(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】めっきのための繊維束の開繊方法
(51)【国際特許分類】
D06M 10/02 20060101AFI20240229BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20240229BHJP
D06B 13/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
D06M10/02 A
D06M11/83
D06B13/00
(21)【出願番号】P 2020081656
(22)【出願日】2020-05-06
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】395010794
【氏名又は名称】名古屋メッキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 成悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-106316(JP,A)
【文献】特開平10-245766(JP,A)
【文献】実開平01-142495(JP,U)
【文献】特開昭64-033234(JP,A)
【文献】米国特許第05289673(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-23/18
D06B 1/00-23/30
D06C 3/00-29/00
D06G 1/00-5/00
D06H 1/00-7/24
D06J 1/00-1/12
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束にめっきするために繊維束を開繊する方法において、
界面活性剤が含まれるめっき前処理液内又は無電解めっき液内の繊維束に、周波数
100~5000Hzの振動を付加することを特徴とするめっきのための繊維束の開繊方法。
【請求項2】
前記周波数が150~1000Hzである請求項1記載のめっきのための繊維束の開繊方法。
【請求項3】
前記繊維束にバイブレータを触れさせることにより、直接的に前記繊維束に前記振動を付加する請求項1又は2記載のめっきのための繊維束の開繊方法。
【請求項4】
前記めっき前処理液又は無電解めっき液にバイブレータを触れさせることにより、間接的に前記繊維束に前記振動を付加する請求項1又は2記載のめっきのための繊維束の開繊方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束にめっきするために繊維束を開繊する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非金属繊維の上に金属めっき膜を形成しためっき繊維を、銅線の代わりに電線として用いたり、布にして電磁シールド布、静電気防止布、導電性布、遮光性布等として用いることが知られている。
【0003】
この場合、非金属繊維として可撓性のある繊維束を用いることが多い。めっきされた繊維束を製造するには、繊維毎にめっきしてから繊維束に揃える方法と、繊維を揃えた繊維束にめっきする方法とがある。後者の製造方法は、製造効率は高いが、繊維束を構成する全ての繊維にめっきすることが難しい。繊維束に張力が加わるなどして繊維同士が互いに密着し、繊維束の内部の繊維にめっきが着きにくくなることがあるからである。
【0004】
そこで、後者の製造方法において、繊維束の内部の繊維にまでめっきが着くように、繊維束の繊維どうしを離れさせる開繊を行うことが好ましい。従来より、次のような繊維束の開繊方法が提案されている。
【0005】
特許文献1には、繊維束が架線状態で流体通流部を移動する際に、繊維束が流体との接触抵抗によって流体通過方向へ撓曲され、この接触抵抗を受けて繊維結束が弛められて形成された繊維束の間隙に流体を通過させて開繊させる方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、繊維束を搬送しながらめっき処理する装置において、処理槽の被処理物の入口側に前後に並べて設けた2個の被処理物ガイドの間に、繊維束の横方向から空気を吹き付けて繊維束の開繊をする開繊装置を設けたことが記載されている。
【0007】
特許文献3には、繊維束を搬送しながらめっき処理する装置において、処理槽内に、円形断面の貫通孔とその外側の同心円となる円環状の吐出口とを有するノズルを設置し、ノズルから噴射される処理液を繊維束の内部まで供給することが記載されている。
【0008】
特許文献4には、メッキ前処理された高分子繊維材料に無電解メッキ処理する際に、メッキ液に超音波振動(実施例は42KHz)を付与する高分子繊維材料のメッキ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-518890号公報
