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特許7445486ブレーキ駆動回路および電磁ブレーキシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ブレーキ駆動回路および電磁ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/695 20060101AFI20240229BHJP
   H02P 3/04 20060101ALI20240229BHJP
   H03K 17/04 20060101ALI20240229BHJP
   H03K 17/615 20060101ALI20240229BHJP
   H03K 17/64 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H03K17/695
H02P3/04 B
H03K17/04 J
H03K17/615
H03K17/64
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020055465
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021158472
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正志
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126017(JP,A)
【文献】特開2006-002807(JP,A)
【文献】特開昭64-061940(JP,A)
【文献】米国特許第03525883(US,A)
【文献】特開平05-022968(JP,A)
【文献】特開2010-081043(JP,A)
【文献】特開昭61-220523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00-17/70
H02P 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁ブレーキの励磁コイルと接続されるフルブリッジ回路と、
前記励磁コイルに流れるコイル電流を検出する電流検出回路と、
励磁指令に応答して、前記フルブリッジ回路の対角のアームのトランジスタペアの駆動を開始し、アーマチュアの移動開始に起因する前記コイル電流の変動を検出すると、前記対角のアームの前記トランジスタペアのデューティサイクルを低下させるコントローラと、
を備え
前記フルブリッジ回路は、
前記励磁コイルが接続される第1出力端子および第2出力端子と、
前記第1出力端子と正極電源ラインの間に設けられる第1トランジスタと、
前記第1出力端子と負極電源ラインの間に設けられる第1ダイオードと、
前記第2出力端子と前記負極電源ラインの間に設けられる第2トランジスタと、
前記第2出力端子と正極電源ラインの間に設けられるダーリントン回路と、
前記ダーリントン回路の制御端子と第2出力端子の間に設けられるツェナーダイオードと、を含み、
前記ダーリントン回路は、
ベースが前記ツェナーダイオードのアノードと接続される第3トランジスタと、
ベースが前記第3トランジスタのエミッタと接続される第4トランジスタと、
前記第3トランジスタのコレクタと接続される抵抗と、
を含むことを特徴とするブレーキ駆動回路。
【請求項2】
電磁ブレーキの励磁コイルと接続されるフルブリッジ回路と、
前記励磁コイルに流れるコイル電流を検出する電流検出回路と、
励磁指令に応答して、前記フルブリッジ回路の対角のアームのトランジスタペアの駆動を開始し、アーマチュアの移動開始に起因する前記コイル電流の変動を検出すると、前記対角のアームの前記トランジスタペアのデューティサイクルを低下させるコントローラと、
を備え
前記フルブリッジ回路は、
前記励磁コイルが接続される第1出力端子および第2出力端子と、
前記第1出力端子と正極電源ラインの間に設けられる第1トランジスタと、
前記第1出力端子と負極電源ラインの間に設けられるダーリントン回路と、
前記ダーリントン回路の制御端子と前記第1出力端子の間に設けられるツェナーダイオードと、
前記第2出力端子と前記負極電源ラインの間に設けられる第2トランジスタと、
前記第2出力端子と正極電源ラインの間に設けられるダイオードと、
を含み、
前記ダーリントン回路は、
ベースが前記ツェナーダイオードのアノードと接続される第3トランジスタと、
ベースが前記第3トランジスタのエミッタと接続される第4トランジスタと、
前記第3トランジスタのコレクタと接続される抵抗と、
を含むことを特徴とするブレーキ駆動回路。
【請求項3】
電磁ブレーキと、
前記電磁ブレーキのコイルを駆動する請求項1または2に記載のブレーキ駆動回路と、
