(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】複合体シート
(51)【国際特許分類】
B32B 23/08 20060101AFI20240229BHJP
D06M 13/12 20060101ALI20240229BHJP
D06M 13/352 20060101ALI20240229BHJP
D06M 13/358 20060101ALI20240229BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B32B23/08
D06M13/12
D06M13/352
D06M13/358
D06M15/05
(21)【出願番号】P 2022048238
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-256090(JP,A)
【文献】特開2018-083311(JP,A)
【文献】特開2021-066122(JP,A)
【文献】特開2006-161193(JP,A)
【文献】特開2015-100942(JP,A)
【文献】特開2015-205428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に防汚層が配置された複合体シートであって、前記防汚層が、セルロースナノファイバー、及び、ケト/エノール型互変異性体を含有し、
前記基体が、織物を芯材とする樹脂加工物であることを特徴とする複合体シート。
【請求項2】
前記ケト/エノール型互変異性体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系互変異性体、から選ばれた1種以上である請求項1に記載の複合体シート。
【請求項3】
前記ベンゾトリアゾール系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(置換基を有していてもよい)とのC-N結合体を骨格とするエノール型異性体(Ia)〔化1〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(置換基を有していてもよい)とのC-N結合体を主骨格とするケト型異性体(IIa)〔化2〕である請求項2に記載の複合体シート。
【化1】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【化2】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【請求項4】
前記トリアジン系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を主骨格とするエノール型異性体(Ib)〔化3〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を骨格とするケト型異性体(IIb)〔化4〕である請求項2に記載の複合体シート。
【化3】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【化4】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【請求項5】
前記ジフェニルケトン系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環2個がC=O結合で連結された主骨格のエノール型異性体(Ic)〔化5〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環1個と、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環(他の置換基を有していてもよい)1個がC=O結合で連結された主骨格のケト型異性体(IIc)〔化6〕である請求項2に記載の複合体シート。
【化5】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【化6】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【請求項6】
前記セルロースナノファイバーが、非変性セルロース、カルボキシメチル化セルロース、酸化セルロース、ホウ酸エステル化セルロース、リン酸エステル化セルロース、ケイ酸エステル化セルロース、イソシアネート化セルロース、アミノシラン変性セルロース、ビニルシラン変性セルロース、エポキシシラン変性セルロース、メタクリルシラン変性セルロース、アクリルシラン変性セルロース、クロルシラン変性セルロース、メルカプトシラン変性セルロース、イソシアヌレートシラン変性セルロース、イソシアネートシラン変性セルロース、から選ばれた1種以上のナノファイバーである請求項1~5の何れか1項に記載の複合体シート。
【請求項7】
前記防汚層が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上からなるフィルム、または塗膜である請求項1~6の何れか1項に記載の複合体シート。
【請求項8】
前記防汚層上に、さらに光触媒層が形成され、この光触媒層内に、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有している請求項1~7の何れか1項に記載の複合体シート。
【請求項9】
前記光触媒層が、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とする請求項8に記載の複合体シート。
【請求項10】
前記織物が、マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条を含む織物で、1)経糸条及び緯糸条からなる織物、または2)経糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる三軸織物、または3)経糸条、緯糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる四軸織物、の何れかである
請求項1に記載の複合体シート。
【請求項11】
前記基体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体を含有している請求項1~
10の何れか1項に記載の複合体シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外で使用する複合体シート全般の耐久性向上に関し、特に耐候性を向上させることによって得られる、耐用年数を延長した産業資材用の複合体シートに関し、具体的には、ターポリン、帆布、メッシュシートなどに関する。産業資材用の複合体シートの耐用年数延長は、可使時間を長くすることで廃棄頻度(すなわち生産量)を減らし、長期的視野において廃棄される複合体シート量を削減することで地球環境保全に貢献するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製品の焼却で増大する二酸化炭素濃度の影響による地球温暖化(異常気象、風水害、水位上昇、生態系異常など)、劣化崩壊プラスチック(マイクロプラスチック粒子)による海洋汚染、またプラスチック片の絡まり、誤飲による海洋生物への被害などの問題が切実なものとなり、プラスチック削減・リサイクルとプラスチック代替の認識が広がっている。特に二酸化炭素排出量の増加にストップを掛け、カーボンニュートラル・循環型社会の構築目標が世界的に掲げられ、その一環として植物由来のプラスチック製品を増やし、石油由来のプラスチック製品を減らす取り組みが進められているが、多種多様なブラスチックに対して、ごく一部しか植物由来プラスチックへの転換がなされていない。これは植物由来モノマーの種類がまだ少ないこと、合成プロセスが複雑化すること、合成のための設備投資、製造コスト増、加工性、物性、耐久性などの全てに起因する。カーボンニュートラルとは、植物が吸収した二酸化炭素を由来とするバイオマス燃料・樹脂の使用により、これらが燃焼して発生する二酸化炭素が自然に還り、その二酸化炭素が植物に吸収されることで、植物由来の燃料や樹脂が再生するサイクルを持続することによって、大気中の二酸化炭素量を増やさないようにする地球温暖化防止の取り組みの1つである。
【0003】
大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ファサードシート、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシートなどに用いられるターポリン、及びトラック幌、野積防水シート、屋形テントなどに用いられる帆布、さらには建築養生、防風防雪ネット、防眩ネット、ビジュアルファサードなどに用いられるメッシュシートなどの複合体シートの基材には、主にポリエチレンテレフタレートを紡糸したポリエステル繊維糸条を織編要素とする布帛が芯材に使用されている。ターポリンは、空隙率6~25%程度の布帛(織布)の両面に熱可塑性樹脂組成物フィルムを積層した形態で、帆布は、空隙率0~10%程度の布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜化した形態で、またメッシュシートは、空隙率15~70%程度の粗目織物の全面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、塗工物を皮膜化した形態であり、何れも用途ごとに破壊強度、破断伸度、引裂強度、防炎性、屋外耐久性などの基準値をクリアすることが必要である。そしてこれらの複合体シート用の熱可塑性樹脂には、高品質の軟質塩化ビニル系樹脂組成物(可塑剤で可塑化された塩化ビニル系樹脂を少なくとも含む)を用いることで、上記基準値をクリアできるものとしているため、他の樹脂(植物由来プラスチックを含む)の代替では諸々の基準値を全て満たすことが至極困難である。これらの複合体シートによる膜構築物、特に大型テント構造物などでは10~20年間、風雨、紫外線に晒され続けられることで、軟質塩化ビニル系樹脂層は紫外線被曝で脆化し、またPET繊維布帛は湿熱加水分解で強度低下を伴っているため、リサイクルには適さない劣化素材となっている。これらの複合体シートの廃材処理は、二酸化炭素ガス、塩素ガスの排出、ダイオキシン生成などの問題から焼却処理はされず、埋め立て処理されているが、これは大きな環境負荷の蓄積となっている。
