(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】自動血圧測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
A61B5/022 400F
A61B5/022 300A
(21)【出願番号】P 2020092610
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】522193547
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003100
【氏名又は名称】弁理士法人池田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古越 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 直嵩
(72)【発明者】
【氏名】西林 秀郎
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-198740(JP,A)
【文献】特表2016-516503(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0209055(US,A1)
【文献】国際公開第2011/045806(WO,A1)
【文献】特開2006-043146(JP,A)
【文献】特開2004-223044(JP,A)
【文献】特開2012-071059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被圧迫部位に巻き付けられ、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を有し、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋によりそれぞれ同じ圧迫圧力で前記被圧迫部位内の動脈血管を圧迫する圧迫帯を、備える自動血圧測定装置であって、
前記圧迫帯による前記被圧迫部位に対する圧迫圧力を変化させる過程で、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる前記生体の心拍に同期した圧力振動である中間脈波を抽出する脈波抽出部と、
前記圧迫帯の圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射し
た反射波が重畳する前記中間脈波
の一次微分波形の二次ピーク波の大きさ又は振幅が予め設定された判定閾値未満となったときの前記圧迫帯の圧迫圧力に基づいて、前記生体の最低血圧値を決定する最低血圧値決定部と、を含む
ことを特徴とする自動血圧測定装置。
【請求項2】
生体の被圧迫部位に巻き付けられ、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を有し、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋によりそれぞれ同じ圧迫圧力で前記被圧迫部位内の動脈血管を圧迫する圧迫帯を、備える自動血圧測定装置であって、
前記圧迫帯による前記被圧迫部位に対する圧迫圧力を変化させる過程で、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる前記生体の心拍に同期した圧力振動である中間脈波を抽出する脈波抽出部と、
前記圧迫帯の圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射した反射波が重畳する前記中間脈波の二次微分波形における一次極大極小波後の所定期間の波形が
零を示す基線と交差しなくなったときの前記圧迫帯の圧迫圧力に基づいて、前記生体の最低血圧値を決定する
最低血圧値決定部と、を含む
ことを特徴とす
る自動血圧測定装置。
【請求項3】
前記脈波抽出部は、前記中間膨張袋内の圧迫圧力を表す信号を、45Hz以上の周波数成分を除去する上限遮断周波数を有するローパスフィルタ処理を施すことで、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる圧力振動である前記中間脈波を抽出する
ことを特徴とする請求項1
又は2の自動血圧測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕、足首のような生体の肢体である被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備えた自動血圧測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体の被圧迫部位に巻き付けられる圧迫帯を備え、その圧迫帯の圧迫圧力を変化させる過程でその圧迫帯内の圧力振動である脈波を逐次抽出し、その脈波の変化に基づいて生体の血圧値を決定する自動血圧測定装置において、幅方向に連ねられて生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した気室を有する複数の膨張袋を有する圧迫帯を用いるものが知られている。例えば、特許文献1に記載されたものがそれである。特許文献1では、上記幅方向に連ねられた独立した気室である複数の膨張袋は、上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋と称されている。
【0003】
特許文献1の実施例1に記載された自動血圧測定装置では、圧迫帯による圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、例えば中間膨張袋から得られた脈波の頂点を結ぶ包絡線(エンベロープ)が急激な上昇を示す点及び急激な下降を示す点のそれぞれの圧迫圧力を最高血圧値及び最低血圧値として決定する血圧値決定アルゴリズムが用いられている。また、特許文献1の実施例2に記載された自動血圧測定装置では、圧迫帯による圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、下流側膨張袋から得られる脈波の振幅値とその下流側膨張袋よりも上流側に位置する膨張袋から得られる脈波の振幅値の比の変化に基づいて最高血圧値を決定する最高血圧値決定アルゴリズムが用いられている。また、圧迫帯による圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、下流側膨張袋から得られる脈波とその下流側膨張袋よりも上流側に位置する膨張袋から得られる脈波との間の、位相差関連情報(時間差、脈波伝播速度)の変化に基づいて最低血圧値を決定する最低血圧値決定アルゴリズムが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧迫帯による圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、下流側膨張袋から得られる脈波とその下流側膨張袋よりも上流側に位置する膨張袋から得られる脈波との間の位相差関連情報(時間差、脈波伝播速度)は、動脈血管の径が変化する点からの反射波が重畳して変化するため、圧迫圧力の下降に伴う最低血圧値付近において安定的に認識できる明確な変化現象とは言い難いものであった。このため、特許文献1に記載された自動血圧測定装置では、上記の位相差関連情報に基づいて最低血圧値を正確に決定することができない場合があった。
