(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導体、蓄電デバイス、および、リチウムイオン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20240229BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240229BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240229BHJP
H01M 10/056 20100101ALI20240229BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240229BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M10/056
H01B1/06 A
H01B1/08
(21)【出願番号】P 2020070368
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019108324
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】澤永 佳歩
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022095(WO,A1)
【文献】特開2018-106799(JP,A)
【文献】特開2016-040767(JP,A)
【文献】特開2016-192371(JP,A)
【文献】特開2018-078030(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M4/00-4/62
H01B1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のリチウムイオン伝導体において、
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、
リチウム塩とグライム類とを含む混合液体と、
バインダーと、
を含み、
前記混合液体における前記リチウム塩の濃度をX(mol/L)とし、前記リチウムイオン伝導体における前記リチウムイオン伝導性粉末の含有量と前記混合液体の含有量との合計に対する前記混合液体の含有量の割合をY(vol%)としたとき、式(1):Y≦-7X+35
(ただし、X≧1)を満たす、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン伝導体において、
式(2):Y≦-3.5X+17.5を満たす、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン伝導体において、
前記リチウムイオン伝導性粉末は、さらに、MgとSrとを含有する、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体において、
前記グライム類は、テトラグライム(G4)である、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体において、
前記リチウム塩は、Li-TFSIである、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体において、
前記リチウム塩は、Li-FSIである、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項7】
固体電解質層と、正極と、負極と、を備える蓄電デバイスにおいて、
前記固体電解質層は、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体により構成されている、
ことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項8】
シート状のリチウムイオン伝導体の製造方法において、
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、リチウム塩とグライム類とを含む混合液体と、バインダーと、を複合し、得られた複合体をシート状に成形することにより前記リチウムイオン伝導体を作製する工程を備え、
前記混合液体における前記リチウム塩の濃度をX(mol/L)とし、前記リチウムイオン伝導体における前記リチウムイオン伝導性粉末の含有量と前記混合液体の含有量との合計に対する前記混合液体の含有量の割合をY(vol%)としたとき、式(1):Y≦-7X+35
(ただし、X≧1)を満たす、
ことを特徴とするリチウムイオン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、リチウムイオン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の普及、電気自動車の普及、太陽光や風力等の自然エネルギーの利用拡大等に伴い、高性能な電池の需要が高まっている。なかでも、電池要素がすべて固体で構成された全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)の活用が期待されている。全固体電池は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液を用いる従来型のリチウムイオン二次電池と比べて、有機電解液の漏洩や発火等のおそれがないため安全であり、また、外装を簡略化することができるため単位質量または単位体積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0003】
全固体電池の固体電解質層や電極を構成するリチウムイオン伝導体として、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)とを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末(以下、「LLZ系リチウムイオン伝導性粉末」という。)を含むリチウムイオン伝導体が知られている。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末としては、例えば、Li7La3Zr2O12(以下、「LLZ」という。)や、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という。))が知られている。
