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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】車椅子固定装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/08 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
A61G3/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020130980
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027155
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(74)【代理人】
【識別番号】100181434
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 正明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐貴
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-136657(JP,A)
【文献】米国特許第04257644(US,A)
【文献】特開平04-040950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/00-08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア上に搭載される車椅子を前記フロアに対して固定する車椅子固定装置であって、
前記フロアに形成されて、前記フロアの下方の収納空間を上方へ開放可能なフロア開口と、
前記フロア開口を開閉可能な蓋本体部と、前記蓋本体部を前記フロアに対して傾動可能に連結する基端側の連結部とを有する蓋部材と、
前記フロア開口の下方で前記フロア側に支持される基端側の支持部と、前記車椅子に係止可能な先端側の係止部と、前記支持部と前記係止部との間に介在するリトラクタとを有し、前記収納空間に収納可能な車椅子固定ベルトと、
前記フロアの骨組みに支持されて前記収納空間に配置されるフロア側係止部と、を備え、
前記蓋部材の前記蓋本体部は、前記車椅子固定ベルトを前記収納空間に収納した状態で前記フロア開口を閉止可能であり、
前記フロア開口を閉止した状態の前記蓋部材の前記連結部は、前記蓋本体部の上面よりも上方へ突出せず、
前記車椅子固定ベルトの前記支持部は、前記フロア側係止部に連結されて前記フロア側に支持され、
前記車椅子固定ベルトを前記収納空間に収納した状態で、前記車椅子固定ベルトの前記係止部は、前記フロア側係止部に係止可能である
ことを特徴とする車椅子固定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車椅子固定装置であって、
前記収納空間の前後左右及び下方を区画して上方へ開放される有底箱状に成形され、前記フロア開口の下方に配置されて前記フロアに対して固定される収納箱を備えた
ことを特徴とする車椅子固定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車椅子固定装置であって、
先端側にシートベルト側係止部を有し、基端側が車体側に支持され、前記車椅子に着座する乗員の身体を保持可能な車椅子乗員用シートベルトを備え、
前記車椅子乗員用シートベルトの前記シートベルト側係止部は、前記フロア側係止部に係止可能である
ことを特徴とする車椅子固定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車椅子固定装置であって、
前記フロアの前記骨組みに固定されて前記収納空間内へ突出するブラケットを備え、
前記フロア側係止部は、上下方向と交叉する軸を中心として前記ブラケットに傾動可能に支持される
ことを特徴とする車椅子固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車椅子固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車椅子固定装置が記載されている。車椅子固定装置は、ベルトと、ベルトを巻き取る巻取器と、ベルトの先端に設けられた車椅子用フックと、巻取器に取り付けられた床用フックとを備える。バスの床に設定された車椅子スペースの中央に配置される車椅子は、前部フレームと前方中央の床埋込式フックとが前部ベルトを介して連結されると共に、後部フレームと後方両側の床埋込式フックとが一対の車椅子固定装置を介して連結されてバスの床に固定される。
