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▶ サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】分光計のための診断試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/71 20060101AFI20240229BHJP
   G01N 21/67 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N21/71
G01N21/67 A
【請求項の数】 19
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021190368
(22)【出願日】2021-11-24
(65)【公開番号】P2022082533
(43)【公開日】2022-06-02
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】2018380.2
(32)【優先日】2020-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】アイラト ムルタジン
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ガイスラー
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-005832(JP,A)
【文献】特開2014-215055(JP,A)
【文献】特開2007-078640(JP,A)
【文献】特開平06-109639(JP,A)
【文献】特開2006-064449(JP,A)
【文献】特開平10-332485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/74
G01J 3/00-G01J 3/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線スペクトル源を含む分光計の検出器のための診断試験方法であって、前記線スペクトル源が、励起種からスペクトル線の少なくとも1つの分岐対を放出するように構成可能であり、
前記診断試験方法が、
複数の条件の診断測定を前記検出器に対して行うための複数の検出器診断測定を実行することであって、各検出器診断測定が、
前記検出器を使用して、前記線スペクトル源の励起種によって放出される第1のスペクトル線の強度を測定することと、
前記検出器を使用して、前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される第2のスペクトル線の強度を測定することと、を含み、
前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線が、スペクトル線の分岐対を形成し、
前記分光計が、前記複数の検出器診断測定のために、前記検出器に入射する前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線の強度を変化させるために制御される、実行することと、
前記複数の検出器診断測定の各々について、前記第2のスペクトル線の前記強度に対する前記第1のスペクトル線の前記強度の比に基づいて、前記検出器の動作状態を診断することと、を含
診断された前記検出器の前記動作状態が、正常動作状態または不規則的動作状態を含む、診断試験方法。
【請求項2】
前記線スペクトル源、前記検出器、および前記線スペクトル源と前記検出器との間の1つ以上の光学素子のうちの少なくとも1つが、前記複数の検出器診断測定のために、前記検出器に入射する前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線の前記強度を変化させるために制御される、請求項1に記載の診断試験方法。
【請求項3】
前記線ペクトル源が、プラズマ源である、請求項1または2に記載の診断試験方法。
【請求項4】
前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線の前記強度を変化させるために前記プラズマ源を制御することが、プラズマ電力、プラズマガス流量、ネブライザガス流量、および冷却ガス流量のうちの1つ以上を制御することを含む、請求項3に記載の診断試験方法。
【請求項5】
前記第1のスペクトル線の前記強度の前記測定が、前記第2のスペクトル線の前期強度の前記測定と同時に実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項6】
前記線スペクトル源の励起種によって放出されるスペクトル線の異なる対を使用して、さらなる複数の検出器診断測定を実行すること、をさらに含み、
前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される前記スペクトル線の前記異なる対が、前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線に対してスペクトル線の異なる分岐対を形成する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項7】
前記不規則的動作状態が診断される場合、前記方法が、前記複数の検出器診断測定の各々について、前記第2のスペクトル線の前記強度に対する前記第1のスペクトル線の前記強度の比に基づいて、非線形動作状態または過剰ノイズ動作状態を診断することをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項8】
前記検出器の前記正常動作状態を診断することが、前記複数の検出器診断測定の各々について、前記第2のスペクトル線の前記強度に対する前記第1のスペクトル線の前記強度の比が、線形関係を形成すると判定することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項9】
線形関係が、前記複数の検出器診断測定について判定された前記比の各々が所定の範囲内にあるときに判定される、請求項8に記載の診断試験方法。
【請求項10】
前記非線形動作状態が診断される場合、前記診断試験方法が、
スペクトル線の分岐対を形成する前記第1のスペクトル線および/または前記第2のスペクトル線が、自己吸収現象の影響を受けているかどうかを判定することをさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項11】
前記第1のスペクトル線および/または前記第2のスペクトル線の自己吸収が判定される場合、前記診断方法が、異なる波長を有する分岐スペクトル線の異なる対を使用して繰り返される、請求項10に記載の診断試験方法。
【請求項12】
前記非線形動作状態が診断される場合、前記診断試験方法が、
前記第1のスペクトル線の測定値および/または前記第2のスペクトル線の測定値が、線位置決め誤差の影響を受けるかどうかを判定する、請求項5~11のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項13】
線位置決め誤差が発生したと判定される場合、
前記分光計が、線位置決め誤差を低減するように調整され、前記複数の検出器診断測定が繰り返されるか、または、
前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線の測定が、前記線位置決め誤差を考慮するために再較正され、前記検出器の前記動作状態が、前記複数の検出器診断測定の各々について、前記第2のスペクトル線の再較正された強度に対する前記第1のスペクトル線の再較正された強度の比に基づいて判定される、請求項12に記載の診断試験方法。
【請求項14】
前記診断試験方法が、
光電子増倍管検出器、電荷結合検出器(CCD)、相補型金属酸化物半導体(CMOS)検出器、および電荷注入デバイス(CID)検出器のうちの少なくとも1つ以上で実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項15】
前記励起種が、
前記プラズマ中に噴霧される既知の濃度を有する標準溶液、または、
プラズマガス種、のうちの1つ以上によって提供される、請求項1~14のいずれか一項に記載の診断試験方法。
