(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】乳房再建支援ガイド
(51)【国際特許分類】
A61F 2/12 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
A61F2/12
(21)【出願番号】P 2020113683
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】辛川 領
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智之
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2429680(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0247180(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0174707(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0018393(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドの作製方法であって、
立位又は座位の患者の胸部の3次元形状データを取得する工程と、
前記3次元形状データから前記患者のIMFと胸壁に沿った乳房下部を含む3次元CADデータを作成する工程と、
前記3次元CADデータに基づいて3DプリンタによりIMFの位置を示す乳房再建支援ガイドを作製する工程を含む乳房再建支援ガイドの作製方法。
【請求項2】
前記患者の胸部の3次元形状データが乳房切除術後に取得されたデータである場合には、
健側データに基づいて患側3次元CADデータを左右対称に修正する工程を含む請求項1に記載の乳房再建支援ガイドの作製方法。
【請求項3】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
患者の胸部3次元形状データに基づいた乳房下部の形から、
前記患者の胸壁に沿ったカーブを備え、
上部はIMFに沿ったラインを備えていることを特徴とする乳房再建支援ガイド。
【請求項4】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
両側には把持部を備えていることを特徴とする請求項3記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項5】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
乳房下部の形状を模して包むように覆う乳房下部ガイドを備えていることを特徴とする請求項3、又は4記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項6】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
乳頭の高さを示す乳頭ガイドを備えていることを特徴とする請求項3、又は4記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項7】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
IMFラインから乳頭を通り上胸部まで伸びている縦方向の乳頭ガイド、及び/又は正中線から乳頭を通り脇まで伸びている横方向の乳頭ガイドを備えている請求項6記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項8】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
前記乳房下部ガイド、又は前記乳頭ガイドは取り外し可能に構成されている請求項5~7いずれか1項に記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項9】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
正中線に沿って、IMFラインから上方に伸びる正中ガイドを備えている請求項3~8いずれか1項記載の乳房再建支援ガイド。
【請求項10】
乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、
位置ずれを防止するために縫合糸で皮膚と固定するための固定孔を設けていることを特徴とする請求項3~9いずれか1項記載の乳房再建支援ガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳房再建に際し、切除前の乳房の形状、大きさに正確に復元するために再建術中に使用する器具に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がん治療により変形してまったり、失ってしまった乳房を再建する形成外科術を乳房再建という。女性にとって、乳房が変形・喪失することは非常に大きな精神的苦痛を伴うことから、クオリティ オブ ライフ(QOL)に大きな影響を及ぼす。したがって、乳房再建は切実な問題であり、乳がん治療の一部であるともいえる。