【0003】
特許文献2には、車いす固定装置が記載されている。車いす固定装置は、車いすのフレームの前部を固定する固定機構と、車いすのフレームの後部を拘束する拘束機構とにより構成されている。拘束機構は、リトラクタ式のもので構成する。リトラクタ本体内には、リトラクタベルトが巻き取られた状態で保持されている。リトラクタ本体には、車いすのフレームに係止されるフックが固定ブラケット及び軸部を介して設けられている。リトラクタベルトの先端には、円形リングが固定されており、円形リングは、フロアに固定されたアンカーに支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-23959号公報
【文献】特開2012-210312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車椅子固定装置では、車椅子の後部をバスの床に固定する際に、車椅子固定装置を取り出して、車椅子固定装置の一方を車椅子側に係止し、その後、車椅子固定装置の他方を床側に係止するので、手間が掛かり車椅子の固定作業が煩雑になる可能性がある。一方、特許文献2に記載の車いす(車椅子)固定装置のように、拘束機構の一方側をフロアに固定しておき、車椅子をフロアに固定する際に拘束機構の他方側を車椅子に係止する構造では、車椅子を搭載しない状態でフロアを使用する際にも、拘束機構やアンカー等がフロア上に突出する可能性があり、車椅子の移動の際に拘束機構やアンカー等が邪魔になってしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、車椅子をフロアに対して固定する際の固定作業を容易に行うことができ、且つ車椅子を床に固定しない状態でのフロア上の凹凸を抑えることが可能な車椅子固定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、車両のフロア上に搭載される車椅子をフロアに対して固定する車椅子固定装置であって、フロア開口と蓋部材と車椅子固定ベルトとフロア側係止部とを備える。フロア開口は、フロアに形成されて、フロアの下方の収納空間を上方へ開放可能である。蓋部材は、フロア開口を開閉可能な蓋本体部と、蓋本体部をフロアに対して傾動可能に連結する連結部とを有する。車椅子固定ベルトは、フロア開口の下方でフロア側に支持される基端側の支持部と、車椅子に係止可能な先端側の係止部と、支持部と係止部との間に介在するリトラクタとを有し、収納空間に収納可能である。フロア側係止部は、フロアの骨組みに支持されて収納空間に配置される。蓋部材の蓋本体部は、車椅子固定ベルトを収納空間に収納した状態でフロア開口を閉止可能である。フロア開口を閉止した状態の蓋部材の連結部は、蓋本体部の上面よりも上方へ突出しない。車椅子固定ベルトの支持部は、フロア側係止部に連結されてフロア側に支持される。車椅子固定ベルトを収納空間に収納した状態で、車椅子固定ベルトの係止部は、フロア側係止部に係止可能である。
【0008】
上記構成では、車椅子固定ベルトは、フロア開口の下方でフロアに支持される基端側の支持部と、車椅子に係止可能な先端側の係止部とを有し、収納空間に収納可能である。そして、蓋部材の蓋本体部は、車椅子固定ベルトを収納空間に収納した状態でフロア開口を閉止可能である。このため、車椅子をフロアに対して固定する際には、フロア開口を閉止する蓋部材の蓋本体部を上方へ傾動させてフロア開口を開放し、車椅子固定ベルトを収納空間からフロア開口を介してフロア上に引き出して、車椅子固定ベルトの係止部を車椅子に係止する。
【0009】
このように、車椅子をフロアに対して固定する際には、車椅子固定ベルトを収納空間から引き出して係止部を車椅子に係止すればよいので、例えばフロアに対して連結されていないベルトの両端に係止部を設け、車椅子をフロアに対して固定する際にベルトの一端の係止部をフロア側に係止し、他端の係止部を車椅子に係止する場合とは異なり、車椅子をフロアに対して固定する際の固定作業を容易に行うことができる。
【0010】
また、車椅子固定ベルトは、フロア開口の下方の収納空間に収納可能であるので、車椅子をフロアに対して固定しない時(以下、「車椅子非固定時」という。)に車椅子固定ベルトを収納空間に収納することができ、車椅子非固定時のフロア上への車椅子固定ベルトの突出を防止することができる。
【0011】
