(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/18 20060101AFI20240229BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240229BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240229BHJP
【FI】
H02P25/18
H02P27/06
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2020158758
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山口 美帆
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 晴美
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 貴司
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-219956(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163363(WO,A1)
【文献】特開2016-181949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ(30,40)と、
前記インバータを介して電源(20)に接続される複数相のコイル(51~53)、及び前記コイルへの通電により回転駆動されるロータ(57)を有する回転電機(50)と、
前記各コイルの接続状態を、第1状態(Ys,S1)、及び前記第1状態よりもインダクタンスが低い第2状態(Hs,S2)のいずれかに切り替える切替制御部(65)と、
前記コイルに発生する逆起電圧値を取得する取得部(62)と、
前記取得部により取得された前記逆起電圧値が閾値よりも大きいか否かを判定する判定部(63)と、を備え、
前記切替制御部は、前記各コイルの接続状態が前記第1状態とされている場合において、前記判定部により前記逆起電圧値が前記閾値よりも大きいと判定されたことを条件に、前記各コイルの接続状態を前記第2状態に切り替える、電力変換装置。
【請求項2】
前記コイルにd軸電流を流すことにより、前記ロータの界磁磁束を弱める弱め界磁制御を行う駆動制御部(60)を備え、
前記取得部は、前記弱め界磁制御の実行中において、前記弱め界磁制御が実行されない場合に想定される前記逆起電圧値を推定により取得する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記切替制御部は、前記各コイルの接続状態が前記第1状態とされている場合において、前記判定部により前記逆起電圧値が前記閾値よりも小さいと判定されたときには、前記インバータ及び前記回転電機における効率が前記第1状態よりも前記第2状態の方が良いか否かを判定し、前記第2状態の方が良いと判定した場合に前記各コイルの接続状態を前記第2状態に切り替える、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記インバータは、第1インバータ(30)及び第2インバータ(40)であり、
前記各コイルの一端(51a~53a)は、前記第1インバータを構成する第1上スイッチ(31~33)を介して前記電源の正極端子に接続されるとともに、前記第1インバータを構成する第1下スイッチ(34~36)を介して前記電源の負極端子に接続され、
前記各コイルの他端(51b~53b)は、前記第2インバータを構成する第2上スイッチ(41~43)の低電位用端子と、前記第2インバータを構成する第2下スイッチ(44~46)の高電位用端子とに接続され、
前記各第1上スイッチの高電位用端子と前記各第2上スイッチの高電位用端子とを接続する上接続配線(22)と、
前記各第1上スイッチの低電位用端子と前記各第2上スイッチの低電位用端子とを接続する下接続配線(25)と、
前記上接続配線及び前記下接続配線のいずれかに設けられる切替スイッチ(23)と、を備え、
前記切替制御部は、前記切替スイッチをOFFに固定するとともに、前記各第2上スイッチ及び前記各第2下スイッチのうち、前記切替スイッチが接続されている方の各スイッチをONに固定することにより、前記各コイルの接続状態を前記第1状態にし、前記切替スイッチをONに固定することにより、前記第2状態にする、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電源と、前記電源に電気的に接続される電気機器と、を備えるシステムに適用される電力変換装置において、
