(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】フィン先端位置の計測方法、フィン先端位置の計測システム、及びフィン先端位置の計測用冶具
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20240229BHJP
F01D 5/20 20060101ALI20240229BHJP
F01D 11/02 20060101ALI20240229BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
F01D25/00 V
F01D25/00 X
F01D5/20
F01D11/02
G01B11/00 B
(21)【出願番号】P 2020065281
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】水見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】クロキ ラミレス ホセ
(72)【発明者】
【氏名】石橋 光司
(72)【発明者】
【氏名】小寺 寿一
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 理
(72)【発明者】
【氏名】関原 傑
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132704(JP,A)
【文献】特開2017-120220(JP,A)
【文献】特開昭61-080005(JP,A)
【文献】特開2005-300478(JP,A)
【文献】特開2006-030164(JP,A)
【文献】特開2017-167078(JP,A)
【文献】特開平08-086653(JP,A)
【文献】特許第5908147(JP,B1)
【文献】特開2014-137273(JP,A)
【文献】特開2017-167079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
G01B 11/00
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線の延びる方向に配列された複数のシールフィンのうち、少なくとも1つの先端に、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面を有する冶具を取り付ける冶具取付工程と、
レーザーによって前記計測面を走査することで、前記軸線から前記計測面までの距離を取得する第一計測工程と、
前記計測面までの距離に、前記冶具の径方向の寸法を加算することで、前記軸線から前記シールフィンの先端までの距離を算出する第一算出工程と、
を含み、
前記
冶具は、
前記軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びる前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、
該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、
を有し、
前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少しているフィン先端位置の計測方法。
【請求項2】
レーザーによって前記シールフィン同士の間の底面を走査することで、前記軸線から前記底面までの距離を取得する第二計測工程と、
前記底面までの距離から、前記シールフィンの先端までの距離を減算することで、前記シールフィンの径方向における寸法を算出する第二算出工程と、
をさらに含む請求項1に記載のフィン先端位置の計測方法。
【請求項3】
前記第一計測工程では、径方向に対する前記冶具の傾き角度をさらに計測するとともに、該傾き角度に基づいて、前記軸線から前記計測面までの距離を補正する請求項1又は2に記載のフィン先端位置の計測方法。
【請求項4】
軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線の延びる方向に配列された複数のシールフィンのうち、少なくとも1つの先端に取り付けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面を有する冶具と、
前記計測面をレーザーによって走査することで、前記軸線から前記計測面までの距離を取得する計測部と、
前記計測面までの距離に、前記冶具の径方向の寸法を加算することで、前記軸線から前記シールフィンの先端までの距離を算出する演算部と、
を備え、
前記
冶具は、
前記軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるシールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、
該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、
を有し、
前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少しているフィン先端位置の計測システム。
【請求項5】
前記計測部は、レーザーによって前記シールフィン同士の間の底面を走査することで、前記軸線から前記底面までの距離をさらに取得し、
前記演算部は、前記底面までの距離から、前記シールフィンの先端までの距離を減算することで、前記シールフィンの径方向における寸法をさらに算出する請求項4に記載のフィン先端位置の計測システム。
