(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】固体電解質センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2017196746
(22)【出願日】2017-10-10
【審査請求日】2020-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
(72)【発明者】
【氏名】岩井 翔
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-042445(JP,A)
【文献】特表2005-513415(JP,A)
【文献】実開平7-012963(JP,U)
【文献】特開2017-116275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-27/413
G01N 27/417-27/419
G01M 3/00
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中のガス漏れを検知するためのセンサであって、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子に生じた起電力を測定するために前記センサ素子の表面にそれぞれ形成されている基準電極及び測定電極、並びに、前記基準電極が接する第一空間と前記測定電極が接する第二空間とが区画されるように前記センサ素子を保持している筒状のホルダを有するセンサプローブと、
前記センサ素子の温度を調整する温度調整機構と、
筒状で、軸方向に直交する断面において周壁に囲まれている面積が前記ホルダの前記面積より小さく、その内部空間が前記第二空間まで気密に接続されている細管と、
該細管を介して被測定雰囲気のガスを吸引し、吸引されたガスを前記第二空間内に導入する吸引装置と、
を具備することを特徴とする固体電解質センサ。
【請求項2】
前記細管の前記面積は、2mm
2~32mm
2である
ことを特徴とする請求項1に記載の固体電解質センサ。
【請求項3】
前記細管と前記第二空間との間に、可撓性のチューブが接続されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体電解質センサ。
【請求項4】
測定された前記起電力に基づいてガス漏れの有無を判定し、判定の結果を報知装置に報知させる制御手段を、更に具備する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の固体電解質センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質をセンサ素子とする固体電解質センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質(イオン伝導性セラミックス)をセンサ素子として、水素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水蒸気などのガス濃度を検出する固体電解質センサが種々提案されている。固体電解質センサは、同一イオンの濃度差により電位差が生じる濃淡電池の原理を使用したものであり、固体電解質を挟んだ二つの空間で検出対象のガスの濃度が異なる場合に、固体電解質に生じる起電力を測定する。二つの空間のうち、第一の空間において検出対象ガスの濃度が既知であれば、ネルンストの式により、測定された起電力とセンサ素子の温度から、第二の空間におけるガス濃度を知ることができる。或いは、第一の空間のガス濃度を一定とした状態で、第二の空間におけるガス濃度を変化させて起電力を測定して予め検量線を作成しておくことにより、ガス濃度が未知の場合の起電力の測定値から、第二の空間のガス濃度を知ることができる。
【0003】
固体電解質センサは、固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲内で、ごく低いガス濃度を精度よく検出することができる。例えば、本出願人は過去に、溶融金属中の水素濃度や酸素濃度をppmオーダーで精度よく検出することができる固体電解質センサを提案している(例えば、特許文献1参照)。また、固体電解質センサは、燃焼炉等の工業炉内の雰囲気中についても同様に、ごく低いガス濃度を精度よく検出することができる。
【0004】
そこで、本発明者らは、このように低いガス濃度を精度よく検出可能な固体電解質センサを、気相中のガス漏れの検知に使用することを想到した。例えば、近年では、燃料電池や水素エンジンなど水素をエネルギーとする新規技術の開発が進められており、水素の使用が今後増えていくことが予想される。水素は、爆発のおそれがあるなど取り扱いに注意を要するため、気相中の水素ガスの漏れを検知することができれば非常に有用である。水素以外のガスについても、被測定雰囲気に要請される条件等によって、漏れの検知が有用である場面は多いと考えられる。