【0003】
乳房再建には大別すると自家組織を使用する方法(皮弁法)と、人工物(インプラント)を使用する方法(人工乳房手術、シリコン・インプラント法)がある。自家組織を使用する方法では、腹部や太腿などの離れた組織を用いて、血管吻合をすることで移植して再建する遊離皮弁移植法と、背中などの近くの組織の血管を切り離さずに移動させて再建する有茎皮弁移植法の2種類の方法がある。広く行われている深下腹壁動脈穿通枝皮弁法にもいくつかの術式があるが、いずれの場合も神経、筋肉を温存し、かつ血管吻合(マイクロサージャリー)を行う手技的に難しい手術である。それに加え、自家組織で健側と同様の大きさ、形状の乳房を形成し、復元するのは高い技術を必要とする。また、シリコン・インプラントを使用する方法は、100種類以上のインプラントから適切なサイズ、形状のインプラントを選択するとはいえ、切除前と同じような形状、大きさに復元することは熟練を必要とする。
【0004】
国立がん研究センターの統計によれば、2016年の乳がん罹患数は約95,000人と、日本女性の部位別がん罹患数において最も多いがんとなっている。その一方で、乳がん切除と同時に再建まで行う一次再建数は、増加しているとはいえ、全乳房切除症例数の約20%程度に過ぎない。
【0005】
女性にとってQOLに大きな影響を及ぼす乳房再建であるにも関わらず、全乳房切除症例数の20%に一次再建がとどまる理由としては、一次再建は乳腺外科と形成外科が緊密に連携を取り診療を行う必要があるにも関わらず、乳腺外科医の理解や協力が不十分であることが挙げられている。また、乳房再建に対応できる形成外科医の不足も一因であると言われている。手技を選択し、乳房再建を行わなければ、整容性の点で患者にとって満足した結果が得られないことも多く、熟練した形成外科医の不足が問題となっている。
【0006】
術者の技量によって左右されることの多い乳房再建術であるが、経験の浅い術者であっても、一定の結果が得られるように種々の工夫が提案されている(特許文献1、2)。特許文献1には、乳房切除前に立位又は座位で患者の胸部の3次元形状を取得し、3次元形状データから胸部の模型を設計し、模型から作製した乳房再建用フォーミングカップを用いて、その形状に沿って自家組織を充填して乳房再建術を行うことが開示されている。特許文献2には、3次元スキャンデータから、乳房再建用の外見・外観をモデル化するための第1立体モデルと、充填する自家組織の容量を算出するために再建後の乳房の基部となる第2立体モデルを作製し、これら立体モデルを用いて乳房再建を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-54089号公報
【文献】特開2016-214829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1、及び2に記載の発明は、いずれも外形を模倣する立体モデルを作製し、その形状に合わせて自家組織を充填していく方法である。立体モデルの形状は患者の元の乳房の形状を模しているものの、患側の乳房の形状を模しているだけであり、位置や健側との左右対称性を確認することができるわけではない。そのため、再建した乳房の位置がずれ、健側との左右対称性がずれるなど整容性のうえでは問題が多く、患者の満足を得ることができない場合もあった。
【0009】
特に、乳房下溝線(inframammary fold、IMF)の位置がずれると下着装着が困難となり、また、IMFの曲線が左右対象でない場合には、整容性のうえでも劣ることから患者の満足を得られない。上述のように、乳房再建は乳房切除による患者の精神的喪失感を和らげ、QOLを向上させるものであることから、再建した乳房の整容性は非常に重要である。
【0010】
IMFは吸収糸を用いて、皮膚の裏側と胸壁を縫い合わせて作成する。しかし、健側と位置や左右対称性を揃えたIMFの作成は難しく、習熟が必要とされている。本発明は術者の技量によらず、健側と対称性のあるIMFを作成し、整容性に優れた乳房再建を支援するための器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は乳房再建手術中に用いる以下の器具、及びその作製方法に関する。
(1)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドの作製方法であって、立位又は座位の患者の胸部の3次元形状データを取得する工程と、前記3次元形状データから前記患者のIMFと胸壁に沿った乳房下部を含む3次元CADデータを作成する工程と、前記3次元CADデータに基づいて3DプリンタによりIMFの位置を示す乳房再建支援ガイドを作製する工程を含む乳房再建支援ガイドの作製方法。
(2)前記患者の胸部の3次元形状データが乳房切除術後に取得されたデータである場合には、健側データに基づいて患側3次元CADデータを左右対称に修正する工程を含む(1)に記載の乳房再建支援ガイドの作製方法。
(3)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、患者の胸部3次元形状データに基づいた乳房下部の形から、前記患者の胸壁に沿ったカーブを備え、上部はIMFに沿ったラインを備えていることを特徴とする乳房再建支援ガイド。