【請求項16】
プラズマ源および検出器を備える分光計のための発光分光法の方法であって、請求項1~15のいずれか一項に記載の前記診断試験方法を含む、方法。
【請求項17】
分光計であって、
励起種からスペクトル線の少なくとも1つの分岐対を放出するように構成された線スペクトル源と、
検出器と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラが、前記分光計に前記検出器の診断試験を実行させるように構成され、前記実行させることが、
複数の条件の診断測定を前記検出器に対して行うために、前記分光計に複数の検出器診断測定を実行させることを含み、各診断検出器測定について、
前記検出器が、前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される第1のスペクトル線の強度を測定するように構成されており、
前記検出器が、前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される第2のスペクトル線の強度を測定するように構成されており、
前記線スペクトル源の前記励起種によって放出される前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線が、スペクトル線の分岐対を形成し、
前記コントローラが、前記複数の検出器診断測定のために、前記検出器に入射する前記第1のスペクトル線および前記第2のスペクトル線の前記強度を変化させるために前記分光計を制御するように構成されており、
前記コントローラが、前記複数の検出器診断測定の各々について、前記第2のスペクトル線の前記強度に対する前記第1のスペクトル線の前記強度の比に基づいて、前記検出器の動作状態を診断するように構成され、
診断された前記検出器の前記動作状態が、正常動作状態または不規則的動作状態を含む、分光計。
【請求項18】
実行されるときに、請求項17に記載の分光計に、請求項1~15のいずれか一項に記載の診断試験方法または請求項16に記載の発光分光法の方法を実行させる命令を含むコンピュータプログラム。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータプログラムを格納しているコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分光計に関する。特に、本開示は、プラズマ光源を備える分光計に関する。
【背景技術】
【0002】
分光計などの分析機器の動作は、いくつかの高準位アセンブリ(HLA)部品間の相互作用を伴う。分析機器の円滑な動作を確実にするために、HLA部品の動作が予想される挙動から逸脱するときを識別できることは有益である。特定のHLA部品をさらなる障害検出ステップから除外するために、この部品が予想どおりに動作しているかどうかを識別できることも有益であり得る。さらに、挙動が逸脱しているHLA部品を早期に検出することは、予測的保守が実行されることを可能にし得る。
【0003】
逐次分析プラズマ分光計では、1つのそのようなHLA部品は、光電子増倍管(PMT)などの単一チャネル検出器であり、同時分析プラズマ分光計では、1つのそのようなHLA部品は、電荷結合検出器(CCD)、相補型金属酸化物半導体(CMOS)検出器、または電荷注入装置(CID)検出器カメラなどの多重チャネル検出器である。単一チャネル検出器または多重チャネル検出器の挙動を確認するために、既知の広い波長スペクトルおよび調整可能な放射線束を有する別の光源が使用され得る。水銀ペンランプ、重水素ランプ、またはタングステンランプが、通常、この目的のために使用される。
【0004】
検出器の挙動を確認するために、別の光源を分光計に取り付けて調整することができる。代替的に、検出器を分光計から取り外し、安定した光源を備えた試験リグで試験することができる。このように、光源を用いて検出器を試験するには、分光計のある程度の手動での組み立て/取り外しを伴う。
【0005】
さらに、試験に使用される光源は時間とともに劣化することが知られている。したがって、光源はまた、既知の広い波長スペクトルを維持するために、定期的に再較正されなければならない。
【0006】
分析プラズマ分光計の検出器の挙動をチェックするための別の既知の方法は、既知の濃度の一連の標準溶液をプラズマに噴霧し、標準種によって生成される分析信号を測定することである。異なる濃度を有する標準溶液を調製し、プラズマに噴霧してプラズマ観察ゾーン内部に異なる濃度の検体原子を作成し、したがって検出器において異なる光強度を生成することができる。標準溶液の調製および保守には時間がかかり、これは、溶液が時間経過に伴って溶液の濃度が経時的に変化し得るためである。異なる濃度レベルで溶液を変更することは、ユーザの介入またはオートサンプラの使用を必要とする。標準溶液ベースの方法は、希釈誤差を起こしやすいことが知られている。さらに、標準溶液濃度が変化するときの光源内部の溶液流量、噴霧効率、および温度の変化は、濃度に対する測定された信号の依存性に非線形性を生じさせる。このような光源に起因する非線形性は、検出器の応答が非線形であるという誤った結論につながることがある。
【0007】
上記の非線形性の光源に加えて、別の非線形性の光源は、定常状態(つまり、非励起)または準定常状態(励起されているが長い寿命)にある種が、(より)励起状態にある(例えば、より高いエネルギーレベルにある)同じ種によって放出される光の一部分を吸収するときに現れる自己吸収現象である。
【0008】
標準溶液ベースの方法および外部光源方法の両方の精度は、完全に動作する検出器の場合でさえ、光源によって生成されるランダムノイズによって制限される。このランダムノイズは、検出器によって実行される各測定において存在し、典型的には、信号の最大数パーセントまでになる。光源ノイズの主な成分は、ショットノイズおよびフリッカノイズである。
【0009】
1つの既知のタイプの分光計は、分析プラズマ分光計である。このような分光計は、誘導結合プラズマ(ICP)、レーザ誘起プラズマ(LIP)、マイクロ波誘起プラズマ(MIP)、電気アークまたは火花放電を光放射源として使用し得る。ICP光源およびLIP光源からの光放射を使用して、各々、P.S.Doidgeら、Spectrochim.Acta、1999年、B54巻、2167~2182頁、およびX.Li、B.W.Smith、N.Omenetto、J.Anal、At.Spectrom.、2014年、29巻、657~664頁において、分光計のスペクトル応答を判定した。これらの論文では、同じプラズマガスまたは検体元素の同じ上限エネルギー準位に由来するスペクトル線の対の強度が測定された。分光計のスペクトル応答曲線を計算するために、スペクトル線のこれらの対の相対強度が、スペクトル線の対の既知の分岐比とともに取得された。広い波長範囲にわたるシステムのスペクトル応答曲線を構築するために、広い波長範囲にわたって波長が重なるスペクトル線の対が測定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示の目的は、先行技術の方法に関連する少なくとも1つ以上の問題に対処する、または少なくともそれに対する商業的に有用な代替策を提供する、分光計源の検出器のための改善された診断試験方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示で説明されるように、該線スペクトル源を備える分光計の検出器のための診断試験を実行するために、好適な線スペクトル源の種によって放出される分岐スペクトル線の対の間の強度関係を使用することが可能である。
【0012】
本開示の第1の態様によれば、線スペクトル源を備える分光計の検出器のための診断試験方法が提供される。線スペクトル源は、励起種からスペクトル線の少なくとも1つの分岐対を放出するように構成可能である。本診断試験方法は、
複数の検出器診断測定を実行することであって、各検出器診断測定が、
検出器を使用して、線スペクトル源の励起種によって放出される第1のスペクトル線の強度を測定することと、
検出器を使用して、線スペクトル源の励起種によって放出される第2のスペクトル線の強度を測定することと、を含み、
