(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】測定装置及び、測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20240229BHJP
E21D 9/14 20060101ALI20240229BHJP
E21D 9/00 20060101ALI20240229BHJP
E21D 9/04 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N33/24 E
E21D9/14
E21D9/00 Z
E21D9/04 Z
(21)【出願番号】P 2020014301
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【復代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小池 克明
(72)【発明者】
【氏名】久保 大樹
(72)【発明者】
【氏名】奥澤 康一
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-191004(JP,A)
【文献】特開2004-315263(JP,A)
【文献】特開2015-105898(JP,A)
【文献】特開平06-229917(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0153160(US,A1)
【文献】特開2017-197955(JP,A)
【文献】G. Dufre'chou, G. Grandjean, A. Bourguignon,Geometrical analysis of laboratory soil spectra in the short-wave infrared domain: Clay composition,Geoderma,NL,Elsevier B. V.,2015年01月05日,Vol.243-244,pp.92-107,https://doi.org/10.1016/j.geoedrma.2014.12.014
【文献】奥澤康一,赤外線画像による山岳トンネル切羽面の膨潤性粘土鉱物の含有率の推定,日本情報地質学会講演会講演要旨集,2023年06月11日,Vol.34th,Page.5-6
【文献】木村 薫,リモート・センシング手法による斜面崩壊の予測に関する研究 -土の含水比の測定実験-,大林組技術研究所報,1979年,No.19,Page.106-110
【文献】木村 薫,リモートセンシング手法による斜面崩壊の予測に関する研究(その2) -モデル斜面による土の含水比測定実験-,大林組技術研究所報,1980年,No.21,Page.85-89
【文献】米田哲朗,「廃棄物地中処分に用いられるベントナイト遮水バリア材の特性評価」,2004年12月27日,https://www.eng.hokudai.ac.jp/COE-area/workshop/pdf/dec27_yoneda_slide.pdf
【文献】奥澤康一,赤外線画像を用いた膨潤性粘土鉱物の含有割合評価の試み,土木学会年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),2020年08月01日,Vol.75th,Page.ROMBUNNO.III-51
【文献】奥澤 康一,赤外線画像による岩石中の膨潤性粘土鉱物の含有率評価,第 49 回岩盤力学に関するシンポジウム講演集,2023年01月,Page.237-240
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
E21D 9/14
E21D 9/00
E21D 9/04
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定体に対し
て赤外
線を照射可能な照射手段と、
複数のバンドパスフィルタを組み合わせて用いると共に、前記被測定体に照射される赤
外線又は前記被測定体から反射される
赤外線を前記バンドパスフィルタに透過させること
により、1.4μm付近の波長の赤外線
による第1赤外線画像
と、
1.1μm付近の波長
の赤外線
による第2赤外線画像
と、
1.7μm付近の波長の赤外線
による第3赤外線画像と
を撮像可能な撮像手段と、
スメクタイトの含水率が既知の試料を用いて作成した、波長1.1μm付近の赤外線及
び波長1.7μm付近の赤外線の赤外線反射率比と含水率との関係を示す第1マップを備
えており、前記撮像手段により撮像された前記第2赤外線画像と前記第3赤外線画像との
輝度比である第1輝度比を求めると共に、
前記第1マップを前記第1輝度
比に基づいて
参
照することにより、
スメクタイトの含水
率を演算する含水
率演算手段と、
粘土鉱物を含まない含水率の異なる岩石試料を用いて作成した、波長1.4μm付近の
赤外線及び波長1.1μm付近の赤外線の赤外線反射率比と含水率との関係を示す第2マ
ップ及び、所定割合でスメクタイトを含有する水を含まない試料を用いて作成した、波長
1.4μm付近の赤外線及び波長1.1μm付近の赤外線の赤外線反射率比とスメクタイ
トの含有割合との関係を示す第3マップとを備えており、前記撮像手段により撮像された前記第1赤外線画像と前記第2赤外線画像との
輝度比である第2輝度比を求めると共に、
前記含水率演算手段により演算された前記含水
率に基づいて
前記第2マップを参照するこ
とにより、水による赤外線反射比率への影響に応じた補正量を求め、求めた該補正量に基
づいて前記第2輝度比を補正することにより、水の影響を除去した補正後輝度比を求め、前記補正後輝度
