(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗布膜及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/04 20060101AFI20240229BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240229BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240229BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20240229BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C09D201/04
B32B27/30 D
C09D7/61
C09D127/12
C09D127/18
(21)【出願番号】P 2020151527
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2021-08-27
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大空
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 宏道
【合議体】
【審判長】関根 裕
【審判官】門前 浩一
【審判官】亀ヶ谷 明久
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-238205(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133010(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂、及び、無機粒子を含む塗料組成物であって、
前記無機粒子は、炭化ケイ素であり、
平均円形度が0.93~1.00であり、
平均粒径が1~30μmであり、
粒度分布におけるピークが1つであり、半値幅が21μm以上である
ことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンのみ、または、ポリテトラフルオロエチレンとポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂からなり、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂の合計に対してポリテトラフルオロエチレンが20質量%以上であり、フッ素樹脂を塗料組成物の固形物全量に対して30.0~99.0質量%含む請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
フッ素樹脂に対して1~50質量%の無機粒子を含む請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
請求項1~3に記載のいずれかの塗料組成物から得られることを特徴とする塗布膜。
【請求項5】
基材上に形成された、
プライマー層(1)、ミドルコート層(2)及びトップコート層(3)の3層からなる塗布膜であって、
ミドルコート層(2)は、請求項1~4に記載のいずれかの塗料組成物によって形成された層であることを特徴とする塗布膜。
【請求項6】
基材、及び、請求項4又は5に記載の塗布膜を備えることを特徴とする積層体
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗料組成物、塗布膜及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
フライパン、ホットプレート、鍋、炊飯器の内釜等の調理器具においては、金属基材上に、フッ素樹脂から形成される被覆層を設けることが、一般に行われている。
【0003】
特許文献1には、当該被覆層において、無機粉体を含有することが開示されている。
特許文献2には、無機充填剤として、真球形状を有する粒子を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-238205号公報
【文献】国際公開2016/133010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、耐摩耗性と非粘着性とが長期にわたって高い水準で両立した塗布膜を形成できるような塗料組成物を提供することを目的とする。
更に、当該塗料組成物によって得られた耐摩耗性と非粘着性とが長期にわたって高い水準で両立した塗布膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
フッ素樹脂、及び、無機粒子を含む塗料組成物であって、
前記無機粒子は、
新モース硬度が10以上であり、
平均円形度が0.93~1.00であり、
平均粒径が1~30μmであり、
粒度分布におけるピークが1つであり、半値幅が21μm以上である
ことを特徴とする塗料組成物である。
【0007】
上記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンのみ、または、ポリテトラフルオロエチレンとポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂からなり、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂の合計に対してポリテトラフルオロエチレンが20質量%以上であり、フッ素樹脂を塗料組成物の固形物全量に対して30.0~99.0質量%含むことが好ましい。
【0008】
上記塗料組成物は、フッ素樹脂に対して1~50質量%の無機粒子を含むことが好ましい。
【0009】
本開示は、上述した塗料組成物から得られることを特徴とする塗布膜でもある。
本開示は、基材上に形成された、
プライマー層(1)、ミドルコート層(2)及びトップコート層(3)の3層からなる塗布膜であって、
ミドルコート層(2)は、請求項1~4に記載のいずれかの塗料組成物によって形成された層であることを特徴とする塗布膜でもある。
本開示は、基材、及び、上述した塗布膜を備えることを特徴とする積層体でもある。
【発明の効果】
【0010】
