IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ターゲット装置 図1
  • 特許-ターゲット装置 図2
  • 特許-ターゲット装置 図3
  • 特許-ターゲット装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ターゲット装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20240229BHJP
   G21G 1/10 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G21K5/08 C
G21G1/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020060889
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162318
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 喜信
(72)【発明者】
【氏名】ゲラゴメズ フランシスコ
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246131(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0000637(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0062342(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0280357(US,A1)
【文献】国際公開第2008/149600(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/08
G21G 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット液体を収容する第1の領域、及び第1の領域の上側に連続的に形成され、沸騰した前記ターゲット液体の気液混合体を受け入れる第2の領域を有するターゲット収容部と、
前記ターゲット液体に対して、照射されるビームの照射方向と反対側において、冷媒によって前記ターゲット収容部を冷却する冷却機構と、を備え、
前記冷却機構は、少なくとも前記第1の領域を冷却する第1の冷却部、及び少なくとも前記第2の領域を冷却する第2の冷却部を備え、
前記第1の冷却部は、前記ターゲット収容部の前記第1の領域へ向けて前記冷媒を噴射する第1の噴射部材を備え、
前記第2の冷却部は、前記ターゲット収容部の前記第2の領域へ向けて前記冷媒を噴射する、前記第1の噴射部材とは離間して配置された異なる部材である第2の噴射部材を備える、ターゲット装置。
【請求項2】
前記第2の噴射部材は、前記第2の領域において上方から下方へ向かう前記冷媒の流れを形成する、請求項1に記載のターゲット装置。
【請求項3】
前記第2の噴射部材は、前記第2の領域において下方から上方へ向かう前記冷媒の流れを形成する、請求項1に記載のターゲット装置。
【請求項4】
前記第2の冷却部では、前記第2の噴射部材による噴射箇所よりも下側において、前記上方から下方へ向かう前記冷媒の流れが形成される、請求項2に記載のターゲット装置。
【請求項5】
前記第1の冷却部において前記冷媒が流れる第1の内部空間と、前記第2の冷却部において前記冷媒が流れる第2の内部空間とは、互いに仕切られている、請求項1~4のいずれか1項に記載のターゲット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポジトロン断層撮影法(PET:Positron Emission Tomography)を用いたPET検査の検査用薬剤に使用される放射性同位元素は、病院内の検査室に近い場所に設置されるサイクロトロン等の放射線源を用いて製造される。具体的には、放射線源からの放射線(例えば、陽子線や重陽子線等の粒子線)をターゲット装置に導き、ターゲット装置に収容されているターゲット液体(例えば、ターゲット水(18O水))との核反応により放射性同位元素を製造する。そして、製造された放射性同位元素を所定の化合物(例えば、フルオロデオキシグルコース(FDG:Fluoro-Deoxy-Glucose))に組み込んだり、その一部を置き換えたりして合成することで、検査用薬剤を製造する。
