(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ベバシズマブ精製の最適化された方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/18 20060101AFI20240229BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C07K1/18
C07K1/34
(21)【出願番号】P 2022550874
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 KR2021001523
(87)【国際公開番号】W WO2021167276
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0021724
(32)【優先日】2020-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522331703
【氏名又は名称】プレスティージ バイオファーマ ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チェ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、チ ソン
(72)【発明者】
【氏名】シム、チェ ホ
(72)【発明者】
【氏名】オム、ユン チョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、チュ ヤン
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0122384(US,A1)
【文献】国際公開第2019/122054(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105777904(CN,A)
【文献】国際公開第2018/177369(WO,A1)
【文献】特表2015-501836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等電点が7~10の抗体および一つ以上の宿主細胞タンパク質(host cell protein,HCP)を含むpH5.5~7.0および伝導度
7mS/cm~8mS/cmの試料を、平衡化された陽イオン交換カラムにローディングし、陽イオン交換カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる段階を含む抗体の精製方法であって、
前記陽イオン交換カラムの官能基はスルホナート(S)であり、
前記洗浄緩衝液で洗浄する段階は
、0mM~38mM塩化ナトリウムを含むpH5.5~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階;を含み、
前記溶出緩衝液で溶出させる段階は、
1)38mM~50mM塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の10mM~50mMのリン酸塩を含む、
10~20カラム体積の緩衝液で抗体を第1溶出させる段階;および
2)50mM~60mM塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の10mM~50mMのリン酸塩を含む、
5~12カラム体積の緩衝液で抗体を第2溶出させる段階;を含む、抗体の精製方法。
【請求項2】
0mM~38mM塩化ナトリウムを含むpH5.5~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階は、下記の3段階を含む、請求項1に記載の方法:
a)塩化ナトリウムを含まずに、pH5.5~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む洗浄緩衝液で第1次洗浄する段階;
b)塩化ナトリウムを含まずに、pH5.5~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む洗浄緩衝液で第2次洗浄する段階;および
c)20~38mMの塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む洗浄緩衝液で第3次洗浄する段階。
【請求項3】
前記抗体は、ベバシズマブ(Bevacizumab)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記陽イオン交換カラ
ムは、フラクトゲル(Fractogel)
TM EMD SO
3である、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記抗体はベバシズマブ(Bevacizumab)であり、前記陽イオン交換カラムはフラクトゲル(Fractogel)
TM
EMD SO
3
である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
抗体の精製方法は、
前記溶出させる段階を通じて回収したろ液を限外ろ過および透析ろ過する段階;および多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階;をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体の精製方法は、多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階後に陰イオン交換カラムを用いて宿主細胞タンパク質を除去する段階をさらに含む、請求項
6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親和性クロマトグラフィーであるプロテインA(protein A)カラムを使用することなく、低費用で高純度および高収率で抗体を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ医薬品の研究および開発における最新傾向は、抗体断片の開発にさらに重点を置く。多数のバイオシミラー(biosimilar)治療タンパク質が以前に比べてさらに多く開発されているが、バイオシミラー製品の開発における重大な困難は、分離精製工程(downstream processing)の高い費用、工程および生成物関連不純物の非選択的消去、生成物のタンパク質分解による分解などである。抗体断片は、全長の単クローン性抗体(mAb)治療剤に比べて特定の利点を提供するが、このような利点は、例えば、腫瘍への増進された深部への浸透、全長のmAbに接近できない特異的エピトープに結合などである。高力価のクローンおよび連続的なバイオマニュファクチャリング(bio-manufacturing)のような発酵培養工程(upstream processes)での進歩は、バイオ医薬品産業の焦点を全体的な分離精製工程経済を向上させる側に移動させた。分離精製工程は、単クローン性抗体治療剤のための全体製造費用の略60~70%を占める。分離精製工程の捕獲段階、中間段階およびポリッシング(polishing)段階は、高価な多様なクロマトグラフィー操作の使用を含む。