比に基づいて
前記第3マップを参照することにより、前記被測定体の
スメ
クタイトの含有
割合を演算する含有
割合演算手段と、を備える
ことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記撮像手段は、
複数の前記バンドパスフィルタをさらに組み合わせて用いることによ
り、1.9μm付近の波長の赤外線による第4赤外線画像と、2.2μm付近の波長の赤
外線による第5赤外線画像とを
さらに撮像可能であり、
前記第
1赤外線画像、前記第
4赤外線画像及び、前記第
5赤外線画像の各輝度と、前記第2赤外線画像の輝度との輝度比をそれぞれ算出すると共に、算出した3つの各輝度比が所定の閾値以下の場合に、前記被測定体に含まれ
る粘土鉱物をスメクタイトと判定する種類判定手段をさらに備える
請求項
1に記載の測定装置。
【請求項3】
被測定体に対し
て赤外
線を照射する
と共に、前記被測定体に照射される赤外線又は前記
被測定体から反射される赤外線を複数のバンドパスフィルタに透過させることにより、1
.4μm付近の波長の赤外線による第1赤外線画像と、1.1μm付近の波長の赤外線に
よる第2赤外線画像と、1.7μm付近の波長の赤外線による第3赤外線画像とを撮像す
る照射
撮像ステップと
、
撮像された前記第2赤外線画像と前記第3赤外線画像との
輝度比である第1輝度比を求めると共に、
スメクタイトの含水率が既知の試料を用いて作成した、波長1.1μm付近
の赤外線及び波長1.7μm付近の赤外線の赤外線反射率比と含水率との関係を示す第1
マップを前記第1輝度
比に基づいて
参照することにより、
スメクタイトの含水
率を演算する含水
率演算ステップと、
撮像された前記第1赤外線画像と前記第2赤外線画像との
輝度比である第2輝度比を求めると共に、
粘土鉱物を含まない含水率の異なる岩石試料を用いて作成した、波長1.4
μm付近の赤外線及び波長1.1μm付近の赤外線の赤外線反射率比と含水率との関係を
示す第2マップを前記含水率に基づいて参照することにより、水による赤外線反射比率へ
の影響に応じた補正量を求め、求めた該補正量に基づいて前記第2輝度比を補正することにより、水の影響を除去した補正後輝度比を求め、
所定割合でスメクタイトを含有する水
を含まない試料を用いて作成した、波長1.4μm付近の赤外線及び波長1.1μm付近
の赤外線の赤外線反射率比とスメクタイトの含有割合との関係を示す第3マップを前記補正後輝度
比に基づいて
参照することにより、前記被測定体の
スメクタイトの含有
割合を演算する含有
割合演算ステップと、を有する
ことを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定装置及び、測定方法に関し、特に、被測定体に含まれる粘土鉱物量の測定装置及び、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、山岳トンネル工事等においては、切羽を構成する地山に粘土鉱物が含まれていると、該粘土鉱物が水分を吸収して膨潤することにより、トンネルの坑径を縮小させることになる。
【0003】
このような粘土鉱物の膨潤が覆工コンクリートの打設前に生じた場合には、当該箇所の再掘削等が必要となり、工期や工費に大きく影響するといった課題がある。また、粘土鉱物の膨潤が覆工コンクリートの打設後に生じた場合には、コンクリートのひび割れ等を引き起こす課題もある。このため、地山に含まれる粘土鉱物量(含有値)を適宜に把握することは、山岳トンネル工事において極めて重要となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、対象地盤から採取した試料にX線を照射して蛍光X線を捉え、複数元素の含有の有無や量を分析する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1記載の技術を用いて切羽全体の状態を把握するには、切羽から多量の試料を採取して分析する必要がある。このため、試料の採取作業、さらには分析作業に多くの労力や時間が掛かるといった課題がある。また、試料の採取や分析に時間を要すことにより、工期を長引かせるといった課題もある。さらに、試料を採取するには、崩壊の危険性がある切羽に近づく必要があり、安全性を十分に担保できないといった課題もある。
【0007】
本開示の技術は、簡素な構成で、被測定体に含まれる粘土鉱物量(含有値)を効果的に測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の測定装置は、被測定体に対して、粘土鉱物及び水の赤外線反射率が共に低くなる所定波長の第1赤外線と、前記粘土鉱物及び前記水の赤外線反射率が共に高くなる所定波長の第2赤外線と、前記粘土鉱物の赤外線反射率は高くなるが前記水の赤外線反射率が低くなる所定波長の第3赤外線とを照射可能な照射手段と、前記被測定体から反射される前記第1赤外線を第1赤外線画像、前記第2赤外線を第2赤外線画像、前記第3赤外線を第3赤外線画像として撮像可能な撮像手段と、撮像された前記第2赤外線画像と前記第3赤外線画像との第1輝度比を求めると共に、前記第1輝度比と前記粘土鉱物の含水値との相関関係に基づいて、前記粘土鉱物の含水値を演算する含水値演算手段と、撮像された前記第1赤外線画像と前記第2赤外線画像との第2輝度比を求めると共に、演算された前記含水値に基づいて前記第2輝度比を補正することにより、水の影響を除去した補正後輝度比を求め、前記補正後輝度比と前記粘土鉱物の含有値との相関関係に基づいて、前記被測定体の前記粘土鉱物の含有値を演算する含有値演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記粘土鉱物がスメクタイトであり、前記第1赤外線が少なくとも1.4μmの波長を含む赤外線であり、前記第2赤外線が少なくとも1.1μmの波長を含む赤外線であり、前記第3赤外線が少なくとも1.7μmの波長を含む赤外線であることが好ましい。
