(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 66/02 20060101AFI20240229BHJP
B60T 17/22 20060101ALI20240229BHJP
F16D 65/54 20060101ALI20240229BHJP
F16D 65/22 20060101ALI20240229BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20240229BHJP
F16D 125/66 20120101ALN20240229BHJP
【FI】
F16D66/02 F
B60T17/22 Z
F16D65/54 K
F16D65/22
F16D121:14
F16D125:66
(21)【出願番号】P 2020045036
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000220712
【氏名又は名称】株式会社TBK
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】喬 海超
(72)【発明者】
【氏名】飯室 智啓
(72)【発明者】
【氏名】鴨川 延明
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-200875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B60T 15/00-17/22
F16D 121/14
F16D 125/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に設けられて前記回転部材と一体的に回転可能な円筒状のブレーキドラムと、
固定部材に揺動自在に設けられて、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキライニングを有するブレーキシューと、
ブレーキ操作に応じて前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付けるエキスパンダと、
前記ブレーキライニングの摩耗を検出する摩耗検出装置とを備えるドラムブレーキであって、
前記エキスパンダは、ブレーキ操作に応じて軸方向に押圧力を作用させる押圧力発生部材と、前記押圧力発生部材に対して前記軸方向回りに回転自在に設けられる伝達部材と、前記伝達部材に対して前記軸方向に螺合されるとともに前記ブレーキシューに対して前記軸方向回りに回転不能に接続されて、前記伝達部材から伝達される押圧力により前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材とを有し、前記伝達部材を前記軸方向回りに回転させて前記押圧部材を前記軸方向に繰り出させることで、前記伝達部材に対する前記押圧部材の前記軸方向の相対位置を変位させて、前記ブレーキライニングと前記ブレーキドラムの内周面との間の間隙を調整する間隙調整機構を備えており、
前記摩耗検出装置は、
前記伝達部材の外周面に形成された第1ギアと、前記第1ギアと噛合して回転する第2ギアと、前記第2ギアに接続され前記第2ギアの回転角度を検出して当該回転角度に応じた電気信号を出力する回転センサと、前記回転センサから出力される電気信号に基づいて前記伝達部材の回転数を積算して記憶する回転数演算部と、前記回転数演算部により算出された前記伝達部材の回転数に基づき前記ブレーキライニングの摩耗を検出する摩耗判定部とを備えて構成されることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記摩耗判定部は、前記回転数演算部により算出された前記伝達部材の回転数が予め設定された限界回転数を越えたときに警報信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ。
【請求項3】
外部から操作可能なリセットスイッチを備え、
前記リセットスイッチが操作されることを契機に、前記回転数演算部に記憶された回転数情報がリセットされることを特徴とする請求項
1又は2に記載のドラムブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、さらに詳しくは間隙調整機構を備えたドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、車軸と一体回転可能に取り付けられた円筒状のブレーキドラムと、アンカーブラケットに揺動可能に保持されてブレーキドラムの内周面に沿って配設される一対のブレーキシューとを有し、ブレーキドラムと対向してブレーキシューに設けられるブレーキライニングをブレーキドラムの内周面に押し付けることにより、両者間に生じる摩擦を利用してブレーキドラム(車軸に設けられた車輪)の回転を制動するものである。
【0003】
