IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファルモサ バイオファーマ インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】弱酸性薬物の医薬組成物および投与方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20240229BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 31/5578 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240229BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240229BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240229BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K31/5578
A61K47/02
A61K47/18
A61P9/12
A61P11/00
A61P43/00 112
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021567850
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 US2020032563
(87)【国際公開番号】W WO2020232046
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】62/847,337
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520026478
【氏名又は名称】ファルモサ バイオファーマ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カン,ペイ
(72)【発明者】
【氏名】リン,イー フォン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,コ チェー
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/023092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00 ~33/44
9/127
47/00 ~47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームが外部媒体中に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、
(a)ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される第1のリン脂質と、PEG修飾リン脂質である第2のリン脂質、または正に荷電したもしくは負に荷電したリン脂質と、コレステロール、ヘキサコハク酸コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるステロールと、の混合物を含む、外部脂質二重層;ならびに
(b)内部水性媒体であって、イロプロストである弱酸性薬物および前記内部水性媒体と前記外部媒体との間にpH勾配を提供する約50mM~約600mMの濃度である重炭酸塩を含む、内部水性媒体
を含み、
少なくとも6時間毎に、前記医薬組成物の投与後、約1~約100のピーク対トラフ薬物血漿濃度比(P/T比)を生じ、前記第1のリン脂質:前記第2のリン脂質:前記ステロールのモル比は、75~99:0.1~25:0~14.9である、医薬組成物。
【請求項2】
前記P/T比が約5~約40である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記第1のリン脂質がHSPC、DSPC、DPPC、DMPC、またはそれらの組み合わせから選択され、前記第2のリン脂質がDSPG、DPPG、DMPG、PEG-DSPE、またはそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物中の前記弱酸性薬物の効力が、遊離弱酸性薬物の効力の少なくとも2倍である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記弱酸性薬物が実質的に担体を含まない、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
肺高血圧症を治療するために用いられる、請求項1に記載の医薬組成物であって、前記医薬組成物は、少なくとも6時間毎に投与される、医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、1日に1回、2回、または3回投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が吸入によって投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記弱酸性薬物の治療効果が、前記医薬組成物の投与後少なくとも6時間維持される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
約1~約40のピーク対トラフ薬物血漿濃度比(P/T比)が、前記医薬組成物の投与後約1時間~約12時間維持される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
肺高血圧症を治療するのに有効な少なくとも1つの他の薬剤と組み合わせて投与される、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月14日に出願された米国出願第62/847,337号の利益を主張し、その開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
半減期が2時間未満の弱酸性薬物をカプセル化する少なくとも1つのリポソームを含み、1~100のピーク対トラフ薬物血漿濃度比(peak to trough drug plasma concentration ratio)(P/T比)(すなわち、より平坦な血漿プロファイル)を生じる、および/または遊離の弱酸性薬物の効力と比較してカプセル化された弱酸性薬物の効力を増加させるように製剤化された医薬組成物が、本明細書に開示される。
【背景技術】
【0003】
背景
平均肺動脈圧(PAP)が安静時に25mmHgを超えるまたは運動中に30mmHgを超えることと定義される、肺高血圧症(PH)は、しばしば肺血管抵抗の漸進的かつ持続的な増加を特徴とする。最終的には右室不全に至ることもあり、治療しなければ生命を脅かす状態となりうる。世界保健機構(WHO)は、病態生理、臨床所見、および治療の選択肢に基づいてPHを5群に分けている[J Am Coll Cardiol. 2009; 54(1 Suppl):S43-54]。
【0004】