【0003】
これによって、抗体医薬品と関連して精製工程に関する多くの研究開発が行われていた。
【0004】
例えば、単クローン性抗体に対する精製方法は、通常、4個の基本段階を含んで技術開発が行われており、これと関連した多くの研究が存在する。これらの段階は、(1)回収-発酵培養物から宿主細胞の分離;(2)捕獲-浄化された回収物のうち大多数の成分から抗体の分離;(3)微細精製-残留宿主細胞汚染物および凝集物の除去;および(4)剤形化-抗体を最大安定性および貯蔵期間のために好適な担体に配置する段階である。しかしながら、これらの段階が必ず薬剤学的状況で使用するのに十分な純度の抗体組成物を生成するわけではない。したがって、薬剤学的使用に適合する程度の不純物が除去された純粋な形態の目的抗体を生成および精製する方法が何よりも重要である。
【0005】
具体的に、抗体医薬品生産のための精製工程として、プロテインA(Protein A)カラムを用いた精製工程が主に行われている。ところが、プロテインA(Protein A)カラムを用いた精製方法の場合、初期段階で高い純度で生産できる長所を有するが、価格が一般イオン交換樹脂に比べて30倍以上と高くて、生産コストが高いという短所がある。
【0006】
従来の報告によれば、プロテインA樹脂が抗体医薬品の生産原料コストの約35%に該当する高い割合を占めていて、カラムから溶出される微量のプロテインAが人体内部で免疫性または生理的に反応を起こすことができる。したがって、プロテインAカラムを用いた精製工程の場合、残量のプロテインAを工程別にモニタリングし、除去しなければならない困難を有する。また、生物親和性基であるプロテインAは、化学的に安定性が弱い短所があり、カラムの再生段階でプロテインAの活性を維持する状態で再生させなければならないので、クリーニング工程で必須的に使用される1MのNaOHを使用できず、カラムに付着した不純物を完全に除去できず、これによって、カラムを再生して使用する回数が他の一般化学的樹脂に比べて顕著に落ちる限界を有する。
【0007】
このような問題点を解決するために、陽イオン交換カラム、疎水性カラム、陰イオン交換カラムなどを用いた不純物除去および高純度抗体を開発しようとする多くの努力があった。
【0008】
特に、抗体の生産に使用される動物細胞、特にCHO細胞株を用いて生産した抗体の培養液には、目的とする抗体だけでなく、CHO細胞自体で発生する宿主細胞由来タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA(HCD)などの不純物も多量含まれていて、また、細胞生長のための因子も含まれている。したがって、プロテインAクロマトグラフィーカラムなしに抗体を精製する場合、初期段階で不純物をどれくらい除去できるかが特に重要である。しかしながら、プロテインAクロマトグラフィーなしに低いHCPレベルと主活性抗体の割合を高めることができる抗体精製工程を開発するためには、好適なクロマトグラフィーの種類および順序、ひいては、工程の最適化過程を開発しなければならない困難が伴う。
【0009】
例えば、一般的に陽イオン交換カラムを使用する場合、異種抗体の割合を減らし、主活性抗体の割合を高めるために、様々なバッファーの使用が混在される。これによって、多数のバッファーの使用による複雑な工程に起因して溶出(Elution)されるタンパク質を収集するのに困難がある。特に、陽イオン交換カラムの使用において洗浄(Washing)工程は、多量の異なる成分を有するバッファー組成を用いる必要があり、洗浄過程で使用されるカラム体積が非常に大きいので、工程過程で廃棄される緩衝液の量が相当するだけでなく、製造工程で時間が非常に長くかかる問題が存在する。
【0010】
上記のような問題に起因して抗体生産費用および生産時間が大きく増加し、品質確保をしても、収率が低い問題が存在する。
【0011】
このような背景下に、バイオシミラー製品、特に精製された抗体断片を収得するための便利な分離精製手続きを提供することが非常に重要である。先行技術の分離精製手続きによって提起された問題点の観点から、本発明者らは、抗体を精製するための方法を提供しようとした。本発明によって収得された精製された抗体は、優れた純度および活性基準を満たしながらも、従来の工程に比べて高い収率を満足させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、pHおよび伝導度を調節した試料を陽イオン交換カラムで適切な緩衝液条件下に精製すると、高い主活性抗体割合と同時に、高い収率を獲得して、高品質の抗体製剤を製造できることを確認することによって、本発明を完成した。特に、本発明では、陽イオン交換カラムの溶出工程で使用される多量の溶出段階の緩衝液を半分程度減縮し、かつ、工程時間を減縮させ、緩衝液使用量を減らすと同時に、生成される抗体収率を大きく増加させることによって、本発明を完成した。これによって、本発明では、下記目的の発明を提供する。
【0013】
本発明の一目的は、抗体および一つ以上の宿主細胞タンパク質(host cell protein,HCP)を含む、pH5.5~7.0および伝導度5mS/cm~8mS/cmである、試料を、平衡化された陽イオン交換カラムにローディングし、陽イオン交換カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる段階;を含む抗体の精製方法であって、
前記洗浄緩衝液で洗浄する段階は、
1)0mM~38mM塩化ナトリウムを含むpH5.5~7.0の10mM~50mMリン酸塩を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階;を含み、
前記溶出緩衝液で溶出させる段階は、
1)38mM~50mM塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の10mM~50mMのリン酸塩を含む、緩衝液で抗体を第1溶出させる段階;および
2)50mM~60mM塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の10mM~50mMのリン酸塩を含む、緩衝液で抗体を第2溶出させる段階;を含む、抗体の精製方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、前記方法で製造された抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するための一様態において、本発明は、抗体および一つ以上の宿主細胞タンパク質(host cell protein,HCP)を含むpH5.5~7.0および伝導度5mS/cm~8mS/cmの試料を、平衡化された陽イオン交換カラムにローディングし、陽イオン交換カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる段階を含む抗体の精製方法を提供する。
【0016】
