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特許7445250発現ベクター及び目的タンパク質の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】発現ベクター及び目的タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20240229BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20240229BHJP
   A01K 67/027 20240101ALN20240229BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N15/63 Z
A01K67/027 ZNA
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019163719
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021040506
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都築 祥子
(72)【発明者】
【氏名】田丸 浩
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-157293(JP,A)
【文献】特開2007-143497(JP,A)
【文献】特表2001-501482(JP,A)
【文献】特表2010-500967(JP,A)
【文献】特表2009-515521(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0305700(US,A1)
【文献】Gene,1994年,Vol.147,pp.223-226
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1995年,Vol.92,pp.6522-6526
【文献】FEBS Letters,1994年,Vol.348,pp.268-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
A01K 67/02-67/027;67/033
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクターを魚類の受精卵又は胚に、マイクロインジェクションにより導入する工程を含む魚類における目的タンパク質の製造方法であって、
前記ベクターが上流から下流に向かって、プロモーター配列、目的遺伝子、タグ切断配列、タグ配列、シグナル配列の順序で含む、同一の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造を含む、前記魚類における目的タンパク質の製造方法。
【請求項2】
魚類がゼブラフィッシュである請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類に目的タンパク質を発現させるためのベクターに関する。さらに、このベクターを用いる目的タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の発現方法として、大腸菌や酵母等の微生物や、昆虫、哺乳動物の培養細胞による発現方法が知られている。しかし、微生物や昆虫による発現方法では、異種のタンパク質の正確な折り畳みや糖鎖修飾ができず、生物学的に不活性なタンパク質が得られることがある。このような不活性なタンパク質は、目的とする活性が得られないため、その機能や構造を解析することができない。また、哺乳動物の培養細胞等による発現方法では、正確な折り畳みや糖鎖修飾はできるものの、細胞の培養に時間がかかるため、大量のタンパク質を発現させるには、コストが非常に高くなるという問題があった。
【0003】
受精卵に針を刺して遺伝子等を注入することで、目的とする組換えタンパク質等を製造する技術では、ゼブラフィッシュ等の小型魚卵の利用が有用であることが知られている。
例えば、特許文献1では、魚中でポリペプチドを発現するための発現構築物を用いて魚の胚外組織の細胞や胚組織の細胞中でVII因子、インターロイキン等のポリペプチドを発現する方法が開示されている。また、特許文献2では、特定のプロモーター配列を有するベクターを魚類の受精卵又は胚に導入することで組換えタンパク質を製造する方法が開示されている。
しかし、これらの方法によって目的とする組換えタンパク質を製造することはできるが受精卵1つあたりの発現量が十分とは言えず、実用量を得るには多くの受精卵を必要とする等の問題があった。
【0004】
組み換えタンパク質を高発現させる方法として、特許文献3、4では、特定の配列を含むフラグメントを少なくとも2回タンデムに連結させたコンストラクトを含むDNAをベクターに組み込んで用いる方法や、遺伝子発現カセットを含む直列反復配列を作製し、これを遺伝子導入する方法等が開示されている。しかし、これらの方法はいずれも哺乳動物細胞を対象とするものであり、魚類を対象とするものではなかった。
そこで、本発明者らは実用量の目的タンパク質を、少量の魚類の受精卵や胚等を用いて短期間に製造することが可能なベクターや、このベクターを用いた目的タンパク質の製造方法の開発を試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2001-501482号公報