PH(WHOグループ1)は、肺動脈、肺静脈、または肺毛細血管の血圧の上昇を特徴とする状態であり、息切れ、めまい、失神、および他の症状をもたらし、いずれも運動により悪化する。PHは、運動耐容能が著しく低下し、心不全を伴う重篤な疾患である。米国では500~1000件の新規症例が発生する希少疾患である。未治療のPH患者の生存期間中央値は、診断時から2~3年の範囲であり、死因は、通常、右心室不全である。
【0005】
吸入によってPHを治療する治療薬を投与することは、標的器官への治療薬の直接送達により、肺の特異性を高め、全身性の有害作用を低減するなどの、多くの利点を有する。また、血管拡張およびガス交換の改善による換気/灌流のマッチングを改善し、より低い総投与量で標的器官の薬物濃度を高めることができる。プロスタグランジンおよびその誘導体等の、PHを治療するための多くの治療薬が、FDAによって承認されている。吸入されたプロスタグランジンの欠点は、用量間の薬物血漿レベルの大きな変動およびプロスタグランジンの短い半減期である。これらの欠点は、頻繁な薬物吸入(4時間毎に1回、1日4~6回)を必要とし、全身性の副作用(例えば、頭痛、吐き気、紅潮、およびめまい)ならびに局所刺激(咳、喉の炎症、咽頭痛、鼻血、喀血および喘鳴など)を増加させ、最終的に吸入されたプロスタグランジンの不耐性を引き起こす(NS Hill et al, Inhaled Therapies for Pulmonary Hypertension. Respir Care 2015 Jun; 60(6): 794-802)。
【0006】
したがって、長期の治療効果および/または増強された効力を提供するが、投与頻度を低減するPHの吸入療法が必要とされている。本発明は、これらの必要性および他の必要性に対処する。
【発明の概要】
【0007】
発明の簡単な概要
本発明は、リポソームが外部媒体中に懸濁されてなる医薬組成物であって、前記リポソームが、(a)少なくとも1の小胞形成リン脂質を含む、外部脂質二重層;ならびに(b)内部水性媒体であって、2時間未満の半減期を有する弱酸性薬物および前記内部水性媒体と前記外部媒体との間にpH勾配を提供する塩を含む、内部水性媒体を含み、少なくとも6時間毎に前記医薬組成物の投与後、約1~約100のピーク対トラフ薬物血漿濃度比(peak to trough drug plasma concentration ratio)(P/T比)を生じる、医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明はまた、少なくとも6時間毎に本明細書に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、肺高血圧症を治療する方法を開示する。
【0009】
本発明は、以下の図面や詳細な説明を読むと、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の詳細な実施形態を、下記図面を参照しながら、以下で詳細に説明する。
図1A図1Aは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図1Aは8時間毎BIDであり、図1Bは10時間毎BIDであり、図1Cは12時間毎BIDであり、図1Dは8時間毎TIDである)。
図1B図1Bは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図1Aは8時間毎BIDであり、図1Bは10時間毎BIDであり、図1Cは12時間毎BIDであり、図1Dは8時間毎TIDである)。
図1C図1Cは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図1Aは8時間毎BIDであり、図1Bは10時間毎BIDであり、図1Cは12時間毎BIDであり、図1Dは8時間毎TIDである)。
図1D図1Dは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図1Aは8時間毎BIDであり、図1Bは10時間毎BIDであり、図1Cは12時間毎BIDであり、図1Dは8時間毎TIDである)。
図1E図1Eは、4時間毎QID投与されたラットにおける遊離トレプロスチニル溶液のシュミレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである。
図2A図2Aは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームイロプロスト組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図2Aは6時間毎BIDであり、図2Bは8時間毎BIDであり、図2Cは6時間毎TIDであり、図2Dは8時間毎TIDである)。
図2B図2Bは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームイロプロスト組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図2Aは6時間毎BIDであり、図2Bは8時間毎BIDであり、図2Cは6時間毎TIDであり、図2Dは8時間毎TIDである)。
図2C図2Cは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームイロプロスト組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図2Aは6時間毎BIDであり、図2Bは8時間毎BIDであり、図2Cは6時間毎TIDであり、図2Dは8時間毎TIDである)。
図2D図2Dは、異なる投与頻度でのラットにおけるリポソームイロプロスト組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである(図2Aは6時間毎BIDであり、図2Bは8時間毎BIDであり、図2Cは6時間毎TIDであり、図2Dは8時間毎TIDである)。
図2E図2Eは、2時間毎、1日6回投与されたラットにおける遊離イロプロスト溶液のシュミレートされたおよび測定されたイロプロスト血漿レベルを示す折れ線グラフである。
図3A図3Aは、異なる投薬頻度でのヒトにおけるリポソームトレプロスチニル(Tyvaso)組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す線グラフである(図3Aは8時間毎BIDであり、図3Bは10時間毎BIDであり、図3Cは12時間毎BIDであり、図3Dは8時間毎TIDである)。
図3B図3Bは、異なる投薬頻度でのヒトにおけるリポソームトレプロスチニル(Tyvaso)組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す線グラフである(図3Aは8時間毎BIDであり、図3Bは10時間毎BIDであり、図3Cは12時間毎BIDであり、図3Dは8時間毎TIDである)。
図3C図3Cは、異なる投薬頻度でのヒトにおけるリポソームトレプロスチニル(Tyvaso)組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す線グラフである(図3Aは8時間毎BIDであり、図3Bは10時間毎BIDであり、図3Cは12時間毎BIDであり、図3Dは8時間毎TIDである)。
図3D図3Dは、異なる投薬頻度でのヒトにおけるリポソームトレプロスチニル(Tyvaso)組成物のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す線グラフである(図3Aは8時間毎BIDであり、図3Bは10時間毎BIDであり、図3Cは12時間毎BIDであり、図3Dは8時間毎TIDである)。