前記閾値は、前記電気機器の耐圧よりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記ロータは、ロータ磁石(58)を有し、
前記取得部は、前記ロータ磁石の温度に基づいて前記逆起電圧を取得する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記取得部は、前記インバータの変調率に基づいて前記逆起電圧を取得する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記取得部は、前記回転電機の抵抗値と電流値とから前記逆起電圧値を取得する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の中には、インバータと回転電機とを有するものがある。回転電機は、電源にインバータを介して接続される3相のコイルと、3相コイルへの通電により駆動されるロータとを有する。このような技術を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータの回転時には、回転電機から電源側に逆起電圧が印加される。その逆起電圧は、ロータの回転速度が速くなるほど大きくなるため、ロータの高速回転時においては、逆起電圧が大きくなってしまう。しかしながら、電力変換装置は、電源の電圧が逆起電圧よりも大きい場合にしか力行を行うことができない。そのため、一般的には、電力変換装置は、高速回転時等においては、コイルにd軸電流を流すことによりロータの界磁磁束を弱める弱め界磁制御を行うことにより、逆起電圧を電源の電圧未満に抑える。
【0005】
しかしながら、弱め界磁制御を行うと、コイルに流す電流量が大きくなり、回転電機の力行を効率的に行うことができなくなってしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、逆起電圧が高くなる状況下において逆起電圧を抑えることができる電力変換装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電力変換装置は、インバータと回転電機と切替制御部と取得部と判定部とを備える。前記回転電機は、前記インバータを介して電源に接続される複数相のコイル、及び前記コイルへの通電により回転駆動されるロータを有する。
【0008】
前記切替制御部は、前記各コイルの接続状態を、第1状態、及び前記第1状態よりもインダクタンスが低い第2状態のいずれかに切り替える。前記取得部は、前記コイルに発生する逆起電圧値を取得する。前記判定部は、前記取得部により取得された前記逆起電圧値が閾値よりも大きいか否かを判定する。
【0009】
前記切替制御部は、前記各コイルの接続状態が前記第1状態とされている場合において、前記判定部により前記逆起電圧値が前記閾値よりも大きいと判定されたことを条件に、前記各コイルの接続状態を前記第2状態に切り替える。
【0010】
本発明によれば、第1状態よりも第2状態の方がインダクタンスが低いので、第1状態よりも第2状態の方が、逆起電圧が抑えられる。その点、本発明では、各コイルの接続状態が第1状態とされている場合において、逆起電圧値が閾値よりも大きいと判定されたことを条件に、各コイルの接続状態を第2状態に切り替える。そのため、逆起電圧が高くなる状況下において、逆起電圧を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】電力変換装置における切替制御を示すフローチャート
【
図7】回転電機の第1結線状態と第2結線状態とを示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電力変換装置91及びその周辺を示す回路図である。電力変換装置91は、例えば電気自動車やハイブリッド車両等の車両に適用され、図示しない駆動輪を駆動する力行を行ったり、逆にその駆動輪の回転力により発電する回生を行ったりする。
【0014】
車両には、電力変換装置91の他に、電源としてのバッテリ10と電気機器11,14とが搭載されている。バッテリ10は、SMR21(システムメインリレー)を介して、電力変換装置91と電気機器11,14とに電気的に接続されている。なお、以下では、電気的に接続されることを、単に「接続」されるという。SMR21は、例えば、車両の電源スイッチをONにするとONになり、車両の電源スイッチをOFFにするとOFFになる。
【0015】
電力変換装置91は、回転電機50と、回転電機50を駆動する第1インバータ30及び第2インバータ40と、第1インバータ30及び第2インバータ40を制御する制御装置60とを有する。
