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7445136ミネラルウール用バインダー組成物及びミネラルウール
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  • -ミネラルウール用バインダー組成物及びミネラルウール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ミネラルウール用バインダー組成物及びミネラルウール
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/587 20120101AFI20240229BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20240229BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240229BHJP
   D06M 13/422 20060101ALI20240229BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20240229BHJP
   C03C 25/285 20180101ALI20240229BHJP
【FI】
D04H1/587
C09J133/14
D06M15/263
D06M13/422
D04H1/4209
C03C25/285
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020144953
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2022039772
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】窪田 厚史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智広
(72)【発明者】
【氏名】井上 実希
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-183591(JP,A)
【文献】特開2013-117083(JP,A)
【文献】特開2011-137088(JP,A)
【文献】特開2011-127095(JP,A)
【文献】特開2003-238921(JP,A)
【文献】特開2007-169545(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008823(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00
C09J 1/00 - 5/00
C09J 9/00 -201/00
D06M 13/00 - 15/00
D04H 1/00 - 18/00
C08K 3/00 - 13/00
C08L 1/00 -101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを、単量体単位として含む共重合樹脂と、
カルボン酸ジヒドラジド化合物と、
水性媒体と、を含み、
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比が、1.9~78.0である、ミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比が、0.010~0.100であり、
前記(メタ)アクリル酸に対する、前記カルボン酸ジヒドラジド化合物のモル比が、0.0005~0.0300である、請求項1に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比が、4.6~13.0である、請求項1又は2に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比が、0.034~0.047である、請求項1~3のいずれか1項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸に対する、前記カルボン酸ジヒドラジド化合物のモル比が、0.0020~0.0100である、請求項1~4のいずれか1項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸が、アクリル酸である、請求項1~5のいずれか1項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項7】
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物が、アジピン酸ジヒドラジドである、請求項1~6のいずれか1項に記載のミネラルウール用バインダー組成物。
【請求項8】
無機繊維と、前記無機繊維に付着したバインダーと、を含み、
前記バインダーが、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを、単量体単位として含む共重合樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物と、を含有し、
前記カルボン酸ジヒドラジド化合物に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比が、1.9~78.0であり、
前記共重合樹脂のうち少なくとも一部が、前記カルボン酸ジヒドラジド化合物との反応によって架橋構造を形成している、ミネラルウール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はミネラルウール用バインダー組成物及びミネラルウールに関する。
【背景技術】
【0002】