【請求項6】
前記計測部は、径方向に対する前記冶具の傾き角度をさらに計測するとともに、該傾き角度に基づいて、前記軸線から前記計測面までの距離を補正する請求項4又は5に記載のフィン先端位置の計測システム。
【請求項7】
軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるシールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、
該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、
を有し、
前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少しているフィン先端位置の計測用冶具。
【請求項8】
前記計測面には、レーザーに対して他の部分と異なる反射態様を示す複数の検出部が形成されている請求項7に記載のフィン先端位置の計測用冶具。
【請求項9】
前記本体部の周方向における中央部は、前記軸線方向における寸法が周方向における両端部よりも小さい請求項7又は8に記載のフィン先端位置の計測用冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィン先端位置の計測方法、フィン先端位置の計測システム、及びフィン先端位置の計測用冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば蒸気タービンでは、回転体であるロータと、静止体であるノズルリングとの間に、蒸気の漏れをシールするためのシールフィンが設けられている。シールフィンは、経年使用に伴って摩耗したり倒れたりすることがある。その結果、シールフィンの先端とロータや翼環とのクリアランスが変化し、蒸気タービンの性能に影響が及ぶ可能性がある。このため、シールフィンの状態を定期的に検査する必要がある。また、未使用のシールフィンでもタービンの組立時にはクリアランスの調整が必要となる場合がある。このようなシールフィンのクリアランスを評価するための方法として、下記特許文献1に記載された技術が知られている。
【0003】
特許文献1に記載された評価方法では、車室を分解した状態で、シールフィンの周方向端部にレーザーを反射するリフレクタを取り付け、当該リフレクタにレーザーを照射する。これにより、鉛直方向及び水平方向におけるシールフィンのクリアランスが計測できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなリフレクタは、鋭利なシールフィンの先端に安定的に取り付けることが難しい。その結果、計測の精度が損なわれる虞がある。また、多数のリフレクタを都度配置し直して、計測対象の領域全体にかけて複数回の計測を行う必要があることから、作業時間が長期化する虞もある。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、容易かつ高精度に行うことが可能なフィン先端位置の計測方法、フィン先端位置の計測システム、及びフィン先端位置の計測用冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るフィン先端位置の計測方法は、軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線の延びる方向に配列された複数のシールフィンのうち、少なくとも1つの先端に、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面を有する冶具を取り付ける冶具取付工程と、レーザーによって前記計測面を走査することで、前記軸線から前記計測面までの距離を取得する第一計測工程と、前記計測面までの距離に、前記冶具の径方向の寸法を加算することで、前記軸線から前記シールフィンの先端までの距離を算出する第一算出工程と、を含み、前記冶具は、前記軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びる前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、を有し、前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少している。
【0008】
本開示に係るフィン先端位置の計測システムは、軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線の延びる方向に配列された複数のシールフィンのうち、少なくとも1つの先端に取り付けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面を有する冶具と、前記計測面をレーザーによって走査することで、前記軸線から前記計測面までの距離を取得する計測部と、前記計測面までの距離に、前記冶具の径方向の寸法を加算することで、前記軸線から前記シールフィンの先端までの距離を算出する演算部と、を備え、前記冶具は、前記軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるシールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、を有し、前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少している。
【0009】
