ユニット1200は、第一下型1210と、第一下型1210のプレス面と交差する方向に沿ってみた場合に第一下型1210に隣り合うように配される2つの第二下型1220とを備えている。
【0064】
第一上型1110は、第一プレス面1111、第二プレス面1112及び第三プレス面1113を備えている。
第二プレス面1112及び第三プレス面1113は第一プレス面1111を介して接続され、第一プレス面1111と第二プレス面1112とは互いに傾斜している。また、第一プレス面1111と第三プレス面1113とは互いに傾斜している。
【0065】
また、第一上型1110は、第一プレス面1111、第二プレス面1112及び第三プレス面1113とそれぞれ交差する第一側面1114及び第二側面1115(図8の例では図示せず)を備えている。
【0066】
第二上型1120は、第一プレス面1121、第二プレス面1122及び第三プレス面1123を備えている。
第二プレス面1122及び第三プレス面1123は第一プレス面1121を介して接続され、第一プレス面1121と第二プレス面1122とは互いに傾斜している。また、第一プレス面1121と第三プレス面1123とは互いに傾斜している。
【0067】
第一上型1110の第一プレス面1111と第二上型1120の第一プレス面1121とは互いに平行となるように配される。また、第一上型1110の第二プレス面1112と第二上型1120の第二プレス面1122も互いに平行となり、第一上型1110の第三プレス面1113と第二上型1120の第三プレス面1123も互いに平行となるように配される。
【0068】
第二上型1120は側面1124を備え、側面1124は、隣接する第一上型1110の第一側面1114及び第二側面1115のいずれかと互いに平行となるように配される。また、第一側面1114及び第二側面1115と、側面1124との間には所定のクリアランスが設けられる。
【0069】
第一下型1210は、第一上型1110の、第一プレス面1111、第二プレス面1112及び第三プレス面1113とそれぞれ対応する形状の第一プレス面1211、第二プレス面1212及び第三プレス面1213を備えている。第二プレス面1212及び第三プレス面1213は第一プレス面1211を介して接続され、第一プレス面1211と第二プレス面1212とは互いに傾斜している。また、第一プレス面1211と第三プレス面1213とは互いに傾斜している。第一上型1110と第一下型1210との間で試験片を挟み込むことができる。
【0070】
同様に、第二下型1220は、第二上型1120の、第一プレス面1121、第二プレス面1122及び第三プレス面1123とそれぞれ対応する形状の第一プレス面1221、第二プレス面1222及び第三プレス面1223を備えている。第二プレス面1222及び第三プレス面1223は第一プレス面1221を介して接続され、第一プレス面1221と第二プレス面1222とは互いに傾斜している。また、第一プレス面1221と第三プレス面1223とは互いに傾斜している。第二上型1120と第二下型1220との間で試験片を挟み込むことができる。
【0071】
すなわち、第一下型1210の第一プレス面1211と第二下型1220の第一プレス面1221とは互いに平行となるように配される。また、第一下型1210の第二プレス面1212と第二下型1220の第二プレス面1222も互いに平行となり、第一下型1210の第三プレス面1213と第二下型1220の第三プレス面1223も互いに平行となるように配される。
【0072】
また、第一下型1210は、第一プレス面1211、第二プレス面1212及び第三プレス面1213とそれぞれ交差する第一側面1214及び第二側面1215(図9の例では図示せず)を備えている。第二下型1220は側面1224を備え、側面1224は、隣接する第一下型1210の第一側面1214及び第二側面1215のいずれかと互いに平行となるように配される。また、第一側面1214及び第二側面1215と、側面1224との間には所定のクリアランスが設けられる。
【0073】
評価装置1000は、図8及び図9に示すような第一上型1110及び第二上型1120を保持する上ユニット1100(図8)と第一下型1210及び第二下型1220を保持する下ユニット1200(図9)を備え、上ユニット1100と下ユニット1200とを相対的に移動させるユニット駆動機構(図示せず)を備えていてもよい。このユニット駆動機構により、第一上型1110及び第二上型1120を、第一下型1210及び第二下型1220に対して移動させることができる。
【0074】
評価装置1000は、金型同士を相対的に平行移動させるための駆動機構(図示せず)を備える。この駆動機構により、第一上型1110及び第一下型1210を、第二上型1120及び第二下型1220に対して、第一上型1110の第一プレス面1111に対して傾斜し、かつ第一上型1110から第二上型1120へ向かう方向と交差する変位方向に、平行移動可能となる。この駆動機構は、例えば、上ユニット1100又は下ユニット1200によって保持され、第一上型1110又は第一下型1210を第二上型1120又は第二下型1220に対して相対的に移動可能としてもよい。又はこの駆動機構は、第二上型1120又は第二下型1220を第一上型1110又は第一下型1210に対して相対的に移動可能としてもよい。