【0010】
また、前記照射手段は、前記第1赤外線として、1.4μmの波長を含む第1低反射率赤外線、1.9μmの波長を含む第2低反射率赤外線及び、2.2μmの波長を含む第3低反射率赤外線をそれぞれ照射可能であり、前記撮像手段は、前記第1低反射率赤外線、前記第2低反射率赤外線及び、前記第3低反射率赤外線の赤外線画像をそれぞれ撮像可能であり、前記第1低反射率赤外線の赤外線画像、前記第2低反射率赤外線の赤外線画像及び、前記第3低反射率赤外線の赤外線画像の各輝度と、前記第2赤外線画像の輝度との輝度比をそれぞれ算出すると共に、算出した3つの各輝度比が所定の閾値以下の場合に、前記被測定体に含まれる前記粘土鉱物をスメクタイトと判定する種類判定手段をさらに備えることが好ましい。
【0011】
また、前記撮像手段が、異なる波長の赤外線を透過可能な複数のバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを透過した赤外線を検出する赤外線カメラとを含むことが好ましい。
【0012】
本開示の測定方法は、被測定体に対して、粘土鉱物及び水の赤外線反射率が共に低くなる所定波長の第1赤外線と、前記粘土鉱物及び前記水の赤外線反射率が共に高くなる所定波長の第2赤外線と、前記粘土鉱物の赤外線反射率は高くなるが前記水の赤外線反射率が低くなる所定波長の第3赤外線とを照射する照射ステップと、前記被測定体から反射される前記第1赤外線を第1赤外線画像、前記第2赤外線を第2赤外線画像、前記第3赤外線を第3赤外線画像として撮像する撮像ステップと、撮像された前記第2赤外線画像と前記第3赤外線画像との第1輝度比を求めると共に、前記第1輝度比と前記粘土鉱物の含水値との相関関係に基づいて、前記粘土鉱物の含水値を演算する含水値演算ステップと、撮像された前記第1赤外線画像と前記第2赤外線画像との第2輝度比を求めると共に、演算された前記含水値に基づいて前記第2輝度比を補正することにより、水の影響を除去した補正後輝度比を求め、前記補正後輝度比と前記粘土鉱物の含有値との相関関係に基づいて、前記被測定体の前記粘土鉱物の含有値を演算する含有値演算ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、簡素な構成で、被測定体に含まれる粘土鉱物量(含有値)を効果的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る測定装置を山岳トンネル工法に適用した一例を示す模式図である。
【
図2】粘土鉱物の一例として、含水率が異なるスメクタイト(モンモリロナイト)の赤外線反射特性を示すグラフである。
【
図3】本実施形態に係る測定装置を示す模式的な機能ブロック図である。
【
図4】本実施形態における各輝度画像の具体例を示す模式図である。
【
図5】本実施形態における各輝度画像に基づいて生成した輝度比画像の一例を示す模式図である。
【
図6】粘土鉱物の一例として、モンモリロナイト、カオリナイト及び、イライトの反射率特性を示すグラフである。
【
図7】本実施形態に係る第1含水率-反射率比マップの一例を模式的に示す図である。
【
図8】本実施形態に係る第2含水率-反射率比マップの一例を模式的に示す図である。
【
図9】本実施形態に係る含有割合-反射率比マップの一例を模式的に示す図である。
【
図10】本実施形態に係る粘土鉱物の含有値の測定処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る測定装置及び、測定方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る測定装置10を山岳トンネル工法に適用した一例を示す模式図である。同図において、符号Gは地山、符号1は掘削により形成されたトンネル、符号2は切羽、符号3は支保工、符号4は覆工コンクリートをそれぞれ模式的に示している。
【0017】
図1に示すように、測定装置10は、例えば、切羽2を構成する地山G(以下、岩石ともいう)に含まれる粘土鉱物量(含有値)の測定に用いられる。具体的には、測定装置10は、照射部20と、撮像部30と、データ処理部50と、入力部60と、表示部70とを備えている。
【0018】
照射部20は、切羽2に赤外線(以下、本実施形態において、「赤外線」と称した場合には「近赤外線」を含むものとする)を照射可能な照明装置であって、例えばハロゲンランプを用いて構成されている。照射部20は、好ましくは、三脚等を用いてトンネル1内に設置される。なお、照射部20は、ハロゲンランプ以外のランプ光源、発光ダイオードやレーザダイオード等であってもよい。
【0019】
撮像部30は、フィルタ部31及び、赤外線カメラ40を有する。フィルタ部31は、切羽2と赤外線カメラ40との間に配置されており、選択的に切り替え可能な複数(本実施形態では、例えば5個)の第1~第5フィルタ32~36を備えている。これら各フィルタ32~36には、それぞれ異なる特定の波長帯域の赤外線を透過させるバンドパスフィルタ(光学フィルタ)が選定されている。以下、各フィルタ32~36の波長帯域の詳細な選定について説明する。
【0020】
図2は、粘土鉱物の一例として、含水率が異なるスメクタイト(モンモリロナイト)の赤外線反射特性を示すグラフである。グラフ中の%は各試料中の含水率(質量%)である。一般に、切羽等の岩石に含まれる粘土鉱物には、特定の波長帯域の赤外線を吸収する性質がある。工事の障害となることのある膨潤性粘土鉱物のスメクタイトには、所定の波長帯域にて赤外線の反射率が急減(赤外線吸収率が急増)する複数のボトム(逆ピーク)が存在する。
