(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/26 20060101AFI20240229BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240229BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20240229BHJP
C25B 9/21 20210101ALI20240229BHJP
C25B 15/025 20210101ALI20240229BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C25B1/26 C
C02F1/42 B
C25B1/46
C25B9/21
C25B15/025
C25B15/08 302
(21)【出願番号】P 2021077761
(22)【出願日】2021-04-30
【審査請求日】2023-12-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】土門 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】大原 正浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌明
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-190215(JP,A)
【文献】特開平5-186215(JP,A)
【文献】特開平6-10177(JP,A)
【文献】特開平7-31979(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0251831(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍で、オンサイトで次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する方法であって、
イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画された電解槽の、該陽極室に塩化ナトリウム水溶液である二次塩水を供給し、電気分解後の該陽極室内の陽極液および生成塩素ガス、並びに、該陰極室内の生成水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に導入して、該反応槽内での陽極液、塩素ガスおよび陰極液である生成水酸化ナトリウム水溶液の反応により次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造するにあたり、
原料水を、陽イオン交換樹脂で処理して精製水を生成する陽イオン交換工程と、
前記精製水に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩を溶解して一次塩水を生成する一次塩水生成工程と、
前記一次塩水中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行う検査工程と、
前記一次塩水中に沈殿ないし浮遊物が含まれていなければキレート処理を行い、前記一次塩水中に沈殿ないし浮遊物が含まれていれば酸成分を加えて沈殿ないし浮遊物を溶解させた後にキレート処理を行って、前記二次塩水を生成するキレート処理工程と、
を含むことを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項2】
前記陽イオン交換工程において軟水器を用いる請求項1記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項3】
前記イオン交換膜として、スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜を用いる請求項1または2記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項4】
前記キレート処理工程において、前記酸成分として塩酸を用いる請求項1~3のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項5】
前記キレート処理工程において、前記酸成分として二酸化炭素を含む空気を用いる請求項1~3のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項6】
前記原料水として、硬度10~500mg/lのものを用いる請求項1~5のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項7】
前記検査工程における検査手段として、目視による観察、レーザー光散乱法およびSS濃度測定のうちのいずれかを用いる請求項1~6のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法。
【請求項8】
イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画され、塩化ナトリウム水溶液である二次塩水が供給される電解槽と、電気分解後における該陽極室および該陰極室内の生成物が導入される反応槽と、を備え、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍に配置されて、該反応槽内での反応により、オンサイトで次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する装置であって、
原料水を陽イオン交換樹脂で処理して精製水とする陽イオン交換処理部と、