線スペクトル源の励起種によって放出される第1のスペクトル線および第2のスペクトル線が、スペクトル線の分岐対を形成しており、
分光計が、複数の検出器診断測定のために検出器に入射する第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるために制御される、実行することと、
複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の強度に対する第1のスペクトル線の強度の比に基づいて、検出器の動作状態を診断することと、を含む。
【0013】
有利には、第1の態様による方法は、分光計の検出器のための診断試験方法の一部分として、分光計の線スペクトル源を利用する。第1の態様による方法は、本診断試験方法を実行するために、外部光源を必要とせず、線スペクトル源または検出器を分光計から取り外す必要もない。それどころか、分光計の検出器の動作状態は、分光計の線スペクトル源を使用することによってその場で診断することができる。検出器の動作状態をその場で診断することにより、本診断試験方法は、検出器(HLA部品)の挙動が予想どおりに行われているかどうか、または検出器のさらなる調査が必要とされるかどうかを迅速かつ効率的に識別することができる。このように、本診断試験方法は、分光計の障害診断プロセスまたは保守プロセスを改善し得る。
【0014】
本発明の第1の態様の診断方法は、線スペクトル源の励起種(例えば、ICP源中のアルゴン)によって放出されるスペクトル線を利用する。このように、第1の態様による診断試験方法はまた、標準溶液を使用せずに実行され、励起種を提供し得る。線スペクトル源からのスペクトル放出を使用することにより、標準溶液の希釈または時間経過による変化に関連付けられ得る、あらゆる測定不確実性が回避される。したがって、第1の態様の方法は、改善された効率および精度を有する診断試験方法を提供する。
【0015】
第1の態様の診断試験方法は、分岐スペクトル線の対の間の強度関係を利用する。この関係は、線スペクトル源内部の状態および線スペクトル源内の関連付けられた種の濃度とは無関係である。したがって、第1の態様による診断試験方法は、改善された正確度で実行され得る。さらに、本診断試験方法は、分光計のさらなる調整を必要としないことがあるため、本診断試験方法は、全体的または部分的に自動化された分光計診断ワークフローに容易に組み込まれ得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、励起種は、プラズマに噴霧される既知の濃度を有する標準溶液、またはプラズマガス種のうちの1つ以上によって提供される。励起種が標準溶液によって提供されるいくつかの実施形態では、診断方法は、毎回異なる既知の濃度を有する標準溶液を使用して、複数回実行され得る。したがって、本診断試験方法は、診断試験方法の正確度をさらに改善するために、濃度曲線の生成を含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、複数の検出器診断測定のために、検出器に入射する第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるために、線スペクトル源、検出器、および線スペクトル源と検出器との間の1つ以上の光学素子のうちの少なくとも1つが制御される。分光計の制御を通じてスペクトル線の強度を変化させることによって、本診断試験方法は、自動試験プロセスとして容易に実装され得る。
【0018】
線スペクトル源によって、電磁放射源が提供されることが理解される。電磁放射(例えば、光)は、線スペクトル源の励起種によって放出される。線スペクトル源は、1つ以上の励起種を含み得る。励起種は、より高い準位のエネルギー状態に励起される種であることが理解される。電磁放射は、種が高準位のエネルギー状態から低準位に遷移するときにスペクトル線として放出される。スペクトル線の分岐対は、種が同じ高準位のエネルギー状態から異なる低準位のエネルギー状態に遷移するときに形成される。このように、線スペクトル源は、同じ高準位のエネルギー状態から異なる低エネルギー準位への放射遷移によって生成されるスペクトル線(第1のスペクトル線および第2のスペクトル線)の少なくとも1つの対を有する光を放出することが理解される。
【0019】
いくつかの実施形態では、線スペクトル源はプラズマ源である。例えば、プラズマ源は、誘導結合プラズマ源(ICP)、レーザ誘起プラズマ(LIP)、マイクロ波誘起プラズマ(MIP)、電気アークもしくはスパーク放電、または任意の他のプラズマ源であってもよい。いくつかの実施形態では、線スペクトル源は、炎または炉であってもよい。いくつかの実施形態では、励起種は、プラズマ源内に噴霧される既知の濃度を有する標準溶液によって提供される。
【0020】
線スペクトル源がプラズマ源であるいくつかの実施形態では、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるためにプラズマ源を制御することは、補助ガス流量、ネブライザガス流量、および冷却ガス流量のうちの1つ以上を制御することを含む。分光計は、補助ガス流量、ネブライザガス流量、および/または冷却ガス流量を制御するために、1つ以上の質量流量コントローラを備え得る。したがって、本診断試験方法は、追加の制御構成要素なしで、経済的に分光計に実装され得る。
【0021】
いくつかの実施形態では、同時分光計が使用される場合、第1のスペクトル線の強度の測定は、第2のスペクトル線の強度の測定と同時に実行される。第1のスペクトル線および第2のスペクトル線を同時に測定することにより、第1のスペクトル線の測定に存在するフリッカノイズは、第2のスペクトル線の測定に存在するフリッカノイズと相関する。このフリッカノイズは、2つの測定値の比に基づいて判定されるため、検出器の動作状態のその後の判定から低減または除去され得る。フリッカノイズを除去することによって、検出器の動作状態が非常に高い精度で診断され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、本診断試験方法は、線スペクトル源の励起種によって放出されるスペクトル線の異なる分岐対を使用して、さらなる複数の検出器診断測定を実行することをさらに含む。スペクトル線の異なる分岐対は、線スペクトル源の同じ励起種、または線スペクトル源の異なる励起種によって放出され得る。次いで、検出器の動作状態の判定は、さらなる複数の検出器診断測定の各々について、スペクトル線の異なる分岐対の強度の比を考慮に入れ得る。このように、本診断試験方法は、線スペクトル源によって放出される分岐スペクトル線の複数の対を使用して繰り返され得る。分岐スペクトル線の複数の対を使用することによって、本診断試験方法の測定範囲および正確度がさらに改善され得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、診断される検出器の動作状態は、正常動作状態、または不規則的動作状態を含む。正常動作状態によって、さまざまな強度のスペクトル線に対する検出器の応答が、分光計で実行される実験の目的に対して十分に線形な応答であることが理解される。当業者は、予想される実験ノイズのために、正常動作状態下で動作する検出器の応答厳密に線形ではないことがあることを理解する。このように、検出器の正常動作状態は、実質的に線形である(すなわち、線形と考えられる狭い範囲内の)応答を有し得る。いくつかの実施形態では、線形と考えられることの範囲(すなわち、正常動作の範囲)は、本診断試験方法のための入力パラメータとしてユーザによって指定され得る。
【0025】
不規則的動作状態によって、検出器の応答が、予想通りに挙動していないことが理解される。いくつかの実施形態では、不規則的動作状態は、非線形動作状態および過剰ノイズ動作状態を含み得る。このように、本診断試験方法は、不規則的動作状態を、非線形動作状態または過剰ノイズ動作状態(または、任意の他の動作状態)の結果であるものとして分類し得る。そのため、不規則的動作状態が診断される場合、本方法は、複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の強度に対する第1のスペクトル線の強度の比に基づいて、非線形動作状態または過剰ノイズ動作状態を診断することをさらに含み得る。
