(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 7/02 20060101AFI20240229BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240229BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240229BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20240229BHJP
【FI】
B22C7/02 102
B22C7/02 101
B33Y10/00
B33Y40/20
B29C64/106
(21)【出願番号】P 2023177574
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2023-10-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508145506
【氏名又は名称】株式会社キャステム
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】戸田 拓夫
(72)【発明者】
【氏名】登 勇気
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-276109(JP,A)
【文献】特開平11-244995(JP,A)
【文献】特開昭60-154847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元プリンタを用いて付加製造技術により形成された熱可塑性樹脂からなる空隙を有する1以上の鋳造品形成用積層体を可燃性の筒状体に取付けてツリー体を作製する工程と、
前記ツリー体の表面にセラミックスラリーをコーティングし、前記スラリーコーティングしたツリー体の表面に砂をコーティングし、前記スラリーコーティングと前記砂コーティングを複数回繰り返すことにより、鋳型前駆体を作製する工程と、
前記鋳型前駆体を焼成炉に入れて、前記鋳型前駆体内の前記ツリー体を燃焼して消失させるとともに前記鋳型前駆体を焼成して鋳型を得る工程と、
前記鋳型内に溶融金属を流し込んで冷却した後に前記鋳型を除去して鋳造品を取出す工程と
を含む鋳造品の製造方法であって、
前記鋳造品形成用積層体に第1湯口が形成され、前記筒状体に第2湯口が形成され、前記第1湯口と前記第2湯口が連通するように前記鋳造品形成用積層体を前記筒状体に取付けて前記ツリー体を作製し、
前記鋳造品形成用積層体の内部構造が独立空間を有することなく前記第1湯口に連通することを特徴とする鋳造品の製造方法。
【請求項2】
可燃性の短パイプ状のゲートモデルを前記第1湯口と前記第2湯口の間に配置して前記鋳造品形成用積層体を前記ゲートモデルを介して前記筒状体に接着して前記ツリー体を作製する請求項1記載の鋳造品の製造方法。
【請求項3】
前記筒状体又は前記ゲートモデルが、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる請求項1又は2記載の鋳造品の製造方法。
【請求項4】
前記筒状体が、紙管である請求項1記載の鋳造品の製造方法。
【請求項5】
前記鋳造品形成用積層体の第1湯口が前記鋳造品形成用積層体の上壁から突出する第1突出部に形成された請求項1記載の鋳造品の製造方法。
【請求項6】
前記鋳造品形成用積層体の第1突出部が前記筒状体の第2湯口に挿入可能に形成された請求項
5記載の鋳造品の製造方法。
【請求項7】
前記筒状体の第2湯口が前記鋳造品形成用積層体の第1突出部を受入可能な第1開口部と前記鋳造品形成用積層体の第1突出部を受入不能な第2開口部を有する請求項6記載の鋳造品の製造方法。
【請求項8】
前記筒状体の第2湯口に第1雌ネジが形成され、前記鋳造品形成用積層体の第1突出部の周囲に前記第1雌ネジに螺合可能な第1雄ネジが形成された請求項7記載の鋳造品の製造方法。
【請求項9】
前記筒状体の第2湯口が前記筒状体表面から突出する第2突出部に形成され、前記第2突出部が前記鋳造品形成用積層体の第1湯口に挿入可能に形成された請求項1又は4記載の鋳造品の製造方法。
【請求項10】
前記鋳造品形成用積層体の第1湯口に第2雌ネジが形成され、前記筒状体の第2突出部の周囲に前記第2雌ネジに螺合可能な第2雄ネジが形成された請求項9記載の鋳造品の製造方法。
【請求項11】
前記鋳造品形成用積層体の内部構造が、独立空間を有しない前記第1湯口に連通するテトラシェル構造又はジャイロイド構造である請求項1
又は5記載の鋳造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造品をロストワックス法で製造する鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造品をロストワックス法で製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1(段落[0011]~段落[0015]、段落[0019]、段落[0024])参照。)。この特許文献1に開示される鋳造品の製造方法は、
図11~
図13に示すように、鋳造品11をロストワックス法で製造するために3次元プリンタ13を用いた熱溶解積層法により中空状に積層造形された熱可塑性樹脂からなる鋳造品形成用積層体前駆体12の表面にパラフィン系ワックス又はカルナバワックスをコーティングする工程(
図11,
図12)と、このワックスコーティングした鋳造品形成用積層体14を、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる中空状のゲートモデル17を介して、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる筒状体18に接着してツリー体19を作製する工程(
図12)と、このツリー体の表面にセラミックスラリーと砂のコーティングを繰り返し行って鋳型前駆体15aを作製してこの鋳型前駆体内のツリー体19を燃焼して消失させるとともに鋳型前駆体15aを焼成して鋳型15を得る工程と、この焼成された鋳型15内に溶融金属を流し込んで冷却した後に鋳型15を除去して鋳造品前駆体11aを取出す工程と、鋳造品前駆体11aから鋳造品以外の部分を取り除いて鋳造品11を得る工程(
図13)とを含む製造方法である。
【0003】
この鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体14は、