グラスウール、又は、ロックウール等のミネラルウールにおいて、繊維間を接着させるためにバインダー(ミネラルウール用バインダー)が使用されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2020-059955号公報
【文献】特開第2006-089906号公報
【文献】特開第2012-136412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物と、を含有するバインダーを付着させたミネラルウールが十分な硬さを備えることを見出し、当該ミネラルウールについて出願している(特願2019-088137号)。
【0005】
しかしながら、本発明者らは、カルボキシ基を有する(メタ)アクリル樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含むバインダーでは、無機繊維に付着させる装置及び条件によっては、バインダーが無機繊維に付着された後、熱硬化前に乾燥条件におかれた場合に、ミネラルウールが所望の硬さを示さない不都合を生じることを見出した。
【0006】
また、本発明者らは、特許文献2に開示されるようなカルボキシ基を有する化合物と、ヒドロキシ基を有する化合物とを単量体単位として有する共重合体を含むバインダーでは、無機繊維に付着された後、熱硬化前に乾燥条件におかれた場合にミネラルウールに十分な硬さを付与できるものの、バインダーを無機繊維に付着させ、遠心脱水後の成形前中間体(ミネラルウール中間体)の厚さが不十分であり、乾燥工程を経ることで、成形体の表面に凹凸が発生するという不都合を生じることを見出した。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製造工程で乾燥条件に置かれても十分な硬さを備え、かつ、表面における凹凸の発生が抑制されたミネラルウール成形体を製造可能なミネラルウール用バインダー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを、単量体単位として含む共重合樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物と、水性媒体と、を含むミネラルウール用バインダー組成物に関する。ミネラルウール用バインダー組成物において、前記カルボン酸ジヒドラジド化合物に対する、前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比は、1.9~78.0であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製造工程で乾燥条件に置かれても十分な硬さを備え、かつ、表面における凹凸の発生が抑制されたミネラルウール成形体を製造可能なミネラルウール用バインダー組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はそれに対応するメタアクリレートを意味する。
【0012】
〔ミネラルウール用バインダー組成物〕
一実施形態に係るミネラルウール用バインダー組成物は、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを、単量体単位として含む共重合樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物と、水性媒体と、を含む。ミネラルウール用バインダー組成物において、カルボン酸ジヒドラジド化合物に対する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのモル比は、1.9~78.0であってよい。
【0013】
本実施形態に係るミネラルウール用バインダー組成物によれば、表面に凹凸を有しない、又は表面の凹凸の発生が抑制されたミネラルウール成形体を製造することができる。
【0014】
本実施形態に係るミネラルウール用バインダー組成物によれば、製造工程で乾燥条件に置かれても十分な硬さを備えるミネラルウールを製造することができる。すなわち、本実施形態に係るミネラルウール用バインダー組成物によれば、非乾燥時ミネラルウール硬度に対する乾燥時ミネラルウール硬度の割合が、例えば、80%以上(例えば、80%以上100%以下、80%以上90%以下)である、ミネラルウールを製造することができる。非乾燥時ミネラルウール硬度に対する乾燥時ミネラルウール硬度の割合は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0015】
共重合樹脂は、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを、単量体単位として含む。
【0016】
(メタ)アクリル酸は、ミネラルウールの硬さがより向上する観点及び製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる観点から、アクリル酸であってよい。
【0017】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基(アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基)とヒドロキシ基で置換されたアルキル基(ヒドロキシアルキル基)とを有する化合物である。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基の炭素数は、例えば、1~4であってよい。ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基は、例えば直鎖又は分岐鎖状であってよく、例えば、炭素数1~4の直鎖状のアルキル基であってよい。
【0018】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート又はヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。本発明による効果がより一層顕著に奏される観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートであってよく、ヒドロキシエチルメタクリレートであってもよい。