前記精製水に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩を溶解して一次塩水を生成する一次塩水生成部と、
前記一次塩水に対しキレート処理を行うキレート処理部と、
を含む塩水製造ユニットを備え
、
前記一次塩水生成部と、前記キレート処理部との間に、前記一次塩水中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行う検査部を備えることを特徴とする次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置。
【請求項9】
前記検査部が、レーザー光散乱測定装置またはSS濃度測定装置を備える請求項
8記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置。
【請求項10】
前記一次塩水生成部と、前記キレート処理部との間に、前記一次塩水に対し酸成分を添加する添加部を備える請求項8
または9記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置。
【請求項11】
前記陽イオン交換処理部が軟水器からなる請求項8~
10のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置。
【請求項12】
前記イオン交換膜が、スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜である請求項8~
11のうちいずれか一項記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法および次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置(以下、単に「製造方法」および「製造装置」とも称する)に関する。本発明は、詳しくは、電解槽の隔膜にイオン交換膜を使用し、電解槽で生成した水素を除く電解生成物を反応槽にて混合してオンサイトで高濃度次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する方法および装置において、イオン交換膜の金属汚染による劣化を抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸ナトリウムは、代表的な漂白剤や殺菌剤として、上下水の処理や排水の処理等、各方面で利用されている。次亜塩素酸ナトリウムの製造方法としては、食塩水の電気分解で得られた塩素と水酸化ナトリウム水溶液とを反応槽内で反応させて製造する方法や、塩化ナトリウム水溶液を無隔膜電解槽において電気分解して、無隔膜電解槽中で次亜塩素酸ナトリウムを直接製造する方法が一般的である。
【0003】
後者の方法においては、電解槽が無隔膜であるために、生成した次亜塩素酸ナトリウムが陰極上で食塩に還元されること、および、生成した次亜塩素酸ナトリウムが陽極酸化されて有効な酸化力のない塩素酸ナトリウムに変換されてしまうことから、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を得ることが困難である。そのため、この製造方法を用いた次亜塩素酸ナトリウムの用途としては、発電プラントの熱交換水や回転機器の軸冷却水、バラスト水処理における海水中の生物の成長・付着防止、上下水道処理および廃水処理などの、高濃度が要求されないものが一般的である。
【0004】
一方、前者の製造方法が適用される用途としては、食塩電解プラントにおける一般的な高濃度次亜塩素酸ナトリウムの製造方法が代表的である。食塩電解プラントにおいては、安定かつ高効率なプラント操業を保つために、原料塩や原料水に含まれる金属不純物や不要な陰イオンを高度に除去する塩水精製システムや、電解後に濃度が低下した食塩水を再利用するために電解後の塩水に含まれる次亜塩素酸および塩素酸を分解除去し再精製するシステムが必須であり、設備が大掛かりなものになる。
【0005】
食塩電解プラントの主目的は、次亜塩素酸ナトリウムの製造ではなく、工業的に用途が多い水酸化ナトリウムおよび塩素ガスの製造であり、石油化学コンビナートに含まれるプラントである場合が多く、水酸化ナトリウム換算で年間数万トン~数十万トンを製造する大規模なプラントが多い。食塩電解プラントの数は、高濃度次亜塩素酸塩を必要とする上水場などの数と比較して圧倒的に少ないことから、上水の滅菌に必要な塩素ガスまたは次亜塩素酸塩を、上水場まで輸送して貯蔵する必要が生じる。このため、貯蔵設備からの液漏れなどによる人的災害や環境破壊の危険性を、常にはらむものとなっている。特に、塩素ガスについては、輸送に使用するタンクローリーの交通事故により環境へ飛散する大事故が各国で発生しており、塩素ガスの輸送に関する法律を厳格化する動きが活発化している。
【0006】
このような状況の下、上水場などの次亜塩素酸ナトリウム利用施設に小型の次亜塩素酸ナトリウム製造用の電解装置を設置して、必要な時に必要な量の次亜塩素酸ナトリウムを製造するオンサイト型高濃度次亜塩素酸塩の製造方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、イオン交換膜によって陽極室と陰極室に区画したイオン交換膜電解槽において、陽極室でアルカリ金属塩化物水溶液を電気分解して、電気分解によって濃度が低下したアルカリ金属塩化物水溶液を陰極室に導入して陰極室中のアルカリ金属水酸化物の濃度を一定に保持するとともに、この陰極液を、電解槽の外側に設けた反応槽に、陽極室で発生した塩素と共に導入して高濃度次亜塩素酸塩を製造することが提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画された電解槽の、陽極室にアルカリ金属塩化物水溶液、陰極室に純水を供給して電気分解を行い、電気分解後の陽極室内の陽極液および生成塩素ガス、並びに、陰極室内の生成アルカリ金属水酸化物水溶液を反応槽に導入して次亜塩素酸塩を製造するにあたり、イオン交換膜として、食塩または塩化カリウム電解用の高濃度苛性アルカリ生成用イオン交換膜を用いるとともに、反応槽に導入する前の陽極液若しくはアルカリ金属水酸化物水溶液、または、反応槽に導入された陽極液、塩素ガスおよびアルカリ金属水酸化物水溶液の混合物に対し、水を添加する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-179475号公報
