(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】水酸化マグネシウムの製造システム
(51)【国際特許分類】
C01F 5/22 20060101AFI20240229BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20240229BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20240229BHJP
B01D 19/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C01F5/22
C02F1/58 J
C02F1/20 A
B01D19/00 F
(21)【出願番号】P 2020001482
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】上戸 龍
(72)【発明者】
【氏名】兼田 慎平
(72)【発明者】
【氏名】清澤 正志
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-164809(JP,A)
【文献】特開2004-345912(JP,A)
【文献】特開2011-073951(JP,A)
【文献】窯業協会誌,1952年,Vol.06,No.676,p429-435
【文献】日本海水学会誌,1997年,第51巻、第6号,p348-357
【文献】日本塩学会誌,1951年,第5巻、第1号,p26-37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 5/14 - 5/22
C02F 1/58
C02F 1/20
B01D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成部と、
前記生成部に接続された回収部と、を備え、
前記生成部は、マグネシウムイオンを含む被処理水に水酸化カルシウムスラリーを加えて水酸化マグネシウムを晶析させ、水酸化マグネシウムの粒子を含む反応スラリーを得る反応槽と、
前記反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、高濃度で前記粒子を含む分離スラリーと、低濃度で前記粒子を含む分離液とに分離する沈降槽と、を有し、
前記回収部は、前記分離液にアルカリ水溶液を加えて水酸化マグネシウムを晶析させ前記反応スラリーを得た後、前記反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、沈降した前記粒子を回収する水酸化マグネシウムの製造システム。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である請求項1に記載の水酸化マグネシウムの製造システム。
【請求項3】
前記反応槽は、第1反応槽と第2反応槽とを含み、
前記沈降槽は、第1沈降槽と第2沈降槽とを含み、
前記第1反応槽は、前記被処理水に前記水酸化カルシウムスラリーを加え、前記粒子を含む第1反応スラリーを生成させ、
前記第1沈降槽は、前記第1反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、高濃度で前記粒子を含む第1分離スラリーと、低濃度で前記粒子を含む第1分離液とに分離し、
前記第2反応槽は、前記第1分離液に前記水酸化カルシウムスラリーを加え、前記粒子を含む第2反応スラリーを生成させ、
前記第2沈降槽は、前記第2反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、高濃度で前記粒子を含む第2分離スラリーと、低濃度で前記粒子を含む第2分離液とに分離し、
前記回収部は、前記分離液として前記第2分離液に前記アルカリ水溶液を加える請求項1または2に記載の水酸化マグネシウムの製造システム。
【請求項4】
前記生成部に先立って、前記被処理水から少なくとも一部の炭酸を除去する脱炭酸部を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウムの製造システム。
【請求項5】
前記分離液に含まれる前記マグネシウムイオンの濃度に基づいて、前記分離液に加える前記アルカリ水溶液の量を制御する制御部を有する請求項1から4のいずれか1項に記載の水酸化マグネシウムの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水酸化マグネシウムの製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水に溶解したマグネシウムを得る方法として、海水に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のスラリーを添加し、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を晶析する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記反応では、海水に含まれるマグネシウムイオン(Mg2+)がCa(OH)2に由来する水酸化物イオン(OH-)と反応することで、Mg(OH)2が生じる。Mg(OH)2は、水に対する溶解度が9.8mg/100cm3(@18℃)と小さいため、Mg(OH)2が生じた反応液は、Mg(OH)2が分散したスラリーとなる。以下の説明では、マグネシウムイオンが溶解した溶液を晶析させることによりMg(OH)2が生じたスラリーを「反応スラリー」と称することがある。