【0016】
回転電機50は、ステータとロータ57とを備えている。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻回されたU~V相の各コイル51~53とを有する。ロータ57は、ロータ磁石58を有する。本実施形態のロータ磁石58は、高トルク化を図るために、高磁束密度を有するものである。具体的には、例えば、ロータ磁石58は、特開2019-106866号公報に記載されているように、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ、残留磁束密度が1.0[T]以上のものであり、ロータ磁石58を有する回転電機50は、スロットレス構造のものである。
【0017】
第1インバータ30は、U~W相の各コイル51~53の第1端51a~53aに接続される3相インバータであり、U~W相の各第1上スイッチ31~33と、U~W相の各第1下スイッチ34~36とを有する。
【0018】
具体的には、U相コイル51の第1端51aには、U相第1上スイッチ31の低電位用端子と、U相第1下スイッチ34の高電位用端子とが接続されている。V相コイル52の第1端52aには、V相第1上スイッチ32の低電位用端子と、V相第1下スイッチ35の高電位用端子とが接続されている。W相コイル53の第1端53aには、W相第1上スイッチ33の低電位用端子と、W相第1下スイッチ36の高電位用端子とが接続されている。
【0019】
すなわち、各相のコイル51~53の第1端51a~53aには、自身に対応する第1上スイッチ31~33の低電位用端子と、自身に対応する第1下スイッチ34~36の高電位用端子とが接続されている。
【0020】
各第1上スイッチ31~33及び各第1下スイッチ34~36は、半導体スイッチであり、具体的には、Nチャンネル型のIGBTである。各第1上スイッチ31~33及び各第1下スイッチ34~36は、コレクタが高電位用端子を構成し、エミッタが低電位用端子を構成し、ゲートが制御用端子を構成している。ゲートには、制御装置60が接続されており、ゲート電位がエミッタ電位よりも閾値電圧以上高くなるとONになる。
【0021】
各第1上スイッチ31~33及び各第1下スイッチ34~36に対しては、フリーホイールダイオードDが逆並列接続されている。つまり、各フリーホイールダイオードDのアノードは、自身に対応するスイッチの低電位用端子に接続され、各フリーホイールダイオードDのカソードは、自身に対応するスイッチの高電位用端子に接続されている。
【0022】
第2インバータ40は、U~W相の各コイル51~53の第2端51b~53bに接続される3相インバータであり、U~W相の各第2上スイッチ41~43と、U~W相の各第2下スイッチ44~46とを有する。第2インバータ40についての説明は、上述した第1インバータ30の説明において「第1」を「第2」に読み替えると共に、符号を該当するものに読み変えたものと、同様である。
【0023】
各第1上スイッチ31~33の高電位用端子は、SMR21を介してバッテリ10の正極端子に接続されている。各第1下スイッチ34~36の低電位用端子は、バッテリ10の負極端子に接続されている。
【0024】
各第2上スイッチ41~43の高電位用端子は、切替スイッチ23を有する上接続配線22を介して、各第1上スイッチ31~33の高電位用端子に接続されている。それにより、各第2上スイッチ41~43の高電位用端子は、切替スイッチ23及びSMR21を介してバッテリ10の正極端子に接続されている。
【0025】
各第2下スイッチ44~46の低電位用端子は、下接続配線25を介して、各第1下スイッチ34~36の低電位用端子に接続されている。それにより、各第2下スイッチ44~46の低電位用端子は、バッテリ10の負極端子に接続されている。
【0026】
切替スイッチ23は、半導体スイッチであり、具体的には、Nチャンネル型のIGBTである。切替スイッチ23は、コレクタがSMR21を介してバッテリ10の正極端子に接続され、エミッタが各第2上スイッチ41~43の高電位用端子に接続され、ゲートが制御装置60に接続されている。切替スイッチ23は、ゲート電位がエミッタ電位よりも閾値電圧以上高くなるとONになる。
【0027】
切替スイッチ23に対しては、フリーホイールダイオードdが逆並列接続されている。つまり、各フリーホイールダイオードdのアノードは、切替スイッチ23のエミッタに接続され、各フリーホイールダイオードdのカソードは、切替スイッチ23のコレクタに接続されている。
【0028】