【0003】
このような放射性同位元素を製造するためのターゲット液体を収容する装置として、ターゲット液体を収容する部分と、沸騰したターゲット液体の気液混合体を受け入れる部分と、を背面から冷却する冷却機構を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-220930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ターゲット液体に対して照射する放射線の強度を高くした場合、ターゲット収容部を冷却する冷却部に高い冷却性能が求められる。上述のターゲット装置の冷却機構は、ターゲット液体が収容されている部分の背面(伝熱壁部)に対して放射線と同軸になるように冷媒を噴射している。そして、ターゲット装置の冷却機構は、当該噴射によって伝熱壁部に当たった後に放射状に拡散した冷媒(液体を収容する部分から気液混合体を受け入れる部分に向かう上向きの流れ)にて、ターゲット液体の気液混合体を受け入れる部分背面から冷却している。しかしながら、当該構成では、十分な冷却性能を得られない場合がある。従って、冷却機構の冷却性能を向上できるターゲット装置が求められていた。
【0006】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、冷却機構による冷却性能を向上できるターゲット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るターゲット装置は、ターゲット液体を収容する第1の領域、及び第1の領域の上方であって沸騰したターゲット液体の気液混合体を受け入れる第2の領域を有するターゲット収容部と、ターゲット液体に対して、照射されるビームの照射方向と反対側において、冷媒によってターゲット収容部を冷却する冷却機構と、を備え、冷却機構は、少なくとも第1の領域を冷却する第1の冷却部、及び少なくとも第2の領域を冷却する第2の冷却部を備え、第2の冷却部は、第2の領域において上方から下方へ向かう冷媒の流れを形成する。
【0008】
上記のターゲット装置によれば、ターゲット収容部は、ターゲット液体を収容する第1の領域、及び第1の領域の上方であって沸騰したターゲット液体の気液混合体を受け入れる第2の領域を有する。これに対し、冷却機構は、少なくとも第1の領域を冷却する第1の冷却部、及び少なくとも第2の領域を冷却する第2の冷却部を備える。更に、第2の冷却部は、第2の領域において上方から下方へ向かう冷媒の流れを形成する。上方から下方へ流れる冷媒による冷却性能は、第1の冷却部で用いた冷媒をそのまま用いる場合の冷却性能に比して、高くすることができる。以上より、冷却機構による冷却性能を向上できる。
【0009】
第1の冷却部は、第1の領域との間の隔壁に対して冷媒を噴射する第1のノズル部を備え、第2の冷却部は、第2の領域との間の隔壁に対して冷媒を噴射する第2のノズル部を備え、第2の冷却部では、第2のノズル部による噴射箇所よりも下側において、上方から下方へ向かう冷媒の流れが形成されてよい。噴射による冷却は、他の強制対流と比較して、熱伝達係数が高く冷却効率が良い。従って、第1のノズル部の噴射による第1の領域の冷却に加えて、第2のノズル部が噴射によって第2の領域を冷却することで、冷却機構の冷却性能を更に高めることができる。
【0010】
第1の冷却部において冷媒が流れる第1の内部空間と、第2の冷却部において冷媒が流れる第2の内部空間とは、互いに仕切られていてよい。この場合、第1の冷却部と第2の冷却部とを互いに独立させた状態で、冷却を行うことができる。この場合、一方の冷却部の冷媒の流れが、他方の冷却部の冷媒の流れと干渉することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷却機構による冷却性能を向上できるターゲット装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係るターゲット装置の断面図である。
図2図2は、ターゲット液体にビームを照射しているときの状態におけるターゲット装置の断面図である。
図3図3は、ターゲット装置を後面側から見た図である。