本開示によって、耐摩耗性と非粘着性とが長期にわたって高い水準で両立した塗布膜を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例で使用した無機粒子の粒度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を詳細に説明する。
本開示の塗料組成物は、無機粒子として、
(a)新モース硬度が10以上
(b)平均円形度が0.90~1.00
(c)平均粒径が1~40μm
(d)粒度分布の半値幅が21μm以上又はマルチピークである
という特徴を有するものを使用する。
【0013】
フッ素樹脂及び無機粒子を含有する塗膜は、フッ素樹脂による非粘着性及び無機粒子による耐摩耗性をそれぞれ発揮することによって、非粘着性及び耐摩耗性を得る。すなわち、フッ素樹脂は、単独で使用した際の耐摩耗性が充分ではないことから、無機粉体を配合することによって耐摩耗性を得ることが行われている。この場合、新モース硬度が10以上であるような無機粒子が使用される。
【0014】
しかし、長期の使用によってフッ素樹脂は徐々に剥落する。そして、フッ素樹脂の剥落が進行することによって、無機粒子も塗膜から脱落する。無機粒子が脱落すると、これによって、耐摩耗性が大きく低下し、その後、塗膜性能が急激に低下してしまう。これによって、長期使用時の機能が低下していくこととなる。
【0015】
このような粒子として真球状の粒子を使用すると、耐摩耗性が向上するという点で好適な効果が得られるものである。
この場合、耐摩耗性を改善するためには、粒径が大きい無機粒子を高い割合で配合することが好ましい。しかしながら、このようにして耐摩耗性を改善させると、非粘着性が悪化するため、耐摩耗性と非粘着性の両立を図ることが非常に困難であった。
更に、球状粒子を使用する場合、粒径が狭い範囲内のもので、ほとんど同一の粒径・形状を有するものであると、特定の厚みにまで剥落が進行した時、多くの粒子が同時に剥落しやすくなってしまい、その段階で急激に塗膜の物性が低下してしまう。更に、樹脂の摩耗によって粒子が表面に露出することで、非粘着性が低下する。このような性質は、大きな粒径を有し、粒度分布がシャープな無機粉体を配合した場合にはより顕著なものとなりやすい。
【0016】
本開示においては、このような観点から、無機粉体の粒径について、粒度分布が広く、粒径の単一性が低いものとすることで、長期にわたって耐摩耗性と非粘着性が両立されるものであることを見出したものである。すなわち、種々の粒径を有する無機粉体が存在することによって、無機粒子の剥落のタイミングがずれる。これによって、突然大きく耐摩耗性能が落ちるタイミングが生じることがなく、これによって長期にわたって機能を維持することができるものである。
【0017】
以下に、無機粒子が有する(a)~(b)の各性能について詳述する。
(a)新モース硬度
モース硬度は物質の相対的な硬度を1~10の範囲で評価したものであるが、新モース硬度は、硬度の評価をモース硬度の10段階に対して15段階とさらに細かく分類したものである。
新モース硬度が10以上である無機粒子としては、特に限定されず、例えば、ダイヤモンド、フッ素化ダイヤモンド、炭化ホウ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム(ルビー、サファイアも含む)、クリソベリル、ガーネット、溶融ジルコニア等の粒子が挙げられる。本開示の塗料組成物は、耐摩耗性を得ることが求められることから、これらの硬度が高い無機粒子を配合するものである。
【0018】
(b)平均円形度
上記平均円形度は、0.90~1.00である。
このような値を有するものは、真球に近い形状を有する粉体である。上記塗料組成物が実質的に球形である無機粒子を含むことにより、優れた耐摩耗性を有する塗布膜を得ることができる。上記無機粒子には、粉砕されたままの無機粒子は含まないが、粉砕された後、球状化させた無機粒子を含む。
上記無機粒子は、耐摩耗性の観点から、実質的に角のない粒子であることが好ましい。上記無機粒子の形状は、真球、楕円球状、角が丸みを帯びている多面体、円形度が1に近い多面体が好ましい。
【0019】
上記平均円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置を使用して画像処理プログラムにより測定することができる。
上記無機粒子は、任意の角度から見たときの平均円形度が0.90以上である。上記平均円形度としては、0.91以上がより好ましく、0.93以上が更に好ましく、0.95以上が特に好ましく、1.00以下が好ましい。
【0020】
(c)平均粒径
上記無機粒子は、平均粒径が1~40μmであることが好ましい。10μm以上であることがより好ましく、20μm以下の塗布膜に用いる場合は表面平滑性の観点から30μm以下であることがより好ましい。
上記平均粒径は、例えば、日機装株式会社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。本開示における平均粒径は、モード径、すなわち、粒度分布におけるピークトップの粒径を意味する。なお、当該方法によって得られた粒度分布は、体積基準によるものであることから、本開示においても粒度分布の測定結果から測定されるパラメータは体積基準による分布に基づくものである。なお、マルチピークの場合の平均粒径は、存在する複数のピークトップの平均値を平均粒径とする。
【0021】
(d)粒度分布の半値幅が21μm以上又はマルチピーク
粒度分布の半値幅が21μm以上又はマルチピークである。当該粒度分布は、上記日機装株式会社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって測定した値である。
【0022】
上記半値幅は、23μm以上であることが更に好ましく、27μm以上であることが更に好ましい。
更に、マルチピークであるとは、粒度分布において2以上のピークを有することを意味する。これらの複数のピーク位置は特に限定されるものではないが、ピーク間の粒径の差が5μm以上であることがより好ましい。なお、マルチピークである場合、半値幅は、それぞれのピークの半値幅の和とする。このような定義に基づいた場合、マルチピークである場合は、同時に半値幅が21μm以上であることが好ましい。更に、2つのピークの粒径の差が5μm未満である場合は、これらを単一のピークとみなして半値幅を算出し、この半値幅が21μm以上であることが好ましい。
【0023】
