(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】液状塗料組成物、塗膜、含フッ素樹脂積層体、および、物品
(51)【国際特許分類】
C09D 127/12 20060101AFI20240229BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20240229BHJP
C09D 181/04 20060101ALI20240229BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240229BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C09D127/12
C09D179/08 B
C09D181/04
C09D5/00 D
B32B27/30 D
(21)【出願番号】P 2021191911
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】今田 博丈
(72)【発明者】
【氏名】本多 有佳里
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-227504(JP,A)
【文献】特開2019-218484(JP,A)
【文献】特開2000-239596(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104877556(CN,A)
【文献】特開2005-231080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基を有しているか、または、アミド基を有することになるアミド基含有性高分子化合物(A)と、ポリフェニレンサルファイド(B)と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含む液状塗料組成物であって、
前記アミド基含有性高分子化合物(A)は、
芳香環を有するポリアミドイミドであり、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)の平均粒子径は、20μm以下であり、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)の含有量は、前記アミド基含有性高分子化合物(A)とポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%であり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンを85.0~99.5モル%の範囲で含み、メルトフローレート(MFR)が5~30(g/10min)の範囲にあり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の含有量は、前記アミド基含有性高分子化合物(A)と前記ポリフェニレンサルファイド(B)と前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)との合計の50.0~95.0質量%で
あり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は粒子であり、さらに、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子の平均粒子径は、前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子の平均粒子径に比べて小さいことを特徴とする液状塗料組成物。
【請求項2】
パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層の下塗り用塗料組成物である、請求項1に記載の液状塗料組成物。
【請求項3】
アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子と、ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子とを、分散媒に分散してなる請求項1または2のいずれかに記載の液状塗料組成物。
【請求項4】
パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとを含む共重合体であり、パーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量が0.5~3.0モル%である、請求項1~3のいずれかに記載の液状塗料組成物。
【請求項5】
パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、融点が250~320℃である、請求項1~4のいずれかに記載の液状塗料組成物。
【請求項6】
N-メチルー2-ピロリドンの含有量が、組成物の1質量%未満である、請求項1~5のいずれかに記載の液状塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の液状塗料組成物より得られることを特徴とする塗膜。
【請求項8】
被塗装物、請求項7に記載の塗膜、および、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層からなり、前記被塗装物、前記塗膜および前記フッ素樹脂層は、この順に積層していることを特徴とする含フッ素樹脂積層体。
【請求項9】
パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層は、膜厚が200μm以上である、請求項8に記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項10】
請求項8または9記載の含フッ素樹脂積層体を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液状塗料組成物、塗膜、含フッ素樹脂積層体、および、物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、塗料組成物に調製し、パン金型、炊飯釜等の耐蝕性、非粘着性、耐熱性等が要求されるものの基材に塗装してフッ素樹脂層を形成させることに幅広い用途がある。しかしながら、フッ素樹脂は、その非粘着性ゆえに、金属、セラミック等からなる基材との接着性に乏しいので、フッ素樹脂とも基材とも親和性を有するプライマーを予め基材に塗装することが行われてきた。
【0003】
耐熱密着性に優れたプライマーとして、フッ素樹脂と各種バインダー樹脂との組み合わせが検討されてきた。バインダー樹脂としては、耐熱性の点からポリフェニレンサルファイド(PPS)の使用が提案されてきた。PPSは、しかしながら、フッ素樹脂との相溶性に劣り、フッ素樹脂層との密着性が不充分であるという問題があった。
【0004】
特許文献1には、アミド基を有しているか又はアミド基を有することとなるアミド基含有性高分子化合物(A)と、抗酸化性物質(B)と、フッ素樹脂(C)とからなる塗料組成物であって、抗酸化性物質(B)は、ポリアリレンサルファイドである液状塗料組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アミド基を有しているか又はアミド基を有することとなるアミド基含有性高分子化合物(A)、上記アミド基の酸化を抑制することができる抗酸化性物質(B)、及び、フッ素樹脂(C)からなるプライマー組成物より得られるプライマー層(1)、及び、上記プライマー層(1)上に形成したフッ素化されたパーフルオロポリマー(D)からなるフッ素樹脂層(2)を含むフッ素樹脂含有積層体を含む積層体が開示されている。
【0006】
特許文献3には、実質的に溶融加工性パーフルオロポリマーからなる最外層(P)、及び、熱溶融性パーフルオロポリマーとポリアリレンサルファイドとからなり上記最外層(P)に積層している層(Q)を含むフッ素樹脂積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2004/048489号
【文献】特開2005―335185号公報
