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特許7445444耐熱性被覆シートおよびそれに含まれる固定具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】耐熱性被覆シートおよびそれに含まれる固定具
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B32B5/02 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020014795
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021049770
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2019168148
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】幡野 修平
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 仁朗
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-084190(JP,A)
【文献】特開平04-332636(JP,A)
【文献】特開昭52-140509(JP,A)
【文献】特開2004-270127(JP,A)
【文献】特開平03-275579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に貼り付けて用いる耐熱性被覆シートであって、
繊維を含む耐熱層と、
前記耐熱層と前記基材とを接着する接着剤層と、
を有し、
前記耐熱層は厚さ方向に配置された固定具を含み、最も外側に主として無機繊維からなる無機繊維層を含み、前記耐熱層に含まれる前記繊維同士を結着する樹脂炭化物を含み、
前記樹脂炭化物の炭化度が0.70以上1.00以下である、耐熱性被覆シート。
【請求項2】
前記耐熱層が複数の層からなる、請求項1に記載の耐熱性被覆シート。
【請求項3】
前記耐熱層の外側に、さらにカバー層を有する、請求項1または2に記載の耐熱性被覆シート。
【請求項4】
前記固定具は、その表面に前記繊維と絡まる凸部および/または凹部を有するか、または前記繊維に引っかかるアンカー部を有する、請求項1~3のいずれかに記載の耐熱性被覆シート。
【請求項5】
前記固定具の母材が高融点金属からなり、前記固定具の表面がカーバイド化またはケイ素化されたために、前記固定具の表面が前記高融点金属の炭化物またはケイ素化合物からなる、請求項1~4のいずれかに記載の耐熱性被覆シート。
【請求項6】
前記高融点金属がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項5に記載の耐熱性被覆シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の耐熱性被覆シートに含まれる固定具であって、
前記耐熱層の内部にその厚さ方向に配置され、
表面に前記繊維と絡まる凸部および/または凹部を有するか、または前記繊維に引っかかるアンカー部を有する、固定具。
【請求項8】
母材が高融点金属からなり、表面がカーバイド化またはケイ素化されたために、表面が前記高融点金属の炭化物またはケイ素化合物からなる、請求項7に記載の固定具。
【請求項9】
前記高融点金属がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項8に記載の固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性被覆シートおよびそれに含まれる固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
基材が直接、高温(例えば1000℃以上)に曝されることを防ぐために、基材の表面に保護部材を貼り付ける場合があった。
【0003】
例えばロケット等の外板は、通常1300℃程度の高温に曝されるため、保護部材として耐熱タイルが貼り付けられる場合があった。そのような耐熱タイルとして、従来、特許文献1,2に記載の耐熱タイルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-97099号公報
【文献】特開平6-255597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載のような耐熱タイルを外板に付ける場合、使用時等に耐熱タイルが飛散、脱落してしまわないように、1つ1つのタイルをつなぎ合わせたり、タイルを基材にボルトで付けたりする必要があるため、施工が容易ではなかった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は施工性が高い耐熱性被覆シートおよびそれに含まれる固定具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(9)である。
(1)基材の表面に貼り付けて用いる耐熱性被覆シートであって、
繊維を含む耐熱層と、
前記耐熱層と前記基材とを接着する接着剤層と、
を有し、
前記耐熱層は厚さ方向に配置された固定具を含み、最も外側に主として無機繊維からなる無機繊維層を含む、耐熱性被覆シート。
(2)前記耐熱層が複数の層からなる、上記(1)に記載の耐熱性被覆シート。
(3)前記耐熱層の外側に、さらにカバー層を有する、上記(1)または(2)に記載の耐熱性被覆シート。
(4)前記固定具は、その表面に前記繊維と絡まる凸部および/または凹部を有するか、または前記繊維に引っかかるアンカー部を有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載の耐熱性被覆シート。