このような(c)(d)を満たすような粒度分布を有する無機粒子は、その製造方法を特に限定されるものではない。
上記粒度分布を有する市販の無機粉体を使用してもよいし、公知の製造方法によってこのような粒度分布を有する無機粒子を製造し、これを使用してもよい。更に、市販又は公知の製造方法で得られた各種の無機粒子の粒径が相違するものを混合して使用するものであってもよい。更に、篩分によって、特定の粒径を有する無機粉体を製造し、これらを適宜混合することによって、上述した(c)(d)を満たす無機粉体を得るものであってもよい。
【0024】
上記無機粒子は、耐摩耗性の観点から、アルミナ粒子及び炭化ケイ素粒子からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。上記無機粒子は、得られる塗布膜の耐摩耗性がより一層高いことから、炭化ケイ素粒子であることがより好ましい。
上記アルミナとしては、アモルファスの形態をとるものや、結晶性を有する形態、例えば、主結晶相がγ相であるγ-アルミナ、主結晶相がα相であるα-アルミナ等の結晶性アルミナ等であってよい。
【0025】
上記の実質的に球形であるアルミナ粒子は、例えば、溶射球状化法等の公知の方法によりにより製造することができる。
【0026】
また、次の方法等によっても製造することができる。
カルボン酸化合物を分散または溶解させた水溶液中に、水溶液と中和剤の水溶液とを同時に添加することによって、上記金属の水酸化物または水和物の微粒子を形成させ、得られた微粒子を焼成する方法(例えば、特開平5-139704号公報)、
水とアルコール及び双極性非プロトン溶媒の存在下にアルミニウムアルコキシドを接触せしめ、エマルジョンを生成させずに加水分解して水酸化アルミニウムを得、これを焼成する方法(例えば、特開平8-198622号公報)、
アルミニウム含有化合物を含有した可燃性液体を、噴霧して液滴化し、燃焼させることにより、アルミニウム含有化合物をアルミナに転化し、かつ、球状化させる方法(例えば、特開平11-147711号公報)、
脱水温度が450℃以上で純度が99.9質量%以上である水酸化アルミニウムを塩素雰囲気中、800℃以上1200℃以下の温度範囲で焼成してα-アルミナ粒子を得る方法(例えば、特開2001-302236号公報)、
ハロゲン化合物、硼素化合物等、アルミナの鉱化剤あるいは結晶成長剤として従来から知られている公知の薬剤を電融アルミナあるいは焼結アルミナの粉砕品に少量添加し1000℃~1550℃の温度で加熱処理する方法(例えば、特開平5-294613号公報)、
水酸化アルミニウム粉末又は水酸化アルミニウム粉末のスラリーを火炎中に噴霧し、得られた微粉末を500℃以上の高温で捕集する方法(例えば、特開2001-19425号公報、特開2001-226117号公報)、
アルミナまたは水酸化アルミニウムの粉末を2000℃以上の高温の領域を10cm以上の距離にわたって通過させることにより溶融液滴とし、該溶融液滴を自由落下法を用いて落下中に冷却固化させ球状とする方法(例えば、特開2005-179109号公報)。
上記の実質的に球形である炭化ケイ素粒子は、例えば、溶射球晶化法等の公知の方法によりにより製造することができる。
【0027】
また、平均粒径が1μm以下でα型結晶である原料炭化ケイ素のスラリーをスプレイドライして多孔質で球状の粒子を得る工程、及び、得られた多孔質で球状の粒子を焼結する工程を有する方法(例えば、特開2013-095637号公報)等によっても製造することができる。
【0028】
上記塗料組成物は、耐摩耗性の観点から、上記フッ素樹脂に対して1~40質量%の上記無機粒子を含むことが好ましい。上記無機粒子の含有量は、3質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
本開示の塗料組成物は、フッ素樹脂を含有するものである。
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体(PFA)、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PTFE、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0030】
上記フッ素樹脂としては、特に耐摩耗性に優れた塗布膜を形成できることから、なかでも、PTFEが好ましい。
【0031】
上記PTFEは、非溶融加工性を有することが好ましい。上記非溶融加工性とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質を意味する。
【0032】
上記PTFEの標準比重〔SSG〕は、耐摩耗性により一層優れることから、2.13~2.23であることが好ましく、2.13~2.19であることがより好ましい。上記SSGは、溶融成形加工性を有しないポリテトラフルオロエチレンの分子量の指標としてASTM D4895-89に規定されるSSGである。
【0033】
上記PTFEの融点は325~347℃であることが好ましい。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)の昇温速度を10℃/分として測定した値である。
【0034】
上記PTFEは、テトラフルオロエチレン〔TFE〕のみからなるTFEホモポリマーであってもよいし、TFEと変性モノマーとからなる変性PTFEであってもよい。上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン:エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0035】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF2=CF-ORf (1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0036】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0037】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕が好ましい。
【0038】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0039】