図4図4は、ターゲット収容部の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るターゲット装置100の断面図である。図1は、照射軸RLの位置でターゲット装置100を切断した断面図である。図1は、ターゲット液体101にビームBを照射する前の状態を示す。図2は、ターゲット液体101にビームBを照射しているときの状態におけるターゲット装置100の断面図である。図3は、ターゲット装置100を後面側から見た図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係るターゲット装置100は、ビーム導入部1と、フォイル2と、ターゲット収容部3と、冷却機構4と、を備える。放射性同位元素製造装置は、上述のターゲット装置100と、図示されない加速器とを備える。加速器として例えばサイクロトロンなどが採用され、当該加速器は、荷電粒子線(以下、「ビーム」という。)を生成し、生成されたビームB(図2参照)は、照射軸RLに沿ってターゲット装置100に照射される。ターゲット装置100に照射されるビームBとしては、例えば、陽子線や重陽子線などの粒子線が挙げられる。ターゲット装置100は、加速器との間に配置されたマニホールド(不図示)を介して、加速器のビームBが導出される導出口に装着される。なお、以降の説明においては、照射軸RLが延びる方向を、ターゲット装置100の奥行方向D1と称する場合がある。また、奥行方向D1においてビームBが照射される側(ビームの進行方向の上流側)をターゲット装置100の前側と称し、反対側をターゲット装置100の後側と称する場合がある。また、ターゲット装置100の奥行方向D1及び上下方向と直交する方向を幅方向D2と称する場合がある。
【0016】
ターゲット装置100は、例えば、四角柱状の外形を有している。ターゲット装置100は、主にビーム導入部1を形成するための前面フランジ11と、主にターゲット収容部3を形成するためのターゲット容器12と、主に冷却機構4を形成するための流路形成部材13と、を備える。前面フランジ11、ターゲット容器12、及び流路形成部材13は、金属製のブロック体によって構成される。また、前面フランジ11、ターゲット容器12、及び流路形成部材13は、奥行方向D1において、前側から後側へ向かって順に重ね合わせられる。
【0017】
ターゲット装置100は、奥行方向D1において互いに平行となる前面100a及び後面100bと、幅方向D2において互いに平行となる側面100c及び側面100d(図3参照)と、上下方向において互いに平行となる上面100e及び下面100fと、を備える。前面100aは、前面フランジ11の奥行方向D1における前側の面によって構成される。なお、前面100aには、照射軸RLに対応する位置に、ビームBを導入するリング部材14が取り付けられている。後面100bは、流路形成部材13の奥行方向D1における後側の面によって構成される。側面100c,100dは、前面フランジ11、ターゲット容器12、及び流路形成部材13の幅方向D2における端面の組み合わせによって構成される。上面100eは、前面フランジ11、ターゲット容器12、及び流路形成部材13の上側の面の組み合わせによって構成される。下面100fは、前面フランジ11、ターゲット容器12、及び流路形成部材13の下側の面の組み合わせによって構成される。
【0018】
ビーム導入部1は、ビームBをターゲット装置100内に導入する部分である。ビーム導入部1は、ビームBの照射軸RLを中心とした導入孔21によって構成される。導入孔21は、リング部材14に形成された貫通孔及び前面フランジ11に形成された貫通孔の組み合わせによって構成される。導入孔21の後側の開口部では、フォイル2が露出している。従って、ビーム導入部1の導入孔21に導入されたビームBは、フォイル2に照射される。なお、ビーム導入部1を構成するリング部材14及び前面フランジ11は、例えばアルミ合金によって形成することができる。
【0019】
フォイル2は、ビーム導入部1とターゲット収容部3とを仕切る部材である。フォイル2は、前面フランジ11とターゲット容器12との間に挟まれる。フォイル2は、前面フランジ11によって、ターゲット容器12に押し付けられて固定されている。フォイル2は、ビームBの通過を許容する一方、ターゲット液体101やHeガスといった流体の通過を遮断する。従って、ビームBは、フォイル2に照射された後、当該フォイル2を通過してターゲット液体101に照射される。例えばHeガスは、フォイル2の前面に吹き付けられて、フォイル2の冷却用ガスとして用いられる。フォイル2は、例えばTi等の金属又は合金から形成された薄い箔であり、その厚さが10μm~50μm程度となっている。フォイル2は、少なくともビーム導入部1の導入孔21の全域を覆うように設けられる。また、フォイル2は、ターゲット収容部3の後述の凹部22の開口部の全域を覆うように設けられる。