また、蓋部材の蓋本体部は、車椅子固定ベルトを収納空間に収納した状態でフロア開口を閉止可能であるので、車椅子非固定時にフロア開口を蓋部材で閉止することによって、フロア開口部分のフロアの凹みを蓋部材によって平坦にすることができる。
【0012】
また、フロア開口を閉止した状態の蓋部材の連結部は、蓋本体部の上面よりも上方へ突出しないので、フロア開口を蓋部材によって閉止した状態で、蓋部材の連結部による上方への段差の発生を抑えることができる。
【0013】
従って、車椅子をフロアに対して固定する際の固定作業を容易に行うことができ、且つ車椅子非固定時でのフロア上の凹凸を抑えることができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の車椅子固定装置であって、収納箱を備える。収納箱は、収納空間の前後左右及び下方を区画して上方へ開放される有底箱状に成形され、フロア開口の下方に配置されてフロアに対して固定される。
【0015】
上記構成では、収納箱は収納空間の前後左右及び下方を区画する。このため、収納空間に収納した状態の車椅子固定ベルトの前後左右及び下方は、収納箱によって覆われるので、車椅子固定ベルトを収納箱によって保護することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、上記第1の態様または上記第2の態様の車椅子固定装置であって、車椅子乗員用シートベルトを備える。車椅子乗員用シートベルトは、先端側にシートベルト側係止部を有し、基端側が車体側に支持され、車椅子に着座する乗員の身体を保持可能である。車椅子乗員用シートベルトのシートベルト側係止部は、フロア側係止部に係止可能である。
【0017】
上記構成では、車椅子乗員用シートベルトのシートベルト側係止部を係止可能なフロア側係止部は、フロア開口の下方の収納空間に配置される。すなわち、フロア側係止部は、車椅子固定ベルトを収納する収納空間に配置されるので、フロア開口とは異なるフロア側係止部用の他の開口等をフロアに設けなくてもよい。このため、フロア開口と、フロア側係止部用の他の開口とをフロアに設ける場合とは異なり、フロア上の開口の数を減らすことができる。
【0018】
また、収納空間の上方のフロア開口は、蓋部材の蓋本体部によって閉止可能であるので、フロア側係止部をフロア側に設けても、車椅子非固定時でのフロア上の凹凸を抑えることができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、上記第3の態様の車椅子固定装置であって、フロアの骨組みに固定されて収納空間内へ突出するブラケットを備える。フロア側係止部は、上下方向と交叉する軸を中心としてブラケットに傾動可能に支持される。
【0020】
上記構成では、フロア側係止部は、上下方向と交叉する軸を中心としてフロアに傾動可能に支持される。すなわち、フロア側係止部は、上下方向に傾動可能であるので、車椅子乗員用シートベルトのシートベルト側係止部を係止した状態での上下方向の振動等をフロア側係止部の傾動によって吸収することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、車椅子をフロアに対して固定する際の固定作業を容易に行うことができ、且つ車椅子を床に固定しない状態でのフロア上の凹凸を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る車椅子固定装置を適用する車両の車室の車椅子配置スペースの斜視図である。
図2図1の車幅方向内側からの側面図である。
図3図2の平面図である。
図4図3の後側車椅子固定装置の拡大図である。
図5図4のV-V矢視断面図である。
図6】後側車椅子固定装置の蓋部材を省略した状態の斜視図である。
図7】シャックルの取付状態を示す平面図である。
図8図7のシャックルの車幅方向内側からの側面図である。
図9】車椅子乗員用シートベルトの前面図である。
図10】フロアに対して車椅子を固定し、車椅子の乗員を保持した状態の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、FRは車両の前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、前後方向は車両の前後方向を意味し、左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0024】