(5)前記固定具の母材が高融点金属からなり、前記固定具の表面がカーバイド化またはケイ素化されたために、前記固定具の表面が前記高融点金属の炭化物またはケイ素化合物からなる、上記(1)~(4)のいずれかに記載の耐熱性被覆シート。
(6)前記高融点金属がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(5)に記載の耐熱性被覆シート。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の耐熱性被覆シートに含まれる固定具であって、
前記耐熱層の内部にその厚さ方向に配置され、
表面に前記繊維と絡まる凸部および/または凹部を有するか、または前記繊維に引っかかるアンカー部を有する、固定具。
(8)母材が高融点金属からなり、表面がカーバイド化またはケイ素化されたために、表面が前記高融点金属の炭化物またはケイ素化合物からなる、上記(7)に記載の固定具。
(9)前記高融点金属がTi、Zr、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1つである、上記(8)に記載の固定具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、施工性が高い耐熱性被覆シートおよびそれに含まれる固定具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のシートを基材に貼り付けた状態を示す概略断面図である。
図2】本発明のシートを基材に貼り付けた状態を示す別の概略断面図である。
図3】好ましい態様の耐熱層(無機繊維層を含む)の断面拡大写真である。
図4】別の好ましい態様の耐熱層(無機繊維層を含む)の断面拡大写真である。
図5】TG-DTA試験結果を示すチャートである。
図6】200℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図7】400℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図8】600℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図9】800℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図10】1000℃で加熱した場合のレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図11】加熱する前のカーボン繊維シートのレーザーラマン分光測定の結果を示すチャートである。
図12】固定具を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、基材の表面に貼り付けて用いる耐熱性被覆シートであって、繊維を含む耐熱層と、前記耐熱層と前記基材とを接着する接着剤層と、を有し、前記耐熱層は厚さ方向に配置された固定具を含み、最も外側に主として無機繊維からなる無機繊維層を含む、耐熱性被覆シートである。
このような耐熱性被覆シートを、以下では「本発明のシート」ともいう。
また、本発明のシートにおける耐熱層に含まれる固定具を、以下では「本発明の固定具」ともいう。
【0011】
本発明のシートについて図を用いて説明する。
図1図2は本発明のシートを基材に貼り付けた状態を示す概略断面図である。
ただし、図1図2においては、固定具10a、10b、10c、10dが有する凸部および凹部の記載を省略している。
【0012】
図1図2に示す本発明のシート1は、基材100の表面に貼り付けて基材100を熱から守る耐熱性被覆シートである。
【0013】
図1に示すように、本発明のシート1は、その耐熱層3が1層のみからなるものであってよい。この場合、その1層(図1に示される耐熱層3)は主として無機繊維からなる無機繊維層である。
また、図2に示すように、本発明のシート1は、その耐熱層3が複数の層からなってもよい。図2には耐熱層3が3つの層(3a、3b、3c)からなるものが示されているが、その層の数は特に限定されない。耐熱層3が複数の層からなる場合、その最も外側の層(図2の場合は3a)が主として無機繊維からなる無機繊維層である。耐熱層3が複数の層からなる場合、その最も外側の層以外の層(図2の場合は3b、3c)は無機繊維からなる無機繊維層であってもよいし、その他の層であってもよいし、例えば無機繊維に有機物が含まれた層であってもよい。
さらに、図2に示すように、本発明のシート1は、耐熱層3の外側に、さらにカバー層7を有してもよい。
【0014】
ここで、基材100は、高温(例えば1000~1600℃程度の温度)に曝される可能性が有る部材である。
基材100として、具体的にはロケット等の宇宙機器の表面部材や、加熱炉の内面部材が例示される。
【0015】
基材100の材質として、アルミ、CFRP、BFRP、繊維強化金属、繊維強化セラミックス、セラミック化カーボンが挙げられる。
【0016】
このような基材100であって、高温に曝されることを防ぎたいものの表面に、本発明のシート1を貼り付けることで、基材100を熱から守ることができる。
【0017】
図1図2において本発明のシート1は、耐熱層3を有し、耐熱層3は繊維31を含む。
ただし、前述のように、耐熱層3はその最も外側に主として無機繊維からなる無機繊維層を含む。
【0018】
耐熱層3の最も外側以外の部分は無機繊維であることが好ましいが、有機系の繊維または繊維以外の物であってよく、繊維と繊維以外のものの混合体であってもよい。
【0019】
無機繊維としてはアルミナ(含む、アルミナ-シリカ)、ステンレス、カーボン、炭化ケイ素、ボロン等からなる繊維が例示される。