【0026】
非線形動作状態では、本診断方法は、その比が予想される線形挙動から系統的に逸脱していると診断する。さまざまな強度のスペクトル線に対する検出器の応答が、分光計で実行される実験の正確度に悪影響を与える程度まで非線形であることが理解される。このように、非線形の動作状態の判定は、検出器にさらに調査を必要とし得る障害があることを示すものであり得る。
【0027】
過剰ノイズ動作状態では、各診断測定についての比が、予想される線形関係の周りで過剰かつランダムに変動する。
【0028】
いくつかの実施形態では、検出器の正常動作状態を診断することは、複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の強度に対する第1のスペクトル線の強度の比が線形関係を形成すると判定することを含む。例えば、線形関係は、複数の検出器診断測定について、判定された比の各々が所定の範囲内にあるときに判定され得る。いくつかの実施形態では、複数の検出器診断測定について、第2のスペクトル線に対する第1のスペクトル線の強度の比が実質的に一定である場合に、正常動作状態が判定され得る。実質的に一定であることによって、本方法は、複数の検出器診断測定について、強度比の残留標準偏差に基づいて正常動作状態を診断し得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、不規則的(または非線形)動作状態が診断される場合、本診断試験方法は、スペクトル線の分岐対を形成する第1のスペクトル線および/または第2のスペクトル線が自己吸収現象の影響を受けるかどうかを判定することをさらに含む。自己吸収現象は、第1のスペクトル線および/または第2のスペクトル線の光が線スペクトル源の同じ種と相互作用し、それによって(遷移確率に基づいて)予想値に対してそれぞれのスペクトル線の強度を低下させるときに発生する。本診断試験方法はまた、判定された不規則的(または非線形)動作状態が、検出器の動作状態ではなく、自己吸収現象によって説明され得るかどうかを確認するためのチェックを実行し得る。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1のスペクトル線および/または第2のスペクトル線の自己吸収が判定される場合、本診断方法は、異なる波長を有する分岐スペクトル線の追加の対を使用して再び実行され得る。したがって、本診断試験方法は、線スペクトル源に存在し得るあらゆる自己吸収を検出し、自己補正し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、不規則的動作状態が診断された場合、本診断試験方法は、第1のスペクトル線の測定および/または第2のスペクトル線の測定が線位置決め誤差の影響を受けるかどうかを判定することをさらに含む。線位置決め誤差は、検出器に入射する第1のスペクトル線および/または第2のスペクトル線の位置がそれらの予想される位置に対してシフトしたときに発生する。線位置決め誤差は、1つ以上の光学素子などの温度変化、ならびに光源スペクトル線のシフトおよび広がりによって引き起こされ得る。この誤差は、測定信号生成に使用されるスペクトル線プロファイル部分を増加させ、すべての測定を短い時間枠で行うことによって大幅に低減することができる。線位置決め誤差が依然として発生しているかどうかを確認することによって、本診断試験方法の信頼性がさらに改善され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、線位置決め誤差が発生したと判定される場合、分光計は、線位置決め誤差を低減するように調整される。調整の後に、複数の検出器診断測定が繰り返され得る。調整後に測定を繰り返すことによって、検出器の診断測定の正確度が改善され得る。いくつかの実施形態では、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の測定は、線位置決め誤差を考慮するために再較正され得、検出器の動作状態は、複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の再較正された強度に対する第1のスペクトル線の再較正された強度の比に基づいて判定される。このように、いくつかの実施形態では、分光計は、測定を繰り返すことなく線位置決め誤差を考慮し得る。このような特徴により、比較的迅速に実行される診断試験方法を可能にし得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、本診断試験方法は、光電子増倍管検出器、電荷結合検出器(CDD)、相補型金属酸化物半導体(CMOS)検出器、電荷注入デバイス(CID)検出器のうちの1つ以上で実行される。このように、本診断試験方法は、広範囲の検出器を組み込んだ広範囲の分光計で実行され得る。
【0034】
本開示の第2の態様によれば、分光計のための発光分光法の方法が提供される。分光計は、プラズマ源および検出器を備える。第2の態様の方法は、本開示の第1の態様の診断試験方法を実行することを含む。例えば、第2の態様によれば、本診断試験方法は、発光分光分析ワークフローの一部分として実行され得る。代替的に、本診断試験方法は、発光分光計の保守ワークフローの一部分として実行され得る。
【0035】
本開示の第2の態様の方法は、本開示の第1の態様および任意の関連する利点に関して上で考察される任意選択的な特徴のうちのいずれかを組み込み得る。
【0036】
本開示の第3の態様によれば、分光計が提供される。分光計は、プラズマ源、検出器、およびコントローラを備える。分光計は、検出器の診断試験を実行するように構成されている。コントローラは、複数の検出器診断測定を実行するように構成されており、各診断検出器測定のために、
検出器は、プラズマ源の素子によって放出される第1のスペクトル線の強度を測定するように構成されており、
検出器は、プラズマ源の素子によって放出される第2のスペクトル線の強度を測定するように構成されており、
プラズマ源の素子によって放出される第1のスペクトル線および第2のスペクトル線は、スペクトル線の分岐対を形成する。
【0037】
コントローラは、複数の検出器診断測定のために、検出器に入射する第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるために分光計を制御するように構成されている。コントローラは、複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の強度に対する第1のスペクトル線の強度の比に基づいて、検出器の動作状態を診断するように構成されている。
【0038】
したがって、本開示の第3の態様によれば、本開示の第1の態様の診断試験方法を実行するように構成された分光計が提供され得る。分光計はまた、本開示の第2の態様による発光分光法の方法を実行するように構成され得る。
【0039】
本開示の第3の態様の分光計は、本開示の第1の態様または第2の態様および任意の関連する利点に関して上で考察される任意選択的な特徴のうちのいずれかを組み込み得る。
【0040】
本開示の第4の態様によれば、コンピュータプログラムが提供される。コンピュータプログラムは命令を含み、その命令は、実行されるときに、本開示の第3の態様の分光計に、本開示の第1の態様による診断試験方法または本開示の第2の態様による発光分光法の方法を実行させる。
【0041】
本開示の第5の態様によれば、第4の態様のコンピュータプログラムを格納しているコンピュータ可読媒体が提供される。
次に、本発明の実施形態が、単なる実施例として、以下の添付の図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本開示の一実施形態による分光計の概略図を示す。
図2】スペクトル線の分岐対を生成する励起種の説明図を示す。
図3a】本開示の一実施形態による診断試験方法の例示的なフローチャートを示す。
図3b】本開示の別の実施形態による診断試験方法の例示的なフローチャートを示す。
図4】異なるプラズマ源の電力準位に対する分岐対スペクトル線強度のグラフを示す。
図5図4および図6の強度が互いに対してプロットされたグラフを示す。
図6】異なるネブライザガス流量に対する分岐対スペクトル線強度のグラフを示す。