【文献】特開2005―231080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、フッ素樹脂層のプライマーとして好適な、高い密着性を得ることができる液状塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、アミド基を有しているか、または、アミド基を有することになるアミド基含有性高分子化合物(A)と、ポリフェニレンサルファイド(B)と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含む液状塗料組成物であって、
前記アミド基含有性高分子化合物(A)は、芳香環を有するポリアミドイミドであり、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)の平均粒子径は、20μm以下であり、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)の含有量は、前記アミド基含有性高分子化合物(A)とポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%であり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンを85.0~99.5モル%の範囲で含み、メルトフローレート(MFR)が5~30(g/10min)の範囲にあり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の含有量は、前記アミド基含有性高分子化合物(A)と前記ポリフェニレンサルファイド(B)と前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)との合計の50.0~95.0質量%であり、
前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は粒子であり、さらに、
前記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子の平均粒子径は、前記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子の平均粒子径に比べて小さいことを特徴とする液状塗料組成物に関する。
【0010】
上述の液状塗料組成物は、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層の下塗り用塗料組成物であることが好ましい。
上述の液状塗料組成物は、アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子と、ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子とを、分散媒に分散してなるものであってもよい。
【0011】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとを含む共重合体であり、パーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量が0.5~3.0モル%であることが好ましい。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、融点が250~320℃であることが好ましい。
上述の液状塗料組成物は、N-メチルー2-ピロリドンの含有量が、組成物の1質量%未満であることが好ましい。
【0012】
本開示は、上述の液状塗料組成物より得られることを特徴とする塗膜でもある。
本開示は、被塗装物、上述の塗膜、および、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層からなり、上記被塗装物、上記塗膜および上記フッ素樹脂層は、この順に積層していることを特徴とする含フッ素樹脂積層体でもある。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含むフッ素樹脂層は、膜厚が200μm以上であることが好ましい。
本開示は、上述の含フッ素樹脂積層体を有する物品でもある。
【発明の効果】
【0013】
本開示の液状塗料組成物により、金属基材との密着性に優れる塗膜を得ることができる。また。プライマー塗料として使用することで、フッ素樹脂層との密着性にも優れるプライマー層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示は、アミド基を有しているか、または、アミド基を有することになるアミド基含有性高分子化合物(A)と、ポリフェニレンサルファイド(B)と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含む液状塗料組成物であって、
上記アミド基含有性高分子化合物(A)は、アミド基と芳香環とを有しているアミド基含有ポリマー(a1)、および/または、上記液状塗料組成物を成膜する際の焼成工程において上記アミド基含有ポリマー(a1)に変化するアミド基含有ポリマー前駆体(a2)であり、
上記ポリフェニレンサルファイド(B)の含有量は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)とポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%であり、
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンを85.0~99.5モル%の範囲で含み、MFRが5~30(g/10min)の範囲にあり、
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の含有量は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)と上記ポリフェニレンサルファイド(B)と上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)との合計の50.0~95.0質量%であることを特徴とする液状塗料組成物である。
【0015】
本開示の液状塗料組成物は、アミド基含有性高分子化合物(A)、ポリフェニレンサルファイド(B)、および、特定の範囲のMFRを有するパーフルオロ系フッ素樹脂(C)を特定量配合することにより、被塗装物との密着性に優れ、かつ、フッ素樹脂層との密着性も改善された塗膜を形成することができるものである。
【0016】
本開示は、アミド基を有しているか、または、アミド基を有することとなるアミド基含有性高分子化合物(A)と、上記アミド基の酸化を抑制することができるポリフェニレンサルファイド(B)とからなるものである。
本開示の液状塗料組成物は、被塗装物に塗装することにより塗膜を得るものである。本明細書において、「塗装」とは、被塗装物等の塗装対象物に塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することよりなる一連の工程を意味する。上記焼成は、本開示の液状塗料組成物中の主要な高分子成分の融点以上の温度で加熱することである。上記加熱の温度は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)、上記ポリフェニレンサルファイド(B)、及び、後述のパーフルオロ系フッ素樹脂(C)の各融点等によって異なる。
【0017】
上記アミド基含有性高分子化合物(A)は、アミド基と芳香環とを有しているアミド基含有ポリマー(a1)、及び/又は、上記液状塗料組成物を塗装する際の焼成により上記アミド基含有ポリマー(a1)に変化するアミド基含有ポリマー前駆体(a2)である。
上記アミド基含有ポリマー(a1)は、通常、アミド基(-NH-C(=O)-)を主鎖又は側鎖に有し、芳香環を主鎖に有するポリマーである。
上記アミド基含有ポリマー(a1)は、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド、及び/又は、ポリアミド酸(ポリアミック酸)であることが好ましい。
【0018】
上記PAIは、アミド基と芳香環とイミド基とを有する重縮合体である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、従来公知のPAIの他にも、ポリイミド(PI)を酸化することによりアミド基を導入したもの等を用いることができる。
【0019】
上記ポリアミドは、主鎖中にアミド結合(-NH-C(=O)-)を有する重縮合体である。上記ポリアミドとしては特に限定されず、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド;ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等の芳香族ポリアミド等が挙げられる。