【0006】
本発明の目的とするところは、中間膨張袋から得られる脈波に含まれる反射波情報を用いて、生体の最低血圧値を正確に決定できる自動血圧測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以上の事情を背景として、幅方向に連ねられて独立して生体をそれぞれ圧迫できる上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋を有する3連カフを用いて、各膨張袋から独立に得られるカフ脈波を比較検討するうち、圧迫帯による圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋からそれぞれ得られる上流側脈波、中間脈波、および下流側脈波の一次微分波形のうち、中間脈波の一次微分波形および二次微分が最低血圧値付近において特徴的な変化を示すという事実を見出した。その特徴的な変化は、脈波の伝播経路において、下流側膨張袋の下流側端部において動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ伝播する反射波の、圧迫圧力の低下に関連した減衰に由来するものと推定される。本発明はかかる知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)生体の被圧迫部位に巻き付けられ、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を有し、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋によりそれぞれ同じ圧迫圧力で前記被圧迫部位内の動脈血管を圧迫する圧迫帯を、備える自動血圧測定装置であって、(b)前記圧迫帯による前記被圧迫部位に対する圧迫圧力を変化させる過程で、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる前記生体の心拍に同期した圧力振動である中間脈波を抽出する脈波抽出部と、(c)前記圧迫帯の圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射した反射波が重畳する前記中間脈波の一次微分波形の二次ピーク波の大きさ又は振幅が予め設定された判定閾値未満となったときの前記圧迫帯の圧迫圧力に基づいて、前記生体の最低血圧値を決定する最低血圧値決定部と、を含むことにある。
【発明の効果】
【0009】
第1発明の自動血圧測定装置によれば、前記圧迫帯の圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射した反射波が重畳する前記中間脈波の一次微分波形の二次ピーク波の大きさ又は振幅が予め設定された判定閾値未満となったときの前記圧迫帯の圧迫圧力に基づいて、前記生体の最低血圧値を決定する最低血圧値決定部を含む。これにより、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射して前記中間脈波に重畳する反射波が所定以上減衰したことが安定的に判定されるので、生体の最低血圧値の決定精度が高められる。
【0011】
第2発明の要旨とするところは、(a)生体の被圧迫部位に巻き付けられ、幅方向に連ねられて前記生体の被圧迫部位を各々圧迫する独立した上流側膨張袋、中間膨張袋、および下流側膨張袋を有し、前記上流側膨張袋、前記中間膨張袋、および前記下流側膨張袋によりそれぞれ同じ圧迫圧力で前記被圧迫部位内の動脈血管を圧迫する圧迫帯を、備える自動血圧測定装置であって、(b) 前記圧迫帯による前記被圧迫部位に対する圧迫圧力を変化させる過程で、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる前記生体の心拍に同期した圧力振動である中間脈波を抽出する脈波抽出部と、(c)前記圧迫帯の圧迫圧力が最高血圧値よりも高い値から下降させられる過程で、前記下流側膨張袋の下流側端部下において前記動脈血管の断面積が変化する点から上流側へ反射した反射波が重畳する前記中間脈波の二次微分波形における一次極大極小波後の所定期間の波形が零を示す基線と交差しなくなったときの前記圧迫帯の圧迫圧力に基づいて、前記生体の最低血圧値を決定する最低血圧値決定部と、を含むことにある。これにより、前記中間脈波の二次微分波形の一次極大極小波形後の波形が零を示す基線と交差しなくなったことが安定的に判定されるので、生体の最低血圧値の決定精度が高められる。
【0012】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記脈波抽出部は、前記中間膨張袋内の圧迫圧力を表す信号から、45Hz、好適には30Hz、さらに好適には25Hz、またさらに好適には20Hzの上限遮断周波数を有し、その上限遮断周波数未満の周波数成分を通過させるローパスフィルタ処理を施すことで、前記中間膨張袋内の圧迫圧力に含まれる圧力振動である前記中間脈波を抽出する。これにより、反射波の影響を示す特徴を明確に含む中間脈波が得られるので、生体の最低血圧値の決定精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例である自動血圧測定装置の構成を説明するブロック図である。
【
図2】
図1の圧迫帯を外周面の一部を切り欠いて示す図である。
【
図3】
図2の圧迫帯内に備えられた上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋を示す平面図である。
【
図4】
図3のIV-IV視断面図であって、上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋を幅方向に切断して示した図である。
【
図5】
図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【
図6】
図5のカフ圧制御部による圧迫圧力制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【
図7】最高血圧値よりも充分高い圧迫圧力による圧迫状態において、
図5の脈波抽出部により上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋の圧迫圧力からそれぞれ抽出された脈波の波形と、
図5の一次微分波形算出部により算出された脈波の一次微分波形を示す図である。
【
図8】
図7よりも低い圧迫圧力による圧迫状態における脈波の波形と、脈波の一次微分波形とを示す図である。
【
図9】
図8よりも低い圧迫圧力による圧迫状態における脈波の波形と、脈波の一次微分波形とを示す図である。
【
図10】
図9よりも低く生体の最低血圧値付近の圧迫状態における脈波の波形と、脈波の一次微分波形とを示す図である。
【
図11】
図10よりも低い圧迫圧力による圧迫状態における脈波の波形と、脈波の一次微分波形とを示す図である。
【
図12】
図5の電子制御装置の血圧測定作動の要部を説明するフローチャートを示す図である。
【
図13】本発明の他の実施例における電子制御装置の機能を説明する機能ブロック線図であって、
図5に対応する図である。
【
図14】最高血圧値よりも充分高い圧迫圧力による圧迫状態において、
図13の脈波抽出部により上流側膨張袋、中間膨張袋、及び下流側膨張袋の圧迫圧力からそれぞれ抽出された脈波の波形と、