本開示に係るフィン先端位置の計測用冶具は、軸線に対する径方向に突出し、周方向に延びるシールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟む保持部と、該保持部の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線方向に広がる平坦状の計測面が形成された本体部と、を有し、前記保持部には、前記シールフィンの先端を前記軸線方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝が形成され、該溝では、径方向外側から内側に向かうに従って、前記軸線方向の寸法が次第に減少している。
【発明の効果】
【0010】
本開示のフィン先端位置の計測方法、フィン先端位置の計測システム、及びフィン先端位置の計測用冶具によれば、容易かつ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具の構成を示す側面図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具の構成を示す上面図である。
【
図5】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具をシールフィンに取り付けた状態を示す説明図である。
【
図6】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具が傾いた状態でシールフィンに取り付けられている場合の計測の様子を示す説明図である。
【
図7】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測方法のフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具の変形例を示す側面図である。
【
図9】本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測用冶具のさらなる変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(フィン先端位置の計測システムの構成)
以下、本開示の実施形態に係るフィン先端位置の計測システム100(以下、単に「計測システム100」と称する。)について、
図1から
図4を参照して説明する。
図1に示すように、計測システム100は、蒸気タービンのシールフィン90の先端90tの位置を計測するための装置である。シールフィン90は、図示しない車室(ノズルリングの内周面)と、ロータの外周面との間の蒸気の漏れをシールするために設けられている。シールフィン90は、軸線Oに対する径方向内側に突出し、周方向に延びている。また、シールフィン90は、軸線O方向に複数配列されている。シールフィン90は、車室側から先端90t側に向かうに従って、軸線O方向の寸法が次第に減少することで、三角形の断面形状を有している。なお、ロータの外周面に設けられたシールフィン(つまり、動翼側フィン)に後述する計測システム100を適用することも可能である。
【0013】
計測システム100は、冶具1(計測用冶具)と、計測部2と、演算部3と、を備えている。冶具1は、シールフィン90の先端90tに取り付けられる。計測部2は、冶具1に対してレーザーを照射する(走査する)ことで、軸線Oから冶具1の計測面12S(後述)までの距離を計測する。
より具体的には、計測部2は、開放された状態の車室の近傍に配置されたレーザートラッカ、及び、任意の箇所に移動可能なラインスキャナとから構成されている。
レーザートラッカは全体座標系における仮想軸線の位置座標(上記軸線Oの座標)を予
め把握している。レーザートラッカは、任意の位置のラインスキャナの位置座標を検出可能とされている。
ラインスキャナは、当該ラインスキャナを基準とした座標系での冶具1の位置座標 (距離画像)を検出可能とされている。
そして、レーザートラッカは、全体座標系でのラインスキャナの位置座標、及び、ラインスキャナを基準とした座標系での冶具1の位置座標に基づいて、上記距離画像のデータ処理を行うことで仮想軸線から冶具1までの距離を取得する。より具体的には、ラインスキャナで計測した点群から、主として輝度情報をもとに冶具1の検出部D(後述)に対応する点群を抽出し、当該点群の各座標の重心位置を計算することで、冶具1としての位置座標を算出する。
演算部3は、この距離の値に、冶具1の径方向の寸法を加算することで、軸線Oからシールフィン90の先端90tまでの距離を算出する。
【0014】
(冶具の構成)
図2に示すように、冶具1は、保持部10と、本体部12と、クリップ部13と、を有している。保持部10には、シールフィン90の先端90tを軸線O方向の両側から挟むように、径方向内側に向かって凹む溝10Aが形成されている。また、
図4に示すように、溝10Aは、冶具1の高さ方向(シールフィン90に取り付けられた状態における径方向)の下方から上方に向かうに従って、軸線O方向の寸法が次第に減少している。冶具1は、溝10Aの底部がシールフィン90の先端90tに一致するように取り付けられる。
【0015】