上記ポリアミド酸は、アミド基と、カルボキシル基又はカルボキシル基の誘導体とを有する重縮合体である。上記ポリアミド酸としては特に限定されず、分子量が数千~数万であるポリアミド酸等が挙げられる。
【0020】
上記アミド基含有ポリマー前駆体(a2)は、本開示の液状塗料組成物を塗装する際の焼成により上記アミド基含有ポリマー(a1)に変化するものである。
上記「液状塗料組成物を塗装する際の焼成」は、本開示の液状塗料組成物を後述のプライマー組成物として用い、次いで上塗り塗料を塗装する場合、
(1)このプライマー組成物を塗布した後、上記上塗り塗料を塗装する前に通常行う「焼成」、
(2)上記(1)の焼成の後、上記上塗り塗料を塗装する際の「焼成」、又は、
(3)上記(1)の焼成を行わずに上記上塗り塗料を塗装する際の「焼成」に該当し、
本開示の液状塗料組成物を後述のワンコート法に用いる場合、
(4)上記液状塗料組成物を塗布した後の「焼成」に該当するが、(1)~(4)の何れの焼成をも含み得る概念である。
【0021】
上記アミド基含有ポリマー前駆体(a2)は、上述のように、上記液状塗料組成物を塗装する際の焼成により上記アミド基含有ポリマー(a1)に変化するものであり、この焼成において上記アミド基含有ポリマー(a1)が有する芳香環が通常変化しないので、芳香環を有しているものであるが、本開示の液状塗料組成物を塗布し焼成を開始する前においては、アミド基は有していないものである。
本明細書において、上記液状塗料組成物を塗布し焼成を開始する前においてアミド基を有しており、更に芳香環をも有している高分子化合物は、上述のアミド基含有性ポリマー(a1)に該当する。
【0022】
上記アミド基含有ポリマー前駆体(a2)としては、本開示の液状塗料組成物を塗布し焼成することにより上記アミド基含有ポリマー(a1)に変化するものであれば特に限定されず、例えば、PI等であってもよい。上記PIは、本開示の液状塗料組成物を塗布し長時間高温で焼成する際に酸化させて主鎖にアミド基を導入することができる。上記PIにアミド基を導入して得られたアミド基含有ポリマー(a1)は、PAI又はポリアミド酸であり、PAIであるためには、PIの主鎖におけるイミド基の全てをアミド基に変換したものでなければよく、ポリアミド酸は、PIの主鎖におけるイミド基の全てをアミド基と、カルボキシル基とに変換したものである。
【0023】
上記PIにアミド基を導入する方法としては特に限定されず、例えば、PIのイミド基(イミド環)を酸化によって開環する方法、PIのイミド基(イミド環)にアルカリを作用させ加水分解する方法等が挙げられる。本明細書において、アミド基を導入することとなる分子構造上の部位、例えば、上述の酸化によりアミド基に変化するイミド基等を、アミド基導入部位ということがある。
【0024】
上記アミド基含有性高分子化合物(A)は、アミド基を有しているか又はアミド基を有することとなるものである。
上記「アミド基を有することとなる」とは、本開示の液状塗料組成物を調製するためにアミド基含有性高分子化合物(A)を配合する時点で上記アミド基含有性高分子化合物(A)が必ずしもアミド基を有していなくともよいが、上述の液状塗料組成物を塗装する際の焼成により化学変化を起こしてこの焼成が終了する前にアミド基が導入されることを意味する。
【0025】
本明細書において、上記「アミド基を有しているか又はアミド基を有することとなる」は、本開示の液状塗料組成物を調製するためにアミド基含有性高分子化合物(A)を配合する時点において、アミド基を有しアミド基導入部位を有しないもの、アミド基を有さずアミド基導入部位を有するもの、アミド基を有しかつアミド基導入部位を有するもの、の何れをも含み得る概念である。即ち、本開示の液状塗料組成物は、上述のアミド基含有ポリマー(a1)とアミド基含有ポリマー前駆体(a2)との両方を含むものであってもよいし、何れか一方のみを含むものであってもよい。
【0026】
上記ポリフェニレンサルファイド(B)は、上記アミド基の酸化を抑制することができるものである。
上記ポリフェニレンサルファイド(B)は、上記アミド基の酸化に優先して自己酸化されることによって上記アミド基の酸化を遅らせることができるものと考えられる。
【0027】
上記ポリフェニレンサルファイド(B)の含有量は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)と上記ポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%である。50質量%を超えると、熱水処理後の密着力が低下しやすく、1質量%未満であると、熱処理後の密着力が低下しやすい。
【0028】
本開示の液状塗料組成物は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)と、上記ポリフェニレンサルファイド(B)と、更に、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)とからなるものである。
本開示の液状塗料組成物は、塗装することにより、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を主成分とする第1層(表層)、並びに、上記アミド基含有性高分子化合物(A)及び上記ポリフェニレンサルファイド(B)を主成分とする第2層の2層構造に分かれた塗膜を形成することができる。上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含む本開示の液状塗料組成物は、上記第1層上にパーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなるフッ素樹脂層を積層する場合、上記第1層中のパーフルオロ系フッ素樹脂(C)と上記パーフルオロ系フッ素樹脂(D)との相溶性により、上記フッ素樹脂層との接着性に優れた塗膜を形成することができる。
【0029】
上記2層構造に分かれた塗膜は、本明細書において、便宜上「2層構造に分かれた」というが、実際には、被塗装物近傍ほどアミド基含有性高分子化合物(A)及びポリフェニレンサルファイド(B)の濃度が高く、被塗装物から離れるにつれポリフェニレンサルファイド(B)にかわってパーフルオロ系フッ素樹脂(C)の濃度が高くなり、塗膜の最表面にはパーフルオロ系フッ素樹脂(C)が高濃度で存在していると考えられる。したがって、上記塗膜は、各成分の配合量によっては、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる層と、アミド基含有性高分子化合物(A)及びポリフェニレンサルファイド(B)からなる層との間にアミド基含有性高分子化合物(A)及びパーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなるいわば中間層ともいうべき層が存在する場合がある。
【0030】
本開示の液状塗料組成物において、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、塗装時の焼成の温度が300℃以上のものであることが好ましい。
上記塗装時の焼成の温度は、一般的に、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の融点以上の温度である。上記塗装時の焼成は、上記アミド基含有ポリマー前駆体(a2)について上述した「塗装組成物を塗装する際の焼成」と同じものが該当し得る。
【0031】
本開示の液状塗料組成物は、300℃以上の温度における数10時間という長時間の焼成を行った後でも被塗装物との密着力低下が起きにくいものである。このような優れた耐熱密着性は、従来、クロム系プライマーを用いることによってのみ達成することができたものであるが、本開示の液状塗料組成物は、クロムやクロム化合物を用いなくても優れた耐熱密着性を奏することができる。
