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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】電波吸収材料および電波吸収シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240229BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240229BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
C08J5/18 CEW
H01Q17/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022116371
(22)【出願日】2022-07-21
(62)【分割の表示】P 2020510935の分割
【原出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2022165989
(43)【公開日】2022-11-01
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018067703
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】硲 武史
(72)【発明者】
【氏名】小松 信之
(72)【発明者】
【氏名】横谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】立道 麻有子
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 章夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 友啓
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-30279(JP,A)
【文献】特開2018-2774(JP,A)
【文献】特開2015-12713(JP,A)
【文献】特開2007-208121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08J 5/18
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニリデンフルオライド単位のみからなるビニリデンフルオライドホモポリマーのみを含み、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収する電波吸収材料。
【請求項2】
ワイヤレス給電モジュールから発生する、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することによって、ワイヤレス給電モジュールからの電波を遮蔽するために用いられる請求項に記載の電波吸収材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電波吸収材料から形成される電波吸収層を備える電波吸収シート。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電波吸収材料から形成される電波吸収層と、前記電波吸収層とは異なる他の層とを備える電波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波吸収材料および電波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
電波吸収材料は、電気電子機器のノイズ対策などに利用されている。
【0003】
電波吸収材料として、たとえば、特許文献1では、樹脂及び平均粒径が10μm以下の天然黒鉛粉末を含む塗工液の塗膜を乾燥して形成された厚みが5~30μmのシートからなることを特徴とする誘電体シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-249614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示では、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することができる新規な電波吸収材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、フルオロポリマーを含む電波吸収材料が提供される。
【0007】
本開示の電波吸収材料において、前記フルオロポリマーが、ビニリデンフルオライド単位を含むことが好ましく、ビニリデンフルオライド単位およびテトラフルオロエチレン単位を含むことがより好ましい。この場合、ビニリデンフルオライド単位/テトラフルオロエチレン単位がモル比で5/95~95/5であることが好ましい。
【0008】
本開示の電波吸収材料は、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することが好ましい。
【0009】
本開示の電波吸収材料は、ワイヤレス給電モジュールから発生する電磁波を吸収することによって、ワイヤレス給電モジュールからの電磁波を遮蔽するために、好適に用いられる。
【0010】
本開示によれば、また、上記の電波吸収材料から形成される電波吸収層を備える電波吸収シートが提供される。
【0011】
本開示によれば、また、上記の電波吸収材料から形成される電波吸収層と、前記電波吸収層とは異なる他の層とを備える電波吸収シートが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することができる新規な電波吸収材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で得られたシートの誘電率ε’および誘電損ε”を示すグラフである。