図11に示すように、次の手順で作られる。先ず、ベッド16上に熱可塑性樹脂からなるフィラメント12aを、3次元プリンタ13のノズル13aから押出し互いに平行になるように並べて底壁12bを造形した後に、この底壁12bの1辺に沿って3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出し積重ねて側壁12cを立設する(
図11(a))。次いで、底壁12bの他の3辺についても上記と同様にフィラメント12aを積重ねて3つの側壁12cを立設することにより、底壁12bの4辺が4枚の側壁12cにより囲まれて上面が開放された箱が造形される(
図11(b))。次に、この上面が開放された箱の上面に沿って3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出して四角枠を形成し、この四角枠の内面に接するように3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出して更に四角枠を形成し、この工程を連続的に繰返してフィラメント12aの渦巻き体を形成することにより、箱の上面を閉止する上壁12dを造形して空隙を有する立方体状の鋳造品形成用積層体前駆体12を造形する(
図11(c)、
図11(d)及び
図12(a))。次に、鋳造品形成用積層体前駆体12の表面に、パラフィン系ワックス又はカルナバワックスをコーティングしてワックス層12eを形成して鋳造品形成用積層体14を得る(
図11(e)及び
図12(b))。この鋳造品形成用積層体の内部には空隙が形成され、鋳造品形成用積層体の壁の厚さが少なくとも0.4mmに形成され、かつ空隙の割合が鋳造品形成用積層体の壁の体積を除いた成形品モデル積層体内部の体積を100%とするとき20%以上である特徴がある。
【0004】
また、この鋳造品の製造方法では、筒状体18は一端(
図12(c)では、左端部)が閉止され、その他端(
図12(c)では、右端部)は、鋳型になったときに溶融金属を流し込み易くするために、円錐状に広口に開放して形成される。また、筒状体18のゲートモデル17が接着する部分には開口部はない(
図12(c))。
【0005】
この鋳造品の製造方法によれば、次の発明の効果を有する。先ず、3次元プリンタを用いた熱溶解積層法により熱可塑性樹脂からなる鋳造品形成用積層体を中空状に積層造形したので、高価な金型を用いずに複雑な形状の鋳造品形成用積層体を容易に作製できる。また、鋳造品形成用積層体を硬化後に架橋しない熱可塑性樹脂により形成し、鋳造品形成用積層体の内部の空隙の割合が20%以上であるため、この鋳造品形成用積層体が加熱したときに溶けることにより、燃焼し、ガス化するまでの膨張負荷が鋳型にかかりにくい。この結果、鋳型を損傷させることはない。また、鋳造品形成用積層体前駆体の表面にパラフィン系ワックス又はカルナバワックスをコーティングしたので、鋳造品形成用積層体前駆体の表面に生じた上記積層造形による積層段差がパラフィン系ワックス又はカルナバワックスにより埋められ、鋳造品形成用積層体の表面粗さを小さくすることができる。この結果、鋳造品形成用積層体を用いて作製された鋳型の内面の面粗さが小さくなるので、この鋳型を用いて作製された鋳造品の表面粗さを小さくすることができ、表面が滑らかな鋳造品を得ることができる。
【0006】
この鋳造品の製造方法によれば、更に、次の発明の効果を有する。上記鋳造品形成用積層体に、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる中空状のゲートモデルを介して、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる筒状体を接着してツリー体を作製し、このツリー体の表面にセラミックスラリーと砂のコーティングを繰り返して鋳型前駆体を作製してこの鋳型前駆体内のツリー体を燃焼して消失させるとともに鋳型前駆体を焼成して鋳型を得たので、鋳型前駆体及びツリー体を比較的速い昇温速度で加熱すると、可塑化温度が存在する熱可塑性樹脂やパラフィン系ワックス等により大部分が構成されたツリー体は熱膨張する前又は熱膨張すると略同時に軟化して溶融する。この結果、ツリー体の熱膨張により鋳型前駆体が損傷するのを防止できる。また、溶融したツリー体は燃焼して二酸化炭素や水蒸気などのガス等が発生するけれども、これらのガス等は、ツリー体の溶融により連通した煙突状の鋳型内を通ってスムーズに排出される。具体的には、鋳型のキャビティ(鋳造品を製造する部分)で発生したガス等は、ゲート孔及びスプルー(煙突状の空洞)を通って鋳型外にスムーズに排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の特許文献1に示された鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体14は、6面が閉止された立方体であるため、筒状体18の対向面には開口部がない。このため、鋳型前駆体内の鋳造品形成用積層体14の燃焼開始時に、鋳造品形成用積層体14の燃焼開始時の燃焼ガス等がゲート孔及びスプルー(煙突状の空洞)を通って鋳型外にスムーズに排出されにくい課題が依然としてあった。
【0009】
本発明の第1の目的は、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時の燃焼ガスをより速やかにかつよりスムーズに排出して鋳型の型割れを防止する鋳造品の製造方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、鋳造品形成用積層体を筒状体に容易に取付けることができる鋳造品の製造方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、鋳造品形成用積層体が筒状体に確実に取付けられ、筒状体から落下しにくい鋳造品の製造方法を提供することにある。本発明の第4の目的は、鋳造品形成用積層体の内部構造が、独立空間を有することなく第1湯口に連通するため、鋳造品形成用積層体の燃焼ガスをより速やかにかつよりスムーズに排出して鋳型の型割れを防止する鋳造品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点は、
図1~
図3に示すように、3次元プリンタ13を用いて付加製造技術により形成された熱可塑性樹脂からなる空隙を有する1以上の鋳造品形成用積層体30を可燃性の筒状体28に取付けてツリー体29を作製する工程と、ツリー体29の表面にセラミックスラリーをコーティングし、スラリーコーティングしたツリー体の表面に砂をコーティングし、スラリーコーティングと砂コーティングを複数回繰り返すことにより、鋳型前駆体35aを作製する工程と、鋳型前駆体35aを焼成炉に入れて、鋳型前駆体内のツリー体を燃焼して消失させるとともに鋳型前駆体を焼成して鋳型35を得る工程と、鋳型内に溶融金属を流し込んで冷却した後に鋳型を除去して鋳造品31を取出す工程とを含む鋳造品の製造方法であって、