【0020】
ターゲット収容部3は、ターゲット液体101を収容する部分である。ターゲット収容部3は、ターゲット容器12に形成された凹部22と、フォイル2と、によって囲まれる空間によって構成される。ターゲット容器12は、例えばNbによって形成することができる。ターゲット収容部3内には、ターゲット液体101として、18O(ターゲット水)が封入される。凹部22は、ターゲット容器12の前面のうち、例えば、フォイル2を挟んでいる固定面12aから奥行方向D1における後側へ窪んでいる。凹部22は、底面22aと、当該底面22aの外周縁から奥行方向D1における前側へ延びる周面22bと、を有する。ターゲット収容部3は、幅方向D2から見て、(後述のフィン29が設けられている点を除き)ターゲット装置100の中心線CL1を基準として対称な形状をしている。
【0021】
ターゲット容器12には、ターゲット収容部3内に不活性ガス(例えばHeガス)を導入するためのガス導入孔23が形成されている。このガス導入孔23は、ターゲット収容部3に連通し、ターゲット容器12の背面に設けられた開口部24aまで延在している。このターゲット容器12の背面の開口部24aには、さらに後方へ延びる配管経路24が接続されている。不活性ガスは、配管経路24及びガス導入孔23を通過してターゲット収容部3内に導入される。このようにターゲット収容部3内に高圧(例えば3MPa)の不活性ガスを導入することで、ターゲット収容部3内を高圧にし、ターゲット液体101の沸騰温度を上げることができる。
【0022】
ターゲット容器12には、ターゲット収容部3内にターゲット液体101を充填する際に利用されると共に、ターゲット収容部3内のターゲット液体101を排出する際に利用される流通孔26が形成されている。この流通孔26は、ターゲット収容部3に連通し、ターゲット容器12の背面に設けられた開口部27aまで延在している。このターゲット容器12の背面の開口部27aには、さらに後方へ延びる配管経路27が接続されている。そして、ターゲット液体101は、配管経路27及び流通孔26を通過してターゲット収容部3内に導入される。また、ターゲット収容部3内のターゲット液体101は、流通孔26及び配管経路27を通過して排出される。
【0023】
ターゲット収容部3は、ターゲット液体101を収容する第1の領域E1、及び第1の領域E1の上方であって沸騰したターゲット液体101の気液混合体102(図2参照)を受け入れる第2の領域E2を有する。なお、第2の領域E2が、沸騰した気液混合体102を受け入れる状態とは、ビームBの照射前はターゲット液体101が収容されず、ビームBの照射時に気液混合体102が収容される状態を意味する。第2の領域E2は、第1の領域E1の上側に連続的に形成される。沸騰前のターゲット液体101の液面は、第1の領域E1と第2の領域E2との間の境界部に設定される。本実施形態では、当該境界部は、照射軸RLよりも上側であって、中心線CL1よりも下側に設定される。従って、第2の領域E2の容積が、第1の領域E1の容積よりも大きい。ただし、第1の領域E1と第2の領域E2の容積の大きさの関係は特に限定されず、両者の容積が同じであってもよく、第1の領域E1の容積が大きくてもよい。気液混合体102は、内部に気泡が発生することにより液面が上昇して、第2の領域E2まで達する(図2参照)。
【0024】
図4を参照して、ターゲット収容部3の更に詳細な構造について説明する。図4(a)に示すように、ターゲット収容部3は、上端部及び下端部が半円状となったトラック形の形状を有する。第2の領域E2には、複数のフィン29が設けられている。複数のフィン29は、第1の領域E1との境界部付近から第2の領域E2の上端部まで上方に延びる。複数のフィン29は、幅方向W1に所定のピッチで並べられる。フィン29は、凹部22の底面22aから奥行方向D1の前側へ延びる。フィン29は、底面22aに固定される。フィン29の高さは特に限定されないが、フォイル2の位置まで延びてよい(図4(b)参照)。なお、第1の領域E1には、フィン29は設けられておらず、底面22aは平面状に広がっている。
【0025】