無機繊維として、SiCコートカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブをSiCで被覆した繊維)やガラス繊維を用いることもできる。
【0020】
耐熱層3の最も外側を構成する無機繊維層としては、アルミナ繊維シート(含む、アルミナ-シリカ繊維シート)、ガラス繊維シート、ロックウールシート、カーボンシート、炭化ケイ素シート、ボロンシート等が例示される。
無機繊維層は、SiCコートカーボンナノチューブシートであってもよい。SiCコートカーボンナノチューブシートの耐熱温度は真空中で2800℃、空気中で1500℃である。すなわち、耐熱性が高い。
無機繊維層は、単一種類の無機繊維からなるものであってよく、複数種類の無機繊維からなるものであってもよい。
【0021】
無機繊維層は無機繊維の他に有機繊維などを含んでもよい。その含有率(無機繊維層内に含まれる無機繊維以外の物の質量比率)は40質量%以下であることが好ましい。すなわち、無機繊維層に含まれる無機繊維の含有率(無機繊維層内に含まれる無機繊維の質量比率)は60質量%以上であることが好ましい。
なお、本発明のシートは、主として無機繊維からなる無機繊維層を有するが、この無機繊維層は無機繊維を60質量%以上含むものとする。
【0022】
耐熱層または無機繊維層における無機繊維およびその他の含有率は、図1図2に示すような断面写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、耐熱層または無機繊維層の観察視野における各要素の面積を測定し、体積換算(2分の3乗)して体積を求めた後、各要素の比重を乗じて各要素の質量を求め、それより質量比率を算出して求めるものとする。
【0023】
繊維31(無機繊維を含む)の長さは1~100mmであることが好ましく、3~10mmであることがより好ましい。
繊維31(無機繊維を含む)の繊維径は1~20μmであることが好ましく、5~15μmであることがより好ましい。
【0024】
なお、繊維31(無機繊維を含む)の長さおよび繊維径は、図1図2に示すような断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、耐熱層3の観察視野における全ての繊維31の長さおよび繊維径(繊維の長手方向に対して直角方向の長さ)を測定し、それらを単純平均して求めた値を意味するものとする。
【0025】
図1図2に示す耐熱層3は、複数種のシートを積層したものであってよいし、複数種類の繊維31を用いて積層抄造したものであってもよいし、沈降速度差を利用した抄造等によって傾斜複合材化したものであってもよい。
【0026】
耐熱層3が複数種類のシートを積層したものである場合、各シートを結着する方法は特に限定されない。例えば、SiCを含む液状物を各シートの主面に塗布し、塗布した部分を挟むようにシート同士を密着させた後、1000℃程度に加熱することで、各シートを結着することができる。
【0027】
ここで積層抄造する方法は(以下、積層型抄造法ともいう)、繊維を水に分散させた分散液を容器内へ投入し、脱水することで、容器の底に繊維からなる層を形成し、再度、容器内へ繊維を水に分散させた分散液を投入し、脱水する操作を複数回繰り返した後、得られた繊維からなる層を110℃程度の雰囲気内で乾燥し、融着、焼結等を行うことで、耐熱層を得る方法である。
積層型抄造法において、例えばアルミナ繊維(含む、アルミナ-シリカ繊維)、ロックウール繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、金属繊維、有機繊維等の複数種類の繊維を用いることで、本発明のシートにおける外側の面(表面)に、より耐熱性が高い材料が存在する耐熱層(無機繊維層を含む)を得ることもできる。
つまり、最初に耐熱性が高い材料の無機繊維を水に分散させた分散液を容器内へ投入し、脱水して容器の底に無機繊維からなる層を形成し、次に、最初に用いた材料よりも相対的に耐熱性が低い繊維を水に分散させた分散液を容器に投入し、脱水し、次に、さらに相対的に耐熱性が低い繊維を水に分散させた分散液を容器に投入し、脱水する操作を所望の回数、繰り返した後、110℃程度の雰囲気内で乾燥し、融着、焼結等を行うと、一方の主面から他方の主面にかけて、耐熱性が徐々に変化する耐熱層を得ることができる。
【0028】
また、沈降速度差を利用した抄造等によって耐熱層(無機繊維層を含む)を傾斜複合材化する方法(以下、傾斜複合化法ともいう)は、複数種類の繊維を水に分散させた分散液を容器に投入し、さらに撹拌し、ある程度の時間(例えば5分程度)、静置することで沈降させ、その後、沈降物を容器内から取り出し、110℃程度の雰囲気内で乾燥し、焼結等を行うことで、耐熱層を得る方法である。
傾斜複合化法において、例えばアルミナ繊維(含む、アルミナ-シリカ繊維)、ロックウール繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維、金属繊維、有機繊維等の複数種類の繊維を用いることで、本発明のシートにおける外側の面(表面)に、より耐熱性が高い材料が存在する耐熱層(無機繊維層を含む)を得ることもできる。
つまり、複数種類の繊維を水に分散させた分散液を容器に装入し、十分に撹拌し、その後、静置することで沈降させると、複数種類の繊維間では種類ごとに沈降速度が異なるため、沈降速度が速い無機繊維から順に積層させることができる。ここで各繊維の密度や濡れ性等を考慮したうえで、例えば無機繊維に表面処理等を施すことで、複数の無機繊維を、意図する順番に沈降させることができる。その後、沈降物を容器内から取り出し、110℃程度の雰囲気内で乾燥し、焼結等を行うと、一方の主面から他方の主面にかけて、耐熱性が徐々に変化する耐熱層(無機繊維層を含む)を得ることができる。