【0005】
ところが、試みに実験室内で意図的にガス漏れを生じさせておき、固体電解質のセンサ素子が保護管内にセットされた従来のセンサプローブを、そのガス漏れ箇所にかざしてみたところ、固体電解質に生じるはずの起電力がほとんど検出されないという結果であった。つまり、固体電解質をセンサ素子とした従来のセンサプローブは、そのままではガス漏れ検知に使用できないという知見を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、気相中のガス漏れを精度よく検知することができる固体電解質センサの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる固体電解質センサは、
「気相中のガス漏れを検知するためのセンサであって、
固体電解質のセンサ素子、該センサ素子に生じた起電力を測定するために前記センサ素子の表面にそれぞれ形成されている基準電極及び測定電極、並びに、前記基準電極が接する第一空間と前記測定電極が接する第二空間とが区画されるように前記センサ素子を保持している筒状のホルダを有するセンサプローブと、
前記センサ素子の温度を調整する温度調整機構と、
筒状で、軸方向に直交する断面において周壁に囲まれている面積が前記ホルダの前記面積より小さく、その内部空間が前記第二空間まで気密に接続されている細管と、
該細管を介して被測定雰囲気のガスを吸引し、吸引されたガスを前記第二空間内に導入する吸引装置と、
を具備する」ものである。
【0009】
溶融金属中のガス濃度や工業炉内のガス濃度に関しては、低濃度であっても検出できる従来の固体電解質センサで気相中のガス漏れを検知できなかった原因は、ガスの拡散にあると本発明者らは考察した。すなわち、溶融金属中や工業炉内の閉鎖空間では、検出対象ガスの濃度はほぼ平衡に達しており、測定電極に接している部分的な空間でガス濃度が変化しにくい。これに対し、開放系の空間では、ある箇所でガス漏れが生じたとしても、ガスは直ちに周囲の空間に拡散してしまう。そのため、ガス漏れ部分に従来のセンサプローブを近づけたとしても、測定電極が接する局部的な空間ではガスがすぐに拡散してしまうことにより、ガス漏れを検知することができないと考えられた。
【0010】
これに対し、本構成の固体電解質センサは細管を有しており、この細管は、軸方向に直交する断面において周壁に囲まれている面積が、ホルダのそれより小さい。ここで、「軸方向に直交する断面において周壁に囲まれている面積」は、共に筒状である細管とホルダの太さ(細さ)を規定するものである。つまり、センサプローブにおいてセンサ素子を保持することによって、測定電極側の第二空間を基準電極側の第一空間から区画しているホルダより、細管の方が細い。従って、細管を介して被測定雰囲気における“局部的な”空間のガスが、吸引装置によって“強制的に”吸引される。そのため、ガス漏れ箇所からガスが拡散する前に、漏れたガスを第二空間まで導入することができるため、気相中のガス漏れを精度よく検知することができる。
【0011】
ここで、「細管」は、ホルダより細い筒状であれば形状は特に限定されず、円管、楕円管、角管を使用可能である。
【0012】
また、通常、固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲は数百℃~1000℃という高温の範囲であるため、固体電解質センサは溶融金属や工業炉内など高温の雰囲気におけるガス濃度の検出に適している。これに対し、本構成の固体電解質センサは、センサ素子の温度を調整する温度調整機構を備えているため、被測定雰囲気が常温であるなど固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲より低い温度であっても、センサ素子の温度が良好なイオン伝導性を示す温度範囲内となるように調整することにより、問題なくガス漏れを検知することができる。
【0013】
ここで、「温度調整機構」は、センサプローブの内部に設けられてセンサ素子を加熱するヒータや、センサプローブを外部から加熱する加熱炉などの熱源部と、センサ素子の温度を測定する熱電対などの温度検出部と、温度検出部による温度の検出に基づき熱源への出力を調整する制御手段と、を備える構成とすることができる。
【0014】
本発明にかかる固体電解質センサは、上記構成において、
「前記細管の前記面積は、2mm2~32mm2である」ものとすることができる。
【0015】