【文献】特開2013-96001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1,2に記載の方法は、いずれも食塩電解プラントで次亜塩素酸塩を製造する際に必須である、電解後に濃度の低下した食塩水に含まれる溶存塩素および次亜塩素酸の除去工程を排除することを達成したものであり、オンサイト製造設備に必要なシステムの簡易化を可能としている。特に、特許文献2に記載の方法においては、反応槽内におけるアルカリ塩析出防止のために、水添加、および、電解槽におけるカルボン酸層を含む二層膜の使用により、高濃度次亜塩素酸ナトリウム製造のための改善が達成されている。
【0011】
このように、上記特許文献1,2に記載された技術によれば、高濃度次亜塩素酸塩を簡易な設備により使用者の次亜塩素酸塩利用場所においてオンサイト製造することが可能であるが、未だ解決すべき問題は残されている。
【0012】
すなわち、特許文献2においては、高濃度次亜塩素酸塩を生成するために、電解槽において高電流効率を実現できる二層膜を利用している。この二層膜は、食塩電解プラントにおいて塩素および水酸化ナトリウムを高効率に製造することを目的に開発されたイオン交換膜であり、イオン交換基としてスルホン酸基を備えたスルホン酸層と、カルボン酸基を備えたカルボン酸層とを貼り合わせた構造を有している。陰極室側に向かって配置されたカルボン酸層は、低電流効率の主原因である高濃度水酸化ナトリウムの陰極室から陽極室への拡散現象を抑制する機能を有し、高電流効率を実現するためには必ず必要な部材である。
【0013】
しかし、二層膜は、塩水中に含まれる金属不純物、特に、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの濃度が高い場合には、膜の内部や陰極側の表面で難溶性物質の析出やイオン交換基の閉塞が発生しやすく、著しい場合には二層膜の剥離が生じて、結果として電流効率の低下や膜抵抗の増加をもたらし、次亜塩素酸ナトリウム製造装置の重要な構成要素である電解槽の性能を低下させる。
【0014】
前述したように、食塩電解プラントにおいては、金属不純物を除去する高度な塩水精製システム、および、電解後に濃度が低下した食塩水を再利用するための電解後の塩水に含有される次亜塩素酸および塩素酸を分解除去し塩水濃度を復帰させるシステムを必ず備えており、設備が大掛かりになるとともに、装置運営にあたって消費される化学物質や管理工数が多大になるが、この塩水精製システムは、この二層膜の劣化を抑制し、食塩電解プラントを安定して長期間、高効率に稼働させるために必須な設備である。
【0015】
しかしながら、特許文献2は、簡易な構成からなるオンサイト型の次亜塩素酸塩の製造方法に係るものであるので、特許文献2には、このような二層膜保護のための金属不純物除去の方策については、特に記載されていない。一方で、オンサイト型の次亜塩素酸塩製造装置においても、イオン交換膜、特に、二層膜を隔膜に利用する場合には、少なくとも原料水や原塩に含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの除去を行わないと、電解槽の高効率運転は行われず、食塩電解プラントの場合と同様に頻繁な停止とメンテナンスを招く原因となる。但し、オンサイトで稼働される高濃度次亜塩素酸塩製造装置においては、設備が簡易であることが大きな利点となるため、食塩電解システムの塩水精製機構のような大掛かりなシステムの設置は避けたい事項である。
【0016】
また、オンサイト型次亜塩素酸ナトリウム製造装置の場合、設置される場所や環境も様々であるため、塩水の原料である原料水や原塩についても品質管理が十分でなく、不純物を多量に含むものが装置に供給されることは常態である。
【0017】
従って、これら原料水や原塩から持ち込まれる不純物の問題が解決され、次亜塩素酸ナトリウム溶液を高効率で、かつ、初期コストおよび運転コストを抑えて、オンサイトで製造するための次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法および製造装置を提供することが本特許の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討した結果、電解槽に供給する塩水を製造するプロセスを改良することで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍で、オンサイトで次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する方法であって、
イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画された電解槽の、該陽極室に塩化ナトリウム水溶液である二次塩水を供給し、電気分解後の該陽極室内の陽極液および生成塩素ガス、並びに、該陰極室内の生成水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に導入して、該反応槽内での陽極液、塩素ガスおよび陰極液である生成水酸化ナトリウム水溶液の反応により次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造するにあたり、