このようなドラムブレーキには、ブレーキシューの先端にブレーキ操作に応じて外方に張出作動するエキスパンダを取り付け、エキスパンダの張出作動によりブレーキシューを揺動させてブレーキライニングをブレーキドラムの内周面に押し付ける構成のものがある(例えば、特許文献1を参照)。このドラムブレーキのエキスパンダは、タペットと、タペットに同軸的に取り付けられるスリーブと、スリーブに螺合されるとともに外端部がブレーキシューに繋がるスクリュウとを有し、タペットをハウジングに形成された収容空間に嵌挿させて構成されている。ここで、タペットとスリーブとはサークリップを介して接続されて、軸線方向の相対移動が規制されている。また、タペットとスリーブとの間には、ワンウェイクラッチが配設されて、タペットに対するスリーブの軸線回りの一方向への回転は許容され、軸線回りの他方向への回転は規制されるようになっている。ブレーキドラムとの摩擦によりブレーキライニングは摩耗するが、この摩耗によりブレーキライニングとブレーキドラムとの間隙(以下、シュークリアランスとも称する)が大きくなると、ブレーキの効きを悪化させる原因ともなる。そのため、ドラムブレーキには、ブレーキライニングの摩耗に応じてシュークリアランスを詰めて、ブレーキライニングとブレーキドラムとの間隙を常に一定に保持するよう自動的に調整する間隙調整機構が備えられている。間隙調整機構は、スリーブをスクリュウに対して単独で相対回転(前記一方向へ回転)させて、スリーブに螺合するスクリュウを外方に向けて張り出させることによりブレーキライニングを揺動させてシュークリアランスを詰めるように構成されている。
【0004】
また、このようなドラムブレーキにおいては、ブレーキライニングの摩耗が進展して一定の摩耗限界(使用限界)に達したときに、これを検出して運転者に警報を発するブレーキライニングの摩耗検出装置が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この摩耗検出装置は、ブレーキライニングの背面からブレーキドラム側に向けて摩耗検知具が配設され、その摩耗検知具の先端部に警報回路と接続された金属線がループ状に埋め込まれて構成されている。この摩耗検知具は、ブレーキライニングの摩耗が進行して摩耗限界まで達すると、その先端部がブレーキドラムと当接するように配置されており、該先端部がブレーキドラムとの当接により摩耗または折損して内部の金属線が切断されるようになっている。そして、警報回路は、摩耗検知具の金属線が切断されたときに、回路の遮断を電流または電圧の変化により検出して、ブレーキライニングが摩耗限界に達したことを報知するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-242238号公報
【文献】特開平10-184748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の摩耗検出装置では、ブレーキライニングが摩耗限界に達することで、ブレーキシューを新品と交換するときに、それに合わせて摩耗検知具も新品と交換する必要がある。そのため、ブレーキシューの交換時に、部品コストが高くなるとともに、再び電気配線を接続し直す工数が発生することで、ランニングコストが増大するという課題があった。また、従来の摩耗検出装置では、単にブレーキライニングの摩耗限界を検出するだけで、ブレーキライニングが摩耗限界に達する以前に、該摩耗状態(摩耗量)を検出することができないという課題もあった。
【0007】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ランニングコストを低減しつつ、ブレーキライニングの摩耗状態を高精度に検出することのできるドラムブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係るドラムブレーキは、回転部材に設けられて前記回転部材と一体的に回転可能な円筒状のブレーキドラムと、固定部材に揺動自在に設けられて、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキライニングを有するブレーキシューと、ブレーキ操作に応じて前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付けるエキスパンダと、前記ブレーキライニングの摩耗を検出する摩耗検出装置とを備えるドラムブレーキであって、前記エキスパンダは、ブレーキ操作に応じて軸方向に押圧力を作用させる押圧力発生部材と、前記押圧力発生部材に対して前記軸方向回りに回転自在に設けられる伝達部材と、前記伝達部材に対して前記軸方向に螺合されるとともに前記ブレーキシューに対して前記軸方向回りに回転不能に接続されて、前記伝達部材から伝達される押圧力により前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキライニングを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材とを有し、前記伝達部材を前記軸方向回りに回転させて前記押圧部材を前記軸方向に繰り出させることで、前記伝達部材に対する前記押圧部材の前記軸方向の相対位置を変位させて、前記ブレーキライニングと前記ブレーキドラムの内周面との間の間隙を調整する間隙調整機構を備えており、前記摩耗検出装置は、前記伝達部材の外周面に形成された第1ギアと、前記第1ギアと噛合して回転する第2ギアと、前記第2ギアに接続され前記第2ギアの回転角度を検出して当該回転角度に応じた電気信号を出力する回転センサと、前記回転センサから出力される電気信号に基づいて前記伝達部材の回転数を積算して記憶する回転数演算部と、前記