【0021】
より詳しくは、スメクタイトには、赤外線反射率が急減(赤外線吸収率が急増)する波長帯域として、1.4μm付近の波長帯域a1と、1.9μm付近の波長帯域a2と、2.2μm付近の波長帯域a3の、計三つのボトムが存在する。
【0022】
また、粘土鉱物は多少なりとも水を含む場合があるが、水も所定の波長帯域の赤外線を大きく吸収する。具体的には、1.7μm付近の波長帯域cを含む長波長側の帯域にて、水の赤外線反射率は減少、言い換えれば、赤外線吸収率は増加する。この波長帯域cにて、スメクタイトの赤外線反射率は減少しない(赤外線吸収率は増加しない)。なお、
図2に示す1.1μm付近の波長帯域bは、スメクタイト及び水の赤外線反射率が共に高くなる帯域、言い換えれば、スメクタイト及び水の赤外線吸収率が共に低くなる帯域を示している。
【0023】
図1に示すフィルタ部31において、第1フィルタ32には、波長帯域a1の赤外線(本開示の第1赤外線の一例)を透過可能なバンドパスフィルタが選定されている。また、第2フィルタ33には、波長帯域a2の赤外線(本開示の第1赤外線の一例)を透過可能なバンドパスフィルタが選定されている。また、第3フィルタ34には、波長帯域a3の赤外線(本開示の第1赤外線の一例)を透過可能なバンドパスフィルタが選定されている。また、第4フィルタ35には、波長帯域bの赤外線(本開示の第2赤外線の一例)を透過可能なバンドパスフィルタが選定されている。さらに、第5フィルタ36には、波長帯域cの赤外線(本開示の第3赤外線の一例)を透過可能なバンドパスフィルタが選定されている。各フィルタ32~36の赤外線を透過させる波長範囲は、好ましくは、約50nmで設定されている。なお、各フィルタ32~36の個数や透過可能な波長範囲の設定は、これらに限定されるものではなく、照射部20や赤外線カメラ40の仕様、測定対象となる粘土鉱物の種類等に応じて適宜に設定することができる。
【0024】
赤外線カメラ40は、切羽2から反射されて各フィルタ32~36を透過した赤外線を検出すると共に、撮像した赤外線画像データをデータ処理部50に入力する。赤外線カメラ40は、好ましくは、三脚等を用いてトンネル1内に設置される。赤外線カメラ40の切羽2からの設置距離は、切羽2から反射される赤外線を撮像可能な範囲内(例えば、約20m)にて、好ましくは、一度の撮像により取得される画像内に切羽2の全体像が含まれるか、或は、切羽2の全体像に加えて、支保工3(又は、不図示のアンカーボルトのボルトヘッド等)の一部が含まれるように適宜に調整される。
【0025】
なお、フィルタ部31は、撮像部30の一部に組み込まれるものとしたが、照射部20に組み込んでもよい。照射部20に組み込む場合は、フィルタ部31を照射部20の光源と切羽2との間に配置すればよい。或は、照射部20を波長可変光源とすれば、フィルタ部31そのものを省略することもできる。
【0026】
データ処理部50は、パーソナルコンピュータやサーバ等の情報処理装置を用いて構成される。なお、データ処理部50は、タブレットやスマートフォン等の情報処理装置を用いて構成されてもよい。データ処理部50は、撮像部30により撮像された赤外線の画像データを取得する。また、データ処理部50は、取得した画像データに基づいて、切羽2を構成する地山Gに含まれる粘土鉱物量(含有割合)及び、粘土鉱物の含水値(含水率)を演算する。
【0027】
入力部60は、例えば、データ処理部50に接続されたキーボードであって、データ処理部50に種々の情報や指示等を入力する。表示部70は、例えば、データ処理部50に接続されたディスプレイであって、測定装置10による測定結果や入力部60からデータ処理部50への入力内容等を表示する。
【0028】
本実施形態において、照射部20及び撮像部30は、太陽光等の外乱の影響を受け難いトンネル1内(暗部)に設置される。また、データ処理部50、入力部60及び、表示部70は、トンネル1内又はトンネル坑外(遠隔地を含む)の何れに設置してもよい。照射部20のオン/オフ、フィルタ部31の切り替え及び、赤外線カメラ40の作動は、作業者の入力部60の操作によりデータ処理部50を介して出力される指令に応じて自動制御されてもよく、或は、作業者がこれら照射部20,フィルタ部31,撮像部40を直接的に手動操作することにより行われてもよい。
【0029】
図3は、本実施形態に係る測定装置10を示す模式的な機能ブロック図である。測定装置10は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリ、補助記憶装置等を備え、測定プログラムを実行する。また、測定装置10は、測定プログラムの実行によって、記憶部51、輝度画像生成部52、粘土鉱物検出部53、粘土鉱物種類判定部54、含水値演算部55及び、粘土鉱物含有値演算部56を備える装置として機能する。測定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えば、光磁気ディスク、USB、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。また、測定プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0030】
記憶部51は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成されている。記憶部51は、赤外線カメラ40によって取得された赤外線画像データを格納する。また、記憶部51には、後述する第1含水率-反射率比マップM1(
