(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】石炭灰の発塵抑制並びに固結又は流動化抑制方法
(51)【国際特許分類】
B65G 67/60 20060101AFI20240229BHJP
B65G 69/20 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
B65G67/60 A
B65G69/20 ZAB
(21)【出願番号】P 2019015128
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2022-01-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】太田 亨
(72)【発明者】
【氏名】片桐 誠
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】千葉 裕己
(72)【発明者】
【氏名】弥栄 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】和泉 一志
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-248741(JP,A)
【文献】特開2000-126744(JP,A)
【文献】特開2001-193921(JP,A)
【文献】特開2006-1776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 67/00 - 67/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉構造の貨物室を有する船舶を用いて、石炭灰を
5~25日間海上輸送する
場合における石炭灰の
発塵抑制並びに固結又は流動化抑制方法であって、
上記石炭灰中の水分の含有率が
10~15質量%となるように、上記石炭灰に水を供給し
て加湿石炭灰を得た後、上記加湿石炭灰を
上記貨物室内に積み込み、
上記加湿石炭灰を上記貨物室内に収容した状態で5~25日間海上輸送して、荷下ろしすることを特徴とする石炭灰の
発塵抑制並びに固結又は流動化抑制方法。
【請求項2】
上記加湿石炭灰が、上記石炭灰に上記水を供給した後、撹拌、混合して得られたものである請求項1に記載の石炭灰の発塵抑制並びに固結又は流動化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰の運搬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海外の港等の空気圧送式の荷役設備がない場所において、開放系の搬送手段を用いて石炭灰を搬送する場合、発塵によって作業効率が悪化する場合がある。
石炭灰の発塵を抑制する方法として、石炭灰を加湿する方法が知られている。
特許文献1には、石炭灰積み出し施設での石炭灰が飛散することによる2次的な公害を防止するとともに、運転員の労力の軽減を図ることができる石炭灰の水分調整装置及び水分調整方法が記載されており、加湿後の石炭灰の水分量は、加湿された石炭灰中の21±3%の範囲に調整されることが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日本国内において、船舶を用いて石炭灰を海上輸送する場合、概ね2日間以内で目的地に運搬することができる。一方、日本から海外に、船舶を用いて石炭灰を海上輸送する場合、目的地に運搬するまでに、通常、4日間以上かかる。
船舶に積み込まれた石炭灰は、海上輸送中に、波等に起因する、強弱が大きく異なる上下左右運動や振動等を受け続けることになる。海上輸送にかかる時間が4日間未満であれば特に問題はないが、海上輸送にかかる時間が4日間以上である場合、発塵を抑制する目的で加湿された石炭灰が固結したり、流動化する場合があった。
なお、石炭灰の流動化が望ましくない理由は、流動化した石炭灰を、海上輸送後にバケット等の収容手段に収容して、鉛直方向に移動させるときなどに、バケット等の収容手段から一部落下してしまうおそれがあるからである。