図1図3に示すように、本実施形態では、車両1(例えばバス)のフロア2上の所定のスペース3(以下、「車椅子配置スペース3」という。)に載置された車椅子70を、前側1箇所の前側車椅子固定装置4と、後側2箇所の左右の後側車椅子固定装置(車椅子固定装置)30とによってフロア2に対して固定する。本実施形態では、本開示に係る車椅子固定装置を、左右の後側車椅子固定装置30に適用している。なお、左右の後側車椅子固定装置30は、車椅子配置スペース3内の後部の領域に左右に略対称的に設けられ、略同様の構成を有するため、以下では、車幅方向内側(本実施形態では、左側)の後側車椅子固定装置30について説明し、車幅方向外側の後側車椅子固定装置30の説明を省略する。
【0025】
フロア2は、前後方向に延びる複数の縦根太6(図2には1本の縦根太6が図示されている。)と、車幅方向に延びる複数の横根太7(図6及び図7参照)と、縦根太6及び横根太7の上面に固定されるフロアパネル8とを有し、車室9の下方を区画する。縦根太6と横根太7とは、格子状に組み合わされて互いに固定され、フロア2の骨組みとして機能する。本実施形態では、車椅子配置スペース3は、フロア2上の車幅方向一側(右側)に設定される。なお、図7では、1本の横根太7が図示されている。
【0026】
前側車椅子固定装置4は、車椅子70を前方から支持するための装置であって、ベルト(図示省略)と、該ベルトを巻き取り可能なリトラクタ10と、ベルトの先端に取り付けられた車椅子用フック11とを有し、車椅子配置スペース3の前方の椅子5の脚部5aに固定される。椅子5は、フロア2に固定されている。車椅子用フック11は、車椅子70のフレーム71の所定の位置に係止可能である。前側車椅子固定装置4は、車椅子用フック11を車椅子70のフレーム71の所定の位置に係止した状態で、車椅子70を前方から支持する。例えば、車椅子用フック11を車椅子70のフレーム71の所定の位置に係止した状態で、ベルトをリトラクタ10で巻き取るなどして、ベルトを車椅子70と椅子5との間で張った状態にして、車椅子70の後方への移動を規制する。なお、リトラクタ10の巻取り方式は、手動巻取り式または自動巻き取り式のいずれであってもよい。
【0027】
図3図6に示すように、後側車椅子固定装置30は、フロア2のフロアパネル8に形成されたフロア開口31と、フロア開口31の下方に配置される収納箱32と、フロア開口31を開閉可能な蓋部材33と、収納箱32内に配置されるシャックル(フロア側係止部)34と、収納箱32内に収納可能な車椅子固定ベルト35と、車椅子乗員用シートベルト36(図2及び図9参照)とを備える。なお、図6では、蓋部材33及びフロア2のフロアパネル8の図示を省略している。
【0028】
フロア開口31は、フロア2のフロアパネル8の下方の収納空間57(本実施形態では、収納箱32の内部に区画される空間。)を上方へ開放する開口であって、車椅子配置スペース3内の後部の領域に設けられる。本実施形態では、フロア開口31は、後述する収納箱32の上方開口41と略同じ位置(収納箱32の上方開口41の径方向の僅かに外側)に位置する。フロア開口31は、フロア2の所定の縦根太6の車幅方向内側、且つ所定の横根太7の前方の空間のうち、上記所定の縦根太6と上記所定の横根太7との角部の上方に配置される(図6の収納箱32の上方開口41の径方向の僅かに外側)。
【0029】
図4図6に示すように、収納箱32は、上方へ開口する有底箱状に形成され、前板部32aと後板部32bと左右の側板部32c,32dと底板部32eとによって構成され、フロア開口31よりも下方に配置される。本実施形態では、収納箱32には、フランジ39が一体成形される。収納箱32は、車椅子固定ベルト35を収納可能な収納空間57を、前板部32aと後板部32bと左右の側板部32c,32dと底板部32eとによって区画する。すなわち、前板部32aは収納空間57の前方を、後板部32bは収納空間57の後方を、左右の側板部32c,32dは収納空間57の左右の両側を、底板部32eは収納空間57の下方を区画する。収納箱32の上方の上方開口41は、前板部32a、後板部32b、及び左右の側板部32c,32dの上端縁の内側に区画され、フロア開口31と略同じ位置(フロア開口31の径方向の僅かに内側でフロア開口31に近接する位置)に配置される。後板部32bの上部の領域には、収納空間57を後方の上記所定の横根太7側へ開放する開口38が形成される。フランジ39は、収納箱32の前板部32a、後板部32b、及び左右の側板部32c,32dの上端縁から連続して上方開口41の径方向の外側へ向かって延びる。フランジ39は、フロア開口31の周縁のフロア2の上面2a(フロアパネル8の上面)に載置され、フロアパネル8に対して固定される。なお、本実施形態では、収納箱32にフランジ39を一体成形したが、フランジ39を設けなくてもよく、収納箱32をフロア2に対して他の方法で固定(例えば直接的に固定)してもよい。
