(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】肌用接着剤ならびに接着剤の接着力強化剤および残存性低下剤
(51)【国際特許分類】
C09J 103/02 20060101AFI20240229BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240229BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20240229BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C09J103/02
C09J11/06
C09J11/08
C09J133/00
(21)【出願番号】P 2019189955
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】萬代 由莉恵
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0121873(US,A1)
【文献】特表2002-515925(JP,A)
【文献】特表2000-511580(JP,A)
【文献】特開平10-130598(JP,A)
【文献】特開2017-031360(JP,A)
【文献】特開2018-053131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 103/02
C09J 11/06
C09J 11/08
C09J 133/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分とする、肌用接着剤;
単糖が1~10質量%、
二糖が6~21質量%、
三糖が7~12質量%、
四糖が5~10質量%、
五糖以上が64~81質量%。
【請求項2】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分とする、接着剤の接着力を強化する剤;
単糖が1~10質量%、
二糖が6~21質量%、
三糖が7~12質量%、
四糖が5~10質量%、
五糖以上が64~81質量%。
【請求項3】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分とする、接着剤の残存性を低下させる剤;
単糖が1~10質量%、
二糖が6~21質量%、
三糖が7~12質量%、
四糖が5~10質量%、
五糖以上が64~81質量%。
【請求項4】
前記接着剤が肌用接着剤である、請求項
2または請求項3に記載の剤。
【請求項5】
前記接着剤がアクリル樹脂を含有する接着剤である、請求項
2~4のいずれかに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の還元水飴を有効成分とする、肌用接着剤ならびに接着剤の接着力強化剤および残存性低下剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肌を接着対象とする接着剤には、付け睫毛用接着剤や二重瞼形成用接着剤、いびきや鼻詰まりの予防を目的とする鼻腔拡張テープや口閉じテープに用いられる接着剤などが存在する。従来、これらの製品には、接着成分により肌に炎症が起きたり、製品使用後も肌に接着成分が残存し、使用感を損なうといった課題があった。このため、肌に低刺激で安全性が高く、接着成分の残存性が小さい肌用接着剤が求められている。
【0003】
この点、特許文献1には、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンとラテックスまたは合成樹脂エマルジョンとを含有する、皮膚刺激性の弱い付け睫毛用接着剤が開示されている。また、特許文献2には、アクリル酸アルキル共重合体エマルションを配合し、粘着性や肌への付着性、耐水性、使用感に優れ、天然ゴムラテックスのようなアレルギー性の心配もない化粧料用接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-118384号公報
【文献】特開2015-199695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献に記載の接着剤はいずれも、肌への接着成分の残存性については不明である。すなわち、これら特許文献を鑑みても、安全性および接着力を備え、かつ肌への残存性が小さい肌用接着剤は十分に供給されている状況ではない。
【0006】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、安全性および接着力を備え、かつ肌への残存性が小さい肌用接着剤を提供することを目的とする。また、接着剤の接着力を強化できる剤、接着剤の接着対象への残存性を低下できる剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%である糖組成からなる還元水飴、または、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴が、肌を対象として優れた接着力を発揮し、かつ、肌への残存性が小さいことを見出した。また、当該還元水飴が、既存の接着剤の接着力を強化できること見出した。さらに、当該還元水飴が、既存の接着剤の接着対象への残存性を低下できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る肌用接着剤の第1の態様は、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成である還元水飴を有効成分とする。
