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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】チュービング装置の遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 7/20 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
E21B7/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020152572
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2022046925
(43)【公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩司
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-70469(JP,A)
【文献】特開2000-297586(JP,A)
【文献】特開2015-17453(JP,A)
【文献】特開2020-125683(JP,A)
【文献】特開2008-267034(JP,A)
【文献】特開2000-291363(JP,A)
【文献】特開平10-205263(JP,A)
【文献】米国特許第4202416(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを動力源として搭載した油圧ユニットに接続され、該油圧ユニットから圧油を得て把持したケーシングを回転させながら地中に押し込むチュービング装置と、前記油圧ユニットに設けられた制御部に対して無線通信により操作指令を与える遠隔操作装置とを備え、クレーンに吊り下げた掘削具により前記ケーシング内の土砂を排出する場所打ち杭工法に適用されるチュービング装置の遠隔操作システムにおいて、
前記遠隔操作装置は、前記クレーンの運転手の音声指示を入力する音声入力部と、前記チュービング装置の動作内容を操作情報として求める音声分析部と、該音声分析部で求められた前記操作情報を前記チュービング装置の動作を制御する制御信号に変換する信号変換部とを備えていることを特徴とするチュービング装置の遠隔操作システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記エンジンの回転数に基づいてエンジン動作情報を求め、前記遠隔操作装置との間で通信を確立した状態で、前記エンジン動作情報を出力可能に構成され、
前記遠隔操作装置は、前記通信により取得した前記エンジン動作情報を前記クレーンの運転席に表示する表示部を備えていることを特徴とする請求項1記載のチュービング装置の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記遠隔操作装置は、前記音声分析部で求められた前記操作情報を前記運転手に報知可能な操作確認部を備え、
前記操作確認部は、前記操作情報が前記エンジンを継続して動作させるための操作情報であるときは、該操作情報を前記運転手に報知するとともに、前記音声入力部に一定時間以上にわたって終了指示を示す音声指示の入力がないことを条件に、前記操作情報を前記信号変換部に対して出力し、前記操作情報が前記エンジンを停止させるための操作情報であるときは、該操作情報を前記運転手に報知することなく、前記操作情報を前記信号変換部に対して出力することを特徴とする請求項1又は2記載のチュービング装置の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チュービング装置の遠隔操作システムに関し、詳しくは、建築、土木の基礎工事で地中へのケーシングの圧入や引き抜きを行うチュービング装置の遠隔操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建築、土木等の基礎工事で行われる場所打ち杭工法は、例えば、土留め用のケーシングを回転させながら地盤に押し込み、内部の土砂を排出して形成した掘削孔に鉄筋を投入した後、この掘削孔にコンクリートを流し込むことによって杭が造成される。こうした場所打ち杭工法では、ケーシングの圧入及び引き抜きを行うため、高トルクの回転を発生させるチュービング装置が使用されている。また、チュービング装置の設置やケーシングの吊り込み、土砂の排出などの各種作業はクレーンによって行われることから、作業現場には、チュービング装置の運転やデッキ上で作業に従事する者の他に、クレーンの運転手も常駐していることが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-70469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、建設作業者の人手不足により、限られた人数でいかに作業をこなすかが課題となっている。特に、規模の大きい現場では、作業者を増員する必要があるだけでなく、作業者間の連携も増えることから、人的コストが高くなるというのが実情である。よって、徹底的な合理化を促進するためには、配置する作業者の人数を可能な限り少なくすることが望ましい。