回転数演算部により算出された前記伝達部材の回転数に基づき前記ブレーキライニングの摩耗を検出する摩耗判定部とを備えて構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るドラムブレーキにおいて、前記摩耗判定部は、前記回転数演算部により算出された前記伝達部材の回転数が予め設定された限界回転数を越えたときに警報信号を出力することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係るドラムブレーキにおいて、外部から操作可能なリセットスイッチを備え、前記リセットスイッチが操作されることを契機に、前記回転数演算部に記憶された回転数情報がリセットされることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るドラムブレーキによれば、シュークリアランスを調整するときの伝達部材
の回転量がブレーキライニングの摩耗量と等価の関係であることを利用して、伝達部材の回転量を回転検出部にて検出し、この伝達部材の回転量(累積回転数)に基づきブレーキライニングの摩耗状態を検出することで、ブレーキライニングが摩耗限界に達する以前であっても(例えば車両の点検時に限らず走行中においても)、ブレーキライニングの摩耗状態を高精度に検出することが可能になるとともに、ブレーキライニングが摩耗限界に達してブレーキシューを交換するときに、従来技術の如く摩耗検知具を交換する必要がなくなるため、部品コストおよび交換工数を削減して、ランニングコストを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のドラムブレーキを示す正面図である。
【
図3】
図1における矢印A-Aに沿って示す断面図であり、上記ドラムブレーキの非作動時を示す。
【
図4】
図1における矢印A-Aに沿って示す断面図であり、上記ドラムブレーキの作動時を示す。
【
図5】上記ドラムブレーキのスリーブアッシーの分解状態を示す断面図である。
【
図6】上記ドラムブレーキの摩耗検出装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、本発明の一実施形態に係るドラムブレーキの全体構成について
図1~
図6を参照して説明する。なお、
図3、
図4等では、図を見易くするために、一部の断面部のハッチングを省略している。
【0015】
ドラムブレーキBは、
図1および
図2に示すように、ダストカバー29とともに車体に固定されるアンカーブラケット2と、車軸1に設けられて該車軸1と一体的に回転するブレーキドラム31を設けてなるドラムユニット3と、アンカーブラケット2に揺動自在に設けられてブレーキドラム31の内周面に沿って配設される一対のブレーキシュー40,40を備えたブレーキシューユニット4と、ブレーキ操作に応じてブレーキシュー40,40を揺動させてブレーキドラム31の内周面に押し付けるエキスパンダ5と、ブレーキシュー40のブレーキライニング43の摩耗を検出する摩耗検出装置7とを主体に構成される。なお、
図1においてはドラムユニット3(ブレーキドラム31)を二点鎖線で示し、詳細な図示を省略している。
【0016】
アンカーブラケット2は、中央に円孔状の開口21を有し、この開口21の周囲に設けたボルト孔22に挿入されるボルト(図示せず)を介して車体のアクスルハウジング(図示せず)に固定される。また、アンカーブラケット2の下部には、その厚さ方向(
図1紙面直交方向)に二股に分かれるブレーキシュー支持部25が形成されており、このブレーキシュー支持部25に一対のピン挿入口24が正面視左右に並んで開設されている。
【0017】
ドラムユニット3は、アンカーブラケット2の開口21から外方へ突出する車軸1上にベアリングを介して回転可能に取り付けられたホイールハブ(図示せず)に、ホイールリム(図示せず)が取り付けられるとともに、ブレーキドラム31が結合されて構成されている。なお、ホイールリムには車輪が取り付けられ、ブレーキドラム31と車輪とがホイールハブを介して一体回転するようになっている。
【0018】
ブレーキシューユニット4は、アンカーブラケット2を挟んで正面視左右に配設された二つのブレーキシュー40,40を有して構成される。各ブレーキシュー40は、弧状に延びるウェブ部41と、ウェブ部41の外周端に取り付けられるリム部42と、リム部42にリベット等により固着されるブレーキライニング(以下、「ライニング」と呼称する)43とを有して構成される。ブレーキシュー40は、ブレーキドラム31の内周面に沿って配設されており、ライニング43をブレーキドラム31の内周面に対向させている。
【0019】
ブレーキシュー40は、基端部がブレーキシュー支持部25のピン挿入口24に挿入されたアンカーピン44を介してアンカーブラケット2に枢結されており、このアンカーピン44を揺動中心として
図1における左右方向に揺動可能とされる。一対のブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、これらを相互に接続するリターンスプリング45が跨設されている。そして、ブレーキ操作がなされていないとき(ブレーキの非作動時)には、各ブレーキシュー40はリターンスプリング45の付勢力を受けて内方に揺動した位置(すなわち、ブレーキドラム31と離間した位置)に保持される。