【0004】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、該粉末にバインダー等を添加した後に成膜することにより形成されたシートの状態においては、粒子間の接触が点接触であり、バインダーによりイオン伝導が阻害されるために粒子間の抵抗が高く、リチウムイオン伝導性が比較的低い。LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴う反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。
【0005】
LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を用いて、高温焼成を行うことなく高いリチウムイオン伝導性を実現するために、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末に、高いリチウムイオン伝導性を有する液体を複合することが考えられる。これにより、LLZ系イオン伝導性粉末の粒界に該液体が介在し、該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上する。このような液体としては、イオン液体やグライム類(例えば、テトラグライム(G4)等)が挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】田村崇、「新規glyme-Li塩錯体の創製とリチウム系二次電池用電解質への応用」、横浜国立大学大学院工学府、平成22年5月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、グライム類は、リチウム輸率が比較的低い液体である。そのため、グライム類を用いてリチウムイオン伝導体を構成すると、リチウムイオン伝導体のリチウム輸率が低くなるおそれがある。低いリチウム輸率のリチウムイオン伝導体を用いて電池を構成すると、低いリチウム輸率に起因して電極近傍での濃度勾配が発生し、その結果、抵抗が増大して電池の容量・出力特性が低下するおそれがある。
【0008】
なお、このような課題は、全固体電池に用いられるリチウムイオン伝導体に限らず、リチウムイオン伝導体一般に共通の課題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示されるリチウムイオン伝導体は、シート状のリチウムイオン伝導体において、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、リチウム塩とグライム類とを含む混合液体と、バインダーと、を含み、前記混合液体における前記リチウム塩の濃度をX(mol/L)とし、前記リチウムイオン伝導体における前記リチウムイオン伝導性粉末の含有量と前記混合液体の含有量との合計に対する前記混合液体の含有量の割合をY(vol%)としたとき、式(1):Y≦-7X+35を満たす。本リチウムイオン伝導体によれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を上回る0.5程度以上という良好なリチウム輸率を実現することができる。そのため、例えば、本リチウムイオン伝導体を蓄電デバイスに適用した場合に、低いリチウム輸率に起因して蓄電デバイスの容量・出力特性が低下することを抑制することができる。
【0012】
(2)上記リチウムイオン伝導体において、式(2):Y≦-3.5X+17.5を満たす構成としてもよい。本リチウムイオン伝導体によれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を大きく上回る0.6程度以上という極めて良好なリチウム輸率を実現することができる。そのため、例えば、本リチウムイオン伝導体を蓄電デバイスに適用した場合に、低いリチウム輸率に起因して蓄電デバイスの容量・出力特性が低下することを効果的に抑制することができる。
【0013】
(3)上記リチウムイオン伝導体において、前記リチウムイオン伝導性粉末は、さらに、MgとSrとを含有する構成としてもよい。本リチウムイオン伝導体によれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。
【0014】
(4)上記リチウムイオン伝導体において、前記グライム類は、テトラグライム(G4)である構成としてもよい。本リチウムイオン伝導体によれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。
【0015】
(5)上記リチウムイオン伝導体において、前記リチウム塩は、Li-TFSIである構成としてもよい。本リチウムイオン伝導体によれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。
【0016】
(6)上記リチウムイオン伝導体において、前記リチウム塩は、Li-FSIである構成としてもよい。本リチウムイオン伝導体によれば、良好なリチウム輸率を実現しつつ、さらに良好なリチウムイオン伝導率を実現することができる。
【0017】
(7)本明細書に開示される蓄電デバイスは、固体電解質層と、正極と、負極と、を備え、前記固体電解質層は、上記リチウムイオン伝導体により構成されているとしてもよい。本蓄電デバイスによれば、蓄電デバイスの容量・出力特性が低下することを効果的に抑制することができる。
【0018】