図7参照)、第2含水率-反射率比マップM2(
図8参照)及び、含有割合-反射率比マップM3(
図9参照)が格納されている。
【0031】
輝度画像生成部52は、記憶部51に格納された赤外線画像データに基づいて、赤外線反射率に応じた輝度画像(白黒のモノクロ画像)を生成する。輝度画像は、例えば、赤外線画像データを白黒256階調のグレースケールに変換後、好ましくは、照射部20の光源特性や赤外線カメラ40の感度特性に応じて補正(キャリブレーション)することにより生成される。なお、階調数は256階調に限定されず、種々の階調数とすることができる。また、キャリブレーションは、例えば、赤外線画像の撮像範囲に、各波長帯における反射率が高く(好ましくは、略一定)、且つ、反射率が既知の物体(例えば、表面に高反射率塗料を塗布した板材)を置いておき、各画像中の該物体の輝度が互いに略同一となるように、画像全体の輝度を調整することにより行えばよい。
【0032】
図4は、輝度画像の具体例を示す模式図である。
図4(A)は、第1フィルタ32を透過した波長帯域a1の赤外線の画像データから生成された輝度画像(本開示の第1赤外線画像の一例)、
図4(B)は、第2フィルタ33を透過した波長帯域a2の赤外線の画像データから生成された輝度画像(本開示の第1赤外線画像の一例)、
図4(C)は、第3フィルタ34を透過した波長帯域a3の赤外線の画像データから生成された輝度画像(本開示の第1赤外線画像の一例)、
図4(D)は、第4フィルタ35を透過した波長帯域bの赤外線の画像データから生成された輝度画像(本開示の第2赤外線画像の一例)、
図4(E)は、第5フィルタ36を透過した波長帯域cの赤外線の画像データから生成された輝度画像(本開示の第3赤外線画像の一例)をそれぞれ模式的に示している。これら各輝度画像内の各領域X,Yの濃淡は、色が濃い(輝度が暗い)領域ほど切羽2に照射された赤外線の反射率が低く、色が淡い(輝度が明るい)領域ほど切羽2に照射された赤外線の反射率が高いことを示している。
【0033】
具体的には、輝度画像内の領域Xに対応する切羽2に、粘土鉱物として、例えばスメクタイトが含まれていると、該スメクタイトに照射された赤外線のうち、波長帯域a1,a2,a3の赤外線の反射率は低くなり、波長帯域b,cの赤外線の反射率は高くなる。このため、
図4(A)、(B)、(C)に示すように、波長帯域a1,a2,a3の赤外線画像データから生成される輝度画像では、スメクタイトを含む領域Xの輝度がスメクタイトを含まない領域Y(主として珪酸塩鉱物等で構成された岩石)の輝度よりも暗くなる。
【0034】
一方、
図4(D)に示すように、スメクタイト及び水が共に赤外線を大きく吸収しない、赤外線反射率が比較的高い波長帯域bの赤外線画像データから生成される輝度画像では、画像全体の輝度が明るくなることで、領域Xと領域Yとの輝度差は小さく表される。また、
図4(E)に示すように、赤外線を水は吸収するがスメクタイトは吸収しない波長帯域cの赤外線画像データから生成される輝度画像では、領域Xと領域Yとの輝度差は、
図4(A)、(B)、(C)に示す輝度画像よりも小さく、且つ、
図4(D)に示す輝度画像よりも大きく表されるようになる。
【0035】
輝度画像は、このような切羽2に照射された赤外線の反射率に応じた輝度値を各画素の画素値として有する。なお、説明の便宜上、以下では、第1フィルタ32を透過した赤外線の画像データから生成される輝度画像を「第1低反射率輝度画像IMG_a1」、第2フィルタ33を透過した赤外線の画像データから生成される輝度画像を「第2低反射率輝度画像IMG_a2」、第3フィルタ34を透過した赤外線の画像データから生成される輝度画像を「第3低反射率輝度画像IMG_a3」、第4フィルタ35を透過した赤外線の画像データから生成される輝度画像を「高反射率輝度画像IMG_b」、第5フィルタ36を透過した赤外線の画像データから生成される輝度画像を「水低反射率輝度画像IMG_c」と称する。
【0036】
粘土鉱物検出部53は、輝度画像生成部52により生成された輝度画像に基づいて、切羽2に粘土鉱物が含まれるか否かを検出する。具体的には、粘土鉱物検出部53は、第1低反射率輝度画像IMG_a1内のx地点の輝度A1と、対応する高反射率輝度画像IMG_b内のx地点の輝度Bとの輝度比A1/Bを算出し、該輝度比A1/Bが所定の閾値以下であれば、切羽2の当該部分に粘土鉱物(少なくともスメクタイト又はカオリナイトを含む粘土鉱物全般)が含まれると判定する。このように、赤外線反射率が低い低反射率輝度画像IMG_a1の輝度A1と、赤外線反射率が高い高反射率輝度画像IMG_bの輝度Bとの輝度比A1/Bを用いることで、切羽2の各地点と照射部20(光源)との距離差の影響が低減されるようになり、これらの距離差に応じた補正を行うことなく、粘土鉱物の有無を容易に検出することが可能になる。
【0037】
なお、輝度比A1/Bの算出は、1画素毎又は複数画素の平均値からなる所定領域毎の何れであってもよい。各輝度画像IMG_a1,IMG_bの位置合わせは、例えば、画像内に含まれる、上述のキャリブレーション用の物体、或いは、支保工3(又は、不図示のアンカーボルトのボルトヘッド等)を基準点に用いればよい。
【0038】
また、粘土鉱物検出部53は、輝度比A1/Bが閾値以下となる領域に基づいて、切羽2における粘土鉱物の分布域を抽出する。
図5は、
図4(A)及び(D)に示される各輝度画像IMG_a1,IMG_bに基づいて生成した輝度比画像IMGの一例を示す模式図である。このように輝度比A1/Bに基づいて生成された輝度比画像IMGを用いれば、輝度比A1/Bが閾値以下となる粘土鉱物を多く含む領域Xと、輝度比A1/Bが閾値よりも高くなる粘土鉱物を含まない領域Yとの輝度差が明確に表されるようになり、粘土鉱物の分布域を容易且つ正確に抽出することが可能になる。