【0020】
また、一対のブレーキシュー40,40の先端部同士の間には、アンカーブラケット2に固定されたエキスパンダ5が配設されている。後に詳述するが、エキスパンダ5は、ブレーキ操作がなされたとき(ブレーキの作動時)に、各スクリュウ57の張出作動(繰出作動)により各ブレーキシュー40の先端部をリターンスプリング45の付勢力に抗して外方へ押圧する。各ブレーキシュー40は、各アンカーピン44を中心にそれぞれ外方へ揺動し、各ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押し付けられ、両者の間の摩擦力によりブレーキドラム31の回転が制動される。それにより、ブレーキドラム31と一体回転する車輪に対して所定のブレーキ作用が得られることになる。
【0021】
エキスパンダ5は、
図3および
図4に示すように、中央にウェッジ収容部51aを空間形成するとともに両側部からウェッジ収容部51aに連通した一対のシリンダ部51b,51bを形成してなるハウジング51と、ウェッジ収容部51aに挿抜可能に取り付けられるウェッジ52と、各シリンダ部51b内に嵌挿されて軸線Xの方向(以下「軸線方向」とも呼称する)に摺動可能に配設されるスリーブアッシー53と、スリーブアッシー53と軸線方向に螺合してハウジング51の側部外方へ向けて延出するスクリュウ57とを備えて構成される。エキスパンダ5におけるシリンダ部51bの開口端には、該シリンダ部51b内への粉塵の混入を防止するブーツ59が着脱自在に取り付けられている。
【0022】
エキスパンダ5は、
図3および
図4において左右対称に構成されており、以下では、
図3および
図4に示すエキスパンダ5の配設姿勢を基準として、軸線方向におけるハウジング51の内方側(ウェッジ収容部51a側)を「一端側」、軸線方向におけるハウジング51の外方側(ブレーキシュー40側)を「他端側」と呼称して説明する。なお、
図3はブレーキの非作動時におけるエキスパンダ5の状態を示し、
図4はブレーキの作動時におけるエキスパンダ5の状態を示している。
【0023】
ウェッジ52は、シャフト状に形成されて、チャンバ9内のダイヤフラムの作動によりハウジング51に対して軸線方向と直交する方向(以下「軸線直交方向」とも呼称する)に挿抜可能に取り付けられている。このウェッジ52は、ブレーキの非作動時(ブレーキの解除時)には、
図3に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aに対して外方へ抜出された状態とされる。一方、ウェッジ52は、ブレーキの作動時には、
図4に示すように、ウェッジスプリング52aの付勢力に抗して、ウェッジ収容部51a内を軸線直交方向(
図4では下方)に移動して、ウェッジ収容部51aに対して挿入された状態とされる。ウェッジ収容部51a内に挿入される側の端部である挿入端部52bは、先端に向かって尖る楔形に形成されており、軸線方向の両側に傾斜面52cを有している。また、ウェッジ52の先端側(挿入端部52b側)には、一対のローラ52fを支持するローラ保持体52eが設けられている。一対のローラ52fは、ローラ保持体52eに対して回転自在且つ互いに近接および離間する方向(軸線方向)に移動可能に設けられている。また、ローラ保持体52eは、軸線直交方向に沿って往復動自在
に設けられており、常にはウェッジスプリング52aによってウェッジ52とともにハウジング51の外方側(
図4では上方)に付勢されている。このローラ保持体52eは、ウェッジ52と協働して、ウェッジ52の軸線直交方向の直線運動を、スリーブアッシー53の軸線方向の直線運動に変換する。
【0024】
スリーブアッシー53は、
図3~
図5に示すように、軸線方向の一端側に外径がシリンダ部51bの内径よりも僅かに小さく形成された本体部54aを有して軸線方向の他端側に本体部54aよりも外径の小さい
円筒部54bを有するタペット54と、タペット54の本体部54aと外径の等しい円筒状に形成されて軸線方向の一端側でタペット54の円筒部54bに対して外側に嵌合されるスリーブ55と、タペット54およびスリーブ55の嵌合面に設けられて両者を接続し、互いの軸線方向への相対移動を規制するC字形のサークリップ56と、タペット54およびスリーブ55の間に支持されたラップスプリング61とを有して構成される。
【0025】
タペット54は、互いに外径の異なる本体部54aおよび円筒部54bから段付き円筒状に形成されている。本体部54aの一端側には、ウェッジ52の傾斜面52aと略平行となる傾斜面54cが形成されている。円筒部54bには、ラップスプリング61の一端側を支持するスプリング取付孔54sが形成されている。また、円筒部54bには、外周面の全周に亘りリング取付溝54rが形成されている。タペット54は、シリンダ部51bの最内方に嵌挿されて、傾斜面54cをローラ52fの周面に当接させており、ウェッジ52の挿抜作動によりローラ52fを介してシリンダ部51b内を軸線方向に摺動可能になっている。
【0026】