【0004】
反応スラリーでは、Mg(OH)2が沈降することで深さ方向にMg(OH)2の濃度差が生じる。そのため、Mg(OH)2を沈降させる槽にて反応スラリーを貯留し、相対的にMg(OH)2の含有量が少ない上層と、相対的にMg(OH)2の含有量が多い下層とを分離することで、Mg(OH)2を回収することができる。以下の説明では、Mg(OH)2を沈降させる槽を、「沈降槽」と称することがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】日本海水学会誌、第51巻、第6号(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記反応においては、海水に含まれるMg2+量に対し、等量を超えるOH-を反応させると、Mg2+と等量のOH-が反応して生じるMg(OH)2の沈降速度よりも、反応スラリーにおけるMg(OH)2の沈降速度が低下することが知られている。Mg(OH)2の沈降速度が低下すると、Mg(OH)2の沈降を待つ待機時間が必要となり、生産効率が低下する。この場合、単位時間あたりのMg(OH)2の生産量を一定量以上確保しようとすると、沈降槽の底面積を大きくし、設備の設置面積を大きくする必要が生じる。そのため、添加するOH-量は、できるだけ正確な制御が求められる。
【0007】
以下の説明においても、Mg(OH)2の沈降速度を論ずる場合、Mg2+と等量のOH-が反応して生じるMg(OH)2の沈降速度を基準とし、基準よりも沈降速度が遅くなることを「沈降速度が低下する」と表現する。
【0008】
一方、上記反応においては、通常、OH-源として、コスト競争力に優れるCa(OH)2が用いられる。しかし、Ca(OH)2は、水に対する溶解度が0.16g/100cm3(@20℃)と難溶であることから、一般にはスラリー状態で添加する。そのため、Ca(OH)2を用いる従来の方法では、OH-の添加量の正確な制御が困難だった。
【0009】
なお、上記説明では、マグネシウムを回収する対象が海水であることとして説明したが、マグネシウムが溶解したその他の水溶液からマグネシウムを回収する場合であっても、同様の課題が生じる。
【0010】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであって、水酸化物イオンの添加量の制御が容易であり、生産効率を向上させることが可能な水酸化マグネシウムの製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本開示に係る水酸化マグネシウムの製造システムは、生成部と、前記生成部に接続された回収部と、を備え、前記生成部は、マグネシウムイオンを含む被処理水に水酸化カルシウムスラリーを加えて水酸化マグネシウムを晶析させ、水酸化マグネシウムの粒子を含む反応スラリーを得る反応槽と、前記反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、高濃度で前記粒子を含む分離スラリーと、低濃度で前記粒子を含む分離液とに分離する沈降槽と、を有し、前記回収部は、前記分離液にアルカリ水溶液を加えて水酸化マグネシウムを晶析させ前記反応スラリーを得た後、前記反応スラリーを貯留して前記粒子を沈降させ、沈降した前記粒子を回収する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、水酸化物イオンの添加量の制御が容易であり、生産効率を向上させることが可能な水酸化マグネシウムの製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る水酸化マグネシウムの製造システムの説明図である。
【
図2】
図2は、本開示の第2実施形態に係る水酸化マグネシウムの製造システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
以下、
図1を参照しながら、本開示の第1実施形態に係る水酸化マグネシウムの製造システムについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0015】
図1は、本開示の第1実施形態に係る水酸化マグネシウムの製造システムの説明図である。水酸化マグネシウムの製造システム1は、生成部10と、回収部20と、検出部41と、制御部42と、脱炭酸部60とを有している。
【0016】