原料水を、陽イオン交換樹脂で処理して精製水を生成する陽イオン交換工程と、
前記精製水に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩を溶解して一次塩水を生成する一次塩水生成工程と、
前記一次塩水中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行う検査工程と、
前記一次塩水中に沈殿ないし浮遊物が含まれていなければキレート処理を行い、前記一次塩水中に沈殿ないし浮遊物が含まれていれば酸成分を加えて沈殿ないし浮遊物を溶解させた後にキレート処理を行って、前記二次塩水を生成するキレート処理工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の製造方法においては、前記陽イオン交換工程において軟水器を用いることができる。また、本発明の製造方法においては、前記イオン交換膜として、スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜を用いることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の製造方法においては、前記キレート処理工程において、前記酸成分として塩酸を用いることが好ましく、前記酸成分として二酸化炭素を含む空気を用いることも好ましい。
【0022】
さらにまた、本発明の製造方法においては、前記原料水として、硬度10~500mg/lのものを用いることができる。さらにまた、本発明の製造方法においては、前記検査工程における検査手段として、目視による観察、レーザー光散乱法およびSS濃度測定のうちのいずれかを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置は、イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画され、塩化ナトリウム水溶液である二次塩水が供給される電解槽と、電気分解後における該陽極室および該陰極室内の生成物が導入される反応槽と、を備え、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍に配置されて、該反応槽内での反応により、オンサイトで次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する装置であって、
原料水を陽イオン交換樹脂で処理して精製水とする陽イオン交換処理部と、
前記精製水に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩を溶解して一次塩水を生成する一次塩水生成部と、
前記一次塩水に対しキレート処理を行うキレート処理部と、
を含む塩水製造ユニットを備え、
前記一次塩水生成部と、前記キレート処理部との間に、前記一次塩水中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行う検査部を備えることを特徴とするものである。
【0024】
本発明の製造装置において、前記検査部としては、レーザー光散乱測定装置またはSS濃度測定装置を備えるものとすることができる。
【0025】
また、本発明の製造装置においては、前記一次塩水生成部と、前記キレート処理部との間に、前記一次塩水に対し酸成分を添加する添加部を備えることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の製造装置においては、前記陽イオン交換処理部が軟水器からなるものとすることができる。さらにまた、本発明の製造装置においては、前記イオン交換膜が、スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、原料水や原塩から持ち込まれる不純物の問題を解決して、次亜塩素酸ナトリウム溶液を高効率で、かつ、初期コストおよび運転コストを抑えて、オンサイトで製造するための次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造方法および製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置の一例の主要部を示す装置構成図である。
【
図2】本発明に係る二次塩水の製造工程の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍で、オンサイトで次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する方法および装置の改良に係るものである。本発明においては、イオン交換膜により陽極室と陰極室とに区画された電解槽の、陽極室に塩化ナトリウム水溶液である二次塩水を供給し、電気分解後の陽極室内の陽極液および生成塩素ガス、並びに、陰極室内の生成水酸化ナトリウム水溶液を反応槽に導入して、反応槽内での陽極液、塩素ガスおよび陰極液である生成水酸化ナトリウム水溶液の反応により高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を製造する。
【0031】
図1に、本発明の次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置の一例の主要部の装置構成図を示す。図示する製造装置は、イオン交換膜1により陽極室2と陰極室3とに区画され、塩化ナトリウム水溶液である二次塩水4が供給される電解槽10と、電気分解後における陽極室2および陰極室3内の生成物が導入される反応槽18と、を備え、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設近傍に配置されて、反応槽18内での反応によりオンサイトで高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液12を製造するものである。