スリーブ55は、軸線方向に沿って延びる貫通孔55aを有した中空の略円筒状に形成されている。貫通孔55aは、軸線方向の一端側から順に、タペット54の円筒部54bが嵌合される円筒孔55bと、ラップスプリング61の他端側を支持するスプリング取付孔55sと、スクリュウ57が螺合される雌ネジ部55cとが同軸的に連通されて構成されている。このスリーブ55の円筒孔55bには、内周面の全周に亘りリング取付溝55rが形成されている。また、スリーブ55の外周面には、該スリーブ55の回転を摩耗検出装置7の検出ギア71に伝達するための出力ギア55gが一体的に形成されている。
【0027】
タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの外周面に沿って刻設されるリング取付溝54rと、円筒孔55bの内周面に沿って刻設されるリング取付溝55rとが整合して、タペット54とスリーブ55との嵌合面間に、サークリップ56を装着するための一体の空隙が形成される。また、タペット54の円筒部54bとスリーブ55の円筒孔55bとを嵌合させると、円筒部54bの他端側に開口されるスプリング取付孔54sと、スリーブ55の一端側に開口されるスプリング取付孔55sとが整合して、タペット54とスリーブ55との内部に、ラップスプリング61を配設するための一体の空隙が形成される。
【0028】
サークリップ56は、例えば焼入れ・焼戻しあるいはオーステンパ等の熱処理を施した鋼線材で形成されて、円環の一部を切り欠いたC形状(正面リング状)をなして縮径方向に弾性変形可能に形成される。このサークリップ56は、タペット54とスリーブ55との嵌合面間において互いに整合して一体となったリング取付溝54r,55r内に配設されることで、タペット54とスリーブ55とを軸線方向に離脱不能に連結される。
【0029】
ラップスプリング61は、例えば円断面の素線を巻回してコイル状に加工されたばね素材を所定長さに切断して得られた圧縮コイルスプリングである。このラップスプリング61は、一端側の外周面がタペット54のスプリング取付孔54sの内周面に係合され、他端側の外周面がスプリング取付孔55sの内周面に係合されて、軸線方向に弾性的に圧縮変形された状態で取り付けられている。このラップスプリング61は、ワンウェイクラッチ機能を有し、コイルの外径が縮小する縮径方向(例えばコイルの巻回方向が右巻きの場合には右回転)にはスリーブ55のタペット54に対する軸線回りの相対回転を許容し、コイル外径が拡大する拡径方向(例えばコイルの巻回方向が右巻きの場合には左回転)には、外周面がタペット54およびスリーブ55に喰い付いてこれらを一体化し、この相対回転を阻止する。
【0030】
スクリュウ57は、軸線方向に延びるロッド状に形成されて外周面に雄ネジ部57を有し、その雄ネジ部57aをスリーブ55の雌ネジ部55cに螺合させてハウジング51の側部外方へ延出するように設けられている。スクリュウ57の軸線方向の他端側には、調整ダイヤル部57bが設けられている。この調整ダイヤル部57bには、スクリュウ57の螺合軸回りに回動可能にクリップ58が係止されている。クリップ58は、ブレーキシュー40のウェブ部41と係合している。スクリュウ57は、調整ダイヤル部57bを挟持して設けられるクリップ58を介してブレーキシュー40に接続される。
【0031】
スリーブ55の外周面には、螺旋状のヘリカルスプライン55dが刻設されており、このヘリカルスプライン55dに対して所定のガタ(例えば3mm)を有してドライブリング62が噛合している。ドライブリング62は、シリンダ部51bの外端に形成された傾斜面51cと当接する円錐麺62aを有し、このドライブリング62を軸線方向の一端側へ向けて付勢するドライブスプリング63により傾斜面51cおよび円錐面62aの間に所定の摩擦抵抗を付与するように構成されている。
【0032】
かかる構成のエキスパンダ5は、ライニング43に摩耗が生じたときに、ライニング43とブレーキドラム31との間の間隙(シュークリアランス)を自動的に詰めて所定の間隙に調整する間隙調整機構6を備えている。この間隙調整機構6は、スリーブアッシー53、スクリュウ57、ドライブリング62、およびドライブスプリング63等を有して構成されている。この間隙調整機構6の作用については後述する。
【0033】
摩耗検出装置7は、
図6に示すように、スリーブ55の回転を検出する回転検出機構70と、回転検出機構70により検出された回転情報に基づきライニング43の摩耗を検出する制御部75と、外部から操作可能なリセットスイッチ79とを備えて構成される。なお、本実施形態では、
図3および
図4における一対の間隙調整機構6,6のうち、一方の間隙調整機構6(右側の間隙調整機構6)の側にのみ摩耗検出装置7が搭載されているが、この構成に限定されるものではなく、一対の間隙調整機構6,6のそれぞれの側に摩耗検出装置7が搭載されていてもよい。
【0034】
回転検出機構70は、スリーブ55の出力ギア55gと噛合して回転する検出ギア71と、検出ギア71の回転量(回転角度)を検出する回転センサ72と、回転センサ72を保持するセンサブラケット73(
図3および
図4を参照)とを備えている。
【0035】
検出ギア71は、スリーブ55の出力ギア55gと外接噛合しており、スリーブ55の回転力により出力ギア55gと噛合回転可能に構成されている。この検出ギア71の軸心には、回転センサ72の入力軸72aが直結されている。本実施形態では、出力ギア55gと検出ギア71との歯数比が2:1に形成されており、スリーブ55が半回転(180度回転)すると、検出ギア71が1回転(360度回転)するようになっている。そのため、検出ギア71の回転数(回転角度)は、スリーブ55の回転数(回転角度)の2倍となる。