【0019】
共重合体樹脂に単量体単位として含まれるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの割合は、単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸100質量部に対して、例えば、3質量部以上75質量部以下、5質量部以上50質量部以下、5質量部以上25質量部以下、又は5質量部以上15質量部以下であってよい。
【0020】
共重合樹脂は、(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の単量体を単量体単位として含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。共重合樹脂に単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸の割合及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの割合の合計は、共重合樹脂の全質量に対して、50~100質量%であってよく、80~100質量%であってよく、90~100質量%であってよく、99~100質量%であってよい。
【0021】
(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート以外の単量体の割合は、共重合樹脂を構成する全単量体単位数に対して、50モル%未満、30モル%未満、10モル%未満、又は1モル%未満であってもよい。共重合樹脂は、単量体単位として(メタ)アクリル酸及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのみを含む共重合樹脂であってもよい。
【0022】
カルボン酸ジヒドラジド化合物は、2個のカルボキシ基を有する化合物から誘導される化合物であり、2個のヒドラジノ基(-NHNH)を有する。カルボン酸ジヒドラジド化合物は、例えば、式:HNHN-CO-R-CO-NHNHで表される化合物であってよい。ここで、Rはアルキレン基を示す。Rで表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、2以上、3以上又は4以上であってよく、10以下、9以下、又は8以下であってよい。
【0023】
カルボン酸ジヒドラジド化合物は、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド又はこれらの混合物であってもよい。製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる観点から、カルボン酸ジヒドラジド化合物は、アジピン酸ジヒドラジドであってもよい。
【0024】
カルボン酸ジヒドラジド化合物の含有量は、共重合樹脂に単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸100質量部に対して、0.1~10質量部、0.2~5.0質量部、0.3~3.0質量部、又は0.4~1.5質量部であってよい。
【0025】
単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸、及び、単量体単位として含まれるヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート並びにカルボン酸ジヒドラジド化合物の合計含有量は、バインダー組成物100質量部に対して、0.5~5.0質量部、又は1.0~3質量部であってよい。
【0026】
(メタ)アクリル酸(A)に対する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(B)のモル比(B/A)は、より厚いミネラルウール中間体を形成しやすくなり、ミネラルウール成形体表面における凹凸の発生がより一層抑制される観点、及び、製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる観点から、0.010~0.100、0.034~0.047、又は0.038~0.047であってよい。
【0027】
カルボン酸ジヒドラジド化合物(C)に対する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(B)のモル比(B/C)は、例えば、1.9~78.0であってよく、より厚いミネラルウール中間体を形成しやすくなり、ミネラルウール成形体表面における凹凸の発生がより一層抑制される観点、及び、製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる観点から、2.0~60.0、2.0~50.0、4.6~13.0、又は7.3~13.0であってよい。
【0028】
(メタ)アクリル酸(A)に対する、カルボン酸ジヒドラジド化合物(C)のモル比(C/A)は、より厚いミネラルウール中間体を形成しやすくなり、ミネラルウール成形体表面における凹凸の発生がより一層抑制される観点、及び、製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる観点から、0.0005~0.0300、0.0020~0.0100、0.0020~0.0060、0.0025~0.0055、又は0.0030~0.0050であってよい。
【0029】
上述した各モル比は、バインダー組成物を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより定量することができる。
【0030】