図2図2は、実施例2で得られたシートの誘電率ε’および誘電損ε”を示すグラフである。
図3図3は、実施例3で得られたシートの誘電率ε’および誘電損ε”を示すグラフである。
図4図4は、実施例4で得られたシートの誘電率ε’および誘電損ε”を示すグラフである。
図5図5は、実施例5で得られたシートの誘電率ε’および誘電損ε”を示すグラフである。
図6図6は、本開示の一実施形態の電波吸収シートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本開示の電波吸収材料は、フルオロポリマーを含む。
【0016】
上記フルオロポリマーとしては、フッ素樹脂であることが好ましい。上記フッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フッ素ゴムではなく、フルオロプラスチックスである。上記フッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有するが、溶融加工性であっても、非溶融加工性であってもよい。
【0017】
上記フルオロポリマーの融点は、好ましくは180℃以上であり、より好ましくは190℃以上であり、好ましくは320℃以下であり、より好ましくは280℃以下である。上記融点は、示差走査熱量計を用い、ASTM D-4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、得られる吸熱曲線のピークにあたる温度を融点とする。
【0018】
上記フルオロポリマーとしては、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔PFA〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体〔ETFE〕、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル〔PVF〕、ビニリデンフルオライド(VdF)単位を含むフルオロポリマーなどが挙げられる。
【0019】
上記フルオロポリマーとしては、なかでも、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、VdF単位を含むフルオロポリマーが好ましい。
【0020】
VdF単位を含むフルオロポリマーとしては、VdF単位のみからなるVdFホモポリマーであってよいし、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体に基づく単位を含有するポリマーであってもよい。
【0021】
VdFと共重合可能な単量体としては、フッ素化単量体、非フッ素化単量体等が挙げられ、フッ素化単量体が好ましい。上記フッ素化単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどが挙げられる。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。
【0022】
また、VdFと共重合可能な単量体として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、アルキリデンマロン酸エステル、ビニルカルボキシアルキルエーテル、カルボキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル、不飽和二塩基酸のモノエステルなどの極性基含有単量体を挙げることもできる。
【0023】
上記フルオロポリマーとしては、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、VdF/TFE共重合体、VdF/TrFE共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、および、VdF/HFP共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、PVdF、VdF/TFE共重合体およびVdF/TrFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、VdF/TFE共重合体およびVdF/TrFE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましく、VdF/TFE共重合体が最も好ましい。
【0024】
PVdFは、VdF単位のみからなるVdFホモポリマーであるか、VdF単位と、少量のVdFと共重合可能な単量体に基づく単位とを含む重合体である。PVdFにおけるVdFと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量としては、全単量体単位に対して、好ましくは0.10~8.0モル%であり、より好ましくは0.50モル%以上であり、より好ましくは5.0モル%未満である。
【0025】
PVdFが含有し得るVdFと共重合可能な単量体としては、すでに上述したVdFと共重合可能な単量体であってよいが、なかでも、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテル、HFPおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体が好ましい。
【0026】
VdF/HFP共重合体としては、VdF/HFPのモル比が45/55~85/15であるものが好ましい。VdF/HFPのモル比は、より好ましくは50/50~80/20であり、さらに好ましくは60/40~80/20である。VdF/HFP共重合体は、VdFに基づく重合単位と、HFPに基づく重合単位とを含む共重合体であり、他の含フッ素単量体に基づく重合単位を有していてもよい。例えば、VdF/HFP/TFE共重合体であることも好ましい形態の一つである。