(4)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、両側には把持部を備えていることを特徴とする(3)記載の乳房再建支援ガイド。
(5)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、乳房下部の形状を模して包むように覆う乳房下部ガイドを備えていることを特徴とする(3)、又は(4)記載の乳房再建支援ガイド。
(6)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、乳頭の高さを示す乳頭ガイドを備えていることを特徴とする(3)、又は(4)記載の乳房再建支援ガイド。
(7)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、IMFラインから乳頭を通り上胸部まで伸びている縦方向の乳頭ガイド、及び/又は正中線から乳頭を通り脇まで伸びている横方向の乳頭ガイドを備えている(6)記載の乳房再建支援ガイド。
(8)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、前記乳房下部ガイド、又は前記乳頭ガイドは取り外し可能に構成されている(5)~(7)いずれか1つに記載の乳房再建支援ガイド。
(9)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、正中線に沿って、IMFラインから上方に伸びる正中ガイドを備えている(3)~(8)いずれか1つに記載の乳房再建支援ガイド。
(10)乳房再建術に用いる乳房再建支援ガイドであって、位置ずれを防止するために縫合糸で皮膚と固定するための固定孔を設けていることを特徴とする(3)~(9)いずれか1つ記載の乳房再建支援ガイド。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】乳房再建支援ガイドの作製方法を解説する図。
【
図2】実施形態1の乳房再建支援ガイドを示す図面代用写真。
【
図4】実施形態3から6の乳房再建支援ガイドを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に詳細に説明するが、本実施形態で示す乳房再建支援ガイドは、患者から得られた3Dスキャンデータをもとに、IMFの位置、形状を記録する器具である。乳房再建支援ガイドは、乳がん手術前、すなわち乳がんを摘出する側の乳房が元の形状を維持している状態で3Dデータを得てもよいし、健側から得られた3Dスキャンデータに基づいて左右対称に作製してもよい。
【0014】
以下の実施例で示す乳房再建支援ガイドは、自家組織を用いて乳房再建を行う皮弁法、インプラントを使用して乳房再建を行うシリコン・インプラント法、いずれの場合であっても使用することができる。個々の患者に合わせて作製した乳房再建支援ガイドに沿って健側と左右対称性を保ったIMFを作成し、乳房再建を行うことができる。
【0015】
[乳房再建支援ガイドの作製]
最初に乳房再建支援ガイドの作製方法について説明する。乳房の形状は患者毎に異なることから、乳房再建支援ガイドは患者毎にオーダーメイドで作製する。乳房再建術は臥位で行うが、本来必要とされるIMFラインは立位、又は座位であることから胸部の3次元形状データは立位、又は座位で計測する。3次元形状データの取得は、乳がん切除術前であっても、乳がん切除術後であってもよい。乳がん切除術後の場合には、正中線を中心線として健側のデータに左右対称なデータを患側の3次元形状データとすればよい。3次元形状のデータ取得は、例えば、3D画像撮影解析装置ベクトラ(Canfield社)等、3次元形状を測定することができる3Dスキャナを使用することができる。
【0016】
乳がん切除術前に胸部データを取得した場合には左右の乳房部のデータから、乳がん切除術後に胸部データを取得した場合には、健側データ(
図1aの領域)を用いて正中線に左右対称に乳房再建支援ガイドを作製する。3DスキャナのデータからCADを用いて乳房再建支援ガイドを設計する。
【0017】
図1の上には患者の3Dスキャンデータ、下には患者の3Dスキャンデータに基づいて作製した乳房再建支援ガイドの設計図を示している。
図1は患者右が健側であり、左は乳腺全摘術を行い、ティッシュ・エクスパンダーを挿入して組織を拡張している例を示している。スキャナにより取得された健側乳房下部aの3Dスキャンデータと、健側データに基づいて位置及び形態を正中線から左右対称にしたデータを患側データとし、乳房再建支援ガイド1を作製している。
【0018】
図1左側には患者を正面から見た3Dスキャンデータとそれに基づいて作製された乳房再建支援ガイドの正面図を示している。
図1右側は患者の左下方から見た患者の3Dスキャンデータ及び同じ位置から見た乳房再建支援ガイドの斜視図を示している。
【0019】
乳房再建支援ガイド1の上部は正中ガイド2からIMFの外側の終点3までIMFに沿い、かつ胸壁に沿って湾曲した形状となっている。乳房再建術中、患者胸部に配置する際に胸壁に沿って、かつ患者の健側のIMFに密着するように配置すれば、再建の必要な乳房のIMFの位置を決定することができる。乳房再建支援ガイド1の幅は、手術中に患者に安定して装着できる程度の幅があれば良い。また、ここでは両側に乳房再建支援ガイド1を持ちやすいように把持部4を備えた形状としている。把持部は両端に配置しても片側のみに配置しても、中央に配置しても良い。また、以下の実施形態に示すように乳房再建支援ガイドの形状によっては把持部のない形状としても構わない。