【0032】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、フッ素を有する単量体を重合して得られる重合体からなるものである。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)としては、融点が上述の塗装時における焼成の温度未満であり、かつ、上述の焼成の温度において耐熱性を有するものが更に好ましい。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、耐食性と耐熱性とを兼ね備えている点で好ましい。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂は、通常、300℃以上の焼成温度が要求される樹脂であり、パーフルオロオレフィンと、パーフルオロビニルエーテル及び/又は微量共単量体とを重合して得られるパーフルオロ系重合体からなるものである。上記パーフルオロオレフィンとしては特に限定されず、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等が挙げられる。上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等のパーフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0033】
上記微量共単量体としては、上記パーフルオロオレフィンでもなくパーフルオロビニルエーテルでもないフッ素含有単量体、並びに/又は、フッ素非含有単量体を1種若しくは2種以上用いることができる。上記パーフルオロ系重合体の分子鎖における上記微量共単量体に由来する繰り返し単位は、上記パーフルオロ系重合体の全単量体単位の10モル%未満であることが好ましい。
【0034】
本開示において、上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンを85.0~99.5モル%の範囲で含むものである。さらに、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよび/またはヘキサフルオロプロピレンとを含む共重合体であることが好ましい。なかでも、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルを含む共重合体であることが好ましく、パーフルオロアルキルビニルエーテルの含有量が0.5~3.0モル%であることが好ましい。
このようなパーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、プライマー層の成膜性向上の観点から好ましい。
【0035】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、MFRが5~30(g/10min)の範囲にあるものである。本明細書において、MFRは、ASTM D3307、D2116に準拠して、温度372℃、荷重5.0kgの条件下で測定し得られる値である。
上記MFRは、15~30(g/10min)がより好ましい。
【0036】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)は、融点が250~320℃であることが好ましい。本明細書において、融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
上記融点は、260~310℃がより好ましい。
【0037】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)としては、乳化重合若しくは懸濁重合で得たディスパージョン又は粉末を用いることができるほか、更に、粉砕を行い微粉化した微粉末を用いることができる。
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を粉末で用いる場合の平均粒子径は、0.1~50μmであることが好ましい。0.1μm未満であると、フッ素樹脂層をあまり厚くすることができず、50μmを超えると、本開示の液状塗料組成物を塗装して得られる塗膜の平滑性が悪くなる場合がある。薄塗り等に使用する場合、平均粒子径のより好ましい上限は、10μmである。膜厚が200μmを超えるライニング等に用いる場合、平均粒子径のより好ましい下限は、1μm、より好ましい上限は、40μmであり、更に好ましい下限は、5μmである。
本明細書において、平均粒子径は、レーザー式測定法によって測定し得られる値である。
【0038】
上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の含有量は、上記アミド基含有性高分子化合物(A)と上記ポリフェニレンサルファイド(B)と上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)との合計の50.0~95.0質量%である。50.0質量%未満であると、上記液状塗料組成物を後述のプライマー組成物として用いる場合、上記プライマー組成物を塗装して得られた塗膜と、上記塗膜上に積層するフッ素樹脂層との密着性が悪くなりやすく、95.0質量%を超えると、上記塗膜と後述の被塗装物との密着性が悪くなりやすい。より好ましい下限は、60質量%であり、より好ましい上限は、85質量%である。
【0039】
上記数値範囲は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の固形分質量についての値である。上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の固形分質量は、本開示の液状塗料組成物を調製するに際し、上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を上述のようにディスパージョン等の液状物で配合する場合があるが、この場合、上記液状物中のパーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子を取り出して得られる粉末の乾燥質量に該当する値である。
【0040】
本開示の液状塗料組成物は、上記液状塗料組成物から得られる塗膜の造膜性、耐腐蝕性等を向上する目的で、必要に応じ、上記アミド基含有性高分子化合物(A)、ポリフェニレンサルファイド(B)、又は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の何れでもないその他の200℃以上の耐熱性を有する樹脂を配合したものであってもよい。
【0041】
上記その他の樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0042】
本開示の液状塗料組成物は、必要に応じ、塗装作業性や上記液状塗料組成物から得られる塗膜の性質を改善するために、添加剤類を含むものであってもよい。
上記添加剤類としては特に限定されず、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、顔料、光輝材、充填材、顔料分散剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調整剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、抗蝕剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
本明細書において、上記抗蝕剤は、アミド基の酸化は抑制しないが被塗装物の酸化を抑制する性質を有するものを意味する。
【0043】
本開示の液状塗料組成物は、液状塗料タイプであるため、被塗装物に満遍なく塗装することができる点で好ましい。上記液状塗料タイプとしては、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子を分散媒に分散している分散体中に、アミド基含有性高分子化合物(A)及びポリフェニレンサルファイド(B)を溶解又は分散しているものであることが好ましく、厚膜化のためには、アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子と、ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子とを分散媒に分散してなるものであることがより好ましい。本開示の液状塗料組成物は、上述のその他の樹脂を配合した液状塗料タイプである場合、上記分散媒の種類と上記その他の樹脂の溶解性等にもよるが、通常上記その他の樹脂からなる粒子をも上記分散媒に分散してなるものである。
【0044】
上記分散媒は、水又は有機媒体を用いることができる。上記分散媒として水を用いる場合、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、又は、ノニオン界面活性剤を分散剤として分散させることができるが、得られる塗膜中に残りにくい点で、ノニオン性界面活性剤が好ましく用いられる。上記分散媒として水を用いる場合、また、フッ素系界面活性剤を併用してもよい。