(8)本明細書に開示されるリチウムイオン伝導体の製造方法は、シート状のリチウムイオン伝導体の製造方法において、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末と、リチウム塩とグライム類とを含む混合液体と、バインダーと、を複合し、得られた複合体をシート状に成形することにより前記リチウムイオン伝導体を作製する工程を備え、前記混合液体における前記リチウム塩の濃度をX(mol/L)とし、前記リチウムイオン伝導体における前記リチウムイオン伝導性粉末の含有量と前記混合液体の含有量との合計に対する前記混合液体の含有量の割合をY(vol%)としたとき、式(1):Y≦-7X+35を満たす。本リチウムイオン伝導体の製造方法によれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を上回る0.5程度以上という良好なリチウム輸率を実現したリチウムイオン伝導体を製造することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、リチウムオン伝導体、リチウムイオン伝導体を含むリチウム電池、リチウムイオン伝導体を含む蓄電デバイス、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池102の断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】本実施形態における固体電解質層112の製造方法の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.全固体電池102の構成:
(全体構成)
図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という。)102の断面構成を概略的に示す説明図である。
図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向という。
【0022】
全固体電池102は、電池本体110と、電池本体110の一方側(上側)に配置された正極側集電部材154と、電池本体110の他方側(下側)に配置された負極側集電部材156とを備える。正極側集電部材154および負極側集電部材156は、導電性を有する略平板形状部材であり、例えば、ステンレス鋼、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、これらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって形成されている。以下の説明では、正極側集電部材154と負極側集電部材156とを、まとめて集電部材ともいう。
【0023】
(電池本体110の構成)
電池本体110は、電池要素がすべて固体で構成されたリチウムイオン二次電池本体である。なお、本明細書において、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。電池本体110は、正極114と、負極116と、正極114と負極116との間に配置された固体電解質層112とを備える。以下の説明では、正極114と負極116とを、まとめて電極ともいう。電池本体110は、特許請求の範囲における蓄電デバイスに相当する。
【0024】
(固体電解質層112の構成)
固体電解質層112は、略平板形状の部材であり、シート状のリチウムイオン伝導体202により構成されている。後述するように、リチウムイオン伝導体202は、上述したLLZ系リチウムイオン伝導性粉末にバインダーと有機溶剤とを添加した後、成膜することにより形成されたシートとして構成されている。固体電解質層112を構成するシート状のリチウムイオン伝導体202については、後に詳述する。
【0025】
(正極114の構成)
正極114は、略平板形状の部材であり、正極活物質214を含んでいる。正極活物質214としては、例えば、S(硫黄)、TiS2、LiCoO2、LiMn2O4、LiFePO4等が用いられる。また、正極114は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体204を含んでいる。正極114は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Ag(銀))を含んでいてもよい。
【0026】
(負極116の構成)
負極116は、略平板形状の部材であり、負極活物質216を含んでいる。負極活物質216としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、Li4Ti5O12、カーボン、Si(ケイ素)、SiO等が用いられる。また、負極116は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体206を含んでいる。負極116は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni、Pt、Ag)を含んでいてもよい。
【0027】
A-2.リチウムイオン伝導体の構成:
次に、固体電解質層112を構成するシート状のリチウムイオン伝導体202について説明する。
【0028】
本実施形態において、固体電解質層112を構成するシート状のリチウムイオン伝導体202は、リチウムイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性粉末を含んでいる。より詳細には、リチウムイオン伝導体202は、上述したLLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するリチウムイオン伝導性粉末であり、例えば、LLZやLLZ-MgSr)を含んでいる。
【0029】
また、本実施形態において、リチウムイオン伝導体202は、さらに、リチウム塩とグライム類とを含む混合液体(以下、「グライム含有混合液体」という。)を含んでいる。ここで、グライム類は、R-O-(CH2-CH2-O)n-Rで表される化学構造を有するオリゴエーテルである。グライム類としては、例えば、上記化学式においてn=3であるトリグライム(G3)、n=4であるテトラグライム(G4)、n=5であるペンタグライム(G5)等が知られている。リチウム塩とグライム類とを含むグライム含有混合液体は、イオン液体に近い特性を有する液体、すなわち、常温で液体であり、高いリチウムイオン伝導性を有し、かつ、高い不燃性・不揮発性を有する液体である。
【0030】
