(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】ガス切断時の火の粉飛散防止装置及び塔槽類の解体方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
E04G23/08 H
E04G23/08 D
(21)【出願番号】P 2020107858
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000178011
【氏名又は名称】山九株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】浜田 実
(72)【発明者】
【氏名】落合 康雄
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-16872(JP,A)
【文献】特開2002-213086(JP,A)
【文献】特開2007-63874(JP,A)
【文献】特開平10-131520(JP,A)
【文献】特開昭48-54728(JP,A)
【文献】特開2003-34812(JP,A)
【文献】特開2020-2617(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-72489(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B7/00-9/16
E04G23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄皮を備えた円筒状の塔槽類の内部から前記鉄皮のガス切断を行う際に使用する火の粉飛散防止装置であって、
前記鉄皮の前記ガス切断を行う位置よりも下方で、かつ、周方向に間隔を有して前記鉄皮に形成された複数の貫通孔に、前記塔槽類の内部から取付けられ、前記塔槽類の外方へ水平方向に突出して配置され、回転ローラを回転可能に支持した複数のブラケットと、
前記回転ローラにより前記鉄皮の外表面に沿って送り出され、該送り出し方向に互いに連結可能となって、前記鉄皮の前記ガス切断時に発生する火の粉を受ける複数の火の粉受け手段とを有することを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項2】
請求項1記載のガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記回転ローラは前記ブラケットの軸心方向に進退可能となって、前記ブラケットの先部には係止部が設けられ、前記貫通孔に取付けられた前記ブラケットの基側を前記塔槽類の内部へ引っ張ることにより、前記回転ローラ上の前記火の粉受け手段が前記係止部で前記鉄皮の外表面に引き寄せられることを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項3】
請求項2記載のガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記火の粉受け手段は、底部となる火の粉受樋と、該火の粉受樋の先側に設けられ、前記鉄皮の外表面に向けて傾斜配置される火の粉飛散防止板部とを有することを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項4】
請求項3記載のガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記火の粉飛散防止板部の上部には、弾性体で構成される飛散防止補助板部が延設されていることを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載のガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記火の粉受け手段の前記鉄皮の外表面との対向面には、シール部材が設けられていることを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記ブラケットは前記貫通孔に取付け取外し可能になっていることを特徴とするガス切断時の火の粉飛散防止装置。
【請求項7】
鉄皮を備えた円筒状の塔槽類の内部から前記鉄皮のガス切断を行う塔槽類の解体方法であって、
前記塔槽類の内部から、前記鉄皮の前記ガス切断を行う位置よりも下方で、かつ、周方向に間隔を有して、前記鉄皮に複数の貫通孔を形成する準備工程と、
前記塔槽類の内部から前記各貫通孔に、回転ローラを回転可能に支持したブラケットを、前記塔槽類の外方へ水平方向に突出するように取付けるローラーブラケット設置工程と、