各第1上スイッチ31~33の高電位用端子と、各第1下スイッチ34~36の低電位用端子とは、平滑コンデンサ14を介して接続されている。平滑コンデンサ14は、電気機器11,14のうちの1つを構成している。電力変換装置91は、U~W相の各コイル51~53の電流値を検出する電流検出部59を備えている。
【0029】
制御装置60は、マイコンを主体として構成されている。制御装置60は、回転電機50のトルク指令値や、電流検出部59により検出された電流値等に基づいて、各インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46のゲート電位を制御することにより、各スイッチ31~36,41~46のON/OFFを制御する。その制御により、各コイル51~53に、ロータ57を回転させるための三相交流電流を流す。
【0030】
制御装置60は、ロータ57の高速回転時等における所定の条件下では、コイル51~53にd軸電流を流すことにより、ロータ57の界磁磁束を弱める弱め界磁制御を行う。その弱め界磁制御により、コイル51~53からバッテリ10側に印加される逆起電圧を抑えて、ロータ57の高速回転を可能にする。なお、ここでの逆起電圧は、コイル51~53からインバータ30,40を介して、各第1上スイッチ31~33の高電位用端子に接続されている配線と、各第1下スイッチ34~36の低電位用端子に接続されている配線との間に出力される線間電圧である。
【0031】
制御装置60は、U~W相の各コイル51~53の接続状態を、
図2に示すY結線状態Ysと、
図4に示すH結線状態Hsとに切り替える。以下に、そのY結線状態YsとH結線状態Hsとについて説明する。
【0032】
図2は、電力変換装置91のY結線状態Ysを示す回路図である。なお、
図2では、ON/OFFの視認性のため、切替スイッチ23と、第2インバータ40の上下の各スイッチ41~46とを、便宜的に機械式スイッチの記号で示している。
【0033】
Y結線状態Ysでは、切替スイッチ23をOFFに固定すると共に、各第2上スイッチ41~43をONに固定し、且つ各第2下スイッチ44~46をOFFに固定する。それにより、各コイル51~53の第2端51b~53bどうしが互いに接続される。それにより、各コイル51~53の第2端51b~53bと、第2インバータ40の上アーム側とが中性点化される。
【0034】
図3は、
図2に示すY結線状態Ysの等価回路を示している。このようにY結線状態Ysでは、Y結線された3相のコイル51~53を有する回路と等価になる。その状態において、制御装置60が、ロータ57の回転に伴い、第1インバータ30の上下の各スイッチ31~36を、ON及びOFFのいずれかに適宜切り替える。
【0035】
このY結線状態Ysでは、基本的には、3相のうちのいずれか1相又は2相のコイルから中性点(51e~53e,40)に電流が流入し、中性点から電流が残りの2相又は1相のコイルを通過して流出する。そのため、1相のコイルから中性点に電流が流入し、残りの2相のコイルから電流が流出する時には、当該1相のコイルが、残りの2相の各コイルと直列に接続される。他方、2相のコイルから中性点に電流が流入し、残りの1相のコイルから電流が流出する時には、当該2相の各コイルが、残りの1相のコイルと直列に接続される。そのため、常に所定のコイルが他のコイルと直列に接続される。そのため、U~W相の各コイル51~53が並列に接続される場合に比べて、インダクタンスが高くなる。なお、ここでのインダクタンスは、U~W相の各コイル51~53の合成インダクタンスである。
【0036】
図4は、電力変換装置91のH結線状態Hsを示す回路図である。なお、この
図4では、ON/OFFの視認性のため、切替スイッチ23を、便宜的に機械式スイッチの記号で示している。
【0037】
H結線状態Hsでは、切替スイッチ23をONに固定する。その状態において、制御装置60が、ロータ57の回転に伴い、各インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46を、ON及びOFFのいずれかに適宜切り替える。
【0038】
H結線状態Hsでは、Y結線状態Ysの場合のように各コイル51~53の第2端51b~53bが中性点化されることはないので、常にU~W相の各コイル51~53が互いに並列に接続され、いずれのコイル51~53も互いに直列には接続されない。そのため、このH結線状態Hsにおいては、Y結線状態Ysの場合に比べて、インダクタンスが低くなる。その結果、H結線状態Hsにおける逆起電圧は、他の条件が同じなら、Y結線状態Ysにおける逆起電圧に比べて小さくなる。
【0039】
図2に示すY結線状態Ysにおける高速回転時には、制御装置60は、所定要件を満たすことを条件に、
図4に示すH結線状態Hsに切り替える。その理由について以下に説明する。
