(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ダイヤフラム、バルブ、およびダイヤフラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16K 7/12 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
F16K7/12 Z
(21)【出願番号】P 2021515955
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015584
(87)【国際公開番号】W WO2020217960
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019086334
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100183380
【氏名又は名称】山下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 研太
(72)【発明者】
【氏名】稲田 敏之
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一誠
(72)【発明者】
【氏名】中田 朋貴
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-060741(JP,A)
【文献】特開2001-295948(JP,A)
【文献】特開2013-249868(JP,A)
【文献】特開2012-026476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の薄板と、
前記薄板の一方側の面の全体に形成された薄膜層と、を備え、
前記薄膜層の表面粗さの最大高さRmaxが
0.02μmより小さい、ダイヤフラム。
【請求項2】
前記薄膜層の表面粗さの最大高さRmaxは
0.01μmより小さい、請求項
1に記載のダイヤフラム。
【請求項3】
前記薄膜層は、炭素膜またはフッ素樹脂膜である、請求項1
または請求項2に記載のダイヤフラム。
【請求項4】
前記炭素膜は、DLCにより構成されている、請求項
3に記載のダイヤフラム。
【請求項5】
流体通路が形成されたボディと、
前記ボディに設けられた弁座と、
前記弁座に当接および前記弁座から離間して前記流体通路を開閉する請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載のダイヤフラムと、を備え、
前記ダイヤフラムの前記薄膜層は、前記弁座側に位置している、バルブ。
【請求項6】
金属製の薄板と、薄膜層とを備えるダイヤフラムの製造方法であって、
前記薄板を球殻状に成形し、
前記薄板の凹状面の全体に、表面粗さの最大高さRmaxが
0.02μmより小さい前記薄膜層を形成する、ダイヤフラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置等に用いるダイヤフラム、バルブ、およびダイヤフラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化に伴い、プロセスチャンバ内へ進入するパーティクルのサイズの適切な制御が求められている。プロセスチャンバ内へのパーティクルの進入を抑制するために、基盤に薄膜層を形成したダイヤフラムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のダイヤフラムでは、薄膜層の表面の粗さは考慮されておらず、半導体の製造中にプロセスチャンバ内へ進入するパーティクルのサイズを適切に制御することができない。
【0005】
そこで本開示は、半導体の製造中にプロセスチャンバ内へ進入するパーティクルのサイズを適切に制御することができる技術を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するために、本開示の一態様であるダイヤフラムは、金属製の薄板と、前記薄板の一方側の面の全体に形成された薄膜層と、を備える。前記薄膜層の表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい。
【0007】
前記薄膜層の表面粗さの最大高さRmaxは0.02μmより小さくてもよい。
【0008】
前記薄膜層の表面粗さの最大高さRmaxは0.01μmより小さくてもよい。
【0009】
前記薄膜層は、炭素膜またはフッ素樹脂膜であってもよい。
【0010】
前記炭素膜は、DLCにより構成されていてもよい。
【0011】
