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特許7445557分析方法、当該分析方法を採用する分析装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】分析方法、当該分析方法を採用する分析装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/552 20140101AFI20240229BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20240229BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N33/493 A
G01N33/483 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020130856
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027068
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】菅 彰一郎
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-284490(JP,A)
【文献】特開平10-104215(JP,A)
【文献】特開2009-204598(JP,A)
【文献】特開2019-060839(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119127(WO,A1)
【文献】特表平06-507728(JP,A)
【文献】特開2020-052033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子内を透過する光線のスペクトル解析によって、検査対象に含まれる被検査成分の濃度を特定する分析方法であって、
(a)第1の測定環境パラメーターにおいて、第1濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの第1の波長での強度と前記第1の波長とは異なる第2の波長での強度とを取得し、前記第1の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(b)前記第1の測定環境パラメーターとは異なる第2の測定環境パラメーターにおいて、前記第1濃度の被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長での強度と前記第2の波長での強度とを取得し、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(c)前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度と前記第2の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度との比を求め、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(d)前記第1の測定環境パラメーターにおいて、前記被検査成分について前記第1濃度とは異なる第2濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長における強度を取得し、前記第2濃度に紐づけて保存する工程と、
(e)任意の測定環境パラメーターにおいて、任意の濃度の前記被検査成分を含む検査対象のスペクトルについて、前記第1の波長と前記第2の波長での強度を取得する工程と、
(f)前記(e)工程において取得した前記第2の波長での強度を、前記(b)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記第2の波長での強度と照合して、前記任意の測定環境パラメーターを決定する工程と、
(g)前記(f)工程において決定した前記任意の測定環境パラメーターを前記第2の測定環境パラメーターに読み替えて、前記(c)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記比を、前記(e)工程で取得した前記第1の波長の強度に掛け合わせて前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長の強度に置き換える工程と、
(h)前記(g)工程において置き換えて得られた前記第1の波長の強度と、前記(d)工程において前記第2濃度に紐づけて保存された前記第1の波長における強度と照合して前記任意の濃度を決定する工程と、
を備える分析方法。
【請求項2】
前記第1の波長が前記被検査成分の強度がピーク強度となる波長であり、前記第2の波長が前記被検査成分の濃度による影響を受けない波長である請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記(b)工程において、前記第2の測定環境パラメーターを複数設定し、そのそれぞれについて、前記第1の波長での強度と前記第2の波長での強度を取得し、前記複数設定した前記第2の測定環境パラメーターそれぞれに紐づけて保存する請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記(d)工程において、前記第2濃度を複数設定し、そのそれぞれについて、前記第1の波長での強度を取得し、前記複数設定した前記第2濃度のそれぞれに紐づけて保存する請求項1から3いずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記第1の測定環境パラメーター及び前記第2の測定環境パラメーターが温度である請求項1から4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の分析方法により前記被検査成分の濃度を特定する分析装置。