【0040】
まず第1の理由として、ロータ57の高速回転時においては、逆起電圧が大きくなってしまうが、電力変換装置91は、バッテリ電圧が逆起電圧よりも大きい場合にしか力行を行うことができない。そのため、一般的には、電力変換装置91は、ロータ57の高速回転時等においては、U~W相の各コイル51~53にd軸電流を流すことにより、ロータ57の界磁磁束を弱める弱め界磁制御を行い、それにより逆起電圧をバッテリ電圧未満に抑える。しかしながら、弱め界磁制御を行うと、コイル51~53に流す電流量が大きくなり、回転電機50の力行を効率的に行うことができなくなってしまう。それを回避するために、Y結線状態Ysにおける高速回転時には、所定要件を満たすことを条件に、H結線状態Hsに切り替える。
【0041】
また第2の理由として、SMR21が意図せずにOFFになることや断線等より、バッテリ10からインバータ30,40に突如給電されなくなるロードダンプが発生した際には、制御装置60は、フェイルセーフ処理として、各インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46をOFFにする。それより、逆起電圧による電流が各フリーホイールダイオードDを通過して流れる発電状態になると共に、弱め解除制御が解除されてしまう。その解除により、逆起電圧がバッテリ電圧を超えて過大になると、その逆起電圧により、バッテリ10に接続されている電気機器11,14に過大な電圧が印加されて、電気機器11,14がダメージを受けてしまうおそれがある。それを回避するために、Y結線状態Ysにおける高速回転時には、所定要件を満たすことを条件に、H結線状態Hsに切り替える。
【0042】
次に、高速回転時におけるY結線状態YsからH結線状態Hsへの切り替えについて説明する。電力変換装置91は、始動時においては
図2に示すY結線状態Ysである。制御装置60は、Y結線状態YsからH結線状態Hsへの切り替えのために、取得部62と判定部63と切替制御部65とを有する。
【0043】
取得部62は、弱め界磁制御の実行中において、弱め界磁制御が実行されない場合に想定される逆起電圧値を推定により取得する。その推定は、例えば、所定の検出値からの算出により推定したり、所定の検出値と逆起電圧値に相関するパラメータとの関係を示すマップを用いて推定したりすることができる。
【0044】
具体的には、例えば、回転電機50に対するトルク指令値やロータ57の回転速度等から逆起電圧値を推定することができ、より具体的にはロータ57の回転速度に所定の係数を乗算することにより推定できる。また例えば、あらかじめロータ磁石58の温度と磁束との関係を示すマップ又は数式を用意し、ロータ磁石58の温度とそのマップ又は数式とに基づいて磁束を求め、その磁束とロータ57の回転速度とに基づいて逆起電圧値を推定することができる。また例えば、あらかじめ変調率と逆起電圧値との関係を示すマップ又は数式を用意し、変調率とそのマップ又は数式とに基づいて逆起電圧値を推定することができる。また例えば、あらかじめ把握している回転電機50の抵抗値と、電流検出部59により検出された電流値とから逆起電圧値を推定することができる。なお、変調率Mrは、各インバータ30,40から各コイル51~53に印加する電圧ベクトルの振幅Vrを、バッテリ10の端子電圧VDCで規格化した値であり、例えば下式(eq1)で表される。
【0045】
【0046】
判定部63は、取得部62により取得された逆起電圧値に基づいて、Y結線状態YsにすべきかH結線状態Hsにすべきか判定する。そして、H結線状態Hsにすべきと判定した場合には、切替制御部65が、U~W相の各コイル51~53の接続状態を、
図2に示すY結線状態Ysから、
図4に示すH結線状態Hsに切り替える。
【0047】
図5は、Y結線状態YsからH結線状態Hsへの切替制御を示すフローチャートである。この切替制御は、Y結線状態Ysにおいて、例えば所定周期毎に繰り返し行われる。
【0048】
切替制御では、まず、取得部62が逆起電圧値を取得する(S110)。次に、判定部63が逆起電圧値が閾値以上であるか否かを判定する(S111)。その閾値は、必要となる弱め界磁が過大になることにより回転電機50の力行の効率が極端に悪くなる逆起電圧値未満の値であり、且つ、バッテリ10に接続されている全ての電気機器11,14のうちの最も耐圧が小さいものの耐圧よりも小さい。
【0049】
S111において、閾値以上であると判定した場合(S111:YES)、切替制御部65がU~W相の各コイル51~53の接続状態を、Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替える(S122)。他方、S111において、閾値以上でないと判定した場合(S111:NO)、次のS112に進む。