【化1】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0040】
【化2】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0041】
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン(PFBE)、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0042】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PPVE、PFBE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、HFP及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0043】
上記変性PTFEにおいて、上記変性モノマー単位は、全単量体単位の1質量%以下であることが好ましく、0.001~1質量%であることがより好ましい。本明細書において、上記変性モノマー単位とは、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味し、全単量体単位とは、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分を意味する。
【0044】
上記塗料組成物は、非粘着性の観点から、上記フッ素樹脂を30.0~99.0質量%含むことが好ましい。上記フッ素樹脂の含有量は、40.0質量%以上であることがより好ましく、97.0質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
上記塗料組成物は、上記PTFEに加えて更に、上記PTFE以外のフッ素樹脂を含んでもよい。上記PTFE以外のフッ素樹脂としては特に限定されず、例えば、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/HFP共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、CTFE/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0046】
上記PTFE以外のフッ素樹脂は、溶融加工性であることが好ましい。溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、上記フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.01~100g/10分であることが通常である。
【0047】
上記MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、フッ素樹脂の種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEP及びETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0048】
上記PTFE以外のフッ素樹脂は、融点が150~322℃未満であることが好ましく、200~320℃であることがより好ましく、240~320℃であることが更に好ましい。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0049】
上記塗料組成物は、フッ素樹脂として、上記PTFEのみを含むか、又は、上記PTFE及び上記PTFE以外のフッ素樹脂を含むことが好ましい。
【0050】
上記塗料組成物において、上記PTFE及び上記PTFE以外のフッ素樹脂の合計に対して、上記PTFEが1質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、70%以上が特に好ましく、上限は100質量%であってよい。
【0051】
上記塗料組成物が上記PTFE及び上記PTFE以外のフッ素樹脂を含む場合、上記PTFEと上記PTFE以外のフッ素樹脂との質量比は、1/99~99/1であることが好ましく、10/90~99/1であることがより好ましく、20/80~99/1であることが更に好ましい。上記PTFEが少なすぎると、塗布膜の耐摩耗性が充分でないおそれがある。
【0052】
上記塗料組成物に含まれる上記PTFEの質量は、例えば赤外分光法や熱重量-示差熱分析(TG-DTA)等の公知の分析手法により算出できる。
上記塗料組成物は、耐熱性樹脂を含んでもよい。上記耐熱性樹脂は、通常、耐熱性を有すると認識されている樹脂であればよく、連続使用可能温度が150℃以上の樹脂が好ましい。但し、上記耐熱性樹脂としては、上述のフッ素樹脂を除く。
【0053】
上記耐熱性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリルエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂及びポリアリレンサルファイド樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。
【0054】
上記ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕は、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4-ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PAIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0055】
上記ポリイミド樹脂〔PI〕は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0056】
上記ポリエーテルスルホン樹脂〔PES〕は、下記一般式
【化3】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。上記PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0057】