前記塔槽類の外方へ突出させた前記回転ローラ上に、該塔槽類の外側から複数の火の粉受け手段を順次載せると共に、隣り合う該火の粉受け手段同士を連結し、前記回転ローラにより前記鉄皮の外表面に沿って送り出し配置する火の粉受け手段設置工程と、
前記塔槽類の内部から前記鉄皮に対して前記ガス切断を行い、発生する火の粉を前記火の粉受け手段で受けるガス切断工程とを有することを特徴とする塔槽類の解体方法。
【請求項8】
請求項7記載の塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段設置工程では、前記貫通孔に取付けられた前記ブラケットの基側を前記塔槽類の内部へ引っ張り、前記ブラケットの先部に設けられた係止部により、前記回転ローラ上の前記火の粉受け手段を前記鉄皮の外表面に引き寄せ、該鉄皮の外表面と前記火の粉受け手段との隙間を無くすことを特徴とする塔槽類の解体方法。
【請求項9】
請求項8記載の塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段は、底部となる火の粉受樋と、該火の粉受樋の先側に設けられ、前記鉄皮の外表面に向けて傾斜配置される火の粉飛散防止板部とを有することを特徴とする塔槽類の解体方法。
【請求項10】
請求項9記載の塔槽類の解体方法において、前記火の粉飛散防止板部の上部には、弾性体で構成される飛散防止補助板部が延設されていることを特徴とする塔槽類の解体方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段の前記鉄皮の外表面との対向面には、シール部材が設けられていることを特徴とする塔槽類の解体方法。
【請求項12】
請求項7~11のいずれか1項に記載の塔槽類の解体方法において、前記ブラケットは前記貫通孔に取付け取外し可能になっていることを特徴とする塔槽類の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、製鉄所や化学プラント等に設置された塔槽類の内部から鉄皮のガス切断(ガス溶断)を行う際に使用する火の粉飛散防止装置及び塔槽類の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉設備のひとつである熱風炉(塔槽類)の解体において、熱風炉を構成する鉄皮を解体する際、鉄皮をガス切断で輪切りにし、クレーンで順次吊り下ろしていく。この場合、作業員は、高さが数十m程度ある熱風炉の外側に足場(外部足場)を組み、熱風炉の外部から鉄皮の切断作業を行っている。
しかし、上記工法には、例えば、以下の問題がある。
・足場の組立や解体に工期や費用が発生する。
・高所作業であるため安全性の確保が問題となる。
・火の粉が飛散するためその対策が必要となる。
【0003】
ところで、熱風炉の解体工法としては、内部の煉瓦を撤去する際、その上方から重機等の特殊な装置と作業デッキを吊り下ろすなどし、煉瓦を上部から順次撤去していく方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の解体方法を利用して、熱風炉の内部から鉄皮を輪切りにするガス切断を行う場合、例えば、作業場として撤去中の煉瓦の上面を活用できるため、熱風炉の外側に足場を組む必要がなくなる。従って、周囲が鉄皮で囲まれる等、安全を確保できるメリットがある。
一方、ガス切断の際に発生する火の粉は、熱風炉の外部に大量に飛散することになるため、例えば、可燃性のものが存在する製鉄所内等では、厳重な火の粉の養生が必要となる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、外部足場の設置を極力少なくでき、作業性と安全性の向上が図れるガス切断時の火の粉飛散防止装置及び塔槽類の解体方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置は、鉄皮を備えた円筒状の塔槽類の内部から前記鉄皮のガス切断を行う際に使用する火の粉飛散防止装置であって、
前記鉄皮の前記ガス切断を行う位置よりも下方で、かつ、周方向に間隔を有して前記鉄皮に形成された複数の貫通孔に、前記塔槽類の内部から取付けられ、前記塔槽類の外方へ水平方向に突出して配置され、回転ローラを回転可能に支持した複数のブラケットと、
前記回転ローラにより前記鉄皮の外表面に沿って送り出され、該送り出し方向に互いに連結可能となって、前記鉄皮の前記ガス切断時に発生する火の粉を受ける複数の火の粉受け手段とを有する。