図3E図3Eは、4時間毎QID投与されたヒトにおける遊離Tyvaso溶液のシミュレートされたおよび測定されたトレプロスチニル血漿レベルを示す折れ線グラフである。
図4A図4Aは、生理食塩水、遊離トレプロスチニル溶液(TRE溶液)または本発明のリポソームトレプロスチニル組成物(リポソームTRE)を投与されたPHラットにおけるPAPの減少を示す線グラフである。
図4B図4Bは、遊離トレプロスチニル溶液またはリポソームトレプロスチニル組成物を投与されたPHラットにおけるトレプロスチニル血漿濃度を示す折れ線グラフである。
図5A図5Aは、生理食塩水、遊離イロプロスト液(ILO溶液)または本発明のリポソームイロプロスト組成物(リポソームILO)を投与されたPHラットにおけるPAPの減少を示す折れ線グラフである。
図5B図5Bは、遊離イロプロスト溶液またはリポソームイロプロスト組成物を投与されたPHラットにおけるイロプロスト血漿濃度を示す折れ線グラフである。(* 5匹の研究ラットの平均血漿濃度であるが、うち2匹は0.25時間で定量下限(LLOQ)を下回る薬物レベルを有し、0とみなした)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本明細書で使用される、冠詞「a」及び「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)を指す。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0012】
すべての数字は、「約」という用語によって修飾されている。本明細書で使用される、「約」という用語は、特定の値の±10%の範囲を指す。
【0013】
「含む(comprise)」または「含む(comprising)」という用語は、一般に、1つ以上の特徴(features)、成分(ingredients)または構成(components)が存在しうることを意味する含む(include/including)の意味で使用される。
【0014】
「対象(subject)」という用語は、肺高血圧症を有する脊椎動物または肺高血圧症の治療を必要とすると考えられる脊椎動物を指すことができる。対象としては、霊長類などの、哺乳動物などの、温血動物が含まれるが、より好ましくはヒトである。非ヒト霊長類も対象である。対象という用語には、猫、犬などの家飼いの動物、家畜(例えば、牛、馬、豚、羊、ヤギなど)および実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、スナネズミ、モルモットなど)が含まれる。したがって、本明細書では、獣医学的用途および医療製剤が包含される。
【0015】
「治療(treating)」という用語は、治療のための処置および予防のための(prophylactic)または予防のための(preventative)措置の双方を指す。治療を必要とするものには、PHを既に有するもの、慢性肺塞栓症、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの状態に起因してPHを有する傾向があるもの、またはPHが予防されるべきであるものが含まれる。本明細書に記載される医薬組成物の適用または投与は、PH、PHの症状または状態、PHによって誘導される障害、またはPHの進行を治癒する(cure)、治癒する(heal)、軽減する(alleviate)、軽減する(relieve)、改変(alter)、治療する(remedy)、軽減する(ameliorate)、改善する(improve)または影響する(effect)ことを目的とする。
【0016】
本明細書で使用される、「カプセル化(encapsulation)」、「ロードされた(loaded)」および「封入された(entrapped)」という用語は、交換可能に使用することができ、リポソームの内部水性媒体における生物学的活性剤(例えば、イロプロスト)の組み込み(incorporation)または会合(association)を指す。
【0017】
本明細書中で使用される、「実質的に含まない」とは、医薬組成物が5%、4%、3%、2%または1%未満の特定の物質を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、医薬組成物が特定の物質を含まない。
【0018】
「薬物効力(drug potency)」という用語は、PAP減少のAUC(曲線下面積(area under the curve))÷薬物血漿濃度のAUCとして定義される。
【0019】
本明細書で使用される弱酸性薬物(weak acid drug)は、特記しない限りまたは文脈から明らかでない限り、その薬学的に許容される塩およびそのプロトン化形態を包含する。一実施形態では、弱酸性薬物は、1分~2時間、1分~1.5時間、1分~1時間、10分~2時間、または30分~2時間の半減期を有する。他の実施形態では、弱酸性薬物は、1~7、1~6、2~6、2~6.9、2.5~7、または2.5~6の間のpKaを有する。さらなる他の実施形態では、弱酸性薬物は、プロスタグランジンである。表1は、半減期が2時間未満の弱酸性薬物の非限定的な例を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
一実施形態において、2時間未満の半減期を有する弱酸性薬物は、プロドラッグではない。他の実施形態では、弱酸性薬物は、ポリマー、ヒドロゲルまたは十分に水和されたポリマーマトリックスなどの、担体を実質的に含まない。いかなる特定の理論にも拘束されないが、担体と2時間未満の半減期を有する弱酸との組み合わせ(例えば、ポリマーとトレプロスチニル)は、薬物がポリマーから放出されず、肺に蓄積し、望ましくない副作用をもたらす可能性があるため、吸入に適していないと考えられる。また、このような組み合わせは、凝固を引き起こすので、非経口投与に適していない。
【0022】
本発明は、リポソームが外部媒体中に懸濁されてなり、前記リポソームが、(a)少なくとも1の小胞形成リン脂質を含む、外部脂質二重層;ならびに(b)内部水性媒体であって、半減期が2時間未満である弱酸性薬物および前記内部水性媒体と前記外部媒体との間にpH勾配を提供する弱酸性塩を含む、内部水性媒体を含み、少なくとも6時間毎に前記医薬組成物の投与後、約1~約100のピーク対トラフ薬物血漿濃度比(P/T比)を生じる、より平坦な血漿プロファイルを有する制御放出医薬組成物(controlled released pharmaceutical composition)を提供する。
【0023】
本明細書中で使用される、「P/T比」という用語は、少なくとも2回の投与間の弱酸性薬物のピーク血漿レベル(peak plasma level)(例えば、最高定常状態血漿濃度(highest steady state plasma concentration))と少なくとも2回の投与間の弱酸性薬物のトラフ血漿レベル(trough plasma level)(例えば、最低定常状態血漿濃度(lowest steady state plasma concentration))との間の比を意味することを意図している。より狭いP/T比、例えば、100、90、80、70、60、50、40未満、およびより平坦な血漿プロファイルは、少なくとも6時間治療効果を維持し、弱酸性薬物の投薬頻度を減少させる。