本発明の目的は、船舶を用いて石炭灰を海上輸送する場合において、船舶による海上輸送の前から、海上輸送の後に亘って、発塵の発生を抑制して、作業環境の悪化を防ぐことができ、かつ、海上輸送に4日間以上かかっても、石炭灰の固結や流動化が抑制された状態で、石炭灰を運搬することができ、石炭灰の良好な性状の維持及び海上輸送後の運搬時における石炭灰の一部の落下等の防止が可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、石炭灰中の水分の含有率が 6 ~17質量%となるように、石炭灰に水を供給した後、該石炭灰を船舶に積み込み、4日間以上海上輸送して、荷下ろしする方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] 船舶を用いて、石炭灰を4日間以上海上輸送する石炭灰の運搬方法であって、上記石炭灰中の水分の含有率が6~17質量%となるように、上記石炭灰に水を供給した後、上記石炭灰を船舶に積み込み、4日間以上海上輸送して、荷下ろしすることを特徴とする石炭灰の運搬方法。
[2] 上記石炭灰中の水分の含有率が10~15質量%となるように、上記石炭灰に水を供給する前記[1]に記載の石炭灰の運搬方法。
[3] 上記石炭灰を5日間以上海上輸送する前記[1]または[2]に記載の石炭灰の運搬方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の石炭灰の運搬方法によれば、船舶を用いて石炭灰を海上輸送する場合において、石炭灰の積み込みや荷下ろしを行う際の発塵の発生を抑制することができる。
また、本発明の石炭灰の運搬方法によれば、海上輸送に4日間以上かかっても、石炭灰の固結や流動化が抑制された状態で、石炭灰を運搬することができ、石炭灰の良好な性状の維持及び海上輸送後の運搬時における石炭灰の一部の落下等の防止が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の石炭灰の運搬方法は、船舶を用いて、石炭灰を4日間以上海上輸送する石炭灰の運搬方法であって、石炭灰中の水分の含有率が6~17質量%となるように、石炭灰に水を供給した後、石炭灰を船舶に積み込み、4日間以上海上輸送して、荷下ろしするものである。
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、船舶を用いて、石炭灰を海上輸送する時間は、4日間以上、好ましくは4.5日間以上、より好ましくは5日間以上である。上記時間が4日間未満である場合、石炭灰が固結したり、流動化する虞が少ないため、本発明の方法を行う必要性が乏しくなる。また、上記時間は、荷下ろし後の石炭灰を、セメント用混和材等として使用する際の品質低下を防ぐ観点から、好ましくは30日間以下、より好ましくは25日間以下である。
海上輸送に用いられる船舶としては、特に限定されるものではないが、海上輸送中、水分の気化によって石炭灰中の水分の含有率が小さくなることを防ぎ、荷下ろしを行う際の発塵の発生の抑制効果を維持する観点から、密閉構造の貨物室を有するものが好ましい。
【0008】
なお、本発明において、「海上輸送」とは、船舶が海上を航行している状態を意味し、船舶が港湾内に停泊している状態は含まれないものとする。
すなわち、「石炭灰を4日間以上海上輸送する」の「4日間」には、船舶が港湾内に停泊している(船舶に積み込まれている石炭灰が、強弱が大きく異なる上下左右運動や振動等をあまり受けない)時間は含まれないものとする。
【0009】
石炭灰としては、特に限定されるものではなく、フライアッシュ、クリンカアッシュ等が挙げられる。フライアッシュの例としては、火力発電所等での微粉炭の燃焼によって生じる石炭灰を電気集塵機等で回収したもの、もしくはそれらを分級または粉砕したもの等が挙げられる。
【0010】
本発明において、石炭灰は、石炭灰中の水分の含有率が6~17質量%となるように、水を供給された後、船舶に積み込まれる。上記含有率は、石炭灰を船舶に積み込む際や荷下ろしする際の作業性等から、好ましくは8~16質量%、より好ましくは9~16質量%、特に好ましくは10~15質量%である。上記含有率が6質量%未満であると、石炭灰を船舶に積み込む際や荷下ろしする際(特に、荷下ろしする際)に発塵が発生し、作業環境や作業効率が悪化する。上記含有率が17質量%を超えると、石炭灰を海上輸送する間に、石炭灰の固結や流動化が発生する場合がある。石炭灰が固結した場合には粉砕の作業が必要となったり、また、石炭灰が流動化した場合にはバケットを用いた荷下ろしが困難になるため、荷下ろしの作業効率が低下する。