上記耐熱性樹脂は、基材との密着性に優れ、調理器具を形成する際に行う焼成時の温度下でも充分な耐熱性を有し、得られる調理器具が耐食性に優れる点から、PAI、PI及びPESからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。PAI、PI及びPESは、それぞれが1種又は2種以上からなるものであってよい。
【0058】
上記耐熱性樹脂としては、基材との密着性及び耐熱性に優れる点から、PAI及びPIからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることがより好ましい。
【0059】
上記耐熱性樹脂としては、耐食性に優れる点から、PESと、PAI及びPIからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂と、からなることが好ましい。すなわち、耐熱性樹脂は、PESとPAIとの混合物、PESとPIとの混合物、又は、PESとPAIとPIとの混合物であってよい。上記耐熱性樹脂は、PES及びPAIの混合物であることが特に好ましい。
上記塗料組成物は、上記フッ素樹脂、上記無機粒子等をミキサー、ロールミルでの混合といった通常の混合方法で調製できる。
【0060】
上記塗料組成物は、新モース硬度が10以上であり、かつ、実質的に球形である上記無機粒子を含むものであるが、更に、新モース硬度が10未満の無機粒子を含むものであってもよい。新モース硬度が10未満の無機粒子は、耐摩耗性に影響を与えないので、実質的に球形であっても、実質的に球形でなくてもよい。
【0061】
新モース硬度が10未満の無機粒子としては、ガラス、マイカ、カーボンブラック、クレー、タルク、トルマリン、翡翠、ゲルマニウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ石、トパーズ、ベリル、石英、酸化チタン、酸化鉄等の着色剤、チタン酸カリウム等が挙げられる。
【0062】
上記塗料組成物は、液状であってもよいし、粉体であってもよいが、液状であることが好ましい。上記塗料組成物が液状である場合、平滑な塗布膜を得ることができ、該塗布膜表面において、上記無機粒子が均一に分布しており、期待される耐摩耗効果を得ることが可能である。
【0063】
上記塗料組成物は、水及び/又は有機液体などの液状媒体を含んでもよく、水を含むことが好ましい。その場合、該塗料組成物は、固形分濃度が10~80質量%であってよい。なお、上記「有機液体」とは、有機化合物であって、20℃程度の常温において液体であるものを意味する。
【0064】
上記塗料組成物は、より平滑な塗布膜を形成させるため、界面活性剤を含むことも好ましい。該界面活性剤としては、従来公知のものを使用できる。
【0065】
上記塗料組成物は、更に添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、カーボンブラック、クレー、タルク、トルマリン、翡翠、ゲルマニウム、体質顔料、ケイ石、トパーズ、ベリル、石英、鱗片状顔料、ガラス、マイカ、酸化チタン、酸化鉄等の着色剤、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の造膜剤、各種強化材、各種増量材、導電性フィラー、金、銀、銅、白金、ステンレス等の金属粉末等が挙げられる。
【0066】
上記塗料組成物は、基材上に塗布されることにより、塗布膜を形成する。
本開示の塗料組成物を利用した調理器具の表面被覆においては、プライマー塗布膜、ミドルコート塗布膜、トップコート塗布膜の3層からなる複層塗膜の形成を行うことが一般的である。本開示の塗料組成物は、当該複層塗膜のいずれの層に適用するものであってもよい。また、2以上の層に適用するものであってもよい。
形成された塗布膜は、耐摩耗性に優れる。上記塗料組成物から得られる塗布膜も本開示の一つである。
【0067】
上記本開示の塗料組成物による塗布膜は、ミドルコート塗布膜であることが最も好ましい。ミドルコート塗布膜において本開示の塗料組成物を使用すると、特に長期にわたって機能を維持することができる点で好ましい。
【0068】
上記塗料組成物を基材上に塗布する方法としては特に限定されず、上記塗料組成物が液状である場合、例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられ、なかでも、スプレー塗装が好ましい。上記塗料組成物が粉体である場合、静電塗装、流動浸漬法、ロトライニング法等が挙げられ、なかでも、静電塗装が好ましい。
【0069】
上記塗料組成物を塗装したのち、塗布膜を焼成するが、乾燥後に焼成することが好ましい。上記乾燥は、80~200℃の温度で5~30分間行うことが好ましい。また、上記焼成は、300~400℃の温度で10~90分間行うことが好ましい。
【0070】
上記フッ素樹脂、及び、無機粒子を含み、上記無機粒子は、新モース硬度が10以上であり、かつ、実質的に球形であることを特徴とする塗布膜も本開示の一つである。上記塗布膜は、トップコート塗布膜であってもよいし、プライマー塗布膜であってもよい。また、中間層を構成する塗布膜であってもよい。本開示の塗布膜は、本開示の塗料組成物から製造することが可能である。
【0071】
上記塗布膜において、上記フッ素樹脂の含有量は、上記塗布膜の全質量に対して、60~99質量%であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上、より好ましくは97質量%以下である。
上記フッ素樹脂及び上記無機粒子としては、本開示の塗料組成物の成分として説明したものが例示できる。また、これらの好適な含有量も同じである。
【0072】
上記塗布膜において、上記無機粒子の含有量は、上記フッ素樹脂に対して1~40質量%であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
上記塗布膜は、プライマー塗布膜、ミドルコート塗布膜、トップコート塗布膜のいずれとするばあいであっても、単層の膜厚が1~100μmであることが好ましい。上記膜厚としては、10μm以上がより好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0073】
上記塗布膜は、本開示の塗料組成物の任意成分として例示した、新モース硬度が10未満の無機粒子、耐熱性樹脂、界面活性剤、添加剤を含むことができる。
【0074】