本開示の一態様であるバルブは、流体通路が形成されたボディと、前記ボディに設けられた弁座と、前記弁座に当接および前記弁座から離間して前記流体通路を開閉する上記のダイヤフラムと、を備え、前記ダイヤフラムの前記薄膜層は、前記弁座側に位置している。
【0012】
本開示の一態様であるダイヤフラムの製造方法は、金属製の薄板と、薄膜層とを備えるダイヤフラムの製造方法であって、前記薄板を球殻状に成形し、前記薄板の凹状面の全体に、表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい前記薄膜層を形成する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、半導体の製造中にプロセスチャンバ内へ進入するパーティクルのサイズを適切に制御することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る開状態にあるバルブの断面図である。
【
図2】閉状態にあるバルブにおけるダイヤフラム近傍の拡大断面図である。
【
図3】(a)は、最もシート側に位置する薄板と薄膜層の断面図であり、(b)は、(a)の薄板と薄膜層の一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一実施形態に係るダイヤフラム30およびバルブ1について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る開状態にあるバルブ1の断面図である。
【0017】
図1に示すように、バルブ1は、ボディ10と、アクチュエータ20と、を備える。なお、以下の説明において、バルブ1の、アクチュエータ20側を上側、ボディ10側を下側として説明する。
【0018】
[ボディ10]
ボディ10は、ボディ本体11と、弁座であるシート12と、ボンネット13と、ダイヤフラム30と、押えアダプタ14と、ダイヤフラム押え15と、ホルダ16と、圧縮コイルスプリング17を備える。
【0019】
ボディ本体11には、弁室11aと、弁室11aに連通する流入路11bおよび流出路11cとが形成されている。樹脂製のシート12は、環状をなし、ボディ本体11において、弁室11aと流入路11bとが連通する箇所の周縁に設けられている。
図2に示すように、シート12の頂面12Aは、平面状をなしている。流入路11bおよび流出路11cは流体通路に相当する。
【0020】
図1に示すように、ボンネット13は、有蓋の略円筒状をなし、その下端部をボディ本体11に螺合させることにより、弁室11aを覆うようにボディ本体11に固定されている。
【0021】
弁体であるダイヤフラム30は、ボンネット13の下端に配置された押えアダプタ14とボディ本体11の弁室11aを形成する底面とにより、その外周縁部が挟圧され保持されている。ダイヤフラム30がシート12に対し離間および当接(圧接)することによって、流体通路の開閉が行われる。ダイヤフラム30の詳細な構成について後述する。
【0022】
ダイヤフラム押え15は、ダイヤフラム30の上側に設けられ、ダイヤフラム30の中央部を押圧可能に構成されている。ダイヤフラム押さえ15はホルダ16に嵌合されている。
【0023】
ホルダ16は、略円柱状をなし、ボンネット13内に上下移動可能に配置されている。後述のステム23Bは、ホルダ16の上部に対し螺合されている。
【0024】
圧縮コイルスプリング17は、ボンネット13内に設けられ、ホルダ16を常に下側に付勢している。バルブ1は、圧縮コイルスプリング17によって、通常時(アクチュエータ20の非作動時)は閉状態に保たれる。
【0025】
[アクチュエータ20]
アクチュエータ20は、エア駆動式であり、全体で略円柱形状をなし、ケーシング21と、仕切ディスク22と、第1ピストン部23と、第2ピストン部24と、を備える。
【0026】
ケーシング21は、下ケーシング21Aと、下端部が下ケーシング21Aの上端部に螺合された上ケーシング21Bとを有する。下ケーシング21Aは、略段付き円筒状をなしている。下ケーシング21Aの下端部の外周が、ボンネット13の貫通孔の内周に螺合されている。上ケーシング21Bは、有蓋の略円筒状をなしている。上ケーシング21Bの上端部には、流体導入路21cが形成されている。
【0027】
下ケーシング21Aの下端部の外周には、ナット25が螺合されている。ナット25は、ボンネット13に当接して、下ケーシング21Aのボンネット13に対する回動を抑制する。
【0028】
仕切ディスク22は、略円盤状をなし、ケーシング21内に移動不能に設けられている。
【0029】
第1ピストン部23は、第1ピストン23Aと、ステム23Bと、第1上延出部23Cとを有する。第1ピストン23Aは、仕切ディスク22と下ケーシング21Aとの間に設けられ、略円盤状をなしている。下ケーシング21Aと第1ピストン23Aとにより、第1圧力室S1が形成されている。