水性溶媒は、水、又は水と任意の割合で相溶し得る親水性溶媒である。水性溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、及びグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。経済性及び取扱性の観点から、水性溶媒が水を含んでいてもよい。水性溶媒中の水の割合が、水性溶媒の質量を基準として50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%、又は90~100質量%であってもよい。水性溶媒の含有量は、例えば、バインダー組成物の全量に対して、80.0~98.0質量%、85.0~98.0質量%又は88.0~98.0質量%であってもよい。
【0031】
バインダー組成物はシランカップリング剤を更に含有してもよい。シランカップリング剤は、例えばアルコキシシリル基と反応性官能基とを有する化合物であり、ミネラルウールの更なる硬さ向上に寄与し得る。シランカップリング剤の例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のアミノプロピルトリメトキシシラン「KBE903」が挙げられる。シランカップリング剤は、1種類単独で用いてもよく、又は、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、バインダー組成物の全質量に対して、0.1~3.0質量%であってよく、0.2~2.0質量%であってよく、0.3~1.0質量%であってよい。
【0033】
バインダー組成物は、硫酸アンモニウムを更に含有してもよい。硫酸アンモニウムの含有量は、バインダー組成物の全質量に対して、1~20質量%であってよく、2~15質量%であってよく、4~12質量%であってよい。
【0034】
本実施形態に係るバインダー組成物は、以上例示した成分に加えて、必要に応じてその他の成分を更に含有していてよい。その他の成分としては、防塵剤、撥水剤等が挙げられる。防塵剤としては、オイルエマルション等が挙げられる。防塵剤の市販品の例としては、出光興産株式会社製の重質オイルエマルション「ダフニープロソルブルPF」が挙げられる。撥水剤としては、例えば、シリコーンオイルエマルション等のシリコーン系添加剤、及び、フッ素系添加剤が挙げられる。撥水剤の市販品の例としては、信越化学工業株式会社製のシリコーンオイルエマルション「Polon MR」が挙げられる。
【0035】
バインダー組成物における、固形分濃度、すなわち水性溶媒以外の成分の含有量は、バインダー組成物全量に対して、2.0~20質量%であってよい。水性溶媒以外の成分の含有量が、2.0質量%以上である場合、ミネラルウールを乾燥させるための加熱処理に要する時間が短くなり、生産性が向上する傾向がある。水性溶媒以外の成分の含有量が、20.0質量%以下であると、溶液(バインダー組成物)の粘度が充分に低下し、ウール状の無機繊維に対する浸透性が良好になる。同様の観点から、水性溶媒以外の成分の含有量が2.0~15.0質量%であってもよく、2.0~12.0質量%であってもよい。
【0036】
本実施形態に係るバインダー組成物は、例えば、共重合樹脂及びカルボン酸ジヒドラジド化合物、並びに、必要に応じて、シランカップリング剤、硫酸アンモニウム、他の成分を水性媒体とともに混合及び撹拌し、必要に応じて、水性媒体を添加し、上記成分の含有量を調整して得ることができる。
【0037】
〔ミネラルウール〕
図1は、ミネラルウールの一実施形態を示す断面図である。図1に示すミネラルウール1は、無機繊維と、無機繊維に付着したバインダーとを含むマット状の材料である。ただし、ミネラルウールの形状はこれに限られない。
【0038】
ミネラルウール1は、無機繊維を含むウール状の繊維集合体を含む。繊維集合体を構成する無機繊維同士がバインダーを介して結着している。無機繊維は、ガラス繊維、又は、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維であってよい。無機繊維としてガラス繊維を含むミネラルウールは、一般にグラスウールと称される。無機繊維として、けい酸分と石灰分を主成分とする高炉スラグ、又は岩石等を原料とした繊維を含むミネラルウールは、一般にロックウールと称される。ミネラルウールは、断熱性及び吸音性がより優れたものとなる観点から、ガラス繊維を含むグラスウールであってもよい。
【0039】
ミネラルウール1を構成する無機繊維の繊維径(バインダーの厚さを含む。)は、3.0~10.0μm、3.5~8.0μm、又は4.0~7.0μmであってよい。ここでの繊維径は、マイクロネア法で測定される値である。ミネラルウールを構成する無機繊維の繊維長は、2.0~500.0mmであってもよい。
【0040】
無機繊維に付着したバインダーは、共重合樹脂と、カルボン酸ジヒドラジド化合物とを含有する。
【0041】
バインダーに含まれる共重合樹脂のうち少なくとも一部が、カルボン酸ジヒドラジド化合物との反応によって架橋されている。通常、共重合樹脂に単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸のカルボキシ基とカルボン酸ジヒドラジド化合物のヒドラジノ基との反応により、共重合樹脂が架橋される。
【0042】
無機繊維に付着したバインダーにおける共重合樹脂及びカルボン酸ジヒドラジド化合物の合計の含有量は、バインダーの全体質量を基準として、50~100質量%、75~100質量%、又は95~100質量%であってもよい。ここでの含有量は、架橋構造を形成している共重合樹脂及びカルボン酸ジヒドラジド化合物の量も含む。これは本明細書における以下の説明でも同様である。
【0043】