【0036】
回転センサ72は、例えば、ホールIC(ホール素子)を内蔵したエンドレス回転式のポテンショメータから構成されている。この回転センサ72は、その入力軸72aに結合された検出ギア71の回転(回転角度)を介してスリーブ55の回転(回転角度)を検出する。本実施形態の回転センサ72は、0度~360度までの範囲の回転角度を検出可能であり、入力軸72aの回転角度(0~360度)に比例した電圧、すなわち、検出ギア71の回転角度(0~360度)に比例した電圧を出力する。つまり、検出ギア71の回転角度が0度のときは出力電圧が初期電圧(0V)であり、この検出ギア71の回転角度に比例して出力電圧は増加して、検出ギア71の回転角度が360度に達すると出力電圧が最大電圧(5V)となる。なお、前述したとおり、スリーブ55の回転数(回転角度)は、回転センサ72にて検出される検出ギア71の回転数(回転角度)の半分となる。
【0037】
制御部75は、CPU、ROM、RAM等を搭載したマイクロコンピュータを主体として構成されており、回転センサ72から入力される検出情報に基づき、ライニング43の摩耗を検出する。本実施形態では、制御部75は、各種の電子・電気部品が実装された制御基板として構成されている。この制御部75には、コネクタケーブル78a(
図2を参照)を介して回転センサ72が電気的に接続されるとともに、コネクタケーブル78b(
図2を参照)を介して車両の電子制御ユニットECUが電気的に接続されている。
【0038】
制御部75は、
図6に示すように、回転数演算部76と、摩耗判定部77とを備えている。
【0039】
回転数演算部76は、回転センサ72からの検出情報に基づき、現時点までのスリーブ55の回転数を積算して得られる累積回転数を算出して、これをメモリ(RAM)に一時記憶する。具体的には、回転数演算部76は、回転センサ72から入力した回転角度が最大回転角度(360度)に達する毎に(回転センサ72から最大出力電圧(5V)が入力される毎に)、スリーブ55が半回転(180度回転)したことを検出して、スリーブ55の累積回転数に「1/2」を加算する。なお、この累積回転数は、リセットスイッチ79が操作されたときに、「0」にリセットされる。つまり、累積回転数とは、ゼロリセットされた時点から現時点までの間に、累積的に積算された回転数(積算値)を意味する。
【0040】
摩耗判定部77は、メモリに記憶されるスリーブ55の累積回転数と予め設定された限界回転数とを比較して、このスリーブ55の累積回転数が限界回転数に達したか否かを判定する。ここで、スクリュウ57の繰出量は、ライニング43の摩耗量と比例関係にある。本実施形態では、ライニング43の摩耗量とスクリュウ57の繰出量とが1:2の関係にあり、スクリュウ57の繰出量がライニング43の摩耗量の2倍となるように設計されている。よって、ライニング43の使用限界までの摩耗量が10mmである場合には、この摩耗量に対応して繰り出されるスクリュウ57の繰出量は20mmとなる。また、スクリュウ57の繰出量は、スリーブ55の回転数(累積回転数)と両ネジ55c,57aのネジピッチとを積算することにより得られる。本実施形態では、ネジピッチが1mmに設定されており、スリーブ55が1回転する毎に、スクリュウ57がネジピッチ分(1mm)だけ繰り出されるようになっている。従って、本実施形態では、スリーブ55が20回転したときに、ライニング43の摩耗量が10mm(使用限界)に達したことになる。ここで、本実施形態では、ライニング43の摩耗量が使用限界に達する前に警報を発するべく、スリーブ55の限界回転数を19回転(9.5mmの摩耗量に対応する回転数)に設定している。
【0041】
摩耗判定部77は、スリーブ55の累積回転数が限界回転数に達したことを判定した場合、車両の電子制御ユニットECUに対して警報信号を出力する。電子制御ユニットECUは、制御部75からの警報信号を受信すると、所定の警報作動を実行する。本実施形態では、所定の警報作動として、例えば、車両の運転席に配置された警報ランプの点灯、警報音の出力、警報ランプの点灯などにより、運転者に対してライニングの使用限界が近づいていることを報知する。
【0042】
なお、摩耗判定部77は、スリーブ55の累積回転数が限界回転数に達していないと判定した場合(あるいは予め定められた一定時間ごとに)、このスリーブ55の累積回転数の情報あるいは該累積回転数から換算されるライニング43の摩耗量の情報を電子制御ユニットECUに出力するようになっている。それにより、電子制御ユニットECUは、各車輪ごとにライニング43の摩耗量を個別に管理することができるようになっている。例えば、電子制御ユニットECUは、車両に設けられた複数の車輪間で摩耗量が均一でないと判断した場合には、電子制御ブレーキシステム(EBS)の制御により各車輪ごとにブレーキの作動を調節して、各車輪の摩耗量を均等に近づけていくことが可能となる。特に、本実施形態では、ライニング43の摩耗状態(摩耗量)をスリーブ55の回転角度単位で検出することができるため、ブレーキの作動を細やかに制御することができる。
【0043】