を備えることを特徴とする電磁ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの回転を停止させる手段として、電磁ブレーキが広く用いられる。電磁ブレーキは機械ブレーキのひとつである。無励磁作動型の電磁ブレーキにおいて、励磁コイルの無通電状態では、アーマチュアがスプリングコイルによってブレーキハブに押し付けられ、ブレーキの制動状態となる。励磁コイルに電圧が印加されると、電磁石がアーマチュアを吸引し、ブレーキの開放状態となる。このような特性から、無励磁作動型の電磁ブレーキは、非常事態や停電時の安全性を優先すべき用途で多く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-185596号公報
【文献】特表2015-533206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、直流電圧源によって電磁ブレーキの励磁コイルを駆動する。そのため、励磁開始後に、ブレーキが開放されるまでの時間を短くするためには、直流電圧を大きくする必要がある。その場合、ブレーキが働いた保持状態における電流が大きくなってしまい、消費電力が増加する。
【0005】
反対に、ブレーキ開放状態における電流を小さくするために直流電圧を小さくすると、ブレーキが開放されるまでの時間が長くなる。このように従来では、ブレーキの開放時間と消費電力はトレードオフの関係にあった。
【0006】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ブレーキの開放時間を短縮しつつ、消費電力を削減可能な駆動回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のブレーキ駆動回路は、電磁ブレーキの励磁コイルと接続されるフルブリッジ回路と、励磁コイルに流れるコイル電流を検出する電流検出回路と、励磁指令に応答して、フルブリッジ回路の対角のアームのトランジスタペアの駆動を開始し、アーマチュアの移動開始に起因するコイル電流の変動を検出すると、トランジスタペアのデューティサイクルを低下させるコントローラと、を備える。
【0008】
アーマチュアが移動し始めた瞬間、逆起電力が発生するため、コイル電流が一時的に減少する。このコイル電流の変化を検出することで、ブレーキが実際に開放されたタイミングを知ることができる。
【0009】
フルブリッジ回路の電源電圧をVPN、コイル電流の変動の検出前のトランジスタペアのデューティサイクルをd1、コイル電流の変動の検出後のトランジスタペアのデューティサイクルをd2とする。励磁指令の発生直後に、励磁コイルに印加される駆動電圧Vはd1×VPNと等しく、アーマチュアの移動開始後の駆動電圧Vは、d2×VPNとなり、VPNとd1,d2の3つのパラメータで、駆動条件を既定できる。したがってVPNおよびデューティサイクルd1を大きく設計して、ブレーキ開放に要する時間を短縮しつつ、デューティサイクルd2を小さくすることにより、ブレーキ開放後の電流を削減することができ、消費電力を低減できる。
【0010】
フルブリッジ回路は、励磁コイルが接続される第1出力端子および第2出力端子と、第1出力端子と正極電源ラインの間に設けられる第1トランジスタと、第1出力端子と負極電源ラインの間に設けられるダイオードと、第2出力端子と負極電源ラインの間に設けられる第2トランジスタと、第2出力端子と正極電源ラインの間に設けられるダーリントン回路と、ダーリントン回路の制御端子と第2出力端子の間に設けられるツェナーダイオードと、を含んでもよい。
【0011】
この態様によると、第2出力端子に、正極電源ラインの電圧よりも高い電圧を発生することができ、ブーストされた電圧を励磁コイルに印加することで、電磁ブレーキの制動が有効となるまでの時間を短縮できる。
【0012】
フルブリッジ回路は、励磁コイルが接続される第1出力端子および第2出力端子と、第1出力端子と正極電源ラインの間に設けられる第1トランジスタと、第1出力端子と負極電源ラインの間に設けられるダーリントン回路と、ダーリントン回路の制御端子と第1出力端子の間に設けられるツェナーダイオードと、第2出力端子と負極電源ラインの間に設けられる第2トランジスタと、第2出力端子と正極電源ラインの間に設けられるダイオードと、を含んでもよい。
【0013】
この態様によると、第1出力端子に、負極電源ラインの電圧よりも低い電圧を発生することができ、ブーストされた電圧を励磁コイルに印加することで、電磁ブレーキの制動が有効となるまでの時間を短縮できる。
【0014】
ダーリントン回路は、ベースがツェナーダイオードのアノードと接続される第3トランジスタと、ベースが第3トランジスタのエミッタと接続される第4トランジスタと、第3トランジスタのコレクタと接続される抵抗と、を含んでもよい。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【0016】
さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある態様によれば、ブレーキの開放時間を短縮しつつ、消費電力を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】モータを備える制御系のブロック図である。