【0024】
医薬組成物のP/T比は、少なくとも6時間毎の投与頻度で、100未満、約10~100、10~95、10~90、10~85、10~80、10~75、10~70,10~65、10~60、10~55、10~50,5~100,5~95、5~90,5~85,5~80、5~75、5~70、5~65、5~60、5~55、5~50、2~100,2~95、2~90,2~85、2~80、2~75、2~70、2~65、2~60,2~55、2~50,1~100,1~95,1~90、1~85、1~80、1~75、1~70,1~65、1~60、1~55,1~50,1~45、1~40、1~39、1~38,1~37,1~36、1~35、1~34、1~33、1~32、1~31、1~30,1~29,1~28,1~27,1~26,1~25,1~24,1~23,1~22、1~21、1~20、またはそれらの間の任意の範囲(例えば、5~40)であるが、対応する遊離薬物(例えば、トレプロスチニルおよびイロプロスト)のP/T比は6時間毎より少ない投与頻度で100を超える。
【0025】
例示的な実施形態では、医薬組成物中にカプセル化されたイロプロストのP/T比は、6、8、10または12時間毎の投薬レジメで約5~約40である。他の例示的な実施形態では、医薬組成物中にカプセル化されたトレプロスチニルのP/T比は、6、8、10または12時間毎の投薬レジメで約1~約20である。
【0026】
特許請求されるP/T比を有する本発明の医薬組成物は、以下の特徴を有する:
PAP減少を増大させ、弱酸性薬物の効力を高める。医薬組成物の効力は、遊離弱酸性薬物の効力よりも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15倍高い。いかなる特定の理論にも拘束されないが、弱酸性薬物(例えば、プロスタサイクリンおよび/またはその類似体)の初期スパイク血漿レベル(initial spiked plasma level)および/または高いP/T比が異なるプロスタノイド受容体サブタイプの活性化を介して、血管収縮および血管拡張の両方を媒介すると考えられる。したがって、高いP/T比を有する弱酸性薬物は、血漿中のピーク薬物濃度が高くなり、これにより肺血管系を収縮させる血管収縮受容体(例えば、DP、IP、EPおよびEP)の活性化によるPAP減少が少なくなる。他方、より低いP/T比(例えば、100未満)を有する弱酸性薬物は、薬物血漿濃度の初期のスパイクを防ぎ(すなわち、より平坦な血漿プロファイル)、ゆえに肺血管系を拡張する血管拡張受容体(例えば、EP、EPおよびFP)のみの活性化によりPAP減少を大きくし、薬効を増加させる。
【0027】
弱酸性薬物の治療効果は、医薬組成物の単回投与後少なくとも6時間維持され、したがって、投与頻度を減少させ(すなわち、1日1~3回)、副作用を減少させる。
【0028】
例示的な実施形態では、トレプロスチニルの治療効果は6~12時間維持される。他の例示的な実施形態では、イロプロストの治療効果は少なくとも6時間維持される。
【0029】
医薬組成物のより高い薬物濃度(例えば、1.0mg/mLより高いプロスタサイクリンまたはその類似体)により、薬物血漿濃度の初期スパイクを誘発することなく、遊離薬物の量(1分あたり0.18mgのトレプロスチニル)と比較して遊離薬物のと比較して、所与の時間においてより高い量の薬物を送達することができる(例えば、1分あたり0.45mgのトレプロスチニルを送達することができる)。
【0030】
本発明はさらに、治療有効量の本明細書に記載の医薬組成物を投与することによって、PHを治療するための方法を提供する。
【0031】
本明細書で使用される「治療有効量」とは、PHを有する対象に治療効果を付与する弱酸性薬物の量をいい、投与経路および頻度、体重ならびに年齢等の、様々な要因により変化することがある。当業者は、本明細書の開示、確立された方法、および自身の経験に基づいて、それぞれの場合において用量を決定することができる。「治療効果」という用語は、ベースラインから少なくとも20%のPAP減少をいう。
【0032】
本明細書に記載される医薬組成物は、経口的に、吸入、注射(例えば、動脈内、静脈内、腹腔内、皮下、硝子体内、髄腔内、関節内、筋肉内、他のヒト体腔内)によって投与され得る。いくつかの実施形態において、吸入は、定量吸入器、乾燥粉末吸入器、ネブライザー、ソフトミスト吸入器を介して投与される、またはエアロゾルを介して分散される(鼻腔内および肺投与を含む)。
【0033】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1日に1~3回投与されてもよい。他の実施形態では、医薬組成物の投薬頻度は、約6時間毎、6.5時間毎、7時間毎、7.5時間毎、8時間毎、8.5時間毎、9時間毎、9.5時間毎、10時間毎、10.5時間毎、11時間毎、11.5時間毎、12時間毎、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、PHを治療するための他の治療剤と共に投与される。PHを治療するための治療剤の非限定的な例としては、PDE-5阻害剤、カルシウムチャネルブロッカー、エンドセリン受容体アンタゴニスト、グアニル酸シクラーゼ刺激剤、抗凝固剤、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
リポソーム成分
本明細書で使用される「リポソーム」という用語は、内部水性媒体を封入する1以上の脂質二重層で構成される微視的な(microscopic)小胞(vesicles)または粒子(particles)を指す。リポソームを形成するには、少なくとも1つの「小胞形成脂質(vesicle-forming lipid)」の存在が必要であり、これは脂質二重層を形成するまたは脂質二重層に組み込まれることができる両親媒性脂質である。適切な小胞形成脂質を使用して、リポソームを構成する脂質二重層を形成することができる。小胞形成脂質としては、以下に限定されないが、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)またはホスファチジルセリン(PS)などのリン脂質、および正に帯電した脂質または負に帯電した脂質などの荷電脂質(charged lipids)などがある。
【0036】
リポソームの脂質二重層は、ステロール(例えば、0~14.99モル%)をさらに含み、前記ステロールは、コレステロール、ヘキサコハク酸コレステロール(cholesterol hexasuccinate) 、エルゴステロール、ラノステロール、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるが、これらに限定されない。具体的な実施形態では、ステロールはコレステロールである。
【0037】