上述のように、第2の領域E2にフィン29を設けると、気液混合体102と冷却面との接触面積を増やすことができるため、第2の冷却部30Bの冷却性能を向上できる。その一方、第1の領域E1では、ビームBがフィン29に当たることを防止するため、フィン29が設けられていない。また、第2の領域E2では蒸発による気体成分が多いためにフィン29を設けることによる冷却効果が高くなる。それに比して、液体成分が多い第1の領域E1では、フィン29を設けると、その分、ターゲット液体101を収容するための容積を確保しなくてはならなくなる。冷却性能向上の影響よりも、ターゲット収容部3全体の外形が大きくなってしまうことの影響が大きくなる可能性がある。従って、第1の領域E1には、フィン29が設けられていない。
【0026】
図1に戻り、冷却機構4は、ターゲット液体101に対して照射されるビームBの照射方向と反対側(すなわち後面側)において、冷媒によってターゲット収容部3を冷却する。冷却機構4は、第1の領域E1を冷却する第1の冷却部30A、及び第2の領域E2を冷却する第2の冷却部30Bを備える。第1の冷却部30Aは、第1の内部空間31A内に配置されたノズル部32Aを備える。また、第2の冷却部30Bは、第2の内部空間31Bに配置されたノズル部32Bを備える。
【0027】
第1の内部空間31A及び第2の内部空間31Bは、内部に冷媒を流すための空間である。第1の内部空間31Aは、ターゲット収容部3の第1の領域E1に対して、奥行方向D1における後側に形成される。第2の内部空間31Bは、ターゲット収容部3の第2の領域E2に対して、奥行方向D1における後側に形成される。すなわち、第2の内部空間31Bは、第1の内部空間31Aの上側に設けられる。内部空間31A,31Bとターゲット収容部3との間には、伝熱壁部34(隔壁)が設けられている。
【0028】
また、第1の内部空間31Aと第2の内部空間31Bとは、隔壁36によって互いに仕切られている。これにより、内部空間31A,31Bは、前側から見て、上端部及び下端部が半円状となったトラック形の形状を上下方向の中央位置で分割(上端部側が内部空間31Bに対応し、下端部側が内部空間31Aに対応する)したような形状を有する(図3参照)。内部空間31A,31Bは、上述の形状にて、奥行方向D1に平行に延びる。なお、隔壁36は、ターゲット装置100の中心線CL1の位置に設けられている。そのため第1の内部空間31Aは、第2の領域E2の下端側の一部に差し掛かっている。なお、ターゲット容器12は、後面に凹部37を有する。また、流路形成部材13は、前面に凹部38A,38Bを有する。凹部38Aと凹部38Bとの間には隔壁36が設けられる。第1の内部空間31Aは、ターゲット容器12の凹部37と流路形成部材13の凹部38Aとの組み合わせによって形成される。第2の内部空間31Bは、ターゲット容器12の凹部37と流路形成部材13の凹部38Bとの組み合わせによって形成される。
【0029】
第1のノズル部32Aは、第1の領域E1との間の伝熱壁部34に対して冷媒を噴射する部材である。第1のノズル部32Aは、伝熱壁部34に対して垂直に冷媒を噴射する。第1のノズル部32Aは、伝熱壁部34のうち、照射軸RLと交差する位置(導入孔21と対向する位置であって、ビームBと同軸位置)に冷媒を噴射する。このとき、奥行方向D1から見て、第1のノズル部32Aのノズル中心は、ビームBの径内に配置される。第1のノズル部32Aは、奥行方向D1と平行に延びる円筒状の部材である。第1のノズル部32Aは、凹部38Aの底面に設けられている。第1のノズル部32Aは、伝熱壁部34から離間している。第1のノズル部32Aの先端部(奥行方向D1における前側の端部)には、径が拡大する拡径部32aが形成される。拡径部32aの外周面は、凹部37、凹部38Aの内周面及び隔壁36から離間している。
【0030】
第2のノズル部32Bは、第2の領域E2との間の伝熱壁部34に対して冷媒を噴射する部材である。第2のノズル部32Bは、伝熱壁部34に対して垂直に冷媒を噴射する。第2のノズル部32Bに噴射箇所は、気液混合体102の界面付近であることが好ましい。第2のノズル部32Bは、奥行方向D1と平行に延びる円筒状の部材である。第2のノズル部32Bは、凹部38Bの底面に設けられている。第2のノズル部32Bは、伝熱壁部34から離間している。第2のノズル部32Bの先端部(奥行方向D1における前側の端部)には、径が拡大する拡径部32bが形成される。拡径部32bの外周面は、凹部37、凹部38Bの内周面及び隔壁36から離間している。
【0031】