【0050】
S112では、判定部63が、このままY結線状態Ysを維持した場合よりも、H結線状態Hsに切り替えた場合の方が、インバータ30,40及び回転電機50における効率がよいか否かを判定する(S121)。なお、ここでの効率がよいとは、例えば、インバータ30,40及び回転電機50の各部における損失が小さいことである。具体的には、例えば、各インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46での導通損失やスイッチング損失、回転電機50での鉄損や銅損等の合計値が小さいことである。
【0051】
S112で、切り替えた場合の方が効率が良いと判定した場合(S112:YES)、切替制御部65は、各コイル51~53の結線状態を、Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替える(S122)。他方、S112で、切り替えない方が効率が良いと判定した場合(S112:NO)、Y結線状態Ysを維持する(S121)。
【0052】
判定部63は、以上のようにして、Y結線状態Ysを維持するかH結線状態Hsに切り替えるかを選択する。そして、H結線状態Hsに切り替えた場合(S122)においては、さらに、判定部63は、U~W相の各コイル51~53に流す電流を平衡電流にすべきか、不平衡電流にすべきか判定する。なお、平衡電流とは、U~W相の各コイル51~53に流れる電流の和が常にゼロとなる状態で変化する三相交流電流であり、不平衡電流とは、平衡電流ではない三相交流電流である。
【0053】
判定部63は、H結線状態Hsにおいて、回転電機50のトルクが所定値未満の場合は、平衡電流を選択し、回転電機50のトルクが上記の所定値以上の場合は、不平衡電流を選択する。なお、このような平衡電流と不平衡電流との切換については、上記の特許文献1において既に本出願人が開示しているため、これ以上の詳細な説明については省略する。
【0054】
なお、U~W相の各コイル51~53の結線状態を、一旦、Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替えた後は、例えば、逆起電圧値が再び閾値を下回ったことを条件に、Y結線状態Ysに戻すようにしてもよいし、さらに追加の要件を満たすことを条件に、Y結線状態Ysに戻すようにしてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、次の効果が得られる。本実施形態では、
図2に示すY結線状態Ysにおいて、逆起電圧値が閾値よりも大きいと判定したことを条件に、
図4に示すH結線状態Hsに切り替える。そのH結線状態Hsでは、Y結線状態Ysよりもインダクタンスが低いため、逆起電圧が抑えられる。そのため、逆起電圧が高くなる状況下において、弱め界磁以外の手法により逆起電圧を抑えることができる。そのため、弱め界磁制御により力行の効率が悪化するのを抑えることができる。
【0056】
また、次の効果も得られる。
図2に示すY結線状態Ysの高速回転時において、SMR21が意図せずにOFFになる等のロードダンプが発生した場合、フェイルセーフ処理により、インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46がOFFにされる。それにより、逆起電圧による電流が各フリーホイールダイオードDを通過して流れる発電状態になると共に、弱め界磁制御が解除される。その解除により、逆起電圧がバッテリ電圧を超えて過大になると、その逆起電圧により、バッテリ10に接続されている電気機器11,14に過大な電圧が印加されて、当該電気機器11,14がダメージを受けてしまうおそれがある。
【0057】
その点、本実施形態では、Y結線状態Ysでの弱め界磁制御の実行中において、弱め界磁制御が実行されない場合に想定される逆起電圧値を推定により取得し、その逆起電圧値が、閾値よりも大きいと判定したことを条件に、
図4に示すH結線状態Hsに切り替える。それにより、切替前に比べて各コイル51~53のインダクタンスが低くなる。そのため、逆起電圧値が大きい状況下、すなわち、弱め界磁が解除されると逆起電圧が大きくなる状況下において、逆起電圧を抑えられる。そのため、ロードダンプが生じてフェイルセーフ処理の影響で弱め界磁制御が解除された場合に電気機器11,14に過大な電圧が印加されるのを、抑えられる。
【0058】
特に、本実施形態のように高磁束密度を有する回転電機50においては、逆起電圧が特に高くなりやすい。このため、以上に示した効果をより顕著に活かすことができる。
【0059】