【0020】
CADによって作成した設計図に基づいて、3Dプリンタで乳房再建支援ガイドを作製する。使用する樹脂としては、ABS樹脂、PLA樹脂、ポリカーボネイト、ナイロン、熱可塑性ポリウレタン、PET樹脂、PETG樹脂など、3Dプリンタで使用できる樹脂であれば何を使用しても良い。また、これらを混合した素材など、今後開発される素材も含めてどのような素材を使用しても構わない。しかし、乳房再建支援ガイドの素材は、患者毎にオーダーメイドで作製し、使用することから、耐久性は必要とはされないものの以下の要件を満たす必要がある。乳房再建支援ガイドは、術中に使用することから、滅菌できる素材である必要があるが、滅菌処理後に形状が変化しない素材でなければならない。また、患者胸部へ簡単に配置するためには、可撓性を備えた素材であることが望ましい。しかし、胸部に配置後形状が復元し、患者の胸壁に沿って配置可能な素材であることが望ましい。
【0021】
3Dプリンタによって作製された乳房再建支援ガイドは、滅菌されIMF作成の際に用いられる。IMF作成中は、手術助手が乳房再建支援ガイドを適切な位置に固定し、術者が乳房再建支援ガイドに沿ってIMFを作成すれば良い。あるいは、実施形態に例示するように固定用の孔を乳房再建支援ガイドに作製しておき、患者の皮膚に縫合糸で固定して使用しても良い。いずれにしても、乳房再建支援ガイドによってIMFラインが定まっていることから、術者は適切な位置で皮膚の裏側と胸壁を縫い合わせてIMFラインを作成することができる。
【0022】
次に乳房再建支援ガイドの実施形態について図面を用いながら説明する。乳房の形状は個人差が大きいことから、適切な乳房再建支援ガイドを選択することによって、整容性の優れた乳房再建術を行うことができる。
【0023】
[実施形態1]
図1に示した患者3次元形状データより作成したCADデータに基づいて3Dプリンタを用いて製造した乳房再建支援ガイドを
図2に示す。
図2は患者が装着した状態において(A)正面から、(B)上部から、(C)左側面から撮影した写真である。ここではPLA樹脂を用いて製造しているが、上述のようにこれに限らずどのような樹脂で製造してもよい。
【0024】
患者の3次元形状データより作成していることから、乳房再建支援ガイドは患者の胸壁に沿った形状となっている(
図2(B)参照)。したがって、健側IMFに合わせ、正中に正中ガイド2を合わせて患者の胸部に置くと位置を決めることができるので、切除術を行った側のIMFライン5を定めることができる。ここでは、乳がん切除後に患者の3次元データを測定し、健側のミラーイメージとして患側のIMFラインを推定しているが、切除術前にデータを測定しておき、乳房再建支援ガイドを作成することもできる。
【0025】
また、ここでは、3Dプリンタにより一体型の部材として乳房再建支援ガイドを作製したが、正中線で左右2つの部材に分けて作製し、真ん中で結合させるような構成としてもよい。左右両部材の正中線上の対応する位置に凸部、又は凹部を設け、勘合することにより左右部材を一体化させ、使用するように構成すればよい。
【0026】
術者は、乳房再建支援ガイド1の患側IMFライン5に沿って、吸収糸によって皮膚の裏側と胸壁を縫い合わせIMFを作成する。乳房再建支援ガイドに沿ってIMFを作成することにより、IMFラインの位置、形状を健側と同等に作成することが可能となる。その結果、IMFラインを健側と患側と対称性を保って作成することが可能となる。
【0027】
[実施形態2]
実施形態1の乳房再建支援ガイドは、IMFの左右の終点までの形状を模したものであったのに対し、本実施形態の乳房再建支援ガイド1aは、
図3のbで示した領域のデータに基づいて腋窩ガイド6を設け、腋窩までガイドを挿入できる形態となっている。実施形態2では腋窩まで乳房再建支援ガイドの両側が延び、把持部を備えない形状となっている。
【0028】
乳房再建支援ガイド1aは腋窩まで腋窩ガイド6を入れることができるので、より安定して患者の胸部に固定することができる。また、症例によっては、センチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清の影響で、腋窩の瘢痕拘縮を起こし、形態が変形することがある。このような症例において、腋窩まで入るガイドを用いると、二期的に乳房再建するときに腋窩の形態を左右対称に再現することが可能となる。また、IMFだけではなく乳房の両側部のラインの対称性も確認しつつ再建を行うことができるため、より正確な復元を行うことができる。
【0029】
[実施形態3]
実施形態3の乳房再建支援ガイド1bは、実施形態2と同様に腋窩まで両側が延びているとともに、IMFラインから乳頭まで乳房を包むように乳房下部ガイド7を備えた乳房再建支援ガイドである(
図4(A))。乳房を包むようなデザインとなっていることから、乳房の高さ、大きさを示すガイドとなっている。このデザインの乳房再建支援ガイド1bは、IMFラインを作成するとともに、患側の乳房の大きさ、形状もガイドに沿って作成することができることから、より元の形状に近い乳房を再建することができる。