グライム含有混合液体に含まれるリチウム塩としては、例えば、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(CF3SO3Li)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(SO2CF3)2)(以下、「Li-TFSI」という。)、リチウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(LiN(SO2F)2)(以下、「Li-FSI」という。)、リチウム ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(SO2C2F5)2)等が用いられる。
【0031】
また、本実施形態において、リチウムイオン伝導体202は、さらに、バインダーを含んでいる。リチウムイオン伝導体202に含まれるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(以下、「PVDF-HFP」という。)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、シリコーン(ポリシロキサン)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂(PMMA)等が用いられる。
【0032】
以下、グライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度をX(mol/L)とし、リチウムイオン伝導体202におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とグライム含有混合液体の含有量との合計に対するグライム含有混合液体の含有量の割合をY(vol%)とする。このとき、リチウムイオン伝導体202は、以下の式(1)を満たすように構成されていることが好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を上回る0.5程度以上という良好なリチウム輸率を実現することができる。そのため、例えば、このリチウムイオン伝導体202を全固体電池102に適用した場合に、低いリチウム輸率に起因して全固体電池102の容量・出力特性が低下することを抑制することができる。
Y≦-7X+35 ・・・(1)
【0033】
また、リチウムイオン伝導体202は、以下の式(2)を満たすように構成されていることがさらに好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を大きく上回る0.6程度以上という極めて良好なリチウム輸率を実現することができる。そのため、このリチウムイオン伝導体202を全固体電池102に適用した場合に、低いリチウム輸率に起因して全固体電池102の容量・出力特性が低下することを効果的に抑制することができる。
Y≦-3.5X+17.5 ・・・(2)
【0034】
また、リチウムイオン伝導体202に含まれるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末は、MgとSrとを含有するもの(例えば、LLZ-MgSr)であることが好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。また、リチウムイオン伝導体202を構成するグライム含有混合液体に含まれるグライム類は、テトラグライム(G4)であることが好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。また、リチウムイオン伝導体202を構成するグライム含有混合液体に含まれるリチウム塩は、Li-TFSIであることが好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、さらに良好なリチウム輸率を実現することができる。あるいは、リチウムイオン伝導体202を構成するグライム含有混合液体に含まれるリチウム塩は、Li-FSIであることが好ましい。リチウムイオン伝導体202をこのような構成とすれば、良好なリチウム輸率を実現しつつ、さらに良好なリチウムイオン伝導率を実現することができる。
【0035】
A-3.全固体電池102の製造方法:
次に、本実施形態の全固体電池102の製造方法の一例を説明する。はじめに、固体電解質層112の製造方法を説明する。
図2は、本実施形態における固体電解質層112の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0036】
まず、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末を準備する(S110)。また、リチウム塩とグライム類とを含むグライム含有混合液体を準備する(S120)。
【0037】
その後、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、グライム含有混合液体とを、所定の割合で複合して複合粉末を作製する(S130)。このとき、グライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度X(mol/L)と、複合粉末におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とグライム含有混合液体の含有量との合計に対するグライム含有混合液体の含有量の割合Y(vol%)とが、上記式(1):Y≦-7X+35を満たすように設定される。
【0038】
次に、得られた複合粉末とバインダーと有機溶剤とを混合した後、シート状に成膜することにより、シート状のリチウムイオン伝導体202である固体電解質層112を作製する(S140)。なお、成膜後に、所定の圧力で加圧成形してもよい。
【0039】
また、別途、正極114および負極116を作製する。例えば、正極活物質214の粉末と上述した複合粉末と必要により電子伝導助剤の粉末、バインダー、有機溶剤とを所定の割合で混合し、成形することにより正極114を作製する。また、例えば、負極活物質216の粉末と上述した複合粉末と必要により電子伝導助剤の粉末、バインダー、有機溶剤とを混合し、成形することにより負極116を作製する。
【0040】