バインダーにおいて、(メタ)アクリル酸(A)に対するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(B)のモル比(B/A)、カルボン酸ジヒドラジド化合物(C)に対する、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(B)のモル比(B/C)及び(メタ)アクリル酸(A)に対する、カルボン酸ジヒドラジド化合物(C)のモル比(C/A)は、上述した範囲内にあってよい。この場合、より厚いミネラルウール中間体を形成しやすくなり、ミネラルウール成形体表面における凹凸の発生がより一層抑制されるとともに、製造工程で乾燥条件に置かれた場合でもより硬いミネラルウールを形成しやすくなる。上記モル比は、無機繊維に付着したバインダーをメタノールによって抽出し、得られた抽出物を、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)で分析することにより定量することができる。
【0044】
(メタ)アクリル酸(A)に対する、カルボン酸ジヒドラジド化合物(C)のモル比(C/A)が0.0005~0.0300の範囲内にある場合、カルボン酸ジヒドラジド化合物は少なくともその一部が架橋構造を形成しているとみなすことができる。
【0045】
バインダーは、上述したシランカップリング剤、硫酸アンモニウム、他の成分等を更に含有してもよい。
【0046】
無機繊維に対するバインダーの付着量が、ミネラルウール100質量部に対して、0.5~15.0質量部、1.0~15.0質量部又は1.0~6.0質量部であってよい。バインダーの付着量は、ミネラルウール100質量部に対して、1.0質量部以上、1.5質量部以上、2.0質量部以上又は2.5質量部以上であってよく、15.0質量部以下、10.0質量部以下、6.0質量部以下又は5.0質量部以下であってよい。バインダーの付着量は、まず、バインダーの付着したミネラルウールの重量(焼却前質量)を測定することと、次いで、ミネラルウールを空気雰囲気下、500℃の条件で60分間加熱して、バインダーを焼却し、残ったミネラルウールの質量(焼却後質量)を測定することと、下記式によりバインダーの付着量を算出することとを含む方法により、求めることができる。
バインダーの付着量(質量%)={(焼却前質量-焼却後質量)/焼却前質量}×100
【0047】
ミネラルウール1の密度は10~250kg/mであってよい。ミネラルウール1の厚さは、例えば、10~300mmであってよい。ミネラルウール1の密度及び厚さは、JIS A 9521:2014に準拠して測定することができる。ここでの密度は、空隙体積を含む体積を基準とする見かけ密度である。
【0048】
ミネラルウール1は、例えば、バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程と、無機繊維とこれに付着したバインダー組成物とを含むウール状の中間繊維基材を形成させる工程と、中間繊維基材を加熱してミネラルウールを得る工程とを含む方法によって、製造することができる。
【0049】
バインダー組成物を無機繊維に付着させる工程では、例えば、熱溶融されたガラス、又は岩石等の鉱物のような無機質原料を繊維化して無機繊維を形成させながら、形成された無機繊維にバインダー組成物を付着させてもよい。無機繊維を繊維化する方法としては、例えば、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)が挙げられる。無機繊維にバインダー組成物を付着させる方法としては、例えば、無機繊維に対し、スプレー装置等により、霧状のバインダー組成物を吹き付ける方法、無機繊維をバインダー組成物に浸漬させる方法が挙げられる。
【0050】
バインダー組成物を無機繊維に付着させながら、バインダー組成物が付着した無機繊維を堆積させることによって、ウール状の中間繊維基材を形成させることができる。堆積した無機繊維同士が徐々に絡み合い、それらがウール状の形態を形成する。形成された直後の無機繊維にバインダー組成物を付着させ、その後、ウール状の中間繊維基材を形成させてもよい。
【0051】
中間繊維基材を加熱することにより、無機繊維に付着したバインダー組成物が加熱硬化することでバインダーが形成されて、無機繊維と無機繊維に付着したバインダーとを含むミネラルウールが得られる。中間繊維基材を加熱する方法は、特に制限されない。例えば、所定の加熱温度に設定された1つ又は複数の加熱ゾーンを通過させることにより、中間繊維基材を加熱することができる。
【0052】
中間繊維基材の加熱温度は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱温度は、例えば、150~240℃であってよい。中間繊維基材の加熱時間は、バインダー組成物が付着した無機繊維の密度、厚さにより、適宜調整される。加熱時間は、例えば、10分間~2時間であってよい。
【0053】
加熱工程後の中間繊維基材、すなわちミネラルウールは、必要により例えばマット状に成形され、さらに所望の幅、長さに切断してもよい。ミネラルウールは種々の形状に成形して、ミネラルウール成形体として用いることができる。
【0054】
ミネラルウールは、そのままの形態で用いてもよく、また、ミネラルウールの表面を表皮材で被覆して、ミネラルウール及び表皮材を有するパネル等の部材を作製してもよい。表皮材としては、特に制限されないが、例えば、紙(特に耐熱紙、例えば、ガラスペーパー)、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布(例えば、ガラスチョップドストランドマット)、織布(例えば、ガラス繊維織物)又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。
【0055】
本実施形態に係るミネラルウールは、例えば、断熱・吸音機能を持つ素材として用いることができる。本実施形態に係るミネラルウールを、建築材料用断熱材(特に、壁内や天井内、床内といった建築材料内部に配置される断熱材)として用いてもよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