図7】ネブライザガス流量(NGFR)を変化させた場合の発光分光計によって得られたAr分岐ファミリーIIのスペクトル線強度のグラフを示す。
図8】a)互いに対してプロットされた図7のスペクトル線強度のグラフ、およびb)a)段に示される各スペクトル線についての残差のプロットを示す。
図9】a)互いに対してプロットされたネブライザガス流量を変化させた場合の発光分光計によって得られたAr分岐ファミリーIIIのスペクトル線強度のグラフ、およびb)a)段に示される各スペクトル線についての残差のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示の一実施形態によれば、分光計10が提供される。分光計10は、本開示の実施形態による診断試験方法を実行するように構成されている。分光計10の概略図が図1に示されている。図1に示されるように、分光計10は、線スペクトル源11、光学装置12、検出器13、プロセッサ(μP)14、メモリ15、および入力/出力(I/O)ユニット16を備える。
【0044】
図1の実施形態では、線スペクトル源11は、誘導結合プラズマ(ICP)源などのプラズマ源である。他の実施形態では、線スペクトル源11は、励起種を生成する炉または任意の他の高温光源であってもよい。図2は、線スペクトル源11内の種の可能な励起状態の説明図を示している。例えば、図1のICP源では、励起種はプラズマガスの元素であってもよい。図2に示されるように、励起種は、異なる集合n1、n2、n3を有する複数の異なる励起状態(インデックス1、2、3によって表される)、および集合n0を有する基底状態(インデックス0で表される)を有し得る。図2に示されるように、より高準位の励起状態(3)とより低準位のエネルギー状態(2、1、0)との間の励起種の遷移は、エネルギー準位(hv32、hv31、hv30)の変化に対応するエネルギーを有する光子の放出をもたらす。放出される各スペクトル線(l32、l31、l30)の相対強度は、それぞれの遷移に対する遷移確率(A32、A31、A30)に比例する。比較的高準位の励起状態(例えば、3)の励起種は、3つ以上の異なるエネルギー準位(例えば、2、1、または0)に遷移し得ることが理解されよう。したがって、励起状態エネルギー準位は、スペクトル線の2つ以上の分岐対を生じさせ得る。例えば、図2に示されるように、3つの励起状態エネルギー準位間の遷移は、スペクトル線l32およびl31の第1の分岐対、ならびにスペクトル線l32およびl30の第2の分岐対を生じさせる。いくつかの実施形態では、スペクトル線のいずれもが共振線ではない分析の場合、スペクトル線の分岐対を選択することが好ましいことがある。例えば、図2の実施例では、第2の分岐対は、共振線であるスペクトル線l30を含み、したがって自己吸収効果を受けやすいことがある。励起過剰投入エネルギーレベル(準定常レベル)への遷移に起因するいくつかのスペクトル線はまた、自己吸収効果を受けやすいことがある。
【0045】
図1の実施形態では、光学装置12は、線スペクトル源11によって生成される光のエシェルスペクトルを生成するために、エシェル格子およびプリズム(および/またはさらなる格子)を備え得る。2次元エシェルスペクトルの像が、検出器13上に形成される。このように、光学素子は、検出器13上にエシェルスペクトルを生成するように構成されている。光学装置12は、放射線が検出器13による検出に好適であるように、放射線を線スペクトル源11から検出器に向けるように構成されていることが理解されよう。このように、エシェルスペクトルが検出器によって検出されない他の実施形態では、光学装置12は、所望の形態の放射線を検出器13に送達するように適合され得る。
【0046】
図1の実施形態では、検出器13は、CCD(電荷結合デバイス)アレイであってもよい。典型的なCCDアレイは、少なくとも約1024x1024ピクセル(1メガピクセル)を有し得る。CCDアレイは、エシェルスペクトルの測定された光量に対応するスペクトル強度値を生成し、スペクトル値をプロセッサ14に転送するために配置され得る。このように、検出器13は、複数の異なる波長を検出するように構成された多重チャネル検出器であってもよい。検出器13(図1の実施形態におけるような)は、エシェルスペクトルを検出するように構成され得る。他の実施形態では、検出器13は、CMOSまたはCID検出器であってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、検出器13は、光電子増倍管(PMT)などの単一チャネルデバイスであってもよい。波長の選択およびフィルタリングは、光学装置12を使用して実行され得る。このように、いくつかの実施形態における光学装置12は、第1のスペクトル線または第2のスペクトル線のいずれが検出器13に入射するかを選択するために使用され得る。プロセッサ14は、検出器13に入射し得る光の波長を選択するために、光学装置12を制御するように構成され得る。
【0048】
プロセッサ14(コントローラ)は、市販のマイクロプロセッサなどを備え得る。メモリ15は、好適な半導体メモリとすることができ、プロセッサ14が本開示による方法の実施形態を実行することを可能にする命令を格納するために使用され得る。プロセッサ14およびメモリ15は、分光計を制御して本開示の実施形態による診断試験方法を実行するように構成され得る。このように、メモリ15は命令を含み、この命令は、プロセッサ14によって実行されるときに、分光計に本開示の実施形態による診断試験方法を実行させる。
【0049】
次に、検出器13の診断試験方法が、図3aを参照して説明される。本診断試験方法は、図1に示される分光計10によって、ユーザの介入を伴って、または完全に自動的に実行され得る。
【0050】
最初に、ステップ101において、プロセッサ14は、本診断試験方法で使用される線スペクトル源11によって放出される分岐スペクトル線の対を選択する。このように、プロセッサ14は、測定する第1のスペクトル線および測定する第2のスペクトル線を選択する。図1の実施形態では、選択されたスペクトル線の分岐対は、ICPプラズマ源内のプラズマガスの励起素子によって放出される分岐スペクトル線の対に対応し得る。プラズマ源および他の線スペクトル源の分岐スペクトル線の対の波長は、当業者に周知である。例えば、いくつかの分岐対スペクトル線が、P.S.DOIDGEら、1999年において同定されており、またはNIST Atomic Spectra Databaseなどのスペクトル線データベースにおいて容易に見出すことができる。本方法に従って測定される分岐スペクトル線の対は、メモリ15に格納されたスペクトル線波長の所定のリストからプロセッサ14によって選択され得る。代替的に、本診断試験方法で測定される分岐スペクトル線の対は、本診断試験方法の開始前に、プロセッサ14への入力としてユーザによって選択され得る。
【0051】
次に、ステップ102において、複数の検出器診断測定が実行され得る。各検出器診断測定は、検出器13を使用して、線スペクトル源11によって放出される第1のスペクトル線の強度を測定することを含む。複数の検出器診断測定は、検出器13を使用して、線スペクトル源11によって放出される第2のスペクトル線の強度を測定することも含む。このように、検出器13は、プロセッサ13によって最初に選択されたスペクトル線の分岐対に関連付けられた2つのスペクトル線を測定する。
【0052】
第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度の測定は、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させながら、検出器13によって複数回繰り返される。分光計10(例えば、プロセッサ14)は、例えば、線スペクトル源11を制御することによって、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させ得る。図1の実施形態では、スペクトル線の分岐対の強度は、線スペクトル源11に供給される電力を制御することによって変化され得る。ICPスペクトル源の場合、電力は、例えば、規則的に離間された間隔(例えば、200W間隔)で800W~1600Wに変化させられ得、スペクトル線の分岐対の測定は、各間隔で実行され得る。いくつかの実施形態では、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の各々の単一の測定のみが各強度準位で行われ得、他の実施形態では、複数の測定(すなわち、繰り返し測定)が各強度準位で実行され得る。複数の測定を実行することにより、本診断試験方法は、測定におけるショットノイズ成分を最少化し、したがって、試験の精度を改善することを可能にし得る。