【0027】
VdF/HFP/TFE共重合体としては、VdF/HFP/TFEのモル比が40~80/10~35/10~25のものが好ましい。なお、VdF/HFP/TFE共重合体は、樹脂である場合もあるし、エラストマーである場合もあるが、上記組成範囲を有する場合、通常樹脂である。
【0028】
VdF/TrFE共重合体は、VdF単位およびTrFE単位を含む共重合体である。上記共重合体において、VdF単位およびTrFE単位の含有割合としては、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、VdF単位/TrFE単位のモル比で、好ましくは5/95~95/5であり、より好ましくは10/90~90/10である。
【0029】
VdF/TFE共重合体は、VdF単位およびTFE単位を含む共重合体である。上記共重合体において、VdF単位およびTFE単位の含有割合としては、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、VdF単位/TFE単位のモル比で、好ましくは5/95~95/5であり、より好ましくは5/95~90/10であり、さらに好ましくは5/95~75/25であり、特に好ましくは15/85~75/25であり、最も好ましくは36/64~75/25である。
【0030】
また、上記共重合体において、VdF単位およびTFE単位の含有割合としては、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、VdF単位/TFE単位のモル比で、好ましくは95/5~63/37であり、より好ましくは90/10~70/30であり、さらに好ましくは85/15~75/25である。上記共重合体中のVdF単位が比較的多い場合、溶剤溶解性に優れるとともに、電波吸収材料が加工性に優れる点で好ましい。
【0031】
また、上記共重合体において、VdF単位およびTFE単位の含有割合としては、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を十分に吸収することができることから、VdF単位/TFE単位のモル比で、好ましくは60/40~10/90であり、より好ましくは50/50~15/85であり、さらに好ましくは45/55~20/80である。上記共重合体中のTFE単位が比較的多い場合、電波吸収材料が耐熱性に優れる点で好ましい。
【0032】
VdF/TFE共重合体は、さらに、エチレン性不飽和単量体(但し、VdFおよびTFEを除く。)の重合単位を含むことが好ましい。上記エチレン性不飽和単量体の重合単位の含有量としては、全重合単位に対して0~50%モル%であってよく、0~40モル%であってよく、0~30モル%であってよく、0~15モル%であってよく、0~5モル%であってよい。
【0033】
上記エチレン性不飽和単量体としては、VdFおよびTFEと共重合可能な単量体であれば特に制限されないが、下記の式(1)および(2)で表されるエチレン性不飽和単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
式(1): CX=CX(CF
(式中、X、X、XおよびXは、同一または異なって、H、FまたはClを表し、nは0~8の整数を表す。但し、VdFおよびTFEを除く。)
【0035】
式(2): CF=CF-ORf
(式中、Rfは炭素数1~3のアルキル基または炭素数1~3のフルオロアルキル基を表す。)
【0036】
式(1)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、CF=CFCl、CF=CFCF、下記式(3):
CH=CF-(CF (3)
(式中、Xおよびnは上記と同じ。)、および、下記式(4):
CH=CH-(CF (4)
(式中、Xおよびnは上記と同じ。)
からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、CF=CFCl、CH=CFCF、CH=CH-C、CH=CH-C13、CH=CF-CHおよびCF=CFCFからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、CF=CFCl、CH=CH-C13およびCH=CFCFから選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0037】
式(2)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、CF=CF-OCF、CF=CF-OCFCFおよびCF=CF-OCFCFCFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
上記フルオロポリマーのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~100g/10minであり、より好ましくは0.1~50g/10minである。上記MFRは、ASTM D3307-01に準拠し、297℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)である。
【0039】
上記フルオロポリマーの熱分解開始温度(1%質量減温度)は、好ましくは360℃以上であり、より好ましくは370℃以上であり、好ましくは410℃以下である。上記熱分解開始温度は、加熱試験に供したフルオロポリマーの1質量%が分解する温度であり、示差熱・熱重量測定装置〔TG-DTA〕を用いて加熱試験に供した共重合体の質量が1質量%減少する時の温度を測定することにより得られる値である。