(脱炭酸部)
脱炭酸部60は、生成部10の上流側において生成部10と接続されている。脱炭酸部60は、生成部10に供給される被処理水L1に溶解する炭酸の少なくとも一部を除去する。
【0017】
被処理水は、マグネシウムイオンを含む水溶液である。被処理水としては、海水や工業排水を挙げることができる。海水には、海水から水を除去して濃縮した濃縮海水も含む。濃縮海水は、例えば、海水を逆浸透膜処理し、水を分離して生じる濃縮液が該当する。
【0018】
さらに、被処理水は、被処理水に脱炭酸処理を施し、炭酸を低減させた液も含む。
【0019】
脱炭酸部60は、公知の構成を採用することができる。水酸化マグネシウムの製造システム1は、脱炭酸部60として、脱炭酸塔61と、貯留槽62と、供給装置63とを有する。
【0020】
脱炭酸塔61は、被処理水L1に曝気することで被処理水L1に含まれる炭酸を除去する。
【0021】
貯留槽62は、被処理水L1に加える酸Aを貯留する。酸Aとしては、例えば塩酸又は硫酸を用いることができる。
【0022】
供給装置63は、配管P600を介して貯留槽62から被処理水L1に酸Aを供給する。
図1では、配管P600は、配管P1に接続されている。被処理水L1は、配管P1の内部において、pH=4程度の酸性に調整される。
【0023】
脱炭酸部60では、供給装置63を用いて被処理水L1に酸Aを加えた後、被処理水L1に曝気することで、被処理水L1に含まれる炭酸を除去する。被処理水L1を脱炭酸することで、工程内で炭酸塩が生成し難くなり、水酸化マグネシウムの製造システム1を長期間安定して運転させることができる。
【0024】
脱炭酸部60には配管P1と配管P61とが接続されている。脱炭酸部60には、配管P1を介して被処理水L1が供給される。また、脱炭酸部60で脱炭酸処理された被処理水(被処理水L61)は、配管P61を介して生成部10に供給される。
【0025】
(生成部)
生成部10は、反応槽11と、沈降槽12とを有する。生成部10は、被処理水に水酸化カルシウムスラリーを加えてMg(OH)2を晶析させる。さらに、生成部10は、Mg(OH)2の粒子を含むスラリー(反応スラリー)を、高濃度でMg(OH)2の粒子を含む分離スラリーと、低濃度でMg(OH)2の粒子を含む分離液とに分離する。
【0026】
(反応槽)
反応槽11は、貯留槽13と供給装置14とを有する。
反応槽11は、被処理水L61に水酸化カルシウムスラリーBを加え、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL2を生成する。
【0027】
貯留槽13は、被処理水L61に加える水酸化カルシウムスラリーBを貯留する。
【0028】
供給装置14は、配管P100を介して貯留槽13から被処理水L61に水酸化カルシウムスラリーBを供給する。
【0029】
供給装置14による水酸化カルシウムスラリーBの供給量は、被処理水L1に含まれるMg2+の濃度に応じて予め設定しておく。例えば、被処理水L1に含まれるMg2+の濃度を別途測定し、測定されたMg2+量に対し、等量未満のOH-量となる水酸化カルシウムスラリーBを供給する。
【0030】
被処理水L1に含まれるマグネシウムイオン濃度の変動が大きい場合、反応槽11では、被処理水L1に含まれるマグネシウムイオン濃度を、定期的または連続的に測定し、測定結果に基づいて水酸化カルシウムスラリーBの供給量を調整してもよい。
【0031】
また、被処理水L1に含まれるマグネシウムイオン濃度の変動が小さい場合、反応槽11では、被処理水L1に含まれるマグネシウムイオン濃度を固定値として、水酸化カルシウムスラリーBの供給量を設定してもよい。その場合、例えばマグネシウムイオン濃度として想定される最小値を上記固定値として、当該固定値のMg2+量に対し、等量未満のOH-量となる水酸化カルシウムスラリーBを供給するとよい。
【0032】
上述のように反応槽11における水酸化カルシウムスラリーBの供給量を制御することにより、生じる反応スラリーL2に含まれるMg(OH)2の粒子の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0033】
(沈降槽)
沈降槽12は、配管P2を介して反応槽11と接続されている。反応槽11で生じた反応スラリーL2は、配管P2を介して沈降槽12に供給される。
【0034】
沈降槽12は、反応スラリーL2を貯留してMg(OH)2の粒子を沈降させる。沈降槽12では、反応スラリーL2を、高濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる分離スラリーS1と、低濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる分離液L3とに分離する。
【0035】
分離スラリーS1は、例えば沈降槽12の底部から抜き出される。分離スラリーS1は、別途Mg(OH)2の粒子と水とに分離される。これにより、目的物であるMg(OH)2が得られる。