【0053】
図3aの実施形態では、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度の測定が同時に実行される。第1のスペクトル線よび第2のスペクトル線の測定を同時に実行することによって、第1のスペクトル線の測定に存在するフリッカノイズは、第2のスペクトル線の測定に存在するノイズと相関することになる。これら2つの測定値の比は、フリッカノイズ成分を含まない。したがって、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の同時測定を実行することにより、非同時測定を実行することに比較して、検出器13の線形性が改善された精度で判定されることを可能にし得る。
【0054】
当然ながら、検出器13(例えば、光電子増倍管を含む検出器)が異なる波長の光の同時測定を実行するように構成されていない他の実施形態では、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の測定は、異なる時間に実行され得る。スペクトル線の各分岐対の第1のスペクトル線および第2のスペクトル線が同時に測定されないいくつかの実施形態では、第2のスペクトル線は、同じ実験条件(例えば、出力レベル)下で各検出器診断測定について第1のスペクトル線の直後に測定され得る。このようにスペクトル線を測定することによって、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線に存在するフリッカノイズは、より密接に相関され、それによって本診断試験方法の精度を改善し得る。
【0055】
第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度のグラフが図4に示されている。図4に示されるように、異なるスペクトル線強度で複数の診断検出器測定を実行するために、ネブライザガス流を変化させる。いくつかの実施形態では、各スペクトル線の単一の測定が、各強度で実行される。他の実施形態では、複数の診断検出器測定が、必要に応じて、各強度設定で実行され得る。図4に示されるデータ点は、本発明の実施形態によって生成されたデータの実施例として、異なるネブライザガス流量に対するスペクトル線強度のシミュレーションによって生成されている。
【0056】
複数の検出器診断測定の実行の後に、プロセッサ14は、複数の検出器診断測定に基づいて検出器の動作状態を診断し得る。図3aのステップ103に示されるように、検出器の動作状態を診断するための1つの方法は、第2のスペクトル線の各測定された強度を、対応する第1のスペクトル線の測定された強度に対してプロットすることである。このようなグラフの実施例が、図5に示されている。図5は、図4および図6のデータのプロットを示している。2つのスペクトル線についての遷移確率およびスペクトル応答の比は一定であるため、スペクトル線の強度のグラフは線形関係を形成するはずであることが当業者によって理解されよう。スペクトル線の強度が線形関係を形成しないか、または広範囲に散乱する場合、プロセッサ14は、検出器が予想された通りに実行されていない(不規則的動作状態)と診断し得る。
【0057】
したがって、ステップ104において、プロセッサ14は、複数の検出器診断測定の各々について、第2のスペクトル線の強度に対する第1のスペクトル線の強度の比の定常性(または、言い換えれば、遷移確率およびスペクトル応答値によって定義される傾きを有する直線に対する測定された強度点の密接度)に基づいて、検出器13の動作状態を診断する。
【0058】
例えば、いくつかの実施形態では、回帰直線パラメータは、強度測定の対(例えば、I32/I31)についてプロセッサ14によって計算され得る。これらのパラメータは、通常の最小二乗法、または好ましくは直交最小二乗法(K.Danzerら、Fresenius J.Anal.Chem、1995年、352巻、407-412頁およびW.Bablok、H.Passing J.Automatic Chem、1985年、7巻、74~79頁の実施例を参照)、またはPassing-Bablok法(H.Passing、W.bablok、J.Clin.Chem.Clin.Biochem.、1983年、21巻、709~720頁)などの非パラメトリック法によって計算することができる。次いで、残差、すなわち、前のステップで得られた回帰直線までの測定点の距離が、プロセッサ14によって計算され得る。検出器が正常動作状態で動作している場合、計算された残差は、ゼロに等しいそれらの平均値の非常に近くにランダムに分布すると予想される。次いで、プロセッサは、各相対残差(すなわち、測定点から回帰直線までの距離を、回帰直線の対応する点からプロット原点までの距離で除算したもの)を所定の臨界値と比較し得、計算された相対残差のうちの1つ以上が臨界値を超える場合、プロセッサ14は、検出器の動作状態が不規則的であると判定し得る。所定の臨界値は、メモリ15に格納され得るか、または、例えば、プロセッサ14を使用してユーザによって指定され得る。
【0059】
いくつかの実施形態では、残差の標準偏差を使用して、例えば、「Is My Calibalia Linarice?」、Analist、1994年11月、第119巻、2363~2366頁、およびIUPACの「Guidelines For Calibration in Analytical Chemistry」、Pure & App.Chem.、第70巻、第4号、993~1014頁、1998年に記載されるようなF検定を使用して、検出器動作状態を試験し得る。強度比の各対について強度比を分析する他の方法も使用され得る。例えば、回帰直線からの残差を分析するための他の方法は、「EMVA Standard 1288 Standard for Characterization of Image Sensors and Cameras」、リリース3.0、2010年11月29日にさらに記載されている。
【0060】
いくつかの実施形態では、不規則的動作状態が検出される場合、プロセッサ14は、ステップ104において、検出器13は、さらなる統計的試験を使用して、過剰ノイズの不規則的動作状態または非線形の不規則的動作状態で動作しているかどうかを判定し得る。すなわち、検出器は、さらなる統計的試験を適用して、検出器13の不規則的な挙動を特徴付けようと試み得る。上で考察されるように、プロセッサは、回帰直線を生成し、回帰直線に対する強度測定の各対の残差を計算するように構成され得る。非線形動作状態および過剰ノイズ動作状態の判定は、強度比の残差の分析に基づき得る。非線形動作状態は、残差が回帰直線に対して残差に系統的誤差を示す場合に発生すると判定され得る。過剰ノイズ動作状態は、残差がランダムであるが比較的広い分布を示す場合に発生すると判定され得る。
【0061】
2つのケース間の違いは、残差プロットの目視検査によって容易に見つけることができるが、より客観的で自動化された検査がプロセッサによっても実行され得る。例えば、一実施形態では、プロセッサ14は、残差を値-1および+1でスコア付けし、それらに実行試験を適用することによって、これらの2つのケースを区別し得る。強度値の間に非線形関係が存在する場合、回帰直線の上方または下方のいずれかに有意な数の連続した測定値が存在し得る。別の実施形態では、プロセッサは、H.Passing、W.Bablok、J.Lin.Chem.Clin.Biochem.、1983年、21巻、709~720頁に記載されているように、累積集計統計値を計算し、それにKolmogorov-Smirnov検定を適用することによって、非線形動作状態と過剰ノイズ動作状態とを区別し得る。各試験について、閾値は、ユーザによって指定されるか、またはメモリに格納され得る。試験の結果をそれぞれの閾値と比較することによって、プロセッサ14は、(不規則的動作状態で動作していると判定された)検出器13が非線形動作状態または不規則的動作状態で動作しているかどうかを判定する。