具体的に、抗体および一つ以上の宿主細胞タンパク質(host cell protein,HCP)を含むpH5.5~7.0および伝導度5mS/cm~8mS/cmの試料を、平衡化された陽イオン交換カラムにローディングし、陽イオン交換カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる段階を含む抗体の精製方法であって、
前記洗浄緩衝液で洗浄する段階は、
1)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMリン酸塩(好ましくは、リン酸ナトリウム)(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階; を含み、
前記溶出緩衝液で溶出させる段階は、
1)38mM~50mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(好ましくは、リン酸ナトリウム)(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第1溶出させる段階;および
2)50mM~60mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(好ましくは、リン酸ナトリウム)(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第2溶出させる段階;を含む、抗体の精製方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明による抗体の精製方法を用いると、高価なプロテインA(protein A)カラムを使用することなく、不純物を除去して高純度および高品質で目的とする抗体を製造できる。特に、本発明では、溶出工程で使用される緩衝液の量(体積)を大きく減少させると同時に、高い収率で抗体を精製したという点から優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施例による陽イオン交換クロマトグラフィー(cation exchange chromatography)段階の溶出プロファイルを示す図である。
【
図2】本発明の一実施例によって得られた溶出液のCE-HPLC分析グラフである。
【
図3】本発明の一実施例による限外ろ過および透析ろ過の適正pH条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による抗体の精製方法は、先行技術と比べて少ない量の緩衝液でもさらに高い収率の精製を可能にして、生産コストを減少させ、精製工程を迅速に進行させることができるので、抗体の精製工程に優れているという長所を有する。
【0020】
具体的に、本発明の方法は、抗体および一つ以上の宿主細胞由来タンパク質(HCP)を含む混合物においてプロテインAカラム工程を使用しないながらも、宿主細胞由来タンパク質(HCP)および異種抗体を顕著に減少させた抗体精製物を生産できる方法である。動物細胞などの宿主細胞から抗体を発現し、これから抗体を収得しようとする場合、ここには、目的とする抗体のほかに、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA(HCD)および成長因子などが存在し、ひいては、目的とする抗体の異種抗体(例:酸性異種抗体、塩基性異種抗体)などが存在していてもよい。したがって、抗体製剤を作るためには、上記の混在している不純物を除去して純度を高めて、所望の品質の抗体を得るための精製過程が必要であり、特に宿主細胞タンパク質と異種抗体を効果的に除去できる精製過程が必要である。しかしながら、その最適化方法を開発するためには、使用するカラムの種類、精製順序および最適化された条件を糾明しなければならず、実際その工程を開発するのに困難があった。
【0021】
これより、本発明では、抗体を発現する宿主細胞の培養上清液のpHおよび伝導度を調節し、陽イオン交換クロマトグラフィーで洗浄段階および溶出段階の条件、特に緩衝液の性状およびカラム体積条件に差異を与えることによって、宿主細胞タンパク質および異種抗体レベルを顕著に減少させることができるだけでなく、高い収率で抗体を精製する方法を提供する。
【0022】
本発明において「抗体および宿主細胞タンパク質を一つ以上含む試料」という用語は、抗体を生産する細胞の培養上清液、前記細胞の破砕物、またはこれから部分精製された試料であって、精製しようとする目的抗体および宿主細胞タンパク質を含む試料を意味する。前記部分精製は、ろ過過程を行ったが、精製しようとする抗体のほかに、他のタンパク質も存在する状態を意味する。
【0023】
ここで、前記試料は、本発明の方法で効果的な異種抗体の除去をもたらすために、pHが5.5~7.0であり、伝導度が5.0mS/cm~8.0mS/cmを有するように調節されたものであってもよい。
【0024】
詳細には、前記pHは、5.8~6.2であってもよい。前記伝導度は、5.0mS/cm~8.0mS/cm、より詳細には、6.0mS/cm~8.0mS/cm、さらに詳細には、7.0mS/cm~8.0mS/cmであってもよく、具体的に約7.0mS/cmであってもよい。
【0025】
本発明では、試料のpH5.8~6.2の条件と伝導度7.0mS/cm~8.0mS/cmの条件で陽イオンカラムクロマトグラフィーを行った結果、少ない量の緩衝液を用いながらも、高い収率で精製を行っただけでなく、塩基性異種抗体の含有量も大きく減少させた。
【0026】
このようなpHおよび伝導度を有する試料を、陽イオン交換クロマトグラフィーに適用する場合、精製しようとする抗体を陽イオン交換カラムに良く吸着させながらも、宿主細胞タンパク質のような不純物は灌流排出されるか、または、陽イオン交換樹脂に弱くまたは非特異的に結合して、洗浄段階で容易に除去することができる。また、異種抗体、特に塩基性異種抗体の割合を容易に低減することができ、所望の抗体割合の調節が容易である。
【0027】
本発明において「伝導度」という用語は、二つの電極間の電流を導通させる水溶液の能力を意味する。溶液内では、イオン輸送によって電流が流れる。したがって、水溶液中に存在するイオン量を増加させると、溶液はさらに高い伝導度を有することとなる。前記伝導度とは、電流を運搬できる溶液中、イオンの能力であるから、溶液のイオン濃度を変化させることによって、溶液の伝導度を変更させることができる。例えば、所望の伝導度を得るために、溶液中、緩衝剤の濃度および/または塩(例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、または塩化カリウム)の濃度を変化させることができる。詳細には、各種緩衝液の塩濃度を変更して、所望の伝導度を得ることができる。
【0028】
本発明において「抗体」という用語は、免疫系内で抗原の刺激によって作られる物質であり、特定の抗原と特異的に結合してリンパと血液を循環しつつ抗原-抗体反応を起こす物質を意味する。本発明の目的上、前記抗体は、高品質で精製されるためのタンパク質の一つであり、本発明による方法によって効率的に精製されることができる。
【0029】