【文献】特開2015-189978号公報
【文献】特開2015-189979号公報
【文献】特開2007-56287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1~3の方法では、液流や空気流の制御が難しく、繊維束の開繊が十分にされないおそれがある。繊維束の開繊が十分にされないと、繊維束の内部の繊維にめっきの未着、密着不良などの問題が生ずる。
【0011】
また、特許文献4の方法では、超音波振動によって、繊維束が開繊される一方、めっき液に含まれる界面活性剤が過剰に泡立つ不具合や、めっき前処理で付与された錫-パラジウムのコロイドが分解して沈殿を生ずる不具合が起こる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、制御が簡単な振動によって、繊維束の内部の繊維にまでめっきが着くように繊維束の開繊を十分に行うことができ、また、めっき前処理液内又は無電解めっき液に含まれる界面活性剤が過剰に泡立つ不具合や、めっき前処理で付与された錫-パラジウムのコロイドが分解して沈殿を生ずる不具合が起こらないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、繊維束にめっきするために繊維束を開繊する方法において、界面活性剤が含まれるめっき前処理液内又は無電解めっき液内の繊維束に、周波数100~5000Hzの振動を付加することを特徴とする。
【0014】
ここで、前記周波数が150~1000Hzであることが好ましい。
【0015】
また、前記振動を付加する態様として、次の二つを例示できる。
(ア)前記繊維束にバイブレータを触れさせることにより、直接的に前記繊維束に前記振動を付加する態様。
(イ)前記めっき前処理液又は無電解めっき液にバイブレータを触れさせることにより、(めっき前処理液又は無電解めっき液の振動を介して)間接的に前記繊維束に前記振動を付加する態様。
【0016】
[作用]
めっき前処理液内又は無電解めっき液内の繊維束に、周波数50~15000Hzの振動を付加することにより、繊維束の内部の繊維にまでめっきが着くように繊維束の開繊を十分に行うことができる。
振動の周波数が50Hzよりも低いと、開繊がうまくいかないため、めっきの未着部分が発生することがある。
振動の周波数が15000Hzよりも高いと、めっき前処理液内又は無電解めっき液に含まれる界面活性剤が過剰に泡立つ、めっき前処理で付与される錫-パラジウムのコロイドが分解して沈殿を生ずる、などの不具合が起こることがある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、制御が簡単な振動によって、繊維束の内部の繊維にまでめっきが着くように繊維束の開繊を十分に行うことができ、また、めっき前処理液内又は無電解めっき液に含まれる界面活性剤が過剰に泡立つ不具合や、めっき前処理で付与された錫-パラジウムのコロイドが分解して沈殿を生ずる不具合が起こらないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)は実施例の繊維束の開繊方法を示す図、(b)は開繊及びめっき前の繊維束の断面図、(c)は開繊及びめっき後の繊維束の断面図である。
【
図2】
図2は試料1~9の振動周波数-析出重量をプロットしたグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<1>繊維束
繊維束を構成する繊維としては、有機繊維(合成繊維、天然繊維)、無機繊維等の非金属繊維を例示できる。
合成繊維としては、ポリエステル繊維(PET、PBT等)、ポリオレフィン系繊維(PE、PP等)、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリカ―ボネート繊維、ポリアセタ―ル繊維、アクリル繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、PBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole))繊維等を例示できる。
天然繊維としては、綿、麻、絹、竹等を例示できる。
無機繊維としては、ガラス繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、シリカ繊維等を例示できる。
【0020】
繊維束は、マルチフィラメント(複数本のフィラメントの束)が好ましい。
1本のフィラメントの直径は、特に限定されないが、5~50μmを例示できる。
繊維束の繊度は、特に限定されないが、40~2000dtexを例示できる。
【0021】
<2>めっき前処理液
めっき前処理液としては、特に限定されないが、下に挙げるアルカリエッチング液、中和液、表面調整液、触媒付与液、活性化液等を例示できる。
繊維束は、めっき処理前に、めっき付着性向上等を目的とするめっき前処理を行うことが好ましい。めっき前処理は、特に限定されないが、次の(a)(b)を例示できる。