また、次の効果も得られる。
図5に示すように、Y結線状態Ysにおいて、逆起電圧値が閾値よりも小さいと判定した場合(S111:NO)、すなわち逆起電圧値に基づいてH結線状態Hsに切り替えることは行わない場合には、インバータ30,40及び回転電機50における効率が、Y結線状態YsよりもH結線状態Hsの方が良いか否かを判定する(S112)。そして、H結線状態Hsの方が効率が良いと判定したことを条件に(S112:YES)、Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替える。そのため、逆起電圧値に基づいてH結線状態Hsに切り替えることは行わない場合には(S111:NO)、効率の良い方の結線状態を選択できる。
【0060】
また、次の効果も得られる。
図2に示すように、Y結線状態Ysにすべき時には、切替スイッチ23をOFFに固定すると共に、各第2上スイッチ41~43をONに固定し、且つ各第2下スイッチ44~46をOFFに固定する。それにより、
図3に示す回路と等価の状態、すなわち、U~W相の各コイル51~53の第2端51b~53bどうしが中性点として結線された一般的な電力変換装置と等価の回路を作り出すことができる。そのため、Y結線状態Ysにおいては、一般的な電力変換装置と同様の制御で電力変換装置91を制御できる。
【0061】
他方、
図4に示すように、H結線状態Hsにすべき時には、切替スイッチ23をONに固定する。それにより全てのコイル51~53が並列に接続されるH結線状態Hsを実現できる。そのH結線状態Hsによれば、U~W相の各コイル51~53に流す電流の自由度が上がり、各状況に応じて柔軟に適切な制御を実施し易くなる。
【0062】
また、次の効果も得られる。Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替える逆起電圧値の閾値は、バッテリ10に接続される全ての電気機器11,14のうちの最も耐圧が小さいものの耐圧よりも小さい。そのため、ロードダンプが生じた場合に電気機器11,14に耐圧を超える電圧が印加されるのを防止できる。
【0063】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。以下の実施形態においては、それ以前の実施形態のものと同一の又は対応する部材等について、同一の符号を付する。ただし、電力変換装置自体については、実施形態毎に異なる符号を付する。本実施形態については、第1実施形態をベースにこれと異なる点を中心に説明し、第1実施形態と同一又は類似の部分については、説明を適宜省略する。
【0064】
図6は、本実施形態の電力変換装置92を示す回路図である。電力変換装置92は、第2インバータ40を備えておらず、U~W相の各コイル51~53の第2端どうしが、中性点として接続されている。U相コイル51は、第1U相コイル511と第2U相コイル512との直列接続体からなる。V相コイル52は、第1V相コイル521と第2V相コイル522との直列接続体からなる。W相コイル53は、第1W相コイル531と第2W相コイル532との直列接続体からなる。
【0065】
第1U相コイル511に対しては、U相リレースイッチ54が並列接続されている。第1V相コイル521に対しては、V相リレースイッチ55が並列接続されている。第1W相コイル531に対しては、W相リレースイッチ56が並列接続されている。
【0066】
以下では、
図7(a)に示すように、U~V相の各リレースイッチ54~56をOFFにした状態を第1結線状態S1とし、
図7(b)に示すように、U~V相の各リレースイッチ54~56をONにした状態を第2結線状態S2とする。第2結線状態S2では、第1U相コイル511、第1V相コイル521、第1W相コイル531には電流が流れず、第2U相コイル512、第2V相コイル522、第2W相コイル532にのみ電流が流れるので、第1結線状態S1に比べてインダクタンスが下がる。
【0067】
本実施形態では、
図7(a)に示す第1結線状態S1での弱め界磁制御の実行中において、弱め界磁制御が実行されない場合に想定される逆起電圧値を推定により取得し、その逆起電圧値が、閾値よりも大きいと判定したことを条件に、
図7(b)に示す第2結線状態S2に切り替える。これにより、インダクタンスが下がり、逆起電圧が小さくなる。
【0068】
本実施形態によれば、逆起電圧が高くなる状況下において、第1実施形態とは異なる態様により、逆起電圧を抑えることができる。
【0069】
[他の実施形態]
以上の実施形態は、例えば次のように変更して実施できる。
【0070】