【0005】
そこで本発明は、作業現場の省人化を図ることが可能なチュービング装置の遠隔操作システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のチュービング装置の遠隔操作システムは、エンジンを動力源として搭載した油圧ユニットに接続され、該油圧ユニットから圧油を得て把持したケーシングを回転させながら地中に押し込むチュービング装置と、前記油圧ユニットに設けられた制御部に対して無線通信により操作指令を与える遠隔操作装置とを備え、クレーンに吊り下げた掘削具により前記ケーシング内の土砂を排出する場所打ち杭工法に適用されるチュービング装置の遠隔操作システムにおいて、前記遠隔操作装置は、前記クレーンの運転手の音声指示を入力する音声入力部と、前記チュービング装置の動作内容を操作情報として求める音声分析部と、該音声分析部で求められた前記操作情報を前記チュービング装置の動作を制御する制御信号に変換する信号変換部とを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記制御部は、前記エンジンの回転数に基づいてエンジン動作情報を求め、前記遠隔操作装置との間で通信を確立した状態で、前記エンジン動作情報を出力可能に構成され、前記遠隔操作装置は、前記通信により取得した前記エンジン動作情報を前記クレーンの運転席に表示する表示部を備えていることを特徴としている。
【0008】
さらに、前記遠隔操作装置は、前記音声分析部で求められた前記操作情報を前記運転手に報知可能な操作確認部を備え、前記操作確認部は、前記操作情報が前記エンジンを継続して動作させるための操作情報であるときは、該操作情報を前記運転手に報知するとともに、前記音声入力部に一定時間以上にわたって終了指示を示す音声指示の入力がないことを条件に、前記操作情報を前記信号変換部に対して出力し、前記操作情報が前記エンジンを停止させるための操作情報であるときは、該操作情報を前記運転手に報知することなく、前記操作情報を前記信号変換部に対して出力することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチュービング装置の遠隔操作システムによれば、動力源である油圧ユニットに対して無線で操作指令を与える遠隔操作装置が、クレーンの運転手の音声指示を入力する音声入力部と、チュービング装置の動作内容を操作情報として求める音声分析部と、操作情報をチュービング装置の制御信号に変換する信号変換部とを備えているので、両手両足を使った操作が多いクレーンの運転手であっても、音声指示によってチュービング装置を操作することが可能となり、運転手一人でケーシングを回転させながら地盤に押し込む作業と、ケーシング内の土砂を排出する作業とを同時にあるいは交互に連続して行うことができる。すなわち、クレーンの運転手がチュービング装置の運転手をも兼任することができ、これにより、場所打ち杭工法の省人化・省力化に寄与するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一形態例を示すチュービング装置の遠隔操作システムにおけるチュービング装置及びクレーンの全体を示す側面図である。
図2】同じくチュービング装置の側面図である。
図3】同じく平面図である。
図4】遠隔操作システムの構成図である。
図5】音声コマンドに対応する動作を示す図である。
図6】遠隔操作システムの変形例を示す遠隔操作装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至図5は、本発明の遠隔操作システムを適用したチュービング装置の一形態例を示している。チュービング装置11は、図1乃至図3に示すように、クレーン12の吊り操作によって施工位置(掘削位置)に設置された後、付帯する油圧ユニット13から油圧供給を受けて動作するもので、地上に据え付けられるベースフレーム14と、該ベースフレーム14の上方に、4本のガイド筒15とその内部に収容された昇降シリンダ(図示せず)とからなる伸縮機構を介して昇降可能に設けられたドライブフレーム16と、該ドライブフレーム16の上方に4本のチャックシリンダ17を介して昇降可能に設けられたチャックフレーム18とを備えており、前記ベースフレーム14、ドライブフレーム16及びチャックフレーム18の中央部には、鉛直方向に貫通して同軸上に配置されたケーシング挿通孔19が設けられている。