上記塗布膜に含まれる上記無機粒子の新モース硬度は、上記塗布膜を上記フッ素樹脂等の有機成分が焼失する温度以上に熱し、無機残渣について、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)やX線光電子分光分析法(XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)等の公知の分析手法により材質を特定することで、新モース硬度10以上の上記無機粒子に該当するかどうか判別することができる。
【0075】
上記塗布膜に含まれる新モース硬度が10以上の上記無機粒子の平均円形度は、上記塗布膜を上記フッ素樹脂等の有機成分が焼失する温度以上に熱し、無機残渣について、SEM-EDXを用い元素マッピングを行うことで、新モース硬度10以上の粒子に該当する部分を特定し、この画像中の粒子について、株式会社マウンテック製Mac-View等の画像解析プログラムを用いることにより測定できる。
【0076】
上記PTFE及び上記PTFE以外のフッ素樹脂の合計の質量に対する、上記塗布膜に含まれる上記PTFEの質量は、赤外分光スペクトルやTG-DTA等の公知の手法により算出できる。
【0077】
上記フッ素樹脂に対する、上記塗布膜に含まれる新モース硬度が10以上の上記無機粒子の含有量は、TG-DTAや元素分析、元素マッピングによる画像解析等の公知の手法を組み合わせることにより算出できる。
【0078】
上記塗布膜に含まれる無機粒子の平均粒径及び粒度分布は、塗布膜をフッ素樹脂等の有機成分が消失する温度以上に熱し、無機残渣について粒度測定することで、平均粒径と半値幅を測定する。
【0079】
さらに上記塗布膜を備えることを特徴とする積層体も本開示の一つである。
上記塗布膜に文字、図面等を印刷してもよい。上記印刷の方法としては特に限定されず、例えば、パット転写印刷が挙げられる。上記印刷に用いる印刷インキとしては特に限定されず、例えば、PESとTFEホモポリマーと酸化チタンとからなる組成物が挙げられる。
【0080】
上記積層体は、さらに基材を備えることが好ましい。上記塗布膜は、上記基材上に直接設けてもよいし、上記基材上に他の層を介して設けてもよい。また、上記塗布膜上に他の層を設けてもよい。
上記積層体は、2層以上の上記塗布膜を備えることも好ましい。上記塗布膜を2層以上設けることにより、耐磨耗性の更なる向上だけでなく、例えば表面平滑性の改善や、意匠性の向上、耐食性の向上等の効果を得ることができる。
【0081】
上記積層体は、塗布膜としてプライマー塗布膜、ミドルコート塗布膜、トップコート塗布膜を備えるものとし、そのうち、少なくとも一つの膜を本開示の塗料組成物によって形成したものとすることが好ましい。これらのうち、ミドルコート塗布膜が本開示の塗料組成物によって形成されたものであることが特に好ましい。
【0082】
本開示の塗料組成物によって上記プライマー塗布膜を形成する場合、上記プライマー層は、厚みが1~40μmであることが好ましく、5~35μmであることがより好ましい。厚みが薄過ぎると、プライマー表面のアンカー効果が期待できないのと、ピンホールが発生し易く、積層体の耐食性が低下するおそれがある。厚みが厚過ぎると、クラック或いは膨れ等の塗膜欠陥が生じ易くなり、積層体の耐摩耗性の低下、硬度の低下、耐食性が低下するおそれがある。上記プライマー層の厚みの更に好ましい上限は、30μmであり、特に好ましい上限は、25μmである。
【0083】
本開示の塗料組成物によって上記ミドルコート塗布膜を形成する場合、上記ミドルコート塗布膜は、厚みが1~40μmであることが好ましく、5~35μmであることがより好ましい。厚みが厚過ぎると、クラック或いは膨れ等の塗膜欠陥が生じ易くなり、積層体の耐摩耗性の低下、硬度の低下、耐食性が低下するおそれがある。上記ミドルコート塗布膜の厚みの更に好ましい上限は、30μmであり、特に好ましい上限は、25μmである。
【0084】
本開示の塗料組成物によって上記トップコート塗布膜を形成する場合、上記トップコート塗布膜は、厚みが1~40μmであることが好ましく、5~35μmであることがより好ましい。厚みが厚過ぎると、クラック或いは膨れ等の塗膜欠陥が生じ易くなり、積層体の耐摩耗性の低下、硬度の低下、耐食性が低下するおそれがある。上記トップコート塗布膜の厚みの更に好ましい上限は、30μmであり、特に好ましい上限は、25μmである。
【0085】
本開示においては、上述した(a)~(d)を満たす無機粒子を使用することで、塗膜の物性を維持しつつ、適度な表面粗度を維持できる点で好ましい。
【0086】
上記基材の材料としては特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属、ホーロー、ガラス、セラミック等の非金属無機材料等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。
【0087】
上記基材は、必要に応じ、脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行ったものであってもよい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、例えば、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。上記表面処理は、上記プライマー層を形成するためのプライマー用組成物をハジキを生じず均一に塗布することができる点、及び、基材とプライマー層との密着性が向上する点等から、基材やプライマー用組成物等の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、サンドブラストであることが好ましい。
【0088】
上記基材は、380℃で空焼きして油等の不純物を熱分解除去する脱脂処理を実施したものであってもよい。基材と塗布膜の密着性を向上させるため表面処理後にアルミナ研掃材を用いて粗面化処理を施したアルミニウム基材を使用することが好ましい。
【0089】
本開示の積層体が、プライマー塗布膜、ミドルコート塗布膜、トップコート塗布膜を備える塗布膜を形成する場合、少なくとも1の塗布膜が本開示の塗料組成物によって形成されたものである。本開示の塗料組成物を使用せずにこれらの塗布膜を形成する場合について、以下に説明する。
【0090】
上記プライマー塗布膜を本開示の塗料組成物以外の組成物によって形成する場合、耐熱性樹脂を含むものであることが好ましい。好ましい耐熱性樹脂は、上記塗料組成物が含む耐熱性樹脂と同様である。
