(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】化粧料用経皮吸収抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/86 20060101AFI20240229BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240229BHJP
C08G 65/08 20060101ALI20240229BHJP
A61Q 15/00 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
A61K8/86
A61Q19/00
C08G65/08
A61Q15/00
(21)【出願番号】P 2020106738
(22)【出願日】2020-06-22
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】市川 晶子
(72)【発明者】
【氏名】関口 孝治
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083816(JP,A)
【文献】特開2014-196440(JP,A)
【文献】国際公開第2007/136067(WO,A1)
【文献】特表2003-507404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C08G 65/00-67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8.0の成分の経皮吸収を抑制する化粧料用経皮吸収抑制剤であって、
式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足することを特徴とする、化粧料用経皮吸収抑制剤。
Z-[O-(PO)
a-[(PO)
b/(EO)
c]-H]
n ・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~
6かつ1~
3個の水酸基を有する化合物から、全ての水酸基を除いた残基を示し、
nは、
前記化合物が有する前記水酸基の数であって、1~
3の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ前記オキシプロピレン基POの平均付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの平均付加モル数を示し、
aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+c≧10かつb/c=0.2~5であり、
(PO)
b/(EO)
cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが0.1≦x≦1であ
り、前記ランダム率xは(b+c)/(a+b+c)により算出される。)
5≦Mz/Mw≦60 ・・・ (2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荒れ肌においてもオクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8.0の成分の経皮吸収を抑制し、さらに、界面活性剤と併用した場合でも塗布時のひりひり感を緩和する化粧料用経皮吸収抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、製品の劣化を防止する目的で、防腐剤が使用されている。また、日焼け止めには、皮膚上に到達した紫外線のエネルギーを吸収することによって紫外線の皮膚への侵入を妨げる目的で、紫外線吸収剤が配合されている。しかし、これら防腐剤や紫外線吸収剤は、ひりひり感のような感覚刺激を生じる場合があった。特に荒れ肌では、皮膚バリア機能が低下しているためひりひり感を感じやすかった。
【0003】
このような感覚刺激を解決するためには、かかる成分の経皮吸収を抑制することが重要である。そのため、特許文献1では、紫外線吸収剤とポリプロピレングリコール又は極性油分又はポリブチレングリコールを配合することで敏感肌に対する皮膚刺激を緩和する手法が提案されているが、さらに、皮膚刺激を緩和する手法が求められている。このような化粧料は可溶化・乳化する目的で界面活性剤を添加するが、界面活性剤はかかる成分の浸透を促進する場合がある。そのような界面活性剤と併用する系では、荒れ肌では特にひりひり感を感じやすく、従来の手法では十分な効果を得られない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした背景から、荒れ肌でも吸収抑制効果を示し、さらに、界面活性剤と併用した場合でも塗布時のひりひり感を緩和する化粧料用経皮吸収抑制剤が求められる。
【0006】
本発明の課題は、荒れ肌でも吸収抑制効果を示し、界面活性剤と併用した場合でも塗布時のひりひり感を緩和する化粧料用経皮吸収抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ゲル浸透クロマトグラフィー測定で求められる分子量パターンが左右非対称であり、新規アルキルオキシド誘導体が、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8.0の成分の経皮吸収を抑制する化粧料用経皮吸収抑制剤であって、
式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足することを特徴とする化粧料用経皮吸収抑制剤にかかるものである。
Z-[O-(PO)a-[(PO)b/(EO)c]-H]n ・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~6かつ1~3個の水酸基を有する化合物から、全ての水酸基を除いた残基を示し、
nは、前記化合物が有する前記水酸基の数であって、1~3の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ前記オキシプロピレン基POの平均付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの平均付加モル数を示し、
aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+c≧10かつb/c=0.2~5であり、
(PO)b/(EO)cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが0.1≦x≦1であり、前記ランダム率xは(b+c)/(a+b+c)により算出される。)
5≦Mz/Mw≦60 ・・・ (2)
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規アルキルオキシド誘導体によれば、荒れ肌でも吸収抑制効果を示し、さらに、界面活性剤と併用した場合でも塗布時のひりひり感を緩和する化粧料用経皮吸収抑制剤を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明にて定義されるMz/Mwを説明するためのモデルクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は、2以上、5以下を表す。