【0029】
上記のように例えば抄造によって繊維シート(耐熱層または耐熱層の一部を構成する層)を得た後、溶剤を含む有機物含有溶液を含侵し、乾燥することで有機物含有溶液中からこれに含まれる溶剤を除去し、その後、不活性雰囲気内で150~700℃にて加熱することが好ましい。この場合、柔軟性に優れる繊維シートが得られる。
このような方法によって製造した繊維シートを例示する。
図3は、アルミナ繊維シートにフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内にて600℃で1h加熱して得られた繊維シートの断面拡大写真であり、図3(a)が200倍、(b)が1000倍、(c)が5000倍に拡大した写真である。
また、図4は、カーボン繊維シートにフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、窒素雰囲気内にて600℃で1h加熱して得られた繊維シートの断面拡大写真であり、図4(a)が50倍、(b)が200倍、(c)が1000倍に拡大した写真である。
図3図4から、アルミナ繊維シートまたはカーボン繊維シートを構成するアルミナ繊維またはカーボン繊維同士を、樹脂炭化物が結着していることを確認できる。
また、その結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていることを確認できる。
【0030】
このような繊維シートの製造方法について説明する。
初めに、上記のような抄造によって繊維シートを得た後、溶剤を含む有機物含有溶液を含侵する。
ここで有機物含有溶液は、溶媒を用いて有機物を溶解して得られるものである。
有機物としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
また、これらを溶解する溶媒としては、前記有機物を溶解可能な溶媒であれば特に限定されるものではない。
また、有機物含有溶液には架橋剤を加えることが好ましい。ここで架橋剤は有機物含有溶液に含まれる有機物を重合することができる架橋剤であれば特に限定されない。
【0031】
有機物含有溶液に含まれる有機物の濃度は1~100質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
このような有機物含有溶液を繊維シートに含侵する。
【0032】
次に、有機物含有溶液を含侵した繊維シートを乾燥させる。
乾燥させるための手段は特に限定されない。例えば50~120℃に調整された乾燥器内に0.5~2時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれている溶媒を除去することができる。
【0033】
このようにして有機物含有溶液中から溶媒を除去すると、その過程において、表面張力や粘度上昇等の影響で、有機物含有溶液は繊維同士が交差または集合している箇所へ移動する。そして、その箇所において溶媒が完全に除去される前に、有機物の重合が徐々に進行するので、ゆるやかに固化することになる。そのために、図3図4に示したように、繊維シートを構成する繊維同士の結着部分は繊維に滑らかに追従していたり、膜を形成していたりして、特徴的な態様となっていると考えられる。また、その結着部分は柔軟性に優れる。
【0034】
そして、上記のように乾燥させた後、150~950℃で加熱する。
加熱させるための手段は特に限定されない。例えば150~950℃に調整され不活性ガスで満たされた加熱炉内に0.5~10時間、保持することで、有機物含有溶液に含まれていた有機物の一部のみをカーボン化する。
【0035】
不活性ガスは特に限定されず、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0036】
繊維シートを構成する繊維同士を結着している、有機物の一部のみがカーボン化したものが、樹脂炭化物である。
【0037】
このようにして有機物の一部のみをカーボン化すると、カーボン化(炭化)による質量減少が小さいため、ひび割れ等が発生し難い。そのために、セラミックス繊維同士を結着している有機物は柔軟性を保つことができると考えられる。そのために、図3図4に示したように、繊維同士の結着部分は滑らかで、特徴的な態様となっていると考えられる。
また、その結着部分は柔軟性に優れると考えられる。
【0038】
このように樹脂炭化物は、有機物の一部のみがカーボン化したものであることが好ましいが、本願発明者は、有機物のどの程度の部分がカーボン化している場合が好ましいかについて検討した。
以下にその検討結果について説明する。
【0039】
本願発明者は、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0040】
そして、測定サンプルの各々について、TG-DTA試験を行った。得られたチャートを図5に示す。
なお、TG-DTA試験の試験条件は次の通りである。
・機器:STA7200RV、EMAステーション(HITACHI社製)
・温度範囲:30 → 1000℃
・雰囲気:窒素(300ml/min)
・昇温速度:10℃/min
・試料量:約10mg
・試料容器:Pt製オープン容器
【0041】
TG-DTA試験では、状態変化に伴う吸熱・発熱等がなければ、チャートにおいてベースラインから変化はなく、一方で状態変化に伴う吸熱等がある場合にはベースラインから下がる曲線を描くことになる。
図5から、800℃または1000℃で加熱した場合は、チャートにおいてベースラインから変化がなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合に、チャートにおいてベースラインから下がる曲線となっている。
【0042】