いくつかの実施形態では、小胞形成脂質は、第1のリン脂質および第2のリン脂質の混合物である。特定の実施形態では、第1のリン脂質は、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアリロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、オレオイルパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジペトロセリノイルホスファチジルコリン、パルミトイルエレイドイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジウンデカノイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ジノナノイルホスファチジルコリン、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ホスファチジルコリン(PC)である。他の実施形態では、第2のリン脂質は、1,2-ジステアロリ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-PEG2000)などの約500~約10,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールを含む、ポリエチレングリコール修飾リン脂質、ジステアリロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)またはジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)またはジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)などの負に帯電したリン脂質である。具体的な実施形態では、第1のリン脂質:コレステロール:第2のリン脂質のモル比は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0038】
他の実施形態では、小胞形成脂質は、第1のリン脂質および荷電脂質の混合物である。具体的な実施形態では、小胞形成脂質は、第1のリン脂質、第2のリン脂質、および荷電脂質の混合物である。荷電脂質としては、ステアリルアミン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP)、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-コレステロール)、N-コレステリル-スペルミン(GL67)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、エチルホスホコリン(エチルPC)またはそれらの組み合わせがある。他の具体的な実施形態では、第1のリン脂質:コレステロール:荷電脂質のモル%は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0039】
一実施形態では、脂質二重層中のHSPC、コレステロール、およびDSPGのモル%は、75~99:0~14.9:0.1~25である。他の実施形態では、脂質二重層中のHSPC、コレステロール及びDSPE-PEG2000のモル%は、75~99:0~14.9:0.1~25である。
【0040】
一実施形態では、リポソームの外部脂質二重層は、界面活性剤をさらに含み、これは非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤または双性イオン性界面活性剤であってもよい。非イオン性界面活性剤は、そのヘッドに正式に帯電した基を持たない。カチオン性界面活性剤は、そのヘッドに正味の正電荷を持つ。双性イオン界面活性剤は、電気的に中性であるが、異なる原子に正と負の正式な電荷を持つ。
【0041】
非イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、非イオン性水溶性モノ-、ジ-、およびトリ-グリセリド;ポリエチレングリコールの非イオン性水溶性モノ-およびジ-脂肪酸エステル;非イオン性水溶性ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、TWEEN 20(ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレエート)、SPAN 80などのソルビタンモノオレエート);非イオン性水溶性トリブロック共重合体(例えば、POLOXAMER 406(PLURONIC F-127)などのポリ(エチレンオキシド)/ポリ-(プロピレンオキシド)/ポリ(エチレンオキシド)トリブロック共重合体)またはその誘導体がある。
【0042】
カチオン性界面活性剤の非限定的な例としては、臭化ジメチルジアルキルアンモニウムまたは臭化ドデシルトリメチルアンモニウムがある。
【0043】
双性イオン性界面活性剤の非限定的な例としては、3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)-プロパンスルホネートがある。
【0044】
懸濁液中のリポソームは、サイズの縮小に供される。リポソームのサイズは、通常、その直径を指す。リポソームのサイズの縮小は、押出、超音波処理、均質化技術または粉砕技術などの多くの方法によって達成することができ、これらはよく知られており、当業者によって実施することができる。押出は、リポソームを加圧下で、規定の孔径を有するフィルターに1回以上通すことを含む。フィルターは、通常、ポリカーボネート製であるが、リポソームと相互作用せず、十分な圧力下で押し出すことができるほど十分に強い耐久性材料で作製されてもよい。リポソームのサイズは、超音波処理によって小さくすることができ、超音波処理は、音波エネルギーを使用してリポソームを破壊またはせん断して、自発的により小さなリポソームに再形成するであろう。例えば、超音波処理は、リポソーム懸濁液を含むガラス管を、バス型ソニケーターで生成された音波震源(sonic epicenter)に浸漬することによって実施できる、または、プローブ型のソニケーターを使用してもよく、その場合には、音波エネルギーは、リポソーム懸濁液と直接接触するチタン製プローブの振動によって生成される。本発明において、リポソームは、通常、約500nm以下、約400nm以下、約300nm以下、約200nm以下または約100nm以下などの、約50nm~500nmの直径を有する。
【0045】
サイジング後、外部媒体中の弱酸性塩の濃度を調整して、内部水性媒体と外部媒体との間にpH勾配を提供する。これは、例えば、透析ろ過、透析、限外ろ過、または接線流ろ過(tangential flow filtration)などの方法により、外部媒体をクエン酸緩衝液(HO)やリン酸緩衝液(HPO)などの弱酸性塩を含まない適切な緩衝液と交換するなど、様々な方法で実施できる。
【0046】
弱酸性塩は、リポソームの外部媒体と内部水性媒体との間に、より低い外部とより高い内部のpH勾配を提供する。一実施形態では、外部水性媒体pHのpHは、弱酸性薬物のpKaよりも少なくとも0.1単位、0.5単位または1単位高い。さらに他の実施形態では、内部水性媒体のpHは、約7、8、9または10であり、外部媒体のpHは7未満、6未満、5未満、4未満、3未満、約3~7,約3.5~6.5、または約4~6である。
【0047】
弱酸性塩の非限定的な例としては、カルボン酸塩および重炭酸塩がある。
【0048】