【0040】
上記フルオロポリマーは、動的粘弾性測定による170℃における貯蔵弾性率(E’)が60~400MPaであることが好ましい。
【0041】
上記貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定により170℃で測定する値であり、より具体的には、動的粘弾性装置で長さ30mm、巾5mm、厚み0.25mmのサンプルを引張モード、つかみ巾20mm、測定温度25℃から250℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定する値である。170℃における好ましい貯蔵弾性率(E’)は80~350MPaであり、より好ましい貯蔵弾性率(E’)は100~350MPaである。
測定サンプルは、例えば、成形温度を共重合体の融点より50~100℃高い温度に設定し、3MPaの圧力で厚さ0.25mmに成形したフィルムを、長さ30mm、巾5mmにカットすることで作成することができる。
【0042】
本開示の電波吸収材料は、フルオロポリマーのみを含む場合であっても、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することができる。本発明者らは、フルオロポリマーが、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収するという驚くべき特性を見出した。本開示の電波吸収材料は、この知見に基づき完成された発明である。したがって、本開示の電波吸収材料の電波吸収量は、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波について、好ましくは1dB以上であり、より好ましくは4dB以上であり、さらに好ましくは7dB以上であり、尚さらに好ましくは10dB(90%吸収)以上であり、特に好ましくは20dB(99%吸収)以上であり、最も好ましくは30dB(99.9%吸収)以上である。電波吸収量が上記範囲にある場合、電波吸収材料が電波を十分に吸収しているといえる。電波吸収量は、たとえば、電波吸収体・反射減衰量測定システム(キーコム社製、低周波用マイクロストリップライン方式)により測定できる。上記の電波吸収量は、周波数が1MHz~100MHzの範囲にある特定の周波数の電波についての値であってもよい。言い換えると、上記の電波吸収量は、周波数が1MHz~100MHzの範囲における最高電波吸収量であってもよい。
【0043】
本開示の電波吸収材料の誘電率ε’は、好ましくは2~20であり、より好ましくは3~15である。また、本開示の電波吸収材料の誘電正接(tanδ)は、好ましくは0.01~1.0であり、より好ましくは0.05~0.8である。誘電率ε’および誘電正接は、周波数が1MHz~100MHzの範囲における値である。誘電率ε’および誘電正接がこのような範囲にある場合、電波吸収材料が電波を十分に吸収しているといえる。上記の誘電率ε’および誘電正接は、周波数が1MHz~100MHzの範囲にある特定の周波数の電波についての値であってもよい。
【0044】
本開示の電波吸収材料は、さらに、透明性および柔軟性を有し、これらの効果は、特にフルオロポリマーがVdF単位を含む場合に顕著である。しかも、フルオロポリマーがVdF単位を含む場合には、低沸点の溶媒に溶解させて溶液を調製することができ、上記溶液からは、低温での乾燥によっても塗膜が得られることから、高温に曝すことによる被塗装物への悪影響を回避できる。さらには、絶縁性、耐候性、耐薬品性にも優れ、したがって被塗装物の腐食等を抑制するなどの保護効果も期待でき、これらの効果が長期に渡って維持される。しかも、本開示の電波吸収材料をフルオロポリマーのみから構成する場合は、従来の磁性体などを含む電波吸収材料に比べて、軽量であるという利点もある。
【0045】
このように、本開示の電波吸収材料は、フルオロポリマーのみを含む場合であっても、優れた特性を示すものであるが、フルオロポリマー以外のその他の成分を含むこともできる。
【0046】
その他の成分としては、誘電体、磁性体などを挙げることができ、誘電体および磁性体を含む場合には、周波数帯域1MHz~100MHzの範囲の電波の電波吸収量を最適化することができ、また、フルオロポリマーが吸収する周波数帯域1MHz~100MHzの範囲の電波だけでなく、他の周波数帯域の電波を吸収することも可能となる。特に、フルオロポリマーとの相乗効果が期待でき、広帯域の電波を吸収できることから、本開示の電波吸収材料は、磁性体を含むことが好ましい。
【0047】
上記誘電体としては、カーボン(カーボンブラック、カーボングラファイト、カーボン繊維)、酸化チタンなどが挙げられる。上記磁性体としては、フェライト、鉄、鉄合金などが挙げられる。上記誘電体および上記磁性体の形状は特に限定されず、粒子、繊維などであってよい。
【0048】
上記鉄合金としては、純鉄、鉄・ケイ素合金、鉄・ケイ素・アルミ合金、鉄・クロム合金、鉄・ニッケル合金、鉄・クロム・ニッケル合金、鉄・コバルト合金、アモルファス合金などが挙げられる。
【0049】
上記鉄としては、カルボニル鉄などが挙げられる。
【0050】
また、上記フェライトとしては、マンガン亜鉛フェライト、マグネシウム亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅・亜鉛フェライト、マンガン・マグネシウム・亜鉛フェライト、マンガン・マグネシウム・アルミフェライト、イットリウム酸化鉄フェライト、マンガン・銅・亜鉛フェライトなどが挙げられる。
【0051】
本開示の電波吸収材料は、また、フルオロポリマー以外のポリマー、放熱剤、難燃剤などを含むこともできる。
【0052】