図2】実施の形態に係るブレーキ駆動回路の回路図である。
図3図3(a)は、図2のブレーキ駆動回路の動作波形図であり、図3(b)は、比較技術に係るブレーキ駆動回路の動作波形図を示す。
図4】変形例1に係るブレーキ駆動回路の回路図である。
図5】変形例2に係るフルブリッジ回路の回路図である。
図6図5のフルブリッジ回路の動作波形図である。
図7】変形例3に係るフルブリッジ回路の回路図である。
図8図7のフルブリッジ回路の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、モータを備える制御系のブロック図である。整流器10は、交流電圧を整流する。インバータ20は、整流器10が生成した直流電圧VDCを交流電圧に変換し、モータ2を駆動する。
【0021】
ブレーキ駆動回路100は、電磁ブレーキ4の励磁コイルに励磁(通電)、無励磁(非通電)を切り替えることにより、開放および制動を切り替える。
【0022】
図2は、実施の形態に係るブレーキ駆動回路100を備える電磁ブレーキシステム6の回路図である。ブレーキ駆動回路100は、正極電源ライン102、負極電源ライン104、フルブリッジ回路110、電流検出回路120、コントローラ130、ゲートドライバ回路140を備える。
【0023】
正極電源ライン102と負極電源ライン104の間には、電源電圧VPNが供給される。たとえば負極電源ライン104を基準にとり、その電位を0Vとする。フルブリッジ回路110は、電磁ブレーキ4の励磁コイルL1と接続される。本実施の形態において、フルブリッジ回路110は、4個のアームA1~A4を含む。上アームA1および下アームA3は、第1出力端子OUT1側のレグを形成し、上アームA4および下アームA2は、第2出力端子OUT2側のレグを形成している。本実施の形態では、各アームA1~A4は、パワートランジスタとフライホイルダイオード(還流ダイオード)を含む。
【0024】
電流検出回路120は、励磁コイルL1に流れるコイル電流Iを検出し、電流検出信号S2を生成する。コントローラ130は、電磁ブレーキ4の状態を指示する励磁指令S1および電流検出信号S2にもとづいて、各アームA1~A4のパワートランジスタのオン、オフを指示する制御信号S3を生成する。ゲートドライバ回路140は、制御信号S3にもとづいて、各アームA1~A4のパワートランジスタを駆動する。
【0025】
コントローラ130は、ブレーキ開放を指示する励磁指令S1に応答して、フルブリッジ回路110の対角のアームA1,A2のトランジスタペアの駆動を開始する。そして、コントローラ130は、電流検出信号S2を監視し、アーマチュアの移動開始に起因するコイル電流Iの変動を検出すると、対角のアームA1,A2のトランジスタペアのデューティサイクルを低下させる。
【0026】
コントローラ130におけるコイル電流Iの変動の検出方法は特に限定されない。たとえばコントローラ130は、アナログコンパレータを含み、電流検出信号S2をしきい値と比較してもよい。あるいはハイパスフィルタに電流検出信号を入力して、スパイク状の変化を抽出してもよい。
【0027】
コントローラ130は、電流検出信号S2をデジタル値に変換し、デジタル信号処理によって、同等の処理を行ってもよい。あるいは波形マッチングによって、コイル電流Iの変動を検出してもよい。
【0028】
以上がブレーキ駆動回路100の構成である。続いてその動作を説明する。図3(a)は、図2のブレーキ駆動回路100の動作波形図である。図3(b)は、比較技術に係るブレーキ駆動回路の動作波形図を示す。
【0029】
図3(a)を参照し、ブレーキ駆動回路100の動作を説明する。時刻tより前において、励磁指令S1はネゲート(ロー)であり、コイル電流Iはゼロであり、電磁ブレーキ4は制動状態である。時刻tに励磁指令S1がアサート(ハイ)されると、コントローラ130は、対角のアームA1,A2のトランジスタペアの駆動を開始する。この例では、駆動開始直後のデューティサイクルd1は100%であり、固定的にオンされている。これにより、励磁コイルL1の両端間に、電源電圧VPNとほぼ等しい駆動電圧Vが印加される。そしてコイル電流Iが増加すると、電磁ブレーキ4の力が弱まっていく。そして時刻tにアーマチュアが移動し始めると、電磁ブレーキ4に逆起電力が発生し、コイル電流Iが一時的に低下する。この変化は、図3(a)においてスパイク状の信号波形で示されている。コントローラ130は、このコイル電流Iの変化を検出すると、対角のアームA1,A2のトランジスタペアのデューティサイクルを、d1(=100%)より小さい値d2に減少させる。時刻t以降の、電磁ブレーキ4に印加される駆動電圧Vの実効値(平均値)は、V=VPN×d2となる。これによりコイル電流Iの上昇が抑制され、消費電力が削減される。
【0030】
続いて図3(b)を参照する。ブレーキ駆動回路100の利点は、比較技術との対比によって明確となる。比較技術では、励磁指令S1がアサートされると、対角のアームA1,A2のトランジスタペアは固定的にオンされる。
【0031】