1.バインダー組成物の調製
実施例1
アクリル酸及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートを単量体単位として有する共重合樹脂と、アジピン酸ジヒドラジドと、アミノプロピルトリエトキシシランと、硫酸アンモニウムと、水とを、表1に示す量となるように混合して、実施例1のバインダー組成物を調製した。
【0058】
実施例2~5
アジピン酸ジヒドラジドに対する2-ヒドロキシエチルメタクリレートのモル比が表1に示す量となるようにアジピン酸ジヒドラジド及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5のバインダー組成物を調製した。
【0059】
実施例6
アジピン酸ジヒドラジドに代えて、セバシン酸ジヒドラジドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6のバインダー組成物を調製した。
【0060】
実施例7
アクリル酸に代えて、メタクリル酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7のバインダー組成物を調製した。
【0061】
比較例1~3
アジピン酸ジヒドラジドに対する2-ヒドロキシエチルメタクリレートのモル比が表2に示す量となるようにアジピン酸ジヒドラジド及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートの使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~3のバインダー組成物を調製した。
【0062】
比較例4
2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のバインダー組成物を調製した。
【0063】
比較例5
アジピン酸ジヒドラジドを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5のバインダー組成物を調製した。
【0064】
比較例6
アジピン酸ジヒドラジドを用いなかったこと以外は、比較例1と同様にして、比較例6のバインダー組成物を調製した。
【0065】
(メタ)アクリル酸及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートを単量体単位として有する共重合樹脂は、通常の方法によって共重合されたものを用いた。表1~2中の「A、B及びCの合計含有量」は、バインダー組成物100質量部に対する、単量体単位として含まれる(メタ)アクリル酸(A)、単量体単位として含まれる2-ヒドロキシエチルメタクリレート(B)及びカルボン酸ジヒドラジド化合物(C)の合計含有量である。
【0066】
2.硬さの評価
(非乾燥時ミネラルウール硬度)
各実施例及び比較例のバインダー組成物にグラスウールを浸漬し、次いで、遠心脱水を行い、グラスウール中間体を得た。得られたグラスウール中間体から、縦250mm、横250mmであって、水分を除いた状態での質量が80gとなる高さを備える測定用サンプルを切り出した。次いで、高さが20mmとなるように測定用サンプルを加圧し、測定用サンプルの密度を64kg/mに調整した。次いで、密度を調整した測定用サンプルを、180℃に調整した恒温槽内で1時間加熱し、グラスウール成形体を作成した。得られたグラスウール成形体について、硬度計(株式会社エーアンドディ製、型式名:デジタルフォースゲージAD-4932A-50N)を用い、測定板をグラウウール成形体より2mm押し込んだ時の応力を硬度として測定した。これを非乾燥時ミネラルウール硬度とした。
【0067】
(乾燥時ミネラルウール硬度)
グラスウール中間体を得た後、測定用サンプルを切り出す前に、グラスウール中間体を100℃に調整した恒温槽に入れ、60分間加熱した以外は、非乾燥時ミネラルウール硬度と同様にして、硬度計を用い、測定板をグラスウール成形体より2mm押し込んだ時の応力を硬度として測定した。これを乾燥時ミネラルウール硬度とした。
【0068】
式:乾燥時ミネラルウール硬度(N)/非乾燥時ミネラルウール硬度(N)×100によって、非乾燥時ミネラルウール硬度に対する乾燥時ミネラルウール硬度の割合を求めた。非乾燥時ミネラルウール硬度に対する乾燥時ミネラルウール硬度の割合が、80%以上であると、製造工程で乾燥条件に置かれても十分な硬さを備えていると判断される。乾燥時ミネラルウール硬度は、16.5N以上であってよく、18.0N以上であってよく、19.0N以上であってよい。また、乾燥時ミネラルウール硬度は、30.0N以下であってよく、25.0N以下であってよい。
【0069】
3.表面の凹凸の評価
(グラスウール中間体の厚さ)
非乾燥時ミネラルウール硬度の測定方法と同様にして得られたグラスウール中間体の上面に、重さが150gである150mm×150mmのプレートを置き、その下の綿(圧縮したグラスウール中間体)の厚さをノギスにて測定した。圧縮したグラスウール中間体が厚いほど、表面の凹凸の発生が抑制される傾向がある。グラスウール中間体の厚さは、35.0mm以上であってよく、42.5mm以上であってよい。また、グラスウール中間体の厚さは、55.0mm以下であってよく、50.0mm以下であってよい。
【0070】
(表面の凹凸の肉眼観察)
非乾燥時ミネラルウール硬度の測定方法と同様にして得られたグラスウール成形体の表面を肉眼で観察し、凹凸の有無を確認した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び表2に硬度及びミネラルウールの表面の凹凸の評価結果が示される。実施例のバインダー組成物によれば、乾燥条件に置かれても十分な硬さを備えるミネラルウールを形成可能であるとともに、ミネラルール表面の凹凸も抑制されることが示された。
【符号の説明】
【0074】
1…ミネラルウール。

図1