(a)湿式前処理
アルカリエッチング→中和→表面調整→触媒付与→活性化、の順で行うことができる。
アルカリエッチングは、アルカリエッチング液に浸漬して行うことができる。
中和は、中和液に浸漬して行うことができる。
表面調整は、表面調整液(例えばカチオン界面活性剤液)に浸漬して行うことができる。
触媒付与は、触媒付与(例えば錫-パラジウムコロイド液)に浸漬して行うことができる。
活性化は、活性化液(例えば酸またはアルカリ液)に浸漬してコロイドの塩化第一錫を溶解する工程である。
(b)乾式前処理
超臨界核付け→熱処理(還元)、の順で行うことができる。
超臨界核付けは、高温・高圧で超臨界状態になるパラジウム錯体をチャンバーに入れ、超臨界状態でパラジウムを繊維に付着させることで行うことができる。
【0022】
<3>無電解めっき液
無電解めっき液としては、特に限定されないが、銅、銀、ニッケル等の無電解めっき液を例示できる。
【0023】
<4>振動の付加
振動を付加する具体的手段としては、特に限定されないが、バイブレータを例示できる。
振動の強さは、繊維束の種類、繊維の端子径、繊度、張力、線速に応じて適宜調整する。
【0024】
<5>その他
無電解めっき層の上に、別のめっき層を形成することができる。別のめっき層の金属やめっき方法は、特に限定されない。
めっきした繊維束の用途としては、特に限定されないが、導電線、めっき繊維布等を例示できる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。なお、実施例の各部の構造、材料、形状及び寸法は例示であり、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0026】
図1(b)に示すように、使用した繊維束1は、繊度が440dtex-267f(フィラメント2(直径12μm)が267本集まって1束(440dtex)となる)であるパラアラミド繊維束であり、長さ1mに切断して使用した。
【0027】
まず、繊維束1を湿式前処理法でめっき前処理した。湿式前処理法は、前述したアルカリエッチング→酸中和→表面調整→触媒付与→活性化の順に、前述した各めっき前処理液(例示した材料)に浸漬して行い、各めっき前処理液内の繊維束に振動は付与しなかった。触媒(パラジウム核、図示略)が繊維の上に接して付着した。
【0028】
次に、
図1(a)に示すように、繊維束1をめっき槽4内の無電解銅めっき液5に浸漬し、無電解銅めっきを行った。
使用した無電解銅めっき液5は、次の組成の水溶液であり、液温45℃に調整した。EDTA-4Naはエチレンジアミン四酢酸・四ナトリウムである。
硫酸銅五水和物 10g/L
EDTA-4Na 30g/L
ホルマリン 5g/L
水酸化ナトリウム 7g/L
添加剤 微量
【0029】
上記無電解銅めっきのめっき時間は、20分とした。同めっき時間中、次の表1に示すように、無電解銅めっき液5内の繊維束1を静止させた試料1と、無電解銅めっき液5内の繊維束1に振動を付加した試料2~9とを作製した。試料2~9では、無電解銅めっき液5内の繊維束1にバイブレータ6を触れさせることにより、直接的に繊維束1に振動を付加し、振動の周波数は試料ごとに変えた。
【0030】
【0031】
作製した試料1~9について、めっき前の試料の全重量とめっき後の試料の全重量との差を測定することにより、めっきの析出重量を測定した。測定結果を上の表1と
図2に示すとおり、試料1に対して試料2~9はめっきの析出重量が増加した。
【0032】
試料1を観察したところ、繊維束の表面部付近のフィラメントの上には触媒に接して銅めっき層が形成されていたが(図示略)、繊維束の内部のフィラメントについては銅めっき層の未着部分があった。
【0033】
試料2~9を観察したところ、
図1(c)に示すように、開繊された繊維束1の全フィラメント2の上に触媒に接して銅めっき層3が形成された。しかし、試料8,9は、無電解銅めっき液に含まれる界面活性剤が過剰に泡立つ不具合が起こり、銅めっき層3にピンホール状の欠陥が見られた。
【0034】
以上より、試料1は、めっきの析出重量が少ないことから比較例として位置付けられる。
試料8,9は、欠陥があることから比較例として位置付けられる。
試料2~7は、めっきの析出重量が増加し欠陥がないことから実施例として位置付けられ、
図2から、振動の周波数が50~15000Hzであれば、実施例2~7と同等の結果が得られるものと推定される。
試料3,4は、特にめっきの析出重量が多いことから好ましい実施例として位置付けられ、
図2から、振動の周波数が150~1000Hzであれば、実施例3,4と同等の結果が得られるものと推定される。
【0035】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 繊維束
2 フィラメント
3 銅めっき層
4 めっき槽
5 無電解銅めっき液
6 バイブレータ