【0075】
上記の各駆動機構は、試験片に十分な荷重を与えて変形を生じさせられるものであれば、油圧ポンプや電動アクチュエータなどであってよい。
【0076】
上記の説明では、便宜上、上型、下型、上ユニット、下ユニットと称しているが、これらの構成はその位置関係が上下方向に限られない。また、第一上型1110、第二上型1120、第一下型1210および第二下型1220は、それぞれ上ユニット1100および下ユニット1200から着脱可能であり、異なる形状を有する金型へ容易に交換できる。
【0077】
次に本実施形態に係る評価装置を用いて、試験片にせん断変形を生じさせる試験方法を説明する。以下の説明で用いる図10図12及び図14は、評価装置1000を、第一上型1110の第一プレス面1111、第二プレス面1112及び第三プレス面1113を通る平面で切断した斜視図である。すなわち、実際の評価装置では、これらの図の断面を対称面として、これらの図で示される構造と同様かつ面対称の構造を有している。
【0078】
まず、図10に示すように、第一実施形態で説明した平板上の試験片300を、第一下型1210及び第二下型1220のプレス面上に載置する。この時、第一下型1210の各プレス面と第二下型1220の各プレス面は、同一平面上に配されている。
【0079】
ここで、図11図13及び図15は、それぞれ図10図12及び図14に示す状態の評価装置1000を、A-A’の位置においてプレス方向に平行な面で見たときの断面図である。
【0080】
次いで、図12及び図13に示すように、上ユニット1100を下ユニット1200側へ移動させ、第一上型1110と第一下型1210、第二上型1120と第二下型1220とによって試験片300を挟み込み、試験片300を変形させる。このとき、第一上型1110、第一下型1210、第二上型1120及び第二下型1220の各プレス面が傾斜していることによって、試験片300には、平面部301と、平面部301を介して接続され平面部301に対して傾斜する第一拘束面302及び第二拘束面303が形成される。
【0081】
次いで、図14に示すように、上ユニット1100と下ユニット1200の位置を保持したまま、第一上型1110及び第一下型1210を、第二上型1120及び第二下型1220に対して、第一上型1110の第一プレス面1111に対して傾斜し、かつ第一上型1110から第二上型1120へ向かう方向と交差する変位方向に平行移動させて壁部306を形成する。
【0082】
この平行移動に際し、試験片300において第一上型1110及び第一下型1210に挟まれている箇所は、試験片300が面外変形しない力で挟まれている。また、試験片300において第二上型1120及び第二下型1220に挟まれている箇所は、試験片300の当該箇所の面内方向において移動可能な程度の力で挟まれている。
【0083】
このような、第一上型1110及び第一下型1210の、第二上型1120及び第二下型1220に対する平行移動により、第一上型1110の第一側面1114と第二下型1220の側面1224との間に、試験片300の壁部306が形成される。
【0084】
ここで、試験片300において第一上型1110及び第一下型1210に挟まれている箇所が、第一実施形態で説明した第一範囲に相当し、第二上型1120及び第二下型1220に挟まれている箇所が、第一実施形態で説明した第二範囲に相当する。すなわち、試験片300において第二上型1120及び第二下型1220に挟まれている箇所は、試験片300の当該箇所の面内方向において移動可能な程度の力で挟まれているため、金型の平行移動に伴い、壁部306に向けて流動する。
【0085】
以上のような金型の動きによって、図14又は図15に例示するように、試験片300に壁部306が形成され、第一実施形態で説明したような壁部306の一部にせん断変形部307が形成される。そのため、この評価装置1000を用いて、試験片300にせん断変形を生じさせ、試験片300の割れの発生を検出することができる。
【0086】
なお、上述した駆動機構に検出器(図示せず)が接続され、第一上型1110、第一下型1210の、第二上型1120及び第二下型1220のいずれかの金型に生じる荷重を検出することで、試験片300に割れが生じたときのストローク量を測定できるようにしてもよい。ここでストローク量とは、第一上型1110又は第一下型1210の第二上型1120又は第二下型1220に対する、上述した平行移動方向の移動量である。
【0087】
なお、試験片300に割れが生じない場合には、試験片300において第二上型1120及び第二下型1220に挟まれている箇所が全て、第一上型1110の第一側面1114と第二下型1220の側面1224との間に流動する。
【0088】