【0012】
(アルキレンオキシド誘導体)
本発明のアルキルオキシド誘導体は、式(1)で示される化合物である。
【0013】
Zは、炭素数1~6であり、かつ1~3個の水酸基を有する化合物(Z(OH)n)から全ての水酸基を除いた残基であり、nは化合物(Z(OH)n)の水酸基の数で1~3である。
Zの炭素数が1であればメタノール、炭素数が2であればエタノール、エチレングリコール、炭素数が3であればプロピレングリコール、グリセリン、炭素数が4であればブタノール、炭素数が5であればトリメチロールプロパン、炭素数が6であればヘキシレングリコール等からすべての水酸基を除いた残基があげられる。Zの炭素数は1~6である。
化合物(Z(OH)n)としては、n=1であれば、メタノール、エタノール、ブタノール、n=2であればエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、n=3であればグリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。また、1~3個の水酸基を有する化合物として、これらの混合物を用いても良い。
【0014】
n=1の場合、式(1)において、Zは、R1である。R1は、炭素数1~6の炭化水素基である。R1で示される炭素数1~6の炭化水素基は、炭素と水素からなる官能基であり、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基から選ばれる1種であり、好ましくはアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数1~6のアルキル基またはアルケニル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が最も好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては直鎖でも分岐でも良いが、直鎖のものがより好ましい。炭素数1~6の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。R1で示される炭素数1~6の炭化水素基は1種のみでも、2種以上でもよい。
【0015】
POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基、a,bはそれぞれPO、EOの平均付加モル数を示す。aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+c≧10である。
【0016】
(PO)b/(EO)cは、POとEOがランダム付加してなるポリオキシアルキレン基を示し、POとEOのモル比(b/c)は0.2~5、POとEOのランダム率xが0.1≦x≦1である。
【0017】
a+b+cが10未満であると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。こうした観点から、a+b+cを10以上とするが、15以上とすることが更に好ましく,25以上が最も好ましい。
また、a+b+cが大きくなるにつれて粘度が上昇する。分散・配合のしやすさの観点から、a+b+cは150以下であることが好ましく、120以下であることが更に好ましく、100以下とすることが特に好ましい。
【0018】
また、PO、EOの全平均付加モル数n×(a+b+c)は、30以上とすることが好ましく、40以上とすることが更に好ましく、50以上とすることが最も好ましい。また、100以下とすることが好ましく、80以下とすることが最も好ましい。
b/cが0.2未満であると、化粧料組成物とした際にべたつきが生じる可能性がある。5を超えると、製剤安定性が悪くなる可能性がある。b/cは好ましくは0.25~3であり、より好ましくは0.33~2である。
【0019】
POとEOのランダム率xは、式(3)より求められる。
x=(b+c)/(a+b+c) ・・・(3)
ランダム率xは0.1≦x≦1とする。ランダム率xが0.1未満になると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。0.1以上とするが、0.5以上が更に好ましく、0.6以上とすることが更に好ましく、0.8以上とすることが特に好ましく、0.85以上が最も好ましい。
また、ランダム率xは1以下であるが、x<1であることが好ましく、0.99以下であることが更に好ましく、0.97以下であることが最も好ましい。
【0020】
(アルキレンオキシド誘導体のGPC特性)
本発明のアルキレンオキシド誘導体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって得られる分子量に規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。
【0021】
本発明の誘導体では、クロマトグラムから得られる重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが5≦Mz/Mw≦60である。
【0022】
図1のクロマトグラムのモデル図を参照しつつ、Mz/Mwの算出方法について更に説明する。横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる極大点を過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0023】
Mwは、分子量を重みとして用いた加重平均、Mzは、分子量の2乗を重みとして用いた加重平均である。Mwは高分子量の存在に影響を受け、MzはMwよりもさらに大きく高分子量の存在に影響を受ける。そのため本発明のアルキレンオキシド誘導体は
図1に示したクロマトグラムのようなMw、Mzが得られる。
【0024】
Mz/Mwが5より小さくなると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。Mz/Mwが60より大きくなると、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり粘度の上昇などが見られ、各製剤へ分散・配合しにくくなる。この観点から、Mz/Mwが60以下であることが好ましく、50以下であることがさらに好ましく、また、10以上であることが更に好ましく、30以上であることが特に好ましく、40以上であることが最も好ましい。
【0025】
本発明において、Mz/Mwを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX(登録商標) GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI-71s、ガードカラムとしてSHODEX KF-G、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0026】