また、図5においてチャート(グラフ)内に示された右肩上がりの略直線は温度を表している。200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃の各温度の場合を示すラインが下がり始めるときが、測定サンプルの状態変化(例えば、O、H等の減少)が始まるときと考えられるので、その部分から縦に真っすぐな線を引き、温度を示す直線と交わるところが、分解開始温度と推定される。
【0043】
これより、800℃または1000℃で加熱した場合は、状態変化に伴う吸熱・発熱等はなく、一方で、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は状態変化に伴う吸熱等があることが確認できる。
すなわち、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0044】
次に、本願発明者は、カーボン繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0045】
そして、測定サンプルの各々について、レーザーラマン分光測定を行った。得られたチャートを図6図10に示す。
図6が200℃で加熱した場合、図7が400℃で加熱した場合、図8が600℃で加熱した場合、図9が800℃で加熱した場合、図10が1000℃で加熱した場合であり、各図において上側がカーボン繊維に焦点を当てた結果、下段がフェノール樹脂含侵部に焦点を当てた結果を示している。
なお、図11は、フェノール樹脂を含侵させる前のカーボン繊維シートについて、同様のレーザーラマン分光測定を行った結果を示している。
【0046】
なお、レーザーラマン分光測定の測定条件は次の通りである。
・機器:顕微レーザーラマン分光装置 Nicolet Almega XR (サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)
・レーザー波長:532nm
・レーザー出力:50%
・露光時間:0.50sec
・露光回数:15回
・分光器アパーチャ:25μmピンホール
【0047】
図6図7に示される200℃、400℃で加熱した場合では、カーボンのピークは検出されていないが、図8に示される600℃で加熱した場合でカーボンのピークが出現し、図9図10に示される800℃、1000℃で加熱した場合では、図11に示されるカーボン繊維のピークとほぼ同じ形状の波形になっている。
【0048】
このような測定結果より、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、有機物の一部のみがカーボン化しており、一方で、800℃または1000℃で加熱した場合は、有機物の全てがカーボン化していると推定される。
【0049】
次に本願発明者は、上記のTG-DTA試験の場合と同様に、アルミナ繊維シートを5枚用意し、各々にフェノール樹脂を含侵し、乾燥した後、5枚の各々を、窒素雰囲気内で200℃、400℃、600℃、800℃、1000℃にて1h加熱した。
【0050】
そして、測定サンプルの各々について、XPS分析(X線光電子分光分析)に供した。
なお、測定条件は次の通りである。
・分析装置:Quantera SXM(アルバック・ファイ社製)
・X線源:単色化AlKα
・X線出力、X線照射径:25.0W、φ100μm
・測定領域:Point 100μm
・光電子取り込み角:45deg
・Wide Scan:280.0eV,1.000eV/Step
・Narrow Scan:69.0 eV;0.125eV/Step
【0051】
その結果、200℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が73.0atom%、O(酸素)量が19.8atom%、Al量が2.6atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、400℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が78.7atom%、O(酸素)量が17.7atom%、Al量が2.5atom%、Si量が1.1atom%と求められた。
また、600℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.9atom%、O(酸素)量が14.1atom%、Al量が3.0atom%、Si量が1.0atom%と求められた。
また、800℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.5atom%、O(酸素)量が13.8atom%、Al量が3.5atom%、Si量が1.2atom%と求められた。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量が81.1atom%、O(酸素)量が13.6atom%、Al量が3.9atom%、Si量が1.3atom%と求められた。
【0052】
ここで、各測定サンプルに含まれるO(酸素)は、Cと結合しているものと、AlまたはSiと結合しているものに概ね分かれると考えられる。そして、AlとOとが結合したものはAl23の態様で存在しており、SiとOとが結合したものはSiO2の態様で存在していると考えると、各測定サンプルにおいてCと結合しているO量を算出することができる。
このような考えに基づいて計算すると、200℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は13.7atom%と算出される。
また、400℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は11.8atom%と算出される。