【0045】
上記有機媒体としては特に限定されず、例えば、1-ブタノール、ジアセトンアルコール等の低級アルコール類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル等のエステル類;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
上記分散媒としては、更に、水と上記有機媒体との混合溶剤も使用可能である。
【0046】
本開示の液状塗料組成物は、表面張力を調整するために、実質的にN-メチル-2-ピロリドンを含有しないものであることが好ましい。本明細書において、実質的に含有しないとは、N-メチル-2-ピロリドンの含有量が液体塗料組成物の1質量%未満であることを意味する。従来、フッ素樹脂の溶解能を高めるためにN-メチル-2-ピロリドンが分散媒として汎用されてきた。しかし、N-メチル-2-ピロリドンを使用すると、表面張力が高すぎて、基材への濡れ性が不充分で、良好な接着性が得ることが困難であった。N-メチル-2-ピロリドンを実質的に使用しない液状塗料組成物とすることで、より良好な接着性を得ることができる点で好ましい。
【0047】
本開示の液状塗料組成物は、上述のアミド基含有性高分子化合物(A)及びポリフェニレンサルファイド(B)並びに所望により用いる上述のその他の樹脂を上記有機媒体及び/又は水に溶解若しくは分散してなるバインダー樹脂液状物を調製し、上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)分散体と上記バインダー樹脂液状物とを攪拌混合する方法等により調製することができる。上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)分散体は、上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子を上述の分散媒で濡らしたのち、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等の分散剤で分散させて得る方法、上述の分散媒の表面張力をフッ素系界面活性剤等で下げパーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子を分散させて得る方法等により得ることができる。
上記攪拌混合は、バスケットミル、ダイナモミル、ボールミル等の粉砕分散機を用いて行うことが好ましい。
本開示の液状塗料組成物は、上記攪拌混合後、所望により貧溶媒で希釈し粘度調整を行ってもよい。
【0048】
本開示の液状塗料組成物において、アミド基含有性高分子化合物(A)を粒子の状態として使用する場合、上記アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子及び上記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子の平均粒子径は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子の平均粒子径に比べて相対的に小さいことが好ましく、20μm以下であることが好ましい。上記アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子及び上記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子の平均粒子径は上記範囲内であれば、好ましい下限を0.01μm、より好ましい下限を0.1μmとすることができる。
【0049】
上記アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子、上記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子及び上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子は、上述の粉体塗料タイプにおけるものであってもよいが、特に、これらの各粒子が分散媒に分散している分散体におけるものである場合、上記平均粒子径の条件を満たすことが好ましい。本開示の液状塗料組成物を上述の粉体塗料として用いる場合、上記アミド基含有性高分子化合物(A)からなる粒子及び上記ポリフェニレンサルファイド(B)からなる粒子の平均粒子径のより好ましい上限は、200μm、更に好ましい上限は、150μmである。上記パーフルオロ系フッ素樹脂(C)からなる粒子の平均粒子径は、上述のように0.1~50μmであることが好ましい。
【0050】
本開示の液状塗料組成物は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含むものであるため、上述のように2層構造に分かれ、被塗装物との密着性に優れた塗膜が通常得られることから、表層がフッ素樹脂からなる層であるコーティングを施すことを目的とする場合、いわゆるワンコート法によって1回コーティングするだけでもよいし、本開示の液状塗料組成物をプライマー組成物として用い、このプライマー組成物を塗装することにより形成した塗膜上に上塗り塗料を塗装してもよい。
【0051】
本開示の液状塗料組成物は、プライマー組成物として好適に用いることができる。上記プライマー組成物は、上塗り塗料を塗装することに先立ち、被塗装物上に塗装する下塗り用塗料組成物である。本明細書において、プライマー組成物は、プライマーということがある。上記上塗り塗料は、塗装して得られる塗装物の用途にもよるが、耐蝕性、非粘着性等のフッ素樹脂の一般的な特性を付与し得る点で、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなる塗料であることが好ましい。本明細書において、上記上塗り塗料として上記パーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなる塗料を塗装して得られる塗膜をフッ素樹脂層ということがある。本開示の液状塗料組成物は、即ち、プライマー組成物であり、上記プライマー組成物が、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなるフッ素樹脂層の下塗り用塗料組成物であるものが好ましい。上記パーフルオロ系フッ素樹脂(D)については、後述する。
【0052】
本開示の液状塗料組成物は、バインダー成分の役割を果たす6価クロムを含まないクロムフリープライマーであって、上記液状塗料組成物を被塗装物上に塗装することにより得られる測定用塗膜について、350℃に20時間おく耐熱性試験後の剥離接着強さが60N/cm以上、90℃以上の熱水に24時間浸漬する耐熱水処理試験後の剥離接着強さが40N/cm以上であるものであることが好ましい。
本明細書において、剥離接着強さは、テンシロン万能試験機を用い、JIS K 6854-1(1999年)に準拠して試験片に対して90°方向に引っ張り速度50mm/分で剥離するのに要する力である。
【0053】
上記測定用塗膜は、液状塗料組成物を被塗装物上に塗装することにより得られるものである。上記測定用塗膜は、上記被塗装物としてアルミナ粉を用いて吹き付け圧力0.5MPaでブラスト処理した鉄板(SS400、縦100mm×横50mm×厚さ1.5mm、平均粗さ〔Ra〕=2~3μm)を用い、この鉄板上に、液状塗料組成物を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗装し、120℃で30分間乾燥したのち、得られた乾燥皮膜上にPFA粉体塗料(平均粒子径:220μm、メルトフローレート:6g/10分)を、焼成後の膜厚合計が1mmになるように盛り置きし、350℃で1時間焼成することにより得られる塗膜である。
【0054】
本明細書において、上記「クロムフリープライマー」とは、6価クロムがバインダー成分の役割を果たさないプライマーを意味する。上記クロムフリープライマーは、従って、たとえ6価クロム単体又は6価クロムを有する化合物を含有するものであっても、6価クロム単体又は6価クロムを有する化合物がバインダー成分としての役割を果たさないプライマーであり、好ましくは、6価クロム単体又は6価クロムを有する化合物を含有しないプライマーである。
【0055】
本開示の液状塗料組成物は、クロム元素を含まないクロムフリープライマーであることがより好ましい。