【請求項7】
光学素子内を透過する光線のスペクトル解析によって、被検査成分の濃度を特定する分析を実行するためのプログラムであって、
(a)第1の測定環境パラメーターにおいて、第1濃度の被検査成分を含む試料のスペクトルの第1の波長での強度と第2の波長での強度を取得し、前記第1の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(b)前記第1の測定環境パラメーターとは異なる第2の測定環境パラメーターにおいて、前記第1濃度の被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長での強度と前記第2の波長での強度を取得し、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(c)前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度と前記第2の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度との比を求め、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(d)前記第1の測定環境パラメーターにおいて、前記被検査成分について前記第1濃度とは異なる第2濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長における強度を取得し、前記第2濃度に紐づけて保存する工程と、
(e)任意の測定環境パラメーターにおいて、任意の濃度の前記被検査成分を含む検査対象のスペクトルについて、前記第1の波長と前記第2の波長での強度を取得する工程と、
(f)前記(e)工程において取得した前記第2の波長での強度を、前記(b)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記第2の波長での強度と照合して、前記任意の測定環境パラメーターを決定する工程と、
(g)前記(f)工程において決定した前記任意の測定環境パラメーターを前記第2の測定環境パラメーターに読み替えて、前記(c)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記比を、前記(e)工程で取得した前記第1の波長の強度に掛け合わせて前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長の強度に置き換える工程と、
(h)前記(g)工程において置き換えて得られた前記第1の波長の強度と、前記(d)工程において前記第2濃度に紐づけて保存された前記第1の波長における強度と照合して前記任意の濃度を決定する工程と、
をコンピューターに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分光分析に関する。より詳細には、参照波長を用いたバックデータに基づくパラメーター補正を用いた分析方法、装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりとともに、自宅で手軽に健康状態を把握できる分析機器への需要が高まっている。特許文献1では、便器に赤外分析装置を内蔵し、量産に適した熱型光源を光源として使用して全反射測定法(ATR)の検出ユニットを用いて尿中成分濃度を分析する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-204598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱型光源には、温度によって光量が変化する特性があるため、検出強度が変動して信頼性が低下する課題があった。また、光源には劣化などにより使用時間に応じて光量が低下していく傾向がある。
【0005】
本開示の目的は、光量の変動による検出強度のバラツキによる分析結果への影響を低減し信頼性の高いデータを提供することができる分析方法、当該分光分析法を採用する分析装置、および当該分析方法を実行するプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る分析方法は、光学素子内を透過する光線のスペクトル解析によって、被検査成分の濃度を特定する分析方法であって、
(a)第1の測定環境パラメーターにおいて、第1濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの第1の波長での強度と前記第1の波長とは異なる第2の波長での強度とを取得し、前記第1の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(b)前記第1の測定環境パラメーターとは異なる第2の測定環境パラメーターにおいて、前記第1濃度の被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長での強度と前記第2の波長での強度とを取得し、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(c)前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度と前記第2の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度との比を求め、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(d)前記第1の測定環境パラメーターにおいて、前記被検査成分について前記第1濃度とは異なる第2濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長における強度を取得し、前記第2濃度に紐づけて保存する工程と、