前記抗体は、一般的に等電点が他のタンパク質に比べて高いので、初期陽イオン交換樹脂を使用して培養上清液をカラムに吸着させた後、溶出させると、比較的高純度で一次精製することができる。前記等電点(isoelectric point,pI)は、タンパク質分子表面の平均実効電荷、すなわちタンパク質分子の電気二重層の電位が0となるpH値であり、タンパク質の基が解離して陽イオン、陰イオン基の数が同数となって、実効電荷が0となるという点を意味する。本発明において精製されるための抗体は、これに限定されないが、等電点が、詳細には、6~11であってもよく、より詳細には、7~10の抗体であってもよい。また、本発明の抗体は、これに限定されないが、詳細には、当該分野において通常使用される治療用抗体を全部含んでもよい。本発明の方法によって効果的に精製されることができる抗体は、VEGF-A(vascular endothelial growth factor A)を標的とする抗体であるベバシズマブ(Bevacizumab)でありうる。前記ベバシズマブ抗体は、抗体力価を1~3のレベルで有するものであってもよい。詳細には、抗体力価を2~3のレベルで有するものであってもよい。
【0030】
本発明において「主活性抗体」という用語は、本発明の抗体集団に含まれる主要構成要素であり、抗体中、一部のアミノ酸が脱アミンや酸化によって変形(modification)して、生物学的活性が低くならない状態の抗体、すなわち酸性または塩基性異種抗体でない抗体を意味する。前記主活性抗体は、目的とする抗体集団の品質を調節するために最も重要な構成要素であり、抗体の構成要素のうち生物学的活性が最も高い抗体である。
【0031】
本発明において「異種抗体」という用語は、主活性抗体の一部のアミノ酸が脱アミンや酸化によって変形した抗体を意味し、酸性異種抗体および塩基性異種抗体を含む。その例として、アミノ酸のうちアスパラギン(Asparagine)が脱アミンして、アスパーテイト(Aspartate)となった異種抗体、アミノ酸のうちメチオニン(methionine)が酸化してメチオニンサルフェート(Methionine sulfate)となった異種抗体などがある。また、重鎖のN末端にグルタメート(glutamate)が存在する場合、前記グルタメートが五角形リング構造を形成してピログルタメート(Pyroglutamate)に変形した異種抗体を含む。前記異種抗体は、CHO細胞のような宿主細胞で抗体を生成する場合に、高い割合で宿主細胞培養液に含まれていて、クロマトグラフィーのような過程を通じて除去されて、目的とする割合で抗体集団に含まれなければならない。
【0032】
したがって、抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが導入された宿主細胞で、高品質の抗体集団を製造するためには、上記のような異種抗体が適切に除去されて、主活性抗体および異種抗体が所望の含有量で含まれなければならない必要性がある。また、高純度の抗体集団を製造するためには、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA(HCD)および細胞生長のための因子のような不純物が除去されなければならない。これより、本発明では、前記異種抗体の含有量の調節だけでなく、宿主細胞タンパク質のような不純物が効果的に除去された、抗体の製造方法を開発した。
【0033】
本発明において「宿主細胞タンパク質(Host cell protein;HCP)」という用語は、当該抗体と異なるタンパク質であり、通常、抗体生産の供給源、すなわち宿主細胞に由来するタンパク質を意味する。医薬品に使用できる抗体では、HCPは、最初抗体製剤から排除されることが好ましい。前記除去される宿主細胞タンパク質は、精製しようとする抗体を除いた不純物を全部含む概念であり、宿主細胞タンパク質自体だけでなく、宿主細胞に由来するDNAおよび細胞生長のための因子などを全部含んでもよい。したがって、前記宿主細胞タンパク質を除去すると、精製しようとする抗体だけを高純度で精製することができる。
【0034】
本発明において「陽イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いたクロマトグラフィーを意味し、陽イオン交換クロマトグラフィーを行うことで、不純物、詳細には、宿主細胞タンパク質および異種抗体を除去することができる。前記陽イオン交換樹脂は、水溶液中の陽イオンと自分の陽イオンを交換する役割をする合成樹脂であり、抗体の場合、等電点が高いので、等電点値以下のpH緩衝液では陽イオンを帯びる。したがって、前記陽イオンを帯びる抗体を吸着できる陽イオン交換樹脂を用いて本発明の方法で、抗体精製効率を高めることができ、特に、前記pHは、5.8~6.2であってもよく、前記伝導度は、5.0mS/cm~8.0mS/cm、詳細には、6.0mS/cm~8.0mS/cm、より詳細には、7.0mS/cm~8.0mS/cmであってもよい。具体的に約7.0mS/cmであってもよい。
【0035】
本発明では、洗浄する段階として下記の段階を含む:
1)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階。
【0036】
このような洗浄する段階の場合、約7~20カラム体積、詳細には、約13カラム体積で前記洗浄緩衝液を使用することが好ましい。
【0037】
このような洗浄する段階の場合、一定のモル濃度で10mM~50mMリン酸塩の条件を維持しつつ、塩化ナトリウムのモル濃度を増加させる洗浄緩衝液を使用して多回にわたって洗浄を行うものであってもよい。
【0038】
例えば、10mM~50mMリン酸塩、詳細には、15mM~30mM、より詳細には、約20mMを含み、塩化ナトリウムを含まないpH5.5~7.0の緩衝液で第1次洗浄を行うことができる。その後、前記類似緩衝液(例えば、pH条件だけを異ならさせた緩衝液など)で第2次洗浄を繰り返し行うことができる。次に、10mM~50mMリン酸塩、詳細には、15mM~30mM、より詳細には、約20mMを含み、20~38mMの塩化ナトリウムを含むpH6.0~7.0の緩衝液で第3次洗浄を行うことができる。
【0039】
これによって、前記1)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で抗体を洗浄する段階は、下記の段階を含むものであってもよい:
a)塩化ナトリウムを含まずに、10mM~50mMリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む洗浄緩衝液で第1次洗浄する段階;
b)塩化ナトリウムを含まずに、10mM~50mMリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む洗浄緩衝液で第2次洗浄する段階;および
c)20~38mMの塩化ナトリウムを含む10mM~50mMリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む洗浄緩衝液で第3次洗浄する段階。
【0040】