【0012】
ドライブフレーム16には、油圧ユニット13からの中継ホース20が接続されるホース接続部21と、回転伝達機構である油圧モータ22及び減速機23と、前記ケーシング挿通孔19を囲むコーンベアリング24とが設けられている。コーンベアリング24は、ケーシング25を把持する複数のメインチャック26と対になってチャック機構を形成するもので、ドライブフレーム16に対して回転自在に組み付けられ、油圧モータ22の回転が減速機23を介して伝えられる。また、コーンベアリング24の内周部には、メインチャック26の楔形に当接可能なテーパ面が形成されている。
【0013】
メインチャック26は、チャックフレーム18において、ケーシング挿通孔19の周方向に等間隔で設けられている。具体的には、チャックフレーム18に対してリンク27やチャックベアリング28を介して吊り下げられており、チャックシリンダ17を伸縮させることよってメインチャック26が相対的に上下動する。これにより、ケーシング25とコーンベアリング24との間にメインチャック26が差し込まれ、あるいは、引き抜かれてケーシング25の把持と解放とが行われる。
【0014】
チャックフレーム18の上面には、ケーシング挿通孔19の内径に対応した内径を有する開口部29を備えた作業デッキ30が設けられ、チャックフレーム18の側面には、作業デッキ30に昇降するための梯子31が設けられている。また、作業デッキ30の外縁部に複数の手摺32を設置することで、デッキ上からの転落防止が図られている。
【0015】
前記油圧ユニット13は、防音構造を備えた直方体形状のケース33内に、チュービング装置11に所定圧力の作動油を供給する油圧ポンプや、該油圧ポンプを駆動するエンジン、図4にも示すように、複数の電磁切換弁からなるユニット作動部34、制御を司る制御部(CPU)35などの各種機器を収容したもので、例えば、クレーン12に対して、チュービング装置11を間に挟んで反対側の位置に、クレーン12の吊り操作によって設置されている。
【0016】
油圧ポンプからの圧油は、油圧モータ22や昇降シリンダ、チャックシリンダ17などの各種油圧アクチュエータに供給され、圧油の流れ方向は、ユニット作動部34の対応する電磁切換弁を切り換えて制御される。これにより、例えば、油圧モータ22の右回転・左回転、すなわち、ケーシング25の右回転・左回転を変えることが可能になる。電磁切換弁が切換位置から中立位置に切り換えられると、ケーシング25の回転は停止される。また、電磁切換弁におけるスプールの位置情報は制御部35に出力可能になっている。制御部35は、操作信号に基づいてユニット作動部34を制御するとともに、エンジン回転数を低速,中速,高速の3段階から1つを選択して油圧ポンプの吐出量を可変制御する。言い換えると、制御部35は、エンジン回転センサからの信号に基づき、現在のエンジン回転数を目標の回転数に一致させる制御を行い、油圧アクチュエータへの圧油の供給量を調節することで、ケーシング25の回転速度や押込み速度・引抜き速度などを可変させる。
【0017】
このように形成したチュービング装置11を使用して施工を行う場合、基本的には、ケーシング25のチャック、回転圧入、掴み替えなどの各種操作を順に行うだけであり、例えば、クレーンの玉掛け作業のような、クレーン運転手と作業者との連携や吊荷の移動などといった複雑な操作が要求されるものではない。こうした観点から、チュービング装置11の操作は、専任の運転手を置く代わりに、クレーン12の運転手が運転席にいながら操作指令を与えることが可能な遠隔操作装置(チュービング装置操作ラジコン)36を中心に構成した遠隔操作システムにおいて実行される。
【0018】
前記遠隔操作システムを構成するクレーン12は、不特定の場所に移動可能な移動式クレーンであって、履帯走行する下部走行体37上に、運転手が搭乗する運転室38aが設置された上部旋回体38を備え、上部旋回体38の前部には、上部ブーム39aと中間ブーム39bと下部ブーム39cとを一体に連結したブーム(ラチスブーム)39が起伏可能に設けられている(図1)。上部ブーム39aの先端にはシーブ40が設けられ、上部旋回体38に搭載したウインチ装置(図示せず)からのロープが前記シーブ40に巻掛けられるとともに、掘削具であるハンマーグラブ41や該ハンマーグラブ41の爪を開放させるためのハンマークラウン42、多数巻にしたクレーンフック43が吊持されている。