【0008】
本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記回転ローラは前記ブラケットの軸心方向に進退可能となって、前記ブラケットの先部には係止部が設けられ、前記貫通孔に取付けられた前記ブラケットの基側を前記塔槽類の内部へ引っ張ることにより、前記回転ローラ上の前記火の粉受け手段が前記係止部で前記鉄皮の外表面に引き寄せられることが好ましい。
【0009】
本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記火の粉受け手段は、底部となる火の粉受樋と、該火の粉受樋の先側に設けられ、前記鉄皮の外表面に向けて傾斜配置される火の粉飛散防止板部とを有するのがよい。
ここで、前記火の粉飛散防止板部の上部には、弾性体で構成される飛散防止補助板部が延設されていることが好ましい。
【0010】
本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記火の粉受け手段の前記鉄皮の外表面との対向面には、シール部材が設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置において、前記ブラケットは前記貫通孔に取付け取外し可能になっていることが好ましい。
【0012】
前記目的に沿う本発明に係る塔槽類の解体方法は、鉄皮を備えた円筒状の塔槽類の内部から前記鉄皮のガス切断を行う塔槽類の解体方法であって、
前記塔槽類の内部から、前記鉄皮の前記ガス切断を行う位置よりも下方で、かつ、周方向に間隔を有して、前記鉄皮に複数の貫通孔を形成する準備工程と、
前記塔槽類の内部から前記各貫通孔に、回転ローラを回転可能に支持したブラケットを、前記塔槽類の外方へ水平方向に突出するように取付けるローラーブラケット設置工程と、
前記塔槽類の外方へ突出させた前記回転ローラ上に、該塔槽類の外側から複数の火の粉受け手段を順次載せると共に、隣り合う該火の粉受け手段同士を連結し、前記回転ローラにより前記鉄皮の外表面に沿って送り出し配置する火の粉受け手段設置工程と、
前記塔槽類の内部から前記鉄皮に対して前記ガス切断を行い、発生する火の粉を前記火の粉受け手段で受けるガス切断工程とを有する。
【0013】
本発明に係る塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段設置工程では、前記貫通孔に取付けられた前記ブラケットの基側を前記塔槽類の内部へ引っ張り、前記ブラケットの先部に設けられた係止部により、前記回転ローラ上の前記火の粉受け手段を前記鉄皮の外表面に引き寄せ、該鉄皮の外表面と前記火の粉受け手段との隙間を無くすことが好ましい。
【0014】
本発明に係る塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段は、底部となる火の粉受樋と、該火の粉受樋の先側に設けられ、前記鉄皮の外表面に向けて傾斜配置される火の粉飛散防止板部とを有するのがよい。
ここで、前記火の粉飛散防止板部の上部には、弾性体で構成される飛散防止補助板部が延設されていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る塔槽類の解体方法において、前記火の粉受け手段の前記鉄皮の外表面との対向面には、シール部材が設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る塔槽類の解体方法において、前記ブラケットは前記貫通孔に取付け取外し可能になっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置及び塔槽類の解体方法は、回転ローラを回転可能に支持した複数のブラケットを、塔槽類の内部から鉄皮に形成された複数の貫通孔に、塔槽類の内部からそれぞれ取付け、複数の火の粉受け手段を、塔槽類の外方へ突出した回転ローラに順次載せると共に、各火の粉受け手段同士を連結し、回転ローラにより鉄皮の外表面に沿って送り出し配置するので、例えば、塔槽類の外側には、複数の火の粉受け手段の載置、連結、及び、送り出しの各作業を行うための足場(新設又は既設の足場)のみがあればよいため、外部足場の設置を極力少なくできる。
更に、鉄皮のガス切断は、塔槽類の内部から実施できるため、塔槽類の外部から実施する場合と比較して、例えば、台風や強風、突風等の影響を受けずらく、作業性と安全性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(A)~(C)は本発明の一実施の形態に係る塔槽類の解体方法の説明図である。