図13の二次微分波形算出部により算出された脈波の二次微分波形を示す図である。
【
図15】
図14よりも低い圧迫圧力による圧迫状態における脈波の波形と、脈波の二次微分波形を示す図である。
【
図16】
図15よりも低い圧迫圧力による圧迫状態における脈波の波形と、脈波の二次微分波形を示す図である。
【
図17】
図16よりも低く生体の最低血圧値付近の圧迫状態における脈波の波形と、脈波の二次微分波形を示す図である。
【
図18】
図17よりも低い圧迫圧力における脈波の波形と、脈波の二次微分波形を示す図である。
【
図19】
図13の電子制御装置の血圧測定作動の要部を説明するフローチャートを示す図であって、
図12に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、被圧迫部位である生体14の肢体例えば上腕16に巻き付けられた上腕用の圧迫帯12を備えた本発明の一例の自動血圧測定装置10を示している。この自動血圧測定装置10は、上腕16内の動脈18を止血するのに十分な値まで昇圧させた圧迫帯12の圧迫圧力PCを降圧させる過程において、動脈18の容積変化に応答して発生する圧迫帯12内の圧迫圧力PCの圧力振動である脈波を逐次抽出し、その脈波から得られる情報に基づいて生体14の最高血圧値SBP及び最低血圧値DBPを測定するものである。
【0016】
図2は圧迫帯12を外周側面不織布20aの一部を切り欠いて示す図である。
図2に示すように、圧迫帯12は、PVC(polyvinyl chloride)等の合成樹脂により裏面が相互にラミネートされた合成樹脂繊維製の外周側面不織布20a及び内周側不織布20bから成る帯状外袋20と、その帯状外袋20内において幅方向に順次収容され、例えば軟質ポリ塩化ビニールシートなどの可撓性シートから構成されて独立して上腕16を圧迫可能な上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び下流側膨張袋26と、を備える。この圧迫帯12は、外周側面不織布20aの端部に取り付けられた面ファスナ28aに内周側不織布20bの端部に取り付けられた起毛パイル28bが着脱可能に接着されることによって、上腕16に着脱可能に装着されるようになっている。
【0017】
上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26は、長手状の圧迫帯12の幅方向に連ねられて上腕16を各々圧迫する独立した気室をそれぞれ有するとともに、管接続用コネクタ32、34及び36を外周面側に備えている。それら管接続用コネクタ32、34及び36は、外周側面不織布20aを通して圧迫帯12の外周面に露出されている。
【0018】
図3は圧迫帯12内に備えられた上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び、下流側膨張袋26を示す平面図であり、
図4は
図3のIV-IV視断面図である。上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26は、それらにより圧迫された動脈18の容積変化に応答して発生する圧力振動である脈波を検出するためのものであり、それぞれ長手状を成している。上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26は、中間膨張袋24の両側に隣接した状態で配置されている。また、中間膨張袋24は、上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の間に挟まれた状態で圧迫帯12の幅方向の中央部に配置されている。なお、圧迫帯12が上腕16に巻き付けられた状態においては、上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26は上腕16の長手方向に所定間隔を隔てて位置させられ、また、中間膨張袋24は上腕16の長手方向において連なるように上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の間に配置させられる。
【0019】
中間膨張袋24は所謂マチ構造の側縁部を両側に備えている。すなわち、中間膨張袋24の上腕16の長手方向すなわち圧迫帯12の幅方向における両端部には、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る一対の折込溝24f、24gがそれぞれ形成されている。そして、上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の中間膨張袋24に隣接する側の端部22a及び26aが一対の折込溝24f、24g内にそれぞれ差し入れられて配置されるようになっている。これにより、中間膨張袋24の端部24aと上流側膨張袋22の端部22aとが相互に重ねられ、且つ、中間膨張袋24の端部24bと下流側膨張袋26の端部26aとが相互に重ねられた構造すなわちオーバラップ構造となるので、上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26が等圧で上腕16を圧迫したときにそれらの境界付近においても均等な圧力分布が得られる。
【0020】
上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26も、マチ構造の側縁部を中間膨張袋24とは反対側の端部22b及び26bに備えている。すなわち、上流側膨張袋22の中間膨張袋24とは反対側の端部22bには、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る折込溝22fが形成されている。また、下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部26bには、互いに接近するほど深くなるように互いに接近する方向に折れ込まれた可撓性シートから成る折込溝26gが形成されている。圧迫帯12の幅方向に飛び出ないように、折込溝22fを構成するシートは、上流側膨張袋22内に配置された貫通穴を備える接続シート38を介してその反対側部分すなわち中間膨張袋24側の部分に接続されている。同様に、折込溝26gを構成するシートは、下流側膨張袋26内に配置された貫通穴を備える接続シート40を介してその反対側部分すなわち中間膨張袋24側の部分に接続されている。
【0021】
これにより、上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の端部22b及び26bにおいても上腕16の動脈18に対する圧迫圧力が他の部分と同様に得られるので、圧迫帯12の幅方向の有効圧迫幅がその幅寸法と同等になる。圧迫帯12の幅方向は12cm程度であり、その幅方向に3つの上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び下流側膨張袋26が配置された構造であるから、それぞれが実質的に4cm程度の幅寸法とならざるを得ない。このような狭い幅寸法であっても圧迫機能を十分に発生させるために、中間膨張袋24の両端部24a及び24bと上流側膨張袋22の端部22a及び下流側膨張袋26の端部26aとが相互に重ねられたオーバラップ構造とされるとともに、上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の中間膨張袋24とは反対側の端部22b及び26bが所謂マチ構造の側縁部とされている。