【0039】
なお、判定や抽出に用いる輝度画像は、第1低反射率輝度画像IMG_a1に限定されず、
図4(B)に示す第2低反射率輝度画像IMG_a2又は、
図4(C)に示す第3低反射率輝度画像IMG_a3の何れを用いてもよい。第2低反射率輝度画像IMG_a2を用いる場合は、第2低反射率輝度画像IMG_a2内のx地点の輝度A2と、対応する高反射率輝度画像IMG_b内のx地点の輝度Bとの輝度比A2/Bを算出し、該輝度比A2/Bが閾値以下であれば、当該部分に粘土鉱物(少なくともスメクタイトを含有する粘土鉱物)が含まれると判定すればよい。同様に、第3低反射率輝度画像IMG_a3を用いる場合は、第3低反射率輝度画像IMG_a3内のx地点の輝度A3と、対応する高反射率輝度画像IMG_b内のx地点の輝度Bとの輝度比A3/Bを算出し、該輝度比A3/Bが閾値以下であれば、当該部分に粘土鉱物(少なくともスメクタイト又はカオリナイトの何れかを含有する粘土鉱物)が含まれると判定すればよい。判定に用いる各閾値は、検出対象となる粘土鉱物の種類や検出目的等に応じて適宜に設定すればよい。
【0040】
粘土鉱物種類判定部54(本開示の種類判定手段)は、各輝度比A1/B,A2/B,A3/Bに基づいて、切羽2の領域Xに含まれる粘土鉱物の種類を判定する。
図6は、スメクタイト(モンモリロナイト)、カオリナイト及び、イライトの赤外線反射率特性を示すグラフである(出典:Castaldi, F., Palombo, A., Pascucci, S., Pignatti, S., Santini, F., Casa, R. (2015) Reducing the influence of soil moisture on the estimation of clay from hyperspectral data: a case study using simulated PRISMA data. Remote Sensing, vol. 7, pp. 15561-15582, Fig. 5.)。
【0041】
図6に示すように、スメクタイト及び、カオリナイトでは、波長1.4μm付近及び、波長2.2μm付近の二つの波長帯域a1,a3にて赤外線反射率が急減する一方、スメクタイトにおいては、さらに波長1.9μm付近の波長帯域a2でも赤外線反射率が急減する。粘土鉱物種類判定部54は、このような粘土鉱物の種類に応じた赤外線反射率の相違を用いることにより粘土鉱物の種類を特定する。
【0042】
具体的には、(1)第1低反射率輝度画像IMG_a1と高反射率輝度画像IMG_bとに基づいて算出される輝度比A1/Bが閾値以下、且つ、(2)第2低反射率輝度画像IMG_a2と高反射率輝度画像IMG_bとに基づいて算出される輝度比A2/Bが閾値以下、且つ、(3)第3低反射率輝度画像IMG_a3と高反射率輝度画像IMG_bとに基づいて算出される輝度比A3/Bが閾値以下となる(1)~(3)の全ての条件が成立すれば、スメクタイト特有の低反射率帯域a1,a2,a3にて赤外線反射率が急減していることになる。この場合、粘土鉱物種類判定部54は、領域Xに含まれる粘土鉱物の種類をスメクタイトと判定する。一方、条件(1)及び条件(3)は成立するが、条件(2)が成立しない場合は、スメクタイト及びカオリナイトに共通する低反射率帯域a1,a3にて赤外線反射率が急減し、スメクタイト特有の低反射率帯域a2では赤外線反射率が急減していないことになる。この場合、粘土鉱物種類判定部54は、領域Xに含まれる粘土鉱物の種類をカオリナイトと判定する。
【0043】
なお、粘土鉱物の種類の判定は、これらスメクタイトやカオリナイトに限定されず、他の粘土鉱物をさらに特定できるように構成してもよい。この場合は、まず、フィルタ部31に、他の粘土鉱物において赤外線反射率が急減する波長帯域の赤外線を透過可能なバンドパスフィルタを追加する。そして、追加したバンドパスフィルタに応じた赤外線画像データから輝度画像を生成して高反射率輝度画像IMG_bとの輝度比を算出し、複数の輝度比を組み合わせて比較することにより、当該粘土鉱物の種類を特定するように構成すればよい。
【0044】
含水値演算部55は、高反射率輝度画像IMG_b及び、水低反射率輝度画像IMG_cから算出される輝度比C/Bに基づいて、スメクタイトの含水値、具体的には含水率を演算する。
【0045】
より詳しくは、記憶部51には、予め実験等により作成した、
図7に示す第1含水率-反射率比マップM1が格納されている。この第1含水率-反射率比マップM1には、横軸にスメクタイトの含水率(%)、縦軸にスメクタイトの赤外線反射率比(波長帯域bの反射率と、波長帯域cの反射率との比C/B)が設定されている。さらに、第1含水率-反射率比マップM1には、予め実験により計測したスメクタイトの含水率と赤外線反射率比とをプロットした複数の点を線形近似することにより得られる相関ラインLが設定されている。相関ラインLは、赤外線反射率比が低くなるほど、含水率が高くなるように設定されている。
【0046】
含水値演算部55は、水低反射率輝度画像IMG_c及び、高反射率輝度画像IMG_bから算出した輝度比C/Bに基づいて、第1含水率-反射率比マップM1の相関ラインLを参照し、対応する横軸の含水率を読み取ることにより、スメクタイトの含水率を演算する。含水値演算部55により演算されたスメクタイトの含水率は、粘土鉱物含有値演算部56に送信される。
【0047】