また、600℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は7.6atom%と算出される。
また、800℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は6.4atom%と算出される。
さらに、1000℃にて加熱した測定サンプルに含まれるCと結合しているO(酸素)量は5.2atom%と算出される。
【0053】
本願発明者は、前述のようなTG-DTA試験、レーザーラマン分光測定の結果およびXPS分析の結果を考察した。
そして、800℃および1000℃で加熱した場合は完全に炭化している状態と考えられ、これに対して、200℃、400℃、600℃で加熱した場合は、炭化(カーボン化)の途中段階、すなわち、有機物の一部についてのみ炭化している状態と考えた。
また、その炭化の程度(炭化度)は、1000℃にて加熱した測定サンプルの1s原子軌道のC(炭素)量とCに結合しているO(酸素)量との合計を基準とし、この基準に対する比率として表すことができると考えた。つまり、1000℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を求め、この値に対する200℃、400℃、600℃、800℃にて加熱した測定サンプルのCatom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値を、各測定サンプルにおける炭化度とすることとした。
【0054】
そこで、各測定サンプルについて、Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)を算出した。
Catom%/(Catom%+Cと結合しているOatom%)の値は、200℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.842、400℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.870、600℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.915、800℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.928、1000℃にて加熱した測定サンプルの場合が0.940となった。
この考えに基づいて炭化度を計算すると、次のようになる。
【0055】
200℃で加熱した場合の炭化度:0.842÷0.940=0.896
400℃で加熱した場合の炭化度:0.870÷0.940=0.926
600℃で加熱した場合の炭化度:0.915÷0.940=0.973
800℃で加熱した場合の炭化度:0.928÷0.940=0.987
【0056】
これより、本発明における樹脂炭化物(耐熱結着物)は、有機物の一部のみがカーボン化した炭化度が0.70以上1.00未満である樹脂炭化物であることが好ましく、この炭化度は0.80~0.99であることがより好ましく、0.85~0.98であることがさらに好ましいと、本願発明者は考えるに至った。
【0057】
耐熱層3の厚さは20~200mmであることが好ましく、30~150mmであることがより好ましい。
なお、耐熱層3の厚さは、本発明のシートの主面に垂直な方向における断面(図1のような断面について)の拡大写真(60倍)を得た後、その断面の拡大写真において耐熱層の厚さを無作為に選択した10か所にて測定し、それらの単純平均値を求め、得られた平均値をその耐熱層の厚さとする。
【0058】
耐熱層3(無機繊維層を含む)の密度は特に限定されないが、0.05~0.50g/cm3であることが好ましく、0.10~0.35g/cm3であることがより好ましい。
【0059】
なお、耐熱層3の密度は、次のように求めるものとする。
耐熱層の密度=耐熱層の重量/耐熱層の体積
ここで、耐熱層の重量と体積は次のように測定するものとする。
例えば、10cm×10cmの面積の耐熱層(以下測定サンプルともいう。)を準備し、その重量を耐熱層の重量とする。また、前記測定サンプルの厚みは、JIS P8118:2014や、耐熱層の断面写真等、公知の方法で測定し、前記サンプルの面積に乗じることで前記測定サンプルの体積とすることで、耐熱層の密度を求める。
【0060】
このような耐熱層3は、その内部に固定具10(本発明の固定具)を含む。なお、図1図2において固定具には10a~10fの表記が付されているが、以下において固定具10と記した場合、図1図2における10a~10fのいずれをも含んでいるものとする。
【0061】
固定具10は針金のような態様であり、図1図2に示されるように、耐熱層3の厚さ方向に配置されている。
ここで、固定具10が厚さ方向に配置されている状態とは、図1図2のような断面において、耐熱層3の厚さ方向と、固定具10の長手方向の少なくとも一部とが、垂直ではないことを意味するものとする。したがって、固定具10が10d、10e、10fのように曲がっている場合、固定具10の長手方向の少なくとも一部が必ず耐熱層3と垂直ではないこととなる。一方、固定具10が曲がっていない態様(10a、10b、10cのような直線的な態様)であれば、その長手方向が耐熱層3の厚さ方向と垂直(耐熱層3の主面と平行)ではない場合に、その固定具10は耐熱層3の厚さ方向に配置されているといえる。
【0062】
なお、耐熱層3の内部に存する固定具10の全てが、耐熱層3の厚さ方向に配置されていなくてもよい。すなわち、固定具10の一部が耐熱層3の厚さ方向に配置されていてもよい。ただし、耐熱層3の厚さ方向に配置されている固定具10は、固定具全体の50%以上(個数比率)であることが好ましい。
【0063】