【0030】
図4及び図5に示すように、蓋部材33は、収納箱32の上方開口41を開閉可能な蓋本体部37と、蓋本体部37の一端(基端)をフロア2に対して傾動可能に連結するゴムヒンジ(連結部)40とを有する。蓋本体部37は、板状に成形され、収納箱32の上方開口41よりも僅かに小さい。蓋本体部37は、収納箱32の上方開口41を開閉することによってフロア開口31を開閉する。蓋本体部37の一端(本実施形態では、車幅方向外側の一端。)には、ゴムヒンジ40が固定される。蓋本体部37の車幅方向の他端側には、蓋本体部37を傾動させる際に作業者が指を挿入可能な指挿入口42が形成される。ゴムヒンジ40は、蓋本体部37に対して固定される蓋本体側固定部40aと、収納箱32の右側の側板部32dの上端部に固定されるフロア側固定部40bと、蓋本体側固定部40aの上端とフロア側固定部40bの上端とを連結する変形可能なヒンジ軸部40cとを一体的に有する。本実施形態では、ゴムヒンジ40の蓋本体側固定部40aは、フロア開口31を閉止した状態(以下、「蓋閉止状態」という。)の蓋本体部37の下面に対してブラケット58を介して固定される。ゴムヒンジ40のフロア側固定部40bは、収納箱32に固定されることによって、収納箱32及びフランジ39を介してフロア2側に支持される。すなわち、ゴムヒンジ40は、収納箱32及びフランジ39を介して蓋本体部37をフロア2に対して傾動可能に連結する。収納箱32の前板部32a、後板部32b、及び左側の側板部32cの上端部には、複数のストッパ部材43が固定される。複数のストッパ部材43は、蓋閉止状態で蓋本体部37の下面に下方から当接し、蓋本体部37の下方への傾動を規制する。蓋閉止状態では、蓋本体部37の上面37aは、フランジ39の上面39a(本実施形態では、フロア2の上面2aよりも僅かに上方)と略同じ高さ位置に配置される。また、蓋閉止状態では、ゴムヒンジ40の蓋本体側固定部40a及びフロア側固定部40bは蓋本体部37よりも下方に位置し、ゴムヒンジ40のヒンジ軸部40cの上端44は、蓋本体部37の上面37aと略同じ高さ位置に位置する。すなわち、蓋閉止状態のゴムヒンジ40は、蓋本体部37の上面37aよりも上方へ突出しない。蓋部材33の蓋本体部37を、蓋閉止状態からヒンジ軸部40cを軸として上方へ傾動させると、収納箱32の上方開口41が開放されることによってフロア2のフロア開口31が開放された状態(以下、「蓋開放状態」という。)となり、収納空間57が上方へ開放される。なお、図6では、ストッパ部材43の図示を省略している。
【0031】
図6図8に示すように、シャックル34は、フロア2(本実施形態では、上記所定の横根太7)に対して傾動自在に支持される部材であって、環状に形成される。シャックル34は、ブラケット45を介して上記所定の横根太7に支持される。ブラケット45は、収納箱32の後板部32bの開口38の後方の上記所定の横根太7に固定され、後板部32bの開口38から収納空間57内へ突出する。ブラケット45は、車幅方向(上下方向と交叉する方向)に延びる軸(軸芯)を中心として、シャックル34の後部側を回転可能に支持する。シャックル34は、収納空間57に配置され、前端側が上下に傾動可能となっている。シャックル34及びブラケット45は、フロア開口31の下方に位置し、蓋閉止状態の蓋部材33の蓋本体部37の下面に当接しない状態で収納空間57に収納される。なお、図7では、フロア2のフロアパネル8及びフランジ39の図示を省略している。
【0032】
図6に示すように、車椅子固定ベルト35は、フロア側連結部(支持部)46と、フロア側連結部46に一体的に設けられるリトラクタ47と、帯状のベルト本体48と、ベルト本体48の先端に設けられる車椅子用フック(係止部)49とを有する。フロア側連結部46は、車椅子固定ベルト35の基端側に設けられてシャックル34に連結され、シャックル34及びブラケット45を介してフロア2側に支持される。リトラクタ47は、ベルト本体48を巻き取り可能な装置であって、フロア側連結部46に一体化されている。ベルト本体48は、リトラクタ47から引き出し可能に、リトラクタ47に巻き取られている。車椅子用フック49は、車椅子70のフレーム71(図10参照)の所定の位置に係止可能なフック(例えばS型金具)であって、車椅子固定ベルト35の先端側に設けられる。