図2に示すように、本体部12は、保持部10に一体に形成された板状をなしている。本体部12における保持部10とは反対側を向く面は、レーザーが照射される計測面12Sとされている。計測面12Sは平坦状をなしており、シールフィン90の高さ方向を法線とする。計測面12S上には、等間隔をあけて複数(3つ)の凹み(検出部D)が形成されている。検出部Dは、計測面12Sよりも低い面粗さを呈するように研磨されている。これにより、検出部Dに照射されたレーザーは、計測面12Sとは異なる反射態様(つまり、ノイズ成分がより小さい反射の態様)を示す。なお、他の例として、上記の凹みを形成せずに、鏡面状のステッカーを計測面12Sに貼付することで検出部Dとすることも可能である。
【0016】
また、
図3に示すように、本体部12の長手方向(シールフィン90に取り付けられた状態における周方向)における中央部12Cは、当該長手方向における端部12tに比べて、短手方向(シールフィン90に取り付けられた状態における軸線O方向)における寸法が小さい。言い換えれば、中央部12Cには「くびれ」が形成されている。
【0017】
図2に示すように、クリップ部13は、本体部12の下面(計測面12Sとは反対側を向く面)から下方に向かって突出する板状をなしている。クリップ部13は、シールフィン90を軸線O方向両側から弾性力によって挟持する。クリップ部13は、周方向に間隔をあけて一対設けられている。
【0018】
(フィン先端位置の計測方法)
続いて、上記の計測システム100を用いたフィン先端位置の計測方法について、
図5から
図7を参照して説明する。
図7に示すように、この計測方法は、冶具取付工程S1と、第一計測工程S2と、第一算出工程S3と、第二計測工程S4と、第二算出工程S5と、を含む。
【0019】
図5に示すように、冶具取付工程S1では、上述の冶具1をシールフィン90の先端90tに取り付ける。具体的には、クリップ部13によってシールフィン90を軸線O方向両側から挟持させる。この時、溝10Aの底部は先端90tに当接した状態となる。次いで、第一計測工程S2では、上述の計測部2から冶具1に向かってレーザーLを照射する。これにより、図示しないロータの仮想中心線である軸線Oから検出部Dまでの距離Lxが計測される。なお、
図5中の破線Hは、軸線Oの高さ位置を模式的に示している。この第一計測工程S2では、3つの検出部Dに対してそれぞれ軸線Oからの距離が計測され、これら3つの計測値の平均値が上述の距離Lxとして取得されることが望ましい。具体的には、後述するように冶具1の外形状が、中央部と両端部とで互いに異なっていることから、レーザーを走査して計測結果(反射像)を得る際には、3つの検出部Dのうち中央部に位置する検出部Dの位置が計測結果から判別され、これに基づいて他の2の検出部Dの位置も特定される。これら3つの計測結果から平均値が算出される。
【0020】
第一算出工程S3では、演算部3が、上述の距離Lxに対して、予め得られている冶具1の径方向における寸法Laを加算する。なお、寸法Laは、検出部Dの底面から溝10Aの底部までの寸法を指す。上述のように溝10Aの底部はシールフィン90の先端90tに当接している。したがって、距離Lxと寸法Laを加算することで、軸線Oから先端90tまでの距離が得られる。
【0021】
第二計測工程S4では、複数のシールフィン90同士の間の底面90bをレーザーによって走査することで、軸線Oから当該底面90bまでの距離Lyをさらに計測する。この時、レーザーは、本体部12の中央部12Cの側方から底面90bに向かって照射される。つまり、中央部12Cが上記のようにくびれていることから、レーザーの経路を妨げることなく、底面90bに到達させることが可能である。より具体的には、上記のくびれが形成されていることによって、例えば冶具1の取り付け姿勢が軸線O方向に傾いている場合や、ラインスキャナが冶具1に正対しておらずに計測面12Sにレーザーが斜めに照射されている場合、シールフィン90同士の間隔が比較的に小さい場合であっても、底面90bが冶具1の死角になってしまう可能性を低減することができる。
【0022】
第二算出工程S5では、軸線Oから底面90bまでの距離Lyから、シールフィン90の先端90tまでの距離Lx+Laを減算する。これにより、シールフィン90の径方向における寸法が算出される。この寸法を、例えばシールフィン90の設計値と比較することで、当該シールフィン90の摩耗量が取得される。
【0023】
なお、
図6に示すように、冶具1が径方向に対して傾いた状態で取り付けられる場合も考えられる。この場合、第一計測工程S2では、3つの検出部Dによる計測結果を比較することで、傾き角度θが計測される。次いで、第一算出工程S3では、演算部3は、上述の冶具1の径方向における寸法Laの傾き角度θに対する余弦の値(Lc=cosθ)を算出する。さらに、演算部3は、このLcの値に上述の距離Lxを加算することで、冶具1の傾きの影響が補正された値を算出する。
【0024】
以上の各工程が、シールフィン90における周方向の任意の位置で複数回繰り返される。これにより、シールフィン90の全体にわたって先端90tの位置が計測される。ここで、複数の冶具1を用意し、これら複数の冶具1を設置して同時に計測すれば、計測回数を減らすことができる。
【0025】
(作用効果)