【0032】
本発明は、陽極室に供給する塩化ナトリウム水溶液としての二次塩水を原料水から製造するに際し、以下の一連の工程を経る点に特徴を有する。このような一連の工程を用いることで、カルシウムおよびマグネシウムが除去された二次塩水が生成されるので、純水製造装置やろ過槽などの大規模な設備を要することなくイオン交換膜の劣化を抑制することができ、次亜塩素酸ナトリウム溶液を高効率で、かつ、初期コストおよび運転コストを抑えて、オンサイトで長期に安定して製造することができる。
【0033】
図2に、本発明に係る二次塩水の製造工程の流れの説明図を示す。本発明においては、例えば、
図1に示すような次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造装置の主要部に併設して、原料水から二次塩水を製造する塩水製造ユニットを設けることで、オンサイトで使用可能なコンパクトな製造プラントとすることができる。具体的には、本発明に係る塩水製造ユニットは、原料水Aを陽イオン交換樹脂Bで処理して精製水5とする陽イオン交換処理部と、得られた精製水5に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩Dを溶解して一次塩水Eを生成する一次塩水生成部と、一次塩水Eに対しキレート処理を行うキレート処理部と、を基本構成として含むものである。
【0034】
より詳細には、本発明においては、原料水Aから二次塩水4を製造するに際し、原料水Aを、陽イオン交換樹脂Bで処理して精製水5を生成し(陽イオン交換工程)、この精製水5に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩Dを溶解して一次塩水Eを生成し(一次塩水生成工程)、一次塩水E中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行った後(検査工程)、一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれていなければそのままキレート処理を行い、一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれていれば酸成分を加えて沈殿ないし浮遊物を溶解させた後にキレート処理を行って、二次塩水4を生成する(キレート処理工程)。その後、生成した二次塩水4を電解槽10の陽極室2に供給して、次亜塩素酸ナトリウムの製造に供する。
【0035】
以下、上記各工程について、詳細に説明する。
【0036】
[陽イオン交換工程]
上述したように、本発明においては、まず、原料水Aを、陽イオン交換樹脂Bで処理して、精製水5を生成する。この工程により、原料水A中に含まれるカルシウムイオン、マグネシウムイオンおよびその他の重金属イオンを吸着除去して、ナトリウムイオンや水素イオンと交換することで、原料水Aよりも硬度の低下した、軟水である精製水5を得ることができる。なお、原料水A中の金属イオンの対イオンは主に炭酸水素イオンや塩化物イオンであるが、このとき、これらは除去されずに精製水5中に残留する。
【0037】
本発明において使用する原料水Aとしては、次亜塩素酸ナトリウム溶液の使用施設の近傍の、オンサイトでの製造場所で入手可能な水道水や井水(地下水)、工業用水等を用いることができる。これらは多くの場合、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを炭酸水素塩として含んでおり、そのおよその濃度は硬度で知ることができるが、一般に日本では軟水と言われている水道水であっても、多くの場合、カルシウムやマグネシウムが数十mg/l程度含まれており、硬水であれば100mg/lを超える場合もある。本発明において、原料水Aとしては、具体的には例えば、硬度が10~500mg/lであるものを用いることができ、10~300mg/lであるものを用いることが好ましい。
【0038】
一方、電解槽に用いるイオン交換膜を安定した性能で長期間使用するには、電解槽に供給する二次塩水中の金属イオンは、一般的に1.3mg/l以下である必要があり、二層膜を使用する場合は0.1mg/l以下である必要がある。この点から、本発明において、上記陽イオン交換工程後の精製水5の硬度としては、0~3.3mg/lであることが好ましく、0~0.3mg/lであることがより好ましい。
【0039】
上記陽イオン交換工程において使用する陽イオン交換樹脂Bとしては、特に制限はなく、Na型でもH型でもよいが、本発明においては、後述するキレート処理工程において、一次塩水EのpHを弱酸性から中性にする必要があるため、pH調整のためのアルカリ添加量が低減できるNa型が好ましい。
【0040】
また、本発明においては、上記陽イオン交換工程を行うための陽イオン交換処理部として、陽イオン交換樹脂単独ではなく、陽イオン交換樹脂を用いた軟水器を使用することもできる。陽イオン交換樹脂の劣化時の再生については、劣化した陽イオン交換樹脂を新規な陽イオン交換樹脂に交換する方法であってもよいが、軟水器を用いる場合は、軟水器に付属している再生機構および塩を使って再生する方法を用いてもよい。なお、一般的に、軟水器を用いてカルシウムイオンやマグネシウムイオンをナトリウムイオンに交換すると、pHは上昇する。
【0041】
[一次塩水生成工程]
本発明においては、次に、得られた精製水5に対し、塩化ナトリウムが主成分である原塩Dを溶解して、室温における飽和塩水である一次塩水Eを生成する。精製水5に対する原塩Dの溶解は、塩溶解槽Cにおいて行うことができる。
【0042】