図1~
図9に示すように、鋳造品形成用積層体30に第1湯口30aが形成され、筒状体28に第2湯口28aが形成され、第1湯口30aと第2湯口28aが連通するように鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付けてツリー体29を作製し、鋳造品形成用積層体の内部構造が、独立空間を有することなく第1湯口30aに連通することを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の観点は、
図1及び
図2に示すように、可燃性の短パイプ状のゲートモデル27を第1湯口30aと第2湯口28aの間に配置して鋳造品形成用積層体30をゲートモデル27を介して筒状体28に接着してツリー体29を作製することを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の観点は、筒状体28又はゲートモデル27が、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の観点は、筒状体28が紙管であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の観点は、
図4~
図9に示すように、鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aが鋳造品形成用積層体30の上壁12dから突出する第1突出部37に形成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明の第6の観点は、
図6及び
図7に示すように、鋳造品形成用積層体30の第1突出部37が筒状体28の第2湯口28aに挿入可能に形成されたことを特徴とする。
【0016】
本発明の第7の観点は、
図6及び
図7に示すように、筒状体28の第2湯口28aが鋳造品形成用積層体30の第1突出部37を受入可能な第1開口部28bと鋳造品形成用積層体30の第1突出部37を受入不能な第2開口部28cを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第8の観点は、
図7に示すように、筒状体28の第2湯口28aに第1雌ネジ28dが形成され、鋳造品形成用積層体30の第1突出部37の周囲に第1雌ネジ28dに螺合可能な第1雄ネジ37aが形成されたことを特徴とする。
【0018】
本発明の第9の観点は、
図8及び
図9に示すように、筒状体28の第2湯口28aが筒状体表面から突出する第2突出部38に形成され、第2突出部38が鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aに挿入可能に形成されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の第10の観点は、
図9に示すように、鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aに第2雌ネジ30bが形成され、筒状体28の第2突出部38の周囲に第2雌ネジ30bに螺合可能な第2雄ネジ38aが形成されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の第11の観点は、
図10に示すように、鋳造品形成用積層体30の内部構造が、独立空間を有しない第1湯口30aに連通するテトラシェル構造又はジャイロイド構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の観点の鋳造品の製造方法では、3次元プリンタを用いて付加製造技術により熱可塑性樹脂からなる鋳造品形成用積層体を空隙を有するように積層造形したので、高価な金型を用いずに複雑な形状の鋳造品形成用積層体を容易に作製できる。また、鋳造品形成用積層体を硬化後に架橋しない熱可塑性樹脂により形成し、かつ鋳造品形成用積層体に第1湯口が形成され、この第1湯口に、独立空間を有しない鋳造品形成用積層体の内部構造が連通し、筒状体に第2湯口が形成され、第1湯口と第2湯口が連通するように鋳造品形成用積層体を筒状体に取付けてツリー体を作製したので、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時及び燃焼時に、発生した燃焼ガスが第1湯口と第2湯口を通って、より速やかにかつよりスムーズに鋳型外部に排出されるため、鋳型に熱膨張による負荷がより一層かかりにくい。この結果、鋳型を損傷させることはない。
【0022】
本発明の第2の観点の鋳造品の製造方法では、可燃性の短パイプ状のゲートモデルを第1湯口と第2湯口の間に配置して鋳造品形成用積層体をゲートモデルを介して筒状体に接着してツリー体を作製したので、鋳造品形成用積層体が筒状体に密着せず、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時及び燃焼時に、発生した燃焼ガスが第1湯口、ゲートモデル孔及び第2湯口を通って鋳型外部に排出される。
【0023】
本発明の第3の観点の鋳造品の製造方法では、筒状体又はゲートモデルが、それぞれパラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなるため、鋳型前駆体を焼成炉に入れたときに、筒状体又はゲートモデルが溶けることにより、燃焼し、ガス化する。
【0024】
本発明の第4の観点の鋳造品の製造方法では、筒状体が紙管であるため、筒状体の紙管を容易に入手して所望の形状に加工することができ、かつ鋳型前駆体を焼成炉に入れたときに容易に燃焼して消失する。
【0025】
本発明の第5の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の第1湯口が鋳造品形成用積層体の上壁から突出する第1突出部に形成されるため、鋳造品形成用積層体の上壁が筒状体に密着せず、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時に、発生した燃焼ガスが第1突出部内の第1湯口及び第2湯口を通って鋳型外部に排出される。また第1突出部を筒状体の第2湯口に位置合わせさせることにより、鋳造品形成用積層体の第1湯口を筒状体の第2湯口に連通させ易い。
【0026】