【文献】特開2007-143497号公報
【文献】国際公開第2014/045674号パンフレット
【文献】特開2012-157293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、実用量の目的タンパク質を、少量の魚類の受精卵や胚等を用いて短期間に製造することが可能なベクターや、このベクターを用いた目的タンパク質の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、プロモーター配列と、その下流に目的遺伝子を含む同一の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造を含むベクターを作製し、本発明を完成するに至った。
本発明で作製したベクターを導入した受精卵や胚等では、1つあたりにおける目的タンパク質の発現量が増加するため、少量の受精卵や胚等の使用でも十分に実用量の目的タンパク質を得ることが可能となる。
このベクターを用いた本発明の目的タンパク質の製造方法では、目的タンパク質の製造にあたり必要とする受精卵等の数が減るため、従来の方法と比べて注入する遺伝子量も減らすことができ、これに伴って注入処理にかかる時間が短縮できるという利点がある。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)~(7)のベクターや目的タンパク質の製造方法等に関する。
(1)魚類に目的タンパク質を発現させるためのベクターであって、プロモーター配列と、その下流に目的遺伝子を含む同一の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造を含むベクター。
(2)遺伝子発現カセットがタグ切断配列及びタグ配列を含む上記(1)に記載のベクター。
(3)遺伝子発現カセットがさらにシグナル配列を含む上記(1)又は(2)に記載のベクター。
(4)魚類がゼブラフィッシュである上記(1)~(3)のいずれかに記載のベクター。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載のベクターを魚類の受精卵又は胚に導入する工程を含む目的タンパク質の製造方法。
(6)魚類がゼブラフィッシュである上記(5)に記載の製造方法。
(7)上記(1)~(4)のいずれかに記載のベクターが導入されたトランスジェニック魚類。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベクターにより、実用量の目的タンパク質を少量の魚類の受精卵や胚等を用いて短期間に製造することが可能となる。
また、本発明の製造方法では生物学的に活性な(ネイティヴな)タンパク質を製造できることから、本発明の製造方法によって、ゲノムライブラリーなどにおいて塩基配列は既知であるが、構造や機能が未知なタンパク質を目的タンパク質として製造し、解析することにより、有用なタンパク質のスクリーニングを行うことも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】pUpZef-EGFP-pZef-Feutin-A-HRV3C-3xFLAG(登録商標)ベクター構築の概要を示した図である(実施例2)。
図2】pUpZef-EGFP-pZef-Feutin-A-HRV3C-3xFLAG(登録商標)ベクターの概要を示した図である(実施例2)。
図3-1】~
図3-8】pUpZef-EGFP-pZef-Feutin-A-HRV3C-3xFLAG(登録商標)ベクターの概要を示した図である(実施例2)。
図4】3回タンデムに連結された構造を含むベクター(3連タンデムベクター)の模式図を示した図である(実施例2)。図中、Ampはアンピシリン(抗生物質)耐性遺伝子、pZefはプロモーター配列、SV40PAはシグナル配列、HRV3Cはタグ切断配列、及び3×FLAG(登録商標)はタグ配列を示す。
図5】Fetuin-Aの定量にあたり用いた標準曲線を示した図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「ベクター」とは、魚類において目的タンパク質を発現できるベクターであって、プロモーター配列とその下流に目的遺伝子を含む「遺伝子発現カセット」を含み、この同一の「遺伝子発現カセット」が2回以上タンデムに連結された構造を含むベクターのことを言うことをいう。
「同一の遺伝子発現カセット」とは、同一のプロモーター配列及び同一の目的遺伝子を含む遺伝子発現カセットのことを言う。ここで、同一のプロモーター配列とは、プロモーターをコードする塩基配列として特定した配列と完全に一致する配列であることが好ましいが、90%以上の同一性を有する配列、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する配列であればよく、一部が欠失、置換等された配列であっても、同様のプロモーター機能を発揮できる配列も含み得る。
また、同一の目的遺伝子も目的タンパク質をコードする塩基配列として特定した配列と完全に一致する配列であることが好ましいが、90%以上の同一性を有する配列、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する配列であればよく、一部が欠失、置換等された配列であっても、同様の性質を有するタンパク質をコードし得る配列も含み得る。