原塩Dとしては、天日塩および岩塩のいずれを用いてもよい。これら原塩を原料として用いてさらに精製を行い、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの金属不純物をある程度除いた精製塩を用いることが、より好ましい。但し、精製塩であっても保管状態によっては降雨などにより環境から不純物を新たに取り込むこともあるので、本発明に係る不純物の除去処理は必須である。
【0043】
ここで、陽イオン交換樹脂処理後の精製水5には、陽イオンとしてナトリウムイオンおよび水素イオンが含まれているが、陰イオンとして原料水に元々含まれていた炭酸水素イオンや塩化物イオンなども含まれている。また、原塩Dには、塩化ナトリウムの他にも、カルシウムやマグネシウムの主として塩化物が含まれており、カルシウムイオンやマグネシウムイオンとして溶解する。二層膜の性能保護の観点から、これらを除去する必要があり、オンサイト型であることから簡易な方法である必要がある。
【0044】
一次塩水E中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンの対イオンとしては、塩化物イオンだけでなく、原料水Aから持ち込まれた炭酸水素イオンも共存している。炭酸水素イオンはカルシウムイオンやマグネシウムイオンを多量に溶解する特性を持つため、炭酸水素カルシウムや炭酸水素マグネシウムとして一次塩水Eに溶解した形で後述するキレート処理工程に供給できれば、キレート剤によりこれら陽イオンは除去される。
【0045】
しかし、原料水AのpHや原塩Dの溶解直後の一次塩水EのpHが弱アルカリ~アルカリであった場合、液中に溶解していた炭酸水素カルシウムや炭酸水素マグネシウムは、化学平衡により難溶性の炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムとなり、沈殿として析出する可能性が高い。沈殿になった炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムはキレート剤で除去されずに沈殿のまま電解槽に供給される。一般に陽極室電解液は弱酸性であるため、これら沈殿は再溶解されてイオンとして二層膜に到達し、低電流効率や高セル電圧を発生させ、次亜塩素酸製造装置の性能低下や停止トラブルの原因となる。
【0046】
精製水5に原塩Dを溶解させた際に得られる一次塩水Eの液性は、原塩Dの組成や原料水A中の様々な不純物に影響されるため、まちまちである。原料水Aに含まれるカルシウムおよびマグネシウムの濃度や、それに対応する炭酸水素イオンの濃度、原塩D中のカルシウムおよびマグネシウムの濃度、その他の成分との関係や温度等により、炭酸塩沈殿が生成するpHなどの液性条件は変化する。従って、一次塩水Eの生成時に炭酸塩沈殿の生成を防ぐためには、原料水Aや原塩Dごとに一次塩水Eを観察・検査し、その後の処理を判断する必要がある。
【0047】
そこで、本発明においては、一次塩水生成工程後に、得られた一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれているかどうかを確認するための検査を行う。
【0048】
[検査工程]
上記検査工程における検査手段としては、一次塩水E中の沈殿ないし浮遊物の有無を一定の精度で確認できるものであれば特に限定されない。検査手段としては、具体的には例えば、目視による観察、レーザー光散乱法、SS(浮遊物質(suspended solids)または懸濁物質(suspended substance))濃度測定、濁度測定、色度測定等の手法を用いることができる。
【0049】
実際の検査工程は、例えば、製造装置において、一次塩水生成部と、キレート処理部との間に、一次塩水中における沈殿ないし浮遊物の有無を確認するための検査を行う検査部を設けて、実施することができる。この検査部としては、例えば、レーザー散乱光測定装置またはSS濃度測定装置等の機械的検査手段を備えるものとすることができる。または、塩溶解槽Cに監視窓を設けるなどして、一次塩水Eを目視で観察することにより、簡易に検査を行うこともできる。
【0050】
[キレート処理工程]
本発明においては、上記検査工程において、一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれていることが確認された場合には、一次塩水E中に酸成分を加えて沈殿ないし浮遊物を溶解させた後に、または、一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれていないことが確認された場合にはそのまま、一次塩水Eに対しキレート処理を行って、二次塩水4を生成する。一次塩水Eに対しキレート処理を行うことで、原塩Dから持ち込まれたカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを一次塩水E中より除去して、清浄な二次塩水4を生成することができる。一次塩水Eのキレート処理は、キレート槽Fにおいて行うことができる。
【0051】
原塩Dは、その含まれる不純物により、一次塩水Eをアルカリ性にすることもあり、その程度は原塩Dによって異なる。原料水Aに炭酸水素イオンが多く含まれる場合には、原塩Dの溶解時に炭酸塩沈殿が発生しやすい。従って、このような場合には、キレート処理工程に先立って、一次塩水Eを弱酸性~中性に調整して、炭酸塩沈殿を溶解することが望ましく、特には上述したように、一次塩水E中に浮遊物や沈殿が存在することを確認した後に、酸成分を添加して一次塩水Eの液性を弱酸性~中性にすることで、浮遊物や沈殿を溶解する。よって、本発明においては、一次塩水EのpHをpH計で測定して、pHが弱酸性~中性の場合にはそのままキレート処理を行い、pHがアルカリ性の場合には、一次塩水EのpHを酸成分の添加により弱酸性~中性に調整した上で、キレート処理を行うものであってもよい。
【0052】