【0019】
運転室38a内には、図示は省略するが、複数のウインチや走行、旋回などの操作を行うための複数の操作レバーや操作ペダル、押しボタンスイッチやディスプレイなどの機器が、操作性を考慮して運転席の近傍に集約的に配置されており、前記遠隔操作装置36は、付属のLED表示灯からなる表示部(図示せず)と共に運転席の壁に取り付けられている。
【0020】
遠隔操作装置36は、図4に示すように、アンテナ及び送受信回路を内蔵した一対の無線通信部(通信モジュール)44,45により、主に油圧ユニット13の制御部35に対して操作指令を与えるもので、音声指示を入力する音声入力部46を有し、該音声入力部46に音声分析部47、信号変換部48及び無線通信部44が順次接続されている。また、対をなす他方の無線通信部45は、油圧ユニット13に用意した接続端子(電気コネクタ)を介して制御部35に接続されている。音声入力部46は、運転席に着座した状態の運転手の音声指示を入力するもので、マイクロフォンなどから構成されている。
【0021】
音声分析部47は、音声入力部46に入力された音声指示を分析することにより、チュービング装置11の動作内容を操作情報として求めるものである。具体的には、音声分析部47は、チュービング装置11の動作と、油圧ユニット13のエンジン動作とを操作指令として運転手の音声指示から抽出する。このとき、音声分析部47は、音声入力部46に入力された音声指示に基づいて音声情報格納部(図示せず)を検索することにより操作情報を抽出する。ここで、チュービング装置11の動作は、一例として、図5に示すように、ケーシング25の「右回転」,「左回転」及び「回転停止」、チャックの「閉じ」及び「開き」、エンジン回転数の「低速」,「中速」,「高速」及び「エンジン停止」などが挙げられる。音声情報格納部には、これらの操作を示す複数の音声情報が格納されている。
【0022】
信号変換部48は、音声分析部47で求められた操作情報をチュービング装置11の動作を制御する制御信号に変換して無線通信部44に出力する。無線通信部44は、信号変換部48で変換された制御信号に基づいて変調した送信信号を生成し、アンテナを介して送信信号を無線送信する。一方、油圧ユニット13側の無線通信部45は、送信信号を受信し、該送信信号を復調して得られるチュービング装置11の制御信号を制御部35に出力する。こうした遠隔操作装置36に内蔵される音声分析部47及び信号変換部48は、制御回路(CPU)が実行するアプリケーションにより機能する。
【0023】
また、制御回路は、電源投入時にアプリケーションを起動させた後、無線通信部44,45間の接続処理を行って通信を確立する。このとき、油圧ユニット13の制御部35は、エンジン回転センサで取得したエンジン回転数に基づいてエンジン動作情報を求め、該エンジン動作情報を制御信号に変換して無線通信部45に出力する。無線通信部45は、制御信号に基づいて変調した送信信号を生成し、アンテナを介して送信信号を無線送信する。一方、遠隔操作装置36側の無線通信部44は、送信信号を受信し、該送信信号を復調して得られる制御信号を制御回路に出力する。制御回路は、入力された制御信号に基づいてエンジン動作情報に対応したLED表示灯を点灯又は消灯させる。すなわち、遠隔操作装置36は、取得したエンジン動作情報、例えば、エンジンの「運転」及び「停止」、エンジン回転数の「低速」,「中速」,「高速」などの動作情報を運転席の表示部に表示させる。
【0024】
以下では、チュービング装置11の遠隔操作システムを場所打ち杭工法に適用した場合の制御手順(フロー)について説明する。まず、クレーン12の吊り操作により設置されたチュービング装置11と油圧ユニット13とを中継ホース20で接続し、チュービング装置11の操作を可能な状態とする。ここで、図示は省略するが、チュービング装置11の押込みに対する反力受けとして、ビーム状の回転反力取り部材がベースフレーム14に連結される。これにより、チュービング装置11を作動させると、ケーシング25の回転反力がベースフレーム14に作用するが、この回転反力は回転反力取り部材を介してクレーン12の下部走行体37によって受けられる。
【0025】
油圧ユニット13のエンジンを始動した後、クレーン12の運転席から遠隔操作装置36の電源を投入すると、制御回路は、アプリケーションの起動実行後に、無線通信部44,45間の通信を確立し、油圧ユニット13の制御部35に対して操作指令を与えることが可能になる。遠隔操作装置36は、通信により取得したエンジン動作情報、つまり、エンジン回転数が低速である情報に基づいて、表示部にエンジンが「低速」で運転している状態を表示させる。