次に、正極側集電部材154と、正極114と、固体電解質層112と、負極116と、負極側集電部材156とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の全固体電池102が製造される。
【0041】
A-4.リチウムイオン伝導体の分析方法:
A-4-1.リチウムイオン伝導体に含まれるグライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度X(mol/L)の特定方法:
リチウムイオン伝導体に含まれるグライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度X(mol/L)の特定方法は、以下の通りである。以下では、固体電解質層112を構成するリチウムイオン伝導体について、グライム含有混合液体のリチウム塩の濃度Xの特定方法を説明するが、他のリチウムイオン伝導体についてのグライム含有混合液体のリチウム塩の濃度Xの特定方法も同様である。
【0042】
まず、リチウム塩の含有量を特定する。具体的には、固体電解質層112を溶剤などで溶解させ、遠心分離機により固体成分と液体成分とに分離する。分離された液体成分を対象としてICP分析を行うことにより、リチウム含有量を特定する。
【0043】
また、グライム類の含有量を特定する。具体的には、GC-MSにより固体電解質層112中の溶剤の種類(例えば、G4)を特定する。TG-DTAにより、標準物質(例えば、G4)単独での分析と、固体電解質層112の分析とを行う。TG-DTAによる標準物質の分析結果と固体電解質層112の分析結果とを比較し、固体電解質層112におけるグライム類の含有量を特定する。
【0044】
最後に、上述の方法で特定されたリチウム塩の含有量の値とグライム類の含有量の値とに基づき、グライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度X(mol/L)を算出する。
【0045】
A-4-2.リチウムイオン伝導体におけるLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とグライム含有混合液体の含有量との合計に対するグライム含有混合液体の含有量の割合Y(vol%)の特定方法:
上記「A-4-1」において固体電解質層112から分離された固体成分を測定することにより、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量を特定する。このLLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量の値と、上記「A-4-1」において特定されたリチウム塩およびグライム類の含有量の値とに基づき、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とグライム含有混合液体の含有量との合計に対するグライム含有混合液体の含有量の割合Y(vol%)を算出する。
【0046】
A-5.性能評価:
リチウムイオン伝導体を対象として、リチウム輸率に関する性能評価を行った。
図3から
図5は、性能評価の結果を示す説明図である。
図3には、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(具体的には、LLZ-MgSrの粉末)と、リチウム塩(具体的には、Li-TFSI(サンプルS1~S7)またはLi-FSI(サンプルS8~S10))とグライム類(具体的には、テトラグライム(G4))とを含むグライム含有混合液体と、バインダー(具体的には、PVDF-HFP)と、から構成されたリチウムイオン伝導体のサンプル(以下、「グライム系サンプル」という。)を対象とした性能評価結果が示されており、
図4には、グライム系サンプルを対象とした性能評価結果を表すグラフが示されている。また、
図5には、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(具体的には、LLZ-MgSrの粉末)と、リチウム塩(具体的には、Li-TFSI)とイオン液体(具体的には、EMI-FSI)とを含むリチウム塩含有イオン液体と、バインダー(具体的には、PVDF-HFP)と、から構成されたリチウムイオン伝導体のサンプル(以下、「イオン液体系サンプル」という。)を対象とした性能評価結果が示されている。なお、
図3~
図5では、便宜上、LLZ-MgSrを「LLZ」と表示しており、Li-TFSIまたはLi-FSIとG4とを含むグライム含有混合液体を「G4」と表示しており、Li-TFSIとEMI-FSIとを含むリチウム塩含有イオン液体を「EMI-FSI」と表示している。
【0047】
図3~
図5に示すように、性能評価には、14個のリチウムイオン伝導体のサンプル(グライム系サンプルS1~S10およびイオン液体系サンプルS11~S14)が用いられた。各サンプルは、グライム含有混合液体(またはリチウム塩含有イオン液体)におけるリチウム塩の濃度X(mol/L)の値、および、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とグライム含有混合液体(またはリチウム塩含有イオン液体)との含有割合とが互いに異なっている。
【0048】
LLZ-MgSr粉末は、以下のように作製した。すなわち、組成:Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.0O12(LLZ-MgSr)となるように、Li2CO3、MgO、La(OH)3、SrCO3、ZrO2を秤量した。その際、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰になるように、Li2CO3をさらに加えた。この原料をジルコニアボールとともにナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、1100℃で10時間、MgO板上にて仮焼成を行った。仮焼成後の粉末にバインダーを加え、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cm2の静水圧を印加することにより、成形体を得た。この成形体を成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、還元雰囲気において1100℃で4時間焼成することにより焼結体を得た。なお、焼結体のリチウムイオン伝導率は、1.0×10-3S/cmであった。この焼結体をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で粉砕し、LLZ-MgSrの粉末を得た。