【0004】
しかしながら産業用の複合体シート廃材の埋め立て処理削減の急務にもかかわらず、今現在、環境負荷の小さい廃棄方法が見当たらないため、現時点では、企業努力により耐用年数をより長いものと改良することによって、現状の廃棄量を削減する手立てが堅実と考えられる。この耐用年数延長は、可使時間を長くすることで廃棄頻度を減らし、長期的視野において廃棄される複合体シート量を削減することにあり、換言すれば、耐用年数が向上することで、生産量が減り、この結果、廃棄量の減少に繋がるのである。具体的に軟質塩化ビニル系樹脂製の産業用複合体シートの耐用年数を向上させる手段として、本出願人は、軟質塩化ビニル系樹脂層に紫外線吸収剤を配合する方法(特許文献1)、複合体シートの表面に高分子量紫外線吸収剤を配合した塗膜層を設ける方法(特許文献2)などを過去に検討している。また、最近、ターポリンの防汚層に亀裂を容易に生じず、防汚層が容易に摩滅、脱落することがなく、防汚性を長期持続可能な複合体シートを得る方法として、防汚層を有機重合体、または有機/無機縮合体で構成し、セルロースナノファイバー、変性セルロースナノファイバーなどを含有させる提案(特許文献3)をしたが、産業用の複合体シート廃材の埋め立て処理削減の観点、如いては地球環境保全のために、さらなる耐用年数の延長が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-41249号公報
【文献】特開2001-225423号公報
【文献】特開2021-66122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明における課題は、屋外で使用する複合体シート全般の耐久性向上(紫外線によるダメージ軽減)と、耐候性を向上させることによって得られる、耐用年数を延長した産業資材用の複合体シート(ターポリン、帆布、メッシュシートなど)の提供である。また、本発明における目的は、複合体シートの耐用年数を延長することによって、廃棄頻度(すなわち生産量)を減らして、長期的視野において廃棄する複合体シート量を削減し、地球環境保全に貢献することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し検討を重ねた結果、基体の表面に防汚層が配置された複合体シートにおいて、防汚層が、セルロースナノファイバー、及び、ケト/エノール型互変異性体を含有し、基体が、織物を芯材とする樹脂加工物であること、特にケト/エノール型互変異性体として、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系互変異性体、から選ばれた1種以上を含有することにより、紫外線をケト型とエノール型の相互変換のためのエネルギーに消費させることで紫外線による劣化ダメージを軽減し、それによって複合体シートの耐用年数の延長が可能となり、その結果、廃棄頻度(すなわち生産量)が減ることで、長期的視野における複合体シート廃棄量の削減が可能であると試算して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の複合体シートは、前記ベンゾトリアゾール系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(置換基を有していてもよい)とのC-N結合体を骨格とするエノール型異性体(Ia)〔化1〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(置換基を有していてもよい)とのC-N結合体を主骨格とするケト型異性体(IIa)〔化2〕であることが好ましい。このベンゾトリアゾール系互変異性体は、太陽光(紫外線)の刺激で、エノール型異性体(Ia)〔化1〕と、ケト型異性体(IIa)〔化2〕との相互変換、すなわち励起状態と基底状態を繰り返すことで、防汚層内にエノール型とケト型の異性体が平衡状態で共存し、紫外線エネルギーをこの相互変換の分子振動の熱エネルギーに変換して系外放出し、紫外線エネルギーを減衰させることで紫外線ダメージを軽減させる。
【化1】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【化2】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【0009】
本発明の複合体シートは、前記トリアジン系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を主骨格とするエノール型異性体(Ib)〔化3〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を骨格とするケト型異性体(IIb)〔化4〕であることが好ましい。このトリアジン系互変異性体は、太陽光(紫外線)の刺激で、エノール型異性体(Ib)〔化3〕と、ケト型異性体(IIb)〔化4〕との相互変換、すなわち励起状態と基底状態を繰り返すことで、防汚層内にエノール型とケト型の異性体が平衡状態で共存し、紫外線エネルギーをこの相互変換の分子振動の熱エネルギーに変換して系外放出し、紫外線エネルギーを減衰させることで紫外線ダメージを軽減させる。
【化3】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【化4】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【0010】
本発明の複合体シートは、前記ジフェニルケトン系互変異性体が、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環2個がC=O結合で連結された主骨格のエノール型異性体(Ic)〔化5〕と、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環1個と、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環1個がC=O結合で連結された主骨格のケト型異性体(IIc)〔化6〕であることが好ましい。このジフェニルケトン系互変異性体は、太陽光(紫外線)の刺激で、エノール型異性体(Ic)〔化5〕と、ケト型異性体(IIc)〔化6〕との相互変換、すなわち励起状態と基底状態を繰り返すことで、防汚層内にエノール型とケト型の異性体が平衡状態で共存し、紫外線エネルギーをこの相互変換の分子振動の熱エネルギーに変換して系外放出し、紫外線エネルギーを減衰させることで紫外線ダメージを軽減させる。
【化5】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【化6】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【0011】
本発明の複合体シートは、前記セルロースナノファイバーが、非変性セルロース、カルボキシメチル化セルロース、酸化セルロース、ホウ酸エステル化セルロース、リン酸エステル化セルロース、ケイ酸エステル化セルロース、イソシアネート化セルロース、アミノシラン変性セルロース、ビニルシラン変性セルロース、エポキシシラン変性セルロース、メタクリルシラン変性セルロース、アクリルシラン変性セルロース、クロルシラン変性セルロース、メルカプトシラン変性セルロース、イソシアヌレートシラン変性セルロース、イソシアネートシラン変性セルロース、から選ばれた1種以上のナノファイバーであることが好ましい。防汚層にセルロースナノファイバーが存在することにより、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性を延長し、防汚層に亀裂などの劣化を容易に生じず、摩滅、脱落することがなくなり、しかもセルロースナノファイバーの水蒸気バリヤー効果との相乗で防汚層が長期持続し、これによって本発明の複合体シートの耐用年数の延長を可能とする。
【0012】
本発明の複合体シートは、前記防汚層が、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上からなるフィルム、または塗膜であることが好ましい。これらのフィルム、及び塗膜は、1種の樹脂で構成されるもの、2種以上の樹脂のブレンドで構成されるもの、2種以上の樹脂の積層により構成されるものである。
【0013】
本発明の複合体シートは、前記防汚層上に、さらに光触媒層が形成され、この光触媒層内に、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有していることが好ましい。このような光触媒層を防汚層上に配置することによって、光触媒層内に含む光触媒性金属酸化物が紫外線励起により光触媒活性を発現させる。この光触媒活性は、煤塵汚れなどの付着異物の除去をセルフクリーニング作用として防汚層の長期持続に寄与する。この時、本発明の複合体シートが受ける紫外線は光触媒層を透過し、さらに防汚層を透過して基体まで到達するが、光触媒層では、透過する紫外線エネルギーの一部が光触媒性金属酸化物の活性化で消費されるので、下に位置する防汚層に到達する紫外線エネルギーは減衰したものとなる。従って光触媒層を防汚層上に配置することは防汚層の保護となり、如いては複合体シートの耐用年数を延長することに作用するのである。