図1等に示すように、各実施形態における各インバータ30,40の上下の各スイッチ31~36,41~46は、Nチャンネル型のIGBTであるが、これに代えて、Pチャンネル型のIGBTや、Nチャンネル型又はPチャンネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)や、NPN型又はPNP型のバイポータトランジスタにしてもよい。なお、上下の各スイッチ31~36,41~46を、Pチャンネル型やPNP型にする場合、各実施形態とは反対に、エミッタ又はソースが高電位用端子となり、コレクタ又はドレインが低電位用端子となる。また、上下の各スイッチ31~36,41~46を、MOSFET又はバイポーラトランジスタにする場合、寄生ダイオードを有するため、フリーホイールダイオードDを省略できる。
【0071】
第1実施形態における切替スイッチ23は、Nチャンネル型のIGBTであるが、これに代えて、Pチャンネル型のIGBTや、Nチャンネル型又はPチャンネル型のMOSFETや、NPN型又はPNP型のバイポータトランジスタや、機械式スイッチ等にしてもよい。なお、MOSFET又はバイポーラトランジスタにする場合、フリーホイールダイオードdを省略できる。
【0072】
第1実施形態における切替スイッチ23は、上接続配線22に設けられているが、これに代えて、下接続配線25に設けてもよい。この場合には、切替スイッチ23をOFFに固定すると共に、第2下スイッチ44~46をONに固定することにより、Y結線状態Ysにすることができる。
【0073】
第1実施形態における切替スイッチ23は、上接続配線22に設けられているが、これに加えて、下接続配線25にも、切替スイッチ23を設けるようにしてもよい。この場合には、両方の切替スイッチ23をOFFに固定すると共に、第2インバータ40の上下の各スイッチ41~46をONに固定することにより、Y結線状態Ysにすることができる。この場合、電流が第2上スイッチ41~43側と第2下スイッチ44~46側とに分散されることにより、第2インバータ40の上下の各スイッチ41~46での発熱や劣化等を抑えることができる。
【0074】
各実施形態では、回転電機50は3相のコイル51~53を有しているが、2相のコイルや4相以上のコイルを有していてもよい。
【0075】
第1実施形態では、弱め界磁制御の実行中において、弱め界磁制御が実行されない場合に想定される逆起電圧値を推定により取得し、その逆起電圧値が、閾値よりも大きいと判定したことを条件に、H結線状態Hsを切り替えている。これに代えて、例えば、弱め界磁制御の実行中において、現在の状態における逆起電圧の値を逆起電圧値として取得し、その逆起電圧値が、所定の閾値よりも大きいと判定したことを条件に、H結線状態Hsに切り替えるようにしてもよい。この場合でも、閾値の設定次第では、必要なタイミングでY結線状態YsからH結線状態Hsに切り替えることができる。
【0076】
第1実施形態では、
図5に示すように、逆起電圧値が閾値よりも小さいと判定されたときには、インバータ30,40及び回転電機50における効率がY結線状態YsよりもH結線状態Hsの方がよいか否かを判定している(S112)。これに代えて、逆起電圧値が閾値よりも小さいと判定されたときには、このような判定はせずに、Y結線状態Ysを維持するようにしてもよい。すなわち、
図5からS112を省いてもよい。
【0077】
各実施形態では、Y結線状態YsからH結線状態Hsに切り替える逆起電圧値の閾値は、回転電機50の力行の効率が極端に悪くなる逆起電圧値未満の値であり、且つ、バッテリ10に接続されている全ての電気機器11,14のうちの最も耐圧が小さいものの耐圧よりも小さい。これに代えて、当該閾値は、単に、回転電機50の力行の効率が極端に悪くなる逆起電圧値未満の値にしてもよい。そして、電気機器11,14の耐圧については、他のフェイルセーフ装置により対応するようにしてよい。
【0078】
各実施形態では、電力変換装置91,92は、車両に搭載されているが、これに代えて、電車、飛行機、ヘリコプタ、船又はドローン等の、車両以外の移動物に搭載されていてもよいし、ビルのエレベータに適用される場合等、固定物に搭載されていてもよい。また、電力変換装置91,92が、固定物に搭載される場合等においては、バッテリ10に代えて、家庭用電源や商用電源をAC/DCアダプタ等を介して使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…バッテリ、30…第1インバータ、40…第2インバータ、50…回転電機、51…U相コイル、52…V相コイル、53…W相コイル、57…ロータ、62…取得部、63…判定部、65…切替制御部、91,92…電力変換装置、Hs…H駆動状態、Ys…Y駆動状態、S1…第1結線状態、S2…第2結線状態。