「軸方向に直交する断面において周壁に囲まれている面積が2mm2~32mm2」の細管は、軸方向に直交する断面の内形が円形の細管の場合は、直径が1/16インチ~1/4インチ(1.59mm~6.35mm)の範囲にあるものに相当し、軸方向に直交する断面の内形が正方形の細管の場合は、正方形の一辺が1.4mm~5.6mmの範囲にあるものに相当する。
【0016】
本構成の固体電解質センサは、このように非常に細い細管を使用することにより、局部的な空間のガスを吸引する上記の作用を、より効果的に発揮する。
【0017】
本発明にかかる固体電解質センサは、上記構成に加え、
「前記細管と前記第二空間との間に、可撓性のチューブが接続されている」ものとすることができる。
【0018】
本構成では、細管が可撓性のチューブを介してセンサプローブの第二空間と接続されているため、細管を把持した作業者が、ガス漏れが懸念される空間を移動しながら、ガス配管の接続部などガス漏れの可能性がある部分など処々で細管をかざすことにより、作業性良くガス漏れの有無を検査することができる。
【0019】
本発明にかかる固体電解質センサは、上記構成に加え、
「測定された前記起電力に基づいてガス漏れの有無を判定し、判定の結果を報知装置に報知させる制御手段を、更に具備する」ものとすることができる。
【0020】
「ガス漏れの有無の判定」は、測定された起電力から算出されたガス濃度(ガス分圧)を基準値と対比することにより、行うことができる。或いは、基準ガス濃度が一定である場合は、測定された起電力そのものを基準値と対比することにより、ガス漏れの有無の判定を行うことができる。また、起電力から算出されたガス濃度または起電力そのものの値を基準値と対比する判定に替えて、ガス濃度または起電力の変化量から不連続な変化を検出し、これに基づいてガス漏れの有無の判定を行うこともできる。
【0021】
報知装置による「報知」としては、警告音及び警告灯の少なくとも何れか一方とすることができる。報知の態様は、ガス漏れが発生したと判定したときに警告音を発し、或いは警告灯を点灯・点滅させる態様の他、ガス漏れが発生していないと判定したときにも報知を行う態様とすることができる。例えば、音で報知する場合、ガス漏れが発生していないときには、一定の時間ごとに異常がない旨を音声で報知してもよい。灯(ライト)で報知する場合、ガス漏れが発生した異常時と、ガス漏れが発生していない正常時とで、異なる色のライトを点灯させることができる。正常時にも報知をすることにより、ガス漏れを検知する固体電解質センサが動作中であることが、分かり易いものとなる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、気相中のガス漏れを精度よく検知することができる固体電解質センサを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態の固体電解質センサの構成図である。
【
図2】
図1の固体電解質センサにおけるセンサプローブの縦断面図である。
【
図3】
図1の固体電解質センサを使用したガス漏れ検知試験の結果を示すグラフである。
【
図4】
図1の固体電解質センサを使用した他のガス漏れ検知試験の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の第二実施形態の固体電解質センサの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態である固体電解質センサについて、説明する。まず、第一実施形態の固体電解質センサ101について、
図1乃至
図4を用いて説明する。
【0025】
固体電解質センサ101は、センサプローブ1と、ガス導入管2と、細管3と、延長チューブ4と、演算表示機5と、基準ガスを供給するボンベ6と、吸引装置7とを具備している。
【0026】
より詳細に説明すると、センサプローブ1は、筒状のホルダ20、固体電解質のセンサ素子10、基準電極11、測定電極12、を主要な構成としている。
【0027】
ホルダ20は、径が単一の円筒状の主筒部21と、主筒部21の一端に設けられた椀状の拡開筒部22と、主筒部21の他端に筒状連結部23を介して連結された、主筒部21より径の小さな円筒状である縮径筒部24とを備えている。拡開筒部22、主筒部21、筒状連結部23、及び縮径筒部24のうち、少なくとも主筒部21は導電性を有する金属製である。また、拡開筒部22には、基準ガスを導入するためのガス導入口28と、配線用の複数の端子が設けられた端子台90を嵌め込むための配線用孔部29が設けられている。
【0028】
センサ素子10は有底筒状であり、その開口がホルダ20の内部で開放するように、縮径筒部24の内部に取り付けられており、縮径筒部24の内周面とセンサ素子10の外周面との間が封止部95によって気密に封止されている。これにより、ホルダ20の内部空間は、第一空間S1と第二空間S2に気密に区画されている。そして、基準電極11は第一空間S1においてセンサ素子10の表面に形成されており、測定電極12は第二空間S2においてセンサ素子10の表面に形成されている。