車椅子用フック49は、ベルト本体48のうちリトラクタ47に支持されている側とは反対側の端部に連結される。車椅子固定ベルト35は、収納空間57に収納可能である(図6に図示した状態)。図6では、車椅子用フック49をシャックル34に係止した状態で車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納している。蓋閉止状態の車椅子固定ベルト35は、フロア開口31の下方に位置し、蓋部材33の蓋本体部37の下面に当接しない状態で収納空間57に収納される。すなわち、蓋部材33の蓋本体部37は、車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納した状態でフロア開口31を閉止可能となっている。車椅子70をフロア2に固定しない車椅子非固定時には、車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納した状態で、蓋部材33の蓋本体部37を蓋閉止状態にしている。なお、リトラクタ47の巻取り方式は、手動巻取り式または自動巻き取り式のいずれであってもよい。
【0033】
図9及び図10に示すように、車両1の車幅方向の一側(本実施形態では、右側)で起立して車室9の上記一側を区画するサイドパネル12には、ブラケット50及び保持フック56が固定される。ブラケット50は、サイドパネル12の車幅方向内側面12aに固定される固定部51と、固定部51から車幅方向内側へ延びるリトラクタ支持部52とを有し、フロア2の車椅子配置スペース3に載置した状態の車椅子70の座面72よりも低い位置に配置される。リトラクタ支持部52は、前後方向と交叉する板状に形成される。保持フック56は、車椅子乗員用シートベルト36の後述するシートベルトフック55を係止可能なフックであって、サイドパネル12の車幅方向内側面12aから車幅方向内側の上方へ延びる棒状に形成され、ブラケット50の固定部51よりも上方のサイドパネル12の車幅方向内側面12aに固定される。
【0034】
図9及び図10に示すように、車椅子乗員用シートベルト36は、車椅子70に着座する乗員の身体を車体側へ保持するためのシートベルトであって、車椅子70をフロア2に対して固定した状態で使用する。車椅子乗員用シートベルト36は、ブラケット50を介してサイドパネル12に支持される。車椅子乗員用シートベルト36は、ブラケット50のリトラクタ支持部52の前面に固定されるリトラクタ53と、リトラクタ53に引き出し可能に巻き取られたベルト本体54と、ベルト本体54の先端に設けられたシートベルトフック(シートベルト側係止部)55とを有する。シートベルトフック55は、フロア2側のシャックル34に係止可能となっている。車椅子70の乗員の身体を車椅子乗員用シートベルト36によって車体側へ保持しないシートベルト非使用時には、図9の矢印で示すように、シートベルトフック55を、サイドパネル12側の保持フック56に係止しておく。なお、図2では、車椅子乗員用シートベルト36のベルト本体54及びシートベルトフック55の図示を省略している。また、リトラクタ53の巻取り方式は、手動巻取り式または自動巻き取り式のいずれであってもよい。
【0035】
図10に示すように、車椅子70をフロア2に固定する場合には、先ず、車椅子70をフロア2の車椅子配置スペース3(図3参照)に載置する。次に、前側車椅子固定装置4(図2参照)の車椅子用フック11を車椅子70のフレーム71の所定の位置に係止し、車椅子70の後方への移動を規制する。次に、左右の後側車椅子固定装置30の蓋部材33の蓋本体部37を開放して蓋開放状態にし、車椅子固定ベルト35の車椅子用フック49をフロア開口31からフロア2上へ引っ張ってベルト本体48をリトラクタ47から引き出し、車椅子用フック49をフロア2上の車椅子70のフレーム71の所定の位置に係止し、車椅子70の前方への移動を規制する。これにより、車椅子70がフロア2の車椅子配置スペース3に配置された状態でフロア2に対して固定される。最後に、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を前上方へ引っ張って、ベルト本体54をリトラクタ53から引き出して車椅子70の乗員の腰の前方を通し、その後、シートベルトフック55を車幅方向内側の後側車椅子固定装置30のシャックル34に係止する。これにより、車椅子70に着座する乗員の身体を車体側へ保持することができる。
【0036】