なお、第一上型1110、第二上型1120、第一下型1210及び第二下型1220の各側面は、駆動機構によって、側面同士が変位方向と平行かつ、試験片300の厚みと等しい距離を保ったまま平行移動可能されてもよい。このような構成とすることで、第一上型1110、第二上型1120、第一下型1210及び第二下型1220の各側面の間で試験片300の厚さが減少しないかほとんど減少しないままでせん断変形を生じさせることができる。
【0089】
なお、側面同士が変位方向と平行かつ、試験片300の厚みと等しい距離を保った状態であれば、壁部306と平面部301が垂直な場合に限られず、これらの面が互いに傾斜するようにせん断変形されてもよい。
【0090】
本実施形態に係る評価装置1000において、第一プレス面(1111,1121,1211,1221)と第二プレス面(1112,1122,1212,1222)とがなす角度が異なる金型を用いることで、平面部301と、第一拘束面302とがなす角度、すなわち上述した角度θを変化させて評価を実施することができる。これにより、せん断歪み量を調整できる。
【0091】
また、本実施形態に係る評価装置1000において、金型を傾けることで、変位方向と第一上型1110、第二上型1120、第一下型1210及び第二下型1220の各第一プレス面(1111,1121,1211,1221)とがなす角度、すなわち上述した角度αを変化させることができる。これにより、平面部301と、変位方向に平行な基準線とがなす角度を変化させて評価を実施することができる。これにより、せん断歪み領域を調整できる。
【0092】
また、本実施形態に係る評価装置1000において、各金型における、第二プレス面と第三プレス面とが並ぶ方向において、第一プレス面が複数設けられ、隣り合う第一プレス面同士が互いに傾斜していてもよい。
このような金型を用いて試験片の形成及びせん断変形をすることで、第二実施形態で説明したような一つの試験片に異なる条件のせん断変形部を複数形成することができる。
【0093】
このような評価装置1000を用いることで、平板状の試験片を単一の金型内でせん断変形させることができ、極めて簡易かつ精度良くせん断変形の評価を実施することができる。本実施形態に係る評価装置は、例えば、第一実施形態又は第二実施形態で説明したせん断変形特性評価方法に好ましく用いることができる。また、上述の評価装置1000を用いることで、各金型間のクリアランスを所定の値に確保しながら試験片をせん断変形させることができる。
【0094】
なお、上述した、第一上型1110、第二上型1120、第一下型1210及び第二下型1220は、上ユニット1100、下ユニット1200から取り外し可能であり、適宜所望の金型に交換できる。
【0095】
[第四実施形態]
次に、本発明に係るせん断変形特性評価用試験片について説明する。
【0096】
本実施形態に係るせん断変形特性評価用試験片は、試験片にせん断変形を生じさせて、試験片を形成する材料のせん断変形特性を評価するために用いられる試験片であって、平面部と、平面部を介して接続され、平面部に対して傾斜する第一拘束面及び第二拘束面と、を有する。このせん断変形特性評価用試験片を所定形状の金型、例えば第三実施形態で説明した評価装置1000の第一下型1210及び第二下型1220のプレス面上に載置して、せん断変形を生じさせてもよい。
【0097】
上記構成からなるせん断変形特性評価用試験片では、平面部、第一拘束面及び第二拘束面が設けられていることで、これらの平面の一部を平行移動させてせん断変形部を含む壁部を形成させることができる。そのため、従来の試験方法で割れが生じていたような条件であっても、試験片に割れが生じずに、材料本来の変形歪みを高い精度で得ることができる。
【実施例
【0098】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0099】
せん断変形試験に用いるため、以下の表1に示す引張強度及び板厚の鋼板を準備した。鋼板は平板状である。
【0100】
【表1】
【0101】
(実施例A)
本実施例では、表1の鋼板を矩形状に設定した。
【0102】
【表2】
【0103】
そして、加工後の各鋼板を試験片の面内方向に変形させ、せん断変形を生じさせる試験を行った。すなわち、実施例Aでは、従来の手法によって試験片にせん断変形を生じさせた。せん断変形の途中で割れが生じた場合、その条件におけるせん断歪み量(主歪み量)とせん断変形角を、CAE解析によって算出した。その結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
(実施例B)
本実施例では、上述した第三実施形態の評価装置を用いて、本発明の評価方法によって表1の各鋼板を変形及びせん断変形させた。各鋼板について、表4に示す条件の金型で変形及びせん断変形を実施した。各鋼板のサイズは幅165mm、長さ190mmとした。各試験片において、各鋼板の長さ方向に壁部が延在するようにした。
【0106】
【表4】
【0107】
実施例Aと同様に、せん断変形の途中で試験片に割れが生じた場合、その条件におけるせん断歪み量とせん断変形角とを、CAE解析によって算出した。その結果を表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