【0022】
上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部22a及び26aと、それが差し入れられている一対の折込溝24f、24gの内壁面すなわち相対向する溝側面との間には、圧迫帯12の長手方向の曲げ剛性よりもその圧迫帯12の幅方向の曲げ剛性が高い剛性の異方性を有する長手状の遮蔽部材42n、42mがそれぞれ介在させられている。遮蔽部材42nは、上流側膨張袋22と中間膨張袋24との重なり寸法と同様の長さ寸法を備えている。同様に、遮蔽部材42mは、下流側膨張袋26と中間膨張袋24との重なり寸法と同様の長さ寸法を備えている。
【0023】
図3及び
図4に示すように、上流側膨張袋22の端部22aとそれが差し入れられている折込溝24fとの間の隙間のうちの外周側の隙間、及び、下流側膨張袋26の端部26aとそれが差し入れられている折込溝24gとの間の隙間のうちの外周側の隙間には、長手状の遮蔽部材42n、42mがそれぞれ介在させられている。本実施例では、内周側の隙間に比較して外周側の隙間の方が遮蔽効果が大きいので長手状の遮蔽部材42n、42mは外周側の隙間に設けられているが、外周側の隙間と内周側の隙間との両方に設けられていてもよい。
【0024】
遮蔽部材42n、42mは、上腕16の長手方向(すなわち圧迫帯12の幅方向)に平行な樹脂製の複数本の可撓性中空管44が互いに平行な状態で、上腕16の周方向(すなわち圧迫帯12の長手方向)に連ねて配列されるとともに、それら可撓性中空管44が型成形或いは接着により直接に或いは粘着テープなどの可撓性シート等の他の部材を介して間接的に相互に連結されることにより構成されている。遮蔽部材42nは、上流側膨張袋22の中間膨張袋24側の端部22aの外周側の複数箇所に設けられた複数の掛止シート46に掛け止められている。同様に、遮蔽部材42mは、下流側膨張袋26の中間膨張袋24側の端部26aの外周側の複数箇所に設けられた複数の掛止シート46に掛け止められている。
【0025】
図1に戻って、自動血圧測定装置10においては、空気ポンプ50、急速排気弁52、及び、排気制御弁54が主配管56にそれぞれ接続されている。その主配管56からは、上流側膨張袋22に接続された第1分岐管58、中間膨張袋24に接続された第2分岐管62、及び、下流側膨張袋26に接続された第3分岐管64がそれぞれ分岐させられている。第1分岐管58は、空気ポンプ50と上流側膨張袋22との間を直接開閉するための第1開閉弁E1を備えている。第2分岐管62は、空気ポンプ50と中間膨張袋24との間を直接開閉するための第2開閉弁E2を備えている。第3分岐管64は、空気ポンプ50と下流側膨張袋26との間を直接開閉するための第3開閉弁E3を備えている。
【0026】
第1分岐管58には、上流側膨張袋22内の圧力値を検出するための第1圧力センサT1が接続され、第2分岐管62には、中間膨張袋24内の圧力値を検出するための第2圧力センサT2が接続され、第3分岐管64には、下流側膨張袋26内の圧力値を検出するための第3圧力センサT3が接続され、主配管56には、圧迫帯12の圧迫圧力PCを検出するための第4圧力センサT4が接続されている。電子制御装置70には、第1圧力センサT1から上流側膨張袋22内の圧力値すなわち上流側膨張袋22の圧迫圧力PC1を示す出力信号が供給され、第2圧力センサT2から中間膨張袋24内の圧力値すなわち中間膨張袋24の圧迫圧力PC2を示す出力信号が供給され、第3圧力センサT3から下流側膨張袋26内の圧力値すなわち下流側膨張袋26の圧迫圧力PC3を示す出力信号が供給され、第4圧力センサT4から圧迫帯12の圧迫圧力PCを示す出力信号が供給される。
【0027】
電子制御装置70は、CPU72、RAM74、ROM76、表示装置78、及び図示しないI/Oポートなどを含む所謂マイクロコンピュータである。この電子制御装置70は、CPU72がRAM74の記憶機能を利用しつつ予めROM76に記憶されたプログラムにしたがって入力信号を処理し、血圧測定開始操作釦80の操作に応答して、電動式の空気ポンプ50、急速排気弁52、排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、及び第3開閉弁E3をそれぞれ制御することにより、自動血圧測定制御を実行し、測定結果を表示装置78に表示させる。
【0028】
図5は、電子制御装置70に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
図5において、電子制御装置70は、カフ圧制御部82、脈波抽出部84、一次微分波形算出部86、最高血圧値決定部88、最低血圧値決定部90等を、機能的に備えている。
図6は、カフ圧制御部82による圧迫帯12の圧迫圧力制御作動の要部を説明するタイムチャートである。
【0029】
カフ圧制御部82は、
図5に示す血圧測定開始操作釦80の操作に応答して、急速排気弁52及び排気制御弁54を閉じ、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、及び第3開閉弁E3を開き、空気ポンプ50を作動させることにより、生体14の最高血圧値SBPよりも充分に高い圧、例えば180mmHgに予め設定された昇圧目標圧力値PCMとなるまで圧迫帯12の生体14に対する圧迫圧力PCを急速昇圧させる。
【0030】
次いで、カフ圧制御部82は、排気制御弁54を所定の周期で所定の期間繰り返し開くことで、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体14の最低血圧値よりも充分に低い圧、例えば30mmHgに予め設定された測定終了圧力値PCEに到達するまでの間で複数のステップ圧P1、P2、P3、・・・Pxが順次形成されるように、予め設定された降圧速度で圧迫帯12の圧迫圧力PCをステップ状に徐速降圧させる。
【0031】
カフ圧制御部82は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが測定終了圧力値PCEよりも小さくなったときに、急速排気弁52を用いて上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び下流側膨張袋26内の圧力をそれぞれ大気圧まで排圧する。このように制御された圧迫帯12では、上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び下流側膨張袋26は同じ圧迫圧力PCで生体14に対して圧迫するが、
図6では第4圧力センサにより検出された圧迫帯12の圧迫圧力PCが示されている。
【0032】
脈波抽出部84は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが上記徐速降圧中の各ステップ圧P1、P2、P3、・・・Pxに維持された状態において、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2及び第3圧力センサT3からの出力信号に基づき上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26の各圧迫圧力PC1、PC2及びPC3に重畳する、生体の心拍に同期した圧力変動である脈波を示す脈波信号SM1、SM2及びSM3を逐次抽出し、記憶させる。
【0033】