なお、含水値演算部55が演算する含水値は、含水率に限定されず、粘土鉱物の含水量であってもよい。この場合は、マップM1の横軸を含水量として規定すればよい。また、マップM1の横軸と縦軸の関係は、これらを入れ替えて構成してもよい。また、マップM1は、グラフ化する必要はなく、記憶部51に数値データとして格納してもよい。
【0048】
粘土鉱物含有値演算部56は、輝度画像に基づいて、岩石の粘土鉱物(スメクタイト)の含有値、具体的には粘土鉱物の含有割合を演算する。ここで、粘土鉱物の含有割合は、第1~第3低反射率輝度画像IMG_a1,IMG_a2,IMG_a3の何れか一つと、高反射率輝度画像IMG_bとに基づいて演算することができるが、以下では、第1低反射率輝度画像IMG_a1と、高反射率輝度画像IMG_bとに基づいた演算手順について説明する。なお、粘土鉱物にカオリナイトが含まれる場合には、カオリナイトの赤外線吸収率が低下しない第2低反射率輝度画像IMG_a2を用いればよい。
【0049】
まず、粘土鉱物含有値演算部56は、第1低反射率輝度画像IMG_a1のx地点の輝度A1と、対応する高反射率輝度画像IMG_bのx地点の輝度Bとの輝度比A1/Bを算出する。ここで、各輝度画像IMG_a1,IMG_bに基づいて算出した輝度比A1/Bは、粘土鉱物に含まれる水の影響により低下している可能性がある。このため、輝度比A1/Bから水の影響を取り除く補正が必要となる。
【0050】
本実施形態において、記憶部51には、予め実験等により作成した、
図8に示す、粘土鉱物を含まない場合の含水率(%)と赤外線反射率比A1/Bとの相関関係を規定する第2含水率-反射率比マップM2が格納されている。また、記憶部51には、
図9に示す既知の粘土鉱物含有割合と赤外線反射率比A1/Bとの相関関係(破線参照)を規定する含有割合-反射率比マップM3が格納されている。
【0051】
粘土鉱物含有値演算部56は、含水値演算部55により演算された含水率に基づいて、
図8に示す第2含水率-反射率比マップM2を参照することにより、赤外線反射率比の低下量ΔA1/Bを求める。さらに、粘土鉱物含有値演算部56は、低下量ΔA1/Bを輝度比A1/Bに加算することにより、水の影響を取り除いた補正後輝度比A1/B’(=A1/B+ΔA1/B)を求める。そして、粘土鉱物含有値演算部56は、求めた補正後輝度比A1/B’に基づいて、
図9に示す含有割合-反射率比マップM3を参照することにより、粘土鉱物(スメクタイト)の含有割合を演算する。ここで、含有割合は、
図5に示す輝度比画像IMGの領域X全体に対して逐次演算することで、切羽2に含まれる粘土鉱物の分布、さらには、当該粘土鉱物の含水割合の分布を面的に把握することが可能となる。
【0052】
図10は、本実施形態に係る測定装置10による粘土鉱物の含有値(含有割合)の計測処理の流れを説明するフローチャートである。測定装置10を用いた粘土鉱物量の計測処理は、好ましくは、山岳トンネル工事の工程の一部である切羽観察工程に組み込まれて実施されるものとする。
【0053】
ステップS110では、照射部20から切羽2に向けて赤外線を照射する。
【0054】
次いで、ステップS120では、フィルタ部31の各フィルタ32~36を適宜に切り替えながら、切羽2から反射される赤外線の画像データを赤外線カメラ40により撮像する。撮像回数は、計測目的に応じて適宜に設定可能である。
【0055】
ステップS130では、ステップS120にて取得した赤外線画像データを記憶部51に格納し、ステップS140では、記憶部51に格納した赤外線画像データに基づいて、赤外線の反射率に応じた輝度画像を生成する。
【0056】
ステップS150では、第1低反射率輝度画像IMG_a1の輝度A1と高反射率輝度画像IMG_bの輝度Bとの輝度比A1/Bを算出し、次いで、ステップS160では、輝度比A1/Bが所定の閾値以下か否かを判定する。輝度A1/Bが閾値以下(Yes)であれば、多くの粘土鉱物に共通する波長1.4μm付近の波長帯域a1で赤外線反射率が急減していることになる。この場合は、ステップS170にて、切羽2の当該部分に粘土鉱物(少なくともモンモリロナイト又はカオリナイトを含む粘土鉱物全般)が含まれる(有り)と判定する。一方、輝度比A1/Bが閾値よりも高い場合(No)は、ステップS300に進む。
【0057】
ステップS180では、各輝度画像IMG_a1,IMG_bに基づいて生成した輝度比画像IMG(
図5参照)から、輝度比A1/Bが閾値以下となる領域Xを特定し、切羽2全体における粘土鉱物の分布域を抽出する。
【0058】
次いで、ステップS200では、第3低反射率輝度画像IMG_a3の輝度A3と高反射率輝度画像IMG_bの輝度Bとの輝度比A3/Bを算出し、ステップS210では、輝度比A3/Bが所定の閾値以下か否かを判定する。輝度比A3/Bが閾値よりも高い場合(No)は、スメクタイト及びカオリナイトに特有の波長2.2μm付近の波長帯域a3で赤外線反射率が急減していないことになる。この場合は、ステップS270に進み、粘土鉱物をスメクタイト及びカオリナイトの何れにも該当しない他の粘土鉱物と特定する。
【0059】
一方、ステップS210にて、輝度比A3/Bが閾値以下であった場合(Yes)は、ステップS220に進み、第2低反射率輝度画像IMG_a2の輝度A2と高反射率輝度画像IMG_bの輝度Bとの輝度比A2/Bを算出する。
【0060】
ステップS230では、輝度比A2/Bが所定の閾値以下か否かを判定する。輝度比A2/Bが閾値よりも高い場合(No)は、スメクタイト及びカオリナイトに共通する波長1.4μm付近及び、波長2.2μm付近の2つの波長帯域a1,a3で赤外線反射率が急減しているが、スメクタイトに特有の波長1.9μm付近の波長帯域a2では、赤外線反射率が急減していないことになる。この場合は、ステップS280に進み、粘土鉱物の種類をカオリナイトと特定する。