(e)任意の測定環境パラメーターにおいて、任意の濃度の前記被検査成分を含む検査対象のスペクトルについて、前記第1の波長と前記第2の波長での強度を取得する工程と、
(f)前記(e)工程において取得した前記第2の波長での強度を、前記(b)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記第2の波長での強度と照合して、前記任意の測定環境パラメーターを決定する工程と、
(g)前記(f)工程において決定した前記任意の測定環境パラメーターを前記第2の測定環境パラメーターに読み替えて、前記(c)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記比を、前記(e)工程で取得した前記第1の波長の強度に掛け合わせて前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長の強度に置き換える工程と、
(h)前記(g)工程において置き換えて得られた前記第1の波長の強度と、前記(d)工程において前記第2濃度に紐づけて保存された前記第1の波長における強度と照合して前記任意の濃度を決定する工程と、
を備える。
【0007】
また本開示に係るプログラムは、光学素子内を透過する光線のスペクトル解析によって、被検査成分の濃度を特定する分析を実行するためのプログラムであって、
(a)第1の測定環境パラメーターにおいて、第1濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの第1の波長での強度と前記第1の波長とは異なる第2の波長での強度とを取得し、前記第1の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(b)前記第1の測定環境パラメーターとは異なる第2の測定環境パラメーターにおいて、前記第1濃度の被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長での強度と前記第2の波長での強度とを取得し、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(c)前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度と前記第2の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長での強度との比を求め、前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存する工程と、
(d)前記第1の測定環境パラメーターにおいて、前記被検査成分について前記第1濃度とは異なる第2濃度の前記被検査成分を含む試料のスペクトルの前記第1の波長における強度を取得し、前記第2濃度に紐づけて保存する工程と、
(e)任意の測定環境パラメーターにおいて、任意の濃度の前記被検査成分を含む検査対象のスペクトルについて、前記第1の波長と前記第2の波長での強度を取得する工程と、
(f)前記(e)工程において取得した前記第2の波長での強度を、前記(b)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記第2の波長での強度と照合して、前記任意の測定環境パラメーターを決定する工程と、
(g)前記(f)工程において決定した前記任意の測定環境パラメーターを前記第2の測定環境パラメーターに読み替えて、前記(c)工程において前記第2の測定環境パラメーターに紐づけて保存していた前記比を、前記(e)工程で取得した前記第1の波長の強度に掛け合わせて前記第1の測定環境パラメーターにおける前記第1の波長の強度に置き換える工程と、
(h)前記(g)工程において置き換えて得られた前記第1の波長の強度と、前記(d)工程において前記第2濃度に紐づけて保存された前記第1の波長における強度と照合して前記任意の濃度を決定する工程と、
をコンピューターに実行させるためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示に係る補正方法を採用する測定装置の一例を示す模式図である。
図2図1に係る装置の点線Aで囲われた部分の拡大断面図である。
図3図1に係る装置において光路と検査試料との関係を示す平面図である。
図4図1に係る装置において光路を説明する平面図である。
図5】分析装置の機能的構成例を示すブロック図である。
図6】本開示係る分析方法を用いて尿中の塩分濃度を求める一例を示すフローチャートである。
図7】本開示に係る補正方法を説明する図である。
図8】本開示に係る補正方法を説明する図である。
図9】本開示に係る補正方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の実施形態では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略し、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す場合がある。