本発明の第6の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の第1突出部を筒状体の第2湯口に挿入すれば、鋳造品形成用積層体を筒状体に容易に取付けることができ、同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0027】
本発明の第7の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の第1突出部を筒状体の第2湯口に挿入したときに、鋳造品形成用積層体の第1突出部が筒状体の第2開口部で止まるため、第1突出部の挿入時に節度感が生じ、かつ第1突出部の第1湯口と筒状体の第2湯口との位置合わせが容易になり、同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0028】
本発明の第8の観点の鋳造品の製造方法では、筒状体の第2湯口に形成された第1雌ネジに鋳造品形成用積層体の第1突出部の周囲に形成された第1雄ネジを螺合させれば、鋳造品形成用積層体が筒状体に確実に取付けることができ、筒状体から落下しにくい。同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0029】
本発明の第9の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の第1突出部の第1湯口を筒状体の第2突出部に嵌入すれば、鋳造品形成用積層体を筒状体に容易に取付けることができ、同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0030】
本発明の第10の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の第1湯口に形成された第2雌ネジに筒状体の第2突出部の周囲に形成された第2雄ネジを螺合させれば、鋳造品形成用積層体が筒状体に確実に取付けることができ、筒状体から落下しにくい。同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0031】
本発明の第11の観点の鋳造品の製造方法では、鋳造品形成用積層体の内部構造を独立空間を有しない第1湯口に連通するテトラシェル構造又はジャイロイド構造にすることにより、鋳造品形成用積層体自体を堅牢にかつ多種多様に作製することができるとともに、特許文献1の鋳造品形成用積層体では、その燃焼開始時に発生する燃焼ガスを鋳型外部に排出しにくかったものが、本発明の鋳造品形成用積層体では、鋳造品形成用積層体の内部構造がテトラシェル構造又はジャイロイド構造であって第1湯口に連通するため、その燃焼開始時及び燃焼時に発生するガスを容易に鋳型外部に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明実施形態の鋳造品を製造する手順を示す断面構成図である。
【
図2】その鋳造品形成用積層体と筒状体によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図3】その鋳造品形成用積層体を作製する手順を示す要部斜視図である。
【
図4】別の形態の鋳造品形成用積層体の斜視図である。
【
図5】その鋳造品形成用積層体と筒状体によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図6】その鋳造品形成用積層体を別の形態の筒状体によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図7】鋳造品形成用積層体と筒状体とをネジの螺合によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図8】その鋳造品形成用積層体を更に別の形態の筒状体によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図9】鋳造品形成用積層体と筒状体とをネジの螺合によりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図10】鋳造品形成用積層体の内部構造を示す斜視図である。
図10(a)はテトラシェル構造を、
図10(b)はジャイロイド構造をそれぞれ示す。
【
図11】従来例の鋳造品形成用積層体を製造する手順を示す要部斜視図である。
【
図12】従来例の鋳造品形成用積層体と筒状体とによりツリー体を作製する手順を示す断面構成図である。
【
図13】従来例の鋳造品を製造する手順を示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1(f)に示す鋳造品31をロストワックス法で製造するために、先ず、3次元プリンタを用いて付加製造技術により熱可塑性樹脂からなる鋳造品形成用積層体30を空隙を有するように積層造形する(
図1(a)及び(b)参照)。上記鋳造品31は、この実施の形態では、金属により直方体状に形成された物品である。この鋳造品31を構成する金属としては、金、銀、プラチナなどの貴金属や鉄をベースとした合金や、銅合金、アルミ合金、チタン合金などロストワックス法(精密鋳造法)で扱える種々の金属が挙げられる。なお、この実施の形態では、鋳造品を立方体状の物品としたが、直方体状、球体状、円錐体状、多角錐体状、楕円体状、又は一般的な金属の射出成型法では成形できない複雑な形状の物品でもよい。
【0034】
ここで、付加製造技術(Additive Manufacturing Technology)とは、AM技術とも言われ、3次元プリンタを用いて、この3次元プリンタが3次元のCADデータをもとにコンピュータで造形物の断面形状を計算し、この造形物を薄い輪切り状の断面構成要素に分割して、その断面構成要素を種々の方法で形成し、それを積層させて目的とする造形物を形成する技術である。この付加製造技術には、材料そのものを押し出す熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling法:FDM法)、材料そのものを噴射する材料噴射法(Material Jetting法:MJ法)、光を材料に照射する光造形原理を利用したステレオリソグラフィ(SLA)又はデジタルライトプロセッサ(DLP)などの各種造形法がある。本発明では、中実の造形物を形成する材料噴射法(MJ法)以外の付加製造技術による造形法を用いることができる。
【0035】
本実施の形態では、付加製造技術の中の熱溶解積層法を用いる。熱溶解積層法は、