本明細書で使用される「重炭酸塩(Bicarbonate salt)」は、重炭酸アニオンおよびカチオン成分を含む薬学的に許容される塩化合物を指す。一実施形態では、塩化合物のカチオン成分は金属である。金属の非限定的な例としては、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セシウム(Cs)、およびリチウム(Li)などのIAまたはIIA族金属または鉄(Fe)およびニッケル(Ni)などのIAまたはIIA族以外の金属がある。重炭酸塩の例としては、以下に限定されないが、重炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カルシウム、重炭酸マグネシウム、重炭酸セシウム、重炭酸リチウム、重炭酸ニッケル、重炭酸第一鉄(ferrous iron bicarbonate)またはそれらの任意の組み合わせがある。
【0049】
本明細書で使用される「カルボン酸塩(Carboxylic acid salt)」としては、以下に限定されないが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、イソ酪酸塩、吉草酸塩、イソ吉草酸塩またはそれらの組み合わせがある。例示的な一実施形態では、酢酸塩は、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、またはそれらの組み合わせである。
【0050】
重炭酸塩またはカルボン酸塩の濃度は、50mM以上、100mM以上、150mM以上、200mM以上、250mM以上、300mM以上、350mM以上、400mM以上、450mM以上、500mM以上、600mM以上、700M以上、800mM以上 900mM、1000mM未満、50mM以上1000mM未満、50mM~800mM、200mM以上1000mM未満、200mM~800mM、または200mM~600mM、250mM以上1000mM未満、250mM~800mM、または250mM~600mM、300mM~600mMである。
【0051】
調製されたリポソームは、弱酸性薬物のローディング(loading)および対象への投与の前かなりの期間保存してもよい。例えば、リポソームは、弱酸性薬物のローディング(loading)前のかなりの期間、冷蔵状態で保存してもよい。あるいは、リポソームを脱水し、保存し、続いて再水和し、投与前に弱酸性薬物をロードしてもよい。リポソームはまた、弱酸性薬物をロードした後に、脱水してもよい。脱水は、当技術分野で利用可能で知られている多くの方法によって実施することができる。いくつかの実施形態では、リポソームは、標準的な凍結乾燥装置、すなわち低圧条件下での脱水を使用して脱水される。また、リポソームは、例えば、液体窒素を使用して凍結してもよい。脱水の前に、サッカリドをリポソーム環境、例えば、リポソームを含む緩衝液に加え、脱水中のリポソームの安定性と完全性(integrity)を確保してもよい。サッカリドの例としては、以下に限定されないが、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、またはそれらの組み合わせがある。
【0052】
本開示を、下記例においてさらに説明する。しかしながら、下記例は、説明を目的としているのみであり、実際に本開示を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0053】
実施例
リポソームトレプロスチニル組成物
リポソームコロイド懸濁液を、以下のようにエタノール注入技術を用いて調製した。
【0054】
第1のリン脂質(すなわち、HSPC)、コレステロールおよび第2のリン脂質(すなわち、DSPG)を3:2:0.075のモル比で含むすべての脂質成分を、約60℃で2.86mLのエタノール溶液に溶解した。次に、得られた脂質溶液を、17.14mLの重炭酸ナトリウム溶液(400mM;pH 8.5)に注入し、リポソーム水和のために60℃で激しく撹拌しながら混合し、続いて、特定の孔径(それぞれ200および/または100nm)を有するポリカーボネート膜で6~10回押し出した。100nm~140nmの平均粒径および<0.2の多分散指数(PdI)を有するリポソームの懸濁液が得られた。このリポソームの懸濁液を、50mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に対して接線流ろ過システム(tangential flow filtration system)で透析して、リポソームの内部水性コアと外部媒体との間に膜間pH勾配(transmembrane pH gradient)(すなわち、内部がより高いおよび外部がより低いpH勾配)を形成した後、薬物ローディング(drug loading)まで4℃で保存した。
【0055】
トレプロスチニル(Cayman Chemical,USAから市販されている)を50mMのクエン酸ナトリウム水溶液に溶解し、次いで、1.5mg/mL対10mMの薬物対リン脂質比で前段落のリポソームの懸濁液に添加し、40℃で30分間インキュベートした。得られた生成物をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)で調整して、外部媒体のpHが5.5であり、リン脂質濃度が8.59mg/mLであるリポソームトレプロスチニル組成物を得た。
【0056】
リポソームイロプロスト組成物
リポソームコロイド懸濁液を、以下のようにエタノール注入技術を用いて調製した。
【0057】
98:2のモル比で第1のリン脂質(すなわち、HSPC)および第2のリン脂質(すなわち、DSPE-PEG2000)を含むすべての脂質成分を、約60℃で2.86mLのエタノール溶液に溶解した。次いで、得られた脂質溶液を、シクロデキストリン(すなわち、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(90mM))を含む17.14mLの重炭酸ナトリウム溶液(200mM;pH 8.5)に注入し、リポソーム水和のために60℃で激しく撹拌しながら混合し、続いて、特定の孔径(それぞれ200および/または100nm)を有するポリカーボネート膜で6~10回押し出した。100nm~140nmの平均粒径および<0.02の多分散指数(PdI)を有するリポソームの懸濁液が得られた。このリポソームの懸濁液を、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に対して接線流ろ過システム(tangential flow filtration system)で透析して、リポソームの内部水性コアと外部媒体との間に膜間pH勾配(transmembrane pH gradient)を形成した(すなわち、内部がより高いおよび外部がより低いpH勾配)後、薬物ローディング(drug loading)まで4℃で保存した。
【0058】
イロプロスト(Cayman Chemical,USAから市販されている)を50mMのクエン酸ナトリウム水溶液に溶解し、次いで、0.25mg/mL対10mMの薬物対リン脂質比で前段落のリポソームの懸濁液に添加し、40℃で30分間インキュベートした。得られた生成物をクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)で調整して、外部媒体のpHが5.5であり、リン脂質濃度が8.59mg/mLであるリポソームイロプロスト組成物を得た。
【0059】
遊離トレプロスチニル溶液の調製