本開示の電波吸収材料は、用途に応じて種々の形状に成形されて提供される。成形方法は特に限定されず、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップニップ法、スプレーコート法、刷毛塗り法、浸漬法、インクジェットプリント法、静電塗装法、圧縮成形法、押出成形法、カレンダー成形法、トランスファー成形法、射出成形法、ロト成形法、ロトライニング成形法等が採用できる。
【0053】
本開示の電波吸収材料の形状としては、特に限定されず、シート等の形状であってよい。特に、本開示の電波吸収材料は、シートであることが好ましく、電波吸収シートであることがより好ましい。すなわち、本開示には、上記電波吸収材料から形成される電波吸収層を備える電波吸収シートも含まれる。また、被被覆物にシートを貼ったり、被塗装物に後述する溶液を塗布したりすることによって、被被覆物や被塗装物に電波吸収特性を付与することも可能である。
【0054】
上記シートの製造方法としては、特に限定されないが、たとえば、本開示で用いるフルオロポリマーを溶融押出成形する方法などが挙げられる。上記溶融押出成形は、250~380℃で行うことができる。上記溶融押出成形は、また、溶融押出成形機を使用して行うことができ、シリンダー温度を250~350℃、ダイ温度を300~380℃とすることが好ましい。
【0055】
押出成形により得られたシートを、さらに延伸して、延伸シートを得ることもできる。上記延伸は、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。
【0056】
上記シートの製造方法としては、また、本開示で用いるフルオロポリマーを、有機溶媒に溶解させて溶液を調製した後、該溶液を塗布することによっても製造可能である。本開示で用いるフルオロポリマーは、上述のとおり、低沸点の溶媒にも溶解させることができることから、この際に使用する溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;などの低沸点の汎用有機溶媒が好ましい。
【0057】
また、本開示の電波吸収材料が、誘電体、磁性体などのその他の成分を含む場合には、上記フルオロポリマーと、その他の成分と、有機溶媒とを混合してスラリーを調製した後、該スラリーを塗布することによって、シートを製造することができる。
【0058】
上記シートは、また、本開示の電波吸収材料から形成される電波吸収層と、他の層を備える積層シートであってもよい。すなわち、本開示には、上記電波吸収材料から形成される電波吸収層と、上記電波吸収層とは異なる他の層とを備える電波吸収シートも含まれる。
【0059】
上記積層シートおよび上記電波吸収シートにおける他の層としては、電波反射材料から形成される電波反射層が好ましい。上記電波反射材料としては、金属箔、金属蒸着フィルム、金属不織布、炭素繊維布、金属鍍金されたガラス繊維布などの、導電シートや導電フィルムが挙げられる。電波反射層の厚みは、好ましくは0.01~10mmである。
【0060】
上記シートは、また、上記電波吸収層と、上記の他の層とを接着させるための接着層を備えるものであってもよい。上記接着層は接着剤により形成できる。上記接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコン系接着剤などが挙げられる。
【0061】
上記シートにおける上記電波吸収層の厚みは、実用上許容される厚みであって、電波を十分に吸収できることから、好ましくは0.001~10mmであり、より好ましくは0.01~10mmであり、さらに好ましくは0.01~1mmであり、特に好ましくは0.1~0.5mmである。
【0062】
本開示の電波吸収材料は、特に、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収するために用いることができる。したがって、電子機器内部で発生するノイズを抑制するための電波吸収材料、電子機器から外部へ輻射される電磁波を抑制するための電波吸収材料、電子機器の外部からの電磁波の影響を低減するための電波吸収材料などとして、好適に利用することができる。たとえば、本開示の電波吸収材料は、ワイヤレス給電モジュールなどの電磁波の発生源の周辺に設置したり、発生源からの電磁波の影響を受ける電子部品に貼り付けたりして、使用することができる。
【0063】
上記の電子機器には、ワイヤレス給電モジュールも含まれる。ワイヤレス給電は、非接触で電力を伝送する技術であり、その原理は、非放射型と放射型とに分類できる。本開示の電波吸収材料は、特に、周波数が1MHz~100MHzの範囲の電波を吸収することから、非放射型のワイヤレス給電において発生するノイズ対策に有益である。非放射型は、さらに、電磁誘導型と磁気共鳴型とに分類できるが、本開示の電波吸収材料はいずれにも用いることができる。本開示の電波吸収材料を用いることにより、放射エミッションの増大や無線通信の受信感度の抑圧などの、ワイヤレス給電において発生するノイズにより生じる種々の問題を解決し得る。したがって、本開示において、上記電波吸収材料を、ワイヤレス給電モジュールから発生する電磁波を吸収することによって、ワイヤレス給電モジュールからの電磁波を遮蔽するために用いることが、好適な態様の一つである。
【0064】
本開示の電波吸収材料は、また、ワイヤレス給電用のアンテナの特性を向上させるための電波吸収材料、近距離無線通信用のアンテナの特性を向上させるための電波吸収材料としても有益である。
【0065】
本開示の電波吸収材料は、また、IC(集積回路)パッケージ、モジュール基板、電子部品に一体化した高誘電率層の形成、特に、多層型配線基板の内層キャパシタ層等として使用することも可能である。
【0066】
また、上述したフルオロポリマーの電波吸収材料としての使用も、本開示の一態様に含まれる。
【実施例