【0030】
さらに、乳房下部ガイド7は必要に応じて取り外し可能な構成とすることができる。乳房下部ガイド7の基部に2つ以上の凸部、又は凹部を設け、乳房再建支援ガイドのIMFライン上の一致する位置に凹部、又は凸部を設け、対応する位置の凸部と凹部が嵌合する構成とすればよい。IMFラインを作成するときは、乳房下部ガイド7を外せば邪魔になることはなく、乳房の形状の確認が必要な際に乳房下部ガイド7を付けて乳房再建を行うことが可能である。取り外し可能にすることにより、IMF作成時に邪魔になりにくく術中操作性がよい。
【0031】
[実施形態4]
実施形態4の乳房再建支援ガイド1cは、乳頭の位置及び高さを示す乳頭ガイド8を備えている(
図4(B))。実施形態3の乳房再建支援ガイド1bは乳房を包み込むデザインとなっているため、乳房の形状、大きさを把握しやすい反面、IMF作成を行う場合には、術者の手が奥まで入りにくく、操作をしづらい場合には取り外す必要があった。実施形態4の乳房再建支援ガイド1cは、乳頭ガイド8として乳頭位置のみを示す構成となっていることから、IMF形成の際に邪魔にならず、そのままIMFを作成することが可能である。
【0032】
あるいは、乳頭ガイド8は、実施形態3で示した乳房下部ガイドと同様に、必要に応じて取り外し可能な構成としてもよい。乳頭ガイド8の基部に2つ以上の凸部、又は凹部を設け、乳房再建支援ガイドのIMFライン上の一致する位置に凹部、又は凸部を設け、対応する位置の凸部と凹部が取り外し可能に嵌合する構成とすればよい。あるいは、乳頭ガイド8の基部を実寸より長く作製しておき、基部を医療用テープなどにより固定し、IMFラインを作成する際には取り外し可能な構成とすることもできる。
【0033】
[実施形態5]
実施形態5の乳房再建支援ガイド1dは、実施形態4の乳房再建支援ガイドの構成においてさらに延長した正中ガイド2aを備えている(
図4(C))。より長い正中ガイド2aを設けていることにより、IMFラインがずれることなく、正確に位置をあわせることができる。また、術中もずれることがない。さらに、本構成では乳房再建支援ガイドを術中に縫合糸で固定するための固定孔9が設けられている。固定孔9を設けることによって、助手が乳房再建支援ガイドを抑えている必要がなくなる。
【0034】
[実施形態6]
実施形態6の乳房再建支援ガイド1eは、乳頭ガイド(8a、8b)が縦横に形成されている(
図4(D))。縦方向の乳頭ガイド8aはIMFラインから乳頭を通り上胸部まで伸びている。横方向の乳頭ガイド8bは、正中線から乳頭を通り、水平方向に脇まで伸びた形状となっている。乳房の形状を縦横から把握することができるので、健側と対称な形状を形成しやすい。また、乳頭ガイド8a、8bはIMF形成時には取り外すことができるような構成とすることができる。さらに、ここでは縦横の乳頭ガイド8a、8bを備える構成を示しているが、縦方向の乳頭ガイド、横方向の乳頭ガイドどちらかのみを構成として備えていてもよい。
【0035】
以上の実施形態で示した乳房再建支援ガイドは、患者に合わせて適したものを採用することができる。実施形態1及び2の乳房再建支援ガイド1、1aは最もシンプルなガイドであり、IMFの左右対称性を再現するためのものである。ボリュームが大きくなく下垂もない乳房形態の患者の乳房再建に適している。実施形態3~6で示した乳房再建支援ガイド1b、1c、1d、1eはIMFからトップまでの形態の左右対称性を再現するためのガイドとなる。実施形態3の乳房再建支援ガイド1bは、比較的ボリュームがあり、下垂のある乳房形態に適している。また、実施形態6の乳房再建支援ガイド1eは、トップから上胸部までのラインの左右対称性を再現することが可能であるため、上胸部までしっかりボリュームがあり、下垂のある乳房形態に適している。それぞれ再建する乳房形態に合わせて乳房再建支援ガイドの形態を選択することが可能となり、より正確に乳房再建を行うことができる。
【0036】
以上、種々の実施形態を示してきたが、上記実施形態に限定されることなくこれらを組み合わせた乳房再建支援ガイドとしてもよい。例えば、実施形態1に示すように、IMF終点までの乳房再建支援ガイドに、固定孔や乳頭ガイドを設けるなど、患者、あるいは術者に合った種々のバリエーションを作製し用いることができる。
【0037】
乳房再建支援ガイドを使用することによって、術者の技量によらず、患者の元の状態に近いIMFラインを作成することができる。また、術者の技量、患者の状態によって乳頭や乳房の形状の位置を示す乳房再建支援ガイドを選択することも可能である。したがって、乳房再建支援ガイドによって、IMFラインが健側と対称となるだけではなく、より健側と対称性のある乳房再建が可能となり、整容性に優れた乳房再建を行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1、1a、1b、1c、1d、1e・・・乳房再建支援ガイド、2、2a・・・正中ガイド、3・・・IMF終点、4・・・把持部、5・・・IMFライン、6・・・腋窩ガイド、7・・・乳房下部ガイド、8、8a、8b・・・乳頭ガイド、9・・・固定孔