固定具10は、耐熱層3の内部に配置されるが、基材100とは接しないように配置されることが好ましい。特に固定具10が伝熱性を備える材料(例えば金属)からなる場合、固定具10を介して外部の熱が基材100へ伝わってしまう可能性があるからである。
【0064】
そして、固定具10(10a、10b、10c、10d)は、図12に示すように、その表面に、繊維(無機繊維を含む)と絡まる凸部および/または凹部を有することが好ましい。
図12(a)に示す態様の固定具10は、長手方向の両端部にイボ状の凸部12を有している。
図12(b)に示す態様の固定具10は、図12(a)に示した態様と類似しているが、それが湾曲している。
図12(c)に示す態様の固定具10は、長手方向の両端部に凹部14として螺旋状の溝が形成されている。
このような凹部や凸部は耐熱層3を構成する繊維(無機繊維を含む)と絡まるので、固定具10によって繊維31(無機繊維を含む)が固定され、繊維31(特に無機繊維)の一部が耐熱層3の表面から剥がれてしまったり、耐熱層3(特に無機繊維層)が壊れてしまうことを防止することができる。
【0065】
また、固定具10(10e、10f)は、繊維31(無機繊維を含む)に引っかかるアンカー部16を有することが好ましい。
【0066】
固定具10の材質は特に限定されないが、靭性を備えるものであることが好ましい。具体的には、高融点素材であるタングステン、タンタル、モリブデン、ニクロム、ニオブ、レニウム、オスミウム、イリジウム、ルテニウム、ハフニウム等の金属や、アルミナ、炭化ケイ素等のセラミックを例示できる。
【0067】
なお、凸部(例えば図12(a)、(b)に示したようなイボ状突起物)の材質やアンカー部12が、その他の部分と異なってもよい。
【0068】
また、固定具10は母材が高融点金属からなり、固定具10の表面がカーバイド化またはケイ素化されたために、固定具10の表面が高融点金属の炭化物またはケイ素化合物からなるものであることが好ましい。
固定具が高融点金属からなると、固定具を介して外部の熱が基材へ伝わってしまう可能性があるが、その表面が炭化物またはケイ素化合物で被覆されていると、その伝熱性が低下するからである。
また、例えば炭化ケイ素で被覆されていると、さらに固定具が耐酸化性を備えることになるので好ましい。
【0069】
ここで高融点金属は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0070】
固定具10の表面に前記母材の炭化物またはケイ素化合物からなる被膜が存する場合、その被膜の厚さは特に限定されないが、1~10μmであることが好ましい。
【0071】
固定具10の表面を炭化ケイ素で被覆する方法は特に限定されない。例えば固定具の表面にポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリポロシロキサン、ポリカルボシラザン等を塗布した後、加熱する方法が挙げられる。例えば金属製の固定具の表面にポリカルボシラン、ポリオルガノボロシラザン、ポリメタロキサン、ポリポロシロキサン、ポリカルボシラザン等を塗布した後、1150℃程度の温度で加熱すると、被覆した炭化ケイ素との間にカーボン化層が形成された好ましい態様の固定具が得られる。
【0072】
前述のように、固定具10は針金のような態様であるが、その長手方向の長さは2~300mmであることが好ましく、20~300mmであることがより好ましく、30~150mmであることがより好ましく、2~30mmであることがより好ましく、3~15mmであることがさらに好ましい。
固定具10の太さ(直径)は1~100μmであることが好ましく、10~50μmであることがより好ましい。
なお、固定具10の長手方向の長さおよび太さ(直径)は図1図2に示す断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、耐熱層3の観察視野における全ての固定具10の長さおよび太さ(長手方向に直角方向の長さ)を測定し、それらを単純平均して求めた値を意味するものとする。
【0073】
耐熱層3は固定具10を100~1000本/m2で含むことが好ましい。ここでこの単位面積あたりの固定具の本数は、図1図2に示す断面についての写真(走査型電子顕微鏡を用いて30倍で観察して得る写真)において、耐熱層3の特定範囲の観察視野における全ての固定具10の本数を数えて求めるものとする。
【0074】
固定具10を耐熱層3内に固定するための処理を施してもよい。例えば、固定具10を耐熱層3内に配置し、耐熱層3における少なくとも固定具10の近傍にSiCを含む液状物を含侵させた後、耐熱層3を1000℃程度に加熱することで、固定具10を耐熱層3内に固定することができる。
また、固定具10を耐熱層3内に配置した後に、前述のように、耐熱層3へ溶剤を含む有機物含有溶液を含侵し、乾燥することで有機物含有溶液中から溶剤を除去し、その後、不活性雰囲気内で150~700℃にて加熱することで、樹脂炭化物によって固定具10を固定することができる。
【0075】
本発明のシート1は、耐熱層3の外側に、さらにカバー層7を有することが好ましい。
カバー層7の材質として、例えば強化炭素複合材(Reinforced Carbon Carbon:RCC)、再使用型高温用表面耐熱剤(High-temperature Reusable Surface Insulation:HRSI)、繊維質耐火性コンポジット耐熱剤(Fibrous Refractory Composite Insulation:FRCI)、再使用型低温表面耐熱剤(Low Temperature Reusable Surface Insulation: LRSI)、発展型再使用フレキシブル表面耐熱材(Advanced Flexible Reusable Surface Insulation: AFRSI)、再使用型フレキシブル表面耐熱材(Flexible Reusable Surface Insulation: FRSI)等が挙げられる。