詳細には、前記段階でのリン酸塩は、15mM~30mM、具体的に、約20mMのリン酸塩であってもよい。前記段階で塩化ナトリウムは、それぞれ0mM、0mMおよび37.5mMであってもよい。
【0041】
第1洗浄する段階の場合、約1~7カラム体積、詳細には、約5カラム体積で前記洗浄緩衝液を使用することが好ましい。
【0042】
第2洗浄する段階の場合、約1~5カラム体積、詳細には、約3カラム体積で前記洗浄緩衝液を使用することが好ましい。
【0043】
本発明の具体的な実施例によれば、前記第1および第2洗浄する段階は、それぞれ約pH6.0および6.48の20mMリン酸塩を含む緩衝液でカラムに吸着しない抗体を付着させるようにする洗浄段階である。
【0044】
第3洗浄する段階の場合、約3~7カラム体積、詳細には、約5カラム体積で前記洗浄緩衝液を使用することが好ましい。本発明の具体的な実施例によれば、第3洗浄する段階は、約pH6.48の37.5mMのNaClを含む20mMリン酸塩で洗浄を行うものであってもよい。
【0045】
本発明では、溶出させる段階として下記の段階を含む:
1)38mM~50mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第1溶出させる段階;および
2)50mM~60mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第2溶出させる段階。
【0046】
このような第1溶出させる段階の場合、約10~20カラム体積、詳細には、約16カラム体積で前記緩衝液を使用することが好ましい。
【0047】
このような第2溶出させる段階の場合、約5~12カラム体積、詳細には、約7カラム体積で前記緩衝液を使用することが好ましい。
【0048】
詳細には、前記段階でのリン酸塩は、15mM~30mM、具体的に約20mMのリン酸塩であってもよい。
【0049】
本発明の精製しようとする抗体および宿主細胞タンパク質を含む試料を陽イオン交換樹脂に注入する場合、抗体は、陽イオン交換樹脂に結合し、宿主細胞タンパク質を含む不純物は、結合なしにカラムを通過したり(灌流)、弱くカラムに結合するので、前記試料を陽イオン交換樹脂に注入した後、洗浄緩衝液を処理して、弱く結合した宿主細胞タンパク質および異種抗体などを除去した後、溶出緩衝液を処理して、精製しようとする抗体を収得することができる。
【0050】
本発明の方法に使用される前記陽イオン交換樹脂は、当業界で通常使用されるものを使用でき、これに限定されないが、詳細には、カルボキシメチル(CM)、スルホエチル(SE)、スルホプロピル(SP)、ホスフェート(P)またはスルホナート(S)などを使用でき、より詳細には、カルボキシレート(COO-)またはスルホナート(SO3)を使用でき、前記官能基がスルホナートである陽イオン交換樹脂のうち、特にフラクトゲル(fractogel)TM EMD SO3を使用できるが、これに限定されるものではない。
【0051】
前記陽イオン交換樹脂として、前記フラクトゲルEMDTM SO3を使用して抗体を精製する方法は、詳細には、
(i)10mM~50mMのリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、平衡緩衝液で平衡化されたフラクトゲル(Fractogel)TM EMD SO3カラムに、抗体の混合液を含む試料をローディングする段階;
(ii)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で洗浄する段階;
(iii)38mM~50mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第1溶出させる段階;および
(iv)50mM~60mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第2溶出させる段階;を含んでもよい。
【0052】
特に、前記(ii)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で洗浄する段階;は、
a)塩化ナトリウムを含まずに、10mM~50mMリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む洗浄緩衝液で第1次洗浄する段階;
b)塩化ナトリウムを含まずに、10mM~50mMリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む洗浄緩衝液で第2次洗浄する段階;および
c)20~38mMの塩化ナトリウムを含む10mM~50mMリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む洗浄緩衝液で第3次洗浄する段階;で構成される。
【0053】
詳細には、前記段階でのリン酸塩は、15mM~30mM、具体的に、約20mMのリン酸塩であってもよい。
【0054】
具体的に、本発明による抗体を精製する方法は、(i)10mM~50mMのリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、平衡緩衝液で平衡化されたフラクトゲル(Fractogel)TM EMD SO3カラムに、抗体の混合液を含む試料をローディングする段階を含む。本発明の具体的な実施例によれば、約pH6.0の20mMリン酸塩で平衡化を行うものであってもよい。このような平衡化の場合、約1~5カラム体積、詳細には、約3カラム体積で前記緩衝液を使用することが好ましい。
【0055】
本発明による試料をローディングする段階後、(ii)0mM~38mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH5.5~7.0)を含む、緩衝液で洗浄する段階;は、上述した洗浄する段階の各段階を含んでもよい。
【0056】
具体的に、本発明による抗体を精製する方法は、(iii)38mM~50mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第1溶出させる段階を含む。本発明の具体的な実施例によれば、約pH6.48の40mMのNaClを含む20mMリン酸塩で溶出を行うものであってもよい。このような溶出の場合、約10~20カラム体積、詳細には、約16カラム体積で前記緩衝液を使用することが好ましい。
【0057】
具体的に、本発明による抗体を精製する方法は、(iv)50mM~60mM塩化ナトリウムを含む10mM~50mMのリン酸塩(pH6.0~7.0)を含む、緩衝液で抗体を第2溶出させる段階を含む。本発明の具体的な実施例によれば、約pH6.48の58mMのNaClを含む20mMリン酸塩で溶出を行うものであってもよい。このような溶出の場合、約5~12カラム体積、詳細には、約7カラム体積で前記緩衝液を使用することが好ましい。
【0058】
本発明では、先行技術とは異なって、前記溶出段階で優れた特性を示す。具体的に、本発明による陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出工程は、溶出段階で使用される緩衝液を大きく減少させるという長所を有する。従来知られていた工程は、例えば、最小20カラム体積以上の緩衝液を使用して2回以上の溶出工程を行うことが一般的である。