本開示の液状塗料組成物は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含むものであるため、被塗装物との密着性を高めるとともに、上記上塗り塗料及び上記プライマー組成物が共に有するパーフルオロ系フッ素樹脂の相溶性により、上記フッ素樹脂層との密着性を高める役割を果たすものである。
【0056】
本開示の液状塗料組成物は、クロムフリープライマー、好ましくは、クロム元素を含まないクロムフリープライマーであり、上記液状塗料組成物を被塗装物上に塗装することにより得られる測定用塗膜について、350℃に20時間おく耐熱性試験後の剥離接着強さが60N/cm以上、90℃以上の熱水に24時間浸漬する耐熱水処理試験後の剥離接着強さが40N/cm以上であるもの(以下、「液状塗料組成物(Z1)」ということがある。)であることが好ましい。
【0057】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記条件を満たすものであればよく、上述のアミド基含有性高分子化合物(A)とポリフェニレンサルファイド(B)とからなる液状塗料組成物であって、上記ポリフェニレンサルファイド(B)が上記アミド基含有性高分子化合物(A)と上記ポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%であるもの(以下、本開示の液状塗料組成物(Y)ということがある)である必要は必ずしもない。
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記測定用塗膜について、350℃に20時間おく耐熱性試験後の剥離接着強さが60N/cm以上であるものである。本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記耐熱性試験後の剥離接着強さが上記範囲内であるように、得られる塗膜の耐熱性に優れたものであり、塗膜の高温下における長期使用において充分な耐性と、被塗装物との密着性を保持することができる。
上記耐熱性試験後の剥離接着強さの好ましい下限は65N/cm、より好ましい下限は70N/cmである。剥離接着強さは、上記範囲内であれば上限を例えば、200N/cmとすることができる。
本明細書において、剥離接着強さは、テンシロン万能試験機を用い、JIS K 6854-1(1999年)に準拠して試験片に対して90°方向に引っ張り速度50mm/分で剥離するのに要する力である。
【0058】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記測定用塗膜について、90℃以上の熱水に24時間浸漬する耐熱水処理試験後の剥離接着強さが40N/cm以上であるものである。本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記耐熱水処理試験後の剥離接着強さが上記範囲内であるように、得られる塗膜の耐熱水性に優れたものであり、塗膜を熱水に接させて使用する用途であっても、充分な耐性と、被塗装物との密着性を保持することができる。上記耐熱水処理試験後の剥離接着強さの好ましい下限は50N/cm、より好ましい下限は60N/cmである。剥離接着強さは上記範囲内であれば上限を例えば、200N/cmとすることができる。
【0059】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記測定用塗膜について、上記範囲内の上記耐熱性試験後の剥離接着強さと、上記範囲内の上記耐熱水処理試験後の剥離接着強さとの両方を達成するものである。本開示の液状塗料組成物(Z1)は、このように被塗装物との密着性に優れたものであり、被塗装物との密着性は、従来のリン酸クロム系プライマーに匹敵するか又はそれ以上の密着力をも実現することができるものである。
【0060】
本開示の液状塗料組成物(Z1)において、上記測定用塗膜は、液状塗料組成物を被塗装物上に塗装することにより得られるものである。上記測定用塗膜は、上記被塗装物としてアルミナ粉を用いて吹き付け圧力0.5MPaでブラスト処理した鉄板(SS400、縦100mm×横50mm×厚さ1.5mm、平均粗さ〔Ra〕=2~3μm)を用い、この鉄板上に、液状塗料組成物を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレー塗装し、120℃で30分間乾燥したのち、得られた乾燥皮膜上にPFA粉体塗料(平均粒子径:220μm、メルトフローレート:6g/10分)を、焼成後の膜厚合計が1mmになるように盛り置きし、350℃で1時間焼成することにより得られる塗膜である。
【0061】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、被塗装物が酸化膜速形成性金属又は酸化膜遅形成性金属の何れであっても上記範囲内の剥離接着強さを達成することができる。
上記酸化膜速形成性金属は、少なくとも本開示の塗料組成物の塗装における焼成により、ステンレスと同程度に酸化膜を形成しやすいものであればよく、被塗装物として本開示の塗料組成物を塗布する時点で既に酸化膜を形成しているものであってもよい。上記酸化膜速形成性金属としては、ステンレス等が挙げられる。
本明細書において、上記酸化膜遅形成性金属は、ステンレスよりも酸化膜を形成する速度が遅い金属である。上記酸化膜遅形成性金属は、酸化膜形成性の程度が相違する点で、上述の酸化膜速形成性金属とは異なる。上記酸化膜遅形成性金属としては、例えば、アルミニウム、鉄等が挙げられる。
【0062】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、耐熱性高分子化合物からなる液状塗料組成物であることが好ましい。
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、上記耐熱性高分子化合物と、更に、上述のポリフェニレンサルファイド(B)とからなる液状塗料組成物であることがより好ましい。
【0063】
上記ポリフェニレンサルファイド(B)は、上記耐熱性高分子化合物と上記ポリフェニレンサルファイド(B)との合計の1~50質量%であることが好ましい。
上記ポリフェニレンサルファイド(B)を配合する場合、上記耐熱性高分子化合物はアミド基含有性高分子化合物(A)であることが好ましい。
【0064】
本開示の液状塗料組成物(Z1)は、本開示の液状塗料組成物(Y)であることが更に好ましい。
本開示の液状塗料組成物は、塗装に際し、長時間の高温での焼成に耐える耐熱密着性を有するものである。本開示の液状塗料組成物が耐熱密着性を有する機構としては明確ではないが、以下のように考えられる。
即ち、従来、PAIからなるプライマー層において観測されていた耐熱密着性の低下は、PAIが持つアミド基等の接着性官能基が長時間の高温での焼成により酸化劣化したことによるものと考えられる。本開示の液状塗料組成物は、PAI等のアミド基含有性高分子化合物(A)が持つアミド基等の接着性官能基の酸化を抑制するポリフェニレンサルファイド(B)を添加することにより、リン酸クロム系プライマーに匹敵する耐熱密着性を実現できたものと考えられる。本開示の液状塗料組成物は、また、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を添加することによって、1回の塗装により、被塗装物から離れるにつれパーフルオロ系フッ素樹脂(C)の濃度を高くすることができるので、上記アミド基含有性高分子化合物(A)及びポリフェニレンサルファイド(B)を主成分とする層と、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)を主成分とする層との間の密着性に優れた塗膜を得ることができる。本開示の液状塗料組成物は、また、このように表面にパーフルオロ系フッ素樹脂(C)を有する層が得られることから、本開示の液状塗料組成物からなる塗膜とフッ素樹脂層との間の耐熱密着性を向上することができるものと考えられる。本開示の液状塗料組成物は、また、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)が後述の接着性官能基を有するものである場合、この液状塗料組成物からなる塗膜とフッ素樹脂層との間の耐熱密着性を一段と向上することができるものと考えられる。
【0065】