【0014】
本発明の複合体シートは、前記光触媒層が、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とすることが好ましい。これらの縮合体を防汚層の主体成分とすることによって防汚層の摩耗負荷に対する抵抗耐性を発現させ、防汚性の長期持続を可能とする。
【0015】
本発明の複合体シートは、前記基体が、織物を芯材とする樹脂加工物であることが好ましい。
【0016】
本発明の複合体シートは、前記織物が、マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条を含む織物で、1)経糸条及び緯糸条からなる織物、または2)経糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる三軸織物、または3)経糸条、緯糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる四軸織物、の何れかであることが好ましい。特に三軸織物、四軸織物などを使用すれば、糸条同士の交差が複雑、かつ緻密となり、多軸方向に拡がるネットワークによって複合体シートに加えられる屈曲、はためきなどの外力ストレスの伝播性が増し、ストレスを広域に分散して受け流すことで防汚層に及ぼすダメージを緩和し、同時に引裂などの外力に対する抵抗力を多方向で向上させる。
【0017】
本発明の複合体シートは、前記基体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体を含有していることが好ましい。これによって、紫外線がケト型とエノール型の相互変換のためのエネルギーに消費される作用を利用して、防汚層だけで完全に吸収しきれなかった紫外線を、基体で吸収することで、より本発明の複合体シートの耐用年数延長に大きく寄与する。その結果、廃棄頻度(すなわち生産量)がより減ることで、長期的視野において廃棄する複合体シート量の削減が可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、耐久性と耐候性が向上し、耐用年数が延長された産業資材用の複合体シート(ターポリン、帆布、メッシュシートなど)が得られるので、これらの複合体シートを原反として構築された、大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ファサードシート、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシート、トラック幌、野積防水シート、屋形テント、建築養生、防風防雪ネット、防眩ネット、ビジュアルファサードなどの耐用年数が延長されたものとなる。この産業資材用の複合体シートの耐用年数延長により、廃棄頻度(すなわち生産量)が減り、長期的視野において廃棄する複合体シート量が削減されて、地球環境保全に貢献できるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の複合体シートは、基体の表面に防汚層が配置された複合体シートであって、前記防汚層が、セルロースナノファイバー、及び、ケト/エノール型互変異性体(ベンゾトリアゾール系互変異性体、及びトリアジン系互変異性体、から選ばれた1種以上)を含有する態様、また、防汚層上にさらに光触媒層が形成された態様、また、基体が織物を芯材とする樹脂加工物である態様、また、基体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、及び/またはトリアジン系互変異性体を含有する態様である。
【0020】
本発明の複合体シートの防汚層は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル/シリコン系共重合体樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂とフッ素系共重合体樹脂のブレンド、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、及びウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂、から選ばれた1種以上と、セルロースナノファイバー、及びケト/エノール型互変異性体を少なくとも含有する厚さ0.1mm~1.0mmのフィルム、または厚さ1μm~100μmの塗膜である。上記アクリル系樹脂は、アルキル基の炭素数1~18のアクリル酸アルキルエステル類、及びアルキル基の炭素数1~18のメタアクリル酸アルキルエステル類から選ばれた1種以上のモノマーによる重合体、及び共重合体樹脂で、特にメチルメタアクリレートとβ-ヒドロキシエチルアクリレートによる水酸基含有共重合体樹脂だと、イソシアネートによる塗膜硬化が可能となり、防汚層の耐久性、耐摩耗性を向上させることができて好ましい。他の共重合体樹脂では、上記アクリル系モノマーとオルガノシロキサン類と共重合したアクリル/シリコン系共重合体樹脂が防汚性に優れ好ましい。また、ウレタン系樹脂は、芳香族ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)、脂肪族ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)、脂環式ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)などが挙げられ、耐光堅牢性において脂肪族ポリウレタン、脂環式ポリウレタンが好ましく、耐候堅牢性(耐加水分解性)においてエーテル系、ポリカーボネート系のウレタン系樹脂が特に好ましい。ウレタン系共重合樹脂として、上記ウレタン系樹脂を主鎖としてオルガノシロキサン類をグラフトしたウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、また上記ウレタン系樹脂を主鎖としてフルオロオレフィン類をグラフトしたウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂が挙げられる。フッ素系共重合体樹脂は、フッ化ビニル、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素原子含有モノマーから選ばれた2種以上を共重合して得られる共重合体、上記フッ素原子含有モノマーとビニルモノマー(β-メチル-β-アルキル置換-α-オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルアリルエーテル類、ビニル基含有エステルなど)との共重合によって得られるフルオロオレフィン共重合体などを単独種、または複数種で使用することができる。これらはイソシアネート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物などの反応性化合物との併用で架橋部位を生成する水酸基、カルボキシ基を分子構造内に含有する共重合体が好ましい。特にイソシアネート化合物は脂肪族化合物、または脂環式化合物が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらの三量体(イソシアヌレート型、トリメチルプロパン型、ビウレット型)など、及びこれらのブロックイソシアネート体などが使用できる。またオキサゾリン化合物は、アクリル系樹脂(アクリル共重合体樹脂、アクリル/スチレン共重合体樹脂)の側鎖にオキサゾリン基を有するポリマー型架橋剤(エマルジョン型)を使用することもできる。また、上記アクリル系樹脂と上記フッ素系共重合体樹脂のブレンドを使用することもできる。
【0021】
また防汚層に必須成分として含むセルロースナノファイバーは、防汚層を構成する樹脂成分に対して0.5~10質量%で、セルロースナノファイバーの存在により、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性を延長し、防汚層に亀裂などの劣化を容易に生じず、摩滅、脱落することがなくなり、しかもセルロースナノファイバーの水蒸気バリヤー効果との相乗で防汚層が長期持続し、これによって本発明の複合体シートの耐用年数の延長を可能とする。セルロースナノファイバーは、セルロース原料(化学処理パルプ・機械破砕パルプ・古紙パルプなど)を機械的に解繊(粗解繊・微解繊)し、繊維径をナノサイズ化して得られた、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10以上50以下、平均繊維径3nm~100nm、平均繊維長100μm以下、特に300nm~500nmの短繊維で、結晶部、准結晶部、非晶部からなるシングルナノファイバー単独、または、縦に引き裂かれたもの、絡み合ったもの、網目状構造の集合体からなり、これらは乾燥体、スラリー、水、または有機溶媒に分散したものである。セルロース繊維の機械的解繊は、変性パルプ直接混練法(繊維径3nm-100nm)、高圧ホモジナイザー法(繊維径10nm-数μm)、対向噴流衝突法(繊維径10nm-数10nm)、グラインダー法(繊維径10nm-数10nm)、ボールミル粉砕法(繊維径100nm-数μm)、ビーズミル粉砕法(繊維径10nm-数μm)、凍結粉砕法(繊維径10nm-数10nm)、2軸混練法(繊維径10-100nm)する方法などが挙げられる。また化学的解繊としては、TEMPO酸化法、C2,C3-ジカルボキシ化(次亜塩素酸Naでパルプのセルロース分子のC2-C3位を選択的に切断し、C2,C3-ジカルボキシ基のNa塩を生成させる)、(亜)リン酸エステル化法(リン酸アンモニウムまたは亜リン酸アンモニウム/尿素で、パルプのセルロース分子の水酸基をリン酸エステル化する)、カルボキシメチル化法(イソプロピルアルコール/濃NaOH/モノクロロ酢酸Naで、置換度0.4~1.2程度のカルボキシメチルセルロースを得る)、ザンテート法(パルプを濃NaOH、及び二硫化炭素によりセルロースの水酸基をザンテートエステル基のNa塩に変換してビスコースレーヨン、セロファンを得る)、スルホン化法(スルファミン酸/尿素で、パルプのセルロース分子の水酸基を硫酸エステル化する)、酵素加水分解法、酸加水分解法、バクテリア合成法などが挙げられる。上記TEMPO酸化法~スルホン化法までの繊維径は3-5nm程度である。本発明では、機械的解繊で得た非変性セルロースナノファイバー、及び化学的解繊で得た変性セルロースナノファイバーの何れも使用でき、機械的解繊で得た非変性セルロースナノファイバーを化学処理した変性セルロースナノファイバーが好ましい。