【0059】
一方、本発明では、このような溶出工程で使用される緩衝液の量(体積)を大きく減少させながらも、宿主由来タンパク質および異種抗体を大きく減少させ、かつ、高い収率で抗体を精製した。バイオシミラー製造の大量バッチ工程で、このような緩衝液の量(体積)の減少は、製造コストの観点から大きい費用減縮をもたらすだけでなく、精製工程のうち、一般的に長い時間がかかると知られた溶出工程に対する時間を大きく減縮させるという長所を有する。同時に、本発明は、溶出の収率を最大に増大したという点から優れた効果を有する。
【0060】
本発明の抗体の精製方法は、抗体および一つ以上の宿主細胞タンパク質(host cell protein,HCP)を含む、pH5.5~7.0および伝導度5mS/cm~8mS/cmである、試料を、平衡化された陽イオン交換カラムにローディングし、陽イオン交換カラムを洗浄緩衝液で洗浄した後、カラムに結合した抗体を溶出緩衝液で溶出させる段階;
前記溶出を通じて回収したろ液を限外ろ過および透析ろ過する段階;および
多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階;を含んでもよい。
【0061】
前記限外ろ過および透析ろ過する段階;および多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階では、陽イオン交換カラムを用いた溶出段階で除去しない宿主細胞タンパク質などの不純物をさらに除去して、抗体製剤の純度をより高めるための目的を有する。本段階では、陽イオン交換カラムと分離機序が異なる、静電気的電荷と疎水性反応などを用いた、宿主細胞由来タンパク質を除去できるろ過装置を用いて宿主細胞タンパク質をより効果的に除去することができる。
【0062】
回収したろ液を限外ろ過および透析ろ過する段階は、限外ろ過および透析ろ過を行うものであってもよい。
【0063】
詳細には、限外ろ過が行われ得る。本発明に使用された用語「限外ろ過(ultrafiltration)」または「UF」は、溶媒または小型の溶質分子を通過させながら巨大分子を維持させる半透過性膜で溶液または懸濁液を処理する任意の技術を意味する。限外ろ過は、溶液または懸濁液で巨大分子の濃度を増加させるために使用できる。
【0064】
また、詳細には、透析ろ過が行われ得る。本発明に使用された用語「透析ろ過(diafiltration)」または「DF」は、可溶性透過物(permeate)成分を減少させるために、残留物(retentate)を溶媒で希釈して再ろ過する特化したろ過部類を意味するために使用される。透析ろ過は、例えば、タンパク質を含む保有された成分の濃度増加を誘導するか、誘導しなくてもよい。例えば、連続透析ろ過で、溶媒は、濾液の生成速度と同じ速度で残留物に連続的に添加される。この場合、残留物容積および保有された成分の濃度は、工程中に変化しない。一方、不連続または順次希釈透析ろ過で、限外ろ過段階は、残留物側に溶媒の添加を伴い;残留物に添加された溶媒の容積が生成された濾液の容積以上の場合、保有された成分は高い濃度を有する。透析ろ過は、pH、イオン強度、塩の組成、緩衝剤の組成、または巨大分子の溶液または懸濁液のその他特性を変更するために使用できる。
【0065】
このようなろ過工程を通じて、宿主細胞タンパク質の含有量をさらに減少させることができる。
【0066】
前記限外ろ過および透析ろ過工程では、pH5.5~7.0、詳細には、5.8~6.2の条件を設定することが好ましい。上記のようなpH条件を用いることによって、精製過程で発生可能なaggregateを最小化することができる。また、リン酸塩緩衝液(好ましくは、リン酸ナトリウム緩衝液)を使用できる。より詳細には、10~50mM、さらに詳細には、20mMのリン酸塩緩衝液を使用できる。
【0067】
多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階が後続して行われ得る。
【0068】
このような多層ろ過フィルターに注入される溶出された抗体溶出液は、溶出された抗体溶出液自体または前記溶出液を加工した形態を全部含む。
【0069】
例えば、本発明の精製工程に使用される溶出した抗体溶出液は、多層ろ過フィルターに通過させる前に、ウイルス不活性化したものであってもよい。このようなウイルス不活性化は、限外ろ過および透析ろ過する段階の前または後に行われ得る。
【0070】
ここで、ウイルス不活性化は、前記溶出液に含有されたウイルスが非機能性になるようにしたり、前記溶出液からウイルスを除去することを含む。ウイルスを非機能性になるようにしたり、ウイルスを除去する方法には、熱不活性化、pH不活性化、または化学的不活性化方法などが含まれ、詳細には、pH不活性化方法を使用できるが、これに限定されない。前記pH不活性化方法は、ウイルスが十分に非機能性になりうる程度のpHで処理する方法であり、このようなpH不活性化の方法は、低pHウイルス不活性化方法を含み、前記方法は、溶出された抗体溶出液を、pH3.0~4.0の範囲、詳細には、pH3.8で滴定することによって行われ得るが、これに限定されない。
【0071】
また、前記抗体溶出液は、ウイルス不活性化段階後に、多層ろ過フィルターに通過させる前に、pH5.5~7.0に調節されたものであってもよく、詳細には、pH6.0であるが、これに限定されない。
【0072】
ここで、緩衝液を使用してpHを調節することができ、この際、使用される緩衝液の種類は、特にこれに限定されないが、詳細には、Bis-Trisまたはリン酸塩緩衝液を使用でき、より詳細には、リン酸塩緩衝液を使用できる。
【0073】
また、溶出された抗体溶出液を多層ろ過フィルターに適用する前に、pHおよび/または伝導度を調節することが好ましく、この場合、抗体溶出液のpHは、5.5~7.0、伝導度の場合、詳細には、1.2mS/cm~10mS/cm、より詳細には、1.3mS/cm~5mS/cmに調整することができる。
【0074】
本発明において「多層ろ過フィルター」という用語は、硅藻土が含まれたろ過装置を意味する。前記多層ろ過フィルターは、一連のフィルターが孔のサイズが小さくなる形態で積層されているフィルターであり、迷路のような3次元マトリックス構造を有していてもよい。このような多層ろ過フィルターの作用機序の例としては、陽イオンを帯びて、陰イオン性であるDNA、宿主細胞タンパク質などの物質と結合して宿主細胞タンパク質を効果的に除去することが挙げられるが、これに限定されない。このような多層ろ過フィルターは、当業界で通常使用されるものを使用できるが、詳細には、X0HC、A1HC(Millipore販売)などを使用でき、より詳細には、X0HCを使用できるが、これに限定されない。
【0075】
このような多層ろ過フィルター過程を通じて、収得した抗体ろ液は、陽イオン交換カラムを用いて溶出された抗体ろ液と比べて大きく宿主細胞タンパク質の含有量を減少させることができる。
【0076】