【0049】
また、グライム類であるG4(バッテリーグレード)に、サンプル毎に定められた濃度Xでリチウム塩であるLi-TFSI(バッテリーグレード)またはLi-FSI(バッテリーグレード)を複合することにより、Li-TFSIまたはLi-FSIとG4とを含むグライム含有混合液体を得た。また、イオン液体であるEMI-FSI(バッテリーグレード)に、サンプル毎に定められた濃度でリチウム塩であるLi-TFSI(バッテリーグレード)を複合することにより、Li-TFSIとEMI-FSIとを含むリチウム塩含有イオン液体を得た。
【0050】
アルゴン雰囲気において、上述の方法により作製されたLLZ-MgSr粉末と、グライム含有混合液体(またはリチウム塩含有イオン液体)とを、全量を0.5gとして、サンプル毎に定められた体積割合で配合し、乳鉢を用いて混合することにより、LLZ-MgSrとグライム含有混合液体(またはリチウム塩含有イオン液体)との複合粉末(リチウムイオン伝導体)を得た。
【0051】
アルゴン雰囲気において、上述した方法により作製された複合粉末と、バインダー(PVDF-HFP)とを、有機溶剤と共に乳鉢にて混合し、アルミニウム箔(厚さ:20μm)の上でアプリケータ(クリアランス:500μm)を用いて成膜し、70℃で1時間のヒーターブロック乾燥を行うことにより、シートを得た。アルゴン雰囲気において、得られたシートを直径10mmの絶縁性筒に投入し、上下から500MPaの圧力で加圧成形を行うことより、リチウムイオン伝導体の成形体(シート)を作製した。作製されたリチウムイオン伝導体の成形体を、加圧治具を用いて8Nのトルクでネジ固定し、室温(25℃)でのリチウムイオン伝導率を測定した。その後、加圧治具を解体し、作製されたリチウムイオン伝導体の成形体の両面にリチウム箔(厚さ:50μm)を貼りつけ、再度、加圧治具を用いて先ほど測定したリチウムイオン伝導率と同等となるようにネジで加圧固定し、室温にてリチウムイオン伝導率を測定した。その後、定電圧通電を行い、定常電流が流れる定常状態となるまで通電した。定常状態となった後、通電を停止し、再度リチウムイオン伝導率を測定した。これらの測定結果に基づき、以下に具体的に説明する方法で、各サンプルのリチウム輸率を算出した。
【0052】
リチウム輸率の具体的な算出方法は、以下の通りである。まず、各サンプルのリチウムイオン伝導体を対象として、交流インピーダンス測定を行い、固体電解質の抵抗値(Rs0)を解析する。なお、交流インピーダンス測定の条件は、使用装置:VSP-300(Biologic社製)、周波数:7MHz~100mHzである。
【0053】
次に、定電圧通電を開始した直後の初期電流値(I0)を測定し、この初期電流値(I0)を用いて、下記の式Aに従い初期抵抗値(R0)を算出する。なお、初期電流値測定の条件は、使用装置:VSP-300(Biologic社製)、定電圧値V:10mV、トータル時間:6秒、測定間隔:0.0002秒である。
R0=V/I0 ・・・A
【0054】
上述の方法で得られた固体電解質の抵抗値(Rs0)および初期抵抗値(R0)を用いて、下記の式Bに従いリチウム界面抵抗(Rint)を算出する。
Rint=R0-Rs0 ・・・B
【0055】
次に、定電圧通電において定常状態となった後の電流値(I)を測定し、この電流値(I)を用いて、下記の式Cに従い定常状態での抵抗値(Rp)を算出する。なお、定常状態での電流値測定の条件は、使用装置:VSP-300(Biologic社製)、定電圧値V:10mV、トータル時間:10時間、測定間隔:60秒である。
Rp=V/I ・・・C
【0056】
また、定常状態となった後に、上記と同様の条件で、再度、交流インピーダンス測定を行い、定常状態後の固体電解質の抵抗値(Rs)を解析する。
【0057】
最後に、上述の方法により得られたリチウム界面抵抗(Rint)と、定常状態での抵抗値(Rp)と、定常状態後の固体電解質の抵抗値(Rs)とを用いて、下記の式Dに従いリチウム輸率(τLi)を算出する。
τLi=Rs/(Rp-Rint) ・・・D
【0058】
(性能評価の結果)
図3,4に示すように、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とグライム含有混合液体とバインダーとから構成されたリチウムイオン伝導体のリチウム輸率は、グライム含有混合液体におけるリチウム塩の濃度X(以下、単に「リチウム塩の濃度X」という。)と、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とグライム含有混合液体の含有量との合計に対するグライム含有混合液体の含有量の割合Y(以下、単に「グライム含有混合液体の含有割合Y」という。)とに応じて変化する。具体的には、リチウム塩の濃度Xが低いほど、リチウム輸率が高くなる傾向にあり、グライム含有混合液体の含有割合Yが低いほど、リチウム輸率が高くなる傾向にある。
【0059】
図4に示すように、リチウムイオン伝導体が、リチウム塩の濃度Xとグライム含有混合液体の含有割合Yとの関係について規定した上記式(1):Y≦-7X+35を満たすように構成されれば、一般的な電解液のリチウム輸率(0.2~0.3程度)を上回る0.5程度以上という良好なリチウム輸率を実現できることが確認された。さらに、リチウムイオン伝導体が、リチウム塩の濃度Xとグライム含有混合液体の含有割合Yとの関係について規定した上記式(2):Y≦-3.5X+17.5を満たすように構成されれば、0.6程度以上というさらに良好なリチウム輸率を実現できることが確認された。
【0060】
一方、