【
図2】(A)は同塔槽類の解体方法に適用するガス切断時の火の粉飛散防止装置のローラーブラケットの説明図、(B)は(A)のa-a矢視断面図である。
【
図3】(A)は同ガス切断時の火の粉飛散防止装置の火の粉受け手段の平面図、(B)は(A)のb-b矢視断面図、(C)は側面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る塔槽類の解体方法の説明図である。
【
図7】本発明の一実施の形態に係る塔槽類の解体方法の火の粉受け手段設置工程後の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1~
図7に示すように、本発明の一実施の形態に係るガス切断時の火の粉飛散防止装置(以下、単に火の粉飛散防止装置とも記載)10は、鉄皮11を備えた塔槽類(等)12の内部から鉄皮11のガス切断(ガス溶断)を行う際に使用する装置であり、外部足場の設置を極力少なくでき、作業性と安全性の向上が図れるものである。
以下、詳しく説明する。
【0020】
図4、
図5に示すように、塔槽類12は、例えば、高さが数m~数十m程度の円筒状のものであり、外部が鉄皮11(例えば、鋼板製で、厚みが10~30mm程度)で構成され、この鉄皮11の内部が空洞(中空構造、即ち、鉄皮も円筒状)のものであるが、塔槽類の種類によっては、鉄皮の内部に構造物(例えば、内筒、デッキ、梯子等)が存在する場合もある。
このような塔槽類としては、例えば、製鉄所に設置された加熱炉や熱風炉、化学プラントに設置された反応塔、又は、煙突等があるが、外部が鉄皮で構成されたものであれば、特に限定されるものではない。
【0021】
火の粉飛散防止装置10は、
図1~
図7に示すように、鉄皮11の外方に向けて放射状となるように取付けられた複数のローラーブラケット16と、このローラーブラケット16で支持され、鉄皮11の外表面に沿って送り出され配置される複数の火の粉受け手段17とを有している(ここでは、2つ(3つ以上の複数でもよい)のローラーブラケット16で1つの火の粉受け手段17が支持される)。
複数のローラーブラケット16は、
図1(A)~(C)に示すように、鉄皮11のガス切断を行う位置Lよりも下方(例えば、位置Lより下方へ50mm~200mm程度の位置、ここでは110mmの位置)で、かつ、周方向に間隔を有して鉄皮11に形成された複数の断面円形の貫通孔18に、それぞれ塔槽類12の内部から取付けられるものであり、各ローラーブラケット16はブラケット19と回転ローラ20を有している。
【0022】
ブラケット19は、
図1(A)~(C)、
図2(A)、(B)に示すように、断面円形となった鋼製の棒材であり、塔槽類12の外方へ水平方向に突出して配置され、その先部には上方へ突出する係止部21が設けられ、側面視して鉤状(横L字状)になっている。
ブラケット19の軸心方向途中位置には、ブラケット19を水平方向に進退可能に挿通する断面円形の固定用ボス22が設けられ、この固定用ボス22の下部には下方に向けて突出するストッパー部23が設けられている。なお、固定用ボス22は、鉄皮11に形成された貫通孔18に僅少の隙間(例えば、1mm程度)を有して嵌入可能な外径を有しており、その上部に打ち込まれるコッター24によって、固定用ボス22を貫通孔18に取付け固定できる。また、ストッパー部23により、固定用ボス22の塔槽類12外部への落下防止と、貫通孔18に対する固定用ボス22の位置決めを行うことができる。
【0023】
固定用ボス22より基側のブラケット19にはナット部材25が螺合し、ブラケット19の基部には環状の番線(比較的柔らかい鉄線)26が取付けられている。この番線26は、ブラケット19に対して垂直面内に配置されるように取付けられているため、例えば、番線26の上部に目印を付すことにより、塔槽類12の内部から係止部21を確認できなくても、係止部21の向き(即ち、上向き)が分かる。なお、ブラケット19の基側に目印を付して、係止部21の向きが分かるようにしてもよい。
使用にあっては、番線26を引っ張ることで、ブラケット19を塔槽類12の内部に引き込むことができ、更に、ナット部材25を回すことで、ブラケット19の更なる引き込みを実施できる。
【0024】
固定用ボス22より先側(固定用ボス22と係止部21との間)のブラケット19には、回転ローラ20が取付けられている。