上記方法、及び構成によれば、冶具1の計測面12Sを当該冶具1の計測面12Sの法線方向と概ね一致する方向からレーザーによって走査することで、まずロータの中心線である軸線Oから当該計測面12S(検出部D)までの距離Lxを計測する。次いで、当該検出部Dまでの距離に、冶具1の径方向の寸法Laを加算することで、軸線Oからシールフィン90の先端90tまでの距離を算出する。ここで、上記のような計測面12S(検出部D)を有する冶具1を用いない場合、鋭利なシールフィン90の先端90tにレーザーを正確に照射することは難しく、先端90tを計測対象とすることは容易ではない。リフレクタをシールフィン90の先端90tに取り付けることで照射は可能になるが、計測したい鋭利なシールフィン90の先端90tの位置と、レーザーによって実際に計測される位置との相対位置関係を正確に設定、又は把握できるようにリフレクタを配置することは特に難しいため、精度の確保が困難であった。しかしながら、上記方法によれば、一定の面積を有し、シールフィン90の高さ方向を法線とする計測面12Sにレーザーを当該計測面12Sの概ね法線方向から照射(走査)することで、ボルト等の車室構造によってレーザーが遮られることがなくなることに加えて、レーザーの照射位置を必要以上に考慮することなく、シールフィン90の先端位置を確実に捉えることができ、計測したい位置と、実際の計測位置とのずれを容易かつ正確に補正することができる。また、上記方法では、検出部Dの反射性と、寸法Laの精度さえ管理すれば、冶具1の他の部分の製作精度が比較的粗くても、十分に精度の高い計測を行うことができる。言い換えれば、従来のリフレクタと比較して、管理すべき寸法が少なく、製造コストを低く抑えることができる。このため、予め多数の冶具1を用意することが容易になる。その結果、一度に多数の冶具1を用いて計測を行うことが可能となり、計測回数の削減(つまり、計測時間の短縮)を実現することができる。
【0026】
さらに、上記方法、及び構成によれば、シールフィン90同士の間の底面をレーザー走査することによって、軸線Oから底面までの距離を計測する。この距離から、シールフィン先端と軸線Oとの間の距離(Lx+La)を減算することで、シールフィン90の径方向における寸法を算出することができる。この寸法を例えばシールフィン90の設計値と比較することで、当該シールフィン90の摩耗量を得ることができる。
【0027】
加えて、上記方法、及び構成によれば、冶具1が傾いた状態で取り付けられて、計測面12Sの法線方向がシールフィン90の高さ方向と正確に一致していない場合であっても、当該傾きの角度θに基づいて軸線Oから計測面12S(検出部D)までの距離の実測値を補正することができる。つまり、冶具1をシールフィンに取り付けるに当たって、必要以上にその姿勢や角度を考慮することなく、容易に計測を行うことができる。
【0028】
また、上記の冶具1によれば、レーザーに対する反射態様が他の部分と異なる検出部Dが形成されていることから、レーザーによってより容易かつ高精度に検出部Dの位置を検出することができる。また、このような検出部Dが複数形成されていることから、複数の検出結果を平均することで、より高い精度のもとシールフィン90の先端位置を計測することができる。
【0029】
さらに、上記の冶具1によれば、本体部12の中央部12Cの寸法が両端部12tよりも小さいことから、レーザーを走査した際に、本体部12の中央部12Cの位置(つまり、複数の検出部Dのうち、中央に位置する1つ)を特定することができる。例えば仮に複数の検出部Dの一部が検出できなかった場合でも、残りの検出部Dのどれが検出できたか識別することができる。その結果、計測環境に多少の不具合があっても計測結果を得ることができ、当該データの信頼度を考慮することもできる。
【0030】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、冶具1の変形例として、
図8に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、冶具1bでは、保持部14の形状が上記実施形態とは異なっている。また、冶具1bは、上述のクリップ部13を有していない。保持部14の端縁は、シールフィン90の先端の湾曲形状に合わせて、湾曲している。なお、
図8の例では、車室の内周側に設けられるシールフィン90に対応するように、保持部14は、下方に凸となる湾曲形状を有している。一方で、ロータの外周面に設けられるシールフィンに適用する場合には、
図9に示すように、保持部14は、上方に凸となる湾曲形状を有していることが望ましい。このような構成によれば、冶具1bをより一層簡素化することができるため、冶具1bの製造コストを削減することができる。
【0031】
<付記>
各実施形態に記載のフィン先端位置の計測方法、フィン先端位置の計測システム、及びフィン先端位置の計測用冶具は、例えば以下のように把握される。
【0032】
(1)第1の態様に係るフィン先端位置の計測方法は、軸線Oに対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線Oの延びる方向に配列された複数のシールフィン90のうち、少なくとも1つの先端90tに、周方向及び前記軸線O方向に広がる平坦状の計測面12Sを有する冶具1を取り付ける冶具取付工程S1と、レーザーによって前記計測面12Sを走査することで、前記軸線Oから前記計測面12Sまでの距離Lxを計測する第一計測工程S2と、前記計測面12Sまでの距離Lxに、前記冶具1の径方向の寸法Laを加算することで、前記軸線Oから前記シールフィン90の先端90tまでの距離を算出する第一算出工程S3と、を含む。
【0033】
上記方法によれば、一定の面積を有する計測面12Sにレーザーを照射(走査)することで、レーザーの照射位置を必要以上に考慮することなく、シールフィン90の先端位置を容易に得ることができる。
【0034】