【0091】
上記耐熱性樹脂の含有量としては、上記プライマー層の10~50質量%であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0092】
上記プライマー層は、更に、フッ素樹脂を含むことができるが、含まなくてもよい。上記フッ素樹脂としては、PTFE、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ポリフッ化ビニル〔PVF〕、TFE/PAVE共重合体〔PFA〕、TFE/HFP共重合体〔FEP〕、TFE/CTFE共重合体、TFE/VdF共重合体、TFE/3FH共重合体、Et/TFE共重合体〔ETFE〕、TFE/Pr共重合体、VdF/HFP共重合体、Et/CTFE共重合体〔ECTFE〕、Et/HFP共重合体等が挙げられる。上記プライマー層は、なかでも、PTFE、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0093】
上記フッ素樹脂の含有量としては、上記プライマー層の90~0質量%であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0094】
上記プライマー層は、更に、無機粒子を含むことができる。上記無機粒子としては、特に限定されず、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ケイ素、アルミニウム又はベリリウムの無機窒化物類、炭化物類、ホウ化物類及び酸化物類、並びに、ダイヤモンド、炭化ケイ素、酸化アルミニウム等を例示することができる。上記無機粒子の形状として、例えば、粒子状、フレーク状等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0095】
上記プライマー層は、上記フッ素樹脂、上記耐熱性樹脂、上記無機粒子以外に、添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、上記塗料組成物において例示した添加剤を用いることができる。
【0096】
上記プライマー層は、厚みが1~40μmであることが好ましく、5~35μmであることがより好ましい。厚みが薄過ぎると、プライマー表面のアンカー効果が期待できないのと、ピンホールが発生し易く、積層体の耐食性が低下するおそれがある。厚みが厚過ぎると、クラック或いは膨れ等の塗膜欠陥が生じ易くなり、積層体の耐摩耗性の低下、硬度の低下、耐食性が低下するおそれがある。上記プライマー層の厚みの更に好ましい上限は、30μmであり、特に好ましい上限は、25μmである。
【0097】
上記ミドルコート塗布膜を本開示の塗料組成物以外の組成物によって形成する場合、ミドルコート塗布膜は、フッ素樹脂を含むものであることが好ましい。好ましいフッ素樹脂は、上記プライマー塗布膜が含むフッ素樹脂と同様である。
【0098】
上記フッ素樹脂の含有量としては、上記ミドルコート塗布膜の全質量に対して、60~100質量%であることが好ましい。より好ましくは65~100質量%、更に好ましくは70~100質量%である。上記フッ素樹脂を上記範囲で使用することで、ミドルコート塗布膜と該ミドルコート塗布膜に隣接する上記塗布膜との密着性を向上することができる。
【0099】
上記ミドルコート塗布膜が上記フッ素樹脂と上記耐熱性樹脂とからなる場合、上記耐熱性樹脂が上記プライマー層中の耐熱性樹脂との親和性を有するので、プライマー層に対する密着性に優れている。
【0100】
上記ミドルコート塗布膜は、更に、無機粒子を含むことができる。上記無機粒子としては、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ケイ素、アルミニウム又はベリリウムの無機窒化物類、炭化物類、ホウ化物類及び酸化物類、並びに、ダイヤモンドからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、炭化ケイ素又は酸化アルミニウムが入手し易さとコスト面で更に好ましい。上記無機粒子の形状として、例えば、粒子状、フレーク状等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
上記無機粒子の含有量としては、上記中間層の0.1~30質量%であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。
上記ミドルコート塗布膜は、上記フッ素樹脂、上記耐熱性樹脂、上記無機粒子以外に、添加剤を含んでもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、上記塗料組成物において例示した添加剤を用いることができる。
【0101】
上記ミドルコート塗布膜は、厚みが5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることがより好ましい。
【0102】
上記トップコートは、上記フッ素樹脂を含有するものであることが好ましい。更に、上記フッ素樹脂と上記耐熱性樹脂からなるものであってもよい。トップコートにおいて使用する樹脂、添加剤等は、上述した中間層と同様のものとすることができる。
【0103】
上記プライマー塗布膜、ミドルコート塗布膜、トップコート塗布膜を備える塗布膜の形成方法は特に限定されず、各塗布膜を上述した方法で塗布した後、塗布膜を乾燥させ、その後、次の塗布膜を塗装し、3層の複層塗膜を形成した後、焼成を行うことで、焼結された複層膜とすることが好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、本開示を実施例に基づいて具体的に説明する。本開示は、実施例に限定されるものではない。
以下の実施例においては特に言及しない場合は、「部」「%」はそれぞれ「質量部」「質量%」を表す。
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0105】
(平均円形度の測定)
Sysmex社製FPIA-2100を用いて測定した値を粒子の平均円形度とした。
粒子1.5gにヘキサメタリン酸ナトリウム等の適切な溶媒30mlを混合したものを試料液とし、Sysmex社製フロー式粒子像分析装置FPIA-2100を用いて、
円形度=(4πS)1/2/L
(但し、π=円周率、S=投影図の面積、L=投影図の周囲長とする)