【0010】
以下、排尿時に尿検体中の塩分濃度を調べるスペクトル分析に適用する例によって、本開示に係る分析方法を説明するが、本開示に係る分析方法は、分光分析全般に広く適用可能であり、分光分析が可能な被検査成分であれば被検査成分や検査成分も制限されない。
【0011】
図1は、本開示に係る分析方法を採用する測定装置の一例を示す模式図である。図2は、図1に係る装置の点線Aで囲われた部分の拡大断面図である。図3は、図1に係る装置において光路と検査試料との関係を示す平面図であり、図4は、図1に係る装置において光路を説明する平面図である。
【0012】
本実施例において、本開示に係る光量補正方法を採用する分析装置は、ATR光学素子内を通過した光線を解析する便器内尿分析装置として構成される。
【0013】
図1において、便器内尿成分分析装置26(以下、単に分析装置26として記載する場合がある)は、非使用時は便器12の後方上部に設けられた機能部14内に収容され、使用時に便鉢22内に進出可能な筒状部材34の先端に取り付けられている。本実施形態において筒状部材34は外筒と内筒からなる入れ子式(テレスコープ式)となっており、非使用時は機能部14内に収容されて、使用の際に機能部14から自動または手動(操作者のスイッチ操作等)によって便鉢22内に進出する。なお分析装置26の収納形式は任意のものでよく、例えば、便座にアームごと収納された状態から横にスライドして封水24の上に先端を持ってくる方式であってもよい。
【0014】
便鉢22内に進出した分析装置26は、便鉢22内に排尿される尿と接触することにより、後述の光学系の機能により被検体である尿成分の同定、濃度分析等が可能になる。排尿時にのみ筒状部材が便鉢22内に延びてくることで、被験者に圧迫感や緊張感を感じさせず自然な状態での尿成分を分析することが可能になる。また余分な尿は封水24、排水管36を介して排出されるので後処理も容易である。
【0015】
図2は、図1における点線領域Aの部分拡大図であり、分析装置26の部分断面が示されている。本実施形態における分析装置26は、分光分析法の一つとなる減衰全反射法(ATR法)を利用したスペクトル解析により、尿中の成分同定及び濃度測定等を行う装置である。
【0016】
以下、図2を参照しつつ本実施形態に係る分析装置26を説明する。分析装置26は、分析に供する光線を発する光源38と、光源からの光線を伝播するATR素子として機能するプリズムPと、プリズムPから出た光線を受容する光センサ40とを備える。光源38、プリズムP、および光センサ40は、筒状部材34の先端近傍に配置される。
【0017】
プリズムPは、尿Urと接触する尿接触面26cを有する。プリズムPの尿接触面26cに尿Urが接触すると、光源38から出た光線は、プリズムPの入射面26aに入射し、プリズムの上表面と下表面との間で全反射を繰り返しプリズムP内を進みプリズムPの出射面26bから出射する。
【0018】
プリズムPの出射面26bから出射した光線は光センサ40のレンズ42に入射する。光センサ40に入射した光線は、有線又は無線によりデータ処理部に送られ、解析される。データ処理部は便器周囲に設けられてもよく、遠隔地に設けられてもよい。
【0019】
レンズ42は、検出したい成分の赤外光吸収波長を透過するフィルタ機能を持たせておくことで分析したい波形を簡便に得ることができる。同等の機能が得られるのであれば、レンズ42とは別体のフィルタを設けてもよい。本開示の方法によれば、検出したい成分が複数ある場合でも、一つの参照波長で光量補正を施したデータを得られるので、小型化、低コストの点で有利である。
【0020】
図3は、図1に係る装置において光路と検査試料との関係を示す平面図であり、図4は、図1に係る装置において光路を説明する平面図である。図3に例示するように、実際の尿測定時は、筒状部材34の先端に設置された分析装置26の上面(尿接触面26cと称する)に被検体である尿Urが接触する。このとき、光路Poの全域に尿Urが乗ることが好ましい。
【0021】
図4に例示するように、尿Urが光路Poに接触している状態で、光源38(図中点線でその対応位置を表示、図2も参照)からの光線はプリズムPの入射面26eに入射し、プリズムP内を全反射しながら出射面26bに向かって進み、プリズムPの出射面26fから出射し、光センサ40(図中点線でその対応位置を表示、図2も参照)に入射する。光センサ40としては任意のものを使用可能であり、例えば焦電センサなどを利用することができる。全反射によってプリズムP内で光線を進ませるためには、プリズムPの屈折率は被検体の屈折率よりも大きいことが必要である。
【0022】
図5は、分析装置26の機能的構成例を示すブロック図である。分析装置26は、センサユニット28と、制御部30と、データ処理部32と、を備える。制御部30、データ処理部32は、ハードウェア要素とソフトウェア要素の組み合わせ、又は、ハードウェア要素のみにより実現される。ハードウェア要素としては、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)が利用される。ソフトウェア要素としては、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムが利用される。
【0023】