【0061】
一方、ステップS230にて、輝度比A2/Bが閾値以下の場合(Yes)は、スメクタイトに特有の波長1.4μm付近、波長1.9μm付近及び、波長2.2μm付近の計3つの波長帯域a1,a2,a3にて赤外線反射率が急減していることになる。この場合は、ステップS240に進み、粘土鉱物をスメクタイトと特定する。
【0062】
ステップS300では、輝度比A2/Bを算出し、さらに、ステップS310では、輝度比A3/Bを算出する。なお、これらステップS300,S310の処理は順不同である。次いで、ステップS320にて、輝度比A2/B<輝度比A3/B≦閾値の関係が成立していれば(Yes)、ステップS330にて粘土鉱物をイライトと特定する。一方、輝度比A2/B<輝度比A3/B≦閾値の関係が成立していない場合(No)は、ステップS340に進み、切羽2に粘土鉱物が含まれない(無し)と判定する。
【0063】
ステップS400では、水低反射率輝度画像IMG_c及び、高反射率輝度画像IMG_bから算出した輝度比C/Bに基づいて、第1含水率-反射率比マップM1を参照することにより、スメクタイトの含水率を演算する。
【0064】
ステップS410では、ステップS400で演算した含水率に基づいて、第2含水率-反射率比マップM2を参照することにより、赤外線反射率比の低下量ΔA1/Bを求める。
【0065】
ステップS420では、低下量ΔA1/Bを輝度比A1/Bに加算することにより、水の影響を取り除いた補正後輝度比A1/B’を求める。
【0066】
ステップS430では、ステップS420で求めた補正後輝度比A1/B’に基づいて、含有割合-反射率比マップM3を補正し、水の影響を取り除いた補正後相関ラインを作成することにより、スメクタイトの含有割合を演算する。以降、上述の各ステップは、好ましくは、山岳トンネル工事における次の切羽観察工程にて繰り返し実施される。なお、ステップS330にてイライトと判定した場合のステップS331~S334の各処理、及び、ステップS280にてカオリナイトと判定した場合のステップS281~S284の各処理は、上述のステップS400~S430の各処理と実質的に同内容となるため、詳細な説明は省略する。これら何れの処理においても、イライト及びカオリナイトにつき、上述の各マップM1,M2,M3に対応するものを予め作成し、記憶部51に格納しておけばよい。
【0067】
以上詳述した本実施形態によれば、照射部20から切羽2に赤外線を照射すると共に、赤外線カメラ40により複数の赤外線画像を撮像し、撮像したこれら各赤外線画像の輝度比を比較することにより、切羽2に含まれる粘土鉱物の種類、さらには粘土鉱物の含有割合の分布を面的に把握できるように構成されている。
【0068】
すなわち、現場での作業は赤外線の照射及び撮像のみとなり、時間や労力を必要とする試料の採取作業を省略できるようになり、作業時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0069】
また、粘土鉱物として、膨潤性のスメクタイト、非膨潤性のカオリナイトやイライト等を判別できるようになり、切羽2で特に注意を要する膨潤箇所を効果的に特定することが可能になる。
【0070】
また、赤外線の照射及び撮像は、崩壊の危険性がある切羽2に近づく必要がないため、作業の安全性も効果的に確保することが可能になる。
【0071】
また、赤外線の照射及び撮像は、山岳トンネル工事における切羽観察工程の一部に組み込んで行えるため、トンネル工事全体の工程に遅延を生じさせることも効果的に防止することが可能になる。
【0072】
また、粘土鉱物の測定に、低反射率帯域の赤外線画像と高反射率帯域の赤外線画像との輝度比を用いることで、切羽2の各地点と光源との距離差の影響が効果的に低減されるようになる。すなわち、距離差に応じた補正が不要となることで、解析時間を効果的に短縮しつつ、高精度な粘土鉱物の検出及び特定を実現することが可能になる。
【0073】
また、撮像した赤外線画像から得られる輝度比を比較するのみで、切羽2全体にわたる粘土鉱物の含有量分布を面的に把握できるため、解析結果を山岳トンネル工事における地山Gの補助工法の選定や支保工3の強度選定に効果的に活用することも可能になる。
【0074】
また、粘土鉱物の含水率の影響を補正した補正後輝度比に基づいて、粘土鉱物の含有割合を求めることで、含有量の測定精度を効果的に向上することも可能になる。
【0075】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0076】
上記実施形態では、山岳トンネル工事の現場を例に挙げて説明したが、例えば、屋外のダム施工現場であっても夜間に行う等、太陽光等の外乱の影響を受け難い環境下(暗部)で実施すれば、他の現場にも広く適用することが可能である。
【0077】
また、測定対象は切羽2に含まれる粘土鉱物に限定されず、赤外線画像の輝度比に基づいて測定可能な他の鉱物、岩石の検出にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
G…地山,1…トンネル,2…切羽,3…支保工,4…覆工コンクリート,10…検出装置,20…照射部,30…撮像部,31…フィルタ部,32…第1フィルタ,33…第2フィルタ,34…第3フィルタ,35…第4フィルタ,36…第5フィルタ,40…赤外線カメラ,50…データ処理部,51…記憶部,52…輝度画像生成部,53…粘土鉱物検出部,54…粘土鉱物種類判定部,55…含水値演算部,56…粘土鉱物含有値演算部,60…入力部,70…表示部