図3に示すように、フィラメントと呼ばれる熱可塑性樹脂の巻線を200℃程度の温度で溶解しながら、押出して積層することによって成形体を造形する方法であり、3次元プリンタ13を用いた熱溶解積層法は、加熱して溶解した熱可塑性樹脂を3次元プリンタ13のノズル13aから押出して積層することにより成形体を造形する方法である。また、上記熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸(Poly Lactic Acid:PLA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(Acrylonitrile Butadiene Styrene:ABS)、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアセタール等の樹脂が挙げられる。
【0036】
具体的な鋳造品形成用積層体30の積層造形の手順を
図2及び
図3に基づいて説明する。先ず、ベッド16上に熱可塑性樹脂からなるフィラメント12aを、3次元プリンタ13のノズル13aから押出し互いに平行になるように並べて底壁12bを造形した後に、この底壁12bの1辺に沿って3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出し積重ねて側壁12cを立設する(
図3(a))。次いで、底壁12bの他の3辺についても上記と同様にフィラメント12aを積重ねて3つの側壁12cを立設することにより、底壁12bの4辺が4枚の側壁12cにより囲まれて上面が開放された箱が造形される(
図3(b))。次に、この上面が開放された箱の上面に沿って3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出して四角枠を形成し、この四角枠の内面に接するように3次元プリンタ13のノズル13aからフィラメント12aを押出して更に四角枠を形成し、この工程を連続的に繰返してフィラメント12aの渦巻き体を形成することにより、箱の上面に相当する上壁12dを造形して空隙を有する立方体状の鋳造品形成用積層体30を造形する(
図3(c)、
図3(d)及び
図2(a))。鋳造品形成用積層体30の形状は立方体状に限らず、直方体状、球体状、円錐体状、多角錐体状、楕円体状、又はその他の形状でもよい。なお、上述したように、この実施の形態では、付加製造技術として熱溶解積層法を用いたが、本発明は、熱溶解積層法に限らず、中実の造形物を形成する材料噴射法(MJ法)以外の付加製造技術による造形法を用いることができる。
【0037】
本実施形態の特徴ある構成は、
図11(d)に示すように、箱の上面を閉止するように上壁12dを造形するのではなく、上壁12dの中央に四角窓枠状の第1湯口30aを形成するように、造形することにある(
図2(a)及び
図3(d))。また鋳造品形成用積層体30の内部構造が独立空間を有することなく第1湯口30aに連通することにある。例えば、
図10に示すようなテトラシェル構造又はジャイロイド構造である。本発明では、鋳造品形成用積層体の内部構造が正六角筒同士を隙間なく並べた独立空間を有するハニカム構造を含まない。第1湯口30aの形状は四角窓枠状に限らず、円形状、楕円形状、又はその他の形状でもよい。また第1湯口30aの口径は、ガスの排出や鋳造性からは大きい方が望ましいが、鋳造品の仕上げの観点からは小さい方が望ましい。鋳造品自体が小さい場合は湯口自体も小さくなるため、第1湯口30aの口径は一概に決まらない。
【0038】
鋳造品形成用積層体30は空隙を有するように形成される。このとき、空隙の割合は鋳造品形成用積層体内部の体積を100%とするとき10%以上であることが好ましい。そして、鋳造品形成用積層体30の壁の厚さは、少なくとも0.5mmに形成されることが好ましい。鋳造品形成用積層体30の内部構造が完全な空洞である場合は、空隙の割合は100%となる。鋳造品形成用積層体の内部構造が、独立空間を有しない第1湯口30aに連通する構造である。こうした構造の例としては、上述したように、
図10(a)に示すテトラシェル構造及び
図10(b)に示すジャイロイド構造がある。
【0039】
鋳造品形成用積層体30の壁の厚さを少なくとも0.5mmに限定したのは、0.5mm未満では鋳造品形成用積層体30が損傷するおそれがあるからである。即ち、壁の厚さが0.5mmあれば、構造上十分な強度が得られるからである。また、鋳造品形成用積層体30内部に形成される空隙の割合を10%以上に限定したのは、10%未満では、第1湯口30aと第2湯口28aが連通状態で存在しても、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時に燃焼ガスが排出されにくく、鋳型がツリー体の熱膨張により損傷するおそれがあるからである。
【0040】
次に、上記鋳造品形成用積層体30を用いてロストワックス法により鋳造品31を製造する方法を
図1及び
図2に基づいて説明する。先ず、鋳造品形成用積層体30に、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる可燃性の短パイプ状のゲートモデル27を介して、パラフィン系ワックス、カルナバワックス又は熱可塑性樹脂からなる筒状体28を接着してツリー体29を作製する(
図1(a)及び
図2(b))。上記パラフィン系ワックスとしては、パラフィンワックスや、パラフィンにポリメタクリル酸メチルの粒子、アガローズの粒子等を分散させたフィラーワックスなどが挙げられ、上記熱可塑性樹脂としては、上記鋳造品形成用積層体30と同様の樹脂が挙げられる。
【0041】
短パイプ状のゲートモデル27は、溶融金属を鋳型のキャビティ(鋳造品となる部分)35bに流し込む入口となるゲート孔35cを造形するために用いられる。
【0042】
筒状体28は、溶融金属を鋳型35に流し込むときの最初の通路であるスプルー35dを造形するために用いられる。パラフィン系ワックスやカルナバワックスからなるゲートモデル27及び筒状体28は、金型を作製して射出成形により中空状に形成されることが好ましい。また、熱可塑性樹脂からなるゲートモデル27又は筒状体28は、鋳造品形成用積層体30と同様に、3次元プリンタ13を用いた熱溶解積層法を初めとするMJ法以外の付加製造技術により中空状に積層造形することもできる。
【0043】
本実施形態の特徴ある構成は、筒状体28に第2湯口28aが形成され、ゲートモデル27を第1湯口30aと第2湯口28aの間に配置して鋳造品形成用積層体30をゲートモデル27を介して筒状体28に接着してツリー体29を作製することにある(
図1(a)及び