【0022】
変性セルロースナノファイバーの変性タイプとして、カルボキシメチル化、酸化変性、エステル化(ホウ酸エステル化、リン酸エステル化、ケイ酸エステル化、から選ばれた1種以上)、イソシアネート化、シランカップリング剤処理(アミノシラン変性、ビニルシラン変性、エポキシシラン変性、メタクリルシラン変性、アクリルシラン変性、クロルシラン変性、メルカプトシラン変性、イソシアヌレートシラン変性、イソシアネートシラン変性、から選ばれた1種以上)、から選ばれた1種以上の変性がなされたセルロースナノファイバーである。特にカルボキシメチル化はセルロースの1級、2級水酸基(2,3,6位)を任意にカルボキシメチル化し、機械的に解繊したもので、また酸化変性はTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル)触媒とNaBr、及び次亜塩素酸Naを含む酸化触媒液により、パルプのセルロース分子中の1級水酸基(C6-OH基)のみを選択的にC6-カルボキシ基Na塩に変換して、COOH基量0.8~1.7mmol/gとし、解繊したものである。また、シランカップリング剤処理(アミノシラン変性、ビニルシラン変性、エポキシシラン変性、メタクリルシラン変性、アクリルシラン変性、クロルシラン変性、メルカプトシラン変性、イソシアヌレートシラン変性、イソシアネートシラン変性、から選ばれた1種以上)変性は、セルロースナノファイバーを1種以上のシランカップリング剤を含む水溶液で処理し、シランカップリング剤の加水分解物:XR-Si(OH)3(X=アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、クロル基、メルカプト基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基など)がセルロースナノファイバーの水酸基、カルボキシ基などに結合した1種以上の反応物で、2種のシランカップリング剤の併用による、ビニルシラン/メタクリルシラン変性、アミノシラン/メルカプトシラン変性などであってもよい。本発明において、非変性セルロースナノファイバー、特に変性セルロースナノファイバー、さらに特にシランカップリング剤処理変性体を使用することによって、防汚層内でのセルロースナノファイバーの分散安定性を改善し、折り曲げや屈曲などの物理的ストレスに対する抵抗を増し、ストレスを受け流す効果とセルロースナノファイバーの水蒸気バリヤー効果の相乗によって防汚層がより堅牢となる。
【0023】
また、エステル化による変性のうち、ホウ酸エステル化は、セルロースナノファイバーをオルトホウ酸(H3BO3)、メタホウ酸(HBO2)などのホウ酸、及び四ホウ酸ナトリウム水和物(Na2B4O7・10H2O)、五ホウ酸ナトリウム(NaB5O8)などのホウ酸塩水溶液で処理し、セルロースナノファイバーの水酸基、カルボキシ基などにホウ酸成分を反応させた変性であり、またリン酸エステル化は、ナノセルロースをオルトリン酸(H3PO4)、ピロリン酸、ポリリン酸(HPO3)n、亜リン酸、亜フォスフィン酸などのリン酸類、およびこれらリン酸から誘導される金属塩、アンモニウム塩などのリン酸塩水溶液で処理し、セルロースナノファイバーの水酸基、カルボキシ基などにリン酸成分を反応させた変性であり、またケイ酸エステル化は、セルロースナノファイバーをケイ酸、及びケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウムなどのケイ酸塩水溶液で処理し、セルロースナノファイバーの水酸基、カルボキシ基などにケイ酸成分を反応させた変性である。これらのエステル変性は、ホウ酸塩水溶液とリン酸塩水溶液との併用処理によるホウ酸/リン酸エステル化、ホウ酸塩水溶液とケイ酸塩水溶液との併用処理によるホウ酸/ケイ酸エステル化、リン酸塩水溶液とケイ酸塩水溶液との併用処理によるリン酸/ケイ酸エステル化、などであってもよい。このようなエステル化変性体を使用することによって、防汚層に折り曲げや擦過などの物理的負荷が掛けられた際に、亀裂、摩滅、脱落などの損傷を抑止すると同時に、防腐性セルロースナノファイバー、難燃性セルロースナノファイバーに改質することができる。
【0024】
防汚層に必須成分として含むケト/エノール型互変異性体の含有量は、防汚層を構成する樹脂成分に対して0.2~30質量%で、ケト/エノール型互変異性体は、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系変異性体から選ばれた1種以上である。ここで複数のケト/エノール型互変異性体の使用とは、異なる系の組み合わせ、及び同一系での組み合わせのバリエーションを包含する。ケト/エノール型互変異性体とは、R
2-CH-(C=O)-R
1(ケト型異性体:励起状態)と、R
2-C=CH(OH)-R
1(エノール型異性体:基底状態)とが可逆変換しうる有機化合物である。ベンゾトリアゾール系互変異性体は、エノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ia)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(C1~C10アルキル基、C4~C10分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(塩素基を有していてもよい)とのC-N結合体を骨格とする有機化合物〔化1〕で、具体的にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と、3~5位の何れかに水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、3位及び/または5位にアルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有する構造である。ケト型異性体(IIa)は、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(C1~C10アルキル基、C4~C10分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基の何れかを有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(塩素基を有していてもよい)とのC-N結合体を主骨格とする有機化合物〔化2〕で、具体的にベンゼン環の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、3~5位の何れかに水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、3位及び/または5位にアルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基の何れかを有する構造である。ケト型とエノール型、双方の異性体が放射線(紫外線)の存在下で相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存するもので、分子量が250~700の範囲のベンゾトリアゾール系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。この防汚層内部では、太陽光(紫外線)エネルギー励起により、ベンゾトリアゾール系互変異性体が、エノール型異性体(Ia)〔化1〕と、ケト型異性体(IIa)〔化2〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換時の分子振動エネルギーに変換して系外放出するメカニズムが働いて紫外線による劣化ダメージを回避する。この防汚層の紫外線減衰効果は、本発明の複合体シートの耐用年数延長に大きく作用する。ここでアルキル置換ベンジル基は、ベンジル基「C
6H
6-CH
2-」を、「C
6H
6-CR
1R
2-」(R
1,R
2はC1~C10アルキル基)にアルキル置換したものを意味する。また、ベンゾトリアゾール系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができ、さらには防汚層用樹脂として兼用することもできる。
【化1】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【化2】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【0025】