上記のように構成された後側車椅子固定装置30では、車椅子70をフロア2に固定しない車椅子非固定時には、車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納している。そして、車椅子70をフロア2に固定する際には、車椅子固定ベルト35の車椅子用フック49を収納空間57からフロア2上へ引き出して車椅子70のフレーム71に係止する。このため、例えば、車椅子70をフロア2に固定する際に、所定の収納場所から車椅子固定ベルトを取り出してきて、係る車椅子固定ベルトの一端の係止部をフロア2側に係止し、他端の係止部を車椅子70側に係止する場合とは異なり、車椅子70をフロア2に対して固定する際の固定作業を容易に行うことができる。
【0037】
また、車椅子固定ベルト35は、フロア開口31の下方の収納空間57に収納可能であるので、車椅子非固定時に車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納することができ、車椅子非固定時のフロア2上への車椅子固定ベルト35の突出を防止することができる。
【0038】
また、蓋部材33の蓋本体部37は、車椅子固定ベルト35を収納空間57に収納した状態でフロア開口31を閉止可能であるので、車椅子非固定時にフロア開口31を蓋部材33で閉止することによって、フロア開口31部分のフロア2の凹みを蓋部材33によって平坦にすることができる。
【0039】
また、蓋閉止状態のゴムヒンジ40は、蓋本体部37の上面37aよりも上方へ突出しないので、蓋閉止状態で蓋部材33のゴムヒンジ40(蓋本体部37とフロア2とを傾動可能に連結する部分)による上方への段差の発生を確実に防止することができる。
【0040】
また、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を係止するためのシャックル34を、車椅子固定ベルト35を収納する収納空間57に配置している。このため、シートベルトフック55を係止するためのシャックル34専用の開口(フロア開口31とは異なる開口)をフロア2に設けなくてもよいので、フロア開口31とは別にシャックル34専用の開口を設ける場合とは異なり、フロア2上の開口の数を減らすことができ、フロア2上の凹凸を抑えることができる。
【0041】
また、フロア開口31を蓋部材33の蓋本体部37によって閉止可能であるので、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を係止するためのシャックル34をフロア2に設けても、車椅子非固定時でのフロア2上の凹凸を抑えることができる。
【0042】
従って、本実施形態によれば、車椅子70をフロア2に対して固定する際の固定作業を容易に行うことができ、且つ車椅子非固定時でのフロア2上の凹凸を抑えることができる。
【0043】
また、収納箱32は、車椅子固定ベルト35を収納可能な収納空間57の前後左右及び下方を区画する。このため、収納空間57に収納した状態の車椅子固定ベルト35の前後左右及び下方は、収納箱32によって覆われるので、収納空間57に収納した状態の車椅子固定ベルト35を収納箱32によって保護することができる。
【0044】
また、シャックル34は、車幅方向に延びる軸(軸芯)を中心としてフロア2側に傾動可能に支持され、上下方向に傾動可能である。このため、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55をシャックル34に係止した状態での上下方向の振動等を、シャックル34の傾動によって吸収することができる。
【0045】
また、車椅子固定ベルト35をフロア2側へ連結するシャックル34を、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を係止するシャックル34として兼用しているので、部品点数を軽減することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、シャックル34を、車幅方向に延びる軸(軸芯)を中心として傾動可能としたが、これに限定されるものではなく、上下方向と交叉する他の方向(例えば前後方向)に延びる軸を中心として傾動可能としてもよい。
【0047】
また、本実施形態では、シャックル34をフロア2側に傾動可能に設けたが、これに限定されるものではなく、シャックル34をフロア2側に固定的に設けてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を係止するためのシャックル(フロア側係止部)34を、車椅子固定ベルト35を収納するための収納空間57に配置したが、これに限定されるものではない。例えば、車椅子乗員用シートベルト36のシートベルトフック55を係止するためのフロア側係止部を、車椅子固定ベルト35をフロア2側へ連結するシャックル34とは別に、フロア2または他の場所に設けてもよい。