回転ローラ20は、SGP配管(配管用炭素鋼鋼管)製で、その軸心方向両端部の内側に玉軸受(ベアリング)27が取付けられている。これにより、回転ローラ20は、ブラケット19により支持されて、ブラケット19を中心にして回転可能になると共に、ブラケット19の軸心方向にも進退可能になる。
なお、回転ローラ20の外径は、鉄皮11に形成された貫通孔18の内径よりも小さいため、回転ローラ20を、貫通孔18を介して、塔槽類12の内部から外部へ、又は、外部から内部へ、挿通させることができる。
【0025】
火の粉受け手段17は、
図3(A)~(C)に示すように、底部となる火の粉受樋28と、この火の粉受樋28の先側に設けられた火の粉飛散防止板部29を有している。
火の粉受樋28は、鉄皮11のガス切断の際に発生し落下する火の粉を受ける鋼製のものであり、平面視して略矩形状の底板部30と、底板部30の基側(鉄皮11側に位置する部分)に立設された基側板部31と、底板部30の両側(鉄皮11の周方向両側)にその一辺側が取付けられ立設された側面視してV字状の側板部32、33とを有している。
この火の粉受樋28は、鉄皮11の外表面に沿って配置されるものであるため、
図3(A)に示すように、基側板部31を平面視した形状(底板部30の基端を平面視した形状も同様)は、鉄皮11の外表面に対応して円弧状となっている。
【0026】
なお、鉄皮11の外表面との対向面となる基側板部31の外表面には、
図1(B)、(C)に示すように、シール部材(隙間埋め部材)34が設けられている。このシール部材34には、例えば、不燃性(耐火性)を備えたセラミックファイバー(繊維)を複雑に絡ませてブランケット状に成形した柔軟性を有するもの(例えば、厚みが5mm~20mm程度)等を使用できる。
これにより、鉄皮11の表面状態や基側板部31の形状によって、鉄皮11の外表面と火の粉受け手段17との間に隙間等が発生する状況であっても、シール部材34によって隙間を無くすことができる。このため、発生した火の粉が、鉄皮11の外表面と火の粉受け手段17との間から下方へ落下することを防止できる。
【0027】
火の粉受樋28の基側板部31とは対向する位置には、火の粉飛散防止板部29が設けられている。
火の粉飛散防止板部29は、鉄皮11のガス切断の際に発生する火の粉の飛散を抑制、更には防止する鋼製のものであり、その下端部が、底板部30の先側端部に取付け固定され、その両側端部が、火の粉受樋28を構成する両側板部32、33の他辺側に取付け固定されている。
このため、火の粉飛散防止板部29は、その下端部を基点として鉄皮11の外表面に向けて傾斜している。
【0028】
更に、火の粉飛散防止板部29の上部には、飛散防止補助板部35が延設されている。
飛散防止補助板部35は、火の粉飛散防止板部29で防止できない火の粉の飛散を防止するための網目が細かい金網(例えば80メッシュ以上(目開き0.2mm以下)、ここでは100メッシュ(目開き0.154mm))である。なお、火の粉受け手段17の設置時(ガス切断時)は、
図1(C)に示すように、飛散防止補助板部35の上端と、鉄皮11の外表面との水平方向の間隔Sが、例えば、50mm~150mm程度になる。
このように、飛散防止補助板部35を、弾性体である金網で構成したのは、例えば、ガス切断により円筒状に分離した鉄皮部分を上方へ吊り上げる際に、円筒状の鉄皮部分が横方向に触れて飛散防止補助板部35に接触し変形しても、飛散防止補助板部35が破損することなく元の形状に戻るようにするためである。
【0029】
なお、上記した火の粉受け手段17のサイズ等は、発生する火の粉の飛散を防止できれば、特に限定されるものではないが、例えば、以下の範囲で設定できる。
火の粉受樋28(底板部30)の半径方向の幅Wは、例えば、200mm~400mm程度(ここでは300mm程度)であり、底板部30から飛散防止補助板部35の上端までの高さは、例えば、300mm~500mm程度(ここでは400mm程度)である。
また、火の粉受樋28の底板部30(水平面)に対する火の粉飛散防止板部29の傾斜角度θ1は、例えば、45~80度程度(ここでは、60度)に設定するのがよい。なお、飛散防止補助板部35は、火の粉飛散防止板部29よりも更に鉄皮11の外表面に向けて傾斜させている(飛散防止補助板部35の水平面に対する傾斜角度θ2は、傾斜角度θ1より小さく、35~55度程度(ここでは、45度))であるが、火の粉飛散防止板部29と同一平面上に配置(即ち、θ1=θ2)してもよい。
【0030】
火の粉受樋28の両側板部32、33には、
図1(B)、(C)、