また、トリアジン系互変異性体は、エノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ib)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(C1~C10アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル(1~2個)置換フェニル基、及び/または水酸基(1~2個)置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を主骨格とする有機化合物〔化3〕で、具体的にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、また、アルキル(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位であり、水酸基(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位である。ケト型異性体(IIb)は、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(C1~C10アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル(1~2個)置換フェニル基、及び/または水酸基(1~2個)置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を骨格とする有機化合物〔化4〕で、具体的にベンゼン環の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、また、アルキル(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位であり、水酸基(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位である。ケト型とエノール型、双方の異性体が放射線(紫外線)の存在下で相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存するもので、特に分子量が250~700の範囲のトリアジン系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシフェニル-1,3,5-トリアジン誘導体が好ましい。この防汚層内部では、太陽光(紫外線)エネルギー励起により、トリアジン系互変異性体が、エノール型異性体(Ib)〔化3〕と、ケト型異性体(IIb)〔化4〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換の分子振動エネルギーに変換して系外放出するメカニズムが働いて紫外線による劣化ダメージを回避する。この防汚層の紫外線減衰効果は、本発明の複合体シートの耐用年数延長に大きく作用する。具体的にアルキルオキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブチル基、ペンチルオキシ基などである。また、トリアジン系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができ、さらには防汚層用樹脂として兼用することもできる。
【化3】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【化4】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【0026】
また、ジフェニルケトン系互変異性体はエノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ic)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環2個がC=O結合で連結された主骨格の有機化合物〔化5〕で、具体例にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造である。また、ケト型異性体(IIc)は水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環(A)1個と、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環(B)1個がC=O結合で連結された主骨格の有機化合物〔化6〕で、具体例にベンゼン環(A)の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環(A)の2位にケトン基、4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(A)の2位にケトン基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造である。このケト型とエノール型、双方の異性体が放射線(紫外線)の存在下で相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存する分子量200~400の範囲のジフェニルケトン系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシジフェニルケトン誘導体が好ましい。この防汚層内部では、太陽光(紫外線)エネルギーにより、ジフェニルケトン系互変異性体が、エノール型異性体(Ic)〔化5〕と、ケト型異性体(IIc)〔化6〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換の分子振動エネルギーに変換して系外放出するメカニズムが働いて紫外線による劣化ダメージを回避する。この防汚層の紫外線減衰効果は、本発明の複合体シートの耐用年数延長に大きく作用する。具体的にアルキルオキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブチル基、ペンチルオキシ基などである。また、ジフェニルケトン系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができ、さらには防汚層用樹脂として兼用することもできる。
【化5】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【化6】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【0027】
本発明の複合体シートの防汚層は、セルロースナノファイバー、及びケト/エノール型互変異性体以外に、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。耐候性向上に寄与する添加剤として、紫外線乱反射剤(酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化セリウム、ポリメチルシルセスキオキサン粒子など)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、イオウ系、ビタミンE系など)、ヒンダードアミン系光安定剤、など、艶消剤として、シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムなど、着色剤として有機系顔料、無機系顔料、アルミ光輝性顔料、パール顔料、染料など、帯電防止剤として、界面活性剤、イオン性液体、導電性カーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化亜鉛-五酸化アンチモン複合金属ゾル、酸化スズ-五酸化アンチモン複合金属ゾルなど、耐炎剤として、セピオライト、モンモリロナイト、スメクタイトなど、耐摩耗強化剤として、イソシアネート、アクリレート、エポキシ、シランカップリング剤、シリコーンオイルなど、その他、抗菌剤、防黴剤、抗ウイルス剤、などが挙げられる。芯材を含む基体に対する防汚層の形成は、樹脂成分と、セルロースナノファイバー、及びケト/エノール型互変異性体を含み、必要に応じて上記添加剤を含む樹脂組成物コンパウンドを、カレンダー法、またはTダイス押出法で厚さ0.1mm~1.0mmに溶融圧延(延伸)したものを直接基体に積層する方法、または、一旦冷却したフィルムを加熱して基体に積層する方法が挙げられる。また樹脂成分と、セルロースナノファイバー、及びケト/エノール型互変異性体、さらに溶媒(水または有機溶剤)を含み、必要に応じて上記添加剤を含む樹脂組成物溶液を、グラビアコート、オフセットグラビアコート、ロールコート、キスコート、ワイヤーバーコート、クリアランスコート、スプレーコート、薄膜転写、などで直接基体に塗工し、溶媒を乾燥させることで厚さ1μm~100μmに塗膜化させて防汚層を形成する方法が挙げられる。
【0028】
防汚層上には、さらに光触媒層を形成し、この光触媒層内に、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有することによって、光触媒層内に含む光触媒性金属酸化物が紫外線励起により光触媒活性を発現させる。特に平均粒子径50nm以下、特に20nm以下の光触媒性金属酸化物、光触媒層形成時においてはゾル状態の光触媒性金属酸化物を用い、光触媒層に対して10~50質量%含有することで光触媒活性によるセルフクリーニング防汚性が発現できる。これらの光触媒性金属酸化物には、Pt,Rh,RuO2 ,Nb,Cu,Sn,NiOなどの金属及び金属酸化物を相乗化剤として添加することが好ましい。この光触媒活性は、煤塵汚れなどの付着異物の除去をセルフクリーニング作用として防汚層の長期持続に寄与する。この時、本発明の複合体シートが受ける紫外線は光触媒層を透過し、さらに防汚層を透過して基体まで到達するが、光触媒層では、透過する紫外線エネルギーの一部が光触媒性金属酸化物の活性化で消費されるので、下に位置する防汚層に到達する紫外線エネルギーは減衰したものとなる。従って光触媒層を防汚層上に配置することは防汚層の保護となり、如いては複合体シートの耐用年数を延長することに作用する。光触媒性金属酸化物は光触媒活性による酸化還元で、有機物を分解する作用を有するので、光触媒層の主構成は、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とすることが好ましい。このような縮合体を光触媒層の主体成分とすることによって光触媒層と防汚層の摩耗負荷に対する抵抗耐性を発現させ、防汚性の長期持続を可能とする。また光触媒層に、シランカップリング剤(アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、イソシアネートシランなど)を1~10質量%含み、シランカップリング剤の加水分解物が、ゾルゲル縮合体と光触媒性金属酸化物との間に結合して介在する効果によって、光触媒層の耐屈曲性と摩耗負荷に対する抵抗耐性をより向上させることができる。光触媒層は10nm~5μm、光触媒層に含む光触媒性金属酸化物は、1~50質量%、好ましくは5~35質量%である。また、セルフクリーニング作用とは、光触媒活性で分解された汚物(煤塵、タール)、黴、藻などの有機物残滓が降雨で洗い流されることで汚物などが付着する以前の外観を取り戻す効果である。