次に、上記構成のドラムブレーキBのブレーキ作動時、非作動時における作用として、主に間隙調整機構6および摩耗検出装置7の作用について説明する。
【0044】
まず、ブレーキ操作がなされると、そのブレーキ操作に応じてチャンバ9内に圧縮空気が供給され、チャンバ9内のダイヤフラムの作動により、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力に抗してウェッジ収容部51aへの挿入方向(
図3および
図4の下方向)に押圧される。この押圧力は、互いに平行に延びるウェッジ52の傾斜面52cとタペット54の傾斜面54cとの楔作用によりローラ52fを介して軸線方向への押圧力に変換され、スリーブアッシー53に伝達される。この押圧力を受けて、タペット54およびスリーブ55は一体化された状態でシリンダ部51b内を軸線方向の一端側から他端側へ向けて移動する。
【0045】
スリーブ55のヘリカルスプライン55dおよびドライブリング62は、軸線方向に所定のガタを有して噛合されている。上記ブレーキ作動によるスリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55はドライブリング62を回転させることなくシリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。このとき、ドライブリング62は、ドライブスプリング63の付勢力によって、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させた状態で保持される。
【0046】
スリーブ55と噛合されたスクリュウ57は、クリップ58によりブレーキシュー40に係止されており、クリップ58の摩擦抵抗およびネジ面での摩擦抵抗によりスリーブ55に対して相対回転することなくスリーブ55と協働して軸線方向に直動する。そして、スクリュウ57の軸線方向への張り出しにより、ブレーキシュー40はアンカーピン44を中心に外方へ揺動し、ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押圧され、これら両者間の摩擦によりブレーキドラム31の回転が制動される。
【0047】
ブレーキ操作が解除されると、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力によりウェッジ収容部51aからの抜脱方向(
図3および
図4の上方向)へ移動する。スクリュウ57およびスリーブアッシー53は、両ブレーキシュー40,40間に跨設されたリターンスプリング45の作用により、シリンダ部51b内を軸線方向の他端側から一端側へ向けて移動し、軸線方向内方へ格納される。スリーブ55の移動量がガタの範囲内であれば、スリーブ55は張り出し時と同様に回転することなくシリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。
【0048】
一方、ライニング43が摩耗してくると、ブレーキ作動時に同一の制動効果を得るため、スクリュウ57およびスリーブアッシー53の軸線方向の移動量が大きくなってくる。このとき、ブレーキ作動時のスリーブ55の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dの噛合面がドライブリング62の噛合面に当接し、ドライブリング62
が軸線方向の他端側へ向けて押圧力を受ける。この押圧力により傾斜面51cおよび円錐面62aの間の摩擦力が低減し、ドライブリング62がヘリカルスプライン55dの噛合面に沿って回転する。なお、スリーブ55は、ラップスプリング61のワンウェイクラッチ機能によりタペット54に対する相対回転を阻止され、シリンダ部51b内を軸線方向に沿って直動する。
【0049】
また、ブレーキ操作が解除されると、スクリュウ57およびスリーブアッシー53がリターンスプリング45の付勢力により軸線方向の一端側へ戻されることで、ドライブリング62とヘリカルスプライン55dとの当接が解かれる。すると、ドライブリング62がドライブスプリング63の付勢力により軸線方向の一端側へ押圧され、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させる。それにより、ドライブリング62は当接面での摩擦抵抗により回転が規制される。これに対して、スリーブ55は、ヘリカルスプライン55dとドライブリング62との間のガタ分相当量については、抵抗を受けることなくシリンダ部51b内を軸線方向の一端側へ向けて移動する。一方、スリーブ55の移動量がガタ分相当量を越えると、ヘリカルスプライン55dがドライブリング62の他端側の噛合面と当接して軸線方向の移動が阻止される。
【0050】
このとき、ドライブリング62は前述のようにハウジング51の傾斜面51cとの当接により回転が規制されており、自由に回転することができない。これに対して、スリーブアッシー53に内蔵されたラップスプリング61は、スリーブ55がドライブリング62の一端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば左回転)に対しては回転を規制させ、スリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される方向(例えば右回転)に対しては回転を許容させるように形成されている。そのため、今度はスリーブ55がドライブリング62の他端側の噛合面に沿って回転される。なお、このとき、タペット54に対するスリーブ55の相対回転に対してサークリップ56によって摩擦抵抗が付与されるが、リターンスプリング45はこの摩擦力に抗してスリーブ55を回転させるだけの付勢力を発揮する。