制御部30及びデータ処理部32を構成するハードウェア要素は機能部14の内部に収容されてもよく機能部14の周囲あるいは遠隔地に設けられてもよい。制御部30は、センサユニット28の動作を制御する。データ処理部32は、センサユニット28の光センサ40から出力される検出信号に基づきスペクトル解析を行う。
【0024】
以下、上記構成の分析装置を用いて尿中に含まれる塩分濃度を精度よく求める方法について説明する。以下の説明は本開示に係る技術の理解を深めるためのものであり、本開示に係る請求の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0025】
図6は、本開示係る分析方法を用いて尿中の塩分濃度を求める一例を示すフローチャートである。図7図9は、図6に係るフローチャートを補完的に説明する概念図である。
【0026】
以下の説明において、検査対象は尿、被検査成分は塩(NaCl)であり、温度Tは第1の測定環境パラメーターに相当し、温度Txは第2の測定環境パラメーターに相当し、被検査成分であるNaClのスペクトルのピーク波長が第1の波長に相当し、参照波長が第2の波長に相当し、係数αは第1の測定環境パラメーターにおける第1の波長での強度(以下、第1の波長(ピーク波長)での強度をピーク強度という場合がある)と第2の測定環境パラメーターにおけるピーク強度との比に相当し、強度Iy1[NaCl]、Iy2[NaCl]、Iy3[NaCl]及びIy4[NaCl]は、それぞれ、検査対象中のNaClの複数の第2濃度Cy=C、C、C、Cでのピーク強度に相当する。
【0027】
本開示に係る分析方法では、光量変動の指標として温度に着目し、まず温度TにおけるNaClを含む試料のスペクトルのピーク強度I[NaCl]と参照波長での強度I[ref](以下、参照波長での強度を参照強度という場合がある)とを求めバックデータとして保存する(S11)。強度I[NaCl]はピーク波長での強度に相当し、強度I[ref]は参照波長での強度に相当する。参照波長は被検査成分のピーク波長とは異なる波長であり検査対象中の被検査成分の濃度によりスペクトルの強度が影響を受けない波長であればよい。図7は得られるスペクトルについて横軸を波長λ、縦軸を強度Iとしたグラフである。温度Tは、製品保証時(使用開始時)で光源38の光量が最も大きい状態(例えば、製品保証時で光源38の光量を最大に設定した状態)の温度に設定するのが好ましい。本開示に係る方法によれば、温度Tは光量補正の指針になる。光源38の光量が下がった場合にスペクトルの強度を上方補正することはできるが、基準値に設定した温度Tのときの光源38の光量よりも光源38の光量が上がった場合、スペクトルの強度を下方補正することはできないためである。参照波長は検査対象とする成分の濃度により強度が変化しない波長(例えば、各被検査成分の吸収波長領域外の波長)であれば任意の波長でよい。
【0028】
次に、複数の温度Txにおけるピーク強度Ix[NaCl]と参照強度Ix[ref]とをそれぞれ求め、各温度Txに紐づけてバックテータとして保存する(S12)。図8の例では、複数の温度Tx=T、T及びTにおけるピーク強度Ix[NaCl]=Ix1[NaCl]、Ix2[NaCl]及びIx3[NaCl]がそれぞれ求められている。図7に例示のごとく、温度Txは熱型光源38の温度変動が予想される範囲内で少なくとも2点、好ましくは3点以上設定し、各Txでのピーク強度Ix[NaCl]を求めておくことが好ましい。ただし、これに限定されず、温度Txは熱型光源38の温度変動が予想される範囲内で1点のみ設定されてもよい。
【0029】
次に、式(1)から各Txにおける係数αの値を求めTxに紐づけてバックデータとして保存する(S13)。
α×Ix[NaCl]=I[NaCl] (1)
【0030】
ここで、プリズムPに入射し、透過する光線の強度、検体の吸光係数、検体の濃度、プリズムPの光路長の間には、次の関係が成立する。
log10(Iin/Iout)=εcd (2)
【0031】
上式において、IinはプリズムPに入射する入射光の強度、IoutはプリズムPを透過する出射光の強度、εは検体中の被検査成分のモル吸光係数、cは検体中の被検査成分のモル濃度、dは光路長であり、右辺εcdは吸光度である。
【0032】
上式より、下記式(3)、(4)が導かれる。
in/Iout=10εcd (3)
out=Iin/10εcd (4)
上記式(4)からプリズムPを透過する出射光の強度IoutはプリズムPに入射する入射光の強度Iinに対し、検体中の被検査成分のモル吸光係数εと検体中の被検査成分のモル濃度cと光路長dによって決まることが分かる。本実施形態において、モル吸光係数εは物質固有、光路長dは一定であるので、モル濃度cによってIoutが決定される。本開示は、透過光強度Ioutを計測することにより検体中の被検査成分のモル濃度を逆算することができるという原理に着想を得ている。
【0033】
次に、温度Tにおけるピーク波長λ[NaCl]について複数の濃度Cyでのピーク強度Iy[NaCl]をそれぞれ求め、各濃度Cyに紐づけてバックデータとして保存する(S14)。図8は、得られるスペクトルについて横軸を波長λ、縦軸を強度Iとしたグラフである。S14では、被検査成分の濃度Cy=C、C、C、Cの試料のスペクトルを用いて、複数の濃度Cy=C、C、C、Cでのピーク強度Iy[NaCl]=Iy1[NaCl]、Iy2[NaCl]、Iy3[NaCl]及びIy4[NaCl]が求められる(図8参照)。図8に例示のごとく、このときデータの数は多いほど、精度向上が見込めるが、少なくとも2点、好ましくは3点以上の濃度でNaClのピーク強度Iy[NaCl]を求めておくとよい。ただし、これに限定されず、1点のみの濃度でピーク強度Iy[NaCl]を求めてもよい。なお、参照波長λ[ref]における強度は濃度に依存しないので、常にI[ref]=Iy[ref]である。