図5に示すように、グライム含有混合液体の代わりにリチウム塩含有イオン液体を含むリチウムイオン伝導体では、リチウム塩含有イオン液体におけるリチウム塩の濃度や、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末の含有量とリチウム塩含有イオン液体の含有量との合計に対するリチウム塩含有イオン液体の含有量の割合によらず、0.4程度以下というあまり高くはないリチウム輸率の値となった。例えば、イオン液体系サンプルであるサンプルS11は、グライム系サンプルであるサンプルS1と比べて、リチウム塩含有イオン液体(サンプルS1ではグライム含有混合液体)におけるリチウム塩の濃度や、リチウム塩含有イオン液体(サンプルS1ではグライム含有混合液体)の含有割合は同等であるが、サンプルS1のリチウム輸率(0.87)と比べて、非常に低いリチウム輸率(0.25)となっている。
【0061】
このように、本願発明者は、鋭意検討を行い、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末に、リチウム塩含有イオン液体ではなく、グライム含有混合液体を複合し、さらに、リチウム塩の濃度Xとグライム含有混合液体の含有割合Yとの関係が上記式(1):Y≦-7X+35を満たすように構成されれば、良好なリチウム輸率を実現することができることを新たに見出した。
【0062】
なお、グライム系サンプル(サンプルS1~S10)の内、リチウム塩としてLi-FSIを用いたサンプル(サンプルS8~S10)では、リチウム塩としてLi-TFSIを用いたサンプル(サンプルS1~S7)と比較して、高いリチウムイオン伝導率を示した。例えば、リチウム塩の濃度とLLZ:G4:バインダーの含有割合とが互いに等しいサンプル同士で比較すると、リチウム塩としてLi-FSIを用いたサンプルS8では、リチウム塩としてLi-TFSIを用いたサンプルS1と比較して、リチウムイオン伝導率が約1.3倍であった。同様に、リチウム塩としてLi-FSIを用いたサンプルS9,S10は、リチウム塩としてLi-TFSIを用いたサンプルS2,S3と比較して、それぞれ、リチウムイオン伝導率が約1.3倍、約2.3倍であった。この結果から、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、リチウム塩とグライム類とを含むグライム含有混合液体とバインダーと、を含むシート状のリチウムイオン伝導体において、リチウム塩としてLi-FSIを用いると、良好なリチウム輸率を実現しつつ、さらに良好なリチウムイオン伝導率を実現することができることが確認された。
【0063】
A-6.LLZ系リチウムイオン伝導体の好ましい態様:
上述したように、酸化物系リチウムイオン伝導体としては、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有する酸化物系リチウムイオン伝導体(LLZ系リチウムイオン伝導体)を用いることができる。LLZ系リチウムイオン伝導体としては、Mgと元素A(Aは、Ca、Sr、およびBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(F1)~(F3)を満たすものを採用することが好ましい。なお、Mgおよび元素Aは、比較的埋蔵量が多く安価であるため、LLZ系リチウムイオン伝導体の置換元素としてMgおよび/または元素Aを用いれば、LLZ系リチウムイオン伝導体の安定的な供給が期待できると共にコストを低減することができる。
(F1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(F2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(F3)0≦A/(La+A)≦0.67
【0064】
また、LLZ系リチウムイオン伝導体としては、Mgと元素Aとの両方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(F1´)~(F3´)を満たすものを採用することがより好ましい。
(F1´)2.0≦Li/(La+A)≦2.7
(F2´)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(F3´)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0065】
上述の事項を換言すると、LLZ系リチウムイオン伝導体は、次の(a)~(c)のいずれかを満たすことが好ましく、これらの中でも(c)を満たすことがより好ましく、(d)を満たすことがさらに好ましいと言える。
(a)Mgを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/La≦3、かつ、0≦Mg/La≦0.5 を満たす。
(b)元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、かつ、0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(c)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、0≦Mg/(La+A)≦0.5、かつ0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(d)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、2.0≦Li/(La+A)≦2.7、0.01≦Mg/(La+A)≦0.14、かつ0.04≦A/(La+A)≦0.17 を満たす。
【0066】