図3(C)に示すように、複数の連結用貫通孔36が形成されている。これにより、ローラーブラケット16の回転ローラ20による鉄皮11の外表面に沿った送り出し方向に隣り合う火の粉受樋28同士を、例えば、ボルトとナットで構成される連結手段(図示しない)により、互いに連結できる。
従って、隣り合う火の粉受け手段17(火の粉受樋28、粉飛散防止板部29、及び、飛散防止補助板部35)同士を、隙間のない状態で連結できるため、隣り合う火の粉受け手段17の間からの火の粉の落下を防止できる。
なお、ここでは、火の粉受樋28を構成する底板部30、基側板部31、及び、側板部32、33と、火の粉飛散防止板部29を、それぞれ個別に形成し溶接等により一体化しているが、これらを展開した状態で鋼板から打ち抜き、折り曲げて形成することもできる。
【0031】
続いて、本発明の一実施の形態に係る塔槽類の解体方法について説明する。
図4、
図5に示す、鉄皮11を備えた塔槽類12の内部から鉄皮11のガス切断を行う塔槽類12の解体方法は、準備工程、ローラーブラケット設置工程、火の粉受け手段設置工程、ガス切断工程、及び、後工程を有し、外部足場の設置を極力少なくでき、作業性と安全性の向上が図れる方法である。
【0032】
(準備工程)
まず、作業員(図示しない)は、塔槽類12の内部に足場40を設ける。この足場40は、例えば、枠組足場である上部足場41と下部足場42とが組になった上下足場組43を多段に積み上げて設けられる。なお、塔槽類12の内部に構造物(内筒、デッキ、梯子等)がある場合は、まずこれらを撤去した後に、足場40を設ける。
各上下足場組43は、例えば、足場枠組44に作業床45が載置されて構成され、平面視して足場枠組44の中央部には、昇降階段46が設けられている。また、足場枠組44は、塔槽類12の内周面に当接させて固定することができる。なお、足場としては、上記のような枠組足場に限らず、いわゆる単管足場を用いることもできる。
【0033】
上記した足場40を塔槽類12の内側でその頂部付近まで設けた後は、作業員が、
図1(A)に示すように、鉄皮11に対し、塔槽類12の内部から、鉄皮11のガス切断を行う位置L(鉄皮11を輪切りにする水平切断線)よりも下方で、かつ、周方向に間隔を有して、複数の貫通孔18を、塔槽類12の周方向に渡って形成する。
【0034】
この貫通孔18の形成は、切削工具(例えば、ドリルやキリ)を用いて行うことができる。
上記した貫通孔18の形成位置として、位置Lより下方とは、例えば、位置Lを起点として下方へ50mm~200mmの範囲内、好ましくは、下限が80mm、上限が130mmの位置である。また、形成する貫通孔18の(鉄皮11の)周方向の間隔は、火の粉受け手段17が落下しない程度の間隔であれば特に限定されるものではなく、例えば、鉄皮11の周方向に渡って同一ピッチであることが好ましいが、部分的に異なるピッチでもよい。
【0035】
(ローラーブラケット設置工程)
ローラーブラケット16を、塔槽類12の内部から各貫通孔18を介して塔槽類12の外方へ水平方向に突出させ、鉄皮11に対して放射状となるように各貫通孔18に取付ける。
具体的には、まず、
図1(A)に示すように、回転ローラ20を回転可能に支持したブラケット19の基側を貫通孔18の斜め上方に持ち上げ、ブラケット19の係止部21の先側を貫通孔18に差し込み、ブラケット19を徐々に水平にしながら、貫通孔18を介して係止部21を塔槽類12の外部へ突出させ、ブラケット19を水平状態にする。このとき、回転ローラ20をブラケット19の基側(作業者からみて手前側)にずらして行うことで、回転ローラ20が障害となって、ブラケット19の先側が径の小さな貫通孔18に入らなくなる事態を避けることができる。
【0036】
次に、
図1(B)に示すように、ブラケット19を塔槽類12の外方へ押し出し、貫通孔18を介して回転ローラ20を塔槽類12の外方へ突出させる。このとき、固定用ボス22に設けられたストッパー部23が、鉄皮11の内面に当接するまで、固定用ボス22を貫通孔18に嵌入させ、固定用ボス22と貫通孔18との間(隙間)にコッター24を打ち込み、固定用ボス22を貫通孔18に取付け固定する。
これにより、ローラーブラケット16は、各貫通孔18に取付け取外し可能になるため、容易に繰り返し利用できる。なお、ブラケット19の係止部21の向きは、前記したように、番線26等に付された目印によりわかる。
【0037】
(火の粉受け手段設置工程)
塔槽類12の外方へ突出させた回転ローラ20上に、塔槽類12の外側から複数の火の粉受け手段17を順次載せると共に、隣り合う火の粉受け手段17同士を連結し、回転ローラ20により鉄皮11の外表面に沿って送り出し配置する。