【0034】
本開示に係る分析方法を、上述の便器内分析装置に利用する際は、上記S11からS14までの工程は、工場出荷前の段階で予めバックデータを取得して保存しておくことができる。保存先は、装置内に内蔵されたメモリであってもよく、遠隔地に設置されたサーバーなどの記憶装置、あるいはクラウド上の保存領域であってもよい。
【0035】
次に、光源38が未知の温度Txである状態において、未知の濃度CyのNaClを含む検査対象試料のスペクトルについて、そのピーク強度Iy[NaCl]と参照強度Iy[ref]を求め、参照強度Iy[ref]から未知の温度Txを求める(S15)。未知の温度Txは任意の測定環境パラメーターの一例であり、未知の濃度Cyは任意の濃度の一例である。図9は、この工程を説明するための図であり、得られるスペクトルについて横軸を波長λ、縦軸を強度Iとしたグラフである。この工程は、上述の便器内分析装置を使用して、被験者から排泄される尿を光学的に分析する工程となる。
【0036】
S15では、取得した参照強度Iy[ref]を、S12においてTxに紐づけて保存していた参照強度Iy[ref]と照合して、未知の温度Txを決定する。例えば、S12でバックデータとして記憶した参照強度Iy[ref]のうち、S15で求めた参照強度Iy[ref]と等しい参照強度Iy[ref]に紐づけられた温度Txによって未知の温度Txを決定する。上述の検出工程により光源38の温度、NaClの濃度ともに未知の状態でスペクトルを取得できれば、参照強度Iy[NaCl]は、NaClの濃度に依存しないので、S12で保存していたバックデータからS15でのスペクトル測定時の温度Txを求めることができる(図9参照)。
【0037】
次に、S13でバックデータとして温度Txに紐づけて保存していた係数αのうち、S15で求めた温度Txに対応する係数αを求め、S15で求めたピーク強度Iy[NaCl]に乗じてIy[NaCl]に変換する(S16)(図9参照)。このIy[NaCl]は、温度Tのときの今回の検査対象のスペクトルのピーク強度に相当する。S16では、S15において決定した未知の温度をその未知の温度に対応する温度Txに読み替えて、S13において温度Txに紐づけて保存していた係数αを、S15で取得したピーク強度Iy[NaCl]に掛け合わせて温度Tにおけるピーク強度Iy[NaCl]に置き換える。
【0038】
次に、S16において置き換えて得られたピーク強度Iy[NaCl]をS14でバックデータとして濃度Cyに紐づけて保存されたピーク強度Iy[NaCl]と照合し、検出対象試料におけるNaClの真の濃度Cy(図9参照)を決定する(S17)。例えば、S14でバックデータとして保存されたピーク強度Iy[NaCl]のうち、S16で算出したIy[NaCl]と等しいIy[NaCl]に紐づけられた濃度Cyを求め、この求めた濃度Cyを今回の検出対象におけるNaClの濃度Cyとして決定する。
【0039】
上述の分析方法によれば、ATR素子に尿を接触させるだけで、光量変動の影響を排除した成分濃度を求めることができる。ここで、光量変動は、光源の温度変化による場合と、光源の単純な劣化や故障等による場合が考えられる。本開示によれば、最大光量のときの温度を基準温度Tとして設定し、最大光量から減少した光量のときの温度を第二の温度Txをしてすることにより、温度変化による光量変動のみならず、光源劣化等による光量変動の影響も排除できる。すなわち光量変動の原因にかかわらず、光量変動の補正をすることができる。
【0040】
本実施形態では、第1の波長としてピーク強度を用い、第2の波長として被検査成分の濃度による影響を受けない参照波長を用いたが、これに限定されない。第1の波長及び第2の波長は、互いに異なる波長であればよい。
【0041】
以上、排尿時に尿検体中の塩分濃度を調べるスペクトル分析に適用する例によって、本開示に係る分析方法を説明したが、本開示に係る分析方法は、分光分析全般に広く適用可能であり、分光分析が可能な検査対象であれば検査対象や検査成分も制限されない。例えば、尿の他にも唾液の中の成分濃度を調べる際にも同様の分析手法が可能であり、例えば、上述の分析装置を洗面台周りに設置して使用者の唾液をATR素子に接触させることにより、唾液成分の濃度を求めることができる。また本開示はスペクトルを利用した光学分析について説明したが、濃度と温度が未知の成分の濃度を求める分光分析全般に利用可能である。さらには、パラメーターの組み合わせも濃度と温度の組み合わせに限定されず、周波数と濃度、周波数と温度などの組み合わせであっても当業者であれば本開示を参照して容易に理解できる。
【0042】
(本開示の効果)
本開示によれば、光量依存性、温度依存性のあるスペクトルにおいて、任意の光量、温度における測定値を測定環境に依存しない健康レベルの指標とすることができる分析手法及び当該分析手法を利用した装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…便器装置、12…便器本体、26…分析装置、26a…分析光入射面、26b…分析光出射面、26c…尿接触面、34…筒状部材、38…光源、40…光センサ、42…レンズ
図1
図2
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図6
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図8
図9