【0012】
「プロモーター配列」とは、「目的遺伝子」の発現を制御する配列のことを言い、このような制御配列は「目的遺伝子」の発現を制御し得るものであればよい。例えば、Ef1αの全部又は一部をコードする塩基配列を挙げることができ、CMVの全部又は一部をコードする塩基配列等であってもよく、さらに、その他の従来知られている他の制御配列であってもよい。
また、「目的遺伝子」とは、発現、製造の対象となる「目的タンパク質」をコードする遺伝子のことを言い、発現、製造させたいタンパク質の生物学的に活性な(ネイティヴな)完全な形態で発現され得る全てをコードする塩基配列であってもよく、この一部をコードする塩基配列であっても良い。また、誘導体等の変異体をコードするものであってもよく、ネイティヴなものとは1以上のアミノ酸において異なるポリペプチドをコードするものであってもよい。このような「目的遺伝子」として、例えばFeutin-Aの全部又は一部をコードする塩基配列を挙げることができる。
これらの「プロモーター配列」及び「目的遺伝子」は、「遺伝子発現カセット」にDNA又はRNAのいずれの形で含まれていてもよいが、DNAであることが好ましく、特にゲノムDNA又はcDNAであることが好ましい。
【0013】
本発明の「遺伝子発現カセット」はさらにタグ切断配列及びタグ配列を含むものであることが好ましく、シグナル配列を含むものであることがより好ましい。また、これらの配列に加えて、目的タンパク質の製造に有用なその他の配列を含むものであっても良い。
ここで「タグ配列」とは、目的タンパク質の発現を検出し、回収及び/又は精製するための塩基配列のことを言う。この「タグ配列」には、従来知られているいずれのタンパク質をコードするものも用いることができるが、例えばGST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ:Glutathione S-transferase)、GFP(緑色蛍光タンパク質:Green Fluorescent Protein)、EGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)、His-tag、FLAG-tag糖結合ドメイン、多糖結合ドメイン、レクチン、タンパク質相互作用ドメイン、核酸結合ドメイン等の全部又は一部をコードする塩基配列を挙げることができる。
また、「タグ切断配列」とは、タグが結合した状態で製造された目的タンパク質から、タグを切断するためのタンパク質の全部又は一部をコードする塩基配列のことを言う。このような「タグ切断配列」がコードするタンパク質には、従来知られているいずれのタンパク質をコードするものも用いることができるが、例えば、HRV3C等を挙げることができる。
【0014】
「シグナル配列」は、目的タンパク質をコードする目的遺伝子の翻訳効率を増大することができるタンパク質の全部又は一部をコードする塩基配列のことを言う。このような「シグナル配列」には、従来知られているいずれのものも用いることができるが、例えば、3´から核酸コード配列に機能可能なように結合したポリアデニル化(ポリA)シグナル、例えばSV40ポリAシグナルあるいはチヌークサーモンポリAシグナル等が挙げられる。
【0015】
このような本発明の「ベクター」は、複製可能なベクター、例えば複製可能な発現ベクターであることが好ましい。本発明で設計したベクターを、細菌宿主細胞又は酵母宿主細胞のような宿主細胞中で複製することで、魚類への安定した導入が可能となる。
さらに本発明の「ベクター」は、ベクターが導入された形質転換体を同定するために、マーカー遺伝子として、例えばアンピシリン耐性遺伝子やネオマイシン耐性遺伝子、又は酵母形質転換体の選択を可能とするためのマーカー遺伝子を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の「同一の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造を含むベクター」の作製にあたり、「遺伝子発現カセット」を挿入するためのベースとして使用するベクターは、魚類に目的タンパク質を製造させることができるベクターであればいずれのものを用いることもできる。ベクターは直線形態のものであってもよく、環状形態のものであってもよい。このようなベクターとして、例えばpUC19ベクター(タカラバイオ株式会社)等を挙げることができる。
ベクターを「同一の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造」とするにあたり、挿入される「遺伝子発現カセット」間の塩基配列の長さには制限がなく、挿入された「遺伝子発現カセット」が発現し得ればよい。また、「遺伝子発現カセット」の挿入にあたり、In-Fusion技術、Ligation技術等のいずれの技術をも用いることができる。
本発明の「ベクター」は遺伝子発現カセッットが2回以上タンデムに連結された構造であればよく、3回以上、4回以上、5回以上さらには6回以上タンデムに連結された構造であることが好ましい。
【0017】
本発明の「魚類」は、魚類に該当するものであればいずれのものも用いることができるが、硬骨魚類が好ましく、分類としては、Cyprinidae、Cichlidae、Salmonidae、Claridae、Siluridae及びIctaluridae等の硬骨魚類が挙げられる。