本開示の液状塗料組成物から得られる塗膜の厚みは、10~300μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
【0066】
本開示の含フッ素樹脂積層体は、被塗装物、塗膜、及び、フッ素樹脂層からなるものである。上記塗膜は、上述のように、本開示の液状塗料組成物の塗装により得られるものであり、上記含フッ素樹脂積層体において、上記被塗装物に本開示の液状塗料組成物を塗装することにより得られるものである。本開示の含フッ素樹脂積層体において、上記被塗装物、上記塗膜及び上記フッ素樹脂層は、この順に積層している。
【0067】
上記被塗装物は、本開示の液状塗料組成物を塗装する対象である。
上記被塗装物としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、ステンレス〔SUS〕、鉄等の金属;耐熱樹脂;セラミック等からなるものが挙げられ、金属からなるものであることが好ましい。金属としては、単体金属又は合金であってよく、また、得られる塗膜との接着性が良好である点で、ステンレス、銅、銅合金等の酸化膜速形成性金属であってもよいし、アルミニウム、鉄等の酸化膜遅形成性金属であってもよい。
【0068】
上記酸化膜速形成性金属は、表面に酸化皮膜を形成しやすく、この酸化皮膜が、従来の塗料組成物を塗装して得られるコーティング膜との密着性を低下させる原因となっていたものと考えられる。本開示の液状塗料組成物は、ポリフェニレンサルファイド(B)としてアミド基の酸化を抑制するのみならず被塗装物の酸化を抑制することができる物質を用いることにより、被塗装物が酸化膜速形成性金属からなるものであっても、上記塗膜との充分な密着性を得ることができる。
【0069】
上記被塗装物は、本開示の液状塗料組成物を塗装することに先立ち、この液状塗料組成物から塗装により得られる塗膜との接着性を向上させ得る点から、樹脂成分の除去及び粗面化処理を行ったものであることが好ましい。上記樹脂成分の除去の方法としては、有機溶剤、アルカリ等を用いて行う方法;300℃以上の温度で樹脂成分を分解させる方法等が挙げられる。
【0070】
上記塗膜は、本開示の液状塗料組成物を塗布し、所望により80~150℃で10~60分間乾燥を行った後、焼成を行うことにより上記被塗装物上に形成することができる。
上記塗布の方法としては、スプレー塗布、ローラーによる塗布等を用いることが好ましい。
【0071】
上記焼成は、上述のように、本開示の液状塗料組成物中のアミド基含有性高分子化合物(A)、ポリフェニレンサルファイド(B)、及び、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の融点にもよるが、通常、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)の融点以上の温度で10~60分間加熱することにより行う。上記焼成は、本開示の液状塗料組成物をプライマー組成物として用いる場合、上塗り塗料を塗装する前に行ってもよいし、上塗り塗料を塗装する前には行わず、上塗り塗料を塗布した後の焼成時に上塗り塗料の焼成と同時に行うものであってもよい。
【0072】
上記フッ素樹脂層は、上記塗膜上に形成するものであって、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなるものである。
本開示の液状塗料組成物がパーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含むものであるため、上記液状塗料組成物を被塗装物上に塗装し形成される塗膜の表面には、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)が多く含まれており、上記塗膜の表面との相溶性及び接着性を高める意味で、上記塗膜上に形成するフッ素樹脂層におけるパーフルオロ系フッ素樹脂(D)としては、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)と同一又は類似の組成を有するフッ素樹脂を用いることが好ましい。
【0073】
上記フッ素樹脂層は、本開示の液状塗料組成物の塗装により得られる塗膜との密着性を高め得る点で、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)とともにパーフルオロ系フッ素樹脂(C)を含むものであってもよい。
本開示の液状塗料組成物から得られる塗膜とフッ素樹脂層との密着性は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)として末端官能基を有するポリマーからなる樹脂を利用することにより向上させることができる。
【0074】
上記末端官能基としては特に限定されず、例えば、-COOR1(R1は、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、又は、炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。)、-COF、-CONH2、-CH2OH、-COOM1、-SO4M2、-SO3M3(M1、M2及びM3は、同一又は異なり、I族原子若しくは1価の陽イオンとなることができる原子団を表す。)、-SO4M4
1/2、-SO3M5
1/2(M4及びM5は、同一又は異なり、II族原子、鉄等の遷移金属、若しくは、2価の陽イオンとなることができる原子団を表す。)が挙げられる。上記I族原子としては、例えば、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられ、上記1価の陽イオンとなることができる原子団としては、例えば、アンモニウム基等が挙げられる。上記II族原子としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。遷移金属としては、例えば、鉄等が挙げられる。
【0075】
上記末端官能基の量は、パーフルオロ系フッ素樹脂(C)のポリマー分子鎖中の炭素数100万個あたり50~100000個の範囲であることが好ましい。50個未満であると、密着力が低下しやすく、100000個を超えると、焼成時の発泡が激しくなり、塗膜欠陥を生じやすい。パーフルオロ系フッ素樹脂(C)のポリマー分子鎖中の炭素数100万個あたりより好ましい下限は、100個、更に好ましい下限は、500個であり、より好ましい上限は、50000個、更に好ましい上限は、10000個である。
【0076】
上記末端官能基の量は、赤外分光光度計を用いて測定し得られる値である。
上記末端官能基を有するポリマーにおける末端官能基の量は、通常、適切な触媒、連鎖移動剤及び重合条件を選んで重合することにより調整することができる。
上記末端官能基を有するポリマーにおける官能基の量は、上記官能基を有するモノマーを重合することによって増やすことができる。
上記官能基を有するモノマーを単量体として重合し得られたパーフルオロ系フッ素樹脂(C)のポリマーを適宜酸、アルカリ等の反応試剤と反応させる事及び熱により処理する事により、上記(末端)官能基は反応試剤及び熱の作用により、化学構造の一部が変化する。
【0077】
本開示の含フッ素樹脂積層体は、本開示の液状塗料組成物を塗装して得られた塗膜上に、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)からなる上塗り塗料を塗装し、パーフルオロ系フッ素樹脂(D)の融点以上の温度で30~120分間焼成することにより得ることができる。
【0078】
パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含有する上塗り塗料は、所望の膜厚によって粉体塗料タイプと液状塗料タイプとが使い分けられ、耐蝕性の観点(厚膜化の観点)では、粉体塗料を用いることが好ましい。パーフルオロ系フッ素樹脂(D)を含有する上塗り塗料には、本開示の液状塗料組成物と同様の分散媒、分散剤、添加剤、その他の樹脂等を用いることができる。
フッ素樹脂層は、膜厚が200μm以上であるものであることが好ましい。
本開示の液状塗料組成物は、フッ素樹脂層の膜厚が200μm以上であっても、充分な密着性を保持することができ、高温で長時間の焼成が必要なライニング加工に特に有用である。
【0079】
本開示の含フッ素樹脂積層体の用途としては特に限定されず、例えば、従来のPAIエナメル線と比較し耐加工劣化性に優れる点で、耐熱エナメル線等の各種電線の被覆材用途;情報機器部品(紙分離爪、プリンタガイド、ギア、ベアリング)、コネクタ、バーニインソケット、ICソケット、油田用電気部品、リレー、電磁波シールド、リレーケース、スイッチ、カバー、端子板母線等の電気・電子産業関連用途;