【0036】
(回収部)
回収部20は、配管P3を介して沈降槽12と接続されている。沈降槽12で生じた分離液L3は、配管P3を介して回収部20に供給される。
【0037】
回収部20は、回収反応槽21と、回収沈降槽22とを有する。回収部20は、分離液L3にアルカリ水溶液を加えてMg(OH)2を晶析させ、反応スラリーL4を得る。さらに、回収部20は、反応スラリーL4を貯留してMg(OH)2の粒子を沈降させ、高濃度でMg(OH)2の粒子を含む分離スラリーS2と、低濃度でMg(OH)2の粒子を含む廃液Wとに分離し、分離スラリーS2に含まれるMg(OH)2の粒子を回収する。
【0038】
(回収反応槽)
回収反応槽21は、貯留槽23と供給装置24とを有する。
回収反応槽21は、分離液L3にアルカリ水溶液Cを加え、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL4を生成する。
【0039】
貯留槽23は、分離液L3に加えるアルカリ水溶液Cを貯留する。アルカリ水溶液Cの濃度は、予め測定しておく。
【0040】
アルカリ水溶液Cとしては、水に溶解することでアルカリ性を呈する無機塩の水溶液を用いることができる。例えば、アルカリ水溶液として、水酸化カルシウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム水溶液の少なくとも1種を用いることができる。
アルカリ水溶液Cとして水酸化カルシウム水溶液を用いると、薬品コストを低減することができる。
【0041】
一方、工業的に用いられる水酸化カルシウムは、石灰石を熱分解し、得られる酸化カルシウムを水和させて得られるため、原料である石灰石に由来する金属不純物が含まれる。これに対し、水酸化ナトリウムは、工業的に用いられる水酸化カルシウムよりも金属不純物が少ない(高純度の)物質を用意しやすい。そのため、アルカリ水溶液Cとして水酸化ナトリウム水溶液を用いると、水酸化カルシウム水溶液を用いるよりも、高純度のMg(OH)2の粒子を得られやすい。
【0042】
すなわち、アルカリ水溶液Cとして水酸化ナトリウム水溶液を用いると、回収反応槽21で生成するMg(OH)2を、反応槽11で生成するMg(OH)2よりも高純度とすることができる。
【0043】
また、水酸化カルシウムの水に対する溶解度は、0.16g/100cm3(@20℃)である。一方、水酸化ナトリウムの水に対する溶解度は、111g/100cm3(@20℃)である。そのため、水酸化ナトリウム水溶液は、相対的に水酸化カルシウム水溶液よりも高濃度溶液とすることができる。
【0044】
これにより、アルカリ水溶液Cとして水酸化ナトリウム水溶液を用いると、アルカリ水溶液Cとして水酸化カルシウム水溶液を用いる場合と比べ、相対的に貯留槽23や供給装置24を小型化することが可能となり、設備設置や維持管理の負担が軽減される。
【0045】
供給装置24は、配管P200を介して貯留槽23から分離液L3にアルカリ水溶液Cを供給する。
【0046】
また、回収反応槽21は、検出部41と制御部42とを有してもよい。
検出部41は、分離液L3に含まれるMg2+の濃度を検出する。検出部41としては、例えば公知の装置を用いることができる。検出部41は、例えば配管P4に設けられたバイパスP31に設けるとよい。
【0047】
制御部42は、検出部41の検出結果に基づいて供給装置24の運転条件を設定し、分離液L3に加えるアルカリ水溶液Cの量を制御する。詳しくは、制御部42は、検出部41で検出された分離液L3中のMg2+量に対し、等量未満のOH-量となるアルカリ水溶液Cを設定し、設定量のアルカリ水溶液Cが分離液L3に添加されるように供給装置24の運転条件を設定する。これにより、分離液L3に対するアルカリ水溶液Cの添加量を正確に制御可能となる。
【0048】
ここで、回収反応槽21では、濃度が既知のアルカリ水溶液Cを用いてMg(OH)2を晶析させることとしている。そのため、回収反応槽21では、分離液L3中のMg2+量に対し、等量未満のOH-量となるアルカリ水溶液Cの量を制御しやすく、分離液L3に過不足なくアルカリ水溶液Cを加えることが可能となる。
【0049】
上述のように回収反応槽21におけるアルカリ水溶液Cの供給量を制御することにより、生じる反応スラリーL4に含まれるMg(OH)2の粒子の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0050】
(回収沈降槽)
回収沈降槽22は、配管P4を介して回収反応槽21と接続されている。回収反応槽21で生じた反応スラリーL4は、配管P4を介して回収沈降槽22に供給される。
【0051】
回収沈降槽22は、反応スラリーL4を貯留してMg(OH)2の粒子を沈降させる。回収沈降槽22では、反応スラリーL4を、高濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる分離スラリーS2と、低濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる廃液Wとに分離する。