【0011】
石炭灰に水を供給する方法としては、特に限定されるものではなく、ミキサー等の混合手段を用いて石炭灰と水を混合してもよく、石炭灰の表面部分に、霧吹きやホース等を用いて、水を噴霧あるいは散水してもよい。
石炭灰の船舶への積み込み方法、及び、石炭灰の船舶からの積み下ろし方法は、特に限定されるものではなく、慣用の方法(例えば、トラクターショベル、ベルトコンベアやバケットを用いる方法)を用いて行うことができる。
荷下ろし後の石炭灰は、通常、セメントクリンカ原料やセメント用混和材として使用される。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1~6、比較例1~4]
表1、2に示す石炭灰10kgと、加湿石炭灰(石炭灰と水の混合物)中の水分の含有率が表2に示す値となる量の水道水を、ホバート社製のミキサに投入した後、十分に撹拌、混合して加湿石炭灰を得た。
得られた加湿石炭灰を、50cmの高さから落下させて、目視により発塵性の有無を評価した。評価は、落下の直後に発塵が起こったものを「あり」とし、落下の直後に発塵が起こらなかったものを「なし」とした。
結果を表2に示す。
【0013】
【0014】
【0015】
表2から、実施例1~6における石炭灰(石炭灰中の水分の含有率:8~15質量%)は、発塵性のないものであることがわかる。また、比較例1、3における石炭灰(石炭灰中の水分の含有率:5質量%)は、発塵性のあるものであることがわかる。
【0016】
[実施例7~12、比較例5~8]
表1、3に示す石炭灰20kgと、加湿石炭灰(石炭灰と水の混合物)中の水分の含有率が表3に示す値となる量の水道水を、ホバート社製のミキサに投入した後、十分に撹拌、混合して加湿石炭灰を得た。
得られた加湿石炭灰をプラスチック板上に取り出し、ハンドスコップを用いて円筒形のポリエチレン製容器(直径:30cm、高さ:40cm)の内部に、容器本体が満たされるように投入した後、蓋をして密封した。この容器を3個用意して、海上を航行するばら積み貨物船の船内で保管した。表3に示す海上輸送時間(3日、5日、10日)に達した時点において、1個の容器から石炭灰を取り出して、固結の発生の有無を目視で評価した。評価は、固結が発生したもの(石炭灰中に、ダマとなった石炭灰が一つでもあるもの)を「あり」とし、固結が発生しなかったものを「なし」とした。
なお、加湿石炭灰をプラスチック板上に取り出した後、ハンドスコップを用いて容器に投入する作業は、石炭灰の船舶への積み込み方法、及び、石炭灰の船舶からの積み下ろし方法において、実際に行われる作業(床の上に積み上げられた加湿石炭灰を、トラクターショベルでベルトコンベアのホッパーに投入する作業や、船内から加湿石炭灰をバケットでの積み下ろす作業)を模擬したものである。
結果を表3に示す。
【0017】
【0018】
表3から、実施例7~12(石炭灰中の水分の含有率:8~15質量%)では、石炭灰の海上輸送時間が10日間であっても、石炭灰の固結が起こらないことがわかる。なお、実施例7~9を比較すると、実施例7の加湿石炭灰(水分の含有率:8質量%)に比べて、実施例8~9の加湿石炭灰(水分の含有率:10~15質量%)の方が、ハンドスコップを用いて円筒形のポリエチレン製容器に投入する際の作業性(特に、プラスチック板上の加湿石炭灰が少なくなったときに、ハンドスコップで加湿石炭灰を、板上に残存させずにすくい上げることができる作業性)が良好であった。
一方、比較例5~8(石炭灰中の水分の含有率:18質量%)では、石炭灰の海上輸送時間が3日間であれば固結は起こらないものの、海上輸送が5日間以上になると、石炭灰の固結が起こることがわかる。
【0019】
[比較例9]
比較例5で得られた加湿石炭灰(石炭灰1を使用し、水分の含有率が18質量%であるもの)を、実施例7と同様にして容器に投入し、陸上の屋内で保管した。10日間経過後、容器から石炭灰を取り出して、固結の発生の有無を目視で評価したが、固結は発生していなかった。なお、室内温度は、実施例7~12、比較例5~8における船内温度と同程度になるようにした。
このことから、水分の含有率が18質量%である加湿石炭灰は、陸上であれば、10日間経過しても、固結が起こらないことがわかる。