【0030】
ステム23Bは、第1ピストン23Aの中央部から下側に向かって延びている。ステム23Bは、その下端部はホルダ16に螺合されている。第1上延出部23Cは、第1ピストン23Aの中央部から上側に向かって延び、仕切ディスク22を貫通している。
【0031】
第1ピストン23A、ステム23B、および第1上延出部23Cには、上下方向に延び第1圧力室S1および第2圧力室S2に連通する第1流体流入路23dが形成されている。
【0032】
第2ピストン部24は、第2ピストン24Aと、第2上延出部24Bとを有する。第2ピストン24Aは、仕切ディスク22と上ケーシング21Bとの間に設けられ、略円盤状をなしている。仕切ディスク22と第2ピストン24Aとにより、第2圧力室S2が形成される。第2ピストン24Aには、第1上延出部23Cの上端部が連結されている。
【0033】
第2上延出部24Bは、第2ピストン24Aの中央部から上側に向かって延び、流体導入路21cに挿入されている。第2上延出部24Bには、流体導入路21cおよび第1流体流入路23dに連通する第2流体流入路24cが形成されている。
【0034】
[バルブ1の開閉動作]
次に、本実施形態に係るバルブ1の開閉動作について説明する。
図2は、閉状態にあるバルブ1におけるダイヤフラム30近傍の拡大断面図である。
【0035】
本実施形態のバルブ1では、第1、2圧力室S1、S2に駆動流体が流入していない状態では、
図2に示すように、ホルダ16およびステム23Bは圧縮コイルスプリング17の付勢力によって下死点にあり(ボディ本体11に近接し)、ダイヤフラム押え15によりダイヤフラム30が押され、ダイヤフラム30の下面がシート12に圧接されてバルブ1は閉状態となっている。つまり、バルブ1は、通常状態(駆動流体が供給されていない状態)では閉状態である。
【0036】
そして、図示せぬ駆動流体供給源からバルブ1へ駆動流体が流れる状態にする。これにより、バルブ1へ駆動流体が供給される。駆動流体は、図示せぬエアチューブおよび管継手を介して、流体導入路21cを通過し、第1、2流体流入路23d、24cを通過して、第1、2圧力室S1、S2に流入する。第1、2圧力室S1、S2に駆動流体が流入すると、第1、2ピストン23A、24Aが、圧縮コイルスプリング17の付勢力に抗して上昇する。これにより、ホルダ16、ダイヤフラム押え15およびステム23Bは上死点に移動してボディ本体11から離間し、弾性力および流体(ガス)の圧力によってダイヤフラム30は上側に移動し、流入路11bと流出路11cとが連通し、バルブ1は開状態となる。
【0037】
バルブ1を開状態から閉状態にするには、図示せぬ三方弁を、駆動流体がバルブ1のアクチュエータ20(第1、2圧力室S1、S2)から外部へ排出する流れに切り替える。これにより、第1、2圧力室S1、S2内の駆動流体が、第1、2流体流入路23d、24c、および流体導入路21cを介して、外部へ排出される。これにより、ホルダ16およびステム23Bは圧縮コイルスプリング17の付勢力によって下死点に移動し、バルブ1は閉状態となる。
【0038】
[ダイヤフラム30]
次に、ダイヤフラム30の構成について説明する。
【0039】
ダイヤフラム30は、球殻状をなし、上に凸の円弧状が自然状態となっている。ダイヤフラム30は、例えば、複数枚の金属の薄板31と薄膜層32とを備えている。各薄板31は、ニッケルコバルト合金、ステンレス鋼等により構成され、平板状の素材を円形に切り抜き、中央部を上方へ膨出させて球殻状に形成される。
【0040】
図3(a)は、最もシート12側に位置する薄板31と薄膜層32の断面図であり、(b)は、(a)の薄板31と薄膜層32の一部を拡大した断面図である。
【0041】
薄膜層32は、薄板31の凹状面である接液面31Aの全体に形成されている。接液面31Aは、薄板31の一方側の面に相当する。薄膜層32は、例えば、炭素膜またはフッ素樹脂膜である。炭素膜は、例えば、DLC(Diamond like Carbon)膜であり、フッ素樹脂膜は、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)や四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である。
【0042】
薄膜層32は、その膜厚は2~4μmであり、表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい。すなわち、薄膜層32の表面粗さの最大高さRmaxは、0μmより大きく、0.1μmより小さい。薄膜層32の表面粗さの最大高さRmaxは、好ましくは0.02μmより小さく、より好ましくは0.01μmより小さい。ここで、薄膜層32の表面粗さの最大高さ(Rmax)は、JIS B0601(2001)で規定されている「最大高さ(Rmax)」である。なお、薄板31の接液面31Aの表面粗さは、例えばRa0.05μmである。