具体的には、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2、及び第3圧力センサT3からの出力信号に対して、例えば45Hz、好適には30Hz、さらに好適には25Hz、またさらに好適には20Hz以上の周波数成分を除去する上限遮断周波数(-3dBのカットオフ周波数)を有するローパスフィルタ処理をそれぞれ行なうことにより脈波信号SM1、SM2及びSM3を抽出する。これら脈波信号SM1、SM2及びSM3は、RAM74等の所定の記憶領域に逐次記憶される。脈波信号SM1、SM2及びSM3は、例えば
図7から
図11に示されるものであり、それぞれ上流側脈波、中間脈波、及び下流側脈波を表している。
【0034】
一次微分波形算出部86は、脈波信号SM1、SM2及びSM3に対してよく知られた1階微分処理を行なうことで、脈波信号SM1、SM2及びSM3の一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtをそれぞれ算出する。
図7から
図11は、脈波抽出部84により、上流側膨張袋22の圧迫圧力PC1、中間膨張袋24の圧迫圧力PC2及び下流側膨張袋26の圧迫圧力PC3から、それらに重畳する圧力振動をそれぞれ抽出した脈波信号SM1、SM2、SM3の波形と、脈波信号SM1、SM2及びSM3の一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtとを、たとえば複数段階のステップ圧P1、P2、P3、・・・Px毎にそれぞれ例示する図である。
【0035】
図7は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体の最高血圧値SBPよりも高く、上腕16の動脈18が上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26閉じられている状態を示している。この状態では、動脈18内の圧力変動は専ら上流側膨張袋22の容積変化を発生させる一方で、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26は容積変化が少なく、脈波信号SM1の振幅は脈波信号SM2及びSM3よりも大きい。脈波信号SM2及びSM3は、上流側膨張袋22から中間膨張袋24及び下流側膨張袋26へ順次伝達される小さな容積変化(クロストーク)に基づいて順に小さな振幅を示す。
【0036】
図8は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体の最高血圧値SBPよりも低くなって血流が開始された後の状態を示している。この状態では、その血流によって、上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26の容積変化が共に発生し、脈波信号SM1、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26の振幅は相互に同様となる。この状態における、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtには、脈波信号SM1、SM2及びSM3の立ち上がりの傾斜に対応する一次ピーク波P1
SM1、P1
SM2、P1
SM3が、形成され、
図9のような二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3が形成されていない。動脈18内において、血流が
図1に示す下流側膨張袋26の下流側端部26cの直下へ到達したときには、上流側膨張袋22および中間膨張袋24の直下の動脈18は閉じていて、下流側膨張袋26の下流側端部26c直下に発生する反射波が到達しないからであると推定される。ここで、ピーク波とは、一つの頂点を有する一つの独立峰状の波形を示している。
【0037】
図9は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図8の状態よりも更に低くなった状態を示している。この状態における、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtには、脈波信号SM1、SM2及びSM3の立ち上がりの傾斜に対応する一次ピーク波P1
SM1、P1
SM2、P1
SM3と、それに続く二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3とが、それぞれ形成されている。二次ピーク波P2
SM3は、P1
SM3に重畳していて認識できない。二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3は、下流側膨張袋26の下流側端部26c直下に発生する反射波の到達を示している。反射波は、動脈18内において血流の流通抵抗(インピーダンス)が急変した点、すなわち下流側膨張袋26の下流側端部26c直下において動脈18の断面積が急増した点において発生する。このような動脈18の断面積が急増した点は、所謂コロトコフ音の発生要因であるとされている。
【0038】
図10は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図9の状態よりも更に低くなり、生体14の最低血圧値DBPに到達した状態を示している。この状態では、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtにおいて、二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3が殆ど消失しており、
図10のA1に示すように、特に中間膨張袋24内の圧迫圧力PC2から抽出した脈波信号SM2の一次微分波形dSM2/dtでは、二次ピーク波P2
SM2の痕跡すら見当たらない。このような最低血圧値DBPに到達した圧迫圧力PCでは、下流側膨張袋26の下流側端部26c直下において動脈18の断面積の変化が小さいため、反射波が殆ど発生しないと推定される。
【0039】
図11は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図10の状態よりも更に低くなり、生体14の最低血圧値DBPを下回った状態を示している。この状態では、反射波が生じないため、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtにおいて、二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3が全く消失している。
【0040】
最高血圧値決定部88は、例えば、よく知られたオシロメトリック式血圧値決定アルゴリズムを用いて最高血圧値SBPを決定する。すなわち、例えば圧迫帯12の圧迫圧力PCを示す軸と脈波振幅を示す軸との二次元座標において脈波信号SM2の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)を生成し、その包絡線のエンベロープが急激に増加したときすなわちエンベロープの微分波形の極大点に対応する圧迫帯12の圧迫圧力PCを、最高血圧値SBPとして決定する。
【0041】