特に好ましい魚の種類としては、コイ(例えばCyprinus carpio)、ゼブラフィッシュ(Danino rerio)、アフリカナマズ(Clarias gariepinus)、テラピア(Oreochronis niloticus)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)、ニジマス(Oncorhyncus mykiss)、及びメダカ(Oryzias latipes)が挙げられる。
【0018】
本発明の「目的タンパク質の製造方法」とは、発現、製造の対象とするタンパク質を「目的タンパク質」としてこのタンパク質をコードする塩基配列の全部又は一部を組み込んだ本発明の「ベクター」を、魚類の受精卵又は胚に導入することで発現させ、回収及び/又は精製することをいう。
このような本発明の「目的タンパク質の製造方法」は、本発明の「ベクター」を「魚類の受精卵又は胚に導入する工程」を含む製造方法であればよく、その他、目的タンパク質の製造に有用な工程をさらに含むものであっても良い。
ベクターの導入には、一般的に行われているいずれの導入方法も利用することができる。例えばベクターをレトロウイルス粒子、ラムダウイルス粒子にパッケージして、これを細胞中に移入することができる。また、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降、バイオリスティック法(例えばタングステンボンバードメント)により、あるいは裸の核酸ベクターもしくは構築物を溶液中の細胞と接触させることにより導入することができる。このうち、マイクロインジェクションによる導入が特に好ましい。
本発明の製造方法に使用する受精卵又は胚は、魚類であればいずれのものでも用いることができる。マイクロインジェクションにより本発明のベクターを導入する場合、受精の前、受精後、卵割後の二細胞、四細胞、もしくは八細胞期に行うことができる。
【0019】
本発明の製造方法によって得られた目的タンパク質の回収には、一般的に行われているいずれの回収方法も利用することができる。例えば、タンパク質の発現が確認された組織等を切り出し、そこから回収する方法や、ウェスタンブロッティングにおいてタンパク質の発現が確認された領域を切り出し、そこから抽出する方法などが挙げられる。
さらに回収したタンパク質の精製では、従来知られているいずれの精製方法でも行うことができる。従来知られている精製方法としては、カラムクロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィーが挙げられ、これらを用いることによりタンパク質の精製ができる。市販のアフィニティークロマトグラフィーとしては、GSTtrap HPやHisTrap HP(いずれもアマシャムバイオサイエンス製)等が挙げられる。
製造された目的タンパク質はF0世代の胚から回収することもできるが、魚類成体から回収してもよい。
【0020】
本発明の「トランスジェニック魚類」とは、本発明の遺伝子発現カセットが2回以上タンデムに連結された構造を含むベクターが導入されてなる魚類のことをいう。
【0021】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって制限されない。
【実施例
【0022】
[実施例1]
遺伝子発現カセットの調製
1.遺伝子発現カセットA
ゼブラフィッシュのefla1遺伝子(配列番号1)をプロモーター配列とし、この下流に目的遺伝子としてFeutin-A遺伝子(配列番号2)を組み込み、遺伝子発現カセットAとした。
2.遺伝子発現カセットB
遺伝子発現カセットAにおいて、目的遺伝子の下流にHRV3C遺伝子(配列番号3)をタグ切断配列として組み込み、さらにその下流に3xFLAG(登録商標)遺伝子(配列番号4)をタグ配列として組み込み、遺伝子発現カセットBとした。
3.遺伝子発現カセットC
遺伝子発現カセットAにおいて、目的遺伝子の下流にSV40PA遺伝子(配列番号5)をシグナル配列として組み込み、遺伝子発現カセットC1とした。
また、遺伝子発現カセットBにおいて、タグ配列の下流にSV40PA遺伝子(配列番号5)を組み込み、遺伝発現カセットC2とした。
【0023】
[実施例2]
発現プラスミドベクターの構築
1.pUpZef-EGFP-pZef-Feutin-A-HRV3C-3xFLAG(登録商標)ベクターの構築
pUC19ベクター(タカラバイオ株式会社)のpUC Origin、Ampicillin resistance geneと表1に記載の各プライマーを使用して、In-Fusion技術により発現プラスミドベクターとしてpUpZef-EGFP-pZef-Feutin-A-HRV3C-3xFLAG(登録商標)ベクター(以下、ベクターAと示す場合がある)を構築した。
ベクターAは2つのef1a1(zEF1A)プロモーター領域により、EGFPとC末端に3xFLAG(登録商標)を融合したFetuin-A(目的タンパク質)をそれぞれ転写し得た。C末端に3xFLAG(登録商標)遺伝子を融合したFetuin-A遺伝子(目的遺伝子)は制限酵素SfiIにより切り出し可能であり、Fetuin-A遺伝子に替わって他のタンパク質をコードする目的遺伝子を組み込むことができるよう設計された。なお、Transposable element などの転移性因子の構成要素は含まれていない。
図1にベクターA構築の概要を示し、図2図3-1~3-8にベクターAの概要を示した。また、ベクターAの全塩基配列を配列番号6に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