の式に基づき有効解析数約10000個の粒子について測定した数値を原料メーカーより入手し、粒子の平均円形度とした。
【0106】
また、粒子の電子顕微鏡写真(倍率100倍)中の任意の粒子50個について、株式会社マウンテック製画像解析プログラムMac-Viewを用いて
円形度=(4πS)1/2/L
(但し、π=円周率、S=投影図の面積、L=投影図の周囲長とする)
の式に基づき測定した平均円形度はFPIA-2100を用いて測定した値とほぼ同一であった。
【0107】
(膜厚の測定)
後述する積層塗膜の塗装時にダミーのアルミニウム板(A-1050P)にも同時に塗装し、ダミーのアルミニウム板上に形成された塗膜の膜厚をサンコウ電子製渦電流式膜厚計で測定し、各層の膜厚とした。
【0108】
(耐摩耗性)
スリーエム社製工業用パッド(商品名:スコッチ・ブライト7447C)を3cm平方にカットし、5%中性洗剤を2cc垂らし、荷重4.5kgで往復摺動させ、基材が露出するまでの往復回数により評価した。
【0109】
(非粘着性)
ホットケーキミックス150gに水130~150mlを加えて撹拌した試験液を円筒状型に15~20ml流し込み、180±5℃で7分間加熱する。加熱後、速やかに円筒状型を荷重計で垂直に引き密着力を測定し、円筒状型の底面積で除した値を剥離力とする。剥離力から非粘着性を10点満点として点数付けした。
【0110】
(表面粗度)
Taylor Hobson社製表面粗さ測定器サートロニック Duo IIを使用して、塗膜表面粗さRaを測定した。
【0111】
(本開示の塗料の調製)
フッ素樹脂を主成分とする水性塗料組成物に表1に示す所定の量の無機粒子を添加し、撹拌・混合し塗料組成物とした。なお、無機粒子は、市販されている球状の無機粒子について、篩別、粒径が異なる粉体の混合等の操作を行うことによって、表1に示される各半値幅を有するか、マルチピークである粒子分布を有するものに調整した。
なお、実施例1,7,24及び比較例4で使用した無機粒子の粒度分布の測定結果を
図1に示した。
【0112】
実施例1~26、比較例1~6
下記「プライマー塗料の調製」「中間層用塗料の調製」「トップコート用塗料の調製」として示した各成分を混合したのち、表1に示した塗料において表1に示す所定の種類と量の無機粒子を添加し、撹拌・混合し本開示の塗料組成物とした。
【0113】
なお、本開示の塗料組成物は、表1中に示した塗膜の形成に使用した。本開示の塗料組成物を使用しない層においては、それぞれ下記方法に従って調製した塗料組成物を使用して塗膜形成を行った。
【0114】
(プライマー塗料の調製)
フッ素樹脂水性分散体(固形分62%)32.0部
カーボンブラックミルベース(固形分20%)8.4部
PES水性分散液(固形分20%)24.3部
界面活性剤2.0部
増粘剤14.2部
水19.1部
【0115】
(中間層用塗料の調製)
フッ素樹脂水性分散体(固形分62%)65.7部
造膜剤11.4部
カーボンブラックミルベース(固形分20%)2.5部
界面活性剤5.6部
水14.8部
【0116】
(トップコート用塗料の調製)
フッ素樹脂水性分散体(固形分62%)66.7部
造膜剤12.4部
カーボンブラックミルベース(固形分20%)0.5部
光輝性充填剤0.8部
界面活性剤5.6部
水14.0部
【0117】
(試験板の作製)
アルミニウム板(A-1050P)の表面をアセトンで脱脂した後、JIS B 0601-2001に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.0~3.0μmとなるようにサンドブラストを行い、表面を粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、プライマーとして表1に記載の塗料を乾燥膜厚が10~15μmとなるように、重力式スプレーガンを用い、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装した。得られたアルミニウム板上の塗布膜を80~100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。次いで、中間層1の塗料として表1に記載の塗料を乾燥膜厚10~20μmの範囲となるように塗装した。得られたアルミニウム板上の塗布膜を80~100℃で15分間乾燥し、室温まで冷却した。得られた塗布膜上に、表1に記載の上塗り塗料を、焼成後の膜厚がそれぞれ表1に示す数値となるようにスプレー塗装し、塗り重ねた。
得られた塗装板を80~100℃で15分間乾燥後、380℃で20分間焼成し、試験用塗装板を得た。得られた試験用塗装板は、アルミニウム板上に表1に示すプライマー層、中間層1及びトップコートが形成された積層体であった。
結果を表1~3に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
なお、実施例1,7,24及び比較例4で使用した無機粒子の粒度分布の測定結果は
図1に示したようなものであった。
【0122】
ここで、実施例1の塗膜を3cm×3cmに切り取り、フッ素樹脂が焼失する600℃以上に熱し、残渣についてSEM-EDXを用い元素マッピングを行うと、炭化ケイ素に該当する部分が特定でき、この画像中の任意の炭化ケイ素粒子50個について、株式会社マウンテック製画像解析プログラムMac-Viewを用いて、
円形度=(4πS)1/2/L
(但し、π=円周率、S=投影図の面積、L=投影図の周囲長とする)
の式に基づき測定した平均円形度は0.98となり、塗料添加前に測定した値とほぼ同じ値が得られた。
【0123】
表1の結果から、本開示の塗料組成物によって、非密着性と耐摩耗性とが両立された塗膜を形成できたことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本開示の塗料組成物は、調理器具や機械・自動車などの工業用部品として好適に利用できる。上記調理器具は、例えば、フライパン、圧力鍋、鍋、グリル鍋、炊飯釜、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル、ホームベーカリー、電子レンジ内面、ジャーポット、電気ケトル、鯛焼き器、ワッフルメーカー、ホットサンドメーカー等であってよい。また、上記機械・自動車などの工業用部品は、例えば、自動車用エンジンピストン、スタビライザー、リードバルブシート、ワイヤー、軸受け等であってよい。