具体的には、予め塔槽類12の外周部の異なる位置(ここでは、塔槽類12の直径方向両側(180度)である2箇所)に、外部足場47を設置しておく(
図5参照)。この外部足場47は、従来のように塔槽類12の外周部全体に渡って設置されるものではなく、例えば、塔槽類12の規模(直径等)やガス切断を行う領域に応じて適宜設置すればよく、1箇所、又は、3箇所以上の複数箇所でもよい。なお、外部足場を複数箇所設置する場合は、塔槽類の周方向に等間隔(等角度)で設置することが好ましいが、異なる間隔でもよい。また、外部足場は、新設できるが、既設の外部足場を利用することもできる。
【0038】
外部足場47上の作業員(図示しない)は、例えば、2つの火の粉受け手段17を回転ローラ20上に載置して、一方の火の粉受樋28の側板部32と、他方の火の粉受樋28の側板部33とを、連結手段により連結する。なお、2つの火の粉受け手段17は、予め連結した状態で回転ローラ20上に載置してもよい。
次に、連結した2つの火の粉受け手段17を、鉄皮11の外表面に沿って送り出した後、上流側に位置する火の粉受け手段17と、新たに回転ローラ20上に載置した火の粉受け手段17とを、上記した方法により連結し、鉄皮11の外表面に沿って送り出す。続けて、火の粉受け手段17の載置、連結、送り出しを、順次行う。
なお、
図6、
図7に示すように、最初に送り出される火の粉受け手段17の火の粉受樋28の下流側の先側角部は、切欠かれた形状となっているため、火の粉受け手段17の送り出しに際し、ブラケット19の係止部21に対する火の粉受樋28の引っ掛かりを防止できる。
【0039】
上記した方法を、各外部足場47でそれぞれ行うことにより、
図5に示すように、複数の火の粉受け手段17を、鉄皮11の周方向に渡って配置できる。
なお、火の粉受け手段17の送り出しに際しては、その搬送がスムーズに行われるように、ブラケット19の突出長さを、火の粉受樋28の底板部30の最大幅より長くしている。このため、
図1(B)、
図6に示すように、鉄皮11の外表面と火の粉受け手段17との間には隙間が発生する。このように、隙間が発生した状態で、後述するガス切断工程を行った場合、発生した火の粉が隙間から下方へ落下する。
【0040】
そこで、
図1(C)、
図7に示すように、鉄皮11の外表面に火の粉受け手段17を密着させる。
具体的には、作業員は、まず、番線26を引っ張り、ブラケット19の基側を塔槽類12の内部に引き込む。これにより、回転ローラ20上の火の粉受け手段17が、ブラケット19に設けられた係止部21で塔槽類12の外表面側に引き寄せられる。
次に、ブラケット19に螺合したナット部材25を締める方向に回すことで、火の粉受け手段17が係止部21で塔槽類12の外表面側に更に引き寄せられ、火の粉受け手段17に設けられたシール部材34が圧縮状態になる。これにより、鉄皮11の外表面と火の粉受け手段17との隙間を無くすことができる。
【0041】
(ガス切断工程)
塔槽類12の内部から鉄皮11の位置Lに対してガス切断を行い、発生する火の粉を火の粉受け手段17で受ける。
これにより、ガス切断で発生する火の粉が、塔槽類12の外部下方へ落下(飛散)することを防止できる。
なお、ガス切断は、鉄皮11の周方向全体に渡って連続的に行うのではなく(完全に切断分離するのではなく)、断続的に行う。例えば、外部足場47が設置されている部分のみ、ガス切断を行わないことが好ましい。
【0042】
(後工程)
上記したガス切断工程が終了した後、鉄皮11から火の粉飛散防止装置10を取外す。
これは、上記したローラーブラケット設置工程と火の粉受け手段設置工程でそれぞれ行った各操作を、逆の手順で行うため、以下、簡単に説明する。
まず、塔槽類12の内部の作業員は、ブラケット19に螺合したナット部材25を緩める方向に回し、ブラケット19の基側を塔槽類12の外方に押し出す。これにより、
図1(B)、
図6に示すように、鉄皮11の外表面と火の粉受け手段17との間に隙間を形成できる。
【0043】
続いて、各外部足場47上の作業員は、隣り合う火の粉受け手段17に設けられた連結手段の連結状態を解消しながら、外部足場47側に各火の粉受け手段17を順次引き込み、火の粉受け手段17を回転ローラ20から下ろす。これにより、鉄皮11の周方向に渡って配置されていた火の粉受け手段17を、各外部足場47上にそれぞれ回収できる。
火の粉受け手段17の回収が終了した後は、作業員が固定用ボス22と貫通孔18との間からコッター24を引き抜き、更に、ブラケット19の基側を塔槽類12の内部に引き込み、