【0009】
(2)本発明に係る肌用接着剤の第2の態様は、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0010】
(3)本発明に係る接着剤の接着力を強化する剤(本明細書においては「接着力強化剤」という場合がある。)の第1の態様は、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成である還元水飴を有効成分とする。
【0011】
(4)本発明に係る接着剤の接着力を強化する剤の第2の態様は、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0012】
(5)本発明に係る接着剤の残存性を低下させる剤(本明細書においては「残存性低下剤」という場合がある。)の第1の態様は、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成である還元水飴を有効成分とする。
【0013】
(6)本発明に係る接着剤の残存性を低下させる剤の第2の態様は、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0014】
(7)本発明に係る接着力強化剤または残存性低下剤において、前記接着剤は、肌用接着剤であってもよい。
【0015】
(8)本発明に係る接着力強化剤または残存性低下剤において、前記接着剤は、アクリル樹脂を含有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
有効成分である還元水飴は、食用できるほど安全性が高い。よって、本発明の肌用接着剤によれば、接着力、低い残存性および安全性を兼ね備えた肌用接着剤を得ることができる。また、本発明の接着力強化剤によれば、還元水飴という安全な成分により、接着剤の接着力を強化することができる。また、本発明の残存性低下剤によれば、還元水飴という安全な成分により、接着剤の接着対象への残存性を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】各種の還元水飴の接着力を示す棒グラフである。
【
図2】低糖化還元水飴(エスイー100)の添加割合と接着力との関係を示す折れ線グラフである。
【
図3】各種還元水飴を着色して肌に塗布し、剥離した前後の様子を示す写真である。
【
図4】各種還元水飴を着色して肌に塗布し、剥離した後の肌への残存率を示す棒グラフである。
【
図5】各種の還元水飴を添加した市販接着剤を着色して肌に塗布し、剥離した前後の様子を示す写真である。
【
図6】各種の還元水飴を添加した市販接着剤を着色して肌に塗布し、剥離した後の、肌への残存率を示す棒グラフである。
【
図7】異なる割合で低糖化還元水飴(エスイー100)を添加した市販接着剤を着色して肌に塗布し、剥離した前後の様子を示す写真である。
【
図8】低糖化還元水飴(エスイー100)の添加割合と肌への残存率との関係を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、「肌」は、ヒトや動物の体の表面を覆う皮膚のうち、外界に接している層(表皮)の表面を指す。
【0019】
肌用接着剤は、接着剤のうち、肌と対象物とを接着させるために用いられるものをいう。ここで、肌に接着させる対象物は、肌であってもよく、肌以外の物であってもよい。肌用接着剤として、より具体的には、上述したような、付け睫毛を瞼に接着させるための接着剤や、二重瞼を形成するための接着剤、鼻腔拡張テープや口閉じテープ、ボディシールに用いられる接着剤、ラメやホログラム、スパンコールなどの装飾物を肌に貼るための接着剤、絆創膏や医療用テープに用いられる接着剤を例示することができる。
【0020】
接着剤の接着力とは、2以上の対象物を当該接着剤が媒介して接着させている場合の接着の強さをいう。接着力は、接着している2以上の対象物を分離するために必要な力(荷重)を測定することにより、測ることができる。
【0021】
接着剤の残存性とは、当該接着剤が媒介して接着させた2以上の対象物を分離した場合に、分離した一方または双方の対象物における接着剤の残存のしやすさをいう。すなわち、接着剤の肌への残存性とは、肌における接着剤の残存のしやすさをいう。
【0022】
残存性は、分離した対象物に付着した接着剤の量(残存量)を測定することにより、測ることができる。また、分離した対象物に付着した接着剤に対して、除去操作(こする、水などの溶媒を用いて洗浄するなど)を行った場合の除去のしやすさにより測ることもできる。すなわち、分離した対象物に付着した接着剤の量(残存量)が小さい場合は、当該接着剤は、残存性が小さいといえる。あるいは、分離した対象物に付着した接着剤が容易に除去できる場合は、当該接着剤は、残存性が小さいといえる。
【0023】
本発明に係る肌用接着剤、接着力強化剤および残存性低下剤は、いずれも、下記の還元水飴を有効成分とする:
第1の態様;単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成である還元水飴。
第2の態様;デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴。
【0024】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、水飴はデンプンを酸や酵素などで糖化して得られるものであり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴も、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。本発明が有効成分とする還元水飴は、原料とする水飴の糖化の程度が比較的低い、低糖化還元水飴である。
【0025】
本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0026】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴や水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0027】
水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0028】
本発明の第2の態様の還元水飴は、DEが26未満の水飴を還元してなる還元水飴である。接着力をより向上させる観点、あるいは、残存性をより小さくする観点から、DEが、25以下、1以上25以下、5以上20以下、8以上20以下、10以上20以下の水飴の還元物であってもよい。
【0029】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0030】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0031】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0032】
本発明に係る肌用接着剤において、還元水飴は、液体の形態で用いることが好ましい。また、肌用接着剤における還元水飴の固形分濃度は、接着力を高くする観点から、40質量%以上が好ましく、45質量%以上、50質量%以上、55質量%以上または60質量%以上70質量%以下がより好ましい。
【0033】
肌用接着剤は、肌または対象物(肌に接着させたいもの)に塗布することにより用いる。塗布する方法は、指で塗るほか、刷毛やローラーブラシなどの道具を用いる方法、エアスプレー、ロールコーティングなど、対象物に応じて当業者に公知の手法を用いることができる。塗布する量やオープンタイム(接着剤を一方または両方の対象に塗布してから、それらを貼り合わせるまでの放置時間)もまた、対象物や作業環境に応じて適宜設定することができる。
【0034】
本発明に係る肌用接着剤には、その特徴を損なわない範囲内で、溶媒や樹脂成分、顔料、防腐剤、粘度調整剤、増量剤、安定剤、防かび剤などを配合して用いてもよい。溶媒としては、水のほか、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、イソペンタン、メチルペンタンなどの脂肪族炭化水素、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が例示される。また、樹脂成分としては、でん粉糊やエチレン-酢酸ビニル系接着剤、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-オレフィン系共重合体樹脂、アイオノマー系樹脂、オレフィン-αオレフィン系共重合体樹脂などが例示される。また、顔料としては、例えば、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラックなどの無機顔料、イソインドリノン、ハンザイエローA、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、アニリンブラックなどの有機顔料(染料も含む)、アルミニウム、真鍮などの金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料などが例示される。防腐剤としては、ピリジン系、イミダゾール系、ベンズイミダゾール系、トリアジン系、トリアゾール系、チアゾール系、ベンズチアゾール系、イソチアゾリン系などの含窒素複素環化合物のほか、第4級アンモニウム塩類、フェノール類、アルコール類、カルボン酸又はその塩・エステル類などの有機系防腐剤や、重金属イオンを含有する無機物(銀イオン含有物など)やその塩類などの無機系防腐剤、これらの混合物などが例示される。粘度調整剤としては、例えば、アルミナ、シリカ、アエロジル、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、ベントナイト、硫酸バリウムなどの無機充填剤や、アクリル、ウレタン、ナイロン、ポリプロピレン、尿素系樹脂などからなる有機充填剤、スチレン架橋フィラー、ベンゾグアナミン架橋フィラーなどが例示される。
【0035】