遊離トレプロスチニル溶液は、6.52mg/mLの塩化ナトリウム、6.31mg/mLのクエン酸ナトリウムおよび0.2mg/mLの水酸化ナトリウムを含有する10mL溶液に0.6mgのトレプロスチニルを溶解することによって調製した。溶液のpHを、1N塩酸を用いて6.0~7.2に調節した。
【0060】
遊離イロプロスト溶液の調製
遊離イロプロスト溶液は、1.62mg/mLのエタノール、0.242mg/mLのトロメタミンおよび9.0mg/mLの塩化ナトリウムを含有する10mLの溶液に0.02mgのイロプロストを溶解することによって調製した。
【0061】
トレプロスチニル濃度の分析方法
PDA検出器を備えたWaters HPLCシステムを用いて、リポソームトレプロスチニル組成物または遊離トレプロスチニル溶液中のトレプロスチニル濃度の分析を行った。試料溶液20μLのアリコートを、50:50の容積比のアセトニトリルおよびリン酸緩衝液(pH 2.5)の混合物を移動相として用いて1.0mL/分の流速でHPLCシステムに直接注入した。分離を、45℃でC18カラム、4.6mm×7.5cm、3.5μmで行い、ピークを220nmで検出した。
【0062】
イロプロスト濃度の分析方法
PDA検出器を備えたWaters HPLCシステムを用いて、リポソームイロプロスト組成物または遊離イロプロスト溶液中のイロプロスト濃度の分析を行った。試料溶液30μLのアリコートを、36:17:47の容積比のアセトニトリル、メタノールおよびリン酸緩衝液(pH 2.5)の混合物を移動相として用いて1.0mL/分の流速でHPLCシステムに直接注入した。分離を、25℃で3.9mm×15.0cm、5.0μmで行い、ピークを205nmで検出した。
【0063】
ラットにおける測定された薬物動態(PK)プロファイル
試験物質(トレプロスチニルまたはイロプロストを含むリポソーム組成物、遊離トレプロスチニル溶液またはイロプロスト溶液)を、高圧シリンジ(PennCentury)に取り付けたマイクロスプレーエアロゾル装置(MicroSprayer, PennCentury, Philadelphia, PA)によって研究動物に投与した。各Sprague Dawleyラット(>250g)をイソフルランで麻酔し、上歯によって45°~50°の角度でしっかりと配置した。マイクロスプレーエアロゾルチップを気管分岐部に挿入し、0.5mL/kgの試験物質を投与した。
【0064】
各所定の時点で、ラットの血液サンプルをヘパリン含有チューブに集め、湿った氷上に維持した。次いで、血液サンプルを、集めてから1時間以内に、約2500×gで15分間、4±2℃で遠心分離して、血漿を血球から分離した。約0.1mLの血漿サンプルを新しい貯蔵チューブに加え、-70±2℃で貯蔵した。
【0065】
50μLの血漿サンプルを150μLのアセトニトリルと混合し、この混合物を1分間ボルテックスして血漿タンパク質のトレプロスチニルへの結合を破壊し、続いて3000rpmで5分間遠心分離することによって、血漿トレプロスチニル濃度を測定した。上清(150μL)を等容量のHOと混合し、液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー(LC-MS/MS)分析に供した(表2)。
【0066】
血漿イロプロスト濃度を、30μLの血漿サンプルを3mLのメチルtert-ブチルエーテルと混合し、1分間ボルテックス混合することによって測定した。次いで、ギ酸溶液(2%)1mLを添加し、得られた混合物を2分間ボルテックスして、イロプロストへの血漿タンパク質の結合を破壊し、続いて3000rpmで5分間遠心分離した。上清(150μL)を清浄なチューブに移し、N気流下で35℃で15分間蒸発乾固させ、200μLのHOと混合し、LC-MS/MS分析に供した(表2)。
【0067】
【表2】
【0068】
健常ヒトにおける測定された薬物動態(PK)プロファイル
リポソームトレプロスチニル組成物を、マイクロネブライザー(Micro nebulizers)(Philips Health Care, Chichester, UK)を使用して健常ヒト対象(放出用量(emitted dose) 51μg;n=6)に投与した。吸入後の所定の時点で、トレプロスチニル血漿濃度を評価した。液体/液体抽出によりトレプロスチニルを単離し、上清を窒素気流下で蒸発させ、残りの残渣を再構成した。最終抽出物をUPLCおよびMS/MS検出により分析した(表3)。
【0069】
【表3】
【0070】
意識のある急性PHラットモデル(Conscious Acute PH Rat Model)における薬物動態(PK)および薬力学(PD)の評価
ラットにおける急性PHの誘導
体重約300~350gの雄のSprague Dawleyラットをこの研究に使用した。圧力カテーテルの一端をラットの肺動脈(PA)に挿入し、圧力を測定した。カテーテルの他端を首のうなじに露出させ、圧力トランスデューサーに接続した。翌日、ラットを低酸素チャンバーに移した(酸素濃度は10%/FiO=0.1)。遷延性PH(persistent PH)を誘導するために、ラットを低酸素チャンバー中に一晩放置した。一旦PHが確立されると、マイクロスプレーヤーを使用して、気管分岐部のすぐ上に試験物質を送達した。各所定の時点で、PAPを30秒間連続的に測定し(平均PAPを計算するため)、血液サンプルを集めた。
【0071】
シミュレートされた血漿プロファイル
シミュレートされた血漿プロファイルは、特定の期間後(すなわち、吸入してから8、10および12時間後)のラットまたはヒトにおける測定された薬物血漿レベルに基づいて、線形内部法(linear internalmethod)を使用して計算された。
【0072】
実施例1:健常ラットにおけるトレプロスチニル血漿レベルへのリポソームトレプロスチニル組成物の効果
図1A~1Dは、異なる投薬頻度でのラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物の測定されたおよびシミュレートされたPKプロファイルを示す。トレプロスチニル血漿レベルは、48μg/kgのリポソームトレプロスチニル組成物を気管内投与してから、8時間までは2.0~3.0ng/mLであり、12時間後に0.3ng/mLまで低下した(図1A~1Dの測定データ参照)。したがって、本発明のリポソームトレプロスチニル組成物は、トレプロスチニルの治療血漿レベルを維持しながら、1日2回(BID、8、10または12時間毎)または1日3回(TID、8時間毎)送達することができる(図1A~1Dのシミュレートされたプロファイルを参照のこと)。
【0073】
図1Eは、4時間毎にQID投与された遊離トレプロストニル溶液(12μg/kg)の測定されたおよびシミュレートされたPKプロファイルを示す。血漿濃度は、トレプロスチニル吸入の1時間以内(Tmax=0.083時間)に非常に高いピーク(8.0ng/mL)に達し、トレプロスチニル吸入の4時間以内に定量下限値(25pg/mLでのLLOQ)未満にまで低下した(図1E、測定データ)。このpKプロファイルは、4時間毎に1日4回(QID)である、吸入Tyvaso(トレプロスチニル)の処方情報に列挙される投与スケジュールと一致する(図1E、シミュレートされたプロファイル)。
【0074】