図2(b))。この特徴ある構成により、独立空間を有しない鋳造品形成用積層体の内部構造が第1湯口30a及び第2湯口28aを介して筒状体20の筒内部に連通する。第2湯口28aの形状は、第1湯口30aの形状に合わせることが好ましいが、必ずしも第1湯口30aと同形同大でなくてもよく、四角窓枠状、円形状、楕円形状、又はその他の形状でもよい。また第2湯口28aの口径は、第1湯口30aの口径と同様に、ガスの排出や鋳造性からは大きい方が望ましいが、鋳造品の仕上げの観点からは小さい方が望ましい。鋳造品自体が小さい場合は湯口自体も小さくなるため、第2湯口28aの口径は一概に決まらない。
図1及び
図2では、鋳造品形成用積層体30を1つだけ筒状体28の片側に取付ける例を示しているが、鋳造品形成用積層体30の数は1つに限らず、2つ以上の複数でもよい。その場合、筒状体28の片側だけでなく、両側に取付けてもよい。
【0044】
図4に示すように、上記ゲートモデル27の代わりに、鋳造品形成用積層体30において、その上壁12dから突出する四角筒状の第1突出部37を造形し、第1突出部37に第1湯口30aを形成してもよい。なお、第1突出部37は四角筒状に限らず、円筒状、三角筒状又はその他の形状でもよい。第1突出部37の突出高さは、鋳造品形成用積層体と筒状体の間の鋳型の厚みを確保するために、10mm以上であることが好ましく、20mm以上30mm以下であることが更に好ましい。
【0045】
第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付ける第1の方法としては、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、第1突出部37を下向きにして、接着剤を用いて、筒状体28の第2湯口28aに接着する方法がある。接着剤が硬化する前に第1突出部37を筒状体28の表面を滑らせて、第1突出部37の第1湯口30aと筒状体28の第2湯口28aとの位置合わせを行うことにより、両湯口を連通した状態で接着することができる。接着剤としてはロストワックス工程で一般に用いられる接着用ワックス、ホットメルト、瞬間接着剤などの硬化時間が短く、燃焼性のある接着剤が挙げられる。この方法によれば、鋳造品形成用積層体の上壁が筒状体に密着せず、鋳造品形成用積層体の燃焼開始時に、発生した燃焼ガスが第1突出部内の第1湯口及び第2湯口を通って鋳型外部に排出される。
【0046】
第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付ける第2の方法としては、
図6(a)及び
図6(b)に示すように、筒状体28の第2湯口28aを、鋳造品形成用積層体30の第1突出部37を受入可能な第1開口部28bと鋳造品形成用積層体30の第1突出部37を受入不能な第2開口部28cを有するように形成しておく方法がある。この方法によれば、鋳造品形成用積層体の第1突出部が筒状体の第2開口部で止まるため、第1突出部37の挿入時に節度感が生じ、かつ第1突出部37の第1湯口30aと筒状体28の第2湯口28aとの位置合わせが容易になり、同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0047】
第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付ける第3の方法としては、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、筒状体28の第2湯口28aに第1雌ネジ28dを形成しておき、鋳造品形成用積層体30の第1突出部37の周囲に第1雌ネジ28dに螺合可能な第1雄ネジ37aを形成しておく方法がある。
図7に示す取付け方法でも、第2湯口28aには、第1突出部37を受入可能な第1開口部28bと第1突出部37を受入不能な第2開口部28cが形成される。この方法によれば、筒状体28の第2湯口28aに形成された第1雌ネジ28dに鋳造品形成用積層体30の第1突出部37の周囲に形成された第1雄ネジ37aを螺合させれば、鋳造品形成用積層体30が筒状体28に確実に取付けられ、筒状体28から落下しにくい。同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0048】
第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付ける第4の方法としては、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、筒状体28の第2湯口28aが筒状体表面から突出する第2突出部38に形成され、第2突出部38が鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aに挿入可能に形成される方法がある。この方法によれば、鋳造品形成用積層体30の第1突出部37の第1湯口30aを筒状体28の第2突出部38に嵌入すれば、鋳造品形成用積層体30を筒状体28に容易に取付けることができ、同時に第1湯口30aを第2湯口28aに確実に連通させることができる。第2突出部38の突出高さは、鋳造品形成用積層体30を揺るぎなく固定し、かつ突出係合部の隙間への液体の浸入を防ぐために、1mm以上であることが好ましく、3mm以上20mm以下であることが更に好ましい。
【0049】
第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を筒状体28に取付ける第5の方法としては、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aに第2雌ネジ30bが形成され、筒状体28の第2突出部38の周囲に第2雌ネジ30bに螺合可能な第2雄ネジ38aが形成される方法がある。この方法によれば、鋳造品形成用積層体30の第1湯口30aに形成された第2雌ネジ30bに筒状体の第2突出部38の周囲に形成された第2雄ネジ38aを螺合させれば、鋳造品形成用積層体30が筒状体28に確実に取付けられ、筒状体28から落下しにくい。同時に第1湯口を第2湯口に確実に連通させることができる。
【0050】
筒状体28の厚さは、2mm以上であることが好ましく、3mm以上20mm以下であることが更に好ましい。2mm未満では筒状体の強度が不足し易く、20mmを超えると、筒状体の燃焼消失に要するエネルギと時間がかかり過ぎ易くなるためである。
【0051】
次いで、ツリー体29の表面にセラミックスラリーをコーティングし、このコーティング層が乾燥する前にその表面に砂をまぶして乾燥する砂コーティングを行い、スラリーコーティングと砂コーティングを複数回繰り返して、鋳型前駆体35aを作製する(