(2)第2の態様に係るフィン先端位置の計測方法は、レーザーによって前記シールフィン90同士の間の底面90bを走査することで、前記軸線Oから前記底面90bまでの距離Lyを計測する第二計測工程S4と、前記底面90bまでの距離Lyから、前記シールフィン90の先端90tまでの距離Lx+Laを減算することで、前記シールフィン90の径方向における寸法を算出する第二算出工程S5と、をさらに含む。
【0035】
上記方法によれば、シールフィン90同士の間の底面90bをレーザー走査することによって、軸線Oから底面90bまでの距離Lyを計測する。この距離Lyから、シールフィン先端と軸線Oとの間の距離Lx+Laを減算することで、シールフィン90の径方向における寸法を算出することができる。
【0036】
(3)第3の態様に係るフィン先端位置の計測方法において、前記第一計測工程S2では、径方向に対する前記冶具1の傾き角度θをさらに計測するとともに、該傾き角度θに基づいて、前記軸線Oから前記計測面12Sまでの距離を補正する。
【0037】
上記方法によれば、冶具1が傾いた状態で取り付けられている場合であっても、当該傾きの角度θに基づいて軸線Oから計測面12Sまでの距離の実測値を補正することができる。
【0038】
(4)第4の態様に係るフィン先端位置の計測システム100は、軸線Oに対する径方向に突出し、周方向に延びるとともに、前記軸線Oの延びる方向に配列された複数のシールフィン90のうち、少なくとも1つの先端90tに取り付けられ、周方向及び前記軸線O方向に広がる平坦状の計測面12Sを有する冶具1と、前記計測面12Sをレーザーによって走査することで、前記軸線Oから前記計測面12Sまでの距離Lxを計測する計測部2と、前記計測面12Sまでの距離Lxに、前記冶具1の径方向の寸法Laを加算することで、前記軸線Oから前記シールフィン90の先端90tまでの距離を算出する演算部3と、を備える。
【0039】
上記構成によれば、一定の面積を有する計測面12Sにレーザーを照射(走査)することで、レーザーの照射位置を必要以上に考慮することなく、シールフィン90の先端位置を容易に得ることができる。
【0040】
(5)第5の態様に係るフィン先端位置の計測システム100では、前記計測部2は、レーザーによって前記シールフィン90同士の間の底面90bを走査することで、前記軸線Oから前記底面90bまでの距離Lyをさらに計測し、前記演算部3は、前記底面90bまでの距離Lyから、前記シールフィン90の先端90tまでの距離Lx+Laを減算することで、前記シールフィン90の径方向における寸法をさらに算出する。
【0041】
上記構成によれば、計測部2が、シールフィン90同士の間の底面90bをレーザー走査することによって、軸線Oから底面90bまでの距離Lyを計測する。演算部3では、この距離Lyから、シールフィン先端と軸線Oとの間の距離Lx+Laを減算することで、シールフィン90の径方向における寸法を算出することができる。
【0042】
(6)第6の態様に係るフィン先端位置の計測システムでは、前記計測部2は、径方向に対する前記冶具1の傾き角度θをさらに計測するとともに、該傾き角度θに基づいて、前記軸線Oから前記計測面12Sまでの距離を補正する。
【0043】
上記構成によれば、冶具1が傾いた状態で取り付けられている場合であっても、当該傾きの角度θに基づいて軸線Oから計測面12Sまでの距離の実測値を補正することができる。
【0044】
(7)第7の態様に係るフィン先端位置の計測用冶具(冶具1)は、軸線Oに対する径方向に突出し、周方向に延びるシールフィン90の先端90tを前記軸線O方向の両側から挟む保持部10と、該保持部10の径方向内側に設けられ、周方向及び前記軸線O方向に広がる平坦状の計測面12Sが形成された本体部12と、を有する。
【0045】
上記構成によれば、保持部10によってシールフィン90の先端90tを挟むように配置することで、冶具1を当該先端90tに対して容易かつ安定的に保持することができる。さらに、本体部12に一定の面積を有する平坦状の計測面12Sが形成されている。これにより、レーザーの照射精度を必要以上に考慮することなく、より容易かつ高精度にシールフィン90の先端位置を計測することができる。
【0046】
(8)第8の態様に係るフィン先端位置の計測用冶具(冶具1)では、前記計測面12Sには、レーザーに対して他の部分と異なる反射態様を示す複数の検出部Dが形成されている。
【0047】
上記構成によれば、レーザーに対する反射態様が他の部分と異なる検出部Dが形成されていることから、レーザーによってより容易かつ高精度に検出部Dの位置を検出することができる。また、このような検出部Dが複数形成されていることから、複数の検出結果を平均することで、より高い精度のもとシールフィン90の先端位置を計測することができる。
【0048】
(9)第9の態様に係るフィン先端位置の計測用冶具(冶具1)では、前記本体部12の周方向における中央部12Cは、前記軸線O方向における寸法が周方向における両端部12tよりも小さい。
【0049】
上記構成によれば、本体部12の中央部12Cの寸法が両端部12tよりも小さいことから、レーザーを走査した際に、中央部12Cの位置(つまり、複数の検出部Dのうち、中央に位置する1つ)を特定することができる。また、レーザーの経路を妨げることなく、当該レーザーを底面90bに到達させることができる。
【符号の説明】
【0050】
100 計測システム
1,1b 冶具
2 計測部
3 演算部
10,14 保持部
10A 溝
12 本体部
12C 中央部
12S 計測面
12t 端部
13 クリップ部
90 シールフィン
90b 底面
90t 先端
D 検出部