【0052】
分離スラリーS2は、例えば回収沈降槽22の底部から抜き出される。分離スラリーS2は、別途Mg(OH)2の粒子と水とに分離される。これにより、分離液L3から目的物であるMg(OH)2を回収する。
【0053】
(作用効果)
以上のような構成の水酸化マグネシウムの製造システム1では、被処理水L1に対して、水酸化カルシウムスラリーBを加えて晶析し、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL2を生成している。また、反応スラリーL2から分離された分離液L3に対して、アルカリ水溶液Cを加えて晶析し、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL4を生成している。このように被処理水L1から多段でMg(OH)2を晶析させることで、Mg2+量に対し等量未満のOH-量を反応させやすく、生じるMg(OH)2の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0054】
従って、以上のような構成の水酸化マグネシウムの製造システム1によれば、水酸化物イオンの添加量の制御が容易であり、過不足なくOH-とマグネシウムイオンとを反応させることで生産効率を向上させることが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態においては、検出部41をバイパスP31に設けることとしているが、これに限らない。分離液L3に含まれるMg2+量を検出可能であれば、検出部41は、インラインで濃度測定を行う構成でなくてもよい。
【0056】
また、本実施形態においては、制御部42が供給装置24の運転条件を制御することとしているが、これに限らない。被処理水L1に含まれるMg2+濃度の変動が小さく、また、回収反応槽21より上流の処理が安定した条件で行われている場合には、分離液L3に含まれるMg2+濃度も変動が少なく安定することが考えられる。このような場合には、分離液L3中のMg2+量に対し、等量未満のOH-量となるアルカリ水溶液Cの量を固定し、運転条件を設定することとしてもよい。
【0057】
また、本実施形態においては、脱炭酸部60を有することとしたが、被処理水L1に含まれる炭酸量が十分に少ないことが分かっている場合には、脱炭酸部60を省略することができる。
【0058】
[第2実施形態]
図2は、本開示の第2実施形態に係る水酸化マグネシウムの製造システムの説明図である。本実施形態の水酸化マグネシウムの製造システムは、第1実施形態の水酸化マグネシウムの製造システムと一部共通している。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0059】
水酸化マグネシウムの製造システム2は、生成部10Bとして、第1反応槽15と、第1沈降槽16と、第2反応槽17と、第2沈降槽18と、を有する。すなわち、生成部10Bの反応槽は、第1反応槽15と第2反応槽17とを含み、生成部10Bの沈降槽は、第1沈降槽16と第2沈降槽18とを含む。
【0060】
(第1反応槽)
第1反応槽15は、貯留槽13と供給装置14とを有する。第1反応槽15の構成、機能および運転方法としては、第1実施形態の反応槽11と同様とすることができる。第1反応槽15では、被処理水L61に水酸化カルシウムスラリーB1を加え、Mg(OH)2の粒子を含む第1反応スラリーL21を生成する。
【0061】
(第1沈降槽)
第1沈降槽16は、配管P21を介して第1反応槽15と接続されている。第1反応槽15で生じた第1反応スラリーL21は、配管P21を介して第1沈降槽16に供給される。
【0062】
第1沈降槽16は、第1反応スラリーL21を貯留してMg(OH)2の粒子を沈降させる。第1沈降槽16では、第1反応スラリーL21を、高濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる第1分離スラリーS11と、低濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる第1分離液L22とに分離する。
【0063】
第1分離スラリーS11は、例えば第1沈降槽16の底部から抜き出される。第1分離スラリーS11は、別途Mg(OH)2の粒子と水とに分離される。これにより、目的物であるMg(OH)2が得られる。
【0064】
(第2反応槽)
第2反応槽17は、配管P21を介して第1沈降槽16と接続されている。第1沈降槽16で生じた第1分離液L22は、配管P22を介して第2反応槽17に供給される。
【0065】
第2反応槽17は、貯留槽13と供給装置19とを有する。
第2反応槽17は、第1分離液L22に水酸化カルシウムスラリーB2を加え、Mg(OH)2の粒子を含む第2反応スラリーL23を生成する。
【0066】
供給装置19は、配管P300を介して貯留槽13から第1分離液L22に水酸化カルシウムスラリーB2を供給する。