最低血圧値決定部90は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、下流側膨張袋26の下流側端部26c直下において動脈18の断面積が変化する点から上流側へ反射して脈波信号SM2に重畳する反射波が所定値未満に減衰したときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する。最低血圧値決定部90は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、たとえば、脈波信号SM2の一次微分波形dSM2/dtの二次ピーク波P2SM2が消滅したとき、具体的には二次ピーク波P2SM2の大きさ(振幅)が予め実験的に設定された判定閾値Tdia1未満となったときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する。
【0042】
図12は、電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートである。血圧測定開始操作釦80が操作されると、カフ圧制御部82に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)S1では、圧迫帯12の圧迫圧力PCが昇圧される。具体的には、
図6に示すように、急速排気弁52が閉状態とされるとともに、空気ポンプ50が作動状態とされてその空気ポンプ50から圧送される圧縮空気により主配管56内及びそれに連通された上流側膨張袋22、中間膨張袋24、及び下流側膨張袋26内の圧力が急速に高められる。そして、圧迫帯12による上腕16の圧迫が開始される。
【0043】
次いで、カフ圧制御部82に対応するS2では、圧迫帯12の圧迫圧力PCを示す第4圧力センサT4の出力信号に基づいて、その圧迫圧力PCが予め設定された昇圧目標圧力値PCM(例えば180mmHg)以上であるか否かが判定される。
図6の時間t2より前の時点では、上記S2の判定が否定されて
図12のS1以下が繰り返し実行される。
【0044】
圧迫圧力PCが昇圧目標圧力値PCMに到達してS2の判定が肯定されると、カフ圧制御部82に対応するS3では、空気ポンプ50の作動が停止され、上流側膨張袋22、圧迫帯12の圧迫圧力PCが例えば3~5mmHg/sec毎に予め設定されたステップ圧P1、P2、P3、・・・Pxが順次形成されるステップ降圧で徐速排気するように排気制御弁54、第1開閉弁E1、第2開閉弁E2及び第3開閉弁E3が作動させられる。
【0045】
上記ステップ圧P1、P2、P3、・・・Pxを保持する場合には第1開閉弁E1、第2開閉弁E2、及び第3開閉弁E3がそれぞれ閉状態とされる。
図6の時間t2は上記徐速排気の開始時点であり、また時間t3~t4の間は圧迫帯12の圧迫圧力PCがステップ圧P1に所定時間例えば2拍が発生する間保持されている時間である。
【0046】
次いで、脈波抽出部84に対応するS4では、圧迫圧力PC1、PC2及びPC3がそれぞれ所定時間保持される間に、第1圧力センサT1、第2圧力センサT2及び第3圧力センサT3からの出力信号に対して、たとえば25Hz未満の波長帯の信号を弁別するローパスフィルタ処理がそれぞれ為されることにより上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26からの脈波を示す脈波信号SM1、SM2及びSM3が抽出されるとともに、第4圧力センサT4からの出力信号に対してローパスフィルタ処理が為されることにより交流成分が除去された圧迫帯12の圧迫圧力PCが抽出される。そして、それらが互いに関連付けられて記憶される。
【0047】
カフ圧制御部82に対応するS5では、圧迫圧力PCが予め設定された測定終了圧力値PCE(例えば30mmHg)以下であるか否かが判定される。
図6の時間t11より前の時点では、上記S5の判定が否定されてS3以下が繰り返し実行される。
【0048】
圧迫圧力PCが測定終了圧力値PCE以下となってS5の判定が肯定されると、カフ圧制御部82に対応するS6では、上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26内の圧力がそれぞれ大気圧まで排圧させられるように急速排気弁52が作動させられる。
図6の時間t11以降はこの状態を示す。
【0049】
次いで、一次微分波形算出部86に対応するS7では、脈波信号SM1、SM2及びSM3のそれぞれの一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtが算出される。
【0050】
次いで、一次微分波形算出部に対応するS8では、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtにおいて、脈波信号SM1、SM2及びSM3の立ち上がりの傾斜に対応する一次ピーク波P1SM1、P1SM2、P1SM3に続いて発生する二次ピーク波P2SM1、P2SM2、P2SM3の大きさ(振幅)が算出される。
【0051】
次に、最低血圧値決定部90に対応するS9では、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、脈波信号SM2(中間脈波)の一次微分波形dSM2/dtの二次ピーク波P2SM2の大きさ(振幅)が、その消滅を判定するために予め設定された判定閾値Tdia1を下回ったか否かが判定される。その判定が否定された場合はS7以下が繰り返し実行されるが、肯定された場合は、最低血圧値決定部90に対応するS10において、その肯定されたときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPが決定される。脈波信号SM2(中間脈波)に重畳する反射波は脈波信号SM2からの認識が難しく、その反射波の存在は一次微分波形dSM2/dtの二次ピーク波P2SM2の大きさ(振幅)で示される。このため、上記二次ピーク波P2SM2の大きさ(振幅)が、その消滅を判定するために予め設定された判定閾値Tdia1を下回ったか否かが判定は、反射波の減衰の有無を判定している。
【0052】
そして、最高血圧値決定部88に対応するS11では、圧迫圧力PCを示す軸と脈波振幅を示す軸との二次元座標において脈波信号SM2の振幅値を結ぶ包絡線(エンベロープ)が生成され、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、その包絡線のエンベロープが急激に増加したときすなわちエンベロープの微分波形の極大点に対応する圧迫帯12の圧迫圧力PCが、最高血圧値SBPとして決定される。S11において決定された最高血圧値SBP、およびS10において決定された最低血圧値DBPは、表示装置78に表示される。
【0053】
上述のように、本実施例の自動血圧測定装置10によれば、圧迫帯12による被圧迫部位16に対する圧迫圧力PCを変化させる過程で、中間膨張袋24内の圧迫圧力PC2に含まれる生体14の心拍に同期した圧力振動である中間脈波(脈波信号SM2)を抽出する脈波抽出部84と、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、下流側膨張袋26の下流側端部26c下において動脈(動脈血管)18の断面積が変化する点から上流側へ反射して中間脈波(脈波信号SM2)に重畳する反射波の大きさが所定値未満に減衰したときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する最低血圧値決定部90と、を含む。これにより、圧迫圧力PCの変化に伴い、最低血圧値DBP付近において中間脈波(脈波信号SM2)に重畳する反射波の減衰に基づいて安定的に判定できるので、生体14の最低血圧値DBPの決定精度が高められる。