図1(b))。この鋳型前駆体35aを図示しない焼成炉に入れて、鋳型前駆体35a内のツリー体29を燃焼して消失させるとともに鋳型前駆体35aを焼成して鋳型35を得る(
図1(c))。この鋳型前駆体35aは、ツリー体29の表面にセラミックスラリーをコーティングし、このコーティング層が乾燥する前にその表面に砂をまぶして乾燥する砂コーティングを行い、スラリーコーティングと砂コーティングを複数回繰り返して形成される。セラミックスラリーは、セラミック粒子を液状バインダに分散させたスラリーであり、このスラリーは、耐火材、バインダ及びバインダを固化させるための硬化剤から構成される。耐火材としては、平均粒径20μm~100μmのシリカ、アルミナ、ケイ酸ジルコニウム等のセラミック粉末が挙げられ、バインダとしては、コロイダルシリカ、エチルシリケート等が挙げられる。また、砂としては、平均粒径0.1mm~3mmのシリカ、アルミナ、ケイ酸ジルコニウム等の砂粒(セラミック粉末)が挙げられる。なお、上記スラリーは乾燥させるだけで成形できるため、硬化剤は不要である。
【0052】
鋳型前駆体35aを比較的速い昇温速度で加熱すると、可塑化温度が存在する熱可塑性樹脂により大部分が構成された鋳型前駆体35a内のツリー体29は熱膨張する前又は熱膨張すると略同時に軟化して溶融する。この結果、ツリー体29の熱膨張により鋳型35が損傷するのを防止できる。また、溶融した鋳造品形成用積層体30は燃焼して二酸化炭素や水蒸気などのガス等が発生するけれども、これらのガス等は、鋳造品形成用積層体30の内部構造が独立空間を有することなく第1湯口30aに連通し、この第1湯口が第2湯口28aに連通するため、第1湯口30a及び第2湯口20aを通って、ツリー体29の煙突状の筒状体28内を通ってスムーズに排出される。具体的には、鋳造品形成用積層体30の燃焼開始時に、鋳型35のキャビティ35bで発生したガス等は、先ず、第1湯口30aと第2湯口28aの連通孔を通り、次いで、筒状体20の燃焼により発生したガス等と合流して鋳型15外により速やかにかつよりスムーズに排出される。鋳造品形成用積層体30の燃焼とともに、第1湯口30a及び第2湯口28aは溶融し、その燃焼ガスはゲート孔35cを通過する。ツリー体29を燃焼させるための空気は、ツリー体29の溶融により連通した煙突状の鋳型25内を通ってスムーズに導入される。具体的には、鋳型35のキャビティ35aで溶融した鋳造品形成用積層体12を燃焼させるための空気は、スプルー35c及びゲート35bを通って上記キャビティ35aにスムーズに導入される。この結果、鋳型35内に空気を吹込むための吹込みノズルを用いなくても、上述のように鋳型35内に空気をスムーズに導入できるので、鋳造品31を既存の鋳造設備をそのまま用いて製造できる。なお、上記鋳型35の焼成温度は、700℃以上であることが好ましく、1000~1100℃の範囲内であることが更に好ましい。
【0053】
次に、上記焼成された鋳型35内に溶融金属を流し込む(
図1(d))。これにより溶融金属は、鋳型35のスプルー35d及びゲート孔35cを通ってキャビティ35bに流入する。そして、溶融金属を流し込んだ鋳型35を冷却した後に、この鋳型35を割って除去し、鋳造品31以外の部分を切り離すことにより鋳造品31を取出す(
図1(e)及び
図1(f))。
【0054】
このように製造された鋳造品31では、ツリー体29が熱可塑性樹脂及びパラフィン系ワックス又はカルナバワックスのみで形成されているので、このツリー体29が鋳型35内で燃焼したときに、ツリー体29の殆ど全てが二酸化炭素や水蒸気などのガス等になって排出され、鋳型35内に不燃残渣が残らず、鋳型35内面に不燃残渣が付着することはない。この結果、上記鋳型35を用いて製造された鋳造品31の表面粗さが不燃残渣により大きくなることはないので、表面が滑らかな鋳造品31を得ることができる。
【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0056】
<実施例1>
図3に示すように、3次元プリンタ13を用いてポリ乳酸(PLA:熱可塑性樹脂)製の空隙を有する立方体状の鋳造品形成用積層体30を造形した(
図3(d))。鋳造品形成用積層体30の縦、横及び高さは、それぞれ50mm、50mm及び50mmであった。鋳造品形成用積層体30の上壁12dには四角窓枠状の第1湯口30aを造形した。この第1湯口30aの口径は、真円換算で直径15mmであった。また、鋳造品形成用積層体30の壁の厚さは0.5mmであり、鋳造品形成用積層体30の内部構造は、
図10(a)に示す独立した空間を有することなく第1湯口30aに連通するテトラシェル構造であって、その内部の空隙の割合は鋳造品形成用積層体30の内部の体積を100%とするとき15%であった。
【0057】
図1に示すように、上記鋳造品形成用積層体30を用いてロストワックス法により鋳造品31を製造した。具体的には、先ず、鋳造品形成用積層体30をパラフィンワックスからなる短パイプ状のゲートモデル27を介してパラフィンワックスからなる筒状体28に接着してツリー体29を作製した(
図1(a)及び
図2(b))。ここで、筒状体28の外径及び長さはそれぞれ30mm及び300mmであり、壁の厚さは2mmであった。筒状体28には真円換算で直径15mmである四角形状の第2湯口28aが形成された。そして、第1湯口30aと第2湯口28aが連通するように鋳造品形成用積層体30を筒状体28に接着してツリー体29を作製した。また、短パイプ状のゲートモデル27の外径及び長さはそれぞれ20mm及び20mmであり、壁の厚さは1.0mmであった。次いで、ツリー体29の表面にセラミックスラリーをコーティングし、このコーティング層が乾燥する前にその表面に砂をまぶして乾燥する砂コーティングを行い、スラリーコーティングと砂コーティングを複数回繰り返して鋳型前駆体35aを作製した(
図1(b))。図示しない焼成炉に鋳型前駆体35aを入れ、鋳型前駆体35a内のツリー体29を燃焼して消失させるとともに鋳型前駆体35aを焼成して鋳型35を得た(
図1(c))。上記焼成温度は1100℃であった。次に、鋳型35内に溶融金属を流し込んだ(
図1(d))。これにより溶融金属は、鋳型35のスプルー35d及びゲート孔35cを通ってキャビティ35bに流入した。そして、溶融金属を流し込んだ鋳型35を冷却した後に、この鋳型35を割って除去し、ゲート部32及びスプルー部33の付いた鋳造品前駆体31aを取り出した(
図1(e))。更に、この鋳造品前駆体31aからゲート32部及びスプルー部33を切り離すことにより、鋳造品31を得た(
図1(f))。
【0058】
<比較例1>