本発明において、一次塩水E中に沈殿ないし浮遊物が含まれていることが確認された場合に、この沈殿ないし浮遊物を溶解させるために一次塩水E中に添加する酸成分としては、沈殿ないし浮遊物を溶解させることができるものであれば特に制限されないが、不純物を生じないものが好ましい。このような酸成分としては、具体的には例えば、塩酸、特には濃度の低い塩酸などを用いることができる。また、酸成分として、二酸化炭素を含む空気を用いてもよい。一次塩水Eに対し空気曝気や空気接触を実施することにより、空気中の二酸化炭素を一次塩水Eに溶解させてpHを低下させ、一次塩水Eを弱酸性にすることも、浮遊物や沈殿を溶解することに効果がある。実際の酸成分の添加は、例えば、一次塩水生成部とキレート処理部との間、検査部を設ける場合は検査部とキレート処理部との間に、一次塩水Eに対し酸成分を添加するための添加部を設けることで、実施することができる。
【0053】
本発明においては、必要に応じ酸成分の添加による低pH化により浮遊物や沈殿を溶解除去した上で一次塩水Eをキレート処理し、含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを吸着除去してナトリウムイオンと交換することにより生成された二次塩水4を、電解槽に供給する。これにより、イオン交換膜の劣化を抑制して、オンサイトで長期にわたり安定して次亜塩素酸ナトリウムの製造を行うことが可能となる。
【0054】
ここで、陽イオン交換樹脂によるカルシウムイオンとナトリウムイオンとの交換反応は、下記式のとおりである。
Ca(HCO3)2+2Na-CER → 2NaHCO3+CER-Ca-CER
原塩Dの溶解時におけるカルシウムイオンの炭酸水素塩化反応は、下記式のとおりである。
CaCl2+2NaHCO3 → Ca(HCO3)2+2NaCl
炭酸カルシウム沈殿の生成反応は、下記式のとおりである。
Ca(HCO3)2 → CaCO3+H2O+CO2
Ca(HCO3)2+2NaOH → CaCO3+Na2CO3+2H2O
【0055】
次に、本発明における高濃度次亜塩素酸ナトリウム溶液の製造工程について説明する。まず、
図1に示す製造装置において、イオン交換膜1により陽極室2と陰極室3とに区画された電解槽10の、陽極室2に上記で生成した二次塩水4を供給するとともに、陰極室3に精製水5を供給して、電気分解を行う。その後、電気分解後の陽極室2内の陽極液6および生成塩素(Cl
2)ガス7、並びに、陰極室3内の生成水酸化ナトリウム水溶液8を反応槽18に導入して、反応槽18内での陽極液6、塩素ガス7および水酸化ナトリウム水溶液8の反応により、次亜塩素酸ナトリウム溶液12を製造する。ここで、陽極液6とは、電解後の、例えば、濃度100g/リットル未満に濃度が低下した塩水である。
【0056】
本発明によれば、上記構成により、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを、オンサイトのコンパクトな製造設備において、安定的かつ効率的に、低コストで製造することができるものであり、次亜塩素酸ナトリウムの消費場所において、次亜塩素酸ナトリウムを容易に製造することが可能となる。よって、本発明の製造方法および製造装置は、従来はオンサイトでは得られなかった高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを、長期にわたり安定して得られる点に特徴を有するものである。
【0057】
本発明において、電解槽10におけるイオン交換膜1としては、いかなるものを用いてもよいが、スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜を用いることが好ましい。イオン交換膜1として、前述したように金属不純物による劣化が生じやすい二層膜を用いる場合に、本発明は特に有用である。
【0058】
また、本発明で用いる製造装置において、イオン交換膜1によって区画された電解槽10の陽極室2には、例えば、チタン等の金属基体上に白金族金属の酸化物を含む電極触媒物質の被覆が形成されてなる陽極14を設けることができる。一方、陰極室3には、ニッケルやステンレス、チタンからなるか、または、これらの金属に、水素過電圧を低下させるとともに長期的な耐久性に優れる陰極活性物質の被覆が形成されてなる陰極15を設けることができる。
【0059】
さらに、本発明において、塩水4および精製水5は、次亜塩素酸ナトリウムの目的生成量に応じて、濃度および流量を制御しつつ、電解槽10に供給することができる。陰極室3の上部からは、生成した水酸化ナトリウム水溶液8および水素ガス9が取り出され、このうち水酸化ナトリウム水溶液8は反応槽18に供給され、水素ガス9は外部に排出される。また、陽極室2の上部からは、電気分解により濃度が低下した塩水からなる陽極液6と、塩素ガス7とが取り出され、それぞれ反応槽18に供給される。
【0060】
反応槽18では、塩素と水酸化ナトリウムとが反応して、次亜塩素酸ナトリウム溶液12が生成する。ここで、反応槽18から取り出した次亜塩素酸ナトリウム溶液12は、製品として取り出すとともに、ポンプ16により冷却装置17に供給して冷却したのち、反応槽18に循環させることで、電解槽の温度上昇を防止するとともに、生成した次亜塩素酸ナトリウムの分解を防止することができる。
【0061】
本発明においては、有効塩素濃度5%~13%の次亜塩素酸ナトリウム溶液を、100kg/日~3000kg/日の製造量で製造することが可能である。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
【0063】
以下に示す実施例および比較例により得られた二次塩水を用いて、
図1に示す製造装置にて、次亜塩素酸ナトリウムの製造を行った。次亜塩素酸ナトリウム製造装置に搭載した電解槽10の電解面積は100cm