本発明の方法において前記溶出させる段階;限外ろ過および透析ろ過する段階;および多層ろ過フィルターに通過させてろ液を回収する段階後に、陰イオン交換カラムを用いて宿主細胞タンパク質を除去する段階をさらに含んでもよい。具体的に、前記回収したろ液を陰イオン交換カラムに通過させて通過液(flow through)を収集する精製段階をさらに含んでもよい。
【0077】
本発明において「陰イオン交換クロマトグラフィー」という用語は、陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用いたクロマトグラフィーを意味し、前記段階では、陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことで、不純物、詳細には、宿主細胞タンパク質を除去することができる。
【0078】
前記陰イオン交換樹脂は、他の水溶液に添加されて、水溶液中の特定陰イオンと自分の陰イオンを交換する役割をする合成樹脂を意味し、陰イオン交換カラムは、等電点以上で陰イオンを帯びるタンパク質を吸着させることができる。抗体の場合、等電点が高いので、中性pHの緩衝液を使用する場合、抗体が陰イオン交換樹脂に付着せずに通過することとなるが、宿主細胞タンパク質を含む不純物は、等電点が低いので、陰イオン交換樹脂に吸着して除去されることができ、前記原理を用いて精製段階を行うことができる。
【0079】
前記陰イオン交換樹脂は、当業界で通常使用されるものを使用でき、これに限定されないが、詳細には、キューセファロース(Q sepharose)、4級アミノエチルまたは4級アミン(Q)などを使用でき、より詳細には、Qファーストフロー(Q Fast Flow)TMを使用できる。
【0080】
前記除去される宿主細胞タンパク質は、上記で言及したように、精製しようとする抗体を除いた不純物を全部含む概念であり、宿主細胞タンパク質自体だけでなく、宿主細胞に由来するDNAおよび細胞生長のための因子などを全部含んでもよい。したがって、前記宿主細胞タンパク質を除去すると、精製しようとする抗体だけを高純度で精製することができる。
【0081】
また、前記陰イオン交換カラムは、宿主細胞タンパク質だけでなく、エンドトキシンの除去にも効率的なカラムであるから、最終精製段階で宿主細胞タンパク質と共にエンドトキシンを除去して、純度の高い目的抗体を精製できる利点を有する。
【0082】
本発明によって前記言及された段階の抗体精製方法を経ると、最終的に不純物、特に宿主細胞タンパク質が効率的に除去された高純度および高収率の抗体を精製することができる。
【0083】
特に、本発明による方法は、先行技術で使用した多量の緩衝液の使用を大きく減少させて、製造コストおよび製造時間の観点から大きい短縮を達成したという点から抗体製造工程上の優れた長所を有する。
【0084】
最終精製後に宿主細胞タンパク質の含有量は、詳細には、0.001~10ppmであってもよく、より詳細には、0.01~5ppmであってもよい。
【0085】
これによって、本発明のもう一様態において、本発明は、前記方法で製造された、抗体を提供する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するものであり、本発明が下記実施例によって限定されるものではない。
【0087】
実施例1:ベバシズマブ前処理段階
ベバシズマブ(Bevacizumab)抗体を発現させる組換えCHO細胞を培養して、ベバシズマブ抗体を発現させた。本発明の実施例によるベバシズマブ抗体は、抗体力価を2~3のレベルで有することを確認し、これを本発明の実験に使用した。
【0088】
陽イオン交換カラムに抗体を吸着させるために、培養液に1Mグリシン(Glycine)HCl(pH3.0)緩衝液を添加してpHを6.0に調整し、伝導度を6.5mS/cm~8.5mS/cmに調整して実験を行った。
【0089】
各試験群別に培養液前処理に使用された1M glycine-HCl(pH3.0)と添加された3次精製水の量、前処理後のローディング試料の条件は、下記の表1に示した。
【0090】
【0091】
実施例2:陽イオン交換カラムクロマトグラフィー
本実施例では、フラクトゲル(fractogel)TM EMD SO3カラムを陽イオン交換カラムとして使用し、その過程は、下記の通りである。
【0092】
平衡化のために、20mMリン酸塩緩衝液(pH6.0)を3カラム体積で流して、カラムを平衡化させた。その後、前記実施例1の前処理が完了した上清液をSO3の吸着容量以下でローディングした。ローディング量は、1L樹脂ボリューム当たり30g以下のタンパク質であり、ローディング速度は、150cm/hrで加えた。
【0093】
その後、3段階の洗浄段階および2段階の溶出段階を下記の表2の条件で行った。
【0094】
【0095】
上記で確認できるように、本発明では、下記の比較例の洗浄4段階および溶出1段階にそれぞれ対応する溶出1段階および溶出2段階カラム体積をそれぞれ16カラム体積、7カラム体積に減らした。
【0096】
一方、比較のために、洗浄4段階(前記実施例の溶出1段階に対応)および溶出1段階(前記実施例の溶出2段階に対応)でのカラム体積をそれぞれ30カラム体積、20カラム体積とする下記表3の条件下の比較例を設定した。
【0097】
【0098】
特に、上記の比較例の場合、韓国特許登録第10-1569783号の発明において実際使用した方式と同じ形態でカラム体積を使用したものである。
【0099】
実施例3:前処理伝導度の差異による収率およびCharge variants含有量の確認
前記実施例1による伝導度によって製造された前処理されたベバシズマブ試料を実施例2の条件で陽イオン交換クロマトグラフィーを行うことで、段階収率およびCharge variant含有量の変化を確認した。
【0100】
その結果を表4および表5に示した。
【0101】
【0102】
【0103】
前記表4は、前処理伝導度の差異による収率変化を確認した結果を示す。表4から確認できるように、7.0mS/cm~8.0mS/cmで90.0%以上の段階収率を示すことを確認でき、特に7.0mS/cmで最も優れた段階収率を示したことを確認した。
【0104】
また、表5は、前処理伝導度の差異によるCharge variant含有量を比較した結果を示す。表5から確認できるように、本発明による7.0mS/cm~8.0mS/cmで対照薬物アバスチンと類似した主要ピークおよび酸性異性体と塩基性異性体ピークを、特に、7.0mS/cmで対照薬物アバスチンと最も類似した主要ピークおよび酸性異性体と塩基性異性体ピークを示した。
【0105】
特に、上記のような伝導度の変化とともに、少ない緩衝液の使用を通じて、溶出工程を行う場合、優れた段階収率および低い塩基性異性体含有量を確認することができた。
【0106】
実施例4:カラム体積の減少による収率増加の確認
前記実施例2の条件下に伝導度7.0mS/cmを有する下記の試料に対する陽イオン交換クロマトグラフィーを行った。
【0107】
前記実施例1の前処理された試料の場合、試料濃度が1.04mg/mlであり、ローディング体積が162mlであり、総タンパク質投与量が168.8mgであった。