図11に示すように、実施例1と同様の方法で実施例1と同じ熱可塑性樹脂製の空隙を有する立方体状の鋳造品形成用積層体12を造形した(
図11(d))。鋳造品形成用積層体12の縦、横及び高さは、それぞれ50mm、50mm及び50mmであった。鋳造品形成用積層体12の上壁12dには第1湯口を造形しなかった。また、鋳造品形成用積層体12の壁の厚さは0.5mmであり、鋳造品形成用積層体12の内部構造は、実施例1と同じ、
図10(a)に示す独立した空間を有しないテトラシェル構造であって、その内部の空隙の割合は鋳造品形成用積層体12の内部の体積を100%とするとき15%であった。
【0059】
第2湯口を有しない以外は、実施例1と同一である筒状体18(
図13)に鋳造品形成用積層体12を実施例1と同一のゲートモデル17を介して接着してツリー体19を作製した。以下、実施例1と同様にして、鋳造品を得た。
【0060】
<実施例2>
図4に示すように、3次元プリンタ13を用いてポリ乳酸(PLA:熱可塑性樹脂)製の空隙を有する立方体状の鋳造品形成用積層体30を造形した。この鋳造品形成用積層体30の上壁12dには、その上壁12dから突出する四角筒状の突出高さ20mmの第1突出部37を造形し、第1突出部37には第1湯口30aを形成した。鋳造品形成用積層体30の縦、横及び高さは、それぞれ50mm、50mm及び50mmであった。この第1湯口30aの口径は、真円換算で直径15mmであった。また、鋳造品形成用積層体30の壁の厚さは0.5mmであり、鋳造品形成用積層体30の内部構造は、
図10(b)に示す独立した空間を有することなく第1湯口30aに連通するジャイロイド構造であって、その内部の空隙の割合は鋳造品形成用積層体30の内部の体積を100%とするとき10%であった。
【0061】
上記鋳造品形成用積層体30を用いてロストワックス法により鋳造品31を製造した。具体的には、上記鋳造品形成用積層体30を、第1突出部37を下向きにして、実施例1と同じ構成の円換算で直径15mmである四角形状の第2湯口28aが形成された筒状体28に、短パイプ状のゲートモデルの代わりに、第1突出部37を用いて、第1湯口30aと第2湯口28aが連通するように接着してツリー体29を作製した(
図5(a)及び
図5(b))。以下、実施例1と同様にして、鋳造品を得た。
【0062】
<比較例2>
図4に示すように、実施例2と同様の方法で実施例2と同じ熱可塑性樹脂製の空隙を有する立方体状の第1突出部37を有する鋳造品形成用積層体30を造形した。鋳造品形成用積層体30の縦、横及び高さは、それぞれ50mm、50mm及び50mmであった。第1突出部37は実施例2と同じ形状であったが、第1突出部37には第1湯口を造形しなかった。また、鋳造品形成用積層体30の壁の厚さは0.5mmであり、鋳造品形成用積層体30の内部構造は、
図10(b)に示す独立した空間を有しないジャイロイド構造であって、その内部の空隙の割合は鋳造品形成用積層体30の内部の体積を100%とするとき10%であった。
【0063】
上記鋳造品形成用積層体30を用いてロストワックス法により鋳造品31を製造した。具体的には、上記鋳造品形成用積層体30を、第1突出部37を下向きにして、第2湯口が形成されていない筒状体に接着してツリー体を作製した。以下、実施例1と同様にして、鋳造品を得た。
【0064】
<比較例3>
図4に示すように、3次元プリンタ13を用いてポリ乳酸(PLA:熱可塑性樹脂)製の空隙を有する外観は実施例2と同一の立方体状の鋳造品形成用積層体30を造形した。この鋳造品形成用積層体30の上壁12dには、実施例2と同一の上壁12dから突出する四角筒状の突出高さ20mmの第1突出部37を造形し、第1突出部37には第1湯口30aを形成した。鋳造品形成用積層体30の縦、横及び高さは、実施例2と同一のそれぞれ50mm、50mm及び50mmであった。この第1湯口30aの口径は、実施例2と同一の真円換算で直径15mmであり、鋳造品形成用積層体30の壁の厚さは実施例2と同一の0.5mmであった。実施例2と異なり、鋳造品形成用積層体30の内部構造は、図示しないが、独立した空間を有する正六角筒同士を隙間なく並べたハニカム構造であった。正六角筒の長手方向は第1湯口30aに向いていた。鋳造品形成用積層体30の空隙の割合は鋳造品形成用積層体30の内部の体積を100%とするとき15%であった。
【0065】
<比較試験及び評価>
実施例1~2及び比較例1~3において、鋳型前駆体の焼成後に得られた鋳型に割れが生じたか否かを目視により観察した。その結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1から明らかなように、鋳造品形成用積層体の内部構造が独立空間を有しないものの、第1湯口及び第2湯口を有することなく、鋳造品形成用積層体の空隙の割合が15%及び10%であった比較例1及び2では、鋳型前駆体の焼成後に得られた鋳型に割れが生じた。また第1湯口及び第2湯口を有しながらも、鋳造品形成用積層体の内部構造が独立空間を有するハニカム構造であった比較例3では、鋳造品形成用積層体の空隙の割合が15%であっても、鋳型前駆体の焼成後に得られた鋳型に割れが生じた。これらの比較例1~3に対して、鋳造品形成用積層体に第1湯口を有し、第1湯口に、独立空間を有しない鋳造品形成用積層体の内部構造が連通し、筒状体に第2湯口を有し、これらの湯口が連通した実施例1及び2では、鋳造品形成用積層体の空隙の割合が15%及び10%であっても、鋳型前駆体の焼成後に得られた鋳型に割れを生じなかった。
【符号の説明】
【0068】
12d 上壁
13 3次元プリンタ
27 ゲートモデル
27a ゲートモデル孔
28 筒状体
28a 第2湯口
28b 第1開口部
28c 第2開口部
28d 第1雌ネジ
29 ツリー体
30 鋳造品形成用積層体
30a 第1湯口
30b 第2雌ネジ
31 鋳造品
31a 鋳造品前駆体
35 鋳型
35a 鋳型前駆体
37 鋳造品形成用積層体の第1突出部
37a 第1雄ネジ
38 筒状体の第2突出部
38a 第2雄ネジ
【要約】
【課題】鋳造品形成用積層体の燃焼開始時の燃焼ガスをより速やかにかつよりスムーズに排出して鋳型の型割れを防止する。
【解決手段】3次元プリンタを用いて付加製造技術により形成された熱可塑性樹脂からなる空隙を有する1以上の鋳造品形成用積層体を可燃性の筒状体に取付けて作製されたツリー体から鋳型を作製するときに、鋳造品形成用積層体に第1湯口が形成され、筒状体に第2湯口が形成され、第1湯口と第2湯口が連通するように鋳造品形成用積層体を筒状体に取付けてツリー体を作製する。鋳造品形成用積層体の内部構造が独立空間を有することなく第1湯口に連通する。
【選択図】
図1