2とし、流す電流は40Aとした。また、陽極室2と陰極室3とを仕切るイオン交換膜1としては、食塩電解用途で広く用いられているデュポン(株)製のナフィオン(登録商標)N2030(スルホン酸層とカルボン酸層とで構成された二層膜)を使用した。
【0064】
(実施例1)
原料水として、硬度60mg/l(Ca換算で24mg/l)の岡山県玉野市水道水を用いた。原料水のpHは7.0であった。これを陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーライトIR120B)に透過させて、精製水を得た。この精製水のpHは7.4であった。これに、原塩としてのナクルN(ナイカイ塩業(株)製)を280g/lとなるように溶解させて、塩水(一次塩水)を生成した。この一次塩水のpHは7.9であった。
【0065】
一次塩水を静置した後、その上澄みをガラスビーカーに取り、目視観察を行うとともに、暗室中で、レーザー照射装置(Limate Corporation製)を用いてレーザー光(波長630-680nm)を照射して散乱光を観察したところ、液中にわずかに光路を見ることができ、液中に固形物の生成がほとんどない一次塩水が得られたと判断された。吸光度計(東亜DKK(株)製、HACH DR5000)を用いた測定では、濁度は0mg/l、Ca濃度は78mg/lであった。この一次塩水をキレート処理し(三菱ケミカル(株)製、CR-11 Na型 SV4.2h-1)、液中に固形物のない二次塩水を得た。この二次塩水の濁度は0mg/l、Ca濃度は11μg/lであり、電解槽に供給するために適切な二次塩水であった。
【0066】
この二次塩水を電解セルに供給して電解を行い、2週間後に電解セルを解体して陰極表面およびイオン交換膜の陰極側表面を観察したが、付着物は認められなかった。
【0067】
(比較例1)
原料水として、Ca濃度が200mg/lの模擬硬水を用いた。模擬硬水は2℃に冷却した純水に炭酸カルシウムを添加した後、炭酸ガスを一昼夜バブリングして炭酸カルシウムを溶解させた液を濾過して調製した。模擬硬水のpHは6.6であった。これを室温下で陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーライトIR120B)に透過させて、精製水を得た。精製水のpHは8.6であった。これに、原塩としてのナクルN(ナイカイ塩業(株)製)を280g/lとなるように溶解させて、塩水(一次塩水)を生成した。この一次塩水のpHは8.4であった。
【0068】
一次塩水を静置した後、その上澄みをガラスビーカーに取り、目視観察を行うとともに、暗室中で、レーザー照射装置(Limate Corporation製)を用いてレーザー光(波長630-680nm)を照射して散乱光を観察したところ、液中の浮遊物により発生した散乱光によって、液中にはっきりした光路を見ることができ、目視観察でも、やや濁りのある一次塩水が得られた。この一次塩水の濁度は11mg/l、Ca濃度は180mg/lであった。この一次塩水をそのままキレート処理したところ(三菱ケミカル(株)製、CR-11 Na型 SV4.2h-1)、一次塩水と同様にやや濁りのある二次塩水を得た。この二次塩水の濁度は7mg/l、Ca濃度は200μg/lであった。この二次塩水に塩酸を加えて振盪した後、Ca濃度を測定したところ、Ca濃度は18mg/lであり、二次塩水には多くのCaが含まれていた。
【0069】
この二次塩水を電解セルに供給して電解を行い、2時間後に電解セルを解体して陰極表面およびイオン交換膜の陰極側表面を観察したところ、カルシウムの水酸化物と推定される白い付着物を確認した。また、2時間の電解の間に、セル電圧は0.4V上昇した。
【0070】
(実施例2)
原料水として、Ca濃度が200mg/lの模擬硬水を用いた。模擬硬水は2℃に冷却した純水に炭酸カルシウムを添加した後、炭酸ガスを一昼夜バブリングして炭酸カルシウムを溶解させた液を濾過して調製した。模擬硬水のpHは6.6であった。これを室温下で陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーライトIR120B)に透過させて、精製水を得た。精製水のpHは8.6であった。これに、原塩としてのナクルN(ナイカイ塩業(株)製)を280g/lとなるように溶解させて、塩水(一次塩水)を生成した。一次塩水のpHは8.4であった。
【0071】
一次塩水を静置した後、その上澄みをガラスビーカーに取り、目視観察を行うとともに、暗室中で、レーザー照射装置(Limate Corporation製)を用いてレーザー光(波長630-680nm)を照射して散乱光を観察したところ、液中にはっきりした光路を見ることができ、目視観察でも、やや濁りのある一次塩水が得られた。この一次塩水の濁度は11mg/l、Ca濃度は180mg/lであった。この一次塩水に塩酸を添加して、pH6.0とした。塩酸添加後の一次塩水は濁りがなくなり(濁度4mg/l)、液中におけるレーザー光の軌跡も大幅に細くなったため、これをキレート処理し、濁りのない二次塩水を得た。この二次塩水の濁度は0mg/l、Ca濃度は11μg/lであり、電解槽に供給するために適切な二次塩水が得られた。
【0072】
この二次塩水を電解セルに供給して電解を行い、2週間後に電解セルを解体して陰極表面およびイオン交換膜の陰極側表面を観察したが、付着物は認められなかった。
【符号の説明】
【0073】
1 イオン交換膜
2 陽極室
3 陰極室
4 二次塩水
5 精製水
6 陽極液
7 塩素ガス
8 水酸化ナトリウム水溶液
9 水素ガス
10 電解槽
12 次亜塩素酸ナトリウム溶液
14 陽極
15 陰極
16 ポンプ
17 冷却装置
18 反応槽
A 原料水
B 陽イオン交換樹脂
C 塩溶解槽
D 原塩
E 一次塩水
F キレート槽