リポソームトレプロスチニル組成物のBIDまたはTID投与スケジュールによれば、遊離トレプロスチニル溶液のQID投与スケジュール(P/T比=121)と比較して、より平坦な血漿プロファイルおよびより低いP/T比(10未満)が得られる(表4を参照のこと)。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例2:健常ラットにおけるイロプロスト血漿レベルへのリポソームイロプロスト組成物の効果
リポソームイロプロスト組成物(60μg/kg)の気管内投与後、イロプロスト血漿濃度は投与の5分以内にピークCmax(8.10ng/mL)に達し、投与の8時間後には0.32ng/mL、投与の12時間後には0.17ng/mLにまで徐々に減少した(図2A~2D、測定データ)。したがって、リポソームイロプロスト組成物は、イロプロストの治療血漿レベルを維持しながら、1日2回(BID、6~8時間毎)または1日3回(TID、6~8時間毎)送達することができる(図2A~2Dのシミュレートされたプロファイルを参照のこと)。
【0077】
遊離イロプロスト溶液(60μg/kg投与量)のラットPKプロファイルは、リポソームイロプロスト組成物のと同様に、0.083時間(Tmax)でより高いピーク血漿濃度(32ng/mL)に達したが、Cmaxはリポソームイロプロスト組成物の約4倍であった。イロプロスト血漿濃度は、投薬後1時間以内にLLOQ(100pg/mL)未満に低下した(図2E、測定データ)。このpKプロファイルは、2時間毎に1日6~9回(QID)である、吸入Ventavis(イロプロスト)の処方情報に列挙された投与スケジュールと一致する(図2E、シミュレートされたプロファイル)。
【0078】
リポソームイロプロスト組成物のBIDまたはTID投与スケジュールによれば、2時間毎に投与された遊離イロプロスト溶液のものと比較して、より平坦な血漿プロファイルが得られる(表5を参照のこと)。
【0079】
【表5】
【0080】
実施例3:健常ヒトにおけるトレプロスチニル血漿レベルへのリポソームトレプロスチニル組成物の効果
吸入リポソームトレプロスチニル組成物(102μg放出用量)のヒトPKプロファイルは、血漿トレプロスチニル濃度が投与後8時間0.12~0.26ng/mLの間に維持され、投与後12時間で0.02ng/mLに徐々に減少したことを示す(図3A~3D、測定データ)。したがって、本発明のリポソーム組成物は、トレプロスチニルの治療的血漿レベルを維持しながら、1日2回(BID、8、10および12時間毎)または1日3回(TID、8時間毎)で投与され得る(図3A~3D、シミュレートされたプロファイル)。
【0081】
ヒトにおけるリポソームトレプロスチニル組成物のBIDまたはTID投与スケジュールによれば、ヒトにおける遊離トレプロスチニル溶液のQID投与スケジュール(P/T比=845)と比較して、より平坦な血漿プロファイルおよびより低いP/T比(15未満)が得られる(表6を参照のこと)。
【0082】
図3Eの遊離Tyvaso(トレプロスチニル)溶液(54μg/kg)の参考データは、健常なボランティアにおける公開されたPhase I単回投与エスカレーション研究から抽出され[Drug Design, Development and Therapy 2012:6 19-28]、0.167時間(Tmax)でより高いピーク血漿濃度(0.845ng/mL)に達し、投与4時間後に100pg/mLにまで低下した。図3Eの遊離Tyvaso(トレプロスチニル)溶液のシミュレートされたプロファイルは、遊離Tyvasoの参考データに基づいて推定され、4時間毎に予定されている1日4回(QID)の、吸入Tyvasoの処方情報に列挙された投与スケジュールと一致する。
【0083】
【表6】
【0084】
実施例4:PHラットにおけるリポソームトレプロスチニル組成物の効果
リポソームトレプロスチニル組成物のPKおよびPDプロファイルを、急性PHを有する意識のあるラットで評価した。ラットにおける低酸素誘発性PHの信頼性を確認するために、生理食塩水対照群を含めた。生理食塩水対照群のラットのPAPは、12時間まで上昇したままであった。
【0085】
前述した方法に従い、PHラットに、6μg/kgの遊離トレプロスチニル溶液または6μg/kgのリポソームトレプロスチニル組成物を投与した。
【0086】
遊離トレプロスチニル溶液を投与したPHラットは、PAPの軽度の減少を示した。最大効果(PAPがベースラインの低酸素値の79%に低下)は投与0.5時間後に認められ、トレプロスチニル血漿レベルは約1ng/mLであった。
【0087】
リポソームトレプロスチニル組成物で処置したPHラットについては、PAPは、生理食塩水または遊離トレプロスチニル溶液で処置したラットのよりも持続して低かった。PAPの低下(ベースラインの低酸素値の69%以下のPAP低下)は投与後12時間まで持続した(図4A)。この結果から、リポソームトレプロスチニル組成物は、遊離トレプロスチニル溶液に比して、PHラットの肺動脈の血管拡張をより効果的に誘発したことが示唆された。
【0088】
リポソームトレプロスチニル組成物で処置したPHラットでは、PK/PDプロファイルデータから、約0.1ng/mLのトレプロスチニル血漿濃度がPAPをベースラインの低酸素値の63%まで低下させたことが示される。しかし、遊離トレプロスチニル溶液で処置したラットの同じトレプロスチニル血漿濃度(0.1ng/mL)は、PAPをベースラインの低酸素値の83%に低下させただけであった(図4Aおよび4B参照)。同じトレプロスチニルの血漿濃度では、遊離トレプロスチニル溶液は、PAPを低下させるのにリポソームトレプロスチニル組成物ほど有効ではない。上記のPAP低下効力定義(PAP reduction potency definition)に基づくと、リポソームトレプロスチニル組成物は、遊離トレプロスチニル溶液と比較して3~9倍高いPAP低下効力を示す(表7)。
【0089】
【表7】
【0090】
実施例5:PHラットにおけるリポソームイロプロスト組成物の効果
遊離イロプロスト溶液(2.5μg/kg)を投与したPHラットは、PAPの軽度の低下を示した。最大効果(PAPがベースラインの低酸素値の76%に低下)は投与0.75時間後にみられ、イロプロスト血漿濃度は0.1ng/mL(LLOQ)未満であった(図5A参照)。
【0091】
リポソームイロプロスト組成物(2.5μg/kg)で処置したPHラットは、生理食塩水または遊離トレプロスチニル溶液で処置したラットよりも持続してより低いPAPを有していた。PAPの低下(ベースラインの低酸素値の70%以下のPAP低下)は投与後4時間まで持続した(図5A)。この結果から、リポソームイロプロスト組成物がPHラットにおいて肺動脈の血管拡張を効果的に誘導したことが示唆される。
【0092】
PK/PDプロファイルデータから、リポソームイロプロスト組成物で処置したPHラットでは、0.1ng/mL付近の血漿濃度がPAPをベースラインの低酸素値の68.4%に低下させたが、遊離イロプロスト溶液で処置したラットにおける同様のイロプロスト血漿濃度(LLOQ未満)はリポソームカウンターパートほど有効ではないように見える(PAPをベースラインの低酸素値の77.2%に低下させた)ことが示される(図5Aおよび5Bを参照のこと)。上記のPAP低下効力定義に基づくと、リポソームイロプロスト組成物は、遊離イロプロスト溶液と比較して3~5倍高いPAP低下効力を示す(表8を参照のこと)。
【0093】
【表8】
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B