【0054】
また、本実施例の自動血圧測定装置10によれば、最低血圧値決定部90は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体14の最高血圧値SBPよりも充分に高い昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、中間脈波(脈波信号SM2)の一次微分波形dSM2/dtの二次ピーク波P2SM2が予め設定された判定閾値Tdia1未満となったときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する。このように中間脈波(脈波信号SM2)の一次微分波形dSM2/dtの二次ピーク波P2SM2が判定閾値Tdia1未満となったことにより、下流側膨張袋26の下流側端部26c下において動脈18の断面積が変化する点から上流側へ反射して中間脈波(脈波信号SM2)に重畳する反射波が所定値未満に減衰したことが安定的に判定されるので、生体14の最低血圧値DBPの決定精度が高められる。
【0055】
また、本実施例の自動血圧測定装置10によれば、脈波抽出部84は、中間膨張袋24内の圧迫圧力PC2を表す信号を、少なくとも45Hz以上の周数数成分を除去する上限遮断周波数を有するローパスフィルタ処理を施すことで、中間膨張袋24内の圧迫圧力PC2に含まれる圧力振動である中間脈波(脈波信号SM2)を抽出する。これにより、反射波の影響を示す特徴を明確に含む中間脈波(脈波信号SM2)が得られるので、生体14の最低血圧値DBPの決定精度が高められる。
【実施例2】
【0056】
次に、本発明の他の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、実施例相互に重複する部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0057】
図13は、電子制御装置70の他の実施例の機能を説明する機能ブロック線図である。
図13に示す電子制御装置70においては、前述の実施例の
図5に示す電子制御装置70に比較して、二次微分波形算出部92および最低血圧値決定部94が備えられている点で、相違する。二次微分波形算出部92は、脈波信号SM1、SM2及びSM3に対してよく知られた2階微分処理を行なうことで、脈波信号SM1、SM2及びSM3の二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2をそれぞれ算出する。また、二次微分波形算出部92は、中間脈波SM2の二次微分波形d
2SM2/dt
2における一次極大極小波W1
SM2に続く部分である所定期間の波形Δdwを算出する。
図14から
図18は、脈波抽出部84により、上流側膨張袋22の圧迫圧力PC1、中間膨張袋24の圧迫圧力PC2及び下流側膨張袋26の圧迫圧力PC3から、それらに重畳する圧力振動をそれぞれ抽出した脈波信号SM1、SM2、SM3の波形と、脈波信号SM1、SM2及びSM3の二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2とを、たとえば複数段階のステップ圧P1、P2、P3、・・・Px毎に例示する図である。
【0058】
図14は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体の最高血圧値SBPよりも高く、上腕16の動脈18が上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26閉じられている状態を示している。この状態では、動脈18内の圧力変動は専ら上流側膨張袋22の容積変化を発生させる一方で、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26は容積変化が少なく、脈波信号SM1の振幅は脈波信号SM2及びSM3よりも大きい。脈波信号SM2及びSM3は、上流側膨張袋22から中間膨張袋24及び下流側膨張袋26へ順次伝達される小さな容積変化(クロストーク)に基づいて順に小さな振幅を示す。
【0059】
図15は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが生体の最高血圧値よりも低くなって血流が開始された後の状態を示している。この状態では、その血流によって、上流側膨張袋22、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26の容積変化が共に発生し、脈波信号SM1、中間膨張袋24及び下流側膨張袋26の振幅は相互に同様となる。この状態における、二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2は、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtの傾斜をそれぞれ示す一次極大極小波W1
SM1、W1
SM2、W1
SM3を示していて、零を示す基線(零ライン)ZLに対して上下方向にそれぞれ交差している。動脈18内において、血流が下流側膨張袋26の下流側端部26c直下へ到達したときには、上流側膨張袋22および中間膨張袋24の直下の動脈18は閉じていて、下流側膨張袋26の下流側端部26c直下に発生する反射波が到達しないので、反射波の影響が見られない。ここで、極大極小波とは、一つの極大点を有する山と一つの極小点を有する谷とを含む1周期の波形を示している。
【0060】
図16は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図15の状態よりも更に低くなった状態を示している。この状態における、二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2には、前述の一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtの一次ピーク波P1
SM1、P1
SM2、P1
SM3、および、それに続く二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3に対応して、一次極大極小波W1
SM1、W1
SM2、W1
SM3および二次極大極小波W2
SM1、W2
SM2、W2
SM3がそれぞれ形成されている。それら二次極大極小波W2
SM1、W2
SM2、W2
SM3は、基線(零ライン)ZLに対して上下方向にそれぞれ交差している。
【0061】
図17は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図16の状態よりも更に低くなり、生体14の最低血圧値DBPに到達した状態を示している。この状態における二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2には、前述の一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtの二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3に対応する二次極大極小波W2
SM1、W2
SM2、W2
SM3が抑制されている。特に、二次微分波形d
2SM2/dt
2では、
図17のB1に示すように、二次ピーク波P2