比較技術において、ブレーキが開放された後の保持電流を実施の形態と同程度とするためには、比較技術における電源電圧VPN’を、実施の形態の電源電圧VPNに比べて低く設計する必要がある。そうすると、励磁指令S1がアサートされた直後において、コイル電流Iの増大する速度が遅くなり、ブレーキが開放されるまでの時間tが長くなる。これに対して、実施の形態では、比較技術に比べて、ブレーキの開放時間が短縮できる。
【0032】
あるいは比較技術においてブレーキの開放時間を実施の形態と同程度とする場合、比較技術における電源電圧VPNは、実施の形態の電源電圧VPNと同じ電圧レベルとすればよい。しかしながら比較技術ではブレーキが開放された後に、駆動電圧Vが電源電圧VPNと等しいため、ブレーキ開放後のコイル電流(保持電流)が大きくなってしまう。これに対して、実施の形態では、比較技術に比べて、保持電流を削減でき、消費電力を低減できる。
【0033】
このように、本実施の形態では、ブレーキの開放時間と保持電流のトレードオフの関係を解消し、短い開放時間と少ない保持電流を両立できる。
【0034】
続いてブレーキ駆動回路100の変形例を説明する。
【0035】
(変形例1)
図4は、変形例1に係るブレーキ駆動回路100Aの回路図である。この変形例1において、フルブリッジ回路110Aは、対角フルブリッジ回路であり、対角のアームA3,A4が、ダイオードで構成される。その他は図2と同様である。この変形例においても、実施の形態と同様の効果が得られる。
【0036】
(変形例2)
図5は、変形例2に係るフルブリッジ回路110Bの回路図である。フルブリッジ回路110Bは、第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2、第1ダイオードD1、ダーリントン回路112、ツェナーダイオードZD1を備える。第1トランジスタTr1および第2トランジスタTr2は、上述の対角のアームA1,A2のトランジスタペアである。また第1ダイオードD1は、アームA3に対応し、ダーリントン回路112およびツェナーダイオードZD1は、アームA4に対応する。
【0037】
第1トランジスタTr1は、第1出力端子OUT1と正極電源ライン102の間に設けられる。第1ダイオードD1は、第1出力端子OUT1と負極電源ライン104の間に設けられる。第2トランジスタTr2は、第2出力端子OUT2と負極電源ライン104の間に設けられる。第1トランジスタTr1および第2トランジスタTr2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0038】
ダーリントン回路112は、第2出力端子OUT2と正極電源ライン102の間に設けられる。ツェナーダイオードZD1は、ダーリントン回路112のゲート(すなわちベース)と第2出力端子OUT2の間に設けられる。
【0039】
ダーリントン回路112は、NPN型バイポーラトランジスタである第3トランジスタTr3および第4トランジスタTr4と、抵抗R1を含む。第3トランジスタTr3は、ベースがツェナーダイオードZD1のアノードと接続される。第4トランジスタTr4のエミッタは正極電源ライン102と接続され、そのコレクタは第2出力端子OUT2と接続され、ベースが第3トランジスタTr3のエミッタと接続される。抵抗R1は、第3トランジスタTr3のコレクタと第2出力端子OUT2の間に設けられる。
【0040】
以上が変形例2に係るフルブリッジ回路110Bの構成である。このフルブリッジ回路110Bを用いた場合も、実施の形態と同様の効果が得られる。続いてこのフルブリッジ回路110Bを備えるブレーキ駆動回路のブレーキをかけるときの動作を説明する。
【0041】
図6は、図5のフルブリッジ回路110Bの動作波形図である。時刻tより前は、ブレーキの開放期間であり、第1トランジスタTr1および第2トランジスタTr2がデューティサイクルdでスイッチングしており、励磁コイルL1には、図5の回路図において右向きに、電流量Iのコイル電流Iが流れている。なお、実際には時刻tより前において、第1出力端子OUT1、第2出力端子OUT2の電圧はスイッチングしているが、図6では簡略化して示している。
【0042】
時刻tに、励磁指令S1がネゲート(ロー)され、制動指令が発生すると、フルブリッジ回路110Bの第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2がオフとなる。そうすると、コイル電流Iは、ダイオードD1、コイルL1、ダーリントン回路112の経路に流れ始める。このときの第1出力端子OUT1の電圧は0Vとなり、第2出力端子OUT2の電圧は、VPN+Vz+2×Vbeとなる。Vzは、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧であり、Vbeは、第3トランジスタTr3および第4トランジスタTr4のベースエミッタ間電圧である。Vbe≒0とみなせる場合、第2出力端子OUT2の電圧は、VPN+Vzと近似される。このとき、コイルL1の両端間には、V≒VPN+Vzが印加される。