本発明のアルキレンオキシド誘導体を製造する際には、好ましくは、開始剤として、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する)の存在下で、炭素数3のアルキレンオキシドすなわちプロピレンオキシドを開環付加させた後、プロピレンオキシドと炭素数2のアルキレンオキシドすなわちエチレンオキシドの混合物を開環付加させる。反応容器内に、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する開始剤とDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の攪拌下、プロピレンオキシドを開環付加させた後、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を連続もしくは断続的に添加し付加重合する。プロピレンオキシドやエチレンオキシド等のアルキレンオキシドは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
この時、アルキレンオキシドの平均供給速度に制限はないがアルキレンオキシドの仕込み量によって変化させることが望ましい。具体的にはアルキレンオキシドの全供給量の5~20wt%を供給する間の速度(単位時間あたりの供給量)をV1、アルキレンオキシドの全供給量の20~50wt%を供給する間の速度をV2、アルキレンオキシドの全供給量の50~100wt%を供給する間の速度をV3としたとき、V1/V2=1.1~2.0、V2/V3=1.1~1.5となるようにアルキレンオキシドの平均供給速度を制御することが好ましい。
【0027】
また、アルキレンオキシドを付加する反応温度は、50℃~150℃が好ましく、70℃~110℃がより好ましい。反応温度が150℃より高いと、触媒が失活するおそれがある。反応温度が50℃より低いと、反応速度が遅く生産性に劣る。
【0028】
本発明における開始剤としては、式(1)において、Z(OH)nとして、炭素数1~24かつ水酸基の数xが1~6の化合物もしくはそれら化合物にプロピレンオキシドを付加したものを使用することができる。開始剤としては、例えば、ブタノール、ブチルプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン、アルキルグリコシド、キシリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトールなどが挙げられる。ZがR1である場合には、開始剤としては、R1で示される炭素数1~24の炭化水素基を有する1価アルコール(R1OH)を使用することができる。
【0029】
開始剤およびアルキレンオキシドに含まれる微量の水分量については特に制限はないが、開始剤に含まれる水分量については、0.5wt%以下、アルキレンオキシドについては0.01wt%以下であることが望ましい。
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するアルキレンオキシド誘導体に対して、0.0001~0.1wt%が好ましく、0.001~0.05wt%がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入してもよいし、順次分割して導入してもよい。重合反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去はろ別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことが出来る。
【0030】
本発明におけるDMC触媒は公知のものを用いることができるが、たとえば、式(6)で表わすことができる。
Md[M’y(CN)z]e(H2O)f・(R)g
・・・(6)
式(6)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、d、e、yおよびzは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、fおよびgは、金属の配位数により変わる正の整数である。
【0031】
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などがあげられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0032】
有機配位子Rとしてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましくはtert-ブチルアルコールが配位したZn3[Co(CN)6]2である。
【0033】
本発明のアルキレンオキシド誘導体が経皮吸収抑制効果を発揮する化粧料の成分は、オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8.0である。こうした成分は、皮膚に吸収されやすく、このため本発明の作用効果が特に顕著となる。こうした観点から、オクタノール/水分配係数LogPO/Wを0~8.0とするが、0.0~6.0が好ましく、1.0~6.0が更に好ましい。
経皮吸収が抑制される化粧料の成分としては、防腐剤、紫外線吸収剤、香料等があげられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸メチルなどのパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール等があげられ、紫外線吸収剤としては、パラメトキシケイ皮酸エステル、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン等があげられ、香料としてはアセトイン、リモネン、シネオール等が挙げられる。
【0034】
(添加剤)
本発明の化粧料用経皮吸収抑制剤を含有する化粧料組成物に対しては、通常添加可能な添加剤を更に加えることができる。
【0035】
本発明の化粧料用経皮吸収抑制剤を含有する化粧料組成物は、常法に従って製造できる。また、その剤型は任意であり、透明系液体状、パール系液体状、ペースト状、クリーム状、ゲル状、固形状、エアゾール型スプレー、非エアゾール型のスプレー状として使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(製造例1:複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートK3Co(CN)6を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目濾過)を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(2回目濾過)を行い、固体を得た。
【0037】