実施例Aの表3と実施例Bの表5との比較からわかるように、いずれの鋼板においても、本発明に係る評価方法によってせん断歪み量を測定した場合、従来の試験方法により高いせん断歪み量を測定することができた。
【0110】
(実施例C)
本実施例では、上述した第三実施形態の評価装置を用いて、表1の鋼板Cを変形及びせん断変形させた。本実施例では、金型の第一プレス面と第二プレス面とがなす角度が異なる3種類の金型を用意して、各金型での割れの発生を評価した。純粋せん断軸周辺にFLDが分布する変形領域(条件)にて実施した。
【0111】
表6に、θの値と、これに対応する割れの発生状況、並びに、CAE解析によって算出したせん断歪み量とせん断変形角とを記載する。
【0112】
【表6】
【0113】
表6の結果から、鋼板Cでは、θが112.5°で試験片に割れが発生したため、このときのせん断歪み量とせん断変形角を、鋼板Cの評価値とした。
【0114】
(実施例D)
本実施例では、上述した第三実施形態の評価装置を用いて、表1の鋼板Cを変形及びせん断変形させた。本実施例では、θが93°である金型を用いて、この金型の第一プレス面(図8の第一上型1110の第一プレス面1111および図9の第一下型1210の第一プレス面1211)のプレス方向に対する傾斜角(角度α)を変化させて、それぞれの傾斜角における、FLD(Forming Limit Diagram)分布のグラフを得た。これを図16図18に示す。
【0115】
図16図18の縦軸は最大主歪みε1を示し、横軸は最小主歪みε2を示す。図16図18の直線aは純粋せん断変形軸を示し、直線bは単軸引張軸、直線cは単軸圧縮軸をそれぞれ示す。すなわち、直線bと直線cで囲まれた範囲がせん断歪み領域である。
また、物理的意味は以下の通りである。
最大主歪み(ε1):図19に例示するように、材料が変形した時に発生する引張方向の最大歪みを示す。
最小主歪み(ε2):図19に例示するように、材料が変形した時に発生する圧縮方向の最大歪みを示す。
純粋せん断変形軸:引張/圧縮の歪み比(ε1=-ε2)
単軸引張軸:引張/圧縮の歪み比(ε1=-2*ε2)
単軸圧縮軸:引張/圧縮の歪み比(ε1=-1/2*ε2)
【0116】
つまり、図16図18のグラフは、試験片の各部位においてどのような引張/圧縮歪みのバランスで変形しているかを示しており、歪み比=-1(純粋せん断軸)に近い程、体積一定の観点から、変形時の板厚増減が少なくなる。純粋せん断変形軸上に分布するのが変形の理想状態であり、また純粋せん断軸から単軸引張側の領域は引張方向の歪みが大きいため板厚が若干減少し、単軸圧縮側の領域は板厚が増加する。
【0117】
図16図18において、黒色のプロットはせん断変形評価部の歪みを示し、グレーのプロットはその他部位の歪みを示す。黒色のプロットは、図4のせん断変形部に対応する。
【0118】
図16又は図18の例では、直線b側又は直線c側に分布するように角度αを調整し、b側分布の場合はやや引張歪みの大きい変形を、c側分布の場合はやや圧縮歪みの大きい変形を模擬している。図17の例では、分布が直線a上に載るように角度αを調整しており、板厚減少の極めて少ない変形状態を模擬している。
【0119】
図16図18に示すように、金型のプレス方向に対する傾斜角αを変化させることで、せん断歪み領域(歪み比)を調整することができる。このように、本発明に係るせん断変形特性評価方法によって、実製品における様々な箇所の様々な変形状態における限界せん断歪み量を、簡易な試験形状及び装置で、精度良く評価することができる。
【0120】
(実施例E)
本実施例では、上述した第三実施形態の評価装置を用いて、鋼板Cを変形及びせん断変形させた。本実施例では、θがそれぞれ、93°、112.5°、128°である3種の金型を用いて、上述したFLD分布が純粋せん断軸(a)上又はその近傍に分布するように、これらの金型の第一プレス面のプレス方向に対する傾斜角(角度α)を変化させた。それぞれの金型における、FLD分布のグラフを図20図22に示す。図20はθが93°、図21はθが112.5°、図22はθが128°である。図20図22の表記は、図16図18と同様である。
【0121】
図20図22に示すように、本発明を用いることで、任意の変形軸(例えば純粋せん断)における歪み量を調整できるため、評価したい歪み量での特性試験ができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、精度の高いせん断変形評価特性が得られるせん断変形特性評価方法、評価装置及びせん断変形特性評価用試験片を提供し、割れなどの成形不良の事前予測及び工期短縮/工数削減に活用できるため、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0123】
100、300 試験片
101、301 平面部
102、302 第一拘束面
103、303 第二拘束面
104 第一範囲
105 第二範囲
106、306 壁部
107、307 せん断変形部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22