【0029】
ホルダ20の内部には、アルミナ等の電気絶縁性材料で形成された絶縁管40が挿入されており、基準電極11に接続された二種類の金属線41a,41bが、絶縁管40を挿通している。また、有底筒状のセンサ素子10の内部にはヒータ31が挿入されており、ヒータ31に電気を供給する電線43が、電気絶縁性の被覆が施された状態で同じく絶縁管40を挿通している。ここでは、ヒータ31として、アルミナ等のセラミックス基体に発熱体が埋設されたセラミックヒータを使用している。
【0030】
測定電極12に一端が接続された金属線42aは、縮径筒部24及び筒状連結部23の内部を通り、導電性の主筒部21に接続されている。また、主筒部21の拡開筒部22側の端部からは、主筒部21を介して金属線42aと電気的に接続される金属線42bが延びている。金属線41a,41b,42b及び電線43は、それぞれ端子台90の端子の一つに接続されている。なお、金属線41a,42aによってセンサ素子10に生じる起電力を測定することができ、金属線41a,41bはセンサ素子10の温度を測定するための熱電対として作用する。
【0031】
ガス導入管2は円筒状であり、その一端が連結パイプ2aとの接続孔を除いて閉塞されていると共に、他端が連結パイプ2bとの接続孔を除いて閉塞されている。一方の連結パイプ2aは、延長チューブ4を介して細管3に連結されている。
【0032】
細管3は、ホルダ2の縮径筒部24より内径がかなり小さい管であり、具体的には内径が1/8インチ(3.12mm)で長さが20cm~40cmの円管である。延長チューブ4は可撓性を有する樹脂製であり、長さが1m~5mである。他方の連結パイプ2bは、吸引装置7としての吸引ポンプに連結されている。なお、延長チューブ4が、本発明の「可撓性のチューブ」に相当する。
【0033】
ガス導入管2は、その側周面に他の管状部材を接続するためのジョイント部2jを有しており、センサプローブ1のホルダ20における縮径筒部24がジョイント部2jに接続されている。これにより、センサプローブ1の第二空間S2がガス導入管2の内部空間と連通している。
【0034】
演算表示機5は、制御装置(図示を省略)と、表示器51と、流量計52と、報知装置としての報知用スピーカ53及び報知用ライト54とを、主な構成としている。制御装置には、端子台90を介してセンサプローブ1の電線43及び金属線41a,41b,42bとそれぞれ電気的に接続された電線が束ねられた電線ケーブル91が、接続されている。制御装置は、主記憶装置、補助記憶装置、及びマイクロプロセッサを備えるマイクロコンピュータを具備しており、マイクロコンピュータを制御手段として機能させる制御プログラムが主記憶装置に記憶されている。
【0035】
この制御手段は、基準電極11及び測定電極12の間に生じた起電力から被測定雰囲気におけるガス濃度(ガス分圧)を算出するガス濃度演算手段と、算出されたガス濃度を補助記憶装置に記憶させる記憶手段と、算出されたガス濃度に基づいてガス漏れの有無を判定する判定手段と、判定手段による判定の結果を報知装置に報知させる報知手段と、測定結果及び算出結果を表示器51に表示させる表示手段と、熱電対の起電力をセンサ素子10の温度に変換し、センサ素子10の温度に基づいてヒータ31に出力する電流を調整する温度調整手段とを、主に備えている。従って、本実施形態では、ヒータ31、熱電対(金属線41a,41b)、及び、制御手段における温度調整手段が、本発明の「温度調整機構」に相当する。
【0036】
そして、表示器51には、被測定雰囲気のガス濃度、基準電極11と測定電極12との間に生じた起電力、センサ素子の温度等が表示される。また、検出対象ガスの濃度が既知である基準ガスは、ボンベ6から供給されて流量計52を通った後、基準ガス供給管61を介してセンサプローブ1のガス導入口28に導入される。
【0037】
上記構成の固体電解質センサ101でガス漏れの有無を検査する場合は、制御手段の制御によるヒータ31の加熱により、センサ素子10の温度を固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲内の一定温度に調整した上で、基準ガスをボンベ6からセンサプローブ1の第一空間S1に供給する。その状態で、吸引装置7を作動させ、細管3を把持してその先端を検査箇所にかざす。細管3は、可撓性の延長チューブ4を介してセンサプローブ1に接続されているため、細管3を把持した作業者が移動しながら検査を行うことができる。吸引装置7により細管3から強制的に吸引されたガスは、延長チューブ4を通ってガス導入管2の内部に導入され、センサプローブ1の第二空間S2に導入される。第一空間S1と第二空間S2とで検出対象ガスの濃度に差異がある場合は、基準電極11と測定電極12との間に起電力が生じる。