【0029】
光触媒層は、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体により主構成される。オルガノシリケート化合物は、化学式:SinOn-1(OR)2(n+1)で表される4官能加水分解性シラン化合物であり、式中、Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)、nは4官能加水分解性シラン化合物の縮合分子数を表す多量化度(n量体)で、1以上の整数、nが1の化合物として、テトラメトキシシラン(Si(OCH3)4:別名テトラメチルシリケート)、テトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4:別名テトラエチルシリケート)、テトラプロポキシシラン(Si(OC3H7)4:別名テトラプロピルシリケート)、テトラブトキシシラン(Si(OC4H9)4:別名テトラブチルシリケート)、テトラフェノキシシラン(Si(OC6H6)4:別名テトラフェニルシリケート)、ジメトキシジエトキシシラン(Si(OCH3)2(OC2H5)2:別名ジメチルヒエチルシリケート)など、nが2以上の化合物は、4官能加水分解性シラン化合物が加水分解して生成するシラノール基同士の反応で2分子以上が縮合して生成する多量体であり、nの表す多量化度は多量体1分子中に含有するSi原子数を意味する。本発明においては多量化度2~10、好ましくは4~6のテトラメトキシシラン、またはテトラエトキシシランを加水分解して得られるシラノール基含有シラン化合物を用いることがゾルゲル縮合体の構造が細密化され好ましい。光触媒層を形成する塗工液(水/アルコール)に含有する、オルガノシリケートの加水分解生成物の濃度は0.01~30質量%、特に0.1~5質量%の範囲が好ましい。またこの塗工液中には光触媒層の耐摩耗性、及び耐久性をより延長するために無機コロイド(シリカゾル、アンチモンゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルなど)をオルガノシリケートの加水分解生成物の濃度に対して0.1~25質量%含むことができる。
【0030】
本発明の複合体シートに用いる基体は、織物を芯材とする樹脂加工織物が好ましく、具体的にターポリン、帆布、メッシュシートなどの何れかの態様である。織物は、マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条を含んで、1)経糸条及び緯糸条からなる織物、または2)経糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる三軸織物、または3)経糸条、緯糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる四軸織物、の何れかである。特に経糸条及び緯糸条からなる織物が汎用的で、これらは斜子織物(2×2、3×3、4×4などの正則斜子織、3×2、4×2、4×3、5×3、2×3、2×4、3×4、3×5などの不規則斜子織)、綾織物(経糸、緯糸とも最少3本ずつ用いた最小構成単位を有する:3枚斜文、4枚斜文、5枚斜文、6枚斜文など)、朱子織物(経糸、緯糸とも最少5本ずつ用いた最小構成単位を有する:2飛び、3飛び、4飛び、5飛びなどの正則朱子)、及び変化平織物、変化綾織物、変化朱子織物など、さらに蜂巣織物、梨子地織物、破れ斜文織物、昼夜朱子織物、もじり織物(紗織物、絽織物)、縫取織物、二重織物などの織物が使用できる。特に三軸織物、四軸織物などを使用すれば、糸条同士の交差が複雑、かつ緻密となり、多軸方向に拡がるネットワークによって複合体シートに加えられる屈曲、はためきなどの外力ストレスの伝播性が増し、ストレスを広域に分散して受け流すことで防汚層に及ぼすダメージを緩和し、同時に引裂などの外力に対する抵抗力を多方向で向上させる。織物の目付量は100~500g/m2で、空隙率(糸条の交絡によって生じる空間の総和の占有率)はターポリンでは6~25%、帆布では0~10%、メッシュシートでは15~70%が好ましい。これらの織物には精練、漂白、染色、柔軟化、撥水、防黴、防炎、カレンダー、などの公知の染色整理加工を施したものを使用することもできる。ターポリンは織布の両面に熱可塑性樹脂組成物フィルムを積層した形態で、帆布は布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜化した形態で、またメッシュシートは粗目織物の全面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、塗工物を皮膜化した形態である。
【0031】
織物を構成する糸条は、合成繊維、天然繊維、半合成繊維、無機繊維、及びこれらの2種以上から成る混合繊維など、何れの繊維も使用できるが、汎用的には、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET、ポリブチレンテレフタレート:PBT、ポリナフタレンテレフタレート:PNTなど)繊維、ナイロン繊維、及び、これらの混用繊維(混撚・合撚)などの合成繊維による、1)マルチフィラメント糸条、2)短繊維紡績糸条、3)及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条が使用できる。マルチフィラメント糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡原糸を3~5倍に延伸した長繊維紡糸束(50~500本のフィラメント束)のまま無撚、または1~200回/m撚りを掛けた、繊度125~2000デニール(139~2222dtex)の糸条が使用できる。これらのマルチフィラメント糸条には、タスラン糸条、ウーリー糸条などの嵩高加工糸条を包含する。短繊維紡績糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡糸束(延伸していてもよい)を3.8~5.8mm長程度に切断したステープルを開繊練条したスライバを引き伸ばしたロービング(粗糸)とし、これに所定の番手太さにドラフトと撚りを掛けてトウ紡績したものである。撚糸は単糸または単糸2本を引き揃えてS(右)撚りもしくはZ(左)撚りしたもの、また単糸または単糸2本を引き揃えて下撚りした加撚糸を2本引き揃えて上撚りを掛けてなる双糸が挙げられる。これらの撚糸の撚り回数は200~2000回/m程度である。またカバリング糸条は、上記マルチフィラメント糸束の外周に上記短繊維を巻き付けたカバリング糸条が挙げられ、本願においては芯鞘複合糸条もカバリング糸条に包含される。
【0032】
特に本発明の複合体シートの引張破壊強度、引裂(切裂)強度、防爆耐圧、耐熱性、及び耐火性などを向上させるために、フッ素樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維などのマルチフィラメント糸条を主体とする織物設計、あるいは上記汎用合成繊維による糸条との併用(リップストップ構造の挿入)が適している。また国土交通大臣認定の不燃材料(テント構造物用不燃膜材)の用途向けには、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭素繊維、及び、これらの混用繊維(混撚・合撚)などの無機マルチフィラメント糸条を主体とする織物が適している。そして特に引張破壊強度、引裂(切裂)強度、防爆耐圧、耐熱性、及び耐火性などを飛躍的に向上させるために、織物が、ポリベンゾイミダゾール(PBI)系、ポリベンゾオキサゾール(PBO)系、ポリベンゾチアゾール(PBT)系、及びこれらの共重合高分子(ベンゾイミダゾール-ベンゾオキサゾール共重合系、ベンゾイミダゾール-ベンゾチアゾール共重合系、ベンゾオキサゾール-ベンゾチアゾール共重合系、ベンゾイミダゾール-ベンゾオキサゾール-ベンゾチアゾール共重合系、芳香族ポリアミド成分を含む上記共重合系)、の群から選ばれた1種以上の芳香族複素環高分子繊維からなる糸条(マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、カバリング糸条)を主体に含む織物設計、あるいは上記汎用繊維による糸条との併用(リップストップ構造の挿入)が適している。リップストップ構造とは例えば、ポリエステル繊維糸条を経糸条及び緯糸条とする平織物において、経糸条、及び緯糸条の任意の位置に芳香族複素環高分子繊維からなる糸条を規則的、またはランダムに配列したもので、外観上、格子柄(または変則格子柄)を形成する織物、三軸織物、四軸織物が適している。具体的に経糸群及び緯糸群の糸条配列1,2,3,4,5・・・n(nは整数)において、10の倍数(10,20,30・・・)本目毎に、芳香族複素環高分子繊維糸条が挿入され、格子模様を形成するような態様である。また四軸織物において、経糸、緯糸、左上バイアス糸、右上バイアス糸の何れか、または全部を全て香族複素環高分子繊維糸条とすることもでき、具体的に経糸と緯糸を香族複素環高分子繊維糸条、左上バイアス糸と右上バイアス糸を他の繊維糸条とする構成、または左上バイアス糸と右上バイアス糸を他の香族複素環高分子繊維糸条、経糸と緯糸を他の繊維糸条とする構成である。