【0049】
また、本実施形態では、車椅子乗員用シートベルト36を、サイドパネル12側から支持したが、これに限定されるものではなく、サイドパネル12とは異なる他の部材(例えば、フロア2に起立するポール等)側から支持してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、収納空間57を区画する収納箱32を設けたが、収納箱32を設けなくてもよい。すなわち、収納空間57の前後左右及び下方のいずれか一方、或いは収納空間57の前後左右及び下方の全てが開放されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、蓋部材33の蓋本体部37の車幅方向外側の一端にゴムヒンジ(連結部)40を設けたが、連結部を設ける位置はこれに限定されるものではなく、例えば、蓋本体部37の車幅方向内側または前側または後側の一端に設けてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、蓋閉止状態でのゴムヒンジ40のヒンジ軸部40cの上端44を、蓋本体部37の上面37aと略同じ高さ位置に配置したが、これに限定されるものではなく、蓋本体部37の上面37aよりも下方に配置してもよい。
【0053】
また、本実施形態では、蓋部材33の蓋本体部37を、フロア2に対してゴムヒンジ(連結部)40によって傾動可能に連結したが、これに限定されるものではなく、フロア2に対して他の部材(例えば、金属製のヒンジ)によって傾動可能に連結してもよい。
【0054】
また、本実施形態では、蓋閉止状態の蓋部材33の蓋本体部37の下方への傾動を、複数のストッパ部材43によって規制したが、これに限定されるものではなく、他の方法で規制してもよい。
【0055】
また、本実施形態では、車椅子固定ベルト35のフロア側連結部46を、シャックル34及びブラケット45を介してフロア2側から支持したが、これに限定されるものではない。例えば、フロア側連結部46を収納箱32に固定することによって、収納箱32を介してフロア側連結部46をフロア2側から支持してもよいし、或いはフロア側連結部46をフロア2に固定することによって、フロア側連結部46をフロア2側から支持してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、車椅子固定ベルト35を、フロア2の横根太7から支持したが、これに限定されるものではなく、フロア2の縦根太6またはフロアパネル8から支持してもよい。
【0057】
また、本実施形態では、車椅子固定ベルト35のリトラクタ47をフロア側連結部46側に設けたが、車椅子用フック49側に設けてもよい。
【0058】
また、本実施形態では、フロア2を、複数の縦根太6と複数の横根太7とフロアパネル8とによって構成したが、これに限定されるものではなく、車室9の下方を区画するフロア2であれば他の構成であってもよい。
【0059】
また、本実施形態では、車椅子配置スペース3を、フロア2のフロアパネル8上の右側(車幅方向一側)に設定したが、これに限定されるものではなく、左側(車幅方向他側)に設定してもよい。
【0060】
また、本実施形態では、本開示に係る車椅子固定装置を、車椅子70を後側から支持する後側車椅子固定装置30に適用したが、これに限定されるものではなく、車椅子70を前側から支持する車椅子固定装置に適用してもよい。
【0061】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示に係る車椅子固定装置は、フロア上に車椅子を固定する様々な車両に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1:車両
2:フロア
30:後側車椅子固定装置(車椅子固定装置)
31:フロア開口
32:収納箱
33:蓋部材
34:シャックル(フロア側係止部)
35:車椅子固定ベルト
36:車椅子乗員用シートベルト
37:蓋本体部
37a:蓋本体部の上面
40:ゴムヒンジ(連結部)
46:フロア側連結部(支持部)
49:車椅子用フック(係止部)
55:シートベルトフック(シートベルト側係止部)
57:収納空間
70:車椅子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10