接着力強化剤または残存性低下剤は、接着剤に添加(混合)して用いる。この場合の還元水飴の添加割合(混合割合)は、還元水飴が固形分濃度70%(w/w)の液体であった場合は、添加後の全体量を100%(w)として、0%(w/w)超40%(w/w)未満が好ましく、0%(w/w)超39%(w/w)以下、0%(w/w)超38%(w/w)以下または0%(w/w)超37%(w/w)以下がより好ましく、1%(w/w)以上36%(w/w)以下または2%(w/w)以上35%(w/w)以下がさらに好ましい。すなわち、還元水飴の最終濃度が、好ましくは0%(w/w)超28%(w/w)未満、より好ましくは0%(w/w)超27.3%(w/w)以下、0%(w/w)超26.6%(w/w)以下または0%(w/w)超25.9%(w/w)以下、さらに好ましくは0.7%(w/w)以上25.2%(w/w)以下または1.4%(w/w)以上24.5%(w/w)以下となるように、添加(混合)して用いることが好ましい。
【0036】
接着力強化剤または残存性低下剤を適用する接着剤は特に限定されず、既存の接着成分を含有する接着剤に用いることができる。例えば、有効成分である還元水飴の高い安全性に鑑みれば、高い安全性が求められる用途の接着剤、すなわち、肌用接着剤や玩具用接着剤、食用接着剤、食品包装用接着剤に好適に用いることができる。
【0037】
接着力強化剤または残存性低下剤を適用する接着剤の含有成分(接着成分)もまた、特に限定されず、既存の接着剤に一般的に含有される成分を例示することができる。そのような含有成分として、より具体的には、例えば、でん粉糊やエチレン-酢酸ビニル系接着剤、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-オレフィン系共重合体樹脂、アイオノマー系樹脂、オレフィン-αオレフィン系共重合体樹脂などを例示することができる。
【0038】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0039】
<試料>
接着剤として、表1に示す5種の市販の糖質(固形分濃度70%(w/w)±約2%(w/w)の液体)および市販の付け睫毛・二重瞼用のり(アクリル樹脂系)を用いた。
【表1】
【0040】
<実施例1>接着力の評価
1cmにカットしたつけまつげ(MBEL-006、ウエルネスボーテ)の基部に、表1の試料[1]~[5]を塗布して上腕内側に貼付けた。10分間静置した後、つけまつげの一端(貼付け部と逆側の端部)を試験機(クリープメータ;RE2-33005B(山電))のつかみに取り付けて、0.1mm/秒の引っ張り速度で引っ張った。このときの荷重を測定して荷重曲線をグラフに描いた。荷重曲線グラフの波状部の各頂点の平均値を求め、これを「接着力」とした。以上の試験を3回行い、[1]~[5]の各試料ごとに接着力の平均値を求めた。その結果を
図1に示す。
【0041】
図1に示すように、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)の接着力が顕著に大きかった。この結果から、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成の還元水飴、あるいはデキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴は、肌に対して高い接着性を有することが明らかになった。
【0042】
<実施例2>低糖化還元水飴による接着力向上効果の評価
試料[6]の市販接着剤に、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)を0%(w/w)、20%(w/w)、40%(w/w)または80%(w/w)となるよう混合した。これらについて、実施例1に記載の方法により接着力を測定した。その結果を
図2に示す。
【0043】
図2に示すように、低糖化還元水飴の添加割合が20%(w/w)の接着剤は、添加しないもの(0%(w/w))と比較して接着力が顕著に大きかった。一方、低糖化還元水飴の添加割合が40%(w/w)および80%(w/w)の接着剤は、添加しないもの(0%(w/w))と比較して接着力が小さかった。この結果から、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成の還元水飴、あるいは、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴(固形分濃度70%(w/w)±約2%(w/w)の液体)を0%(w/w)超40%(w/w)未満の割合で市販接着剤に添加することにより、接着力を強化できることが明らかになった。
【0044】
<実施例3>残存性の評価
5%(w/w)食用色素(赤、共立食品)水溶液を、表1の試料[1]~[6]に終濃度0.5%(w/w)となるよう加えて着色接着剤を調製した。上腕内側に1cm×1cmの正方形の枠を設定し、当該枠内に着色接着剤20μ?を均一に塗布した。40分間静置した後、塗布領域全体を完全に覆うようにセロハンテープを貼り、すぐに剥離した。剥離前後の塗布領域を、色見本(日塗工番号K07-60T、日本塗料工業会色見本帳2019年)とともに撮影した。撮影した写真を
図3に示す。
【0045】
続いて、Photoshop CC 2017(アドビシステムズ)を用いて下記(i)-(vi)の手順により、写真における同色のピクセル数を求め、着色接着剤の肌への残存率を算出した。以上の試験を4回行い、各試料ごとに残存率の平均値を求めた。その結果を表2および