図1(A)の矢印の方向とは逆方向にブラケット19を操作して、貫通孔18からローラーブラケット16を取外す。
【0044】
そして、最上部の上下足場組43を、クレーン等の重機(図示しない)によりワイヤ等を介して吊り上げ、地上に降下させる。なお、上下足場組43は、その場で予め分解した後、重機で地上に降ろしてもよいが、地上に降ろした後に分解することにより、この分解と並行して、塔槽類12の上部で次の切断作業等を行うことができる。
続いて、分離する円筒状の鉄皮部分を重機で吊り下げた状態で、ガス切断が行われていない部分を、塔槽類12の外部からガス切断して、他の部分から撤去する。なお、ガス切断が行われていない部分は、外部足場47が設置された部分であるため、塔槽類12の外部からガス切断できる。
【0045】
図4に示す塔槽類12の上から2番目以降についても、上記した各工程を順次行い、鉄皮11のガス切断を行って、ガス切断が行われた円筒状の鉄皮部分を、上側から順次撤去する。
なお、円筒状の鉄皮部分の分離(外部からのガス切断)は、上下足場組43を地上に降ろす前に行ってもよい(円筒状の鉄皮部分の分離を行った後、上下足場組43を地上に降ろしてもよい)。
また、円筒状の鉄皮部分のガス切断は、切断除去する円筒状の鉄皮部分を重機で吊った状態で、鉄皮11の周方向全体に渡って連続的に行う(輪切りにする)こともできる。
この場合、ガス切断が完了したら、輪切りにした鉄皮部分を重機で吊り降ろして撤去する。その後、ブラケット19に螺合したナット部材25を緩め、隣り合う火の粉受け手段17同士を連結しているボルトとナットを緩めれば、火の粉受け手段17とローラーブラケット16は、容易に足場(作業床45)の上に回収できる。
【0046】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のガス切断時の火の粉飛散防止装置及び塔槽類の解体方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、塔槽類の解体に際し、高炉設備の一つである熱風炉のように、耐火煉瓦が内部に詰め込まれた、或いは、壁面内部に貼り付けられた、塔状構造物の場合は、内部煉瓦を撤去した後、作業を行うための足場を設置してもよいが、煉瓦を上から撤去していくときは、撤去途中の煉瓦の上面に足場を設置してもよく、また、撤去途中の煉瓦そのものの上面を足場とすることもできる。
【0047】
前記実施の形態においては、塔槽類の解体に際し、塔槽類の外側の略全周に渡って連続的に、複数の火の粉受け手段を設置した場合について説明したが、火の粉受け手段を配置する領域は、ガス切断を行う領域であれば特に限定されるものではなく、例えば、ガス切断を行う領域のみ部分的(断続的)に、複数(2以上)の火の粉受け手段を設置することもできる。
なお、塔槽類は円筒状であるため、この塔槽類の外表面を構成する鉄皮も円筒状(断面円形状)であるが、塔槽類(鉄皮)の形状は円筒状であれば特に限定されるものではなく、塔槽類の種類に応じて、例えば、断面楕円形状等でもよい。
【0048】
そして、前記実施の形態においては、鉄皮に形成された貫通孔へのローラーブラケットの取付けを、固定用ボス、ストッパー部、コッター、及び、ナット部材を有する取付け手段を用いて行った場合について説明したが、ローラーブラケットの貫通孔への取付け取外しが可能であれば、取付け手段の構成は特に限定されるものではない。なお、ローラーブラケットは、必要に応じて、例えば、溶接等を用いて貫通孔に取付け固定することもできる。
更に、前記実施の形態においては、火の粉飛散防止板部の上部に飛散防止補助板部を延設した場合について説明したが、例えば、鉄皮から火の粉飛散防止装置を除去した後、ガス切断した鉄皮部分を除去するのであれば(火の粉飛散防止板部の損傷が防止できるのであれば)、飛散防止補助板部の設置領域も含めて、火の粉飛散防止板部のみで構成することもできる。
【符号の説明】
【0049】
10:ガス切断時の火の粉飛散防止装置、11:鉄皮、12:塔槽類、16:ローラーブラケット、17:火の粉受け手段、18:貫通孔、19:ブラケット、20:回転ローラ、21:係止部、22:固定用ボス、23:ストッパー部、24:コッター、25:ナット部材、26:番線、27:玉軸受、28:火の粉受樋、29:火の粉飛散防止板部、30:底板部、31:基側板部、32、33:側板部、34:シール部材、35:飛散防止補助板部、36:連結用孔、40:足場、41:上部足場、42:下部足場、43:上下足場組、44:足場枠組、45:作業床、46:昇降階段、47:外部足場