冷却機構4は、ノズル部32A,32Bから冷媒を噴射するための冷媒の流通機構40を備える。まず、後面100bには、冷媒を供給する供給管41が挿入される。供給管41は、流路形成部材13に形成された流路42を介して、第2のノズル部32Bの噴射口と連通している。第2の内部空間31Bの凹部38Bの底面には、第2の内部空間31B内の冷媒を回収する流路43が開口している。流路43は、流路形成部材13内を延びており、第1のノズル部32Aの噴射口と連通している。第1の内部空間31Aの凹部38Aの底面には、第1の内部空間31A内の冷媒を回収する流路44が開口している。流路44は、流路形成部材13の後面に挿入された回収管46と接続される。回収管46は、幅方向D2の一方側へ延びて(図3参照)、図示されない管を通過して、ターゲット装置100の上側に設けられた回収管47で回収される。
【0032】
次に、図2及び図3を参照して、ビームBの照射時における冷却機構4の冷媒の流れについて詳細に説明する。ターゲット液体101(図1参照)にビームBが照射されると、ターゲット液体101が沸騰して、気液混合体102が第2の領域E2まで引き込まれる。これにより、第1の領域E1ではF-18が生成される。このとき、供給管41から冷媒が供給されることで、第2のノズル部32Bが伝熱壁部34の第2の領域E2に対応する位置(具体的には界面付近)へ冷媒を噴射する(流れF1)。伝熱壁部34に衝突した冷媒は、衝突箇所から放射状に広がる。これにより、第2のノズル部32Bと伝熱壁部34との間には、第2の領域E2において上方から下方へ向かう冷媒の流れ(流れF2)が形成される。なお、第2の領域E2において下方から上方へ向かう冷媒の流れ(流れF3)も形成される。伝熱壁部34において広がった冷媒は、拡径部32bで折り返されて、流路43の開口部43aへ向かって流れて回収される(流れF4)。第2の内部空間31Bから回収された冷媒は、流路43を通過して第1のノズル部32Aへ向かう(流れF5)。これにより、第1のノズル部32Aが伝熱壁部34の第1の領域E1に対応する位置(具体的にはビームBと同軸位置)へ冷媒を噴射する(流れF6)。
【0033】
伝熱壁部34に衝突した冷媒は、衝突箇所から放射状に広がる。これにより、第1のノズル部32Aと伝熱壁部34との間には、第1の領域E1において上方から下方へ向かう冷媒の流れ(流れF7)が形成される。また、第1の領域E1において下方から上方へ向かう冷媒の流れ(流れF8)も形成される。なお、第2の領域E2は、第1の内部空間31Aにも一部さしかかるため、流れF8の上側の一部は第2の領域E2もさしかかっている(図2参照)。伝熱壁部34において広がった冷媒は、拡径部32aで折り返されて、流路44の開口部44aへ向かって流れて回収される(流れF9)。第1の内部空間31Aから回収された冷媒は、流路44を通過して回収管46へ向かう(流れF10)。また、冷媒は、回収管47で回収される(流れF11)。
【0034】
次に、本実施形態に係るターゲット装置100の作用・効果について説明する。
【0035】
本実施形態に係るターゲット装置100によれば、ターゲット収容部3は、ターゲット液体101を収容する第1の領域E1、及び沸騰したターゲット液体101の気液混合体102を受け入れる第2の領域E2(ビームB照射前は、ターゲット液体101を収容していない領域)を有する。これに対し、冷却機構4は、少なくとも第1の領域E1を冷却する第1の冷却部30A、及び少なくとも第2の領域E2を冷却する第2の冷却部30Bを備える。更に、第2の冷却部30Bは、第2の領域E2において上方から下方へ向かう冷媒の流れ(図2の流れF2)を形成する。上方から下方へ流れる冷媒による冷却性能は、第1の冷却部30Aで用いた冷媒をそのまま用いる場合の冷却性能に比して、高くすることができる。以上より、冷却機構4による冷却性能を向上できる。
【0036】
ターゲット収容部3において、加熱されて上昇してくるターゲット液体の蒸気成分は、第2の領域E2の上部に多く存在するが、それらの箇所では、凝縮熱伝達により多くの熱量を奪うことが期待される。従って、第2の冷却部30Bが、第2の領域E2の上部の伝熱壁部34に冷媒を当てることで、当該伝熱壁部34をより低い温度に保つことができる。従って、冷却性能を向上することができる。
【0037】