さらに再度、この固体にtert-ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(3回目濾過)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0038】
(合成例1:実施例化合物A1の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと製造例1で得られた複合金属シアン化物錯体触媒0.03gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド176gを滴下し、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を測定したところ、1時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を90℃に保ちながら、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシド1054gとエチレンオキシド1164gの混合物を滴下した。添加終了後、90℃で1時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、ろ過を行った。得られた化合物1について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
ただし、ブタノールはKHネオケム製、プロピレンオキシドは住友化学製、エチレンオキシドは日本触媒製のものを用いた。
【0039】
(合成例2~5:実施例化合物A2~A4の合成)
出発原料、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの平均付加モル数、ランダム率以外は、合成例1と同様の方法で化合物を合成した。得られた実施例化合物A2~A4について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0040】
(合成例6:比較例化合物A’1の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと触媒としての水酸化カリウム6.0gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシド1230gとエチレンオキシド1164gの混合物を滴下した。添加終了後、110℃で1.5時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、反応物を5Lナスフラスコに移し、速やかに1N塩酸で中和し、窒素ガス雰囲気下で脱水後、ろ過を行った。
【0041】
合成例1~6のクロマトグラムから求められるMz/Mw、化合物の特性を表1に示す。ただし、水酸基価はJIS K-1557-1に準拠して測定したものであり、分子量は水酸基価より算出したものである。
【0042】
更に、比較例化合物として、市販品である、ユニオールD-2000(日油株式会社製、分子量2000のポリプロピレングリコール、PPG-2000と記す。)、ユニオールPB-4800(日油株式会社製、分子量4800のポリブチレングリコール、PBG-4800と記す。)を用いた。
【0043】
(実施例1~7、比較例1~7の調製)
各実施例、比較例組成物を調製した。表2、3に示した組成で原料を配合し、室温で均一になるまで撹拌混合することによって、液状の組成物を得た。
【0044】
(経皮吸収抑制試験)
得られた実施例、比較例組成物を用いて、下記方法に従い、経皮吸収率を測定した。なお、試験装置として、垂直型拡散セルを使用した。
1. 皮膚透過性試験用メンブレン(Strat-M、メルクミリポア社製)を垂直型拡散セルに、メンブレンの真皮構造側がレセプターセル側に位置するように取り付けた。
2. メンブレンの角層構造側に、上記調製した実施例、比較例組成物を約1mL滴下し、アルミ箔で覆い、固定した。
3. レセプターセルには純水を5mL満たした。
4. 実験の間、レセプターセルはスターラーでセル内の純水を撹拌させ、レセプターセルを覆っているウォータージャケットには、ヒーター/サーキュレーターにより、37℃の温水を循環させることで、レセプターセル内の温度を37℃で一定に保った。
5. レセプターセル内の温度が37℃になった時点から、1時間後に、レセプターセル2のサンプリング・ポートより生理食塩水を400μLサンプリングし、その後同量の純水を戻し、液量を一定にした。
6. サンプリング液中の吸収成分量をHPLCによって測定した。測定結果について、下記式により、ブランクに対する相対経皮吸収率(%)を算出した。
1時間後のブランクに対する経皮吸収率=
(1時間後の実施例および比較例の経皮吸収量)/(1時間後のブランクの経皮吸収量)×100
【0045】
得られたブランクに対する相対経皮吸収率について、下記の基準で判定し、試験結果を表2、3に記載した。
◎: ブランクに対する相対経皮吸収率が、40%未満である
○: ブランクに対する相対経皮吸収率が、40%以上、55%未満である
△: ブランクに対する相対経皮吸収率が、55%以上、70%未満である
×: ブランクに対する相対経皮吸収率が、70%以上である
【0046】
(荒れ肌へ塗布した時のひりひり感)
モニターの皮膚上に荒れ肌を再現し、塗布時のひりひり感について官能評価を行った。モニター10名の腕に、2%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液をパッチテスト用テープへ0.2g滴下し、前腕内側に貼り付け3時間閉塞した後、ぬるま湯で洗浄してタオルで拭くことで、荒れ肌を再現した。実施例、比較例組成物を腕に塗布し、官能評価を行った。塗布時のひりひり感について、下記評点基準により3段階で評価した。10名の合計点を算出し、以下の評価基準により評価した。
評点基準
3点: ひりひり感を感じない
2点: ひりひり感をほとんど感じない
1点: ひりひり感を感じる
評価基準
◎: 25点以上
○: 20点以上、25未満
△: 20点未満
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
実施例1~7より、本発明の実施例組成物は、経皮吸収の抑制効果、および塗布時のひりひり感の抑制効果に優れていた。
【0051】
これに対して、比較例1~7から明らかなように、本発明のアルキレンオキシド誘導体に該当しない比較例化合物A'1や、比較例物質は、経皮吸収の抑制効果、および塗布時のひりひり感の抑制効果を満たさなかった。
【0052】
(実施例8)
デオドラントシート 質量%
実施例化合物1 3.0
プロピレングリコール 1.0
グリセリン 1.0
エタノール 25
フェノキシエタノール 0.5
PEG-60 水添ひまし油 3.0
メントール 0.1
メチルポリシロキサン 0.2
シリカ 1.5
タルク 1.0
ユーカリエキス 0.02
イソプロピルメチルフェノール 0.1
クロルヒドロキシアルミニウム 1.0
香料 適量
水 残部
調製方法:
全成分を均一になるまで撹拌し、調製終了とする。
結果:
経皮吸収の抑制効果、および塗布時のひりひり感の抑制効果に優れていた。