【0033】
ターポリンは、織布の両面に熱可塑性樹脂組成物フィルムを積層した樹脂加工織物で、帆布は布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜化した樹脂加工織物で、またメッシュシートは粗目織物の全面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、塗工物を皮膜化した樹脂加工織物である。これらに用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、軟質塩化ビニル樹脂(可塑剤配合)、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PP)、オレフィン系共重合体樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂など、ショアA硬度35~85程度の熱可塑性樹脂、またはエラストマーであり、これらは相溶、または半相溶の状態で2種以上をブレンドしてもよく、また2種以上の多層フィルム、または多層塗膜としてもよい。エラストマーとは2種以上のモノマーからなるブロック共重合体樹脂で、個々のブロック成分がハードセグメント、及びソフトセグメントを構成する樹脂である。基体である樹脂加工織物には、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体を含有することで、紫外線がケト型とエノール型の相互変換のためのエネルギーに消費される作用を利用して、防汚層だけで完全に吸収しきれなかった紫外線を基体で吸収することができるようになり、より本発明の複合体シートの耐用年数延長に大きく寄与する。これらのケト/エノール型互変異性体は各々、防汚層に配合するものと同一でよく、段落〔0024〕~〔0026〕に記載したものから選択できる。また、さらに樹脂加工織物には、安定剤、フィラー、着色剤、顔料、メタリック顔料、蓄光顔料、難燃剤、防炎剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤、架橋剤などの公知の添加剤を任意に組み合わせて配合することができる。
【0034】
ターポリン(基体)は、熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤など)を熱混練し、カレンダー法、またはTダイス押出法で溶融圧延した厚さが80~800μm、特に150~300μmフィルム(シート)が使用できる。また織物に対する樹脂加工は、熱ロール/ゴムロールの連続圧着ユニットを1~2と、冷却ロールユニット、及び巻取ユニットを有するラミネーターを用い、ラミネーターの1回通しまたは2回通しの工程により熱溶融圧着した樹脂加工織物である。ターポリンは、カレンダー成型して得たフィルムをラミネーターにより目開き織物の両面に熱圧着して製造され、厚さ0.4~1.5mm、質量500~2000g/m2の範囲の「(光触媒層)/防汚層/ターポリン(基体)」が、大型テント(パビリオン)、サーカステント、テント倉庫、建築空間の膜屋根(天井)、日除けテントなどの膜構造物に使用できる。基体である帆布、及びメッシュシートは、溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤などによるペースト)を織物の表面、及び内部にナイフコート、クリアランスコートなどのコーティング法により含浸塗工し、これを熱乾燥、または加熱ゲル化させるか、または溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂ペースト)を充填した液浴中に織物を浸漬し、これを引き上げると同時に1対のゴムロール間で圧搾し、直後に熱乾燥、または加熱ゲル化させるディッピング法によって製造された樹脂加工織物である。帆布、及びメッシュシートの製造は、塩化ビニル樹脂/可塑剤などによるペーストによるディッピング法が適し、厚さ0.3~0.8mm、質量400~1000g/m2の範囲の「(光触媒層)/防汚層/帆布(基体)」が、トラック幌、トラック荷台シート、屋形テント、シートハウスなどの用途に適している。また、厚さ0.3~0.8mm、質量300~700g/m2の範囲の「(光触媒層)/防汚層/メッシュシート(基体)」が、建築養生メッシュシート、ファサードメッシュシートなどの用途に適している。この段落で「(光触媒層)/」は任意の追加層であるが、耐用年数の延長の観点において本発明の複合体シートの最良の態様である。
【0035】
本発明の複合体シートの具体例、及び性能について、下記の実施例及び比較例を挙げて更に説明する。
〈耐候促進試験〉
JIS K5600-7-7「塗料一般試験方法(第7部)塗膜の長期耐久性」に準拠して、耐候促進機3000時間、4000時間、4500時間、5000時間の照射ごとにシート片の変色を色差ΔE(JIS Z8729)で評価した。(促進前のシート片を基準とする)
ΔE=0~2.9 : 1=着色を認めない(適合)
ΔE=3~5.9 : 2=僅かな着色を認める(適合)
ΔE=6~11.9 : 3=薄い褐色に変色(外観に影響する)
ΔE=12~19.9 : 4=茶褐色に変色(外観異常)
ΔE=20~ : 5=黒褐色に変色(外観異常)
〈耐候促進試験後の屈曲耐久性〉
JIS K5600-7-7「塗料一般試験方法(第7部)塗膜の長期耐久性」に準拠して、耐候促進機3000時間、4000時間、4500時間、5000時間の照射時間ごとのシート片を用い、JIS L1096 8.19項「摩耗強さB法(スコット法)」により、1kgf荷重500回での、防汚層の摩耗状態、及び亀裂の有無を、デジタルマイクロスコープ(VHX-1000:株式会社キーエンス)を使用して防汚層の100倍の拡大画像観察を行い評価した。
1:防汚層に異常を認めない(適合)
2:防汚層に亀裂を認めるが、剥離、脱落は認めない(適合)
3:防汚層の1~25%が剥離、脱落し、露出した基材が僅かに着色している
※ΔE=3~5.9(判定2)
4:防汚層の1~24.9%が剥離、脱落し、露出した基材が着色している
※ΔE=6~11.9(判定3)
5:防汚層の25%以上が剥離、脱落し、露出した基材が着色している
※ΔE=6~11.9(判定3)
【0036】
[実施例1]
〈織物(1)〉
1000デニール(1111dtex)のポリエチレンテレタレート(PET)繊維(フィラメント数192本)からなり、S撚50T/mを施したPETマルチフィラメント糸条を経糸群及び緯糸群に用い、経糸群は1インチ間16本の織組織とし、また緯糸群は1インチ間16本の織組織とする平織物を用いた。この織物(1)の質量は150g/m2、空隙率(目抜け部総和)は14%であった。
<ターポリン基体>
この織物(1)を基材として、その両面に下記〔配合1〕の軟質塩化ビニル樹脂組成物からなる厚さ0.2mmのカレンダー成型フィルムを表裏の被覆層として、ラミネーターでの熱圧着による溶融ラミネートを施して、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン基体(1)を得た。
〔配合1〕:軟質塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(可塑剤:Mw419) 55質量部
リン酸トリクレジル(防炎可塑剤) 10質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 5質量部
バリウム/亜鉛複合安定剤 2質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ルチル型酸化チタン(白顔料) 5質量部
ヒンダードフェノール系酸化防止剤 0.5質量部
<複合体シート(1):ターポリン>
ターポリン基体(1)の片表面上に、下記〔配合2〕のアクリル系樹脂塗料を100メッシユのグラビアロールによりターポリン基材の片面(表面)にグラビア塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、〔配合2〕のアクリル系樹脂塗料が硬化(アクリル系樹脂が含有する水酸基と硬化剤のイソシアネート基との反応)した防汚層を付帯する、厚さ0.71mm、質量835g/m2の複合体シート(1)を得た。
〔配合2〕防汚層形成用塗料
水酸基含有アクリル系共重合体(固形分50wt%のエマルジョン) 100質量部
※メチルメタアクリレート(80wt%)β-ヒドロキシエチルアクリレート(20wt%)
ヘキサメチレンジイソシアネート(水性硬化剤) 10質量部
変性セルロースナノファイバー(2wt%水溶液) 100質量部
※3-アミノプロピルトリメトキシシラン(アミノ系シランカップリング剤)の加水分解
物をセルロースナノファイバーの水酸基に反応させたシランカップリング処理変性体:
繊維幅3~10nm:繊維長30~100μm
ベンゾトリアゾール系互変異性体 3質量部
※エノール型として〔化1〕において、2位-水酸基(1個)/ケトン基(0個)のベ
ンゼン環(5位tert-ブチル基)1個の1位Cと、ベンゾトリアゾール環(置換基なし)
とのC-N結合体によるMW267の有機化合物