【0051】
ここで、スクリュウ57は、ブレーキシュー40に係止されて回転規制されたクリップ58からの摩擦抵抗を受けている。この摩擦抵抗は、スクリュウ57とスリーブ55とのネジ面の摩擦抵抗よりも大きいため、スクリュウ57はスリーブ55とともに一体回転しない。そのため、スリーブ55は、タペット54およびスクリュウ57に対して単独で回転する。そして、このスリーブ55の回転により、スクリュウ57がスリーブ55の回転量(回転角度)に応じた繰出量だけ軸線方向の外方へ向けて繰り出される。
【0052】
このように、間隙調整機構6では、ライニング43が摩耗すると、ブレーキ作動時には、スリーブ55が所定量(ガタ分相当量)を超過して移動する一方で、ブレーキ解除時には、スリーブ55がこの超過量に応じた回転量(回転角度)だけ回転してスクリュウ57を繰り出させることにより、ライニング43とドラムブレーキ31との間隙が常に一定となるように自動調整する。
【0053】
このとき、制御部75は、現時点におけるライニング43の摩耗量を検知するため、回転センサ72から入力される検出情報に基づき、スリーブ55の回転量(累積回転数)を常時監視している。つまり、制御部75は、回転センサ72から検出情報が入力される毎に、現時点におけるスリーブ55の累積回転数を算出し、この累積回転数と予め定められた限界回転数とを比較して、スリーブ55の累積回転数が限界回転数に達しているか否かを判定する。そして、制御部75は、スリーブ55の累積回転数が限界回転数に達したことを判定した場合に、ライニング43の摩耗量が使用限界に近づいていると判断し、車両の電子制御ユニットECUに対して警報信号を出力する。
【0054】
電子制御ユニットECUは、制御部75からの警報信号を入力すると、所定の警報作動を実行する。所定の警報作動とは、前述したように、例えば、車両の運転席に配置された警報ランプの点灯、警報音の出力、警報ランプの点灯などにより、運転者に対してライニング43の使用限界が近づいていることを報知することである。
【0055】
このような警報作動が行われた場合、それ以上のライニング43の使用はブレーキの制動力の低下を招くため(走行の安全性が低下するため)、ブレーキシュー40(ライニング43)の交換作業が必要となる。それにより、ブレーキシュー40が新品に交換された後は、リセットスイッチ79を操作して、制御部75のメモリに記憶された累積回転数(回転数の積算値)をゼロリセットする。
【0056】
以上、本実施形態に係るドラムブレーキBによれば、シュークリアランスを調整するときのスリーブ55の回転量がライニング43の摩耗量と等価の関係であることを利用して、スリーブ55の回転量を回転センサ72にて検出し、このスリーブ55の回転量(累積回転数)に基づきライニング43の摩耗状態を検出することで、ライニング43が使用限界に達する以前であっても(例えば車両の点検時に限らず走行中においても)、ライニング43の摩耗状態を高精度に検出することが可能になるとともに、ライニング43が使用限界に達してブレーキシュー40を交換するときに、従来技術の如く摩耗検知具を交換する必要がなくなるため、部品コストおよび交換工数を削減して、ランニングコストを抑制することが可能となる。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜改良可能である。
【0058】
上記実施形態では、回転センサ72の一例としてポテンショメータを例示して説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、ロータリーエンコーダやレーザーセンサなどの他の回転センサを適用してもよい。
【0059】
上記実施形態では、スリーブ55の限界回転数を19回転(9.5mmの摩耗量に対応する回転数)に設定しているが、この構成に限定されるものではなく、例えば、スリーブ55の限界回転数は車両の要求仕様等に応じて適宜に設定することができる。
【0060】
上記実施形態では、ドラムブレーキBとして、リーディングトレーリング式のドラムブレーキを例示して説明したが、この構成に限定されるものではなく、例えば、ユニサーボ式、デュオサーボ式、あるいは2リーディング式のドラムブレーキを適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
B ドラムブレーキ
1 車軸(回転部材)
2 アンカーブラケット(固定部材)
3 ドラムユニット
4 ブレーキシューユニット
5 エキスパンダ
6 間隙調整機構
7 摩耗検出装置
31 ブレーキドラム
40 ブレーキシュー
43 ライニング(ブレーキライニング)
53 スリーブアッシー
54 タペット(押圧力発生部材)
55 スリーブ(伝達部材)
55g 出力ギア(第1ギア)
57 スクリュウ(押圧部材)
61 ラップスプリング
70 回転検出機構(回転検出部)
71 検出ギア(第2ギア)
72 回転センサ
75 制御部
76 回転数演算部
77 摩耗判定部
79 リセットスイッチ