【0043】
次に、ダイヤフラム30の製造方法について説明する。
【0044】
複数枚の円板状かつ平板状の薄板(素材)を準備し、それらを積層して接着剤等により互いに接着させて一体にする。一体化した複数枚の薄板を、プレス装置の冶具に固定して、パンチにより中央部を押圧して、球殻状に成形する。
【0045】
次に、成形後の複数枚の薄板を、成膜装置の冶具に固定して、薄板31の凹状面に薄膜層32を成膜する。薄膜層32がDLC膜である場合には、物理蒸着法(PVD)および/または化学蒸着法(CVD)により薄膜層32を成膜する。例えば、マグネトロンスパッタとPACVD(プラズマアシストCVD)とを組み合わせてDLC膜を成膜する。薄膜層32がPFA膜である場合には、静電塗装またはフィルム熱着プレスを用いて成膜する。なお、成膜条件を変更することにより、薄膜層32の表面粗さの最大高さRmaxを制御することができ、上記のような最大高さRmaxを有する薄膜層32を得ることができる。また、DLCコーティングに関して、噴霧塗装、浸漬塗装ではなく蒸着法を用いることで、被コーティング面(薄板31の接液面31A)の凹部に選択的に付着し、結果物(薄膜層32)のコーティング表面がより平滑になる。
【0046】
以上説明した本実施形態のダイヤフラム30を備えるバルブ1によれば、薄膜層32は、その膜厚は2~4μmであり、表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい。このため、パージの際中に、粒径φ0.1μm以上のサイズのパーティクルが薄膜層32の表面に捕捉され堆積することを抑制できる。よって、半導体の製造中にプロセスチャンバ内へ粒径φ0.1μm以上のサイズのパーティクルが進入するのを抑制することができる。したがって、本実施形態のダイヤフラム30を備えるバルブ1によれば、半導体の製造中にプロセスチャンバ内へ進入するパーティクルのサイズを適切に制御することができる。例えば、線幅100nmの半導体を、従来からある半導体製造装置を用いて製造する場合に、当該ダイヤフラム30を備えるバルブ1を用いることにより、製造プロセスにおいてプロセスチャンバ内へ粒径φ0.1μm以上のサイズのパーティクルが進入するのを抑制することができる。よって、従来からある半導体製造装置をそのまま用いた場合と比較して、半導体の歩留まりを向上させることができる。
【0047】
薄膜層32の表面粗さの最大高さRmaxは、好ましくは0.02μmより小さく、より好ましくは0.01μmより小さい。これにより、線幅が0.02μmの現在の半導体の製造プロセスにおいて、プロセスチャンバ内へ粒径φ0.02μm以上のサイズのパーティクルが進入するのを抑制することができる。さらに、線幅が0.01μmの次世代の半導体の製造プロセスにおいて、プロセスチャンバ内へ粒径φ0.01μm以上のサイズのパーティクルが進入するのを抑制することができる。
【0048】
薄膜層32は、炭素膜またはフッ素樹脂膜であり、炭素膜は、DLCにより構成されているので、低摩擦、耐摩耗、耐腐食性に優れたダイヤフラム30を提供することができ、シート12のダイヤフラム30への転写を抑制することができる。
【0049】
ダイヤフラム30の製造方法は、薄板31を球殻状に成形し、薄板31の凹状面の全体に、表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい薄膜層32を形成している。当該製造方法によれば、薄膜層32形成後に、薄板31の成形を行わないので、表面粗さの最大高さRmaxが0.1μmより小さい薄膜層32を有するダイヤフラム30を確実に提供することができる。
【0050】
なお、本開示は、上述した実施例に限定されない。当業者であれば、本開示の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。
【0051】
薄板31は、複数枚であったが、一枚であってもよい。また、シート12の頂面12Aは、平面状であったが、上に凸の曲面(径方向に沿った断面形状がR面)であってもよい。アクチュエータ20は、エア駆動式であったが、電磁駆動式またはピエゾ素子駆動式であってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:バルブ
11:ボディ本体
11b:流入路
11c:流出路
12:シート
30:ダイヤフラム
31:薄板
31A:接液面
32:薄膜層