【0038】
制御手段は、ごく短い時間間隔で起電力を取得し、取得した起電力と基準ガスの濃度から被測定雰囲気におけるガス濃度を算出する。算出されたガス濃度は、起電力及び温度と共に補助記憶装置に記憶されると共に、これらの値が経時的に表示器51に表示される。また、算出されたガス濃度は予め定めた基準値と対比され、基準値以下である間は、ガス漏れは生じていないと判定されて、報知用ライト54に緑色灯を点灯させる制御が行われる。一方、ガス濃度が基準値を超え、その状態が予め定めた短い時間継続しているときは、ガス漏れが生じていると判定されて、報知用ライト54に赤色灯を点滅させると共に、報知用スピーカ53から警告音を発する制御が行われる。このような制御により、ガス漏れを検知することができると共に、ガス濃度を検出することができる。
【0039】
実際に、第一実施形態の固体電解質センサ101を使用し、ガス漏れ検知試験を行った結果を
図3に示す。この試験では、センサ素子10を構成する固体電解質として、プロトン伝導性を示す固体電解質を使用した。常温の開放系空間において、水素ガスの配管から意図的に僅かなガス漏れを生じさせた。予め、第一空間S1に導入される測定ガスとして、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを使用し、水素ガスの割合を変化させて起電力の値に基づいて検出される水素ガス濃度を確認した後、測定ガスを細管3から吸引される被測定雰囲気のガスに切り替え、ガス漏れを生じさせた箇所に細管3をかざした。
【0040】
図3に示すように、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを第一空間S1に導入したとき、水素ガスの割合の変化を正確に反映させた水素濃度が安定的に検出されており、細管3から吸引されたガスを第一空間S1に導入したとき、応答性良く変化した起電力によってガス漏れを速やかに検知することができた。この試験でガス漏れが検知された水素ガス濃度は、約6ppmという低い値であった。
【0041】
更に、第一実施形態の固体電解質センサ101を使用し、上記とは異なるガス漏れ検知試験を行った結果を
図4に示す。この試験では、センサ素子10を構成する固体電解質として、同じくプロトン伝導性を示す固体電解質を使用し、常温の開放系空間において、水素ガスの配管から意図的に僅かなガス漏れを生じさせた。ガス漏れの程度は、
図3の試験の時より更に僅かとなるように設定し、細管3を把持した作業者が移動することにより、ガス漏れ箇所の上方の空間を横切るように細管3を通過させた。同一のガス漏れ箇所について複数回、移動速度を変化させて細管3を通過させた。
【0042】
図4に示すように、作業者が移動しながら細管3を通過させても、非常に応答性良く、ガス漏れを検知することができた。検知されたガス濃度は、0.25ppm~0.35ppmという極めて低い濃度であった。同一のガス漏れ箇所で検出されたガス濃度が若干異なるのは、細管3を通過させる速度の違いによるものと考えられたが、移動しながらガス漏れを検知できる利点は大きい。
【0043】
以上のように、第一実施形態の固体電解質センサ101によれば、局部的な空間のガスを、細管3を介して強制的に吸引することにより、従来のセンサプローブでは検知できなかった開放系の気相におけるガス漏れを、精度よく検知することができる。特に、1ppm未満のごく低濃度のガス漏れであっても、細管3を通過させながら検知することができるため、ガス漏れが懸念される空間でのガス漏れ検査を、容易かつ正確に行うことができる。
【0044】
また、センサ素子10の温度を、イオン伝導性を示す温度範囲内の温度となるように調整するための温度調整機構を備えているため、常温の空間であっても問題なくガス漏れの検査を行うことができる。
【0045】
加えて、ガス漏れの発生の有無が制御装置によって判定され、その結果が音とライトで報知されるため、周囲の人がガス漏れの有無を把握し易い。また、細管3を把持した作業者が移動しながらガス漏れの検査を行う際、常に表示器51を確認しなくても、或いは、表示器51の見えない位置で検査を行っていても、警告音によってガス漏れの発生を知ることができる。
【0046】
次に、第二実施形態の固体電解質センサ102について、
図5を用いて説明する。第一実施形態の固体電解質センサ101と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0047】