LLZ系リチウムイオン伝導体は、上記(a)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、およびMgを、モル比で上記式(F1)および(F2)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導体がMgを含有すると、Liのイオン半径とMgのイオン半径とは近いので、LLZ結晶相においてLiが配置されているLiサイトにMgが配置されやすく、LiがMgに置換されることで、LiとMgとの電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じてLiイオンが動きやすくなり、その結果、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導体において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導体におけるMgの含有量が多くなるほどLiサイトにMgが配置され、Liサイトに空孔が生じ、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、Mgを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。このMgを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体の含有量が小さくなる。Mgを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0067】
LLZ系リチウムイオン伝導体は、上記(b)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、および元素Aを、モル比で上記式(F1)および(F3)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導体が元素Aを含有すると、Laのイオン半径と元素Aのイオン半径とが近いので、LLZ結晶相においてLaが配置されているLaサイトに元素Aが配置されやすく、Laが元素Aに置換されることで、格子ひずみが生じ、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系リチウムイオン伝導体において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系リチウムイオン伝導体における元素Aの含有量が多くなるほどLaサイトに元素Aが配置され、格子ひずみが大きくなり、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対する元素Aのモル比が0.67を超えると、元素Aを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。この元素Aを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体の含有量が小さくなり、また元素Aを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0068】
上記元素Aは、Ca、Sr、およびBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。Ca、Sr、およびBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、Sr、およびBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、LLZ系リチウムイオン伝導体におけるLaサイトに配置されているLaと置換されやすい。LLZ系リチウムイオン伝導体が、これらの元素Aの中でもSrを含有することが、焼結により容易に形成されることができ、高いリチウムイオン伝導率が得られる点で好ましい。以下では、Li、La、Zr、MgおよびSrを含有するLLZ系リチウムイオン伝導体を、「LLZ-MgSr」という。
【0069】
LLZ系リチウムイオン伝導体は、上記(c)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mg、および元素Aを、モル比で上記式(F1)~(F3)を満たすように含むとき、焼結により容易に形成されることができ、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。また、LLZ系リチウムイオン伝導体が、上記(d)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mg、および元素Aを、モル比で上記式(F1´)~(F3´)を満たすように含むとき、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系リチウムイオン伝導体におけるLiサイトのLiがMgに置換され、また、LaサイトのLaが元素Aに置換されることで、Liサイトに空孔が生じ、かつ自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率がより一層良好になると考えられる。さらに、LLZ系リチウムイオン伝導体が、Li、La、Zr、Mg、およびSrを上記式(F1)~(F3)を満たすように、特に上記式(F1´)~(F3´)を満たすように含むことが、高いリチウムイオン伝導率が得られ、また、高い相対密度を有するリチウムイオン伝導体が得られる点から好ましい。
【0070】
なお、上記(a)~(d)のいずれの場合においても、LLZ系リチウムイオン伝導体は、Zrを、モル比で以下の式(F4)を満たすように含むことが好ましい。Zrを該範囲で含有することにより、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体が得られやすくなる。
(F4)0.33≦Zr/(La+A)≦1
【0071】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
上記実施形態における全固体電池102の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。
【0073】
また、本明細書に開示される技術は、全固体電池102を構成する固体電解質層や電極に限られず、他のリチウム電池(例えば、リチウム空気電池やリチウムフロー電池等)を構成する固体電解質層や電極にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10:粒子 20:イオン液体 102:全固体リチウムイオン二次電池 110:電池本体 112:固体電解質層 114:正極 116:負極 154:正極側集電部材 156:負極側集電部材 202:リチウムイオン伝導体 204:リチウムイオン伝導体 206:リチウムイオン伝導体 214:正極活物質 216:負極活物質