【0043】
時刻t以降のコイル電流Iは、式(1)で表され、時間とともに減少していく。
=I-∫(VPN+Vz)/Ldt
=I-{(VPN+Vz)/L}×t …(1)
コイル電流Iが0となるまでの消弧時間τは、式(2)で表される。
τ=L・I/(VPN+Vz) …(2)
【0044】
図6には、図4の対角ブリッジ回路110Aを用いたときの動作が一点鎖線で示す。このときの消弧時間τ’は、式(3)で与えられ、消弧時間τ’は、変形例2における消弧時間τの(VPN+Vz)/VPN倍となる。言い換えると、変形例2によれば、消弧時間を、VPN/(VPN+Vz)に短縮できる。
τ’=L/VPN・I …(3)
【0045】
無励磁型の電磁ブレーキでは、消弧時間τによって、制動が開始する時間が規定される。したがって、消弧時間τを短縮することにより、高速な制動が可能となる。
【0046】
また駆動回路100Bは、トランジスタTr3やTr4を駆動するためのゲート駆動回路が不要であるため、図2のフルブリッジ回路よりも簡素に構成できるという利点がある。
【0047】
(変形例3)
図7は、変形例3に係るフルブリッジ回路110Cの回路図である。フルブリッジ回路110Cは、第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2、ダイオードD2、ダーリントン回路112、ツェナーダイオードZD1を備える。第1トランジスタTr1および第2トランジスタTr2は、上述の対角のアームA1,A2のトランジスタペアである。またダーリントン回路112およびツェナーダイオードZD1は、アームA3に対応し、ダイオードD2はアームA4に対応する。
【0048】
変形例3と変形例2の相違点はダーリントン回路112の位置であり、具体的には第1出力端子OUT1と負極電源ライン104の間に変更されている。
【0049】
図8は、図7のフルブリッジ回路110Cの動作波形図である。時刻tより前は、ブレーキの開放期間であり、第1トランジスタTr1および第2トランジスタTr2がデューティサイクルdでスイッチングしており、励磁コイルL1には、図7の回路図において右向きに、電流量Iのコイル電流Iが流れている。なお、実際には時刻tより前において、第1出力端子OUT1、第2出力端子OUT2の電圧はスイッチングしているが、図6では簡略化して示している。
【0050】
時刻tに、励磁指令S1がネゲートされ、制動指令が発生すると、駆動回路100Bの第1トランジスタTr1、第2トランジスタTr2がオフとなる。そうすると、コイル電流Iは、ダーリントン回路112、コイルL1、ダイオードD2の経路に流れ始める。このときの第1出力端子OUT1の電圧は-(Vz+2×Vbe)となり、第2出力端子OUT2の電圧はVPNとなる。このとき、コイルL1の両端間には、V≒VPN+Vzが印加される。
【0051】
変形例2と同様に、時刻t以降のコイル電流Iは、式(1)で表され、時間とともに減少していく。そしてコイル電流Iが0となるまでの消弧時間τは、式(2)で表される。このように変形例3においても、変形例2と同様に、消弧時間τを短縮できる。
【0052】
第1トランジスタTr1や第2トランジスタTr2としては、IGBTに代えて、バイポーラトランジスタ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)などのパワートランジスタを用いることができる。
【0053】
ダーリントン回路112の構成は、図示した回路に限定されない。図5図7では2段のダーリントン回路を示したが、3段以上で構成してもよい。またトランジスタTr3やTr4をFETで構成してもよい。この場合、図5の構成においては、ダーリントン回路112の制御端子であるゲートと、正極電源ライン102の間に、抵抗などを含む電流経路を追加してよい。あるいは図7の構成においては、ダーリントン回路112の制御端子であるゲートと、負極電源ライン104の第1出力端子OUT1の間に、抵抗などを含む電流経路を追加してよい。
【0054】
図5において、第2出力端子OUT2とダーリントン回路112の制御端子の間に、ツェナーダイオードZD1と直列に、抵抗やダイオードを追加してもよい。図7においても同様であり、負極電源ライン104とダーリントン回路112の制御端子の間に、ツェナーダイオードZD1と直列に、抵抗やダイオードを追加してもよい。これにより、さらにブースト量を増やすことができる。
【0055】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0056】
100 駆動回路
OUT1 第1出力端子
OUT2 第2出力端子
Tr1 第1トランジスタ
Tr2 第2トランジスタ
Tr3 第3トランジスタ
Tr4 第4トランジスタ
D1 第1ダイオード
D2 第2ダイオード
102 正極電源ライン
104 負極電源ライン
110 ダーリントン回路
ZD1 ツェナーダイオード
R1 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8