バルブシート、油圧用シール、バックアップリング、ピストンリング、ウェアバンド、ベーン、ボールベアリングリテーナー、ローラー、カム、ギア、ベアリング、ラビリンスシール、ポンプ部品、機械的リンク機構、ブッシング、ファスナ、スプラインライナー、ブラケット、油圧ピストン、ケミカルポンプケーシング、バルブ、弁、タワーパッキン、コイルボビン、パッキン、コネクター、ガスケット、バルブシール等の機械工業関連用途;スラストワッシャ、シールリング、ギア、ベアリング、タペット、エンジン部品(ピストン、ピストンリング、バルブステア)、トランスミッション部品(スプール弁、ボール逆止弁、シーリング)、ロッカーアーム等の車両工業関連用途;ジェットエンジン部品(ブッシング、ワッシャ、スペーサー、ナット)、パワーコントロールクラッチ、ドアヒンジ用ベアリング、コネクター、チューブクランプ、ブラケット、油圧部品、アンテナ、レドーム、フレーム、燃料系統部品、コンプレッサ部品、ロケットエンジン部品、ウェアストリップ、コネクタシェルフ、宇宙構造体等の航空、宇宙産業関連用途等が挙げられる。その他にも、製罐機ピンカバー、メッキ装置用部品、原子力関連部品、超音波トランデューサ、ポテンショメータシャフト、給水栓部品等の用途が挙げられる。
【0080】
本開示の含フッ素樹脂積層体の用途としては、上記各用途に加え、例えば、攪拌翼、タンク内面、ベッセル、塔、遠心分離器、ポンプ、バルブ、配管、熱交換器、メッキ冶具、タンクローリー内面、スクリューコンベア等の耐蝕用途;半導体工場ダクト等の半導体関連用途;OAロール、OAベルト、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール、インジェクション金型等の工業用離型用途;炊飯釜、ポット、ホットプレート、アイロン、フライパン、ホームベーカリー、パントレー、ガステーブル天板、パン天板、鍋、釜等の家電・厨房関連用途;各種ギアを含む精密機構摺動部材、製紙ロール、カレンダーロール、金型離型部品、ケーシング、バルブ、弁、パッキン、コイルボビン、オイルシール、継ぎ手、アンテナキャップ、コネクター、ガスケット、バルブシール、埋設ボルト、埋設ナット等の工業部品関連用途等が挙げられる。
【0081】
本開示の樹脂組成物を用いて成形体を作製する方法としては特に限定されず、例えば、射出成形等が挙げられ、一旦得られた成形物を切削することにより所望の形状を有する成形体を得ることもできる。
本開示の樹脂組成物を用いて得られる成形体の用途としては特に限定されず、例えば、本開示の含フッ素樹脂積層体について上述した用途等が挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。
以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
【0083】
実施例1
ポリアミドイミド(PAI)ワニスA(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド溶液、固形分35%)250g、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂粉末10g、PFA粉末A(テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル=98.0/2.0(モル)、MFR:20g/10min、融点:301℃、平均粒径:20μm)350gを、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド240g、メチルイソブチルケトン150gの混合溶剤に加え、撹拌機(新東科学社製 スリーワンモーター)を用いて溶解分散し、液状塗料組成物Aを得た。
【0084】
アルミナ粉(宇治電化学工業社製、トサエメリー#40)を用いて吹付け圧1.0MPaでブラスト処理した鉄板(SS400、表面粗度Ra:2~3μm)上に、液状塗料組成物Aを乾燥後の膜厚が30μmとなるようスプレー塗装し、120℃で30分間乾燥させた。得られた皮膜上に、PFA粉末(MFR:6g/10min、平均粒径:200μm)を焼成後の総膜厚が1000μmとなるよう盛り置き、350℃で60分間焼成して含フッ素樹脂塗膜を有する含フッ素樹脂積層体Aを得た。この含フッ素樹脂積層体Aから以下の評価を実施した。
【0085】
耐熱評価:含フッ素樹脂塗膜に10mm幅に切目を入れてから350℃の電気炉中で20時間加熱し、常温に戻した後に、JIS K 6854-1に準拠してテンシロン万能試験機を用いて試験片に対して90°方向に引張速度50mm/minにて剥離強度を測定した。ただし、20時間加熱後に含フッ素樹脂塗膜が既に剥離していた場合には、剥離強度を0N/cmとした。
【0086】
耐熱水評価:含フッ素樹脂塗膜に10mm幅に切目を入れてから90℃の熱水中で24時間浸漬し、常温に戻した後に、上記耐熱評価と同様の方法により剥離強度を測定した。ただし、24時間浸漬後に含フッ素樹脂塗膜が既に剥離していた場合には、剥離強度を0N/cmとした。
【0087】
実施例2
PFA粉末Aに代えて、FEP粉末A(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン=90.0/10.0(mol)、MFR:6g/10min、融点:270℃、平均粒径:40μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0088】
実施例3
PFA粉末Aに代えて、FEP粉末B(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル=88.5/10.5/1.0(モル)、MFR:20g/10min、融点:258℃、平均粒径:30μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0089】
実施例4
PAIワニスA(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド溶液、固形分35%)に代えて、PAIワニスB(N-メチルピロリドン溶液、固形分30%)を用い、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドに代えて、N-メチルピロリドンを用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0090】
比較例1
PFA粉末Aに代えて、PFA粉末B(テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル=98.5/1.5(モル)、MFR:2g/10min、融点:304℃、平均粒径:40μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0091】
比較例2
PFA粉末Aに代えて、PFA粉末C(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル=98.0/2.0(モル)、MFR:40g/10min、融点:296℃、平均粒径:30μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0092】
比較例3
PFA粉末Aに代えて、FEP粉末C(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン=89.0/11.0(モル)、MFR:1g/10min、融点;272℃、平均粒径:40μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で耐熱評価と耐熱水評価を実施した。
【0093】
【0094】
表1の結果より、実施例で得られた含フッ素樹脂積層体は、耐熱評価、耐熱水評価において、充分な剥離強度を有することが示された。また、N-メチルピロリドンを含有しない場合にも、問題なくプライマー層としての機能を有する塗料組成物が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示の液状塗料組成物は、被塗装物に対する密着性と、フッ素樹脂層に対する密着性とを同時に有する塗膜を形成できる塗料組成物であり、フッ素樹脂層のプライマーとして好適に使用することができる。