SM2に対応する二次極大極小波W2
SM2が無いため、二次微分波形d
2SM2/dt
2のうちの一次極大極小波W1
SM2を除いた波形、すなわち、一次極大極小波W1
SM2後の所定期間の波形Δdwは基線(零ライン)ZLと交差していない。前述の
図10のA1に示すように、一次微分波形dSM2/dtに、二次ピーク波P2
SM2の痕跡が見当たらないからである。このような最低血圧値DBPに到達した圧迫圧力PCでは、下流側膨張袋26の下流側端部26c下において動脈18の断面積の変化が小さいため、反射波が殆ど発生しないと推定される。
【0062】
図18は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが
図17の状態よりも更に低くなり、生体14の最低血圧値DBPを下回った状態を示している。この状態では、反射波が生じないため、二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2及びd
2SM3/dt
2において、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt及びdSM3/dtの二次ピーク波P2
SM1、P2
SM2、P2
SM3に対応する二次極大極小波W2
SM1、W2
SM2、W2
SM3が全く消失している。
【0063】
最低血圧値決定部94は、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、下流側膨張袋26の下流側端部26c下において動脈18の断面積が変化する点から上流側へ反射して中間脈波(脈波信号SM2)に重畳する反射波が所定値未満に減衰したときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する。すなわち、最低血圧値決定部94は、圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、たとえば、中間脈波SM2(脈波信号SM2)の二次微分波形d2SM2/dt2における一次極大極小波W1SM2に続く部分である所定期間の波形Δdwが基線(零ライン)ZLと交差しなくなったときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPを決定する。
【0064】
図19は、電子制御装置70の他の作動例を説明するフローチャートである。
図19において、S1~S6、S11は
図12と共通しているので、説明を省略する。
図19において、
図12のS7~S10は、S17~S20に置き換えられている。
【0065】
二次微分波形算出部92に対応するS17では、脈波信号SM1、SM2及びSM3のそれぞれの二次微分波形d2SM1/dt2、d2SM2/dt2及びd2SM3/dt2が算出される。次いで、二次微分波形算出部92に対応するS18では、二次微分波形d2SM2/dt2の一次極大極小波W1SM2後の部分すなわち一次極大極小波W1SM2を除いた所定期間の波形Δdwが算出される。
【0066】
次に、最低血圧値決定部94に対応するS19では、圧迫帯12の圧迫圧力PCが最高血圧値SBPよりも充分に高い予め設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、二次微分波形d2SM2/dt2の一次極大極小波W1SM2後の部分すなわち一次極大極小波W1SM2を除いた所定期間の波形Δdwが、基線(零ライン)ZLよりも低くなったか否かが、判断される。このS19の判断が否定される場合はS17以後が繰り返し実行されるが、肯定された場合は、最低血圧値決定部94に対応するS20において、S19の判断が肯定されたときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPが決定される。
【0067】
本実施例の自動血圧測定装置10によれば、最低血圧値決定部94は、圧迫帯12による圧迫圧力PCが生体14の最高血圧値SBPよりも充分に高く設定された昇圧目標圧力値PCMから下降させられる過程で、中間脈波(脈波信号SM2)の二次微分波形d2SM2/dt2の一次極大極小波W1SM2後の所定期間の波形Δdwが、基線(零ライン)ZLと交差しなくなったときの圧迫帯12の圧迫圧力PCに基づいて、生体14の最低血圧値DBPが決定される。これにより、中間脈波(脈波信号SM2)の二次微分波形d2SM2/dt2の一次極大極小波W1SM2後の所定期間の波形Δdwが、基線ZLと交差しなくなったことが安定的に判定されるので、生体14の最低血圧値DBPの決定精度が高められる。
【0068】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、別の態様でも実施され得る。
【0069】
例えば、実施例1の最低血圧値決定部90により決定された最低血圧値DBPおよび実施例2の最低血圧値決定部94により決定された最低血圧値DBPのうちの一方が、表示装置78に最低血圧値として表示されてもよいし、両方の平均値が最低血圧値として表示装置78に表示されるようにしてもよい。
【0070】
また、実施例1及び実施例2において、圧迫帯12による上腕16に対する圧迫圧力PCとして、上流側膨張袋22内の圧迫圧力PC1、中間膨張袋24の圧迫圧力PC2、下流側膨張袋26内の圧迫圧力PC3、または、それらの平均圧力が用いられてもよい。
【0071】
また、実施例1の
図12或いは実施例2の
図19では、圧迫帯12による上腕16への圧迫が終了したS6の後において、一次微分波形dSM1/dt、dSM2/dt、dSM3/dtおよび二次ピーク波P2
SM2の算出、二次微分波形d
2SM1/dt
2、d
2SM2/dt
2、d
2SM3/dt
2および二次微分波形d
2SM2/dt
2における一次極大極小波W1
SM2後の所定期間の波形Δdwの算出処理が行なわれていたが、例えばステップ圧P1、P2、P3、・・・Pxが形成されている間にそれらの算出処理が順次実行されるものであってもよい。
【0072】
また、実施例1及び実施例2では、圧迫帯12が上腕16を圧迫するものであったが、生体14の一部、例えば手首、下肢を圧迫するものであってもよい。
【0073】
また、実施例1及び実施例2では、圧迫帯12による血圧測定のための圧迫方法として、ステップ降圧が採用されていたが、連続降圧であってもよいし、連続昇圧であってもよい。
【0074】
また、実施例1及び実施例2において、圧迫帯12に備えられる膨張袋は3つに限らず、4つ以上であってもよい。上流側膨張袋22及び下流側膨張袋26と、それらの間に設けられた中間膨張袋24とが、相対的に存在するものであればよい。
【0075】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0076】
10:自動血圧測定装置
12:圧迫帯
14:生体
16:上腕(被圧迫部位)
22:上流側膨張袋
24:中間膨張袋
26:下流側膨張袋
26c:下流側端部
84:脈波抽出部
90,94:最低血圧値決定部
92:二次微分波形算出部
SBP:最高血圧値
DBP:最低血圧値
dSM2/dt:一次微分波形
d2SM2/dt2:二次微分波形
PC:圧迫帯の圧迫圧力
PC2:中間膨張袋内の圧迫圧力
PCM:昇圧目標圧力値(最高血圧値よりも高い値)
P2SM2:二次ピーク波
SM2:脈波信号(中間脈波)
W1SM2:一次極大極小波
Δdw:所定期間の波形