【0026】
一方、油圧ユニット13は、非操作時においてユニット作動部34の電磁切換弁が中立位置に保持され、低速回転で駆動される油圧ポンプの吐出油は、無負荷運転状態(アンロード状態)で作動油タンクに戻される。
【0027】
ケーシング25の吊り込み作業は、ハンマーグラブ41を吊り治具(図示せず)に交換して行われる。具体的には、吊り治具を使用してケーシング25を吊持した状態とし、クレーン12の旋回操作によりチュービング装置11の真上に移動させた後、巻下げ操作によりケーシング25をケーシング挿通孔19に挿入する。ここで、運転手は、クレーン12の巻下げ操作を行うと同時に、ドライブフレーム16を上昇させるために、遠隔操作装置36の音声入力部46に対して、「上昇」と音声指示を行う。これにより、遠隔操作装置36に運転手の音声指示が入力される。
【0028】
音声入力部46は音声指示を音声分析部47に出力し、音声分析部47により音声指示の分析が行われる。具体的には、音声分析部47は、音声指示に基づいて音声情報格納部を検索し、運転手の音声指示と音声情報格納部の複数の音声情報とを比較するとともに、音声指示に対応する動作を操作情報として抽出する。これにより、操作情報として、チュービング装置11の動作が「上昇」であることが得られる。
【0029】
音声分析部47において求められた操作情報は、信号変換部48に出力される。そして、信号変換部48は音声指示の操作情報をチュービング装置11の動作を制御する制御信号に変換し、該制御信号が無線通信部44を介して送信される。無線通信部44から送信された制御信号は、油圧ユニット13の無線通信部45に受信される。そして、制御信号が入力された制御部35は、ユニット作動部34に対して制御信号を出力し、昇降シリンダに対応する電磁切換弁を伸長側に切り換えるとともに、圧油を昇降シリンダに供給して伸長させ、ドライブフレーム16を上昇位置に移動させる。
【0030】
ケーシング25を圧入する場合には、上述のように、遠隔操作装置36の音声入力部46に対して必要な音声指示を行う。まず、チャックシリンダ17の収縮動作によってチャックフレーム18を下降させ、チャック機構を介してドライブフレーム16との間でケーシング25をチャックする。この場合、運転手は、音声入力部46に対して、「閉じ」と音声指示を行う。続いて、油圧モータ22を駆動しながら、昇降シリンダを収縮させてチャックフレーム18とドライブフレーム16とをケーシング25と一緒に下降させる。この場合、運転手は、音声入力部46に対して、「右回転」、「押込み」と順に音声指示を行う。このとき、回転伝達機構から高トルクの回転がケーシング25に伝達されるため、ケーシング25は回転しながら地盤に対して圧入される。また、作業効率化のため、地盤の状態に合わせてケーシング25の回転速度や押込み速度が調節される。この場合、運転手は、音声入力部46に対して、「エンジン低速」,「エンジン中速」,「エンジン高速」のうちから1つを選択して音声指示を行う。
【0031】
ドライブフレーム16が下降位置に移動したときに、運転手は、音声入力部46に対して、「押込停止」、「回転停止」、と順に音声指示を行い、チュービング装置11の動作を停止させる。続いて、ケーシング25の上部側をチャックさせる掴み替えを行う。この場合、運転手は、音声入力部46に対して、「開き」、「上昇」、「上昇停止」、「閉じ」と、ドライブフレーム16の動作状態を確認しながら順に音声指示を行う。そして、ケーシング25を回転させながら地盤に押し込む作業(チュービング作業)と、吊り下げたハンマーグラブ41によりケーシング25内の土砂を排出する作業(クレーン作業)とを、ケーシング25を継ぎ足しながら同時にあるいは交互に連続して行うことにより、所定深さの掘削孔が形成される。その後、掘削孔に鉄筋を投入し、この掘削孔にコンクリートを注入した後、ケーシング25を引き抜くことによって杭が造成される。
【0032】
ケーシング25を引き抜く場合、その作業はクレーン作業と協調して行われる。具体的には、ケーシング25に吊り治具を取り付けるとともに、チャック機構によってケーシング25を把持した状態とし、昇降シリンダを伸長させてチャックフレーム18とドライブフレーム16とをケーシング25と一緒に上昇させながら、クレーン12の巻上げ操作を行う。これにより、吊り治具を取り付けた状態のケーシング25が引き上げられる際に、ロープが過度に弛むことはない。そして、引き上げられたケーシング25同士の連結を解除すると、上側のケーシング25はこのままクレーン12で吊り上げられ、所定の場所に置かれる。ここで、メインチャック26の解放時にはケーシング25が自重で沈下してしまうことから、ベースフレーム14には、ケーシング25の沈下を防止するサブチャック機構が設けられている。