【0108】
精製工程は、CV:5mL(Pre-packed)、Bed height:10.0cm、Flow rate:0.67mL/minまたは0.84mL/minの条件を用いた。
【0109】
一方、上記の条件と同一に表3の比較例条件を共に実験して、収率変化を確認した。
【0110】
その結果を表6に示した。
【0111】
【0112】
上記で確認できるように、比較例の精製工程適用時の収率は、単に50%内外に過ぎなかった。一方、本発明による方法を用いる場合、洗浄工程および溶出工程の時間と使用される緩衝液の量を大きく減少させたにもかかわらず、約60%以上の高い収率を示した。また、Charge variants含有量の観点から、バイオシミラー製造に適したレベルのCharge variants含有量を示すことを確認した。
【0113】
実施例5:ウイルス不活性化
前記実施例2による陽イオン交換クロマトグラフィーを行った溶出液に1M glycine-HCl(pH3.0)緩衝液を添加して、pH3.8で1時間の間ウイルス不活性化をさせた。不活性化が完了した後、0.2μmフィルターを通過させてろ過した後、試料のpHは、1M Tris-HCl(pH9.0)緩衝液を添加して試料のpHを6.0に調整した。
【0114】
実施例6:限外ろ過および透析ろ過工程
試料量を考慮して限外ろ過および透析ろ過(UF/DF1)工程は、micro-centricon(0.5mL)を使用し、各条件別に3反復(Triplicate)で行った。
【0115】
Micro-centriconは、Amicon Ultra 0.5mL Ultracelを使用し、濃縮およびバッファー交換のために使用された遠心分離機は、Eppendorf centrifugeを使用した。初期濃縮濃度20mg/mLを合わせるために、UF/DF1注入試料400μl(5.13mg/mL)をmicro-centriconに入れ、5,000rpmで10分間遠心分離を行うことで、100μlまで濃縮した。100μlまで濃縮された試料に対して表7の各pH別緩衝液100μlを添加して2倍希釈した後、さらに5,000rpmで5分間遠心分離して、100μlまで濃縮した。前記過程を7回行うことで、UF/DF1を完了した。
【0116】
最大限正確な実験のために、micro-centricon、UF/DF1注入試料、UF後の体積を全部重さで測定した。
【0117】
【0118】
前記SE-HPLC分析のためのintegration eventの適用は、SOPに定義されたintegration eventを適用してaggregate含有量を分析した。
【0119】
その結果を表8に示した。
【0120】
【0121】
pH条件別aggregation含有量の分析結果、表8から確認できるように、pHの変化によってaggregation含有量が増加することを確認した。
【0122】
また、
図3から確認できるように、pH増加によるUF/DF1工程でのaggregate含有量の増加の有意性を確認するために、独立変数(pH)に対する直線性を確認した結果、Y=2.4x-12.6の直線の方程式を確認し、R2は、0.88であることを確認した。勾配の値(2.4)が正の値を有するので、X軸の独立変数(pH)の増加によってY軸の従属変数(aggregate含有量)が増加することを確認した。
【0123】
前記結果を通じて、Tris-HCl bufferを用いたpH7.5以上の条件は、UF/DF1段階でaggregates含有量が増加するので、工程適用が難しいと判断された。一方、20mM Na-phosphate pH6.0条件を適用することが適していることが確認された。
【0124】
実施例7:多層ろ過フィルタリング工程
多層ろ過フィルターは、静電気的性質などによって、宿主由来DNA(HCD)、宿主由来タンパク質(HCP)などを減少させることができる。これによって、XOHC形態の多層ろ過フィルターを準備し、3次精製水および20mM Sodium Phosphate(pH6.0)緩衝液を流して置換して平衡化した。次に、ウイルス不活性化させた後、ろ過工程を経た実施例6の試料を20mM Sodium Phosphate(pH6.0)緩衝液で置換した後、多層ろ過フィルターに流して100LMH(Liter/m2/hour)の流速でろ過した。ろ過が完了した試料を全部回収して、下記陰イオン交換カラムクロマトグラフィー精製のための試料として使用した。
【0125】
実施例8:陰イオン交換カラムクロマトグラフィー
陰イオン交換カラムは、等電点以上で陰イオンを帯びるタンパク質を吸着させるので、等電点が7以上である抗体の場合(ベバシズマブの場合、等電点が8.3)、中性pHの緩衝液を使用する場合、本抗体は、陰イオン交換樹脂に付着せずに、通過液(flow-through)として排出される。これによって、本発明の製造工程に適した陰イオン交換樹脂および緩衝液条件を糾明するために、下記のような実験を行った。
【0126】
具体的に、本実施例では、陰イオン交換樹脂として生産スケールで多く使用している4級アミン(Quaternary amine)系のQセファロースファーストフロー(Q sepharoseTM Fastflow)を用いて精製を実施した。
【0127】
まず、陰イオン交換樹脂にローディングするためのサンプルは、前記実施例と同様に、培養上清液で陽イオン交換カラム、ウイルス不活性化が完了した後、1次限外ろ過を経た後、50mM Sodium Phosphate(pH6.0)平衡緩衝液で置換してpH6.0および伝導度1.4mS/cmで準備した。
【0128】
ローディング量は、1L樹脂ボリューム当たり30g以下のタンパク質であり、ローディングおよび溶出速度は、150cm/hrで行い、A280nmでの吸光度が上昇すると、カラム灌流物を収集した。カラムは、1M NaClで再生させた後、平衡緩衝液で平衡化させた。
【0129】
前記実施例7によって製造されたベバシズマブ試料を上記のような方式で陰イオン交換クロマトグラフィーを行うことで、pH条件別の段階収率を確認した。
【0130】
その結果を表9に示した。
【0131】
【0132】
前記表9は、pH conditionの差異による段階収率の変化を確認した結果を示す。表9から確認できるように、陰イオン交換クロマトグラフィー実行時にpH6.0~8.0の範囲内で90.0%以上の段階収率を示すことを確認でき、特にpH6.0で最も優れた段階収率を示したことを確認した。
【0133】
以上の説明から、本発明の属する技術分野における当業者は、本発明がその技術的思想や必須特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されることができることを理解することができる。これと関連して、以上で記述した実施例は、すべての観点において例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは、後述する特許請求範囲の意味および範囲そしてその等価概念から導き出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解すべきである。