【0062】
分光計10がさらなる統計的試験を使用して、ステップ104において、検出器13が過剰ノイズ不規則的動作状態または非線形不規則的動作状態で動作しているかどうかを判定する方法の実施形態が図3bに示されている。
【0063】
いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、計算された強度比を使用して、検出器13が不規則的動作状態で動作しているか、または正常動作状態で動作しているかを判定する。いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、計算された強度比を互いに対して、または遷移確率の既知の比に対して比較することができる。強度比の差、または計算された強度比と既知の比との間の差が所定の閾値を超える場合、不規則的動作状態が判定され得る。プロセッサ14が不規則的動作状態の判定の基礎とする所定の閾値は、絶対値として、または、例えば、既知の比の相対的な量(すなわち、割合)として指定され得る。例えば、一実施形態では、プロセッサ14は、n番目測定について計算された比(K‘n)が既知の比(K)と所定の閾値α%を超えて異なる場合に、不規則的動作状態が判定され得ると判定し得る。他の実施形態では、閾値は、10%、5%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%であり得る。指定された閾値は、検出器の予想される正確度を反映し得る。いくつかの実施形態では、プロセッサ14によって使用される閾値は、本診断試験方法の開始前にユーザによって指定され得る。検出器が閾値によって指定された範囲内で動作している場合、プロセッサ14は、検出器の動作状態が正常(すなわち、線形)であると判定し得る。
【0064】
ステップ102において上で考察されるように、分光計10は、複数の検出器診断測定を実行する。いくつかの実施形態では、分光計10は、少なくとも2つの検出器診断測定を実行する。他の実施形態では、分光計10は、少なくとも3回、5回、7回、または9回の検出器診断測定を実行する。分光計10によって実行される測定の数を増加させることにより、使用される統計的試験の有意性、すなわち、検出器13が線形に動作しているかどうかを本診断試験方法が判定することができる正確度の程度を改善し得る。
【0065】
ステップ105において、プロセッサは、本診断試験方法が検出器の好適な測定範囲にわたって実行されたかどうかを確認するために簡単なチェックを実行し得る。本診断試験方法が十分に広い測定範囲にわたって実行されていない場合、プロセッサは、分光計10にさらなる検出器診断測定を実行するように指示して、本診断試験方法が実行される範囲を増大させ得る。
【0066】
したがって、プロセッサ14は、スペクトル線強度の測定データに基づいて、検出器13の動作状態を判定し得る。図3aおよび図3bの実施形態では、判定された動作状態は、検出器が線形に動作している状態、または検出器が不規則的に動作している状態であり得る。検出器の動作状態が線形であると判定された場合、検出器13の診断試験は終了し、検出器13の動作状態はそれ以上調査されない。
【0067】
図3aおよび図3bに示されるように、検出器13の動作状態が不規則的であると最初に判定された場合、一連のさらなるチェックおよび分析が実行され得る。チェックおよび分析は任意選択的であり、したがって、いくつかの実施形態では、非線形挙動の判定は、ユーザへの出力を伴って診断試験を終了し、検出器13の動作状態をさらに調査するという結果をもたらし得る。したがって、分光計10を使用して実行される本診断試験方法は、ユーザが、検出器13が予想された通りに挙動しているかどうかを迅速に識別することを可能にし得る。これにより、ユーザが、検出器の動作状態を障害検出手順から除去することができるかどうか、または検出器の動作状態のさらなる調査が必要であるかどうかを迅速に識別することを可能にする。
【0068】
上記のように、図3aおよび図3bでは、検出器の動作状態が非線形であると判定された場合に、一連のさらなるチェックおよび分析が実行され得る。図3bに関連して上で考察されるように、分光計は、不規則的動作状態が過剰ノイズの結果であるかどうかを判定し得る。過剰ノイズ動作状態が検出された場合、分光計10は通知を出力し、診断方法を終了し得る。
【0069】
分光計10はまた、さらなるチェックを実行し得る。該チェックは、検出器が非線形動作状態で動作していると判定される場合に特に適用可能である。図3aおよび図3bのステップ106において、プロセッサ14は、測定された分岐スペクトル線の対が自己吸収現象の影響を受けているかどうかをチェックし得る。プロセッサ14は、複数の検出器診断測定の一部分として測定されたスペクトル線の波長を、自己吸収しやすいことが知られている既知のスペクトル線のリストと比較することによって、自己吸収現象をチェックし得る。既知のスペクトル線のリストは、メモリ15に格納され得る。いくつかの実施形態では、プロセッサ14はまた、スペクトル線の対の個々の測定をチェックして、測定されたスペクトル線の対の間の予想される強度関係が維持されているかどうかを確認し得る。すなわち、プロセッサ14は、1つ以上の他のスペクトル線の測定された強度に基づいて、1つのスペクトル線の予想される強度を予測し得る。第2のスペクトル線の予想される強度が第2のスペクトル線の測定された強度と好適に一致しない場合、プロセッサ14は、自己吸収が発生したと判定し得る。いくつかの実施形態では、分光計10は、プラズマ源から半径方向および軸方向の両方に放出される光を使用して複数の検出器診断測定を実行するように構成され得る。すなわち、線スペクトル源は、互いに直交する2つの方向に生成される線スペクトル源からの光で検出器13を照射することによって、互いに直交する方向に光を放出し得る。このようにして、第1の方向における光の検出器診断測定を、第2の直交方向において生成された光の検出器診断測定と比較することによって、自己吸収現象を検出することが可能であり得る。
【0070】
プロセッサ14が、上で考察される基準のうちの1つ以上を使用して自己吸収現象が発生したと判定する場合、プロセッサ14は、分岐スペクトル線の異なる対がステップ101のために選択されるべきであり、本診断試験方法が分岐スペクトル線の異なる対を使用して繰り返されるべきであると判定し得る。このように、本診断試験方法は、ユーザに自動的に警告し、自己吸収現象の発生を補正し得る。
【0071】
プロセッサ14が上記基準のいずれかを使用して発生した自己吸収現象を検出しない場合、プロセッサは、強度測定において検出された非線形性が自己吸収現象の結果ではないと結論付け得る。いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、次いで、検出器13が非線形に挙動しており、さらなる調査が必要とされ得ると結論付け得る。図3aおよび図3bに示されるように、プロセッサ14はまた、ステップ107において分析を実行して、複数の検出器診断測定の実行中または実行前に線位置決め誤差が発生したかどうかを確認し得る。線位置決め誤差は、一部の検出器13、例えば、エシェル検出器で発生することがある。線位置決め誤差は、スペクトル線の測定された位置がエシェル検出器上のスペクトル線の予想された位置と異なる場合に発生する。スペクトル線の位置は、ドリフトに起因してふらつくことがある。ドリフトは、光学系内の格子、または光学系内の格子とプリズムの角度もしくは相対距離における温度変化に起因して発生し得、エシェルスペクトルのピークの位置を変化させる。線位置決め誤差の結果として、スペクトル線に対応するピークが識別されないことがあるか、または不正確に測定されることがある。
【0072】
線位置決め誤差を検出および補正するためのさまざまな方法が当業者に知られている。例えば、いくつかの実施形態では、分光計は、測定されるピクセルパターンを予想される線プロファイルに合わせて調整し得る(ステップ108)。分光計は、検出器13および/または光学装置12を調整して、以前に検出された線位置決め誤差を補正し得る。他の実施形態では、検出されたピクセルシフトを補正するために、測定された強度を再較正することが可能であり得る。当業者が線位置決め誤差を補正または考慮し得るいくつかの可能な方法のさらなる考察は、US6,029,115およびUS7,319,519に開示されている。