図4に示す。
≪残存率の算出手順≫
(i)マグネット選択ツールで塗布領域を囲み、ヒストグラム中の全ピクセル(枠内ピクセル数)を出した。
(ii)自動選択ツールで色見本を選択(許容値40)し、全ピクセル(色見本ピクセル数)を出した。
(iii)選択範囲→色域指定で色見本を選択(許容値130)し、全ピクセル(写真中の全赤色ピクセル数)を出した。
(iv)次式1により、着色面積を算出した。式1:着色面積=(写真中の全赤色ピクセル数(iii))-(色見本ピクセル数(ii))
(v)次式2により、着色面積割合を算出した。式2:着色面積割合=(着色面積(iv))/(枠内ピクセル数(i))
(vi)次式3により、残存率を算出した。式3:残存率(%)={(剥離後における着色面積割合(v))/(剥離前における着色面積割合(v))}×100
【0046】
また、セロハンテープ剥離後の塗布領域を水洗いし、着色接着剤の落ち易さを3段階(×:肌に残る。△:一部肌に残る。〇:完全に落ちる。)で評価した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
表2、
図3および
図4に示すように、試料試料[1]~[4]の還元水飴および試料[6]の市販接着剤と比較して、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)の残存率が顕著に小さかった。また、試料[6]の市販接着剤は、水洗い時の落ち易さが×であったのに対して、試料試料[1]~[5]の還元水飴はいずれも、水洗い時の落ち易さが〇であった。すなわち、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)は肌に残りにくく、かつ、水洗いにより落ち易いことが明らかになった。この結果から、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成の還元水飴、あるいは、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴は、肌への残存性が小さいことが明らかになった。
【0048】
<実施例4>各種の還元水飴による残存性低下効果の評価
試料[6]の市販接着剤に、試料[1]~[5]の還元水飴を0%(w/w)または20%(w/w)となるよう混合した。これらについて、実施例3に記載の方法により残存率を測定した。ただし、塗布量は20μLに代えて10μLとし、乾燥時間は40分間に代えて30分間とした。セロハンテープ剥離前後の写真を
図5に、残存率を
図6に、それぞれ示す。
【0049】
図5および
図6に示すように、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)を添加したものは、添加しないものと比較して残存率が低下した。この結果から、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成の還元水飴、あるいは、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴を市販接着剤に添加することにより、肌への残存性を低下させられることが明らかになった。
【0050】
<実施例5>低糖化還元水飴による残存性低下効果の評価
試料[6]の市販接着剤に、試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)を0%(w/w)、20%(w/w)、40%(w/w)または80%(w/w)となるよう混合した。これらと試料[5]の低糖化還元水飴(エスイー100)(100%)とについて、実施例3に記載の方法により残存率を測定した。ただし、塗布量は20μLに代えて10μLとし、乾燥時間は40分間に代えて30分間とした。セロハンテープ剥離前後の写真を
図7に、残存率を
図8に、それぞれ示す。
【0051】
また、セロハンテープ剥離後の塗布領域を指でこすり落として、着色接着剤の剥がれ易さを4段階(×:肌に残る。△:一部肌に残る。〇:完全に剥がせる。◎:完全かつ簡単に剥がせる。)で評価した。その結果を表3に示す。
【表3】
【0052】
表3、
図7および
図8に示すように、低糖化還元水飴の添加割合が20%(w/w)、40%(w/w)および80%(w/w)の接着剤は、いずれも、添加しないもの(0%(w/w))と比較して残存率が小さかった。特に、添加割合が20%(w/w)の接着剤の残存率が、顕著に小さかった。また、低糖化還元水飴を添加しない市販接着剤は、こすり落とした時の剥がれ易さが△であったのに対して、添加したものはいずれも、剥がれ易さが◎であった。この結果から、単糖が1~10質量%、二糖が6~21質量%、三糖が7~12質量%、四糖が5~10質量%および五糖以上が64~81質量%の糖組成の還元水飴、あるいは、デキストロース当量が26未満の水飴を還元してなる還元水飴を市販接着剤に添加することにより、その添加割合に関わらず、肌への残存性を低下させられることが明らかになった。また、市販接着剤への当該還元水飴(固形分濃度70%(w/w)±約2%(w/w)の液体)の添加割合を0%(w/w)超40%(w/w)未満とすると、当該残存性の低下効果が顕著に大きくなることが明らかになった。