※ケト型として〔化2〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)のベンゼ
ン環(5位tert-ブチル基)1個の1位Cと、ベンゾトリアゾール環(置換基なし)と
のC-N結合体(MW267)
※1位、2位、5位、はベンゼン環の炭素の位置を表す
【0037】
[実施例2]
実施例1の〔配合2〕を〔配合3〕に変更した以外は実施例1と同様として、〔配合3〕による防汚層を付帯する、厚さ0.71mm、質量835g/m2の複合体シート(2)を得た。
〔配合3〕防汚層形成用塗料
水酸基含有アクリル系共重合体(固形分50wt%のエマルジョン) 100質量部
※メチルメタアクリレート(80wt%)β-ヒドロキシエチルアクリレート(20wt%)
ヘキサメチレンジイソシアネート(水性硬化剤) 10質量部
ホウ酸エステル化変性セルロースナノファイバー(2質量%水溶液) 100質量部
※3質量%ホウ酸+78質量%エチルセロソルブの水溶液をカルボキシメチル化セルロ
ースナノファイバー(セルロースの1級、2級水酸基(2,3,6位)をカルボキシメ
チル化)のカルボキシメチル基に反応させた変性体:繊維幅3~10nm:繊維長30~100
μm
トリアジン系互変異性体 3質量部
※エノール型として〔化3〕において、2位-水酸基(1個)/ケトン基(0個)のベ
ンゼン環(4位ブトキシ基)3個の各々1位Cと、1,3,5-トリアジン環の2,
4,6位CによるC-C結合体によるMW367の有機化合物
※ケト型として〔化4〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)のベンゼ
ン環(4位ブトキシ基)3個の各々1位Cと、1,3,5-トリアジン環の2,4,6
位CによるC-C結合体(MW367)
※1位、2位、4位はベンゼン環の炭素の位置を表し、トリアジン環の2,4,6位C
は炭素の位置、1,3,5位は窒素Nの位置を表す。
【0038】
[実施例3]
実施例1の〔配合2〕を〔配合4〕に変更した以外は実施例1と同様として、〔配合4〕による防汚層を付帯する、厚さ0.71mm、質量835g/m2の複合体シート(3)を得た。
〔配合4〕防汚層形成用塗料
水酸基含有アクリル系共重合体(固形分50wt%のエマルジョン) 100質量部
※メチルメタアクリレート(80wt%)β-ヒドロキシエチルアクリレート(20wt%)
ヘキサメチレンジイソシアネート(水性硬化剤) 10質量部
リン酸エステル化変性セルロースナノファイバー(2質量%水溶液) 100質量部
※3質量%リン酸+78質量%エチルセロソルブの水溶液をカルボキシメチル化セルロ
ースナノファイバー(セルロースの1級、2級水酸基(2,3,6位)をカルボキシメ
チル化)のカルボキシメチル基に反応させた変性体:繊維幅3~10nm:繊維長30~100
μm
ジフェニルケトン系互変異性体 3質量部
※エノール型として〔化5〕において、2位-水酸基(1個)/ケトン基(0個)/
4位-オクトキシ基(1個)のベンゼン環(他の置換基なし)1個の1位Cと、ベンゼ
ン環(他の置換基なし)とがC=Oを介在して結合したMW296の有機化合物
※ケト型として〔化6〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)/4位-オ
クトキシ基(1個)のベンゼン環(他の置換基なし)1個の1位Cと、ベンゼン環(他
の置換基なし)とがC=Oを介在して結合(MW296)
※1位、2位、4位はベンゼン環の炭素の位置を表す
【0039】
[実施例4]
実施例1の複合体シート(1)の防汚層の表面に、さらに光触媒層〔配合5〕を設け、厚さ0.71mm、質量836g/m2の複合体シート(4)を得た。
〔配合5〕光触媒層形成用塗料
エチルシリケート(Si(OC2H5)4:SiO2換算40質量%)
※[Si5O4(OC2H5)12]のテトラエトキシシラン5量体 100質量部
加水分解触媒:2%塩酸 5質量部
光触媒性酸化チタンゾル 50質量部
硝酸酸性:粒子径10nm:固形分30質量%エタノール溶液
ビニル系シランカップリング剤 5質量部
※ビニルトリメトキシシラン
シリカゾル(粒子径12nm:固形分30質量%エタノール溶液) 50質量部
【0040】
[実施例5]
実施例2の複合体シート(2)の防汚層の表面に、さらに光触媒層〔配合5〕を設け、厚さ0.71mm、質量836g/m2の複合体シート(5)を得た。
【0041】
[実施例6]
実施例3の複合体シート(3)の防汚層の表面に、さらに光触媒層〔配合5〕を設け、厚さ0.71mm、質量836g/m2の複合体シート(6)を得た。
【0042】
【0043】
【0044】
実施例1~3において、ターポリン基体の表面に、セルロースナノファイバー、及び、ケト/エノール型互変異性体を含有する防汚層を形成することによって得られた複合体シート(1)~(3)は、セルロースナノファイバーの存在で、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性が向上し、防汚層に亀裂などの劣化を容易に生じず、摩滅、脱落することがなくなることが比較例2の複合体シート(8)との対比で明らかである。またケト/エノール型互変異性体の相互変換効果で紫外線エネルギーが減衰され、劣化ダメージが軽減される効果が比較例3の複合体シート(9)との対比で明らかである。よって防汚層にセルロースナノファイバー、及び、ケト/エノール型互変異性体を含有する複合体シート(1)~(3)は、防汚層にそのどちらも含有しない複合体シート(7)と対比すると、複合体シート(1)~(3)の耐用年数が大幅に延長されたものであることは明らかである。また、実施例4~6において、複合体シート(1)~(3)の防汚層上に、さらに光触媒層を形成した複合体シート(4)~(6)は、光触媒層内に含む光触媒性金属酸化物が光触媒活性を発現するためのエネルギーとして紫外線エネルギーの一部を消費することで、下に位置する防汚層に到達する紫外線エネルギー量を軽減する効果と、防汚層内に含むケト/エノール型互変異性体の相互変換効果で紫外線エネルギーがさらに減衰され、劣化ダメージがより軽減される効果が実施例1~3の複合体シート(1)~(3)、比較例1~3の複合体シート(7)~(9)との対比で明らかである。
【0045】
[比較例1]
実施例1の防汚層[配合2]から、変性セルロースナノファイバー(2質量%水溶液)100質量部を省略し、水100質量部と置き換え、さらにベンゾトリアゾール系互変異性体3質量部を省略した[配合6]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.71mm、質量834.3g/m2の複合体シート(7)を得た。実施例1の防汚層[配合2]から、変性セルロースナノファイバー、を省略したことで、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性が向上せず、防汚層に亀裂などの劣化を容易に生じて、防汚層の一部が摩滅、脱落するようになり、またケト/エノール型互変異性体を省略したことで、紫外線エネルギーを分子振動エネルギーに変換放出する相互変換が発現せず、劣化ダメージが顕著なものとなった。
【0046】
[比較例2]
実施例1の防汚層[配合2]から、変性セルロースナノファイバー(2質量%水溶液)100質量部を省略し、水100質量部と置き換えた[配合7]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.71mm、質量834.7g/m2の複合体シート(8)を得た。ケト/エノール型互変異性体の存在によって、紫外線エネルギーを分子振動エネルギーに変換放出する相互変換が発現したことで、劣化ダメージが減衰して防汚層の保護に寄与するものであったが、防汚層から、変性セルロースナノファイバーを省略したことで、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性が向上せず、防汚層に亀裂などの劣化を生じて、防汚層の一部が摩滅、脱落するようになった。
【0047】
[比較例3]
実施例1の防汚層[配合2]から、ベンゾトリアゾール系互変異性体3質量部を省略した[配合8]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.71mm、質量834.7g/m2の複合体シート(9)を得た。変性セルロースナノファイバーの存在により、屈曲と摩耗の負荷に対する防汚層の抵抗耐性が向上し、防汚層に亀裂などの劣化を生じず、防汚層の一部が摩滅、脱落するように問題はなかったが、防汚層からケト/エノール型互変異性体を省略したことで、紫外線エネルギーを分子振動エネルギーに変換放出する相互変換が発現せず、劣化ダメージが顕著なものとなった。
【0048】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、耐久性と耐候性が向上し、紫外線による劣化ダメージが軽減されることで、耐用年数が延長された産業資材用の複合体シート(ターポリン、帆布、メッシュシートなど)が得られるので、これらの複合体シートを原反として構築された、大型テント構造物(スポーツ施設、パビリオン、サーカス、プラネタリウムなど)、テント倉庫、建築養生(防音)シート、建築空間の膜屋根(膜天井)、ファサードシート、フレキシブルコンテナ、昇降式シートシャッター、フロアシート、間仕切りシート、トラック幌、野積防水シート、屋形テント、建築養生、防風防雪ネット、防眩ネット、ビジュアルファサードなどの耐用年数が延長されたものとなる。この産業資材用の複合体シートの耐用年数延長により廃棄頻度(すなわち生産量)が減り、長期的視野において複合体シート廃棄量が削減されることで地球環境保全に貢献できるものとなり得る。