【0073】
図3aおよび図3bの実施形態に示されるように、線位置決め誤差が検出された場合、測定ピクセルパターンは、エシェルスペクトル内のスペクトル線の位置のシフトを考慮するように調整され、複数の検出器診断測定が繰り返される(ステップ102)。図3aおよび図3bの実施形態において線位置決め誤差が検出されない場合、プロセッサ14は、検出器が不規則的に挙動しており、プロセッサ14がこの発生の原因を特定することができなかったと結論付ける。したがって、プロセッサ14は、検出器13が不規則的に挙動している可能性があることをユーザにフラグで知らせる。
【0074】
したがって、分光計のための診断試験方法が提供される。上記の、図3aおよび図3bに示される診断試験方法により、ユーザが、検出器が線形または非線形に挙動しているかを迅速かつ効率的に判定することを可能にする。ワークフローステップは、上記とは異なる順序で実施され得ることが理解されよう。
【0075】
上記のように、図3aおよび図3bの実施形態では、プロセッサ14は、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるために分光計を制御する。当然ながら、他の実施形態では、プロセッサ14は、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させるために、分光計10の他のパラメータを制御し得る。ICP光源に供給される電力の変化に応答して測定されたスペクトル線の強度の変化の実施例が図6に示されている。図6から、スペクトル線の強度を制御するために変更された分光計のパラメータは、パラメータと1つのスペクトル線の測定された強度との間に線形関係を有する必要がないことが理解されよう。ただし、第1のスペクトル線の強度と第2のスペクトル線の強度との間の関係は、予想される遷移確率間の固定された関係に起因して線形になる。図6は、実施例として、ICP光源に供給される異なる電力下での第1のスペクトル線および第2のスペクトル線のスペクトル線強度のシミュレーションを示している。
【0076】
他の実施形態では、光学装置12の1つ以上の光学素子が、検出器13に入射する線スペクトル源の強度を変化させるために制御され得る。このように、本開示の診断試験方法は、上述の第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の強度を変化させる実施例に限定されない。
【0077】
図3aおよび図3bの実施形態では、ステップ101において、分岐スペクトル線の単一の対が診断試験方法中の測定のために選択された。他の実施形態では、分岐スペクトル線の2つ以上の対が測定され得る。分岐スペクトル線の異なる対を測定することによって、検出器の動作状態が、異なる波長の範囲にわたって判定され得る。診断される検出器が多重チャネル検出器である場合、このことは、多重チャネル検出器の試験されるピクセル(チャネル)の数および測定される強度の範囲を拡大し得る。このように、いくつかの実施形態では、ステップ101において、分岐スペクトル線の複数の対が、本方法を使用する分析のために選択され得る。
【0078】
このように、いくつかの実施形態では、本診断試験方法は、線スペクトル源の励起種によって放出されるスペクトル線の異なる対を使用して、さらなる複数の検出器診断測定を実行することを含み得る。線スペクトル源の励起種によって放出されるスペクトル線の異なる対は、スペクトル線の異なる分岐対を形成する。スペクトル線の異なる対が、同じ励起種によって放出され得る。例えば、図2の実施例では、スペクトル線の第1の対は、hv32およびhv31であり得るが、一方、分岐スペクトル線の第2の(異なる)対は、hv32およびhv30である。いくつかの実施形態では、本診断試験方法は、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線の代わりにスペクトル線の異なる対を使用して完全に繰り返され得る。他の実施形態では、スペクトル線の異なる対は、ステップ102において、第1のスペクトル線および第2のスペクトル線と同時に(一斉に)、またはその後連続して測定され得る。次いで、動作状態の判定は、スペクトル線の両方の対からの測定を考慮に入れ得るか、または波長ベースで(第1、第2、第3、および第4のスペクトル線の波長に対応して)検出器13の動作状態を判定し得る。
【0079】
図7は、ICP発光分光計によって得られた実験測定の実施例を示している。実験測定値は、本開示の実施形態による診断試験方法の一部分として使用され得る。図7は、ネブライザガス流量(NGFR)を変化させた場合のAr分岐ファミリーIIのスペクトル線λ1=427.217nm、λ2=416.418nm、λ3=456.610nmの強度を示している。図7に示される測定を3回繰り返した。
【0080】
図8は、互いに対してプロットされた図7のスペクトル線強度のプロットを示している。図8に示されるように、スペクトル線λ2およびλ3の強度が、λ1のスペクトル線強度に対してプロットされている。各NFGRで繰り返し(3回)測定を行った。図8に示されるように、直交距離回帰(ODR)線が、分岐対(λ1、λ2、λ1、λ3)のそれぞれについて計算されている。図8の挿入図は、λ1、λ2プロットについての回帰線の一部分の詳細図を示している。繰り返し測定に対応する実験点の位置は、本開示の診断方法に従って観察され得る精度を示している。同じ実験条件下(ここでは一定のNGFR)での各個々の測定におけるフリッカノイズの存在にもかかわらず、実験点はランダムに散乱されず、同じ回帰線上にある。ODR線からの残りの比較的小さい偏差(図8では0.06%未満)は、ショットノイズに帰せられ得る。図8に示されるODR線は、NIST DATAPLOTソフトウェアを使用して計算され、本発明の原理を実証するためにここで使用された。
【0081】
代わりに他の技術、例えば図5に関連して上述した方法を使用して、同様の回帰を構築することができることが理解されよう。
【0082】
図8の下段(b)は、各実験測定について、実験的に測定された点と回帰線との間の相対距離を示している。パターンは主にショットノイズによって支配されていることが分かる。したがって、システムは、ショットノイズのみが精度を支配する(すなわち、作業範囲の最も高い半分に対して0.1%未満)5桁超にわたって線形であると考えることができる。
【0083】
図9は、Ar分岐ファミリーIIIに属する線を用いた、異なるネブライザガス流量(NGFR)について検出器によって測定された分岐対スペクトル線強度のグラフを示している。個々の繰り返しに対応する実験点は、相対距離を示すグラフにおいて重複している。スペクトル線比λ1、λ3は、0.1%未満の偏差で線形挙動を示すが、スペクトル線比λ1、λ2についての強度残差(準定常レベルへの遷移から生じ、したがって自己吸収を起こしやすいことが知られている)は、明確な非線形性を示している。したがって、本開示による方法のステップ106において、プロセッサ14は、測定された分岐スペクトル線の対が自己吸収現象を受けやすいと判定し得る。プロセッサ14は、複数の検出器診断測定の一部分として測定されたスペクトル線の波長を既知のスペクトル線のリストと比較することによって自己吸収現象をチェックし、λ2が自己吸収しやすいことが知られていることを確証し得る。既知のスペクトル線のリストは、メモリ15に格納され得る。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、スペクトル線λ2を含む分岐対測定値を破棄し得る。このようなスペクトル線はまた、選択された条件下での試験における使用に適切ではないときは、測定前に演繹的に除外され得る。
【0084】
したがって、本開示の実施形態は、線スペクトル源を備える分光計の検出器のための診断試験方法を提供する。本診断試験方法のために線スペクトル源を使用することにより、本診断試験方法が改善された正確度および効率で実行されることを可能にする。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7
図8
図9