また、カバー層7はホウケイ酸ガラス、カーボン複合材からなってもよい。カバー層はMgO粉を含むSiC結着シートであってもよい。MgO粉を含むSiC結着シートは耐熱および耐酸化性に優れる。また、耐熱フィラーの封孔が施されていてもよい。
【0076】
カバー層7の厚さは10~1500μmであることが好ましく、10~1000μmであることがより好ましく、50~500μmであることがさらに好ましい。
なお、カバー層7の厚さは、耐熱層3の厚さと同様に測定して求めた値とする。
【0077】
なお、固定具10は、耐熱層3を形成した後に、その外側の主面から内部へ打ち込んでもよいが、耐熱層3を接着剤層5によって基材100に接着した後に、外側の主面から内部へ打ち込んでもよい。また、耐熱層3を接着剤層5によって基材100に接着し、耐熱層3の外側にカバー層7を形成した後に、カバー層7の外側の主面から耐熱層3の内部まで固定具10を打ち込んでもよい。
ここで固定具10は外側の主面に露出していてもよい。
【0078】
カバー層7を耐熱層3の外側に結着する方法は特に限定されない。例えば、SiCを含む液状物をカバー層7および/または耐熱層3の主面に塗布し、塗布した部分を挟むようにカバー層7と耐熱層3とを密着させた後、1000℃程度に加熱することで、カバー層7と耐熱層3とを結着することができる。
【0079】
本発明のシート1は、上記のような耐熱層3を有し、さらに耐熱層3と基材100とを接着する接着剤層5とを有する。
【0080】
接着剤層5は耐熱繊維層3と基材100とを強固に接着することができる接着剤からなり、無機接着剤からなることが好ましい。
接着剤層5を構成する接着剤として、耐熱性の高い樹脂(より好ましくは200℃程度の高温に耐え得る樹脂)であることが好ましい。また、さらに剥離しやすい樹脂であることが好ましい。このような樹脂としてシリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。
また、無機接着剤として、アルミナ、ルチルセラミックス、ステアタイト、水ガラス、ポルトランドセメント、アルミナセメント、マグネシアセメント、石膏、低融点ガラス、はんだ金属、反応型接着剤(ケイ酸塩系、リン酸塩系、コロイダルシリカ系)などが挙げられる。
【0081】
接着剤層5の厚さは特に限定されないが、0.1~100mmであることが好ましく、10~100mmであることがより好ましく、25~50mmであることがより好ましく、0.1~1mmであることがより好ましく、0.25~0.5mmであることがさらに好ましい。
【0082】
なお、接着剤層5は、通常、耐熱層3を構成する繊維31の一部を取り込んでいる。したがって、接着剤層5と耐熱層3との境界は、接着剤が存在しているか否かによって決定されるものとする。つまり、繊維31のうち、接着剤と共に存在していない部分を耐熱層3とする。
【0083】
接着剤層5の厚さは、本発明のシートの主面に垂直な方向における断面(図1のような断面について)の拡大写真(60倍)を得た後、その断面の拡大写真において接着層の厚さを無作為に選択した10か所にて測定し、それらの単純平均値を求め、得られた平均値をその接着剤層の厚さとする。
【0084】
本発明のシートの好適態様として、図2に示した態様であって、カバー層7が厚さ1mmのMgO粉を含むSiC結着シートであり、3aで表される層(無機繊維層)が厚さ0.1mmのSiCコートカーボンナノチューブシートであり、3bで表される層が厚さ1mmのカーボンシートであり、3cで表される層が厚さ2mmのアルミナ繊維シートであり、固定具10がニクロムまたはタングステンからなり、固定具10の長さが3mmである態様が挙げられる。
【0085】
このような好適態様において、SiCを含む液状物をカバー層7であるMgO粉を含むSiC結着シートおよび/または3aで表される層(無機繊維層)であるSiCコートカーボンナノチューブシートの主面に塗布し、塗布した部分を挟むようにカバー層7と3aで表される層(無機繊維層)とを密着させた後、1000℃程度に加熱することで、カバー層7と3aで表される層(無機繊維層)とを結着することが好ましい。
【0086】
また、このような好適態様において、3aで表される層(無機繊維層)であるSiCコートカーボンナノチューブシートおよび/または3bで表される層であるカーボンシートの主面に塗布し、塗布した部分を挟むように3aで表される層(無機繊維層)と3bで表される層とを密着させた後、1000℃程度に加熱することで、3aで表される層(無機繊維層)と3bで表される層とを結着することが好ましい。
【0087】
また、このような好適態様において、3aで表される層(無機繊維層)であるSiCコートカーボンナノチューブシートと3bで表される層であるカーボンシートとを積層した後、前述のように、ここへ溶剤を含む有機物含有溶液を含侵し、乾燥することで有機物含有溶液中から溶剤を除去し、その後、不活性雰囲気内で150~700℃にて加熱することで、樹脂炭化物によって、3aで表される層(無機繊維層)であるSiCコートカーボンナノチューブシートと3bで表される層であるカーボンシートとを結着することが好ましい。
また、固定具10は図2に示すように、耐熱層3内のみならず、保護層7内に存在していてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 本発明のシート
3(3a、3b、3c) 耐熱層
31 繊維
5 接着剤層
7 カバー層
10(10a、10b、10c、10d、10e、10f) 固定具
12 凸部
14 凹部
16 アンカー部
100 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12