【0067】
供給装置24による水酸化カルシウムスラリーB2の供給量は、被処理水L1に含まれるMg2+の濃度に応じて予め設定しておく。例えば、被処理水L1に含まれるMg2+の濃度を別途測定し、測定されたMg2+量に対し、等量未満のOH-量となる水酸化カルシウムスラリーB2を供給する。
【0068】
ここで、第1反応槽15および第2反応槽17においては、被処理水L1に含まれるMg2+量に対し、等量未満のOH-となるように、水酸化カルシウムスラリーB1の供給量と、水酸化カルシウムスラリーB2の供給量との合計量を設定する。水酸化カルシウムスラリーB1の供給量と、水酸化カルシウムスラリーB2の供給量との合計量は、第1実施形態の反応槽11において水酸化カルシウムスラリーBの供給量を設定した方法と同様に定めることができる。
【0069】
被処理水L1に対し、水酸化カルシウムスラリーを段階的に加えることにより、純度の異なるMg(OH)2が得られる。
【0070】
例えば、被処理水L1として海水を用いた場合、被処理水L1にはMg2+やCa2+の他、重金属成分が溶解していることが考えられる。「重金属成分」としては、例えば鉄イオンを挙げることができる。そのため、第2反応槽17で生じるMg(OH)2には、第1反応槽15で生じるMg(OH)2よりも重金属の水酸化物が少なく含まれることが想定され、相対的に高純度のMg(OH)2が得られると考えられる。
【0071】
水酸化カルシウムスラリーB1の供給量と、水酸化カルシウムスラリーB2の供給量との合計量を一定としたとき、水酸化カルシウムスラリーB2の供給量は、水酸化カルシウムスラリーB1の供給量よりも多いほうが好ましい。水酸化カルシウムスラリーB2の供給量を、水酸化カルシウムスラリーB1の供給量よりも多くすることで、第1反応槽15で生じる低純度のMg(OH)2の量を少なくすることができる。
【0072】
上述のように第2反応槽17における水酸化カルシウムスラリーB2の供給量を制御することにより、生じる反応スラリーL4に含まれるMg(OH)2の粒子の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0073】
(第2沈降槽)
第2沈降槽18は、配管P23を介して第2反応槽17と接続されている。第2反応槽17で生じた第2反応スラリーL23は、配管P23を介して第2沈降槽18に供給される。
【0074】
第2沈降槽18は、第2反応スラリーL23を貯留してMg(OH)2の粒子を沈降させる。第2沈降槽18では、第2反応スラリーL23を、高濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる第2分離スラリーS12と、低濃度でMg(OH)2の粒子が含まれる第2分離液(分離液L3)とに分離する。
【0075】
第2分離スラリーS12は、例えば第2沈降槽18の底部から抜き出される。第2分離スラリーS12は、別途Mg(OH)2の粒子と水とに分離される。これにより、目的物であるMg(OH)2が得られる。
【0076】
(回収部)
回収部20は、配管P3を介して第2沈降槽18と接続されている。第2沈降槽18で生じた分離液L3は、配管P3を介して回収部20に供給される。
【0077】
回収部20は、第1実施形態の回収部20と同様の構成とすることができる。回収部20では、分離液L3として第2沈降槽18で得られた第2分離液にアルカリ水溶液Cを加える。
【0078】
(作用効果)
以上のような構成の水酸化マグネシウムの製造システム2では、被処理水L1に対して、水酸化カルシウムスラリーを加えて晶析し、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーを生成している。また、反応スラリーL4から分離された分離液L3に対して、アルカリ水溶液Cを加えて晶析して反応スラリーL4を生成している。このように被処理水L1から多段でMg(OH)2を晶析させることで、Mg2+量に対し等量未満のOH-量を反応させやすく、生じるMg(OH)2の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0079】
さらに、水酸化マグネシウムの製造システム2では、被処理水L1に対して、水酸化カルシウムスラリーB1、B2を段階的に加えて晶析し、反応スラリーL2,L4を生成している。水酸化マグネシウムの製造システム2の上流側では、被処理水L1に含まれる重金属の水酸化物が生じやすいと考えられる。そのため、水酸化マグネシウムの製造システム2では、水酸化カルシウムスラリーB1、B2を段階的に加えることで、純度の異なるMg(OH)2を段階的に製造することができる。
【0080】
以上のような構成の水酸化マグネシウムの製造システム2であっても、水酸化物イオンの添加量の制御が容易であり、過不足なくOH-とマグネシウムイオンとを反応させることで生産効率を向上させることが可能となる。
【0081】