【0067】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0069】
<フルオロポリマーの単量体組成>
核磁気共鳴装置を用い、測定温度を(ポリマーの融点+20)℃として19F-NMR測定を行い、各ピークの積分値およびモノマーの種類によっては元素分析を適宜組み合わせて求めた。
【0070】
<膜厚>
デジタル測長機を用いて、基板に載せたフィルムを室温下にて測定した。
【0071】
実施例1
フルオロポリマーとして、40モル%のVdF単位および60モル%のTFE単位を含有するVdF/TFE共重合体を用いた。このVdF/TFE共重合体のペレットを、290~360℃で溶融押出成形機にて製膜し、厚みが80μmのシートを得た。このシートを、二軸延伸機にて70℃で4×4倍延伸し、厚みが5μmのシートを得た。
【0072】
得られた厚みが5μmのシートについて、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンス・アナライザとして、4291B RFインピーダンス・アナライザ 1MHz~1GHzを用い、テスト・フィクスチャとして、アジレント・テクノロジー社製の16453A 誘電体テスト・フィクスチャを用いて、25℃で、誘電率ε’と誘電正接(tanδ=ε”/ε’)を測定し、誘電損ε”を求めた。結果を図1に示す。
【0073】
実施例2
フルオロポリマーとして、40モル%のVdF単位および60モル%のTFE単位を含有するVdF/TFE共重合体を用いた。このVdF/TFE共重合体のペレットを、290~360℃で溶融押出成形機にて製膜し、厚みが140μmのシートを得た。得られたシートについて、実施例1と同様にして、誘電率とtanδを測定した。結果を図2に示す。
【0074】
実施例3
フルオロポリマーとして、40モル%のVdF単位および60モル%のTFE単位を含有するVdF/TFE共重合体を用いた。このVdF/TFE共重合体のペレットを、290~360℃で溶融押出成形機にて製膜し、厚みが230μmのシートを得た。得られたシートについて、実施例1と同様にして、誘電率とtanδを測定した。結果を図3に示す。
【0075】
実施例4
フルオロポリマーとして、80モル%のVdF単位および20モル%のTFE単位を含有するVdF/TFE共重合体を用いた。このVdF/TFE共重合体のペレットを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解させ、コーティング装置でキャスト製膜し、180℃で溶剤を揮発させることで、厚みが20μmのシートを得た。得られたシートについて、実施例1と同様にして、誘電率とtanδを測定した。結果を図4に示す。
【0076】
実施例5
フルオロポリマーとして、100モル%のVdF単位を含有するPVdFを用いた。このPVdFのペレットを、290~360℃で溶融押出成形機にて製膜し、厚みが8μmのシートを得た。得られたシートについて、実施例1と同様にして、誘電率とtanδを測定した。結果を図5に示す。
【0077】
図1図5は、横軸が周波数を示し、縦軸(左)がシートの誘電率ε’を示し、縦軸(右)が誘電損ε”(ε’とtanδの積)を示すグラフである。図1図5に示すように、実施例1~5で得られたシートは、いずれも、1MHz~100MHzの範囲において、誘電損ε”のピークを有している。また、1MHz~100MHzの範囲において、誘電率ε’は、なだらかに低下している。したがって、厚み等を設計することにより、所望の電波吸収特性を有する電波吸収シートの実現が期待できる。
【0078】
次に、本開示の一実施形態の電波吸収シートを、図6を用いて説明する。
【0079】
図6に示す電波吸収シート10は、フルオロポリマーから形成される電波吸収層を備える積層シートである。図6に示すように、電波吸収シート10は、電波吸収層12と、電波反射層14と、接着層16とを備えている。
【0080】
電波吸収層12は、電波吸収材料から形成されており、本実施形態では、実施例1で得られた電波吸収シートが用いられているが、その他にも、本開示で用いるフルオロポリマーの押出シート、本開示で用いるフルオロポリマーを含む溶液から形成された塗膜などが利用される。電波反射層14は、電波反射材料から形成されており、本実施形態では、電波吸収シートにアルミニウムを蒸着したアルミニウム薄膜である。
【0081】
電波吸収シート10では、電波吸収シートを他の部材に貼付できるように、接着層16がさらに設けられている。取り扱い性を考慮して、貼付するときにのみ、接着層16の貼付面が露出するように、貼付面に台紙(図示せず)を設けてもよい。
【0082】
そして、電波吸収シート10に照射された電波のうち、一部は電波吸収層12により吸収され、吸収されなかった電波は電波反射層14で反射される。したがって、電波吸収シート10は、電子機器のノイズ対策や、電子機器から外部へ輻射される電磁波の漏洩の防止、電子機器の外部からの電磁波の影響を低減するために用いることができ、たとえば、プリント基板やLSIの表面を覆うように設けることができる。
【0083】
また、電波吸収シート10は、ワイヤレス給電または近距離無線通信を行うためのアンテナコイルの周辺に配置することもでき、たとえば、アンテナコイルが設けられた樹脂基板の反対側の面に貼付することができる。また、アンテナコイルの周辺に設置される電子部品に貼付することもでき、また、アンテナコイルとアンテナコイルの周辺に設置される電子部品との間に配置することもできる。電波吸収シート10をこのように用いることによって、アンテナコイルから放射される電磁波を抑制できたり、アンテナの通信特性を高めることができたりする。
【0084】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6