【0033】
サブチャック機構は、図示は省略するが、ケーシング挿通孔19の内周壁に沿って設けられたサブチャックを有している。サブチャックは、3枚の弓形に曲げられた帯板状のサブチャック部材を連結ピンによって連結してC形状に形成したもので、開放側に設けられたサブチャックシリンダが、チャックシリンダ17の伸縮動作に連動して伸縮すると、サブチャックによる円が拡径あるいは縮径し、ケーシング25の解放と把持とが行われる。この場合、運転手は、音声入力部46に対して、「開き」、「下降」、「下降停止」、「閉じ」、「引抜き」、「引抜停止」と、ドライブフレーム16の動作状態を確認しながら順に音声指示を行い、これを繰り返す。こうして、ケーシング25をメインチャック26とサブチャックとで掴み換えながら地中から引き抜くことでケーシング25の沈下が防止される。全てのケーシング25が引き抜かれた状態で作業完了となり、チュービング装置11は、クレーン12の吊り操作によって次の施工位置へと移動される。
【0034】
ここで、油圧ユニット13は、無負荷運転状態にあることから、必要に応じてエンジンが停止される。この場合、運転手は、遠隔操作装置36の音声入力部46に対して、「エンジン停止」と音声指示を行う。チュービング作業を再開する場合には、運転手は周囲の安全確認を行った上で、油圧ユニット13の始動スイッチを操作してエンジンを始動する。
【0035】
このように、本発明のチュービング装置11の遠隔操作システムによれば、動力源である油圧ユニット13に対して無線で操作指令を与える遠隔操作装置36が、クレーン12の運転手の音声指示を入力する音声入力部46と、チュービング装置11の動作内容を操作情報として求める音声分析部47と、操作情報をチュービング装置11の制御信号に変換する信号変換部48とを備えているので、両手両足を使った操作が多いクレーン12の運転手であっても、音声指示によってチュービング装置11を操作することが可能となり、運転手一人でケーシング25を回転させながら地盤に押し込む作業と、ケーシング25内の土砂を排出する作業とを同時にあるいは交互に連続して行うことができる。すなわち、クレーン12の運転手がチュービング装置11の運転手をも兼任することができ、これにより、場所打ち杭工法の省人化・省力化に寄与するものとなる。
【0036】
また、遠隔操作装置36が、油圧ユニット13との間で通信によりエンジン動作情報を取得するとともに、取得したエンジン動作情報をクレーン12の運転席に表示する表示部を備えているので、クレーン12の運転手が運転室38aにいながら油圧ユニット13の状態、つまりエンジンの運転状態や停止状態、エンジン回転数などを知ることができる。また、クレーン12の操作中であっても、油圧ユニット13の状態が容易にわかり、チュービング装置11の次の操作が明確になるため、操作上のミスが減少するという利点もある。
【0037】
図6は、本発明の遠隔操作システムを適用したチュービング装置の変形例を示している。なお、以下の説明において、前記形態例に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0038】
本変形例では、前記形態例の遠隔操作装置36の構成をそのまま有しており、音声分析部47と信号変換部48との間に操作確認部49を新たに配置したものである。操作確認部49は、音声分析部47で求められた操作情報を運転手に対して報知可能に構成されている。前記形態例と同様に、音声分析部47において「右回転」との操作情報が得られると、操作確認部49は、内蔵するスピーカにより音声を出力し、例えば、「ケーシングを右回転させます」と運転手に対して報知する。運転手は、その出力内容が音声指示と異なると判断した場合には、音声入力部46に対して終了指示を示す「やめ」と音声指示を入力する。これにより、操作情報は信号変換部48に出力されず、音声指示によるチュービング装置11の操作は強制的に中止される。一方、運転手が操作確認部49からの出力内容が音声指示と同じであると判断した場合にはそのまま待機する。音声入力部46に一定時間以上にわたって「やめ」(終了指示)の入力がない場合には、これを条件に、操作情報が信号変換部48に出力されて、油圧ユニット13の制御部35に対して操作指令が与えられる。
【0039】