以上、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施の形態例について説明したが、本開示は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0082】
例えば、上記実施形態では、生成部が反応槽と沈降槽とを一組有する場合と、二組有する場合とを説明したが、これに限らない。生成部は、第2実施形態の生成部10Bの構成に加えて、さらに第3の反応槽と第3の沈降槽とを有していてもよい。
【0083】
<付記>
各実施形態に記載の水酸化マグネシウムの製造システムは、例えば以下のように把握される。
【0084】
[1]第1の態様に係る水酸化マグネシウムの製造システムは、生成部10Aと、生成部10Aに接続された回収部20と、を備え、生成部10Aは、マグネシウムイオンを含む被処理水L1に水酸化カルシウムスラリーB2を加えて水酸化マグネシウムを晶析させ、水酸化マグネシウムの粒子を含む反応スラリーL2を得る反応槽11と、反応スラリーL2を貯留して粒子を沈降させ、高濃度で前記粒子を含む分離スラリーS1と、低濃度で前記粒子を含む分離液L3とに分離する沈降槽12と、を有し、回収部20は、分離液L3にアルカリ水溶液Cを加えて水酸化マグネシウムを晶析させ反応スラリーL4を得た後、反応スラリーL4を貯留して粒子を沈降させ、沈降した粒子を回収する。
【0085】
上記態様によれば、被処理水L1に対して、水酸化カルシウムスラリーBを加えて晶析し、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL2を生成している。また、反応スラリーL2から分離された分離液L3に対して、アルカリ水溶液Cを加えて晶析し、Mg(OH)2の粒子を含む反応スラリーL4を生成している。このように被処理水L1から多段でMg(OH)2を晶析させることで、Mg2+量に対し等量未満のOH-量を反応させやすく、生じるMg(OH)2の沈降速度の低下を抑制することができる。
【0086】
従って、以上のような構成の水酸化マグネシウムの製造システム1によれば、水酸化物イオンの添加量の制御が容易であり、過不足なくOH-とマグネシウムイオンとを反応させることで生産効率を向上させることが可能となる。
【0087】
[2]第2の態様に係る水酸化マグネシウムの製造システムは、アルカリ水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である。
【0088】
上記態様によれば、回収反応槽21で生成する水酸化マグネシウムを、反応槽11で生成する水酸化マグネシウムよりも高純度とすることができる。
【0089】
[3]生成部10Bの反応槽は、第1反応槽15と第2反応槽17とを含み、沈降槽は、第1沈降槽16と第2沈降槽18とを含み、第1反応槽15は、被処理水L1に水酸化カルシウムスラリーB1を加え、水酸化マグネシウムの粒子を含む第1反応スラリーL21を生成させ、第1沈降槽16は、第1反応スラリーL21を貯留して粒子を沈降させ、高濃度で粒子を含む第1分離スラリーS11と、低濃度で粒子を含む第1分離液L22とに分離し、第2反応槽17は、第1分離液L22に水酸化カルシウムスラリーB2を加え、粒子を含む第2反応スラリーL23を生成させ、第2沈降槽18は、第2反応スラリーL23を貯留して粒子を沈降させ、高濃度で粒子を含む第2分離スラリーS12と、低濃度で粒子を含む第2分離液とに分離し、回収部20は、分離液L3として第2分離液にアルカリ水溶液Cを加える。
【0090】
上記態様によれば、被処理水L1に対し、水酸化カルシウムスラリーを段階的に加えることにより、純度の異なるMg(OH)2が得られる。
【0091】
[4]第4の態様に係る水酸化マグネシウムの製造システムは、生成部10A,10Bに先立って、被処理水L1から少なくとも一部の炭酸を除去する脱炭酸部60を有する。
【0092】
上記態様によれば、工程内で炭酸塩が生成し難くなり、水酸化マグネシウムの製造システムを長期間安定して運転させることができる。
【0093】
[5]第5の態様に係る水酸化マグネシウムの製造システムは、分離液L3に含まれるマグネシウムイオンの濃度に基づいて、分離液L3に加えるアルカリ水溶液の量を制御する制御部42を有する。
【0094】
上記態様によれば、分離液L3に対するアルカリ水溶液Cの添加量を正確に制御可能となる。
【符号の説明】
【0095】
1,2…水酸化マグネシウムの製造システム、10A,10B…生成部、11…反応槽、12…沈降槽、15…第1反応槽、16…第1沈降槽、17…第2反応槽、18…第2沈降槽、20…回収部、21…回収反応槽、22…回収沈降槽、42…制御部、60…脱炭酸部、B,B1,B2…水酸化カルシウムスラリー、C…アルカリ水溶液、L1,L61…被処理水、L2,L4…反応スラリー、L3…分離液、L21…第1反応スラリー、L22…第1分離液、L23…第2反応スラリー、S1,S2…分離スラリー、S11…第1分離スラリー、S12…第2分離スラリー、W…廃液