2.タンデムベクターの作製
次の手順により、遺伝子発現カセットが2回タンデムに連結された構造を含むベクター(2連タンデムベクター)及び3回タンデムに連結された構造を含むベクター(3連タンデムベクター)を作製した。参考として、3連タンデムベクターの模式図を図4に示した。
なお、作製した各ベクターは遺伝子発現カセットが2回又は3回連結されているかを遺伝子の挿入に使用した制限酵素サイトPac1とNde1又はPac1とNot1で再度切断して遺伝子の長さから確認するとともに、1塩基レベルの変異の有無をDNAシーケンスサービスにより確認した。
【0026】
1)2連タンデムベクター
(1)発現カセットの調製
ベクターAよりefla1遺伝子(配列番号1)、Feutin-A遺伝子(配列番号2)、HRV3C遺伝子(配列番号3)、3xFLAG(登録商標)遺伝子(配列番号4)及びSV40PA遺伝子(配列番号5)を含む領域を制限酵素サイトBgl2で切り出した。
この切断断片を鋳型として5‘末端にPac1とIn-Fusion用配列(配列番号11)、3’末端にNde1とIn-Fusion用配列(配列番号12)を付加することで挿入用の発現カセットC2を調製した。
(2)2連タンデムベクターの作製
ベクターAを制限酵素サイトPac1とNde1で切断し、上記(1)で調製した発現カセットC2をIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いてつなぎ合わせることで発現カセットC2が2連に並ぶベクター(以下、ベクターBと示す場合がある)を作製した。
【0027】
2)3連タンデムベクター
(1)発現カセットの調製
上記1)(1)と同様に、各遺伝子を含む領域を制限酵素サイトBgl2で切り出した後、この切断断片を鋳型として5’末端と3’末端にPac1とIn-Fusion用配列(配列番号11)を付加することで挿入用の発現カセットC2を調製した。
(2)3連タンデムベクターの作製
上記1)(2)で作製したベクターBを制限酵素サイトNot1で切断し、上記(1)で調製した発現カセットC2をIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いてつなぎ合わせることで発現カセットC2が3連に並ぶベクター(以下、ベクターCと示す場合がある)を作製した。
【0028】
[実施例3]
目的タンパク質の製造
1.ゼブラフィッシュの成育
ゼブラフィッシュは水温28℃、明期14時間、暗期10時間で飼育されたものを使用した。受精卵は、任意に選んだ健康な雌雄数組が産んだ直後のものを採取し、飼育水をHoltfreter’s Solution(HS)(CaCl2 0.1g, NaCl 3.5g, KCl 0.05g, NaHCO3 0.2gにdH2Oを加えて1Lとした)に置換して28℃で飼育した。
未受精卵は産卵前の胚と定義し、産卵期に入った雌の卵巣をHSで洗浄して採集した。また、12、24及び48hpfの胚は、採取時間の前後15分間を含む30分間以内に採取した受精卵を0hpfとして、HSにおいて28℃で飼育した場合の各時間後の胚と定義した。
【0029】
2.発現プラスミドベクターの導入
上記1で得たゼブラフィッシュの0hpfの受精卵に、上記実施例2で作製した各発現プラスミドベクター(ベクターA,B,C)をマイクロインジェクションにより導入した。導入の際のベクターの濃度は0.02μg/μlに調製して行い、受精卵一個当たりに概ね50-200eggs/μlで行った。導入したゼブラフィッシュの受精卵はHS中、28℃で飼育し、抗FLAG(登録商標)抗体(SIGMA-ALDRICH)を用いてFACS(Light-CaptureII(アトー株式会社))によってFLAG(登録商標)の発現を確認した。
【0030】
3.目的タンパク質
1)発現量の確認
HUMAN FETUIN-A ELISA(UNITECH)を用いたELISA法によりEGFP発現卵に含まれるFetuin-Aの定量を行った。図5に標準曲線を示した。ODは波長450nmから波長630nmを引いた値を示した。
【0031】
2)結果
遺伝子発現カセットを1つしか含まないベクターAを導入した場合、受精卵1つあたりの目的タンパク質(Fetuin-A)の発現量が1.6ngであったのに比べて、2回以上タンデムに連結させた構造を含むベクター(ベクターB)を導入した場合は4.9ngであり、3回以上タンデムに連結させた構造を含むベクター(ベクターC)を導入した場合は16.4ngであった。
従って、この結果より、遺伝子発現カセットをベクターに2回以上複数含めば含むほど相乗的にタンパク質の発現量が増加することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のベクターにより、実用量の目的タンパク質を、少量の魚類の受精卵や胚等を用いて短期間に製造することができる。また、本発明の製造方法により、ゲノムライブラリーなどにおいて塩基配列は既知であるが、構造や機能が未知なタンパク質を目的タンパク質として製造し、解析することにより、有用なタンパク質のスクリーニングを行うことも容易となる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図3-6】
図3-7】
図3-8】
図4
図5
【配列表】
0007445250000001.app