固体電解質センサ102が固体電解質センサ101と相違する点は、主に、温度調整機構の構成と、ガス導入管2に相当する構成を使用しない点である。具体的には、固体電解質センサ102は、センサプローブ1bと、細管3と、延長チューブ4と、演算表示機5と、基準ガスを供給するボンベ6と、吸引装置7とを具備している。センサプローブ1bは、筒状のホルダ20b、固体電解質のセンサ素子10、基準電極11、測定電極12、を主要な構成としている。
【0048】
センサ素子10は有底筒状であり、その開口が円筒状のホルダ20bの外部に向かって開放するように、封止部95によってホルダ20bの内部に固定されている。封止部95は、センサ素子10の外周面とホルダ20bの内周面との間を気密に封止しており、これによって、ホルダ20bの内部空間は第一空間S1と第二空間S2に気密に区画されている。基準電極11は第一空間S1においてセンサ素子10の表面に形成されており、測定電極12は第二空間S2においてセンサ素子10の表面に形成されている。
【0049】
センサ素子10の内部には、アルミナ等の電気絶縁性材料で形成された絶縁管40が挿入されており、基準電極11に接続された電線46及び熱電対48が、絶縁管40を挿通している。測定電極12には電線47が接続されており、この電線47が電線46及び熱電対48と共に束ねられた電線ケーブル91が、演算表示機5内部の制御装置に接続されている。また、ボンベ6から供給された基準ガスは、基準ガス供給管61を流通し、基準ガス導入管62を介してセンサプローブ1bの第一空間S1に導入される。
【0050】
細管3は、延長チューブ4を介して測定ガス導入管4bに接続されており、測定ガス導入管4bの端部はセンサプローブ1bの第二空間S2内に位置している。一方、吸引装置7である吸引ポンプには吸引管7bが接続されており、吸引管7bの端部はセンサプローブ1bの第二空間S2内に位置している。測定ガス導入管4bの端部は、吸引管7bの端部よりセンサ素子10の近くで開口している。
【0051】
センサプローブ1bは管状の加熱炉32内にあり、加熱炉32に電気を供給する電線(図示を省略)が制御装置に接続されている。制御装置の制御手段は、第一実施形態と同様に、ガス濃度演算手段、記憶手段、判定手段、報知手段、表示手段、及び温度調整手段を備えている。温度調整手段は、熱電対48の起電力から変換したセンサ素子10の温度に基づいて、加熱炉32に出力する電流を調整する。従って、本実施形態では、加熱炉32、熱電対48、及び、制御手段における温度調整手段が、本発明の「温度調整機構」に相当する。
【0052】
上記構成の固体電解質センサ102でガス漏れの有無を検査する場合は、加熱炉32による加熱によって、センサ素子10の温度を固体電解質がイオン伝導性を示す温度範囲内の一定温度に調整した上で、基準ガスをボンベ6からセンサプローブ1bの第一空間S1に供給する。その状態で、吸引装置7を作動させると、吸引管7bを介して第二空間S2のガスが排出されて負圧となるため、細管3から被測定雰囲気のガスが強制的に吸引される。細管3から吸引されたガスは、延長チューブ4及び測定ガス導入管4bを介して第二空間S2に導入される。従って、第二実施形態の固体電解質センサ102によっても、第一実施形態の固体電解質センサ101と同様に、開放系の気相におけるガス漏れを、精度よく検知することができる。
【0053】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0054】
例えば、上記では、基準ガスをボンベから供給する場合を例示した。基準ガスとして大気を使用できる固体電解質の場合は、ボンベは不要であり、センサプローブの第一空間を大気中に開放しておけばよい。
【0055】
また、上記では、吸引装置として吸引ポンプを例示したが、第二空間から強制的にガスを排出する排気ファンを使用することもできる。
【0056】
更に、形状が有底筒状であるセンサ素子が筒状のホルダの内部空間を閉塞しているセンサプローブを例示したが、基準電極が接する第一空間と測定電極が接する第二空間とが区画されるようにセンサ素子がホルダに保持されるものであれば、センサ素子の形状及びホルダによる保持の態様は限定されない。例えば、有底筒状のセンサ素子が、その開口をホルダの内部または外部に向けた状態で、ホルダの一端を閉塞している態様、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの内部空間を閉塞している態様、或いは、柱状または平板状のセンサ素子がホルダの一端を閉塞している態様のセンサプローブを、何れも使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,1b センサプローブ
3 細管
4 延長チューブ(可撓性のチューブ)
7 吸引装置
10 センサ素子
11 基準電極
12 測定電極
31 ヒータ
32 加熱炉
S1 第一空間
S2 第二空間