こうして、チュービング装置11を使用した施工において、操作確認部49は、操作情報が油圧ユニット13のエンジンを継続して動作させるための操作情報であるとき、すなわち、エンジン回転数を設定したり、設定したエンジン回転数に基づいて油圧モータ22や昇降シリンダなどを制御したりするときは、一旦、操作情報を運転手に報知し、運転手にその出力内容が正しいか否かの確認を委ねる。
【0040】
ところで、安全状態の確保を目的として、動作中のチュービング装置11を直ちに停止させたい場合がある。こうした緊急時において、操作確認部49は、操作情報がエンジンを停止させるための操作情報であるときは、該操作情報を運転手に報知することなく、操作情報を信号変換部に対して出力する。
【0041】
こうした非常停止操作を行うために、運転手は、音声入力部46に対して、「エンジン停止」と音声指示を行う。このとき、遠隔操作装置36の制御回路は、通信により取得したエンジン動作情報とユニット作動部34の動作情報とに基づいて、つまり、エンジン回転数が所定値に達しており、かつ、電磁切換弁が切換位置(操作信号が入力されている状態)にあるときに、操作確認部49により操作情報を運転手に報知することなく、操作情報を信号変換部48に出力する制御を行い、油圧ユニット13の制御部35に対して操作指令を与える。そして、制御部35では、エンジン制御回路に停止信号を出力し、エンジンの運転が即時停止される。
【0042】
こうして、油圧の供給が絶たれた油圧モータ22や昇降シリンダなどはその動作を停止させ、油圧回路の安全装置がはたらいて、ケーシング25の回転駆動や昇降動作などが全てロックされる。このとき、遠隔操作装置36は、通信により取得したエンジン動作情報、つまり、エンジン回転数がゼロである情報に基づいて、運転席の表示部に表示されたエンジンの状態を「運転」から「停止」に変更する。
【0043】
このように構成された本変形例においても、遠隔操作装置36によってクレーン12の運転手がチュービング装置11の運転手をも兼任することができ、さらに、本変形例の場合には、操作確認部49を有して構成することにより、操作確認部49が操作情報を運転手に報知するとともに、音声入力部46に一定時間以上にわたって終了指示の入力がないことを条件にチュービング装置11を動作させるので、運転手に対して、操作意思に反する動作(誤動作)を中止させるための機会を与えることが可能となり、チュービング装置11を安全に音声操作することができる。
【0044】
一方、操作情報が動作中のチュービング装置11を停止させるための操作情報、すなわち、エンジン(動力源)を停止させるための操作情報であるときは、その緊急性に鑑み、操作情報を運転手に報知して確認を委ねることなく、操作情報を信号変換部に対して出力するので、エンジンの迅速な停止を図ることができる。また、表示部にエンジンが「停止」している状態を表示させるので、油圧ユニット13の状態(停止中)が容易にわかり、もって運転手自身に適切な安全確認を促すことができる。
【0045】
なお、本発明のチュービング装置の遠隔操作システムは、前記形態例に限定されるものではなく、遠隔操作装置は、運転席に取り付ける設置型の他に、クレーン運転手が身に付ける携帯端末、マイクを備えたヘッドフォンなど、両手が自由になる身体(頭部)装着型のものが挙げられる。また、音声情報格納部には、音声情報と同じ意味で一般的に使用される周辺音声も格納しておくことが好ましい。例えば、「右回転」に対して「右」、「エンジン停止」に対して「エンジンストップ」などを周辺音声として格納することができる。これにより、想定する運転手の特性や嗜好を考慮することが可能となり、円滑な音声操作に資するものとなる。
【符号の説明】
【0046】
11…チュービング装置、12…クレーン、13…油圧ユニット、14…ベースフレーム、15…ガイド筒、16…ドライブフレーム、17…チャックシリンダ、18…チャックフレーム、19…ケーシング挿通孔、20…中継ホース、21…ホース接続部、22…油圧モータ、23…減速機、24…コーンベアリング、25…ケーシング、26…メインチャック、27…リンク、28…チャックベアリング、29…開口部、30…作業デッキ、31…梯子、32…手摺、33…ケース、34…ユニット作動部、35…制御部、36…遠隔操作装置、37…下部走行体、38…上部旋回体、38a…運転室、39…ブーム、39a…上部ブーム、39b…中間ブーム、39c…下部ブーム、40…シーブ、41…ハンマーグラブ、42…ハンマークラウン、43…クレーンフック、44,45……無線通信部、46…音声入力部、47…音声分析部、48…信号変換部、49…操作確認部
図1
図2
図3
図4
図5
図6