第1の冷却部30Aは、第1の領域E1との間の伝熱壁部34に対して冷媒を噴射する第1のノズル部32Aを備える。第2の冷却部30Bは、第2の領域E2との間の伝熱壁部34に対して冷媒を噴射する第2のノズル部32Bを備える。第2の冷却部30Bでは、第2のノズル部32Bによる噴射箇所よりも下側において、上方から下方へ向かう冷媒の流れ(図2の流れF2)が形成されてよい。噴射による冷却は、他の強制対流と比較して、熱伝達係数が高く冷却効率が良い。従って、第1のノズル部32Aの噴射による第1の領域E1の冷却に加えて、第2のノズル部32Bが噴射によって第2の領域E2を冷却することで、冷却機構4の冷却性能を更に高めることができる。
【0038】
第1の冷却部30Aにおいて冷媒が流れる第1の内部空間31Aと、第2の冷却部30Bにおいて冷媒が流れる第2の内部空間31Bとは、互いに仕切られていてよい。この場合、第1の冷却部30Aと第2の冷却部30Bとを互いに独立させた状態で、冷却を行うことができる。この場合、一方の冷却部の冷媒の流れが、他方の冷却部の冷媒の流れと干渉することを抑制することができる。
【0039】
噴射によって冷却を行う場合、ノズル中心付近は熱伝達係数が大きく熱効率が良いが、ノズル中心から離れた箇所では熱伝達係数が小さくなる。従って、効率良く冷却できる箇所は、毎分5~10リットルの冷媒の流量では、半径2cm程度にとどまる。例えば、後述の比較例のように、第1の冷却部30Aからの冷媒で第2の領域E2も冷却する場合、第2の領域E2は、第1のノズル部32Aから径方向に離れているため、十分な冷却が行われない場合がある。これに対し、第1の冷却部30Aと第2の冷却部30Bとを互いに独立させ、第2の冷却部30Bによって第2の領域E2専用の冷媒の流れを形成すると、第2の領域E2に対する冷却効率を大きく向上できる。
【0040】
比較例として、上述の実施形態に係るターゲット装置100から、第2の冷却部30B及び隔壁36を取り除いたものを準備する。比較例に係るターゲット装置は、第1のノズル部32Aの噴射によって生じた上方への冷媒の流れ(図2の流れF8に相当)を用いて、第2の領域を冷却する。このような比較例に係るターゲット装置において、18MeV、平均95μAのビームBがターゲット液体101に2時間照射された場合、ターゲット収容部3は最大3.5MPaに到達し、416GBqのF-18が生成された。それ以上にビーム電流を増加させると、ターゲット収容部3の圧力が推奨上限である4.2MPaを超え、ターゲットがダメージを受ける可能性がある。これに比して、本実施形態に係るターゲット装置100では、18MeV、平均95μAのビームBがターゲット液体101に2時間照射された場合、ターゲット収容部3は最大2.3MPaに到達し、450GBqのF-18が生成された。更に、平均167μAのビームBがターゲット液体101に2時間照射された場合、ターゲット収容部3は最大3.4MPaに到達し、755GBqのF-18が生成された。このように、本実施形態のターゲット装置100は、冷却機構4の冷却機構が高いことにより、比較例よりもビームBの強度を高くできる。
【0041】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
例えば、第2の冷却部は、第2の領域との間の隔壁に対して冷媒を噴射する第2のノズル部を備えていた。しかし、第2の冷却部は、第2の領域において上方から下方へ向かう冷媒の流れを形成しればよく、必ずしも第2のノズル部を有していなくともよい。例えば、第2の内部空間の上端から、伝熱壁部34において上方から下方へ流れるような冷媒の流れを形成してもよい。すなわち、上述の実施形態では、第2の冷却部は、噴射により下方から上方へ向かう流れ(図2の流れF3)も形成していたが、上方から下方へ向かう流れだけを形成してもよい。
【0043】
冷却機構における冷媒の流通機構は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、冷媒の供給管を一つだけ用い、第2の冷却部の噴射に用いられた冷媒を第1の冷却部の噴射でも用いている。これに代えて、第1の冷却部に対して専用の供給管を設け、第2の冷却部に対して専用の供給管を設けてもよい。また、冷媒の流路や配管の構成は適宜変更されてよい。
【符号の説明】
【0044】
3…ターゲット収容部、4…冷却機構、30A…第1の冷却部、30B…第2の冷却部、31A…第1の内部空間、31B…第2の内部空間、32A…第1のノズル部、32B…第2のノズル部、34…伝熱壁部(隔壁)、100…ターゲット装置。
図1
図2
図3
図4